売買契約書は、売主と買主が売買契約を結ぶ際に締結されます。本記事では、売買契約書の概要と種類、作成時に必要な項目、印紙税まで、詳細にわたり解説いたします。抜け漏れのない契約書を作成するために、ぜひこの記事を参考にしてください。
目次
売買契約書とは?
売買契約書とは、商品やサービスを売買取引するときに売る側と買う側で作成される契約文書です。なお、民法において、売買契約を行うにあたって、契約書の作成が義務付けられてはいません。買主と売主が「買いたい」「売りたい」という意思で合意すれば、売買契約は口頭での約束だけでも成立します。ただし、口頭だけでは契約内容を証明する方法がないため、万が一トラブルが発生した場合に問題が生じる可能性があります。
例えば、以下のような状況が発生した場合、口頭の合意だけでは契約の内容を立証できず、損害を被った側が不利益を被る可能性があります。
・売主が商品を納品したにもかかわらず、約束した期日に買主が支払いを行わない場合
・買主が代金を前払いしたにもかかわらず、商品が引き渡されない場合
売買契約書を作成しておくことで、問題が生じた場合、契約内容を証拠として提示することが可能です。特に取引金額が膨大である場合や企業同士の取引においては、売買契約書の作成が通例となっています。また、災害などの不可抗力によって損害が生じる可能性も考慮されます。売買契約書で、不可抗力による損害が生じた場合には責任を負わないこと、または損害賠償額の上限を定めることなどを明示することで、予期せぬ事態に備えて損害賠償責任を最小限に抑えることが可能です。
売買契約書の種類は?
売買契約書には、高額な取引に用いられるものや、企業間、企業と個人間などで商品の売買を行う際に利用されるもの、また企業間で継続的な取引を行う際に用いられるものなど、さまざまなタイプが存在します。以下では、代表的な3つの売買契約書について詳しく説明します。
不動産に関する売買契約書
高額な不動産取引も、法的には口頭で成立することができます。ただし、実際にはほとんどの場合、契約書が作成されます。不動産の売買契約においては、登記や住宅ローンの借入などに関連する際には契約書が必要であり、契約書がない場合は潜在的なトラブルの原因となるからです。
不動産の売買契約においては、権利関係、税金、建築など幅広い専門知識が必要であり、契約にいたるまでの手続きも複雑です。このため、買主と売主の理解の違いから生じるトラブルが少なくありません。したがって、不動産の売買契約では、一般的に売買契約書の作成が推奨されています。不動産の売買契約書は、取引の内容により異なります。一般的によく使用される売買契約書の種類は、以下のものがあります。
土地建物に関する売買契約
不動産売買契約書 土地建物売買契約書 土地売買契約書 土地売買予約契約書 農地売買契約書 建物売買契約書 区分所有建物売買契約書 |
借地権・抵当権付きの不動産に関する売買契約書
借地権付底地売買契約書 借地権付建物売買契約書 抵当権付売買契約書 |
商品の売買を行う際の売買契約書
商品の売買に関する契約書は、企業同士のみならず、個人との取引においても起草されることがあります。契約書の策定に際しては通常、契約の当事者が柔軟かつ自由に契約内容を決定できます。
ただし、不動産のように特定が容易な対象物とは異なり、一般の商品は目的物の識別が難しい場合があります。そのため、トラブルを未然に防ぐためには、商品の名称、製造番号、仕様などを具体的に明示し、当事者間で目的物を明確にし、認識を一致させることが不可欠です。売買契約書の例として、以下の2つの書類が挙げられます。
・物品売買契約書
・商品売買契約書
物品の売買契約は、企業同士だけでなく、個人との取引においてもよく使用される契約形態です。物品の売買では、基本的に当事者が自由に契約内容を決定できるため、民法や商法の規定と異なる合意がある場合は、その内容を契約書に具体的に明記し、明確化する必要があります。同時に、当事者間で長期にわたり継続する取引の場合には、基本的な条件について契約を締結することも一般的です。
企業間等で継続的な売買の取引を行う際の売買契約書
企業間などで売買取引を継続して行う際、毎回同じ契約を締結する手間を省くために、通常、共通の事項に関しては基本契約を結びます。基本契約が締結された後は、基本契約の内容と異なる個々の取引に関してのみ、個別契約を取り決めることができます。
基本契約とは別に個別契約を結ぶ場合、各契約の内容が異なると、どちらが優先されるかに関するトラブルのリスクがあります。このような当事者間での認識のずれを防ぐために、どちらの契約が適用されるかを明確にしておくようにしましょう。
継続的商品取引基本契約書は、企業間で売買取引を継続して行う際の売買契約書の一例です。
債権や株式の譲渡契約書
譲渡は財産や権利などを他者に譲り渡す行為であり、その際には有償と無償の二つに分類されます。財産の譲渡に伴い金銭を受け取る(または支払う)場合、有償の譲渡であり、これが売買行為となります。
債権譲渡契約や株式譲渡契約は、「譲渡」という名称が冠せられていますが、実際には債権や株式などを有償で譲渡する場合、基本的には民法上の売買契約にあたるものとみなされます。
債権や株式を第三者に譲渡する際に作成される契約書が「債権譲渡契約書」や「株式譲渡契約書」です。株式譲渡契約書は、株式を譲渡する際に譲渡側と譲受側との間で締結される契約書で、双方の企業が交渉を経て合意した事項を具体的に明文化し、認識のずれが生じないように最終確認する役割も果たします。株式譲渡契約書は、一般的な売買契約書と異なり、会社の支配権の移動を伴う点が大きな違いです。
知的財産権の譲渡に関する契約書
人間の知的な活動によって創り出されたアイデアや創作物には、財産的な価値を有するものがあります。これらは「知的財産」という総称で呼ばれます。知的財産には法律で定められた権利や法的に保護される利益に関する権利が含まれ、これらは一般的に「知的財産権」として知られている権利です。
知的財産権の一例として、以下が挙げられます。
・特許権 ・著作権 ・実用新案権 ・育成者権 ・意匠権 ・商標権 |
知的財産権の譲渡に際しては、正確な譲渡が見極めにくいことか
ら、一般的には契約書を通じて内容を明確化します。なお、知的財産権の譲渡にかかわる契約についても、民法上は売買契約にあたります。
売買契約書に必要な項目
売買契約書を作成するには、どのような内容を記載するのかを理解しておきましょう。主な掲載項目は以下の表の通りです。
主要な項目 | 記載内容 |
基本合意 | 売買契約であることと、売主、買主はどちらかについて |
売買の目的物 | 売買の対象となる物の商品名や個数 |
代金 | 代金の額、支払期日、支払い方法 |
引き渡し | 買主へ引き渡す期日、場所など |
所有権移転時期 | 所有権が売主から買主に移転する時期 |
検査 | 買主による商品の検査方法、検査期間など |
遅延損害金 | 代金が期日までに支払われなかった場合に請求できる遅延損害金の利率 |
危険負担 | 自然災害などの事由で商品が損傷・消失した際のリスクの負担について |
契約不適合 | 商品に欠陥や不良があった場合の対応 |
契約解除 | 売主か買主のどちらかが契約違反した場合に契約を解除できること |
損害賠償 | 契約違反行為などにより発生した損害の損害賠償について |
協議事項 | 契約書に定められていない事案は話し合いで解決すること |
合意管轄 | トラブル発生時にどこの裁判所で審理するか |
売買契約書についてよくある質問
売買契約書に関するよくある質問をまとめましたので確認しておきましょう。
売買契約書は印紙税の対象ですか?
印紙税は、売買契約書に収入印紙を貼付することにより課税される税金であり、契約書の種類によって印紙税が発生します。
以下の表は、不動産の売買を行う際の契約書にかかる印紙税額をまとめたものですので、参考にしてください。
なお、企業間等で継続的な売買取引で作成する売買契約書にかかる印紙税額は、契約金額(1通または1冊につき)に対して一律4,000円となっています。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率※ |
1万円未満 | 非課税 | 非課税 |
10万円以下、契約金額の記載のない | 200円 | 200円 |
10万円超~50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超~100万円以下 | 1千円 | 500円 |
100万円超~500万円以下 | 2千円 | 1千円 |
500万円超~1,000万円以下 | 1万円 | 5千円 |
1,000万円超~5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超~5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円超~10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円超~50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円超 | 60万円 | 48万円 |
参照:印税額|国税庁
不動産売買契約書の印紙税の軽減措置|国税庁
電子化した場合は印紙税が不要
書面で締結された契約書には課税文書として印紙税が課されますが、電子契約の場合、PDFファイルなどの電子データを使用すると印紙税が免除になります。これは、課税文書の作成は、用紙に記載するものと定義されているためです。
印紙税法第三条を見てみましょう。
<引用> 第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。 |
ここでの「作成」とは、印紙税法基本通達第44条第1項の定義によると、以下の通りです。
<引用> 第 44 条(作成等の意義) 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。 |
つまり、紙などの用紙への記載し交付したものが課税文書に該当し、電子ファイルの送信・交付は課税文書の「作成」とはみなされません。
契約金額が大きい不動産取引や契約書作成が頻繁な企業間取引では、印紙税負担が大きくなるでしょう。印紙税の軽減を検討されている場合は、電子契約サービスを活用して売買契約書を作成することをおすすめします。
参照:電子メールでの請負契約について|国税庁
売買契約書はなくてもよい?
売買契約は、口頭だけでも成立します。しかし、不動産の売買など金額の大きな取引の場合、後にトラブルが生じると大きな問題になるでしょう。
契約書の大きなメリットは、訴訟時の証拠としての価値が高いことです。訴訟前の仮差押・仮処分も契約書なしでは困難であり、口頭での合意はリスクが高まります。そのため、手続き内容や今後の流れ、条件などを記載し、双方が同意した証拠を残すために作成することをおすすめします。契約の内容を書面に残しておくことで、リスク管理を行うことが可能です。
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売買契約書は、商品やサービスの取引時に、売主と買主の双方によって作成される文書です。この契約書には、当事者の情報だけでなく、売買の対象物、引き渡し、代金決済などに関する具体的な詳細が明記されます。
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まとめ
さまざまなタイプの売買契約書が存在しますが、どれも将来のトラブルを回避するために重要な役割を果たします。売買契約の条件が曖昧な場合、当事者間での解釈の相違が生じ、これが後にトラブルの発端となる可能性があります。双方が納得する内容について十分な協議を行い、各項目に関して遺漏のない契約書を慎重に作成しましょう。電子契約システムを活用することで、契約締結までの時間を短縮し、同時にコスト削減を図ることもおすすめです。
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