資金繰りが厳しいと企業の運営に支障をきたすため、経営者は常に資金繰りに注意を払う必要があります。資金繰りの改善は、企業の安定した経営にとって欠かせない要素です。
この記事では、資金繰り改善の基本、資金繰りを効率的に改善するための10の方法についてくわしく解説し、資金繰りの改善事例も紹介しています。経営者や財務担当者に役立つ実用的な情報ばかりです。企業の成長と持続的な発展のためにぜひご覧ください。
目次
資金繰りとは
資金繰りとは、仕入れや売上などの取引に伴う資金の流れによって生じる資金の収支の調整を意味します。
例えば、商品を仕入れた際には、その仕入れの時期と実際に資金が支払われる時期(仕入債務支払サイト)にズレが生じます。同様に、商品を販売した際には売上が発生する時期と実際にその売上から資金を回収する時期(売掛債権回収サイト)にもズレが発生します。
具体例として、以下の場合を考えてみましょう。
例:80万円の商品を仕入れ、同時に80万円の売上があったときの資金繰りへの影響
1.仕入債務支払サイト:60日、売掛債権回収サイト:90日
この場合、仕入債務支払いに80万円の支出が早く発生し、売掛債権回収が遅れるため、30日間にわたり80万円の資金不足が生じます。
企業はこの間の資金不足を補うために、資金を適切に管理することが必要です。
2.仕入債務支払サイト:90日、売掛債権回収サイト:60日
この場合、仕入債務支払いが売掛債権回収よりも遅れるため、30日間にわたって80万円の資金余剰が生じます。企業はこの期間に余剰資金の運用計画を立て、効果的に活用することができます。
これらの例からわかるように、商品売買におけるズレが企業の資金繰りに与える影響は大きく、資金の適切な管理が重要であることが分かります。
資金繰り改善の基本
資金繰りの悪化には、毎月の収益と支出のバランスが取れていないことや、過剰な在庫を抱えていること、または必要以上に経費を使っていることなど、さまざまな要因が影響します。これらの要素を一つひとつ徹底的に管理し、資金繰りが改善されれば、企業の経営を安定させることができます。
資金繰りが健全であると判断するためには、少なくとも3カ月先までの支払いが見込める余裕があることが重要です。ただし、資金繰りの悪化を防ぐためには、定期的に資金繰り対策に取り組むことが不可欠です。
当面の資金不足をカバーする
資金繰り改善の第1のステップは、3〜6カ月先までに予想される資金不足に対処することです。この場合、資金繰り表などで見積もった資金不足額を、その原因にかかわらず補うことが重要です。すでに資金不足が見込まれているため、その不足額を補えなければ手形の不渡りや倒産といった深刻な事態に陥る可能性があります。
そのため、多くの経営者は「資金繰り=金融機関からの資金調達」と考えがちで、借入を優先することが少なくありません。金融機関などから資金を借り入れることで、手元資金を増やし、当面の資金繰りを一時的に安定させることができます。しかし、それだけでは資金繰りの悪化という結果への対処に過ぎず、根本的な解決にはなりません。
経営全般を見直し資金繰りに強い企業体質を作る
第2のステップは、資金繰りに強い企業体質を作ることです。資金繰り表を単に目先の資金不足を補うためのものではなく、資金繰りの悪化原因を特定し、企業の資金繰りを強化するためのツールとして活用するという考え方です。
資金繰りの改善策は、経営全般を見直すことで実行できるものが多いため、経理や財務の担当者に加え、経営者や営業担当者も含めた全社的な取り組みが求められます。資金繰りに強い会社を目指すためには、まず資金繰りが悪化している原因を明らかにし、その改善方法を考える必要があります。具体的には、以下の3つの経営課題に取り組むことが重要です。
1.赤字経営からの脱却
2.過剰な在庫の削減
3.得意先の与信管理
これらの対策を講じることで、資金繰りの改善が進み、より安定した経営が可能になります。
資金繰りを改善する10の方法
キャッシュフローを改善するための10の方法を紹介します。
1. 資金繰り表を作成し支出を把握する
2. 販売費・管理費を削減する
3. 仕入先を見直す
4. 不要在庫を処分する
5. 入金と支払のタイミングを調整する
6. 不要な資産を処分する
7. 仮決算と中間申告を実施する
8. 資金調達を行う
9. 売掛債権を早期に回収する
10. 少人数私募債を発行する
それぞれの方法について詳しく説明します。
関連リンク:
事業運営に大事なキャッシュフロー改善方法を紹介!悪化する要因や企業事例も
1. 資金繰り表を作成し支出を把握する
資金繰り表は、企業や個人の一定期間の収入(入金)と支出(出金)を見える化した表で、毎月作成するのが理想的です。資金繰り表には、実績資金繰り表のほかに、予定資金繰り表があります。前者は過去の実績をもとに作成するもので、どの支出を削減することができるかなど、資金繰りが悪化する原因を特定するのに役立ちます。後者は将来の資金繰りを予測し、資金不足を未然に防ぐために有効です。両方の表を作ることで、過去のデータと未来の予測から資金繰りを改善する方法を考えることができます。
また、資金繰り表に加え、一定期間の利益を示す「損益計算書(P/L)」や、資産・負債を把握する「貸借対照表(B/S)」についても理解しておくと役立ちます。
関連リンク:資金繰り表って?作り方、活用方法を解説
2. 販売費・管理費を削減する
資金繰り表を確認し、削減できる経費を検討することが重要です。
資金繰りを改善するためには、まず販売費と管理費の削減を考えるとよいでしょう。
- 販売費(広告費、発送費、配達費、保管費など)で削減できる部分がないか
- 一般管理費(人件費、福利厚生費、交際費、水道光熱費など)で抑えられる部分がないか
販売費を削減すると、その分営業利益が増えるため、無駄な費用を減らすようにしましょう。
管理費は、販売活動には直接関係しない費用で、固定費が多いのが特徴です。管理費をうまく抑えることで、利益が増える可能性があります。
つまり、販売費と管理費の両方を見直し、コストを削減することが資金繰りの改善につながります。
3. 仕入先を見直す
資金繰りの改善には、仕入先を見直すことも重要です。
以下の方法が考えられます。
- より安価な商品や原材料を調達できる仕入れ先に切り替える
- 仕入れ先を変更できない場合は、販売コストを上げる
- 利益率の高い製品の販売に注力する
- 利益率が高い商品を多く販売し、全体の収益を改善する
仕入先を見直すことは容易なことではありませんが、最初にこの会社以外で仕入れや外注ができないか、他にコストを削減できる方法はないかを考えてみましょう。仕入先との関係性を考慮しながら、単価の見直しを行うことも重要です。固定費よりも原材料費や仕入原価などの変動費の見直しを検討してみましょう。
4. 不要在庫を処分する
どれだけ優れたシステムや手法を導入しても、不良在庫は避けられません。緻密な生産、販売、在庫計画を立てても、計画通りに進まないことがほとんどです。このズレが時間とともに蓄積し、動きが鈍い在庫、つまり不良在庫が生まれます。放置すると、不良在庫の割合が増加し、さまざまな問題が発生します。
例えば、既に支払いが済み、販売も完了した在庫は資金繰りに影響しませんが、倉庫に残る不良在庫は資金繰りを悪化させます。また、在庫の保管スペースや維持費がかかるため、不良在庫を抱えていると、よいことは一つもありません。
この問題を解決するためには、徹底した在庫管理が必要です。具体的には、以下の方法をおすすめします。
- 単品管理(商品ごとの在庫数管理)の徹底:売れない製品や商品(死に筋)の基準を設定し、短期間で排除する
- 長期滞留在庫の処分:年度末に不良在庫を損失計上して処分する。
このような対策を講じることで、不良在庫の問題を効果的に解決し、資金繰りを改善することができます。
5. 入金と支払のタイミングを調整する
資金繰りを改善するには、入金と支払のタイミングを調整することも重要です。
具体的な方法としては、以下のようなものがあります。
- 仕入れ先への支払い日までに売掛債権回収できる仕組みを整える
- 支払期限を伸ばせないかを取引先に交渉する
- 法人向けクレジットカードを活用する
- 決済サービスの入金サイクルを再度確認する
- 入金サイクルの短いサービスに移行する
売掛債権を回収する仕組みが整っていれば、手元資金が不足するリスクは低くなります。また、クレジットカードを利用することで経費の支払いを翌月に延期できるため、その間に売掛債権を回収できるよう準備しておくとよいでしょう。
なお、サービスごとに入金サイクルは異なります。たとえば、2カ月に1回売掛債権を入金するサービスもあれば、最短で翌営業日に売掛債権を振り込むサービスもあります。そのため、資金繰りを改善するには、入金サイクルが短いサービスへの切り替えを検討するのもよいでしょう。
6. 不要な資産を処分する
資金繰りを改善する方法の一つとして、経済的価値のある資産を売却して資金を調達することも考えられます。資産には売却できるもの・売却できないものがありますが、以下は売却可能な資産の例です。
売掛金
商品
原材料
有価証券
土地建物
機械
備品
車両
投資有価証券 など
売掛金はファクタリングを利用するのがよいでしょう。ファクタリングとは「売掛債権を買い取ってもらう」という資金調達方法の一つです。売掛債権をファクタリング会社に売却し、資金を得る仕組みです。
商品や設備を保有するには、保管スペースが必要で、管理や維持に人手もかかるため、それだけでコストが発生します。「売却損が出るから売りたくない」と考える方もいますが、売却損を当期の利益と相殺することで、税金を減らすことができる場合もあります。
7. 仮決算と中間申告を実施する
法人税の負担を減らす方法の一つに「仮決算による中間申告」があります。法人は、事業年度の途中、つまり事業年度開始から6カ月後に税額を申告し、納付する必要があります。具体的には、事業年度が始まってから6カ月後の日から2カ月以内に納付しなければなりません。「予定申告」では、前年度の税額を基準にして計算しますが、業績が前年度より悪い場合には、実際より多くの税額を支払うこともあります。
一方、「仮決算による中間申告」では、当年度の事業開始から6カ月間の実際の利益をもとに税額を計算します。これにより、必要以上に多くの税金を支払わずに済むことができます。ただし、仮決算で計算した税額が予定申告での税額を上回る場合、仮決算を使った中間申告はできません。
8. 資金調達を行う
資金繰りを改善するには、資金調達を行うのも有効です。資金の調達方法には以下の方法があります。
- 金融機関からの借入
- 公的融資
- ビジネスローン
- 補助金・助成金の利用
- クラウドファンディング
- 個人投資家からの出資
- 中小企業ファンドからの投資
資金を調達する方法には、手形割引や私募債など、他にもいろいろな選択肢があります。そのため、まずは金融機関に相談してみましょう。調達したい金額や自社の経営状況、担保があるかどうかなどを担当者に伝えれば、自社にとって適した資金調達方法を提案してもらうことができます。
前述した1~7の資金繰り改善方法を実施しても資金繰りが苦しい場合は、資金調達方法も視野に入れ検討してみるとよいでしょう。
9. 売掛債権を早期に回収する
売掛債権が発生してから実際にお金を回収するまでの期間が長いほど、企業の資金繰りが悪化しやすい傾向にあります。そのため、売掛債権を早めに回収することが重要です。売掛債権の早期回収を実現するためには、回収基準が明確に定められていることが大前提です。もし社内で回収に関するルールが曖昧な場合や、ルールがあっても徹底されていない場合は、速やかに改善を図る必要があります。
また、貸し倒れのリスクを減らすためには、販売先の情報収集を徹底することが重要です。その情報をもとに販売先をランク付けし、売掛金の最大限度額を設定する必要があります。また、必要に応じて売掛債権の回収条件を調整することも大切です。
さらに、販売先の経営状況が懸念される情報を入手した場合、売掛限度額内であっても、販売を停止し、ときには商品を回収する必要があります。
以下が売掛債権早期回収の具体例です。
- 手形割引を活用する
- 長期の売掛債権を売却する
- 現金決済(代金引換や銀行振り込みなど)へ条件を変更する
10. 少人数私募債を発行する
少人数私募債の発行により、資金不足を解消できます。少人数私募債とは、少人数の投資家に向けて発行される社債で、特定の条件を満たすことで発行手続きが簡単になります。中小企業にとっては、銀行からの融資や通常の社債発行が難しいと感じることが多いため、関心を集めている社債の一種です。
少人数私募債を発行するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 株式会社である
- 発行人数が50人未満
- 社債の総額を社債の最低金額で割った数値が50未満
- 縁故関係者に直接募集
少人数私募債の主なメリットとして、次の点が挙げられます。
- 担保や保証人が不要のため利用しやすい
- 金利や償還期間を自社で決定できる
- 会社法の規定に従って発行されるため、取引のルールが明確である
資金繰りの改善事例
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まとめ
資金繰りは、企業の安定経営に欠かせない重要な要素です。資金繰りが悪化する原因には、収入と支出のバランスが崩れていること、過剰在庫、不要な経費が多いことなど、さまざまな要因があります。これらの要因を一つずつしっかり管理し、資金繰りを改善することで、企業の経営を安定させることができます。また、資金を効率的に運用することで、予想外のリスクへの対応も可能です。企業の持続的な成長のために、今回紹介した資金繰り改善の方法をぜひ参考にしてください。
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「請求書が2枚にわたる場合、どうやって書けばいいのだろう…」「ページが分かれると見栄えが悪くなるので…