見積書の基礎知識

建設業の見積書における法定福利費とは?内訳や計算方法・記載例を徹底解説

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法定福利費とは 工事

建設業界の事業者様や経理担当者様、個人事業主の方にとって、「法定福利費」という言葉を見積書で目にする機会が増えています。

法定福利費とは何か、そして工事の見積書にどのように記載し、どのくらいの割合になるのか、疑問に感じている方も多いでしょう。

本記事では、建設業の見積書における法定福利費について、内訳の詳細や計算方法、記載例まで丁寧に解説します。

社会保険料の種類ごとのポイントや、法定福利費を明示するメリット、実際の計算例なども網羅していますので、ぜひ参考にしてください。

法定福利費とは何か(建設業の見積書における意味)

法定福利費とは、企業が法律に基づき従業員に対して負担することが義務付けられた福利厚生費用のことです。

具体的には、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険などの社会保険料および子ども・子育て拠出金(旧称:児童手当拠出金)といった各種拠出金で、会社(事業主)が負担する分を指します。これらは法律で加入・負担が義務づけられているため、「法定」の福利費と呼ばれます。

建設業の現場で働く従業員については、元請け・下請けを問わず事業主に社会保険等への加入義務があります。法人企業は従業員数に関わらず加入義務があり、また個人事業主の場合でも従業員が5名以上(※一部業種を除く)であれば社会保険に加入する義務があります。

建設業は危険を伴う作業も多く、万一の事故やけがに備えて労災保険への加入も必須です。法定福利費は、そうした従業員の社会保険加入に必要な費用であり、企業が給与とは別に負担しなければならない重要なコストとなります。

もともと建設業界では、見積り金額が材料費や手間賃の一式金額で示されることが多く、各種保険の費用が含まれているか不明瞭なケースがありました。

そのため、2013年(平成25年)以降、建設工事の見積書には法定福利費を内訳として明示することが義務付けられ、適正な社会保険料が確保されるようになりました。現在では、公共工事はもちろん民間工事でも、下請業者が見積書に法定福利費を記載することが一般的になっています。

法定福利費の内訳:社会保険料の種類と料率

法定福利費に含まれる主な費用は、各種社会保険料および拠出金です。建設業の見積書で内訳として示す際は、基本的に現場労働者にかかる事業主負担分を対象とします。具体的には以下のような項目があります。それぞれどんな保険なのか、誰が対象で、料率(保険料率)がどの程度かを確認しておきましょう。

健康保険料(医療保険)

会社員が加入する公的医療保険です。業務外の病気やケガの治療費を補助するもので、協会けんぽ(全国健康保険協会)や建設業の健康保険組合に加入します。

対象者は企業の従業員(適用除外を除く全員)で、保険料率は都道府県や組合ごとに異なります(目安として令和6年度の協会けんぽ全国平均は約10%前後)。

この料率を従業員と事業主で折半(半分ずつ負担)するため、事業主負担分は約5%程度となります(地域により若干異なります)。

厚生年金保険料(年金保険)

会社員が将来受け取る厚生年金のための保険です。国民年金(基礎年金)に上乗せされる年金給付を支えるもので、対象者は原則として厚生年金適用事業所の従業員全員です。

保険料は全国一律の率で報酬月額に対して課せられ、令和6年度(2024年度)現在18.3%となっています。この厚生年金保険料も事業主と従業員で半分ずつ負担する決まりのため、事業主負担分は約9.15%です。

建設業では社会保険未加入対策として、この厚生年金への加入が厳格に求められています。

介護保険料

40歳以上65歳未満の従業員に適用される介護保険第2号被保険者分の保険料です。公的介護保険制度を支えるための保険料で、健康保険とあわせて徴収されます。対象者は40〜64歳の従業員で、料率は全国一律です(令和6年度は1.60%が標準で、健康保険料と合算して算定)。

この保険料も健康保険料と同様に会社と従業員で折半しますので、事業主負担分は約0.8%となります。なお、従業員に40歳未満や65歳以上の方しかいない場合、介護保険料は発生しません。

雇用保険料

失業した際の失業給付や育児休業給付金などに充てられる保険料です。対象者は原則として雇用形態を問わず労働時間等の要件を満たす全従業員です(短時間労働者も一定条件で対象)。

料率は年度および事業の種類によって変動し、建設業は他業種より若干高めに設定されています。例えば令和6年度の場合、一般の事業の雇用保険料率は1.55%(従業員負担0.6%+事業主負担0.95%)ですが、建設業の事業は1.85%(従業員負担0.7%+事業主負担1.15%)となっています。

事業主はこの雇用保険料の事業主負担分(おおむね1%前後)を法定福利費として負担します。

労災保険料(労働者災害補償保険)

業務上の災害(労災)や通勤中の事故に対して労働者に給付を行うための保険料です。対象者は全ての労働者(正社員だけでなく日雇いやアルバイトも含む)で、建設業では一人親方など労働者でない方も特別加入により労災保険に入るケースがあります。

料率は業種ごとに異なり、建設業は作業の種類によって率が細かく設定されています。たとえば建築工事の場合、令和6年度の労災保険率は9.5‰(千分率)程度(=0.95%)と定められています。

一方で、高所作業など危険度の高い工種では料率が2~3%を超えることもあります。労災保険料は全額を事業主が負担する(労働者の給与から控除しない)仕組みのため、これも法定福利費の一部として会社が支払います。

子ども・子育て拠出金

平成29年より現在の名称に変更された拠出金で、旧称は「児童手当拠出金」です。従業員に支給される児童手当等の財源を企業が負担するもので、厚生年金適用事業所の事業主に課せられます。

料率は全国一律で、令和6年度は0.36%です(この率は事業主のみが負担し、労働者負担はありません)。子ども・子育て拠出金は一般に厚生年金保険料と一体的に納付しますが、企業負担分であるため見積書の法定福利費内訳として明示されるケースがあります。

以上が法定福利費の主な内訳です。まとめると、健康保険・厚生年金(+子ども拠出金)・介護保険・雇用保険・労災保険といった費目が該当し、それぞれの事業主負担分が法定福利費となります。

それぞれの料率は年度によって見直されることがあり、また健康保険料率や労災保険料率は地域や業種で異なります。見積書を作成する際は最新の保険料率を確認し、正確に算出することが大切です。

建設業における法定福利費の標準的な割合は何%?

建設業における法定福利費の標準的な割合は何%?

「法定福利費は何%くらいになるのか」という疑問も多く聞かれます。建設業における法定福利費は、労務費(賃金)に対しておおよそ15%前後が標準的な目安と言われます。

実際の割合は従業員の年齢構成や地域の保険料率、工事の種類による労災保険料率などによって変動しますが、概ね労務費の1割強から2割程度に収まるケースが一般的です。

例えば、ある建設工事で労務費が100万円だったとしましょう。社会保険料率の合計が仮に15%であれば、法定福利費は100万円 × 15% = 15万円となります。実務上は、このように労務費に一定の率を乗じて概算する方法がよく用いられます。

先述の内訳例を踏まえると、健康保険約5%+厚生年金約9%+雇用保険約1%+労災保険約1%+子ども拠出金0.36%など合計で15%前後になる計算です。

ただし注意点として、法定福利費率(社会保険料率の合計値)は年度ごとに変動します。特に雇用保険料率や労災保険料率は景気や制度改正により見直されることがあるため、前年と同じ率で計算すると誤差が生じることがあります。

また、建設業では労災保険料率が工種により大きく異なりますので、実際の工事内容によっては法定福利費の割合が20%近くになる場合もあります。逆に従業員が若年層中心で介護保険料が発生しない場合などは14%程度に収まることもあるでしょう。

結論として、建設業の法定福利費は労務費の約15%が一つの目安ですが、正確な割合は個々の条件で変わります。

見積り段階でおおまかな数字を知りたい場合は15%前後で試算しつつ、可能であれば各保険の料率に基づき正確に計算することが望ましいでしょう。「法定福利費は何パーセント?」という問いには、「条件によるがおよそ15%前後になる」と覚えておくと便利です。

見積書における法定福利費の記載例

実際の見積書では、法定福利費をどのように記載すればよいのでしょうか。ポイントは、法定福利費を他の費用と区分して明示することと、その内訳を詳細に示すことです。以下に、建設工事の見積書に法定福利費を記載する際の一例を示します。

まず、見積書の項目内訳で労務費を表示する際に、法定福利費相当分を除いた純粋な賃金分を労務費として計上します。そしてその下で、法定福利費を別立てで計上する形にします。例えば次のようなフォーマットです。

【工事費 内訳】(例) 

・材料費         A円  

・労務費(法定福利費除く)B円  

・経費(法定福利費を除く)C円  

小計          D円  (A+B+C)  

・法定福利費(※内訳別記) E円  

見積金額合計      D円+E円  

上記のように、まず労務費B円には法定福利費分を含めずに算出し、小計D円とは別枠で法定福利費E円を計上します。そして法定福利費について、別途内訳明細を設けて詳細を示します。

【法定福利費 内訳】(例)  

対象労務費額:B円  

・雇用保険料(事業主負担)     料率a% = B円 × a%  

・健康保険料(事業主負担)     料率b% = B円 × b%  

・介護保険料(事業主負担)     料率c% = B円 × c%  

・厚生年金保険料(事業主負担)   料率d% = B円 × d%  

・子ども・子育て拠出金(事業主負担)料率e% = B円 × e%  

・労災保険料(事業主負担)     料率f% = B円 × f%  

法定福利費 合計       E円  (上記合計額)  

※上記は記載例であり、実際の書式は発注者の指定や業界標準のフォーマットに従って作成します。

この例では、対象となる労務費B円に対して各種保険料率(a~f%)を乗じ、各項目ごとの法定福利費額を算出しています。そしてそれらの合計がE円となり、これが見積書に計上する法定福利費の金額です。

重要なのは、見積書に記載する法定福利費は事業主負担分のみである点です。仮に会社が従業員負担分もまとめて支払っている場合でも、それは従業員の給与から天引きして預かったものですから、見積書上のコストとして計上するのは事業主が負担する分だけとなります。

そのため、労務費B円を設定する際には従業員の社会保険料本人負担分を含めない賃金額とし、法定福利費E円として事業主負担分を別途積み上げます。

このように法定福利費を内訳として明示した見積書にすることで、元請け・発注者に対して「社会保険料相当額を適切に計上しています」という説明ができます。公共工事の場合は標準見積書様式で詳細な内訳が求められることもありますが、民間工事でも上記のような記載例を参考にしておくと良いでしょう。

法定福利費を明示することで得られるメリット

法定福利費を明示することで得られるメリット

法定福利費を見積書で明示することには、建設業において様々なメリットがあります。ここでは主なメリットをいくつか挙げて解説します。

元請・下請間のトラブル防止

法定福利費を明確に記載することで、元請業者と下請業者の間で「社会保険料分が支払われていない」「見積りに含まれているか不明」といったトラブルを防ぐことができます。

下請業者は見積書で社会保険料相当額を請求できますし、元請業者もその金額を把握できます。これにより、後から「保険料分も考慮してほしい」「値引きで保険料が賄えなくなった」等の揉め事が起きにくくなります。

コストの透明性確保

法定福利費を内訳として示すことで、見積金額の内訳がより透明になります。従来、法定福利費が不明瞭な状態だと、どこまでが人件費でどこからが保険料負担なのか分かりづらく、適正な評価が困難でした。

明示することで、発注者に対しても「この工事にはこれだけの社会保険コストが発生する」という理解を得られます。企業にとっても、自社の見積もり内訳を説明しやすくなり、信頼性向上につながります。

適正な社会保険加入の推進

見積書に法定福利費を計上すること自体が、社会保険未加入問題への対策となっています。保険料分を見積もりに盛り込むことが義務化された結果、社会保険に未加入のままでは見積書が作成できず仕事を受注できない仕組みができあがりました。

これにより建設業界全体で社会保険加入率が飛躍的に向上し、労働者の福利厚生が守られるようになりました。法定福利費の明示は、業界ぐるみで適正な社会保険加入を推進する効果も持っています。

公共工事の受注要件への対応

国や自治体が発注する公共工事では、見積書に法定福利費を明示することが事実上必須となっています。法定福利費をきちんと計上していない業者は「不適格」とみなされ、入札参加や契約の段階で不利になる可能性があります。

逆に適正な法定福利費を計上している企業はコンプライアンスが徹底している証拠となり、信用度が高まります。法定福利費を明示することは、公共工事を含む受注機会の確保にもつながるメリットと言えます。

元請企業側のメリット

元請企業にとっても、下請から提出された見積書に法定福利費が記載されていれば、社会保険料相当額を適切に支払っている下請業者かどうか確認できます。万が一、記載がなければ加入状況を問いただすきっかけになり、リスクのある業者の排除につながります。

また、元請が下請へ支払う費用の中で法定福利費が明示されていれば、元請自身もその部分を値引き交渉の対象から除外しやすくなり(※社会保険料は削減できない実費であるため)、適正なコスト配分が可能になります。

このように、法定福利費の明示には発注者・受注者双方にとっての安心感とメリットがあります。建設業界では長らく社会保険未加入やダンピング受注が問題視されてきましたが、法定福利費を見積書で明確化する取り組みによって改善が進んでいます。

適正な法定福利費を計上し、双方が納得できる形で契約を交わすことが、健全な取引関係の構築につながるでしょう。

法定福利費の計算方法とその考え方(計算例あり)

最後に、法定福利費の具体的な計算方法について解説します。基本となる考え方はシンプルで、「労務費総額(賃金総額)に各種保険料率を乗じて算出する」というものです。以下のステップで考えると分かりやすくなります。

労務費総額の把握

まず対象となる労務費を算出します。労務費とはその工事に従事する作業員の賃金総額のことです。見積もり時点では正確な賃金総額を把握しにくい場合もありますが、工種ごとの延べ人工(にんく)や作業日数、職人の日当単価などから見積り上の労務費を計算します。

例えば、職人延べ50人・日、1人1日あたりの日当2万円であれば、労務費総額は50 × 2万円 = 100万円となります。

各種保険料率の確認

続いて、その工事に適用される社会保険料率を確認します。健康保険料率(事業主負担分)、厚生年金保険料率(事業主負担分)、雇用保険料率(事業主負担分)、労災保険料率、子ども・子育て拠出金率などです。

これらは年度や地域、業種で異なるため、最新の料率表を参照します。建設業許可業者であれば、毎年度更新される厚生労働省や国土交通省の資料で確認できるでしょう。仮に例として、健康保険5%、厚生年金9%、介護保険0.8%、雇用保険1.15%(建設業)、労災保険1.0%、子ども拠出金0.36%とします。

法定福利費の算出

労務費総額に対し、確認した保険料率をそれぞれ乗じて金額を計算します。上記の例で労務費100万円の場合、それぞれ以下のようになります。

  1. 健康保険料(会社負担分):100万円 × 5.0% = 5万円
  2. 厚生年金保険料(会社負担分):100万円 × 9.0% = 9万円
  3. 介護保険料(会社負担分):100万円 × 0.8% = 0.8万円(8,000円)
  4. 雇用保険料(会社負担分):100万円 × 1.15% = 1.15万円(11,500円)
  5. 労災保険料:100万円 × 1.0% = 1万円
  6. 子ども・子育て拠出金:100万円 × 0.36% = 0.36万円(3,600円)

これらを合計すると、法定福利費総額 = 約17.31万円となります。料率の設定によって15万円前後から18万円程度まで変動しますが、この例では法定福利費率17.31%となったことになります。

見積書への反映

算出した法定福利費総額を、前述の記載例のように見積書へ計上します。労務費100万円に対して法定福利費17.31万円という内訳を示せば、発注者にも計算根拠が伝わりやすくなります。見積書上は端数処理などで若干調整することもありますが、基本は実際の計算値に基づく金額を記載します。

実務では、上記のような精緻な計算が難しい場合に、労務費に一律の概算率(例えば15%)を掛けて法定福利費を求めるケースもあります。その際は「労務費〇〇円×福利費率○%による概算」と注記することで、後日の精算や確認がしやすくなるでしょう。

また、公共工事の標準見積書では労務費率や保険料率を明記する欄が設けられています。可能な限り実態に即した正確な料率で計算し、見積書に記載することが望まれます。

以上のように、法定福利費の計算は基本的な算数ですが、元になる労務費の算定や保険料率の確認がポイントです。毎年更新される情報に注意し、「労務費総額 × 法定保険料率の合計 = 法定福利費」という原則に沿って算出すれば、適正な金額を算出できます。

まとめ

法定福利費は、建設業の経営において見落とせない重要な費用です。見積書において法定福利費を正しく理解し、内訳を明示して計上することは、適正な利益確保と円滑な取引関係のために欠かせません。

本記事では、法定福利費の基本的な意味から各費目の内容・料率、建設業での標準的な割合、見積書への記載例、メリット、計算方法まで幅広く解説しました。

社会保険料率や制度は時折変更がありますが、最新情報をフォローしつつ、確実に法定福利費を積算・請求する姿勢が大切です。元請け業者から「法定福利費を含めてください」と言われた場合も、本記事の内容を踏まえて正確に対応できるでしょう。

適切な法定福利費の計上は、従業員の福利厚生確保と企業の信用向上の両面に寄与します。ぜひ自社の見積業務に活かしていただき、健全な建設業経営の一助として下さい。

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この記事の投稿者:

nakashima

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