
納品書の保管期間について、7年なのか10年なのか、あるいは5年なのか、法律が複雑で判断に迷っていませんか。この一枚の書類の管理を誤ると、将来の税務調査で思わぬ不利益を被る可能性があります。しかし、ご安心ください。
この記事を最後まで読むことで、法人と個人事業主、それぞれの立場で守るべき納品書の保管期間が明確になります。さらに、2024年から完全義務化された電子帳簿保存法やインボイス制度への具体的な対応策まで、専門家がわかりやすく解説します。
本記事で示すシンプルなルールを実践するだけで、法令遵守の不安から解放され、本業に集中できるようになります。
目次
結論:納品書の保管は「法人10年、個人事業主7年」が安全な理由
多くの情報が飛び交うなか、まず最も安全で間違いのない結論からお伝えします。それは「法人は10年、個人事業主は7年」というルールで納品書を保管することです。
なぜなら、納品書の保管期間は、法人税法、所得税法、会社法など複数の法律で定められており、それぞれ期間が異なります。これらの法律の中で最も長い期間に合わせて社内ルールを統一することが、コンプライアンス違反のリスクを最も簡単かつ確実に回避する方法だからです。
法人はなぜ10年なのか
法人には、主に「法人税法」と「会社法」という2つの法律が関係します。法人税法では、納品書を含む帳簿書類の保管期間を原則7年としています。しかし、会社法では「会計帳簿及びその事業に関する重要な資料」について10年間の保存を義務付けています。納品書は取引の事実を証明する重要な資料であり、この規定に該当します。
つまり、会社法の定める10年ルールを守れば、法人税法の7年という期間は自動的にクリアできます。さらに、後述する赤字決算(欠損金の繰越控除)の場合に求められる10年保管の要件も満たせるため、「法人は10年」と覚えておくのが最も合理的です。
個人事業主はなぜ7年なのか
個人事業主の場合、所得税法では納品書のような書類の保管期間を原則5年としています。しかし、この原則には重要な例外が2つ存在します。
一つ目は、消費税の課税事業者である場合です。消費税の仕入税額控除の適用を受けるためには、取引書類を7年間保存する必要があります。二つ目は、納品書がインボイス(適格請求書)を兼ねる場合です。インボイス制度では、発行した適格請求書の控えを7年間保存することが義務付けられています。
インボイス制度の開始に伴い、多くの個人事業主がいずれか、あるいは両方に該当するようになりました。また、仕訳帳や総勘定元帳といった主要な帳簿の保管期間はもともと7年です。これらの帳簿と足並みをそろえる意味でも、「個人事業主は7年」と統一することで、管理がシンプルになり、うっかりミスを防ぐことができます。
保管期間の数え方(起算点)に注意
最も注意すべき点は、保管期間が納品書の発行日や受領日から始まるわけではないことです。
法人の場合は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から数えます。例えば、3月31日決算の法人の場合、申告期限は5月31日です。この場合、2024年3月期の納品書の保管期限は、2025年6月1日から10年後の2035年5月31日までとなります。
個人事業主の場合は、その年の確定申告の提出期限の翌日(通常は3月16日)から数えます。例えば、2024年分の納品書は、申告期限である2025年3月15日の翌日、3月16日から7年後の2032年3月15日まで保管が必要です。この起算点を間違えると、意図せず法令違反を犯してしまう可能性があるため、正確に理解しておくことが重要です。
納品書保管期間の早見表
事業形態 | 関連法規 | 法律上の期間 | 備考 | 推奨される安全な保管期間 |
法人 | 法人税法 | 原則7年 | 取引に関する証憑書類として | 10年 |
法人税法 | 10年 | 青色申告法人で欠損金(赤字)が生じた事業年度 | ||
会社法 | 10年 | 事業に関する重要な資料として | ||
個人事業主(青色・白色共通) | 所得税法 | 原則5年 | 現金預金取引等関係書類以外の書類として | 7年 |
消費税法 | 7年 | 消費税の課税事業者で、仕入税額控除を受ける場合 | ||
消費税法 | 7年 | 納品書が適格請求書(インボイス)に該当する場合 |
法人における納品書の保管期間と法律ごとの要件
法人の場合、納品書の保管は複数の法律が絡み合うため、それぞれの要件を正しく理解することが不可欠です。ここでは、法人税法と会社法が定めるルールを詳しく解説します。
法人税法が定める「原則7年」のルール
法人税法では、法人が事業活動で得た所得に対する税金を正しく計算・申告したことを証明するために、帳簿と、取引に関して作成・受領したすべての書類(帳簿書類)の保存を義務付けています。納品書やその控えも、この「書類」に該当します。
この法律が定める保管期間は、原則として7年間です。
前述の通り、この7年間という期間は、納品書を受け取ったり発行したりした日から数えるのではありません。その納品書が属する事業年度の法人税の確定申告書の提出期限の翌日からカウントが始まります。この起算点を正確に把握しておくことが、正しい期間管理の第一歩です。
例外:赤字決算(繰越欠損金)の場合は「10年」に延長
法人税法の原則には、非常に重要な例外規定があります。それは、青色申告をしている法人が事業年度において欠損金(いわゆる赤字)を生じさせた場合です。
この赤字は、翌年以降の黒字と相殺して法人税の負担を軽減できる「繰越欠損金控除」という制度で利用できます。この繰越が可能な期間が10年間であるため、その赤字額が正しく計算されたものであることを証明するために、赤字が発生した事業年度の帳簿書類は10年間保存しなければならないのです。
税務署は、10年後にその赤字が使われる際に、その発生元となった年度の取引まで遡って調査する権利があります。そのため、たとえ一度きりの赤字であったとしても、その年度の納品書は他の年度とは別に、10年間保管する必要があります。
なお、この期間は税制改正で延長されており、2018年4月1日より前に開始した事業年度に生じた欠損金については、保存期間は9年です。
最優先すべきは会社法が定める「10年」
法人税法上のルールが7年や10年であるのに対し、すべての株式会社は「会社法」というもう一つの法律にも従わなければなりません。そして、この会社法が、法人の書類保管における最も厳しい基準を定めています。
会社法第435条では、「計算書類及びその附属明細書」を、作成時から10年間保存することを義務付けています。さらに、会計帳簿や事業に関する重要な資料についても同様に10年間の保存が求められます。納品書は、取引の存在と内容を証明する根拠資料であり、「事業に関する重要な資料」に該当します。
ここで重要なのは、法律の優先順位です。法人は、法人税法と会社法の両方を遵守する義務があります。したがって、たとえ黒字決算の年度で法人税法上の保管期間が7年であったとしても、会社法が定める10年という期間が優先されます。
このことから、個別の年度が黒字か赤字かを問わず、すべての帳簿書類を一律で「10年間」保管するという社内ルールを設けることが、最も安全かつ管理が容易な方法と言えます。これにより、法律間の複雑な関係性を意識することなく、コンプライアンスを遵守できるのです。
個人事業主・副業における納品書の保管期間と注意点
個人事業主やフリーランス、副業で収入を得ている方にとっても、納品書の保管は確定申告の根拠を示す上で非常に重要です。法人とは異なる法律が適用されるため、その違いを正確に理解しましょう。
原則は「5年間」- 青色・白色申告の違いは?
個人事業主の書類保管の基本となるのは「所得税法」です。この法律では、納品書、請求書、見積書といった書類は「その他の書類」に分類され、原則として5年間の保存が義務付けられています。
ここでよくある誤解が、青色申告と白色申告で保管期間が異なるのではないか、という点です。確かに、仕訳帳や総勘定元帳などの「帳簿」や、領収書などの「現金預金取引等関係書類」は、青色申告者の方が白色申告者よりも長い保管期間(7年)を求められる場合があります。
しかし、納品書に関しては、青色申告・白色申告の別なく、所得税法上の原則は一律で5年間です。
保管期間が「7年」に延長される2つのケース
原則5年というルールは、近年ではむしろ例外になりつつあります。以下の2つのケースに該当する場合、保管期間は7年間に延長されるため、ほとんどの事業者がこちらのルールに従うべき状況になっています。
Case 1: 消費税の課税事業者である場合
前々年の課税売上高が1,000万円を超えるなどの理由で「消費税の課税事業者」となっている個人事業主は注意が必要です。
消費税の申告において、仕入れにかかった消費税を売上にかかった消費税から差し引く「仕入税額控除」を受けるためには、その取引の事実を証明する請求書や納品書などの書類を7年間保存することが「消費税法」で定められています。仕入税額控除は納税額に直結する重要な制度であるため、この7年ルールは厳格に守る必要があります。
Case 2: 納品書がインボイス(適格請求書)を兼ねる場合
2023年10月に開始されたインボイス制度も、保管期間に大きな影響を与えます。適格請求書発行事業者として登録している場合、取引先からの求めに応じて交付した適格請求書(インボイス)の写しを7年間保存する義務があります。
納品書に必要な記載事項(登録番号や税率ごとの消費税額など)を追記し、適格請求書として発行している場合、その納品書は7年間の保存対象となります。取引の効率化のために納品書をインボイスとして活用している事業者は、自動的に保管期間が7年になるのです。
これら2つのケースからわかるように、インボイス制度への登録を機に課税事業者となった多くの個人事業主にとって、事実上の保管期間は「7年」が新たなスタンダードとなっています。5年で破棄してしまうと、税務調査の際に仕入税額控除を否認されるなどのリスクがあるため、ご自身の状況を必ず確認してください。
副業の「雑所得」でも保管義務はある?
近年増加している副業についても、書類の保管義務は無関係ではありません。副業による所得が「雑所得」に分類される場合でも、一定の条件下で書類の保存が求められます。
具体的には、前々年の雑所得の収入金額が300万円を超える場合、その業務に関する請求書や領収書などの「現金預金取引等関係書類」を5年間保存する必要があります。納品書は直接的には現金取引の書類ではありませんが、経費の証明として関連性が高いため、同様に5年間は保管しておくことが賢明です。
2024年から完全義務化!電子帳簿保存法への対応は必須
納品書の保管期間と並んで、現代のビジネスで避けて通れないのが「電子帳簿保存法」への対応です。特に、2024年1月1日から「電子取引データ保存」が完全義務化され、すべての事業者に影響が及んでいます。
「電子取引データ保存」の義務化とは?
これは、電子的にやり取りした取引情報(電子取引データ)は、電子データのまま保存しなければならないというルールです。
例えば、以下のようなケースで受け取ったり送ったりした納品書は、すべてこのルールの対象となります。
- PDF形式の納品書をメールに添付して送受信した
- クラウド請求書発行システムを通じて納品書をダウンロードした
- ウェブサイト上の取引画面に表示される納品情報をスクリーンショットで保存した
最も重要な変更点は、これらの電子データを印刷して紙だけで保管する方法が、法的に認められなくなったことです。これまで紙で一元管理していた事業者にとっては、業務プロセスの根本的な見直しが求められます。
電子保存の2大要件:「真実性の確保」と「可視性の確保」
電子データをただパソコンに保存しておけば良いというわけではありません。法律は「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たすことを求めています。
真実性の確保(データの改ざんを防ぐ)
保存したデータが本物であり、後から改ざんされていないことを証明するための措置です。以下のいずれか一つを満たす必要があります。
- タイムスタンプが付与されたデータを受け取る。
- データ受領後、速やかに(最長2か月とおおむね7営業日以内)タイムスタンプを付与する。
- データの訂正・削除の履歴が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムを利用して保存する。
- 改ざん防止のための事務処理規程を社内で作成し、そのルールに沿って運用する。
多くの中小企業や個人事業主にとっては、コストをかけずに導入できる4番目の「事務処理規程の策定・運用」が最も現実的な選択肢です。
可視性の確保(データを見えるようにする)
保存したデータを、税務調査などの際にすぐに見つけ出し、明瞭な状態で確認できるようにするための措置です。これには「見読可能装置の備付け」と「検索機能の確保」が含まれます。
まず、パソコン、ディスプレイ、プリンターとそれらの操作マニュアルを備え付け、データを画面や書面に整然と明瞭に出力できるようにしておく必要があります。
そして、これが最も重要な要件の一つですが、保存したデータを、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つの項目で検索できるようにしておく必要があります。
中小企業向けの緩和措置(猶予措置)
この厳格な検索要件には、中小事業者の負担を軽減するための重要な緩和措置が設けられています。
緩和措置の一つ目として、前々事業年度の売上高が5,000万円以下の事業者は、税務調査の際に税務職員からのデータのダウンロードの求めに応じることができれば、検索要件のすべてが不要になります。
二つ目の緩和措置として、売上高にかかわらず、電子データを印刷した書面を、取引年月日および取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにしている場合も、検索要件は不要です。
この緩和措置は、システム導入が難しい事業者にとっての「命綱」とも言えるルールです。特に後者は、電子データを保存しつつも、従来通りの紙ベースの整理方法を併用することで、高価なシステムを導入せずに法要件を満たす道を開いています。
紙の納品書をスキャンして保存する「スキャナ保存」
電子取引データの保存(義務)とは別に、紙で受け取った納品書を電子化してペーパーレスを進めるための「スキャナ保存」という制度があります。これは任意の制度です。
スキャナ保存を行うには、一定の解像度(200dpi以上)での読み取り、タイムスタンプの付与、訂正・削除履歴の確保など、電子取引データの保存よりもさらに厳格な要件が定められています。
手軽に始められるものではないため、義務化されている「電子取引データ保存」への対応を最優先し、スキャナ保存は将来的な業務効率化の一環として検討するのがよいでしょう。
電子取引データ保存 対応チェックリスト
要件分類 | チェック項目 | 対応状況 | 緩和措置・備考 |
真実性の確保 | 以下のいずれかを満たしているか? ・タイムスタンプ付与 ・訂正削除履歴が残るシステム利用 ・改ざん防止の事務処理規程の策定・運用 | Yes / No | いずれか1つを満たせばOK。事務処理規程の策定が最も低コスト。 |
可視性の確保 | PC、ディスプレイ、プリンター等を備え付け、明瞭に出力できるか? | Yes / No | 必須要件。 |
「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できるか? | Yes / No | 以下の場合は不要 ①前々年度売上高が5,000万円以下で、ダウンロードの求めに応じられる ②印刷した書面を整理して提示できる。 | |
日付・金額で範囲指定して検索できるか? 2つ以上の項目を組み合わせて検索できるか? | Yes / No | ダウンロードの求めに応じられれば不要。 |
インボイス制度と納品書、知っておくべき関係性
インボイス制度の開始により、納品書の役割も大きく変わりました。単なる納品確認の書類から、消費税の仕入税額控除に関わる重要な証憑書類へとその価値が高まっています。
納品書を「適格請求書(インボイス)」として使う方法
インボイス制度では、書類の名称が「請求書」である必要はありません。「納品書」や「領収書」であっても、法律で定められた事項がすべて記載されていれば、それは法的に有効な「適格請求書(インボイス)」として扱われます。
納品書をインボイスとして機能させるためには、以下の項目を記載する必要があります。
- 発行事業者の氏名または名称、および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨の記載を含む)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
これらの要件を満たした納品書を受け取ることで、買い手側はそれを根拠に仕入税額控除を受けることができます。
複数の書類でインボイスの要件を満たす「合わせ技」
毎回の取引で発行する納品書にすべてのインボイス要件を記載するのが難しい場合、複数の書類を組み合わせてインボイスとすることも認められています。
例えば、毎日の納品書には取引内容(品名、数量、金額)のみを記載し、月末に発行する請求書に、それらの納品書番号をすべて記載した上で、登録番号や税率ごとの消費税額などをまとめて記載する方法です。この場合、納品書と請求書がセットで一つのインボイスとして機能します。
重要なのは、どの納品書がどの請求書に対応するのか、書類間の関連性が明確にわかるようにしておくことです。
消費税の端数処理ルール
インボイス制度では、消費税の端数処理に厳格なルールが設けられました。それは、一つのインボイス(複数の書類で構成される場合はその全体)につき、税率ごとに1回しか端数処理が認められないというものです。
例えば、納品書の個々の商品ごとに消費税を計算して端数処理し、それらを合計して請求する、といった方法は認められません。税率(10%対象、8%対象)ごとに合計金額を算出し、その合計額に対してそれぞれ1回だけ消費税を計算し、端数処理を行う必要があります。
もう迷わない!納品書の実践的な整理・保管術
法律上の要件を理解した上で、次に重要になるのが日々の業務で実践できる効率的な整理・保管方法です。ここでは、紙と電子データ、それぞれの具体的な管理術を紹介します。
紙の納品書の整理・ファイリング術
昔ながらの紙の書類も、少しの工夫で格段に管理しやすくなります。取引量がそれほど多くない場合は、月ごとに封筒やクリアファイルを用意し、その中に入れていく方法が最もシンプルです。年度末に12か月分をまとめて一つの箱に入れれば、年度ごとの管理が完成します。
特定の取引先とのやり取りが多い場合は、取引先ごとにファイルやバインダーを分け、その中で時系列に並べる方法が探しやすいでしょう。
レシートのような小さな納品書は紛失しやすいため、A4のコピー用紙などを台紙にして貼り付けてからファイリングすると、サイズが統一されて管理が楽になります。
何より、「入力してから保管」を徹底することが重要です。書類を受け取ったら、まず会計ソフトに入力し、入力済みの証としてスタンプを押したり印をつけたりしてからファイルに保管する、という流れを徹底します。これにより、入力漏れや二重計上を防ぎ、「まだファイルされていない書類=未入力の書類」として明確に区別できます。
電子データの整理・保管術
電子帳簿保存法に対応するためには、電子データの整理方法が極めて重要です。特に検索要件を満たすために、以下のルールを徹底しましょう。
誰が見てもわかるように、階層的なフォルダ構造を作ります。例えば、「YYYY年度」フォルダの下に「YYYY-MM_取引先名」といったルールでフォルダを作成すると整理しやすくなります。
例: 2024年度 → 2024-04_株式会社A → 2024-04-15_納品書.pdf
ファイル名を規則的にすることが、検索性を確保する上で最も効果的な方法です。「日付・取引先名・金額」といった要素をファイル名に含めることで、OSの検索機能だけで法の要件を満たすことが可能になります。
例: 20240415_株式会社A_110000_納品書.pdf
最後に、バックアップは必ず取りましょう。電子データは、ハードディスクの故障や操作ミスで一瞬にして失われるリスクがあります。クラウドストレージや外付けHDDなどを利用し、定期的にバックアップを取る体制を整えることが不可欠です。
保管義務を怠った場合のリスクとは?
これまで解説してきた保管義務ですが、もしこれを怠ると、事業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。単なる「書類整理の不備」では済まされないのです。
税務上のペナルティ
税務調査の際に、経費の支払いを証明する納品書や領収書が提示できなければ、その経費は「なかったもの」として扱われる可能性があります。
その結果、経費が否認され、所得金額が再計算されます。これにより、本来よりも多くの税金を納める「追徴課税」が発生し、さらに延滞税や過少申告加算税といったペナルティが上乗せされることもあります。
最も恐ろしいリスク:「青色申告」の承認取消し
しかし、追徴課税よりもはるかに深刻なリスク、それが「青色申告の承認取消し」です。
帳簿書類の備付け、記録、保存が正しく行われていないこと、税務署長の指示に従わないこと、そして税務調査の際に正当な理由なく帳簿書類を提示しないことは、青色申告の承認を取り消す正当な理由として法律に明記されています。これには、電子帳簿保存法のルールに従わない場合も含まれます。
青色申告の承認が取り消されると、以下のような多大な税務上のメリットをすべて失うことになります。
- 最大65万円の青色申告特別控除が受けられなくなる
- 赤字を翌年以降に繰り越して黒字と相殺する「純損失の繰越控除」ができなくなる
- 30万円未満の資産を一度に経費にできる「少額減価償却資産の特例」が使えなくなる
- 家族への給与を経費にできる「青色事業専従者給与」が認められなくなる
これらの特典は、多くの中小企業や個人事業主にとって経営の根幹を支える節税策です。一度取り消されると、1年間は再申請ができないため、その間の経営へのダメージは計り知れません。日々の納品書の適切な保管は、単なる事務作業ではなく、事業の節税メリットと安定性を守るための、極めて重要なリスク管理活動なのです。
まとめ
最後に、本記事で解説した重要なポイントを再確認しましょう。
- 法人
保管期間は「10年」が鉄則です。会社法の要件を満たすことで、税法上のリスクもすべてカバーできます。 - 個人事業主
保管期間は「7年」を基準に考えましょう。消費税課税事業者やインボイス発行事業者は7年保管が必須です。 - 起算点
保管期間は納品書の発行日ではなく、「確定申告の提出期限の翌日」から数えます。 - 電子取引
2024年1月以降、メールなどで受け取った納品書は「電子データのまま」保存が義務です。印刷して紙で保管するだけでは認められません。 - 電子保存のルール
「ファイル名の統一」や「フォルダ分け」で検索できるようにすることが基本です。中小企業向けの緩和措置も必ず確認しましょう。 - 最大のリスク
書類の不備は青色申告の承認取消しに繋がる可能性があります。適切な保管は、節税メリットを守るための重要な経営活動です。
ルールは一見複雑ですが、自社に合ったシンプルなルールを決めて運用すれば、対応は決して難しくありません。本記事を参考に、自社の管理体制を一度見直し、未来の安心を手に入れてください。
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