領収書の基礎知識

領収書に人数を記載する理由と注意点 ~税務上のメリットとトラブル対策~

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領収書 人数

領収書を受け取る際、但し書きに「〇名様」といった形で人数を記載してもらうことがあります。

このひと手間が、実は経費処理や税務上の取り扱いに大きく影響を与えることをご存知でしょうか。領収書に人数を明記することで経費計上の方法が変わり、結果として節税につながるケースも存在します。

一方で、人数の記載方法を誤ったり、記載を怠ったりすると、後々トラブルに発展する可能性も否定できません。この記事では、領収書に人数を記載する目的とメリット、具体的な注意点、そして知っておくべき税務上のポイントを詳しく解説します。

さらに、実務で起こりがちなトラブル事例とその対処法、FAQセクションも設けました。領収書の人数記載について正しく理解し、日々の経費精算や将来の税務調査に万全の備えをしましょう。

領収書に人数を記載する必要性

領収書に人数を記載してもらう最大の理由は、会食などの費用を税務上「会議費」として処理できる可能性が生まれるためです。この点を理解するために、まず「接待交際費」と「会議費」という2つの勘定科目の違いから見ていきましょう。

税務上の重要科目「接待交際費」と「会議費」

通常、取引先との飲食にかかった費用は「接待交際費」という科目で経理処理されます。しかし、法人税法上、この接待交際費は全額を経費(損金)として計上できるわけではなく、企業の規模に応じて損金に算入できる上限額が定められています。

例えば、資本金1億円以下の中小法人の場合、損金に算入できるのは年間800万円まで、または接待飲食費の50%までです。資本金1億円を超える大企業では、接待飲食費の50%までが上限となります。

一方、「会議費」として処理される費用には、このような損金算入の上限がありません。つまり、会議費に該当する費用は全額を経費として計上できるため、企業としては可能な限り、接待交際費ではなく会議費として処理したいという動機が働きます。

会議費として損金算入するための要件

では、どのような場合に飲食費を接待交際費ではなく会議費として処理できるのでしょうか。税法上、会議費として認められるためには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 1人あたりの飲食費が一定金額以下であること(2024年4月1日の改正により、1人あたり10,000円以下に引き上げられました。改正前は5,000円以下でした)
  • 参加者に社外の人物、つまり取引先や顧客など、事業に関係のある第三者が最低1名含まれていること

これらの要件を満たす会食費用であれば、その勘定科目を接待交際費ではなく会議費として処理することが可能になります。

人数記載が節税につながる仕組み

ここで重要になるのが、領収書への人数記載です。例えば、合計60,000円の飲食代がかかったとします。この会食の参加者が5人だった場合、1人あたりの金額は12,000円となり、10,000円の基準を超えるため、この費用は接待交際費として扱われます。

しかし、もし参加者が6人であれば、1人あたりの金額は約10,000円となり、基準を満たすため会議費として全額を損金に算入できる可能性があります。このように、参加人数と支払総額によって、同じ領収書でも税務上の扱いが大きく変わるのです。

領収書に参加人数が明記されていれば、1人あたりの金額算定が容易になり、経理担当者だけでなく、税務調査官も会議費に該当するかどうかを客観的に判断しやすくなります。

人数の記載がない領収書では1人あたりの費用を算出できず、結果として本来は会議費として処理できたはずのものが接待交際費と見なされ、損金に算入できる金額が減り、税負担が増加する恐れがあるのです。

個人事業主における人数記載の意義

なお、個人事業主の場合、法人のような接待交際費の損金不算入制度(上限規定)は適用されません。そのため、形式上は接待交際費であっても全額を必要経費に算入すること自体は可能です。

しかし、税務署が事業に関連する経費か、それとも私的な費用かを確認する、という点は法人と何ら変わりありません。取引先との会食が事業遂行上の打ち合わせであったことを明確にするためにも、領収書へ人数を記載し、誰とどのような目的の会合であったかを客観的な証拠として残しておくことが極めて望ましいと言えるでしょう。

領収書へ人数を記載する際の7つの注意点

領収書へ人数を記載する際の7つの注意点

領収書の但し書き欄に人数を記載してもらう際には、後々のトラブルを未然に防ぐため、以下の点に注意することが重要です。

1. 支出内容を具体的に記載してもらう

但し書きには、何に対する支払いなのかが明確に分かるように記載してもらいましょう。「お品代」や「飲食代」といった抽象的な表現だけでは不十分な場合があります。

「飲食代(〇〇コース×6名様分)」のように、具体的な注文内容や人数を含めて記載してもらうのが理想的です。第三者が見てもその支出の用途が明確に理解できる記載でなければ、領収書の証拠としての価値が低下する可能性があります。

2. 事実と異なる記載はしない

1人あたりの金額を基準額以下に見せかけるために、実際の参加人数をごまかすような行為は絶対に行ってはいけません。

例えば、会議費の基準である10,000円に収めるために、実際よりも多い人数を記載する行為は、税務上の不正行為にとどまらず、私文書偽造などの罪に問われる可能性もある重大な問題です。税務調査では、このような虚偽の記載は高い確率で発覚し、追徴課税や重加算税といった重いペナルティを受けるリスクを伴います。

3. 複数の用途がある場合の記載方法

一度の会計で、会議費に該当する飲食と備品の購入など、複数の用途が混在するケースもあります。このような場合、但し書き欄にすべての内容を書き切ることは困難です。

その際は、無理に領収書を分けて発行してもらう必要はなく、最も主要な用途を一つ記載してもらえば問題ありません。記載しきれなかった他の用途については、後から確認できるよう、詳細が記載されたレシートなどを領収書と一緒に社内で保管しておくと安心です。

4. 受領者が後から追記しない

領収書は、代金を受領した側(店舗側)が発行し、記載する公的な書類です。受け取った領収書の空欄に、後から支払者側で人数などを書き加える行為は、改ざんと見なされる危険性があります。たとえ悪意がなかったとしても、税務上は不備として指摘されかねません。人数の記載は、必ず領収書の発行者に依頼し、その場で記入してもらうように徹底しましょう。

5. 記載漏れに気づいた場合の対処法

会計時にうっかり人数の記載を依頼し忘れた場合は、可能な限り、領収書を発行した店舗に連絡し、再発行を依頼するのが最も確実な方法です。

もし再発行が難しい状況であれば、社内での対応として、その領収書に関連する参加者リストや会合の目的などを記したメモを作成し、領収書に添付して保管しましょう。自分で領収書の余白に人数を書き足すことは避け、あくまで別紙のメモなどで情報を補完するという形を取ることが重要です。

6. 店舗側から記載を断られた場合の対処法

稀なケースですが、チェーン店の方針などで「領収書への個別の書き込みは対応できない」と断られることもあります。その場合でも慌てる必要はありません。レシート(利用明細)を積極的に活用しましょう。レシートに注文したコースの数や人数が印字されていれば、それが人数の裏付けとなります。

もしレシートでも人数が不明な場合は、前述の方法と同様に、自社で参加人数、氏名、目的を記録したメモを作成し、領収書と共に保存することが重要です。「店が記載してくれなかったので記録がない」という言い訳は、税務調査では通用しないと心得ましょう。

7. 社内での経費精算におけるチェックポイント

企業の経理担当者や管理部門では、従業員から提出された領収書をチェックする際に、以下の点を確認する体制を整えることが望ましいです。

  • 接待飲食費に関連する領収書に、人数の記載があるか
  • 記載された人数と金額から算出した1人あたりの費用が社会通念上、適正な範囲内か
  • 会食の参加者や目的が、経費精算の申請書などに明確に記録されているか

人数の記載がない領収書については会議費としての計上を認めない、参加者が不明な経費精算は差し戻す、といった社内ルールを設けることも有効な対策です。また、日頃から従業員に対して「会食の際は、領収書に人数を記載してもらうように」と周知徹底しておくことが、トラブルの予防につながります。

人数記載の税務上の重要性と記録保存の要件

領収書への人数記載は、適切に要件を満たせば、支出を接待交際費から除外し、会議費として全額を損金に算入できるという大きな税務上のメリットをもたらします。特に、1人あたりの基準額が10,000円以下に引き上げられたことにより、このメリットを享受できる機会は増加しています。

会議費の損金算入に必須の記録事項

ただし、会議費として経費計上するためには、単に1人あたりの金額が基準以下であることだけでなく、一定の事項を記録した書類を保存しておくことが法律で義務付けられています。税法では、以下の事項を記載した書類の保存が要件とされています。

  • 飲食等を行った年月日
  • 飲食等に参加した得意先、仕入先、その他事業に関係のある者の氏名または名称(例:株式会社〇〇 部長 〇〇 〇〇)
  • 飲食等に参加した者の数(参加人数)
  • その飲食等に要した費用の額、ならびに飲食店の名称および所在地
  • その他、費用が事業に関連する経費であることを明らかにするために必要な事項

これらの情報が適切に記録された書類が保存されていなければ、たとえ1人あたりの金額要件を満たしていても、会議費としての損金算入は認められません。したがって、領収書には可能な限り人数を含めた情報を記載してもらい、併せて参加者の氏名や会合の目的を記録したメモなどを保管することが極めて重要です。

電子帳簿保存法との関連性と対応

近年、電子帳簿保存法の改正に伴い、領収書を電子データで保存する企業が増加しています。しかし、保存形式が紙から電子データに変わっても、人数や参加者といった情報の記録が不要になるわけではありません。紙の領収書に手書きで記載してもらっていた情報は、電子データ上でも適切に管理・保存する必要があります。

例えば、経費精算システムに領収書の画像データを取り込む際には、備考欄などに参加人数、参加者の氏名、会合の目的といった情報を必ず入力しておく運用が求められます。

改正電子帳簿保存法では、スキャナ保存した領収書データにタイムスタンプを付与し、後から検索可能な状態で管理することが要求されます。人数情報も検索項目の一つとして記録しておけば、後のデータ検証時に役立ちます。

よくある質問(FAQ)

よくある質問(FAQ)

最後に、領収書の人数記載に関して、実務でよく寄せられる質問についてQ&A形式で解説します。

Q1. 領収書への人数記載は義務ですか?

法律上、「領収書に人数を記載しなければならない」という直接的な義務規定は存在しません。しかし、本記事で解説した通り、人数の記載がなければ1人あたりの金額を客観的に判別できず、会議費として認められないリスクが生じます。結果的に経費計上できる範囲が狭まる可能性があるため、税務実務上は、必ず人数も記載してもらうべきであると言えます。

Q2. 人数が書かれていない領収書は経費にできませんか?

人数の記載がないからといって、直ちに経費として計上できなくなるわけではありません。ただし、その費用が会議費に該当するのか、接待交際費として処理すべきなのかの判断が困難になります。

人数が未記載の場合は、別途、参加者や人数を証明するメモ、出席簿などを用意し、会計帳簿にもその旨を付記しておく必要があります。このような補足資料がない場合、税務調査で経費として否認される可能性が高まります。

Q3. お店の人に人数を書いてほしいと頼みにくいです。

多くの店舗では、経費精算で必要である旨を伝えれば、快く対応してくれます。会計時に「会社の経費で精算しますので、但し書きに人数も記載していただけますか」と丁寧に依頼してみましょう。仮に断られた場合でも、前述の通り、自社内で参加人数や氏名を記録したメモを残すことで対応可能です。

Q4. もらった領収書に自分で人数を書き足しても問題ないですか?

この行為は推奨できません。受領者が後から情報を書き加えることは、改ざんと見なされるリスクを伴います。領収書の記載事項は、本来、発行者である店舗側が記入すべきものです。したがって、後から自分で数字などを書き足すことは避け、必要な情報は別紙のメモなどで補完するようにしてください。

Q5. 社員だけの飲み会でも人数は必要ですか?

社員のみで行う会合、例えば、純粋な親睦を目的とした飲み会やプロジェクトの打ち上げなどは、税務上、接待交際費ではなく「福利厚生費」や「会議費」といった別の科目で処理されます。

この場合、そもそも接待交際費の損金不算入制度とは関連がないため、1人あたりの金額を計算するために無理に人数を記載してもらう必要性は低いと言えます。ただし、社内会議として経費精算する場合には、参加人数や議事録などを証拠として残しておくことが望ましいでしょう。

Q6. 虚偽の人数を記載するとどうなりますか?

事実と異なる人数を記載する不正行為は、税務調査においてほぼ確実に見抜かれます。税務調査官は、領収書に記載された人数や金額の妥当性を厳しくチェックし、必要であれば参加者の氏名や会合の具体的な目的まで確認します。

虚偽の記載が発覚した場合、過少申告加算税や悪質なケースでは重加算税といった追徴課税の対象となるほか、企業の社会的信用を大きく損なうことにもなりかねません。

まとめ

領収書に人数が記載されていることは、経費処理を円滑に進めるだけでなく、税務調査に対する有効な備えともなります。日々の業務における少しの工夫と記録の徹底が、経理上のリスクを低減させ、正当な経費計上を可能にします。

領収書を受け取る際は、但し書きの内容と合わせて、人数の記載を忘れずに依頼する習慣をつけましょう。そして、受け取った領収書は、関連情報と共に適切な形で保存・管理してください。

これらの取り組みを実践することで、節税効果を享受しつつ、安心して事業活動に専念することができるでしょう。もし経費処理に関して判断に迷う点があれば、税理士などの専門家に相談し、常にルールに則った適切な対応を心がけることが肝要です。

この記事の投稿者:

hasegawa

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