
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類の電子保存を認める法律で、企業の経理業務のデジタル化を推進します。この法律は、従来の紙ベースの書類保存から電子データ保存へと移行することで、業務効率の向上とコスト削減を目指しています。
特に請求書発行側にとって、この法律への対応は喫緊の課題です。2024年1月からの電子取引データ保存の完全義務化は、多くの企業や個人事業主にとって、紙ベースの業務からの大きな転換を意味します。この変更点を正確に理解し、適切に対応することは、法令遵守だけでなく、業務効率化、コスト削減、ひいては企業の競争力強化にも繋がる重要な経営課題です。
本記事では、電子帳簿保存法における請求書発行側の具体的な義務、満たすべき要件、インボイス制度との関連性、そして対応を支援するシステム導入のポイントまでを網羅的に解説します。
目次
2024年1月からの義務化で請求書発行側は何が変わったのか
電子取引データ保存の完全義務化とは
2022年1月の電子帳簿保存法改正により、電子的に授受した取引情報、例えば請求書などは、電子データのまま保存することが義務付けられました。この改正には2年間の猶予期間が設けられていましたが、2024年1月1日以降、この猶予期間は終了し、電子取引で授受した請求書は原則として電子データのまま保存することが完全に義務化されています。
この義務化の対象となるのは、メールに添付されたPDF請求書、クラウドサービスを介して送受信された請求書、ウェブサイトからダウンロードした取引データなど、電子的な手段でやり取りされたあらゆる請求書です。
以前はこれらの電子データを紙に印刷して保存することも許容されていましたが、2024年以降は、電子取引における請求書の保存方法において、電子データでの保管が唯一の選択肢となりました。
電子取引を行う全ての事業者が、遅滞なく電子保存体制を確立する必要があるという、法律の厳格な方針を示しています。この2024年1月からの電子保存義務化は、単なる法律の改正に留まらず、企業のデジタル化への移行を加速させる強力な推進力となっています。
猶予期間が終了したことで、企業はもはや「準備期間」ではなく「強制的な転換点」に直面しており、この変化への対応の遅れは、直接的な法的リスクや罰則に繋がる可能性があります。したがって、全ての事業者は、この法的要件を遵守するために、電子取引データの保存方法を速やかに見直し、必要な対策を講じることが求められます。
猶予期間の終了が意味するもの
改正電子帳簿保存法は2022年1月に施行されましたが、多くの企業がシステム改修や社内体制の整備に時間を要すると見込まれたため、2023年12月31日まで2年間の猶予期間が設けられました。
猶予期間中、電子取引データは、税務調査時に提示・提出できるよう準備しておけば、紙での保存も例外的に認められていました。しかし、2024年1月以降は、「やむを得ない事情」があったとしても、原則として電子データのまま保存する義務が適用されます。
この猶予期間が設けられた背景には、多くの企業が経費処理を紙ベースで行っており、電子化へのシステム改修が間に合わないという意見が国税庁に報告されたという経緯があります。
この事実は、デジタル化への移行が単なるシステム導入だけでなく、長年慣れ親しんだ業務プロセスや社内文化の変革を伴う、複雑な課題であることを浮き彫りにします。経理部門が直面する課題としては、「紙ベースで管理しているアナログ業務が多い」ことや「業務が属人化している」ことなどが挙げられます。
これらの課題は、デジタル化が技術的な側面だけでなく、組織的な変革を伴う複雑な取り組みであることを示しており、猶予期間は、企業がこれらの組織的・文化的な障壁を乗り越え、デジタル化への準備を進めるための時間であったと言えます。猶予期間の終了は、準備が整っていようといまいと、全ての事業者が電子保存の義務を果たすべき段階に入ったことを意味します。
請求書発行側が満たすべき電子帳簿保存法の保存要件
電子帳簿保存法では、電子データを保存する際に「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。これらの要件は、請求書の発行側が控えを電子データで保存する場合にも適用されます。
「真実性の確保」の具体的な対応策
「真実性の確保」とは、保存された電子データが改ざんされていないことを証明するための要件です。以下のいずれかの措置を講じることで、この要件を満たすことができます。
タイムスタンプの付与
取引情報の授受後、速やかに(最長約2ヶ月と概ね7営業日以内)タイムスタンプを付与して保存する方法です。タイムスタンプは、その時刻にその電子データが存在し、それ以降改ざんされていないことを証明するものです。
訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができないシステムの利用
電子データの訂正や削除の事実や内容を確認できるシステム、またはそもそも訂正や削除が行えないシステムを利用する方法です。これにより、データの完全性が担保されます。
事務処理規程の策定と運用
正当な理由のない訂正や削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿って運用する方法です。これは、組織的な管理体制を構築することで、データの改ざんリスクを低減するアプローチです。
電子帳簿保存法の要件は、当初の厳格さから緩和され、より実務に即した柔軟な対応が許容されるようになりました。特にタイムスタンプの付与が必須要件ではなくなり、代替措置が認められるようになったことは、企業が自社の既存システムや運用に合わせてコンプライアンスを実現できる道を開きました。
特定の技術に縛られることなく、「真実性の確保」という目的を達成するための複数の選択肢が与えられ、企業の多様な実情に適応しようとする法律の姿勢が示されています。また、請求書をPDF形式などの編集できない形式で発行することは、単に改ざんを防止するだけでなく、「真実性の確保」という法的要件を技術的に満たすための実用的な手段となります。
紙の請求書をスキャナ保存する場合も、原本と同じ画質・色彩・サイズで読み取ることや、タイムスタンプの付与、訂正や削除の確認といった具体的な要件が定められています。これは単にスキャンするだけでなく、デジタルデータの品質と信頼性をいかに紙の原本と同等に担保するかという、技術的・実務的な課題への対応を求めていることを示しています。
「可視性の確保」の具体的な対応策
「可視性の確保」とは、保存された電子データが必要な時に、誰でも確認できる状態を保つための要件です。以下の措置が求められます。
見読可能装置の備え付け
保存場所付近にパソコン、ディスプレイ、プリンターなどの見読可能装置と、それらの操作マニュアルを備え付け、整然かつ明瞭な状態で速やかに出力できるようにする必要があります。
システム概要書の備え付け
電子計算処理システムの概要書を備え付ける必要があります。これは、システムがどのようにデータを処理・保存しているかを理解するためのものです。
検索機能の確保
保存された電子データを効率的に探せるように、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つの項目で検索できる状態にする必要があります。さらに、日付や金額について範囲指定して検索できる機能や、2つ以上の任意の項目を組み合わせて検索できる機能も求められます。
ただし、税務調査などの際に電子データをダウンロードできる場合は、範囲指定や複数項目組み合わせの検索機能は不要とされています。また、基準期間の売上高が5,000万円以下の小規模事業者で、ダウンロードの求めに応じられる場合は、検索機能の全てが不要となります。
請求書の控えの保存期間は原則7年間ですが、その起算日は「その事業年度の確定申告期限の翌日」であり、請求書を交付した日からではありません。この起算日の違いは、書類の廃棄時期に直接影響し、誤った理解は意図せず法令違反を招く可能性があります。細部の規定まで正確に理解し、適切に管理することが、コンプライアンスを確実にする上で極めて重要です。
個人事業主も例外ではない 副業も対象に
電子帳簿保存法は、法人だけでなく、個人事業主やフリーランスも対象となります。これは、デジタル化の波がビジネスのあらゆる層に及んでいることを示し、規模の大小に関わらず全ての事業者が対応を迫られている現状を浮き彫りにします。
特に注意が必要なのは、会社員で副業を行っている場合です。前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える副業を行っている会社員も、電子取引のデータ保存の対象となるため、電子的に授受した請求書や領収書などの電子取引データを適切に保存する必要があります。
この普遍的な適用範囲は、電子帳簿保存法が特定の企業規模に限定されることなく、広範な経済活動を行う主体に適用されることを意味しており、全ての事業者がこの変化に適応する必要があることを示唆しています。
インボイス制度との関連性と適格請求書の控えの保存義務
2023年10月1日に導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除を受けるために、適格請求書(インボイス)の保存を義務付けています。この制度は、電子帳簿保存法とは異なる目的を持つ法律ですが、請求書の「控え」の保存義務という点で密接に連携しています。
適格請求書発行事業者には、発行した適格請求書の控えを作成し、保存する義務が生じます。これは、紙で発行した場合でも、電子データで発行した場合でも同様です。適格請求書の控えの保存期間は、法人の場合、確定申告の提出期限の翌日から7年間です。個人事業主の場合も、消費税課税事業者は7年間となります。
インボイス制度と電子帳簿保存法は、それぞれ異なる目的を持つものの、請求書関連の業務においては相互に補完し合う関係にあります。例えば、電子データで授受した適格請求書は、電子取引データとして電子帳簿保存法の要件に従って保存する必要があります。
両制度への対応を同時に進めることで、システム導入や業務フローの見直しを効率的に行い、相乗効果でバックオフィス業務全体のデジタル変革(DX)を加速させることが可能です。これにより、企業は法令遵守を単なる負担ではなく、経理業務全体の効率化と高度化を推進する好機と捉えることができます。
請求書電子化のメリットと発行側の課題
コスト削減と業務効率化の具体的な効果
請求書の発行を電子化することは、単なる法令遵守に留まらず、企業に多大なメリットをもたらします。
用紙代・印刷代・郵送費の削減
紙の請求書発行に伴う用紙代、印刷代、封筒代、そして郵送費が不要となり、大幅なコスト削減に繋がります。特に、近年の郵便料金の値上げは、電子化を強く後押しする要因となっています。これらの削減は、単なる経費節減に留まらず、浮いたリソースを他の事業投資に回すことで企業の競争力を高めることにも繋がります。
保管スペースの有効活用
紙の請求書控えを保管するための物理的なスペースが不要となり、限られたオフィス空間を有効活用できます。クラウドサービスを利用すれば、電子データを保存するためのサーバーやハードディスクの保管場所も削減可能です。物理的な保管場所の制約がなくなることは、災害時でもデータにアクセスできるため、事業継続計画(BCP)の観点からも企業の回復力を高める重要な要素となります。
人件費・作業工数の削減
請求書の印刷、封入、郵送、ファイリングといった手作業が不要となり、経理担当者の作業負担が大幅に軽減されます。これにより、人件費の抑制や、より戦略的な業務へのリソース配分が可能になります。
承認フローの簡略化とミスの削減
電子請求書発行システムを導入することで、手作業による転記ミスを防ぎ、承認フローを簡略化できます。電子データでは押印が不要になることや、クラウド上で進捗を可視化できることもメリットです。これらの変化は、経理業務の透明性と正確性を高め、内部統制やガバナンスの強化にも寄与します。
受領側の負担軽減
発行側が電子データで請求書を交付することで、受領側は紙の請求書をスキャンして保存する手間が省け、業務効率化に貢献できます。これは、取引先との関係性においても良好な影響を与える可能性があります。
電子化は、単なるコスト削減や法令遵守に留まらず、企業の内部統制強化、ガバナンス向上、そしてリモートワークなどの柔軟な働き方への対応といった、より戦略的なメリットをもたらします。
経理部門の課題として「業務が属人化している」ことが挙げられる中で、システム導入が「内部統制の強化を実現」した事例があることからも、電子化は単なる効率化を超え、企業の経営基盤を強化し、現代の働き方に対応するためのデジタル変革(DX)推進の一環として位置づけられるべきです。
取引先との合意形成と対応の必要性
請求書を電子化する際に、発行側が直面する重要な課題の一つは、取引先との合意形成です。法的には、郵送発行した紙の請求書も、PDF化して電子発行した請求書も、有効性に違いはありません。
しかし、日本の商習慣では、請求書のやり取りにおいて押印が一般的であるため、PDFで請求書を発行する場合でも、社印(角印)があった方が取引先の安心に繋がる可能性があります。電子請求書への押印は必ずしも電子印鑑を採用する必要はありませんが、取引先の慣習を考慮することが重要です。
電子取引を始める場合は、事前に全ての取引先に対して請求書をPDF化する旨を通知し、対応方法をすり合わせる必要があります。移行の2ヶ月から3ヶ月前には連絡を取り、合意を得ることが望ましいとされています。
もし取引先がPDFでの受領に難色を示したり、電子データでの対応が難しい場合は、当該企業に対しては紙の請求書の郵送を継続する必要があるため注意が必要です。これは、法令遵守とビジネス関係性のバランスを取ることの重要性を示しています。
発行側は、自社の効率化を進めつつも、取引先の状況やニーズを考慮した顧客中心のアプローチを取る必要があります。一部の取引先が紙での対応を求める場合、発行側は電子と紙の両方の管理体制を維持する「デュアル管理」を一時的に行う必要が生じる可能性があり、これは電子化のメリットを享受する上での課題となり得ます。
過去の紙の請求書の扱いはどうなるか
電子帳簿保存法の改正と2024年1月からの電子取引データ保存の義務化は、主に「電子的に授受された取引情報」に適用されます。そのため、過去に紙で発行・受領した請求書については、改めて電子データに変換して保存する義務はありません。
これらの紙の書類は、引き続き紙のまま保存することが可能です。重要なのは、「電子取引で授受した請求書は電子データで保存が義務化された」のであり、紙の請求書が全面的に廃止されたわけではないという点です。
現在も、紙で作成し郵送や手渡しでやり取りされる請求書は存在し、これらは引き続き紙のまま保存しても問題ありません。この点は、法令の適用範囲を明確に理解する上で極めて重要です。
義務化の対象は「電子取引」に限定されており、過去の紙の書類や、今後も紙でやり取りされる書類の扱いは、従来の保存方法が継続されます。この区別を明確にすることで、企業は不要な電子化作業を避け、本当に対応すべき領域にリソースを集中させることができます。
法令遵守を確実にするシステム導入の重要性
システム導入が解決する課題
経理部門は、紙ベースのアナログ業務、業務の属人化、法改正への対応による業務効率低下、そしてシステム導入・運用コストの増加といった様々な課題に直面しています。特に、従来のERP(統合基幹業務システム)が印刷専用で電子化に対応していない場合、請求書をわざわざ紙に印刷しなければならず、テレワークの普及やペーパーレス化が進む現代において、生産性向上に繋がらないという問題があります。
また、取引先ごとに請求書を分割して出力できない、運用に沿ったメール配信ができないといった課題も、手作業による非効率や取引先の利便性低下を招きます。電子帳簿保存法に対応した請求書発行システムを導入することは、これらの課題を根本的に解決する鍵となります。システムは、請求書の作成から送付、保存までを自動化し、手作業による転記ミスや誤送付のリスクを大幅に削減します。
さらに、法令の要件(真実性・可視性)を満たす形でデータを自動保存するため、担当者が個別に詳細な要件を確認し、対応する負担を軽減できます。これにより、経理業務の効率化はもちろん、内部統制の強化や、より戦略的な業務への集中が可能になります。
請求書発行システム選びのポイント
電子帳簿保存法に対応した請求書発行システムを選ぶ際には、自社のニーズと法令要件を考慮した多角的な視点が必要です。システムは大きく分けて、インターネット経由で利用するクラウド型、自社サーバーに構築するオンプレミス型、PCにインストールするパッケージ型があります。中小企業には導入費用が抑えられ、法改正対応が自動で行われるクラウド型が適している場合が多いです。システム選定における主な比較ポイントは以下の通りです。
企業規模と料金体系
請求書の発行・受領枚数に応じた料金体系や、自社の規模に合ったプランを選択することが重要です。不必要な高機能システムはコスト増に繋がります。
機能
請求書の作成、取り込み、メール送付・郵便代行、書類保管、システム連携、入金管理、自動催促、売上管理・分析など、自社がどこまで管理したいかを考慮し、必要な機能に優先順位をつけましょう。
法令対応
電子帳簿保存法やインボイス制度の最新の要件に確実に対応しているかを確認することが不可欠です。法令に準拠したシステムは、経理上のリスクを回避し、担当者の負担を軽減します。
連携サービス
既存の販売管理システムや会計ソフトとの連携機能は、データ入力の自動化や転記ミスの削減に大きく貢献します。
操作性
経理担当者が使いやすい直感的なインターフェースであるかを確認しましょう。操作しにくいシステムは形骸化し、導入コストが無駄になる恐れがあります。
サポート体制
導入時だけでなく、運用開始後のサポート内容も確認が必要です。請求書業務は企業の資金フローに直結するため、手厚いサポートは安心に繋がります。
セキュリティ
請求書には機密情報が含まれるため、データ暗号化、二段階認証、不正アクセス検知などの強固なセキュリティ機能があるかを確認しましょう。
郵送・FAX対応
取引先が電子化に対応できない場合に備え、郵送やFAXでの送付代行機能があるシステムは、デュアル管理の手間を軽減します。
デザインカスタマイズ
自社の請求書デザインをシステムで再現できるか、または取引先の多様なフォーマット要件に対応できる柔軟性があるかを確認することも重要です。システム導入は、単なる法令遵守のためのツール購入ではなく、長期的な視点での業務効率化とコスト削減、ひいては企業の競争力強化に向けた戦略的な投資と捉えるべきです。
システムの提供元が信頼できる企業であるか、導入実績が豊富にあるか、上場企業であるかといった点も、システムの信頼性を測る上で重要な指標となります。
導入における注意点と成功の鍵
請求書発行システムの導入を成功させるためには、まず自社が抱える課題や導入目的を明確にすることが不可欠です。どの業務フローを改善したいのか、どのような機能を優先するのかを具体的に設定することで、自社に最適なシステムを絞り込むことができます。
また、既存の業務フローとシステムの相性を事前に確認することも重要です。業務フローに合わないシステムは、かえって現場を混乱させ、業務効率を低下させる恐れがあります。無料トライアル期間を利用して、実際の利用者からフィードバックを収集し、現場の意見を反映させることが、システムの定着と効果的な活用に繋がります。
システム選定は、単なるツールの導入に留まらず、経理業務全体のデジタル変革(DX)戦略の一部として捉えるべきです。システムを活用することで、経理業務の効率化だけでなく、内部統制の強化や経営判断に必要なデータの可視化も実現できます。
法令違反のリスクと罰則
電子帳簿保存法の要件を満たさない場合、企業や個人事業主は様々な罰則や不利益を被る可能性があります。
青色申告承認の取り消し
電子帳簿保存法の要件に従って電子取引データを保存しない場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります。青色申告は、65万円の特別控除、赤字の繰越、30万円未満の固定資産の即時償却など、税制上の優遇措置を多く受けられる制度です。承認が取り消されると、これらの優遇措置が適用されなくなり、結果として納税額が増加するリスクがあります。
ただし、軽微な不備であれば直ちに青色申告が取り消されるわけではありません。取引の事実が他の書類などから確認できる場合は、すぐに取り消しには繋がりません。しかし、税務調査の際に帳簿書類の提示を拒否するなど、法令遵守の姿勢が見られない場合は、承認取り消しの可能性が高まります。
重加算税・追徴課税
電子帳簿保存法に違反し、特にデータの改ざんや隠蔽などが行われたと判断された場合、重加算税や追徴課税が課される可能性があります。隠蔽または仮装された事実に関する申告漏れなどがあった場合、その事実に関する重加算税が10%加重される措置が整備されています。これは、単に税額が追加されるだけでなく、通常の過少申告加算税よりも重いペナルティが課されることを意味します。
過料(会社法違反)
電子帳簿保存法は他の国税法と関連しており、国税関係帳簿書類の保存が適切に行われなかった場合、会社法に定められた罰則が適用される可能性もあります。会社法第976条では、帳簿の紙書類や電磁的記録に対して、虚偽や隠蔽のない申告を必要としています。
この要件を満たしていない場合、100万円以下の過料が科されることがあります。これらの罰則は、単に金銭的な負担に留まらず、企業の社会的信用や事業継続にも影響を及ぼす可能性があります。法令違反は、企業や個人事業主にとって、財務的な損失だけでなく、ビジネス運営や顧客からの信頼を損なうという、より深刻な結果を招きかねません。
まとめ
電子帳簿保存法は、現代のビジネス環境において、請求書発行側にとって避けては通れない重要な法令です。特に2024年1月からの電子取引データ保存の完全義務化は、すべての事業者にとって喫緊の課題であり、適切な対応が求められています。
この法改正に対応するためには、保存する電子データが「真実性の確保」と「可視性の確保」という二つの要件を満たしていることが必須です。タイムスタンプの付与、訂正・削除履歴が残るシステムの利用、または事務処理規程の策定・運用といった具体的な対応策を講じる必要があります。
また、インボイス制度と電子帳簿保存法は請求書の控えの保存義務という点で密接に連携しており、両制度への統合的な対応が業務効率化の鍵となります。請求書の電子化は、用紙代や郵送費、保管スペース、人件費の削減といった直接的なコストメリットだけでなく、承認フローの簡略化、ミスの削減、内部統制の強化、リモートワークへの対応といった、より広範な業務効率化と戦略的なメリットをもたらします。
一方で、取引先との合意形成や、紙と電子の併用期間における管理など、導入に伴う課題も存在します。これらの課題を解決し、法令遵守を確実にするためには、電子帳簿保存法に対応した請求書発行システムの導入が最も有効な手段です。
システムを選ぶ際には、自社の規模や業務フローに合った機能、法令対応状況、既存システムとの連携性、操作性、サポート体制、そしてセキュリティ機能を総合的に評価することが重要です。法令違反は、青色申告承認の取り消し、重加算税、過料といった深刻な罰則に繋がる可能性があります。
これらのリスクを回避し、持続可能な事業運営を実現するためには、電子帳簿保存法への対応を単なる義務としてではなく、経理業務のデジタル変革を推進し、企業の競争力を高める好機として捉え、積極的に取り組むことが求められます。
標準税率10%のみの適格請求書フォーマットと記載ルールを徹底…
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、多くの事業者にとって重要…