消費税の仕入控除税額とは?計算方法やインボイス制度による変更点をわかりやすく解説! 最終更新日: 2024/02/18   公開日: 2024/02/18

仕入税額控除は、受け取った消費税から支払った消費税を控除することで、課税事業者の税負担を軽減する仕組みです。本記事では、消費税の仕入税額控除の仕組みや計算方法、インボイス制度による影響などについてわかりやすく解説します。

消費税の仕入税額控除

課税事業者は、顧客などから受け取った消費税から、仕入れのために支払った消費税を差し引いて納税します。この仕組みを「消費税の仕入税額控除」と呼びます。

例えば、取引先から商品Aを1,100円(代金1,000円、消費税100円)で仕入れたとしましょう。その後、顧客に対して商品Aを3,300円(代金3,000円、消費税300円)で売り上げました。

その会計年度中に発生した取引がこの1件のみであったと仮定すると、この事業者が納税するべき消費税は200円です。売り上げた際に受け取った消費税300円から、仕入れ時に支払った消費税100円を差し引いて納税します。

もし仕入税額控除がなければ、最後の購入者時点で消費税を重複して支払うこととなるでしょう。仕入税額控除は二重・三重で課税されることを避けるための仕組みとして採用されています。

参照:消費税のしくみ|国税庁

仕入控除税額の計算方法

仕入控除税額の計算方法は、事業の状況などによって異なります。それぞれの計算方法について見ていきましょう。

個別対応方式

個別対応方式では、課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を、以下のように区分して考えます。

①課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
②非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
③課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの

仕入控除の金額は以下のように計算します。

仕入控除税額 = ① +(③ × 課税売上割合)

計算で使用する「課税売上割合」とは、課税期間中の総売上高のうち、課税売上高が占める割合です。課税売上割合の代わりに、所轄税務署長の承認を受けた「課税売上割合に準ずる割合」とすることもできます。

課税売上割合 = 課税期間中の課税売上高(税抜)+免税売上高/ 課税期間中の課税売上高(税抜)+免税売上高+非課税売上高

以下の条件で、個別対応方式による仕入控除税額の金額を計算してみましょう。

・売上にかかる消費税:100万円
・課税売上にのみ要する課税仕入れ等に係る消費税:50万円
・課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入等に係る消費税:20万円
・課税売上割合:80%

500,000円 +(200,000円 × 0.8)= 660,000円

個別対応方式は、売上を課税・非課税に分類して計算するため、前述した①〜③のように区分できる場合に採用される方法です。

参照:No.6401 仕入控除税額の計算方法|国税庁
   No.6405 課税売上割合の計算方法|国税庁

一括比例配分方式

個別対応方式の項目で紹介した①〜③の区分がされていない場合に適用する方法が「一括比例配分方式」ですが、区分されていなくても適用できます。

一括比例配分方式による仕入控除額は、以下のように計算します。

仕入税額控除税額 = 課税仕入れ等に係る消費税額× 課税売上割合

なお、個別対応方式では課税売上割合の代わりに所轄税務署長の承認を受けた「課税売上割合に準ずる割合」を適用できましたが、一括比例配分方式の場合は適用できません。

以下の条件で、実際に一括比例配分方式による仕入控除税額の金額を計算してみましょう。

・課税仕入れ等に係る消費税:100万円
・課税売上割合:80%

1,000,000円 × 0.8 = 800,000円

一括比例配分方式を選択すると、2年間以上継続して適用した後でないと個別対応方式に変更することはできない点に注意しましょう。

参照:No.6401 仕入控除税額の計算方法|国税庁

簡易課税制度

これまでに紹介した方法によって経理業務を行うと、取引を課税・非課税に区分して計算するため、多くの負担が生じます。

簡易課税制度は中小事業者の負担軽減を目的として設けられた制度で、事業形態によって定めた「みなし仕入れ率」を使って仕入控除税額の税額を簡易的に計算します。

簡易課税制度においては、事業を第1種〜第6種までの6つに分け、それぞれのみなし仕入れ率が定められています。

事業区分みなし
仕入率 
該当する事業
第1種事業90%卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)
第2種事業80%小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)
農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)
第3種事業70%農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)
鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)
電気業、ガス業、熱供給業および水道業
※第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除く
第4種事業60%第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業(飲食店業など)
※第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業に含む
第5種事業50%運輸通信業
金融業・保険業
サービス業(飲食店業に該当するものを除く)
※第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除く
第6種事業40%不動産業
出典:No.6509 簡易課税制度の事業区分|国税庁

なお、簡易課税制度は基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が利用できます。ここで言う基準期間とは、法人は前々事業年度、個人事業主は前々年を指します。

簡易課税制度を選択する場合には、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出手続」を管轄の税務署に提出しましょう。

簡易課税制度での仕入控除税額の計算方法について、次項からケース別に紹介します。

参照:D1-22消費税簡易課税制度選択届出手続|国税庁

関連リンク:簡易課税制度とは?概要やメリット・デメリット、インボイス制度による影響などを解説

第1~6種事業までの1種類の事業だけを営む場合

第1~6種事業のうち1種類の事業を営む場合は、該当するみなし仕入れ率を適用して、以下のように計算できます。

仕入控除税額 =(課税標準額に対する消費税額-売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額)× みなし仕入率

事業の条件を以下のように仮定した場合の仕入控除税額の金額の計算例を紹介します。

・課税標準額に対する消費税:100万円
・売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税:10万円
・事業区分:第2種事業(みなし仕入率が80%)

(1,000,000円 – 100,000円)× 0.8 = 720,000円

第1~6種事業までの2種類以上の事業を営む場合

2種類以上の区分に該当する際は「原則法」と「簡便法」のいずれかの方法を使います。一般的には原則を使い計算することとなります。原則法で仕入控除税額の金額を計算する際は、以下の計算式をを使います。

仕入控除税額 =(課税標準額に対する消費税額 – 売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額)×(第1種事業に係る消費税額 × 90% + 第2種事業に係る消費税額 × 80% + 第3種事業に係る消費税額 × 70% + 第4種事業に係る消費税額 × 60% + 第5種事業に係る消費税額 × 50% + 第6種事業に係る消費税額 × 40%)÷ 第1〜6種事業に係る消費税額の合計

事業の状況を以下のように仮定した場合の計算例を紹介します。

・課税標準額に対する消費税:105万円
・売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税:5万円
・第2種事業(みなし仕入率80%)に係る消費税:60万円
・第3種事業(みなし仕入率70%)に係る消費税:40万円

(1,050,000円 – 50,000円) × ((600,000円 × 0.8 + 400,000円 × 0.7)÷ 1,000,000円)
= 760,000円

基本的には原則法を用いて計算しますが、以下のどちらにも該当しない場合には簡便法を用いて計算することも可能です。

・貸倒回収額がある場合

・売上対価の返還等がある場合で、各種事業に係る消費税額からそれぞれの事業の売上対価の返還等に係る消費税額を控除して控除しきれない場合

簡便法の計算式は以下の通りです。

仕入控除税額 = 第1種事業に係る消費税額 × 90% + 第2種事業に係る消費税額 × 80% + 第3種事業に係る消費税額 × 70% + 第4種事業に係る消費税額 × 60% + 第5種事業に係る消費税額 × 50% + 第6種事業に係る消費税額 × 40%

事業の条件を以下のように仮定した場合の計算例を紹介します。

・課税標準額に係る消費税:100万円
・第2種事業(みなし仕入率80%)に係る消費税:80万円
・第5種事業(みなし仕入率50%)に対する消費税:20万円

800,000円 × 0.8 + 200,000円 × 0.5 = 740,000円

計算方法や手続き方法などについて詳細に知りたい方は、国税庁のホームページもご覧ください。

参照:No.6505 簡易課税制度|国税庁

いずれも該当しない場合

2種類以上の事業区分にわたって経営を行う事業者は、課税売上を事業ごとに区分していないケースもあります。区分をしていない部分については、その区分していない事業のうち、一番低いみなし仕入率を適用して仕入控除税額を計算します。

参照:No.6505 簡易課税制度|国税庁

仕入れ控除の対象取引

仕入税額控除は、仕入れ時にかかった消費税を控除できる仕組みであるため、課税仕入れが生じた際に適用されます。課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産の譲り受けや借り受けを行うこと、または役務の提供を受けることをいいます。ただし、非課税や免税となる取引、給与等の支払は含まれません。具体的には、以下をはじめとする取引が挙げられます。

・商品などの棚卸資産の購入
・原材料等の購入
・機械や建物等のほか、車両や器具備品等の事業用資産の購入または賃借
・広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費などの支払
・事務用品、消耗品、新聞図書などの購入
・修繕費
・外注費

上記を見ると、事業を営む上で発生するさまざまな取引が課税取引に該当するものであるとわかります。商品や原材料の仕入れはもちろん、事務用品費や新聞図書費など、事業を継続させるために必要な物品の支払いも含まれます。

なお、従業員に支払う給与は雇用契約に基づく労働の対価であり、事業として行う資産の譲渡等の対価には当たらないことから、課税対象となりません。しかし、加工賃や人材派遣料、警備や清掃などを外部に委託する際の委託料などに関しては、課税仕入れとして扱われます。

参照:No.6451 仕入税額控除の対象となるもの|国税庁
   No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例|国税庁

2023年10月よりインボイス制度の導入で適用条件が変更に

2023年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。

インボイス制度は、インボイス(適格請求書)のある取引を仕入税額控除の対象として認める制度です。仕入控除の対象取引に該当していても、インボイスがなければ仕入税額控除は適用されません。

インボイス制度について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

関連リンク:2023年からのインボイス制度とは何か、わかりやすく解説!【図解あり】

適格請求書発行事業者以外からの取引への6年の経過措置

インボイス制度に登録していない免税事業者との取引がある課税事業者は、インボイス制度の施行によって仕入税額控除ができなくなることにより、税負担が増すことが考えられます。

そのような状況に対応することを目的として、インボイス制度に登録していない免税事業者と取引する時でも、一部を控除できる6年間の経過措置が儲けられました。

2023年10月1日から3年間は、免税事業者からの課税仕入れであっても80%控除可能です。また、2026年10月1日からの3年間は50%控除でき、段階的に免税事業者からの課税仕入れを控除不可にしていくよう定められています。

参照:経過措置|国税庁

少額特例により帳簿のみの保存で仕入税額控除が適用

少額特例とは、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる制度です。2023年10月1日〜2029年9月30日に国内で行う課税仕入れが対象となります。

この少額特例は中小企業や個人事業主を対象としています。具体的には、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者です。

参照:少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要|国税庁

少額特例以外の帳簿保存のみによる仕入額控除

少額特例の条件に該当しなくても、請求書などの交付を受けることが困難であるなどの理由により、以下の取引に関しては一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

①適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

②適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(①に該当するものを除く)

③古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

④質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得

⑤宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑥適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑦適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

⑧適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

⑨従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
参照:帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合|国税庁

インボイス制度の対応方法を詳しく知りたいという方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

関連リンク:適格請求書保存方式(インボイス制度)の書類の記載事項や消費税額の計算方法を解説!

まとめ

仕入税額控除は、受け取った消費税から支払った消費税を控除できる仕組みです。正しく適用することで、税負担が軽減できる可能性があります。

2023年10月からインボイス制度がスタートし、仕入税額控除を行うための条件が厳しくなりました。免税事業者からの手入れは仕入税額控除が適用されませんが、代わりに経過措置や特例を活用しましょう。

この記事の投稿者:

shimohigoshiyuta

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