納品書の電子化が進んでいます。取引先の要望に応えるために電子化を進めている企業もありますが、保存に関する要件が複雑で戸惑うこともあるでしょう。この記事では、電子データ化で保存可能な書類の種類、電子帳簿保存法での保存形式、納品書を電子化する際のメリットや留意点、そして電子データを活用するための手法について詳しく説明します。
目次
納品書とは
納品書は、商品やサービスを顧客に届けた証拠となる書類です。法的には発行が必要とされることはありませんが、発行・受領した場合は一定期間保管することが推奨されています。法人の場合、確定申告の翌日から7年から10年、個人事業主の場合は5年間保存する必要があります。
関連リンク:納品書の正しい書き方は?作り方のポイントや請求書との違いを解説
2022年1月から納品書の電子化が認められた
電子帳簿保存法改正により、特定の条件を満たす場合は、紙の納品書を電子データで保存できることになりました。以下では、電子データで保存可能な書類、スキャンして保存できる納品書などについて詳しく説明します。
電子データとして保存できる書類の種類
次の3種類が対象となります。
書類の種類 | 保存方法 |
電子データで作成後、紙ベースで発行・送付した納品書 | 一定の保存要件を満たせば、電子データとして保存できる |
相手先へ電子データで送付した納品書 | 電子データでの保存が必須 |
相手先から電子データで受領した納品書 | 電子データでの保存が必須 |
電子データで送信した受領書は、必ず電子データとして保存する必要があります。一方で、手書きで作成した納品書は電子帳簿保存法の対象外であり、紙の形で保存しても法的に問題ありません。これらの保存方法を守ることで、法的要件を遵守し、納品書を適切に管理することができます。
スキャンして保存可能な納品書
スキャンして保存できる納品書は、以下の2点です。
- 相手から紙で受け取った納品書
- 自社が紙で発行し送付した納品書の控え
なお、上記については必須ではなく任意とされています。どちらも一定の保存要件を満たしていれば保存できます。
電子データを紙で保存するのは不可
原則、電子データを紙ベースで保存することはできません。しかし、2023年12月31日までの宥恕(ゆうじょ)期間中は、電磁的記録の保存準備が困難な事情がある場合、納税地等の所轄税務署長の承認を得た上で、紙に出力しての保存が許可されていました。2024年1月からは、データ形式で受け取った関係書類を紙ベースで保存することは許可されていません。現在は宥恕期間を過ぎているため、保存要件を満たせない場合でも、税務署長の認可を得た場合を除き、紙に出力しての保存はできません。
電子帳簿保存法が定める保存形式
電子帳簿保存法は、税務関連書類を電子データで保存する条件を定めた法律です。この法律では、書類を以下の3種類に分類し、それぞれの保存形式を規定しています。
大分類 | 帳簿の種類 | 保存方法 |
国税関係帳簿 | 仕訳帳、売掛帳、買掛帳、総勘定元帳、現金出納帳、固定資産台帳など | 電子データ保存スキャナ保存 |
国税関係書類 | 残高試算表、貸借対照表、損益計算書、棚卸表、請求書、領収書、見積書、納品書など | 電子データ保存スキャナ保存 |
電子取引 | 請求書、領収書、見積書、納品書など | 電子データ保存スキャナ保存 |
納品書は「国税関係書類」とみなされ、発行や受領の際には保存が義務とされています。自社が納品書を発行した場合でも、受領した場合でも、以下の保存方法が可能です。
<電子データとして保存>
電子的に授受した取引データをそのまま電子データの形式で保存します。
<スキャナ保存>
紙で作成・受領した書類をスキャンして、画像データとして保存します。
スキャナ保存の条件
スキャナ保存の要件は、入力期間、機器スペックの指定など、細かく規定されています。要件を以下の表にまとめましたので、確認しておきましょう。
項目 | 要件 |
入力期間の制限 | 早期入力方式: 国税に関する書類を受領後、7営業日以内に速やかに入力する。 業務処理サイクル方式: 国税に関する書類の入力を、その業務の通常期間(最長2ヵ月以内)が経過した後、7営業日以内に速やかに行う。 |
解像度やカラー画像による読み取り | 解像度200dpi相当以上赤色・緑色・青色の階調が256階調以上※2024年1月1日以降に保存されたものは不要 |
読み取り情報の保存 | 解像度、階調、書類の大きさの情報を保存する※2024年1月1日以降に保存されたものは不要 |
タイムスタンプの付与 | 入力期間内にタイムスタンプを付与する |
ヴァージョン管理 | 国税に関する書類を保存する際には、以下のいずれかのシステムを使用する ・訂正・削除の記録が確認できる「電子計算機処理システム」・訂正・削除ができない「電子計算機処理システム」 |
入力者等情報の確認 | データの入力者やその入力を監督する人の情報を確認できるようにしておく※2024年1月1日以降に保存されたものは不要 |
見読可能装置の備付け等 | ・カラーディスプレイ(14インチ以上) ・カラープリンター ・操作説明書 |
電子計算機処理システム概要書の備付け | ・システムの概要が記載されている書類 ・システム開発の書類 ・操作説明書 ・保存に関する事務手続きについて明記された書類 |
検索機能の確保 | ・取引年月日などの日付、取引金額、取引先での検索 ・日付と金額にかかわる項目は、範囲指定して検索 ・2つ以上の任意の項目を組み合わせ検索 |
参照:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存!(令和3年11月)」
納品書のスキャナ保存は任意です。手間がかかるため、今後の状況を見ながら導入を検討するのもよいでしょう。
納品書を電子化する5つのメリット
納品書の電子化によって得られるメリットは、以下の5つです。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
メリット1.業務効率の向上とコスト削減
紙の納品書を保存する場合、仕入管理の際に手動でデータ入力が必要です。しかし、納品書を電子化するとこのデータ入力を簡略化できます。電子化すれば、納品書とシステム間でデータが連携されるため、さらに業務効率が向上します。また、過去の納品書を探すときにも、紙の場合は手間がかかりますが、電子データにすることで検索が簡単になり、効率よく必要なデータを見つけられることもメリットです。
また、納品書を紙で発行すると、修正、印刷、発送までにさまざまな費用がかかりますが、電子化することでコストを大幅に抑えることが可能です。
メリット2. すぐ届けられる(受け取れる)
紙の納品書を郵送すると、取引先に届くまで時間がかかりますが、納品書を電子化すると、発行当日に直接担当者に送信できます。さらに、電子化することで記載内容の確認が容易になることもメリットです。通常の紙の納品書では、もし誤りがあれば、再発行の手続きを依頼して再送を待たなければなりませんが、それにはさらに時間がかかります。
メリット3 ヒューマンエラーの防止
納品書を手入力で作成・送付する場合、誤入力や入力漏れ、誤配送といったリスクがあります。これらのトラブルは些細なミスでも企業の信頼や評判に大きな影響を及ぼす可能性があります。一方で電子化すると自動で納品書を作成・送付できるため、このような人的ミスを防ぐことができるでしょう。また、ミスの確認にかかる手間や人件費も減らせます。
メリット4. セキュリティの強化
紙の納品書は誤って破棄したり、紛失したりする可能性があります。また、適切に保管していても、ファイリングから情報漏洩のリスクもあります。このようなセキュリティ面については、納品書を電子化し、データ閲覧のアクセス制限を設定することで、第三者の閲覧による情報漏えいを防ぐことが可能です。長期間の管理が適切に行えていれば、税務調査で提示を求められた際にもすぐに対応できるでしょう。災害や盗難などの突発的なトラブルからも書類が保護されるメリットがあります。
メリット5. リモートワークの推進
近年は、新型コロナウイルス感染症対策により、リモートワークの増加が顕著です。クラウド型システムを利用して納品書を電子化することで、自宅や出張先などのインターネットが使える場所ならどこでも納品書の発行や管理ができます。そのため、経理スタッフはオフィスに拘束されることなく作業することが可能な場合もあり、働き方改革を後押しする一助となるでしょう。また、店舗で受け取った納品書を事務所などで確認したい場合にも便利です。
納品書を電子化する際に気を付けたいこと
電子データとして保存する場合は、取引先への事前確認、法規制の確認、データ管理、運用マニュアルの準備などに注意が必要です。それぞれについて詳しく解説します。
注意点1. 取引先に事前に確認する
業種によっては電子化が困難な場合があります。自社が納品書を電子データで提供しても、取引先がそれに対応していない場合、依然として紙の納品書が必要になるかもしれません。また、電子データでの取引に関して取引先が同意しても、同時に紙の納品書も求められこともあり、承認には納品書の同封や押印が必要なケースも考えられます。そのため、電子化を進める前には、必ず取引先と相談し、許可を得てから進めることが重要です。
注意点2.法規制を確認する
納品書を電子化する際には、法律や規制が変更されていないかを常に確認する必要があります。2022年4月1日以前に「電子帳簿保存」や「スキャナ保存」の申請を行っている場合は、過去の要件に基づいて運用することが必要です。
電子帳簿保存法では、「重要書類」と「一般書類」が区別されており、重要書類には一般書類よりも多くの規制が課されています。納品書は重要書類ですが、これを誤って一般書類として処理すると、悪質と判断された場合には、青色申告の取消しや追徴課税、推計課税などの罰則が科される可能性があります。
注意点3. データの管理に注意する
納品書を電子化する際には、データ管理に特に注意が必要です。インターネットを通じて、誰でもアクセスできる可能性があり、納品書データが情報漏えいやハッキングのリスクにさらされるかもしれません。これを防ぐためには、適切なアクセス権限の付与、アクセスログの記録、セキュリティツールの導入などの対策を講じることが必要です。これにより、納品書データを安全に管理し、情報漏えいやハッキングのリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
注意点4. 運用マニュアルを用意する
運用マニュアルを作成し、社内で共有しましょう。納品書の電子化に伴って作業内容や手順が変わるため、従業員の中には電子機器の操作に不安を感じる人がいるかもしれません。急な変更は混乱を招くケースも考えられます。特に、帳票管理システムの導入に際し、丁寧な説明や研修を行うことが重要です。電子化の目的やメリットを周知することで、従業員の理解と協力を得やすくなるでしょう。マニュアル化にあたり、以下の事項を社内で統一するとよいでしょう。
・書類のサイズ:A4が好ましい・解像度:200dpi以上・ファイル名とフォルダ名・保存形式 |
納品書を電子データで運用する際に使われる方法
納品書を電子データで運用する方法は、WordやExcelでの運用と帳票管理システムでの運用が一般的です。それぞれの方法について説明します。
運用方法1:WordやExcelでの運用
帳票管理システムを使えない場合は、一般的にWordやExcelを使用します。業務ですでにOfficeを利用している場合、納品書の作成は基本的に無料でできますし、インターネット上で提供されているテンプレートを利用するのもよいでしょう。しかし、データを手動で入力する必要があるため、納品書の作成や管理に時間がかかります。このため、専用の管理システムを導入する場合に比べて、WordやExcelでの運用では業務の効率化やコスト削減の効果はあまり期待できないかもしれません。
運用方法2:帳票管理システムでの運用
請求書や納品書の作成と送付を自動化できる帳票管理システムを利用すると、取引先の情報をあらかじめ入力しておけば、条件に基づいて納品書を自動的に作成し、配信してくれます。これにより、手動で行うよりも大幅に業務の効率を向上させることができ、コスト削減も期待できるでしょう。具体的には、記入漏れや誤入力、誤配送といったミスを防ぐことができ、トラブルの発生を抑えられます。また、書類の改ざん防止やセキュリティ対策も強化しやすく、情報の安全性を高めることができるのもメリットです。
経理業務の効率化なら「INVOY」
納品書や領収書、請求書などをシステムで発行する企業が増えている一方で、依然としてExcelなどで発行している企業も多く存在します。弊社のサービス「INVOY」は、これらの書類を発行・管理できる機能を備えており、ほとんどの機能を無料で利用できます。そのため、これから本格的に電子化を進めたい企業におすすめです。事務作業を効率化したいとお考えの方は、ぜひこの機会に「INVOY」の利用をご検討ください。
まとめ
納品書を電子化することで、紙の納品書を印刷・郵送する手間や費用を省くことができ、納品書を即座に取引先に届けられるため、業務のスピードが向上します。しかし、電子化する際にはいくつかの注意点があります。特に、電子帳簿保存法の基準に従って実施することが重要です。この法律の基準を満たすことで、法的なトラブルを避けることができます。リモートワークが増えている現代において、納品書の電子化は非常に重要なステップです。電子帳簿保存法が改正された今こそ電子化を進める絶好の機会です。電子化を進めて、業務の効率化を図りましょう。
中小企業必見!資金繰り改善の具体策【2024年最新版】
中小企業の経営者の皆さま、資金繰りにお悩みではありませんか?2024年の経済環境は依然として厳しく、…