似たような言葉である「収入」と「所得」ですが、確定申告や経理業務を行う上では、その違いを把握しておく必要があります。本記事では、収入と所得の違いや、所得の計算方法などについてわかりやすく解説します。
目次
収入と所得の違いとは?
収入(給与収入)とは?
収入とは、自分のもとに入ってくるお金を指します。会社やアルバイト・パート先からもらう給与をはじめ、自分で事業を営んで得た売上など、さまざまな種類のお金が収入に該当します。
また、金銭だけではなく、通勤手当や社宅・家賃補助など、金銭以外の経済的な利益である「現物給与」も収入に含まれます。
所得(給与所得)とは?
所得とは、収入から必要経費を差し引いた金額のことです。業務で使うスマートフォンやパソコン、スーツ、交通費など、収入を得るために支払ったお金が必要経費にあたります。
必要経費を差し引くため、所得は収入に比べて少ない金額になります。計算した所得は、所得税や住民税の金額を決定する際に使われます。
所得控除とは何か?
所得控除とは、所得金額から差し引くことで課税対象となる所得を減らし、税負担を軽減する仕組みを指します。具体的には、生命保険料控除や医療費控除、ひとり親控除などがあり、個人の状況などに応じて適用できる所得控除が決まります。
所得控除については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連リンク:所得控除とは?給与所得控除との違いや種類、計算方法をわかりやすく解説
所得の算出方法
会社員
会社員の給与から必要経費が差し引かれることはありませんが、給与所得の金額を決める際は、個人事業主の必要経費にあたるものを「給与所得控除」として給与から差し引きます。
給与所得 = 給与 – 給与所得控除額 |
また、会社員が必要経費を自分で支払った場合、一定の条件に基づき上記からさらに控除できる「特定支出控除」の制度も存在します。特定支出控除については、本記事の後半で詳しく解説します。
参照:No.1400 給与所得|国税庁
No.1415 給与所得者の特定支出控除|国税庁
個人事業主
個人事業主は、事業によって発生した売上から必要経費を差し引くことで所得を求めます。
事業所得 = 売上 – 必要経費 |
なお、個人事業主の収入は事業で得た所得であるため、その所得を「事業所得」と呼びます。
関連リンク:個人事業主とは?フリーランスや自営業との違いやメリット・デメリットも解説!
年金受給者
国民年金や厚生年金といった公的年金を受給している年金受給者の場合「公的年金等控除額」を差し引いて所得を計算します。
雑所得 = 収入(公的年金)- 公的年金等控除額 |
年金受給者の所得は、給与所得や事業所得などではなく、他の所得に当てはまらない「雑所得」と呼ばれる分類に該当します。
参照:No.1600 公的年金等の課税関係|国税庁
所得の種類
事業所得
事業所得とは、以下をはじめとする事業から生じる所得を指します。
・農業
・漁業
・製造業
・卸売業
・小売業
・サービス業
フリーランスとして働いている人や、自分のお店を経営している人など、多くの個人事業主の所得は事業所得に当てはまります。
事業所得は売上から必要経費を差し引くことで計算します。具体的には、文房具やパソコンなどの購入に使ったお金をはじめ、交通費・通信費・新聞図書費など、さまざまな支出が必要経費に該当します。
なお、必要経費として計上するためには、業務に関連のある支出であることはもちろん、レシートや領収書を保管して正しく帳簿付けを行うことが求められます。個人事業主だからと言って、プライベートの支出など事業に関係のない支出を必要経費に含めることはできません。
参照:No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)|国税庁
不動産所得
不動産所得とは、以下に当てはまる事業を指します。なお、事業所得または譲渡所得に該当するものを除きます。
・土地や建物の貸付け
・地上権など、不動産の上に存する権利の設定及び貸付け
・船舶や航空機の貸付け
アパート経営や駐車場の貸付けをしている場合などは、この不動産所得に該当します。不動産所得は収入から必要経費を差し引くことで計算できます。
不動産所得 = 総収入金額 – 必要経費 |
ここで言う必要経費とは、建物をメンテナンスするための修繕費や、不動産に対して課税される固定資産税などを指します。
参照:No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)|国税庁
利子所得
利子所得とは、以下の所得を指します。
・預貯金や公社債の利子
・合同運用信託、公社債投資信託、公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得
利子所得は上記の収入金額がそのまま利子所得の金額となります。
利子所得 = 収入額(源泉徴収される前の金額) |
利子所得は、他の所得と分離して所得税の源泉徴収を行う「源泉分離課税制度」の対象です。利子所得の支払いを受ける際、その金額の20.315%の税額が源泉徴収されることで、自動的に納税が完了する仕組みとなっています。
納税のための資金を預け入れるための預金である納税準備預金など、一部の預金に対する利子所得は非課税になる例外があります。
参照:No.1310 利息を受け取ったとき(利子所得)|国税庁
No.2230 源泉分離課税制度|国税庁
配当所得
配当所得とは、以下の所得を指します。
・法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配
・投資法人からの金銭の分配または投資信託の収益の分配(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託以外のもの)
株式投資をしている場合は、法人から受け取った配当などの収入が配当所得になります。配当所得は以下のように計算できます。
配当所得 = 配当による収入(源泉徴収される前の金額)- 株式などを取得するための借入金の利子 |
株式の配当金は株主に支払われる時点ですでに源泉徴収されているため、確定申告しなくても問題ありません。しかし、確定申告をして配当控除を受けると、還付を受けられる可能性があります。
参照:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
No.1250 配当所得があるとき(配当控除)|国税庁
給与所得
勤務先から受け取る給与・賞与などの所得を給与所得と呼びます。給与所得は以下のように計算できます。
給与所得 = 収入金額(源泉徴収される前の金額)- 給与所得控除額 |
給与所得控除とは、収入金額から給与所得控除の金額を差し引いて、課税対象となる金額を減らせる制度です。業務に必要な文房具やスーツなど、給与所得者が自腹で購入するものもあることから、このような制度が設けられています。
給与所得控除額は、給与などの金額によって以下のように定められています。
給与などの収入金額 | 給与所得控除額 |
〜1,625,000円 | 550,000円 |
1,625,001円〜1,800,000円 | 収入金額 × 40% – 100,000円 |
1,800,001円〜3,600,000円 | 収入金額 × 30% + 80,000円 |
3,600,001円〜6,600,000円 | 収入金額 × 20% + 440,000円 |
6,600,001円〜8,500,000円 | 収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
8,500,001円〜 | 1,950,000円(上限) |
参照:No.1410 給与所得控除|国税庁
譲渡所得
譲渡所得とは、以下をはじめとする資産を譲渡する際に生じた所得を言います。
・土地、建物
・ゴルフ会員権
・株式
・金地金(きんじがね・金の延棒などのこと)
・船舶
・機械
・特許権
・漁業権
・骨とう
・貴金属
土地や建物を譲渡した際は、以下のように計算して譲渡所得の金額を求めます。
譲渡所得 = 収入金額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額 |
特別控除額とは、建物の譲渡や土地の譲渡など、該当する取引に応じて100万円〜5,000万円の範囲内で定められる金額です。
なお、譲渡所得は譲渡する資産や所有期間などによって計算方法や課税方法が異なる点に注意しましょう。
参照:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)|国税庁
一時所得
一時所得は、臨時もしくは偶発的に発生し、対価性がない以下のような所得を指します。
・賞金
・懸賞当せん金
・競馬、競輪の払戻金
・生命保険の一時金
・損害保険の満期返戻金
「対価性がない」とは、何もしていないのにもかかわらず何かを受け取ることを表します。一時所得は事業を営んだり、資産を売却したりせず受け取るものであるため、対価性がないと判断されます。
一時所得の計算方法は、以下の通りです。
一時所得 = 総収入金額 – 収入を得るために支出した金額 – 特別控除額(50万円まで) |
参照:手順2 収入金額等、所得金額を計算する|国税庁
No.1490 一時所得|国税庁
山林所得
山林所得とは、山林を伐採して譲渡したことによる所得や、立木のままで譲渡することによる所得を指します。
山林を取得してから5年以内に伐採や譲渡をした場合、事業所得もしくは雑所得に該当します。また、山林を山ごと譲渡する場合は、土地を譲渡することによる部分が譲渡所得になる点を押さえておきましょう。
山林所得の計算方法は以下の通りです。
山林所得 = 総収入金額 – 必要経費 – 特別控除額(最高50万円) |
必要経費には、山林の維持管理のために必要な管理費や、山林の取得費・伐採費・運搬費などがあります。
また、山林を伐採または譲渡した年の15年前の12月31日以前から所有していた場合、収入金額から伐採費などの費用を差し引いた金額の50%に相当する金額に、伐採費などの譲渡費用を加えた金額を必要経費とすることが認められています。
参照:No.1480 山林所得|国税庁
退職所得
以下をはじめとする所得は退職所得に該当します。
・退職金
・一時恩給
・確定給付企業年金法及び確定拠出年金法による一時払の老齢給付金
退職所得の金額は以下のように計算できます。
退職所得 =(収入金額 – 退職所得控除額)× 1/2 |
収入金額は源泉徴収される前の金額を使用します。計算の中で使用する「退職所得控除額」は、勤続年数によって以下のように決定します。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円 × A (80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A – 20年) |
例えば、勤続年数が9年2ヶ月であった場合、端数の2ヶ月は切り上げ、10年とします。その場合の退職所得控除額は下記のように計算します。
40万円 × 10年 = 400万円 |
参照:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
雑所得
これまでに紹介した所得のいずれにも当てはまらない所得を雑所得と言います。所得の例として、以下が挙げられます。
・国民年金
・厚生年金
・確定給付企業年金
・原稿料
・講演料
・生命保険の年金
・シェアリングエコノミーによる所得(カーシェアリングや民泊など)
雑所得は以下のいずれかに分類でき、それに応じた計算方法が定められています。
・公的年金等 公的年金等の雑所得 = 収入金額 – 公的年金等控除額 ・業務に係るもの 業務に係る雑所得 = 総収入金額 – 必要経費 ・その他 その他の雑所得 = 総収入金額 – 必要経費 |
分類の一つである「業務に係るもの」とは、副業に係る収入のうち、営利を目的とした継続的なものを指します。
参照:No.1500 雑所得|国税庁
会社員の特定支出控除とは?
会社員は必要経費を計上できませんが、その年の特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えた場合、特定支出として控除できます。特定支出控除の対象となるのは、以下をはじめとする支出です。
・通勤費
・職務上の旅費
・転居費
・研修費
・資格取得費
・帰宅旅費
・勤務必要経費(図書費、衣服費、交際費等)
例えば、給与による収入が500万円の会社員が、転勤に伴う引っ越しで100万円の費用を支払ったとします。その場合、以下のように特定支出控除の金額を計算できます。
100万円(支払った費用)- 72万円(給与所得控除の半分)= 28万円(特定支出控除) |
特定支出控除を受けるためには、自ら確定申告を行います。確定申告の際は「給与所得者の特定支出に関する明細書」および「給与所得者の特定支出に関する証明書」の記入が必要です。書類には会社に記入してもらう欄もあるため、早めに準備するようにしましょう。
また、特定支出の金額を証明する書類を添付または提示する必要があります。
参照:No.1415 給与所得者の特定支出控除|国税庁
給与所得者の特定支出に関する明細書|国税庁
給与所得者の特定支出に関する証明書|国税庁
所得税の算出方法
給与所得がある場合、所得税は以下のように計算できます。
所得税 =(給与所得 – 所得控除)× 所得税率 |
所得控除とは、給与所得から差し引くことで、課税対象となる金額を減らすためのものです。所得控除には以下をはじめとするさまざまなものがあり、個人の状況によって適用できるものが異なります。
・医療費控除
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・生命保険料控除
・寄附金控除
・障害者控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・基礎控除
参照:No.1100 所得控除のあらまし|国税庁
関連リンク:所得税の計算方法とは?税率改定の影響や注意するべきポイントを解説!
所得税の課税方法
所得税は、給与所得から所得控除を差し引き、所得税率を乗じることで求めます。所得税率は、課税対象となる所得金額によって以下のように定められています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円〜 | 45% | 4,796,000円 |
日本の所得税は、所得が大きくなるほど税金の負担が増す「累進課税制度」が採用されます。この制度により、支払う税金の公平感を保つ狙いがあります。
参照:No.2260 所得税の税率|国税庁
総合課税・分離課税とは?
総合課税とは、複数ある所得を合計した額に税率を乗じて納税額を決定する仕組みのことです。総合課税の対象となる所得には、給与所得や事業所得・雑所得などがあります。
それに対して分離課税とは、他の所得と合計せずに、分離して税額を決定する仕組みを指します。さらに、確定申告によって申告納税を行う「申告分離課税」と、源泉徴収によって納税が終了する「源泉分離課税」の2つに細分化されます。
参照:No.2220 総合課税制度|国税庁
分離課税に該当する所得
<申告分離課税>
・山林所得
・土地建物等の譲渡による譲渡所得
・株式等の譲渡所得等
<源泉分離課税>
・利子所得に該当する利子(総合課税または申告分離課税の対象を除く)
・社債的受益権の収益の分配に係る配当
・私募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る配当
参照:No.2240 申告分離課税制度|国税庁
No.2230 源泉分離課税制度|国税庁
非課税の年収103万円とは
パート収入が103万円以下で、他に収入がないと、所得税は非課税となります。また、その人の配偶者は配偶者控除を受けられます。
これまでに解説した通り、所得税を求める際は、収入からさまざまな控除を差し引いた金額を元にして計算します。パート収入から給与所得控除(最低55万円)と基礎控除(48万円)などを差し引いた金額となるため、パート収入が103万円以下で、他に所得がない方に関しては、所得税がかかりません。
本記事でも表を用いて解説した通り、給与年収が162万5,000円以下の場合は、給与所得控除が55万円になります。
基礎控除は、納税者の合計所得金額に応じて以下のように決定されます。
合計所得金額 | 控除額 |
〜2,400万円 | 48万円 |
2,400万円〜2,450万円 | 32万円 |
2,450万円〜2,500万円 | 16万円 |
2,500万円〜 | 0円 |
55万円(給与所得控除)と48万円(基礎控除)を足した金額が103万円であるため、パート収入が103万円以下の場合、課税対象となる金額が0円になることがわかります。
参照:No.1199 基礎控除|国税庁
家族と税|国税庁
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まとめ
収入は自分の手元に入ってくるお金であり、所得はそこから必要経費などを差し引いたお金を指します。所得は10種類に分類でき、分類によって所得税の計算方法や、確定申告の必要性などが異なります。
所得について考える際は、自分の所得がどれに当てはまるのかを確認し、それに応じた適切な対応を行うことを心がけましょう。
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