会計の基礎知識

ストックオプションの仕組み・メリット・税金面について解説

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ストックオプション

ストックオプションとは、株式会社の役員や従業員が、自社の株をあらかじめ決められた条件で取得できる権利を指します。会社・従業員の双方にメリットがあることから、上場企業やスタートアップ企業に広く取り入れられています。今回はストックオプションの仕組みやメリット、税金に関する制度などについてわかりやすく解説します。

ストックオプションの基本

ストックオプションとは、株式会社の取締役や従業員などが、決められた価額で自社株を取得できる権利です。日本語では「自社株購入権」と言います。

会社は取締役や従業員などに対して「権利行使価額(あらかじめ決められた金額)」で、自社の株式を購入できる権利を与えます。ストックオプションを得た取締役や従業員は、株価が上がったタイミングで権利を行使(時価で売却)します。権利行使価額と現在の株価の差額が利益として得られるという仕組みです。

「stock(株式) option(選択肢)」という言葉には、権利を行使するかどうかは各々の選択に任せられているという意味が込められています。

ストックオプション制度の仕組み

ストックオプション制度の仕組み

ストックオプションは「権利行使期間(権利を行使できる期間)」であれば、決められた価額で株式を購入できます。

例えば、2024年の時点で自社の1株あたりの価額が1,000円であり、権利行使期間が5年のストックオプションが付与されたと仮定して考えてみましょう。

その後、会社の業績は好調で、2027年には株価が1,500円まで上昇しました。権利行使期間の期間内なので、ストックオプションの権利を持つ従業員が権利を行使すれば、1株あたり1,000円で自社の株を購入できます。100株を購入・売却したとすると、それぞれの価額は以下のようになります。

・購入価額:1,000円×100株=10万円
・売却価額:1,500円×100株=15万円

このケースでは、購入価額と売却価額の差額である5万円を利益として受け取れます。

反対に、会社の業績が悪化してしまって、株価が上がらないうちに権利行使期間である5年が経過してしまったとしましょう。この場合でも、従業員などが実際に株を購入したわけではなく、単にストックオプションの権利を持っていたという状態であるため、権利を行使しなければ損をするわけではありません。

ストックオプションの3つのメリット

ストックオプションの3つのメリット

ストックオプションの主なメリットは以下の通りです。

・優秀な人材の確保
・従業員のモチベーション向上
・リスクのない報酬制度

次項からそれぞれのメリットについて詳しく解説します。

1.優秀な人材の確保

ストックオプションは会社の業績に応じて従業員などが受け取れる利益であるため、インセンティブ的な要素があります。従業員にとってメリットのある会社だと印象付けることで優秀な人材が確保できるかもしれません。また、入社後は「せっかくならストックオプションの権利を使いたい」「株価が上がるまで待たないともったいない」といった思いから、人材の維持に貢献する可能性もあります。

2.従業員のモチベーション向上

株価が上がる要因にはさまざまなものがありますが、会社の業績向上はその主な理由の1つです。取締役や従業員が仕事に打ち込み、業績が向上すれば、株価が上がってストックオプションで得られる利益が大きくなることに期待できます。そのため、取締役や従業員のモチベーションが向上しやすい点もメリットと言えるでしょう。

3.リスクのない報酬制度

通常の取引方法によって株を購入すると、購入後に株価が下がれば損失が生じます。しかし、ストックオプションは株を取得できる権利を指すため、権利を持っているだけでは実際に株を保有していることになりません。自社の株価が下がったとしても、ストックオプションの権利を行使しないという選択ができるため、従業員はリスクを負わずに利益を得られるメリットがあります。

ストックオプションの3つのデメリット

ストックオプションのデメリットについても見ていきましょう。

・株価下落の影響
・社内の分断
・離職のリスク

1.株価下落の影響

自社の株価が下落してしまえば、ストックオプションによる利益を期待していた従業員はモチベーションを失う可能性があります。

2.社内の分断

ストックオプションの制度を利用している従業員と、そうでない従業員がいる場合には、不和が生じることが考えられます。

3.離職のリスク

ストックオプションに期待して入社した従業員は、ストックオプションの権利を行使した後、利益を得られたことに満足し離職してしまう可能性があるでしょう。

ストックオプションの種類

ストックオプションは、税金などの条件によって以下のいずれかの種類に分類できます。

・通常型ストックオプション/税制適格ストックオプション
・株式報酬型ストックオプション/税制非適格ストックオプション
・有償ストックオプション

詳しい内容について見ていきましょう。

1.通常型ストックオプション/税制適格ストックオプション

通常型ストックオプションは、多くの会社に取り入れられているストックオプションです。権利行使価額は、権利を付与する時の株価よりも高く設定しなくてはいけないと定められています。

ストックオプションでは、権利行使価額と売却時の価額の差額が利益となりますが、利益は譲渡所得とみなされるため、所得税が課税されることになります。ただし、ストックオプション税制で定められた対象者や期間・価額などの要件を満たすことで、支払う税金を抑えられます。

通常型ストックオプションは、この制度の要件を満たしていることが多いため、税制適格ストックオプションと言われることもあります。

参照:ストックオプション税制

2.株式報酬型ストックオプション/税制非適格ストックオプション

株式報酬型ストックオプションは、権利行使価額を1円など安い価額に設定することにより、権利行使の際の株価をほぼそのまま利益として扱えるようにする方法です。退職金の代わりとして用いられることもあります。

こちらは、前項で解説したストックオプション税制の要件には該当しないため、税制非適格ストックオプションと呼ばれることもあります。

3.有償ストックオプション

有償ストックオプションとは、新株予約権(その会社の株の交付を受けられる権利)の一種です。従業員などが金銭を支払い、自社のストックオプションを購入します。支払う金額は、「発行価額 × 購入するストックオプションの数」で計算した額であるため、手元の資金に余裕がある人が利用できる方法です。

ストックオプションと他の制度との違い

ストックオプションと似た3つの制度について紹介します。

1.従業員持株会との違い

従業員持株会とは、加入した従業員の給与や賞与から天引きしたお金で、自社の株を購入する制度です。一度加入するとその後は自動で株を購入していくため、積立のような感覚で利用できます。

ストックオプションは、あくまで株を購入する権利であるため、実際に株を購入しているわけではありません。しかし、従業員持株会は加入した従業員が共同で株を購入し、拠出金に応じて分配して保有し、配当金を分配するという違いがあります。株を実際に保有するため、株価が下落した際に損をするリスクがあるという点も押さえておく必要があるでしょう。

2.新株予約権との違い

新株予約権とは、会社が発行する株を決められた価額や条件で取得できる権利のことです。新株予約権を持つ人が権利を行使すると、決められた金額(権利行使価額)で株を取得できます。

ストックオプションは新株予約権の一種と言えます。ストックオプションは、会社の取締役や従業員に対して与えられる権利を指しますが、新株予約権は一般の投資家にも与えられる権利であるという違いがあります。

3.譲渡制限付株式との違い

譲渡制限付株式とは、一定期間は譲渡ができないといった制限が設けられた株のことです。会社は規定の方法に従えば、役員や従業員に対して報酬として譲渡制限付株式を与えることができます。

こちらは、ストックオプションとは異なり、譲渡制限付株式は実際に株を付与する仕組みです。自分の業務に意欲的に取り組むことにより、会社の株価が上がれば、自身の報酬も増えるため、モチベーションの向上に繋がります。

特に、役員に譲渡制限付株式を付与する場合、就任期間内は株を譲渡できないことから「長期的に本腰を入れて経営に取り組もう」といった意欲を促すきっかけになります。

ストックオプションの導入手続き

ストックオプションを導入するための手続きについて、会社側・従業員側の2つに分けて紹介します。

会社側の手続き

ストックオプションを発行するためには、その権利を付与するための条件を記載した募集事項を、株主総会で決議します。募集事項の主な内容は以下の通りです。

・ストックオプションの内容
・発行するストックオプションの数
・金額(無償もしくは有償)、その旨の説明
・募集新株予約権の払込金額(有償の場合は算定方法)
・割当日

決議されたら、ストックオプションの希望者を募り、取締役会や株主総会で決議したのち、権利を付与する人が決まります。なお、ストックオプションの導入する際は会社法の決まりに沿う必要があるため、弁護士などの専門家に依頼して手続きを行います。

従業員側の手続き

ストックオプションの権利を持つ従業員が権利を行使する際は、権利行使価額を支払って株を取得します。具体的には、以下の流れで手続きを行います。

1.ストックオプション口座を開設する(税制適格ストックオプションの場合)
2.ストックオプション口座に行使価額を振り込み、株を購入する
3.信託銀行などを通じて、株が発行される
4.ストックオプション口座に株が入庫される
5.好きなタイミングで売却し、売却額が振り込まれる

ストックオプション導入時の留意点

ストックオプション導入時の留意点

ストックオプションはメリットも多い制度ですが、どのような点に気をつければいいのでしょうか。導入時の留意点について紹介します。

1.持分比率で考える

ストックオプションを導入する際は、投資家の利益に配慮する必要があります。「ストックオプションとして何株付与するか」ではなく、持分比率(会社が発行した全ての株に対して、ストックオプションの所有者が所有する割合)で考えます。

持分比率の数値に関して明確な基準があるわけではありませんが、ストックオプションの場合は持分比率を10%程度にするケースが多いでしょう。

仮に、ストックオプションの持分比率を10%超過する場合、既存の株主が持つ株の価値が希薄化されるリスクがあります。配当金が減少したり、それを嫌気して株価が下落したりすることに繋がる可能性があります。さらに、、株式上場する際の審査として、10%超のストックオプションの比率がある場合、審査基準に抵触する恐れがあります。。

2.付与する基準を決める

ストックオプションを付与する際の条件を決めて、それに基づいて運用する必要があります。「役職者に対して付与する」「規定の年数以上勤務した場合に付与する」など、具体的な条件を定めましょう。

権利を付与する条件を定めることにより、従業員が抱く不公平感を避ける効果があります。また、ストックオプションの権利を獲得するために意欲的に業務に取り組むなど、従業員のモチベーションを高める狙いもあります。

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まとめ

ストックオプションとは、会社の役員や従業員が自社の株を権利行使価額で購入できる制度です。従業員のモチベーションを高めたり、優秀な人材を確保・維持したりと、さまざまな点でメリットがあります。

ストックオプションは株式市場における現在の価額ではなく、あらかじめ決められた価額で購入できる点が特徴と言えます。通常の株の売買と異なり、購入側がリスクを負う必要はないため、従業員にとっても嬉しい制度と言えるでしょう。

この記事の投稿者:

nakashima

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