インボイス制度の基礎知識

媒介者交付特例とは?インボイス制度の趣旨・要件・実務対応と代理交付との違いを徹底解説

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媒介者交付特例

インボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始され、課税事業者は適格請求書(インボイス)の発行・保存が求められるようになりました。

特に、不動産業者や委託販売事業者など、売り手と買い手の間に仲介者(受託者)が入る取引では、「誰がインボイスを発行するのか」「どのように対応すべきか」に悩むケースも多いでしょう。

そうした三者間取引で活用できる制度が媒介者交付特例です。

本記事では、媒介者交付特例の制度趣旨や背景、法的根拠から、適用要件、実務上の対応方法、さらに類似の代理交付制度との違いまで詳しく解説します。

不動産管理会社や税理士の方、委託販売を行う事業者は、インボイス制度への対応策としてぜひ参考にしてください。

目次

媒介者交付特例とは何か(制度の趣旨・背景と法的根拠)

媒介者交付特例とは、商品やサービスの販売を他社に委託している場合に、受託者(委託を受けて販売等を行う仲介業者)が自社(受託者)の名義と適格請求書発行事業者の登録番号でインボイスを発行できる特例制度です。

これはインボイス制度の下で設けられた特別な措置であり、令和5年10月のインボイス制度開始に合わせて整備されました。

制度が設けられた背景と趣旨

インボイス制度では、原則として売り手が買い手に対して適格請求書を発行しなければなりません。

しかし、委託販売や代理販売など売り手と買い手の間に仲介者がいる取引では、実務上の煩雑さや混乱が生じる恐れがあります。例えば、以下のようなケースです。

アパレルメーカーや雑貨製造会社が自社商品を複数の小売店に委託して販売している場合(委託販売)

個人や中小事業者がECモール(Amazonや楽天市場など)の運営者に商品販売を委託し、サイト運営者が購入者に請求書を発行する場合

不動産オーナーが物件管理会社に家賃の集金・請求業務を委託し、管理会社が入居者に代わって請求書を発行する場合

従来、こうした取引では形式上の発行者と実質的な売上計上者が異なるため、帳簿や請求処理が複雑でした。

たとえば商法上の「問屋」(委託販売業者)のように、受託者が自己の名前で買主と契約を結び販売するケースでは、法的な売主は受託者に見えます。

しかし消費税法上は、実質的に代金を受け取る委託者こそが課税売上の主体となり、消費税の納税義務も委託者に発生します。

このような場合、本来であれば委託者が買い手にインボイスを発行すべきですが、実務では受託者が窓口となって販売・集金しているため、その都度委託者名義のインボイスを発行してもらうのは非効率です。

媒介者交付特例は、この問題を解決しインボイス発行事務の負担を軽減するために設けられました。

受託者が一括して自社名義でインボイスを発行できれば、複数の委託者ごとに異なる登録番号や書類を管理する手間が省け、ミスの防止にもつながります。経済界からの要望もあり、制度設計段階で盛り込まれた経緯があります。

媒介者交付特例の法的根拠と位置づけ

媒介者交付特例は、消費税法施行令第70条の12に規定された制度です。同施行令で定められた要件を満たせば、受託者が委託者に代わって自社の登録番号・氏名で適格請求書を発行できると明示されています。

また、国税庁の公開したインボイス制度のQ&Aや基本通達にも詳細が解説されています。

ここで押さえておきたいポイントは、媒介者交付特例はあくまで「適格請求書の交付方法」に関する特例であることです。

インボイス制度上の発行義務者(売り手)は本来委託者ですが、特例の適用により「受託者による代理発行」を認めるものとなっています。

ただし後述するように、単なる便宜上の代理発行(後述の「代理交付」)とは異なり、媒介者交付特例では受託者自身がインボイス発行事業者として発行者となる点が特徴です。

この違いを理解するため、次節以降でも詳しく見ていきましょう。

媒介者交付特例の適用要件(取引形態・契約関係・税務上の条件)

媒介者交付特例を利用するには、法律で定められた2つの主要要件を満たす必要があります。これらは事前準備として必ず確認・対応しておきましょう。

(1) 売り手である委託者も、仲介する受託者も、ともに適格請求書発行事業者であること

※つまり双方が課税事業者としてインボイス発行の登録を受けていることが条件です。どちらか一方でもインボイス未登録(免税事業者含む)であれば、この特例は適用できません。

例えば委託者が免税事業者(売上1,000万円以下で消費税納税義務なし・インボイス未登録)である場合、受託者が代わりに適格請求書を発行することは制度上認められません(そもそも委託者が適格請求書発行事業者でないためです)。

取引先が免税事業者か課税事業者か、事前に確認しておく必要があります。受託者側についても、自社が未登録の場合は特例を使えないため注意してください。必要であれば登録申請を行いましょう。

(2) 委託者が、取引の事前に、自社が適格請求書発行事業者である旨とその登録番号を受託者に通知していること

※インボイス発行事業者である証として登録番号の共有が必要です。タイミングは「取引前まで」と規定されており、具体的には各取引の都度番号を知らせる方法や、基本契約書に委託者の登録番号を記載しておく方法などが考えられます。

いずれの場合も、書面やメール等記録に残る形で通知しておくことが重要です。口頭だけで済ませると後の証跡が残らないため避けましょう。

上記2つの条件を両方満たして初めて媒介者交付特例が適用可能となります。裏を返せば、「委託者・受託者の双方がインボイス発行事業者」「事前に登録番号を通知済み」でなければこの制度は使えないということです。

例えばECモール運営会社が多数の出店者の商品を販売するケースでは、出店者(委託者)の中に1社でも未登録(免税事業者)がいればその売上には媒介者交付特例を適用できません。

実際の運用では、登録済みの委託者の商品については特例適用で受託者がインボイス発行、未登録の委託者の商品については適格請求書自体を発行できない(買い手は仕入税額控除不可)といった対応の分岐が必要になります。

取引先ごとの登録状況を正確に把握し、ケースに応じた処理を行うことが求められます。

対象となる取引形態・契約関係

媒介者交付特例の対象は、「媒介または取次(仲介)を行う者である受託者が関与する課税資産の譲渡等」(国内取引)とされています。平たく言えば、売り手と買い手の間に立つ仲介業者がいる取引全般が想定されています。

典型例は前述の委託販売(問屋など)ですが、それ以外にも代理店を介した販売、ブローカー(仲介業)による取引、売上代金の集金代行、請求事務のみの委託といったケースも含まれます。

国税庁の解説でも、「商品の販売そのものを委託している場合だけでなく、請求書発行事務や集金事務など販売に付随する行為だけを委託している場合も対象になる」旨が示されています。したがって、

  • 委託販売(製造メーカー→販売委託先→エンドユーザー)
  • 代理店販売(メーカー→代理店→顧客)
  • ECモール取引(出品者→プラットフォーム運営者→購入者)
  • 不動産の賃貸・管理(オーナー→管理会社→入居者への請求)

など、多様な三者間取引で媒介者交付特例を利用できます。ただし国内取引に限る点には注意しましょう(輸出取引等はまた別の扱いになります)。

また、前提として取引される資産やサービス自体が課税の対象であることが重要です(非課税取引である土地の売買や住宅の家賃収入などには、そもそもインボイス交付義務がありません)。

インボイスが必要になる課税取引で、中間に受託者が介在する契約関係であれば、この特例の出番となります。

媒介者交付特例を利用する際の実務対応(インボイス交付・記載内容・保存要件など)

媒介者交付特例を利用する際の実務対応(インボイス交付・記載内容・保存要件など)

媒介者交付特例を適用して取引を行う場合、委託者側・受託者側それぞれに求められる実務対応があります。インボイス発行・受領のフローが通常とは異なるため、漏れなく準備しましょう。

インボイス発行者(受託者)の対応ポイント

受託者は委託者に代わりインボイスを発行する立場になります。具体的には次のような対応が必要です。

受託者名義で適格請求書を発行する

条件を満たせば、受託者は自社の氏名(名称)と登録番号を記載した適格請求書(紙または電子データ)を、委託者の代わりに買い手へ交付できます。

インボイスには通常必要とされる事項(発行者の登録番号・氏名、取引日付、品目や役務の内容、税抜価額又は税込価額、適用税率と税額、※軽減税率対象の明記など)に加え、媒介者交付特例ならではの追加記載事項があります。

それは「この請求書は媒介者交付特例により発行している」旨と、本来の売り手である委託者の氏名(名称)です。これらをインボイス上に明記することで、買い手側・委託者側の双方に取引の性質が分かるようにします。

様式に決まりはありませんが、例として請求書の備考欄に「(※本請求書は○○社(委託者)から委託を受け、媒介者交付特例により発行しています)」などと注記すると良いでしょう。委託者の名前も漏れなく記載してください。

発行したインボイスの控え(写し)を保存する

インボイス制度では、適格請求書発行事業者は発行した請求書の写し(コピー)や電磁的記録を7年間保存する義務があります。媒介者交付特例を利用する場合もこれは同様です。

受託者は、自社名義で発行したインボイスの控えを発行日時順などに整理し、漏れなく保管しましょう。紙で発行した場合は写し(コピー)をファイルに綴じるかスキャン保存、電子発行なら発行データをシステム上保存します。

発行方法(紙/電子)は自由ですが、保存期間(7年)にわたり閲覧できる状態で保存することが必要です。大量の取引がある場合は、電子データで一元管理するなど業務効率も考慮しましょう。

発行したインボイスの写し(またはまとめた精算書等)を速やかに委託者に提供する

受託者が代理で発行したインボイスであっても、売上計上や納税義務は委託者にあります。したがって、委託者にもそのインボイス情報を共有する義務があります。

具体的には、発行した適格請求書の控えを速やかに委託者へ送付・提供してください。

1件ごとに写しを送る方法のほか、取引数が多い場合には月次などでまとめた「精算書」を発行することも認められます。

精算書には、その期間に受託者が代理発行した委託者の売上情報を集約し、税率ごとの合計金額と適用税率、税率ごとの消費税額を記載します。

これにより、委託者は自社の売上高・税額を一目で把握でき、消費税申告に必要なデータが揃います。

精算書を利用する場合は、各明細がどの請求書(取引)に対応するかが分かるように、請求書番号や日付を対応付けたり、注記を付したりする工夫が必要です。

また、精算書を発行した場合、その精算書自体の写しも受託者側で保存義務がありますので忘れずに保管してください。

以上が受託者側の主な実務対応です。要約すれば、「受託者名義で正しくインボイスを作成し、買い手と委託者の双方に渡す。自社でも控えを保存する。」という流れになります。

特に委託者への情報提供を怠ると、委託者が自社売上を把握できず税務上問題となりますので、請求書の写し送付や精算書発行は確実に行いましょう。

提供方法・頻度について、事前に委託者と取り決めをしておくとスムーズです(例:「翌月○日までに前月分の精算書を電子データで送付」等)。

インボイス受領者(委託者)の対応ポイント

委託者側は、自社の売上について他社(受託者)が代理発行したインボイスを受け取る立場になります。媒介者交付特例を利用する際、委託者に求められる対応は以下の通りです。

取引前に自社が適格請求書発行事業者であることを受託者に通知する

これは前述の適用要件(2)でも触れましたが、改めて実務上のポイントとして強調します。委託者は、自社がインボイス発行事業者の登録を受けていることを証明するため、自社の登録番号を受託者に伝える必要があります。

新たな取引先と媒介者交付特例のスキームを利用する際は、契約時に登録番号の通知書面を取り交わすか、基本契約書に番号を記載しておくとよいでしょう。

すでに取引を重ねている相手でも、インボイス制度が始まったタイミングで番号を伝えていなければ、改めて通知が必要です。書面交付・メール送信など記録に残る方法で通知し、通知日・方法も社内で記録しておくと確実です。

受託者から提供されたインボイスの写し(または精算書)を保存する

委託者は本来、自社が発行した請求書控えを保存する義務がありますが、媒介者交付特例では受託者が代理で発行した請求書の控えを受領して保存する形になります。

受託者から請求書の写しを受け取ったら、漏れなく自社の帳簿と紐付けて保管してください。

保存期間は他のインボイスと同じく7年間です。紙で受け取ったならファイリング、データ提供なら社内システムに保存するなど、他の帳簿書類と同様の管理を行います。

もし受託者からの請求書控え提供が滞った場合は、速やかに催促し入手しましょう。

特に多数の取引があると受託者側でも漏れが発生しがちです。「毎月○日までに先月分を受領」など提供サイクルを決め、漏れをチェックする内部ルールを作っておくことをお勧めします。

なお、受託者から精算書形式で提供を受けた場合は、その精算書を保存します(この場合も7年保存)。

自社が適格請求書発行事業者でなくなった場合は速やかに受託者に通知する

例えば、事業規模縮小等で課税事業者をやめて免税事業者となる(インボイス登録を取りやめる)ケースや、何らかの事情で登録が失効した場合などが該当します。

媒介者交付特例は双方が登録事業者であることが前提ですから、委託者側がその資格を失ったら直ちに受託者に連絡しなければなりません。

登録の「取消申請」を自ら税務署に出すような場合は事前に分かるため、その時点で受託者にも通知しておきます。

仮に事後的に登録が無効になった場合も判明次第すぐ伝えましょう。

受託者側はインボイス発行ができなくなりますので、以後の取引については発行方法を変更する(代理交付も不可なので、基本的には委託者自身がインボイス発行する形に戻す)必要があります。

以上が委託者側の対応事項です。まとめると、「自社がインボイス発行事業者であることを証明し、代理発行された請求書を自社の書類として保存する。資格を喪失したら知らせる。」という形になります。

媒介者交付特例を利用することで委託者自身は買い手へのインボイス発行業務から解放されますが、だからといってノータッチで良いわけではなく、自社の売上データをきちんと受け取り管理する責任があります。

受託者からの報告資料(請求書控えや精算書)の管理と、インボイス制度上必要な保存義務を確実に履行しましょう。

取引の記録と税務申告上の扱い(帳簿への計上方法)

媒介者交付特例を適用した場合の売上計上や消費税申告についても触れておきます。基本的な考え方は「課税売上の発生主体はあくまで委託者である」という点です。

委託者の売上計上

媒介者交付特例で受託者がインボイスを発行していても、その取引による売上高と消費税(課税売上に係る消費税額)は委託者の決算・申告に計上します。

受託者から受け取った請求書控えや精算書の内容に基づき、委託者自身の売上として会計帳簿に記録してください。

消費税の申告でも、その取引分の消費税は委託者の課税売上高・納付税額に含めます。インボイスの発行者名義は受託者でも、税法上の実質的な販売者は委託者である点に注意しましょう。

受託者の売上計上

受託者は委託販売などの対価として手数料やマージン収入を受け取りますが、商品の販売代金そのものは受託者の売上にはなりません。

受託者は買い手から商品代金を預かり、一部を手数料として差し引いた残額を委託者へ送金する形が一般的です。

したがって、受託者の会計帳簿では、買い手から預かった商品代金(税抜価格分)は預り金や未払金などの勘定で処理し、委託者へ支払います。

受託者自身の収益として計上されるのは手数料収入(委託販売役務の提供としての売上)のみです。

この手数料には当然消費税が課税されますから、受託者は委託者に対して手数料の請求書(適格請求書)を発行し、自社の売上として計上・申告します。

一方、買い手から預かった消費税額(商品代金に含まれる消費税分)は、委託者に引き渡され最終的に委託者が納税することになるため、受託者の仕訳上はいったん「預り消費税」等の科目で負債計上し、その後委託者への送金または相殺処理を行うのが一般的です。

買い手側の処理

買い手企業にとっては、受領した適格請求書に基づき仕入税額控除を行う点は通常と変わりません。

ただし請求書に記載された発行者名や登録番号が、実際の仕入先(委託者)とは異なるケースがあるため、経理担当者は混乱しないよう注意が必要です。

媒介者交付特例のインボイスには「委託者の氏名」も記載されますので、買い手としては「発行者:受託者(登録番号XXX)、取引の内容:委託者○○の商品購入」という認識になります。

帳簿上は発行者名(受託者名)で入力して問題ありません。

適格請求書発行事業者かどうかの確認も、発行者(受託者)の登録番号で判断します。もちろん、控除できる消費税額はその請求書に記載の税額のみで、委託者から別途請求書を受け取って二重に控除することはできません。

仮に後日委託者から重複してインボイスを再発行された場合は、どちらか一方のみが有効(税額控除は1回限り)となるので、実務上は重複発行が起きないよう発行者間で調整すべきです。

以上のように、媒介者交付特例を利用しても消費税の納税関係は基本的に従来どおり委託者に帰属します。インボイスの見た目上は受託者が売上げたように見えても、税務上の実態は委託者の課税売上である点を押さえてください。

受託者側は自社の収入(手数料)部分だけを計上し、預かった商品代金・消費税は責任をもって委託者に引き渡すというスタンスです。

このように帳簿上の処理自体は特例適用前と大きく変わりませんが、取引の書類(請求書)が他社名義になるというだけです。

したがって委託者・受託者とも、自社の税務処理が適正に行われているか(特に消費税申告の計算誤りがないか)を、提供されたインボイス写しや精算書と照らし合わせて確認しましょう。

代理交付制度と媒介者交付特例の違い

代理交付制度と媒介者交付特例の違い

媒介者交付特例とよく比較される概念に「代理交付」があります。どちらも委託者に代わり受託者が請求書を買い手に交付する方法ですが、制度の位置づけやインボイスの記載内容などに違いがあります。

最後に、代理交付と媒介者交付特例の違いを整理します。

代理交付とは

代理交付とは、受託者(販売を委託された側)が委託者の名義で買い手に請求書や領収書を発行・交付することを指します。

インボイス制度においても、委託者が本来発行すべき適格請求書を、受託者が代理人として作成・交付することが可能です。

この場合の請求書には委託者(売り手本人)の氏名(名称)および登録番号を記載し、受託者は単にそれを代理で渡す役割を担います。買い手から見れば、受け取ったインボイスは委託者(売り手)から発行されたものと区別が付きません。

受託者自身の情報は請求書に表れず、あくまで陰の立役者です。

代理交付は制度上の特例ではなく、言わばインボイス発行方法の一つの形態です。法令で特段の新設規定を設けたものではなく、「委託者が発行者となる請求書を代理で渡す行為」が容認されているに過ぎません。

したがって媒介者交付特例のような厳格な適用要件はありませんが、最低限満たすべき条件として委託者が適格請求書発行事業者であることは不可欠です(委託者が登録事業者でなければ適格請求書自体を作成できないため)。

一方、受託者側は登録事業者でなくても代理交付を行えます。極端に言えば、適格請求書発行事業者ではない受託者でも、委託者から預かったインボイス用紙(委託者の登録番号入り)をそのまま買い手に手渡すことは可能です。

代理交付は受託者自身がインボイスを「発行」するわけではなく、委託者の発行行為を手伝う立場とも言えるでしょう。

媒介者交付特例と代理交付の相違点

媒介者交付特例と代理交付は、一見似た仕組みですが以下のような相違点があります。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて適切な方法を選びましょう。

インボイス上の発行者情報が異なる

最大の違いは請求書に記載される発行者(および登録番号)の名義です。

媒介者交付特例では、受託者の名称・登録番号でインボイスを作成します。委託者の名前は補足的に記載しますが、発行者欄は受託者となります。

代理交付では、委託者の名称・登録番号を請求書に記載します。受託者は単にそれを代理で交付するだけなので、発行者欄は委託者です。

制度上の要件・事前手続き

媒介者交付特例は法律で定められた特例制度であり、前述のように委託者・受託者双方のインボイス登録や事前通知といった要件があります。利用に当たっては、契約書の整備など一定の準備が必要です。

代理交付には特段の法定要件はありません。基本的には委託者が登録事業者でさえあれば随時可能です(受託者が委託者のインボイス情報を把握していることは必要)。事前通知も形式ばらずに行えます。

ただし要件が緩い分、取引の都度委託者の登録番号・適用税率などを間違いなく伝える手間が発生します。

多数の委託者を扱う場合は、代理交付だと毎回異なる名義・番号でインボイスを発行管理する必要があり、実務負担やミスのリスクが大きくなる点に注意が必要です。

請求書の記載内容・形式

媒介者交付特例の請求書には、受託者が発行者として記載される代わりに媒介者交付特例の適用である旨や委託者名を追記する必要があります。

一枚の請求書に受託者と委託者の双方の情報が載る特殊な形式ですが、これによって買い手・委託者とも内容を把握できます。

受託者が複数の委託者の商品を一括で販売した場合でも、自社名義一つでまとめて発行できるメリットがあります(ただし精算書等で後日委託者ごとの売上内訳を示すことが望ましいでしょう)。

代理交付の請求書は、基本的に通常の請求書と同じ形式です。委託者ごとに別々の請求書を発行し、それぞれ委託者の登録番号・氏名で作成します。

買い手が複数の委託者の商品を購入した場合、各委託者ごとにインボイスを発行するのが原則ですが、受託者の工夫次第では1枚の請求書に複数委託者の明細をまとめることも可能です
(ただしその場合、請求書上で明細ごとに委託者名とそれぞれの登録番号・税額を示す必要があります)。

いずれにせよ代理交付では請求書1枚につき名義は一社なので、買い手が受け取る書類の枚数が増える可能性は否めません。

受託者の保存・交付義務の違い

媒介者交付特例では、受託者が発行者となるため、受託者に適格請求書発行事業者としての義務(発行控えの7年保存、委託者への写し提供)が課されます。一方、委託者は受領者として、提供された写しの保存義務があります。

役割分担が明確化されていると言えます。

代理交付では、発行者はあくまで委託者なので、本来の請求書発行・保存義務は委託者にあります。受託者は単に物理的に発行作業を代行するだけです。

しかし実務上、受託者が代理で作成した請求書の情報を委託者にも共有しないと帳簿に計上できませんから、結局受託者→委託者への請求情報提供は必要になります。

つまり媒介者交付特例ほど形式張った規定こそありませんが、受託者が各委託者に売上明細を報告・記録共有する手間は同様に発生します。

また委託者側も、自社名義で出した(代理人経由の)請求書控えをきちんと集約・保存しなければなりません。

受託者自身の登録要否

媒介者交付特例では繰り返しになりますが受託者自身がインボイス発行事業者であることが大前提です。受託者が非登録ではこの方法は取れません。

代理交付では受託者の登録は不要です。

仮に受託者が免税事業者(未登録)であっても、委託者が適格請求書発行事業者なら、その委託者名義のインボイスを受託者が印刷・郵送するといった行為自体は差し支えありません(インボイス発行者は委託者なので要件クリア)。

ただし、受託者が登録事業者でない場合は、受託者自身が手数料に対する適格請求書を発行できない(委託者に手数料を請求する際に自社の登録番号を持たない)ことになるため、実務上はその点でも不便があります。

総合的に見ると、受託者もビジネス上インボイス登録しておく方がメリットが大きいでしょう。

帳簿上の扱い

委託者・受託者の経理処理という観点では、媒介者交付特例と代理交付で大きな差異はありません。どちらの場合も委託者が売上計上・消費税納付を行い、受託者は手数料収入のみ計上する点は共通です。

強いて言えば、買い手側の帳簿上の取引先名称が変わる可能性があります。媒介者交付特例の場合、買い手が受領した請求書の発行者が受託者名義なので、買い手の仕入帳には受託者名で記録されます。

一方、代理交付で受領した請求書は委託者名義なので、買い手帳簿には委託者名を記録します。

もっとも買い手にとって重要なのは「請求書発行者が適格請求書発行事業者であるか」だけですので、代理交付・媒介者交付いずれでも正しくインボイスが発行されていれば問題なく仕入税額控除できます。

また、万一買い手が「代理交付なのか媒介者交付なのか分からないから確認したい」と思った場合でも、媒介者交付特例の請求書には委託者名と特例適用の記載があるため、情報が不足することはありません。

帳簿上はそれぞれの名義で記録しつつ、必要に応じて補助資料で実態を把握できるようにしておけば十分です。

以上をまとめると、媒介者交付特例は「受託者名義で発行する正式なインボイス制度上の特例」であり、代理交付は「委託者名義のインボイスを代理人(受託者)が渡す実務上の手段」と言えます。

媒介者交付特例のほうが制度として整備されている分、複数の委託者を扱うケースで効率的であり、受託者にインボイス発行者としての責任が生じる方法です。

代理交付は比較的簡便に始められますが、受託者側の事務負担が増えやすい点や、規模が大きくなると現実的でなくなるケースもあります。

例えば、委託先がほんの数社しかない場合には代理交付でも対応可能でしょうが、数十社・数百社に及ぶようなら媒介者交付特例の活用を検討すべきでしょう。

まとめ

本記事では、媒介者交付特例の概要から具体的な適用要件、実務対応、そして代理交付との違いまで詳細に解説しました。最後に要点を整理します。

媒介者交付特例は、委託販売や仲介取引において受託者が自社の登録番号・名義でインボイスを発行できる制度です。

インボイス制度の負担軽減策として導入され、特に複数の委託者と取引する受託者にとって、請求業務を一元化できるメリットがあります。

本特例を利用するためには、委託者・受託者の双方が適格請求書発行事業者であること、そして取引前に委託者が自社の登録番号を受託者に通知しておくことという2つの条件を満たす必要があります。

条件を満たさない場合(どちらか未登録など)は適用できないため、事前確認が肝心です。

媒介者交付特例を適用した際には、受託者がインボイス発行者としての義務(請求書発行・写し保存・委託者への提供)を負い、委託者も受領者としての保存義務や登録取消時の通知義務を負います。

互いに役割分担しつつ、買い手・税務署に対して適切な書類発行と保存を行うことが求められます。

代理交付との違いでは、インボイス上の名義(委託者か受託者か)の違い、受託者の登録要否、適用要件の有無などが挙げられます。

媒介者交付特例は制度化された正式な方法であり、代理交付はよりシンプルですが実務上の煩雑さが残る方法です。

取引規模や関係性に応じて、どちらが適切か検討しましょう。

不動産業における物件管理・賃貸借の場面や、各種商品の委託販売(ECサイトや店舗委託)、さらには経理・請求事務のアウトソーシングに至るまで、媒介者交付特例は幅広いシーンで有用です。

適切に活用すれば、委託者は自社の商品・サービス提供に専念でき、受託者は請求業務を一括して担うことで全体の効率化が図れます。

一方で、制度を誤って運用するとインボイス要件不備による仕入税額控除漏れや、消費税の申告誤りにつながる恐れもあります。

必ず国税庁のガイドラインやQ&A等も参照しつつ、自社の実態に合わせた運用ルールを整備してください。税理士など専門家と相談しながら準備を進めれば安心です。

インボイス制度開始から時間が経ち、実務での運用も軌道に乗り始めています。この媒介者交付特例も上手に取り入れて、複雑な三者間取引におけるインボイス対応を円滑に進めていきましょう。

これにより、買い手にとっても確実に適格なインボイスを受け取れる環境を整えつつ、委託者・受託者双方の事務負担軽減と適正な消費税申告を両立させることができます。

インボイス制度下でのビジネスを円滑に回すために、ぜひ本記事の内容を参考に制度対応を検討してみてください。

この記事の投稿者:

hasegawa

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