
経営者や経理担当者にとって、「給料 領収書」というキーワードが指すテーマは気になるところでしょう。
通常、給与支払い時には給与明細を発行することはあっても、従業員から領収書(受領書)をもらうケースは多くありません。
しかし、特定の状況では給与の受け取り証明として領収書が重要になる場合があります。
本記事では、給料の領収書が必要となるケースや法律上の位置づけ、現金支払い時の注意点から、領収書の書き方・テンプレート、賞与や日雇いバイトでの応用、よくある誤解、そして実務での工夫までを総合的に解説します。
経営者や経理担当者の皆さまが安心して給与支払いの証拠を残せるよう、公式情報や専門家の解説を踏まえてまとめました。
目次
給料に領収書が必要となるケースとは
まず、どのような場合に給料の領収書(受領書)が必要になるのかを確認しましょう。基本的に、給与や賞与の支払いにおいて領収書は必須ではないとされています。
多くの企業では給与を銀行振込で支給しており、この場合は銀行の振込記録(通帳記帳や振込明細)が支払いの証拠となります。しかし、以下のような特別なケースでは、従業員から領収書を受け取って証拠を残すことが重要になります。
給与を現金で手渡しする場合
労働基準法では賃金は「通貨で直接払い」が原則と定められており、現金手渡しも法律上認められた支払い方法です。ただし、銀行振込と異なり記録が自動で残らないため、支払った証拠を残す必要があります。
現金払いで給与を支給する場合には、従業員から領収書(受領書)をもらうか、領収簿に毎月サインもらうなどして記録を保管することが推奨されます。
賞与(ボーナス)を現金支給する場合
通常の月給は振込でも、決算賞与や特別ボーナスのみ現金で手渡す企業もあります。このような場合、賞与を受け取った証拠として、給与明細に加えて受領書(領収書)を作成し従業員に署名してもらうケースがあります。
賞与はまとまった金額になりやすいため、現金手渡し時には特に受け取りの記録を残すことが大切です。
日雇い・短期アルバイトの給与支払い
1日ごとや短期契約で働く日雇いバイトなどでは、その日の給与を現金払いすることがあります。この場合、後日トラブルを防ぐために領収書を受け取っておくことが望ましいです。
日雇いのように雇用期間が短い場合、口頭の約束だけでは支払い有無の確認が難しいため、領収書が支払い済みの証拠となります。
その他、記録証明が必要なケース
たとえば、従業員が銀行口座を持たない場合や、災害時などで一時的に振込が困難になりやむを得ず現金払いを行う場合もあるでしょう。
また、退職時の最終給与を現金で支払う場合や、出張手当など臨時の手当を現金支給する場合も、受領の証拠として領収書を用意することが考えられます。いずれにせよ、現金で給与や手当を支払う際には証拠書類を残すという認識が重要です。
以上のようなケースでは、会社側が支払った事実を証明する書類として領収書(受領書)の存在が役立ちます。給与振込であれば振込記録が残りますが、現金払いでは従業員に領収書を書いてもらうことで支払い済みであることを明確化できます。
経営者や経理担当者は、こうしたケースを想定して社内の給与支給ルールを整備しておくと安心です。
そもそも「領収書」とは何か:定義と給与支払いにおける位置づけ
領収書とは、一言で言えば「金銭を受け取った事実を証明するために作成され、支払者に交付される文書」です。
国税庁の定義によれば、「受取書」「領収証」「レシート」「預り書」など名称を問わず、お金や有価証券を受け取った事実を証明する目的で作成された書類は広く領収書(受取書)に該当します。つまり、誰が誰からいくら受け取ったかを示す証拠書類ということです。
これを給与支払いに当てはめると、従業員が会社から給与(現金)を受け取ったことを証明する書類が領収書(給与受領書)となります。通常の商取引では代金を受け取った側(売り手)が領収書を発行し支払った側(買い手)に渡します。
同様に給与の場合も、本来はお金を受け取った従業員が発行者となり、支払側である会社宛てに「○○円受け取りました」という領収書を出す形になります。実務上は会社がひな形を用意し、従業員が自署・押印して会社に提出する受領証として運用するのが一般的です。
税法上の扱いも理解しておきましょう。領収書には通常、5万円以上の金銭の受取を証明するものに対して印紙税が課税されます(印紙税法第17号文書)。しかし、給与の受領書については収入印紙の貼付は不要です。
印紙税法では「営業に関しない金銭の受取書」は非課税とされており、従業員個人が給与を受け取る行為は営利目的の営業ではないため印紙税の対象外となるからです。
したがって、たとえ高額な給与や賞与であっても、それに対する領収書に収入印紙を貼る必要はありません。例えば「従業員が会社に提出する給与受領の領収書」は、営業取引ではなく雇用関係上の支払いであるため非課税文書となります。
この点は「通常の売上代金に対する領収書」と異なる重要なポイントです。
一方、労働法上の位置づけについても触れておきます。実は、給与明細の発行義務について労働基準法には明文規定がありません。
給与明細(賃金支給の内訳書)は多くの会社で交付されていますが、法律上は義務ではなく、賃金台帳(企業が賃金支払いの記録を管理する帳簿)の備付・保存が義務付けられているのみです。
ただし、労働基準法第24条には賃金支払いの5原則(通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上・一定期日払い)が定められており、現代では多くの従業員が銀行振込で受け取るものの本来は現金手渡しが原則とされています。
つまり、現金で渡すこと自体は違法ではなく原則論ですが、その場合に受領の証明を残すことは労働法の範疇というより会社のリスク管理として必要になるわけです。
以上をまとめると、「領収書」とは金銭の授受を証明する書類であり、給与については現金払いの際に従業員から受領証明をもらう書類という位置づけになります。
税法上は印紙税非課税、労働法上は必須書類ではありませんが、会社経営や会計上は重要なエビデンス(証拠)となります。特に後述するように、現金で給与を支払った場合に領収書がないと税務調査や社内監査の際に支払い事実の裏付けが乏しくなるため注意が必要です。
給料を現金手渡しする場合の注意点(トラブル防止と証拠保全)
給与を現金で支払う際には、トラブル防止と証拠保全の観点からいくつか注意すべきポイントがあります。銀行振込とは異なり、現金手渡しは紙幣や硬貨を直接受け渡すだけでは証拠が残らないため、事前に対策を講じておきましょう。
まず従業員とのトラブル防止です。現金で給与を渡した場合、後日になって「給与を受け取っていない」と主張されるリスクや、支払額に関する認識の相違が生じるリスクがあります。
お互いに悪意がなくても記憶違いや勘違いで揉める可能性があるため、必ず受け取った側の署名入りの受領書(領収書)を残すことが重要です。
「確かに○月分の給与○○円を受け取りました」という書面があれば、支払側・受取側双方の確認となり後日の言った言わないの争いを防ぐことができます。現金払いは手軽な反面、形式的な記録が残らないからこそ、書面でのエビデンス補強が欠かせません。
次に税務上の証拠書類としての重要性です。会社の経理処理において、給与は「人件費」として計上されますが、税務調査の際には実際にその給与が従業員に渡ったかどうかを証明できなければなりません。
銀行振込であれば通帳記帳や振込明細が証拠となりますが、現金払いで受領書やサインをもらっていない場合、最悪その支出が「架空の経費」ではないかと疑われるリスクがあります。
税務署は領収書などの証拠がない支出に対しては厳格で、人件費として妥当であっても証拠不十分だと損金不算入(経費と認めない)とされかねません。
従業員への現金給与払いは社内的には承認の上で行っていても、外部から見ると証明資料が無ければ客観性に欠けるため注意が必要です。
以上の理由から、現金で給与を支給する場合には必ず受け取りのサインか領収書をもらう習慣をつけましょう。これはちょうど消耗品の購入時に領収書を保存するのと同じ発想で、給与支払いという社内取引についても受領証を残すことが求められるということです。
万一、領収書の取り忘れが発生すると、後から従業員に事情を説明して署名をもらう手間が生じますし、最悪トラブルに発展する可能性もあります。トラブル防止と会計・税務対策の両面から、現金払いの給与には領収書(受領書)をもらうルールを徹底するようにしましょう。
具体的な注意点を整理すると
その場で署名・受領確認を取る
給与を手渡すときに、その場で従業員に領収書へ署名(サイン)または押印してもらいましょう。後日ではなく受け渡しの瞬間に記入してもらうことで記憶違いを防ぎます。
必ず書面で残す
口頭やメールで「受け取りました」という確認では不十分です。紙の領収書または電磁的記録(電子サイン付きの受領記録など)でもよいので、形に残る証拠として保存できる方法をとります。
複数名に支払う場合は個別に
複数の従業員に同時に現金支給する場合、一人ひとり別々に領収書を作成し署名をもらいます。まとめて一枚のリストにサインでも形式上は問題ありませんが、個人別に金額と署名が紐づく形で残すことが望ましいです。
会社控えを保管
もらった領収書は紛失しないよう会社で厳重に保管します。後述する保存期間のルールも踏まえ、紙ならファイリング、電子なら適切なフォルダに格納しバックアップも取りましょう。
現金での給与支給は、利便性とリスク管理のバランスを考える必要があります。どうしても現金で渡さざるを得ない状況では、上記の注意点を踏まえ確実に証拠を残す運用を心がけてください。
給料の領収書の書き方・押さえるべきポイント
実際に給料の領収書(給与受領書)を作成する際、どのような項目を記載し、どんな点に注意すればよいでしょうか。領収書の様式自体に法的な決まりは厳密にはありませんが、後から見て誰がいつ何を受け取ったかが一目で分かることが重要です。
ここでは、給与の領収書を作成する際の基本的な書き方と押さえておきたいポイントを解説します。
領収書に記載すべき主な項目は以下のとおりです。
日付(受領日) – 実際に給与を現金で支払った日付を記入します。年月日を明確に特定し、この日付が給与支給日と一致していることが望まれます。
金額 – 受け取った給与の金額を正確に記入します。数字は読みやすく、桁区切り(カンマ等)をつけるか、漢数字(壱萬円など)を併記するなど改ざん防止の工夫も有効です。
但し書き(支払いの目的) – 何月分の給与として支払われた金銭か、その支払い目的を明記します。例:「令和○年○月分給与として」「○○手当として」等のように、支給の内容を特定できるように記載します。これにより、どの賃金に対する受領かが明確になります。
受領者の氏名・住所 – 給与を受け取った従業員の氏名を自署で記入してもらいます。可能であれば住所も自筆で書いてもらうと、本人確認の意味合いが強まり証拠能力が高まります。自署による氏名と住所の記載は、領収書が本人の意思で書かれたことの裏付けになります。
受領者の押印または署名 – 上記の氏名を自書してもらうだけでも十分ですが、可能であれば認印を押してもらうとより確実です。もっとも、昨今は押印の習慣が見直されつつあり、自筆署名があれば押印は必須ではありません。会社の内規や慣習に従って対応しましょう。
宛名(支払者) – 会社側で用意する場合は、領収書の宛名に会社名(支払者)をあらかじめ記載しておきます。
通常の領収書でも「○○株式会社 御中」のように宛名を書きますが、給与受領書でも同様に会社名や部署名を入れておくと管理しやすくなります。宛名を書くことで、誰に対する受領証明かが明確になります。
金額の摘要や内訳(必要に応じて) – 支給額の内訳に給与以外の項目が含まれる場合は、内訳や非課税分の明細を但し書き等に記載します。例えば「基本給○○円、交通費○○円、合計○○円」といった形です。特に交通費など非課税の支給は給与と区別して書いておくと誤解がありません。
上記の項目を網羅していれば、形式としては十分でしょう。書き方のポイントとして、以下も覚えておいてください。
形式は手書きでも電子作成でもOK
給与の領収書は、市販の領収書用紙に手書きしても構いませんし、パソコンで作成して印刷したものでも問題ありません。重要なのは内容が正確に記載されていることと受領者本人の意思で署名・押印されていることです。
昨今ではExcelやWordで作った領収書ひな形を使うケースも多いですが、それでも法律上有効な領収書になります。手書きの場合はボールペンなど消えない筆記具を使い、電子の場合は改ざん防止措置(PDF化や署名データ付与など)を講じると良いでしょう。
二枚複写にして会社控えを残す
市販の領収書には複写式(カーボンコピーになっており、書いた内容が下の紙に写るもの)もあります。従業員用控えと会社保管用に2部作成する場合は、複写式を使うと一度の記入で済み便利です。会社側が原本を保管し、従業員にも写しを渡しておくと、双方で記録が残ります。
改ざん防止
金額の先頭に「¥」や「ー」を書いて不正な追記を防ぐ、余白に二重線を引く、訂正があれば訂正印をもらうなど、一般的な領収書と同様の改ざん防止策も取っておきましょう。特に金額や日付の欄は悪意ある改変がされないよう工夫します。
通し番号や管理番号
領収書に番号を振っておくと、後で管理台帳と照合しやすくなります。給与の受領書専用に連番を付しておけば、紛失や未回収の確認にも役立ちます。
以上のように、給料の領収書は基本的な領収書の書式に準じつつ、給与固有の情報(支給年月や従業員名など)を盛り込む形になります。内容が正しければ形式は特に問われませんので、自社にとって扱いやすい様式を採用すると良いでしょう。
給料領収書に使えるテンプレートの紹介
給与受領書のテンプレートを活用すれば、ゼロから書式を作成する手間が省け、漏れのない領収書を簡単に用意できます。ありがたいことに、会計ソフト各社や専門サイトから無料でダウンロードできる領収書テンプレートが提供されています。
ここでは、テンプレート利用のメリットと、入手方法の例をご紹介します。
テンプレート活用のメリット
テンプレートを使えば、あらかじめ必要項目がレイアウトされた状態で書類を準備できます。自社で1から設計するよりも記入漏れが防止できますし、何度も利用する場合はフォーマットを統一できて便利です。
また、Excel形式で提供されているものなら社名やロゴを入れるなどカスタマイズも簡単です。電子帳簿保存法への対応などで電子データ管理したい場合も、ExcelやPDFのテンプレートはそのまま利用価値が高いでしょう。
入手先の例
会計ソフト会社の公式サイト
「〇〇クラウド給与」や「△△会計」などの公式サイトでは、ユーザー向けに金銭受領書のフォーマットを公開していることがあります。
ビジネス書式配布サイト
専門のテンプレート配布サイト(ビズ研など)でも、金銭受領書のフォーマットが複数公開されています。Excel・Word・PDFなど好きな形式でダウンロードでき、汎用的に使えるものが多いです。
自社の用途に合ったデザインを探してみるとよいでしょう。
市販の冊子・雛形集
インターネットからの入手ではありませんが、文具店等で販売されている領収書帳(領収簿)やビジネス書式集を利用する方法もあります。定型の受領書用紙を綴じた冊子なら、現場で切り離して使えるので手軽です。
頻繁に現金支給を行う会社では、このような市販の用紙をストックしておくとスムーズでしょう。
例えば、給与支払い時に従業員から受け取る給与受領書のひな形例です。金額・日付・支払い内容(但し書き)・宛名などがあらかじめレイアウトされており、受領者の住所氏名を記入し署名する欄も設けられています。
このようなテンプレートを使えば、誰でも簡単に正式な受領書を作成可能です。
テンプレートを利用する際は、自社に合わせて項目を追加・調整することも忘れないでください。例えば、社判を押す欄や社員番号を記入する欄など、必要に応じて編集しましょう。
重要なのは正しい形式と記載内容であれば、市販品でも自作でも領収書として有効だという点です。テンプレートはあくまで土台なので、自社の運用にフィットするよう微調整して活用してください。
賞与・手当・日雇いバイトなどでの領収書活用(応用シーン)
給料の領収書(受領書)は、月々の基本給に限らず、さまざまなシーンで応用的に活用できます。ここでは、賞与(ボーナス)や各種手当、日雇いアルバイトの賃金など、給与に関連する特殊な支払い場面における領収書について考えてみましょう。
賞与(ボーナス)の現金支給
前述のとおり、年末賞与や決算賞与を社長が現金で手渡しするケースでは、受領の証拠として領収書を書いてもらうことが考えられます。賞与は給与明細にも支給額が記載されますが、現金で支給した事実を残すには従業員の署名入り受領書が確実です。
特に賞与は額が大きくなりがちなので、トラブル防止と社内統制の両面から領収書で記録を補完することが望ましいでしょう。「賞与支給簿」を作成し受領印をもらう会社もありますが、個別の領収書を用意しておけばより丁寧な対応となります。
各種手当・謝礼の支給
通常の給与とは別に、通勤手当・出張手当・残業手当などを現金で渡す場合や、社員への謝礼金(例えば社員紹介制度の謝礼など)を支払う場合も考えられます。これらについても基本は給与と同様の扱いで、現金で渡すなら領収書を受け取るのが安全です。
例えば「〇月分時間外手当」「出張日当」「○○インセンティブ」といった名目のお金を手渡しする際には、その内訳や名目も但し書きに記載した領収書に署名をもらいましょう。
特に通勤交通費などは非課税枠ですが、給与と一緒に現金支給するなら領収書上で区別して記載することが望ましいです。こうすることで、のちの確認時にも「どの支給が含まれているか」が明確になります。
日雇い・短期アルバイトの賃金支払い
日雇い労働者や短期アルバイトに日払い・現金払いで給与を渡す場合は、必ず領収書を受け取るくらいの気持ちで臨みましょう。
雇用契約期間がごく短い労働者の場合、その場限りで関係が終了するため、後日連絡が取れなくなったり、支払い証明が残っていなかったりすると厄介です。
雇った当日もしくは週単位で領収書を書いてもらうことで、会社としては経費計上の証拠が残せますし、労働者側も受け取った賃金を認識できます。
現金払いで領収書をもらう理由は「後のトラブル防止」と「税務上の証拠」の2つに尽きます。日雇いの場合、雇用する側も受け取る側もお互いに記録をしっかり残すことが大切です。
雇用契約がない場合(業務委託など)
なお、ここまで説明してきた領収書は雇用関係に基づく給与支払いの場合です。もし支払先が従業員ではなく、個人事業主やフリーランスに業務委託料を支払うのであれば話は別になります。
その場合は給与ではなく事業対価となるため、受領書ではなく請求書や適格請求書(インボイス)の発行が必要となるケースがあります。
例えば短期の仕事でも雇用契約を結んでいない場合はそれは給与でなく外注費扱いとなり、支払先から請求書をもらい支払側が領収書を発行する立場になります。このように、支払いの性質(給与か報酬か)によって書類の扱いが変わる点には注意しましょう。
以上のように、領収書の活用範囲は基本給だけに留まりません。現金でお金を渡す場面全般において、「これは給与の一環だな」と判断したら領収書をもらうべき局面だと考えてください。
特に賞与や臨時手当などは「つい領収書を取り忘れた」ということが起こりがちなので、事前にテンプレートを用意しておき即時に署名をもらうよう心掛けましょう。
日雇いバイトについても、会社の経費処理と労務管理の両面で受領書へのサインをもらう仕組みを作っておくことが肝心です。
給料の領収書に関するよくある誤解と注意点
最後に、給料の領収書を巡ってありがちな誤解や間違いやすいポイントを整理します。「給与に領収書なんて要らないんじゃないの?」と疑問に思っていた方も、このセクションで正しい知識を確認しましょう。
誤解①:「給料の支払いに領収書は不要である」
解説: 確かに、一般的な給与支払いでは領収書を交わす習慣がないため、このように思われがちです。法律上も、給与支給ごとに領収書をもらえという規定はありません。しかし、これは銀行振込など記録の残る支払い方法の場合の話です。
現金払いの場合は前述したように証拠が残らないため領収書や署名が必要になります。つまり、「給与=領収書不要」というのは支払い方法次第なのです。実務では「銀行振込なら通帳が証拠、現金払いなら領収書が証拠」と考えるのが正解でしょう。
特別な事情で現金払いをする際には、「給与でも領収書を用意すべきケースがある」ことを認識しておいてください。
なお、「基本的に給料や賞与には領収書は必要ない」との解説もありますが、それは銀行振込が主流である現状を前提とした一般論です。現金手渡しをするなら例外であることに注意が必要です。
誤解②:「給与明細を渡しているから領収書は要らない」
解説: 給与明細(給与支給明細書)は、給与の内訳を示す重要な書類です。しかし、給与明細それ自体は受領の証明書ではありません。
給与明細は会社が従業員に交付するものですが、従業員からサインをもらって回収するものではないため、「誰が受け取ったか」のエビデンスにはなりにくいのです。もちろん、給与明細に「受領印欄」を設けて本人の押印をもらえば領収書代わりにできなくはありません 。
実際に、「現金払い時には給与明細のコピーに署名・押印してもらう」という実務も推奨されています。要するに、給与明細だけでは片手落ちであり、現金払いなら明細+領収書(または明細に署名)という組み合わせで完全な証拠とするのが望ましいのです。
普段から給与明細を発行していれば、急な現金払い時にはその明細書に署名してもらう形でも対応可能ですので、状況に応じて使い分けてください。
誤解③:「領収書には必ず収入印紙を貼らなければならない」
解説: 領収書と聞くと「5万円以上なら収入印紙が必要」というイメージがあります。しかし、前述のとおり給与の領収書は印紙税の課税対象外です。従業員への給与支払いは営業(商取引)に該当しないため、金額に関係なく印紙を貼る必要はありません。
うっかり給与受領書に収入印紙を貼ってしまうと、それは不要な税金を納めていることになってしまいます。これは企業側のコスト増にもなりますので、「給与の受取書=非課税」と覚えておきましょう。
逆に、従業員から会社への支払(立替経費の清算時の領収書など)も営業に関しなければ印紙不要です。要は、領収書が常に印紙必要とは限らないということです。給与はまさにその代表例なので、誤って印紙を貼らないよう注意してください。
誤解④:「領収書は従業員ではなく会社が発行するものだ」
解説: これも混乱しやすい点ですが、領収書は本来お金を受け取った側が発行するものです。給与の場合、お金を受け取るのは従業員ですから、従業員が会社宛てに発行するのが原則形態となります。
ただし実務上は、会社がひな形を作り従業員に記入してもらうため、見かけ上は会社側が準備しているように見えるだけです。
重要なのは、領収書に署名するのは受領者本人であることです。会社が勝手にサインを書いてはいけませんし、代理で同僚が署名することも避けましょう。必ず当人の直筆サインまたは押印をもらうことで、真正な領収書になります。
以上が、給与の領収書に関する代表的な誤解とその訂正です。まとめると、「普段は不要でも現金払い時は必要」「給与明細だけでは不十分」「印紙税は関係ない」「署名は本人がする」といった点を押さえておけば、大きな間違いはないでしょう。
社内でも「なぜ領収書が必要なのか?」と質問が出た際には、ここで説明した法律・税務上の理由やリスクヘッジの必要性を伝え、正しい運用に理解を得るようにしてください。
実務での工夫:給与支払いフローへの組み込みポイント
最後に、給料の領収書(受領書)を実務の中でスムーズに活用する工夫や、社内フローに組み込む際のポイントについてまとめます。どんなに書式を整えても、実際の運用が徹底されなければ意味がありません。
経営者・経理担当者として、給与支払いのプロセスに上手に領収書対応を組み込んでいきましょう。
給与支給時のルール策定
まず、社内規程や給与支給マニュアルに「現金手渡しで支給する場合は必ず領収書を徴収する」旨を明記しておきます。
普段は銀行振込であっても、例外時の対応を決めておくことが大切です。具体的には、「現金払いする際は経理担当者があらかじめ受領書を用意し、支給と同時に従業員の署名捺印をもらうこと」といったルールを定めます。
これを周知しておけば、急な現金支給時にも担当者が迷わず対応できます。
領収書用紙・受領簿の準備
現金支給が発生しうるなら、領収書専用の台帳(領収簿)や用紙を備えておくと便利です。例えば、市販の領収簿を用いて給与支給日ごとに従業員にサインしてもらう方法があります。
領収簿には支給年月日・氏名・金額欄があり、毎月それに署名もらえば一冊で継続管理できます。また、Excel等で自社用の「給与受領サインリスト」を作成し、月次で使い回すのも良いでしょう。
ポイントは、支給漏れ・受領漏れが一目で分かる形にすることです。リストにサインがなければ「まだ受領確認が取れていない」ことが判別できます。
給与明細を活用した受領確認
前述したように、給与明細書に受領サインをもらうという運用も有効です。
具体的には、給与明細書を2部用意し1部を従業員に渡す際、もう1部(会社控え)に従業員から「受領しました」の署名または捺印をもらいます 。
これなら新たな書類を起こさずに済み、給与明細と受領サインを一体管理できます。注意点は、給与明細には個人情報や賃金内訳が載っているため、それを会社側で保管することに抵抗がある従業員もいるかもしれない点です。
その場合は、金額など秘匿した簡易的な受領書に切り替えるなどの配慮も検討してください。
電子化とシステム利用
昨今では給与明細の電子配信システムやデジタル給与払いも解禁されつつあります。例えば、給与をデジタルマネーで支給すればシステム上の履歴が残りますし、従業員から受領確認ボタンを押してもらうようなワークフローも構築できます。
完全に電子化するには従業員の同意やシステム導入が必要ですが、将来的には電子署名による給与受領記録なども普及するかもしれません。現状でも、給与計算ソフトによっては「給与受領書」を自動作成・印刷できる機能があります。
こうしたITツールを活用すると、手作業のミスや漏れを減らせるでしょう。
記録の保管と保存期間
集めた給与領収書(受領書)は、適切にファイリングして保管します。法定の賃金台帳の保存期間は5年間とされていますので、領収書類も最低5年は保存するのが望ましいです。税務上は法人税法で帳簿書類の保存7年などの規定がありますから、7年間程度の保存が安心です。
特に紙で保管する場合は劣化や紛失に注意し、年度ごと・月ごとに整理しておきましょう。電子化して保存する場合も、PDFにスキャンして社内サーバーやクラウドに保管し、アクセス権管理やバックアップをしっかり行います。
給与関連書類は機微情報でもありますから、社内で閲覧者を限定するなど情報管理にも配慮してください。
定期的なチェック
実務に組み込んだ領収書フローがきちんと機能しているか、定期的に自己監査することも大切です。例えば半年に一度、現金支給があった月の領収書がすべて揃っているか確認する、領収簿の未サイン箇所がないか点検する、といった作業です。
これにより、万一漏れがあっても早期に発見して対処できます。これは内部統制上も有益で、給与支払いプロセスの信頼性向上につながります。
以上のような工夫を凝らすことで、給料の領収書対応を日常業務にスムーズに溶け込ませることができます。要は、「現金で払ったら必ず証拠を残す」というシンプルな原則を、誰もが実践できる仕組みに落とし込むことです。
経営者や経理担当者は、自社の規模や人員構成、現金払いの頻度などに応じてベストな方法を選択し、社内に展開してください。最初は煩雑に思えるかもしれませんが、慣れてしまえば大した手間ではなく、万が一のトラブル発生時には非常に役立つ保険となるでしょう。
まとめ
「給料 領収書」というテーマについて、必要となるケース、領収書の定義と法的扱い、現金払い時の注意点、具体的な書き方・テンプレート、様々な支給場面への応用、誤解の解消、そして実務での取り入れ方まで総合的に説明しました。
基本的に給与は振込で行われ領収書は不要なことが多いですが、現金手渡しでは領収書(受領書)が従業員との信頼関係と会社のリスク管理を支える重要書類となります。
公式情報や専門家の意見にもあるように、その証拠を残す対応をしっかり行えば、後々のトラブルや税務上の心配も減らせます。ぜひ本記事の内容を参考に、自社の給与支払いフローを見直し、必要に応じて給料の領収書の運用を導入・徹底してみてください。
給与支払いの安心感がぐっと高まるはずです。
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