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日当とは?出張手当の非課税メリットを最大化!旅費規程からインボイス制度まで解説

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日当とは

出張のたびに支給する「日当」が、実は会社の法人税、消費税、社会保険料を劇的に削減し、同時に社員の手取りを非課税で増やせる強力な経営ツールであることをご存知でしょうか。これは単なる経費精算ではなく、戦略的なコスト削減と福利厚生の向上を両立させる秘策です。

正しく使えば会社も社員も利益を得られる日当は、最強の節税策になり得ます。しかし、その価値を知らずに損をしている企業は少なくありません。

この記事を最後まで読めば、税務調査で否認されるリスクを回避し、国が認めた合法的な節税メリットを最大限に享受する方法を具体的に理解できます。多くの企業が見落としている日当の真の価値を、明日から自社で活用できるようになるでしょう。

専門知識がない方でも問題ありません。本記事では、「出張旅費規程」の作り方から、インボイス制度下の最新ルールまで、誰にでも実践可能な手順をステップ・バイ・ステップで解説します。

目次

日当(出張手当)の基本を徹底解説

日当制度を理解し、活用するためには、まず基本的な定義と目的を正確に把握することが不可欠です。交通費や宿泊費といった他の出張経費とは異なる、日当ならではの性質を学ぶ必要があります。

日当とは何か?交通費・宿泊費との根本的な違い

日当とは、出張中に発生する交通費や宿泊費といった実費で精算される経費とは別に、食事代や通信費、その他の諸雑費を補填するために定額で支給される手当を指します。出張手当や旅費手当と呼ばれることもあります。

交通費や宿泊費は、新幹線や飛行機、ホテルの領収書に基づいて、実際にかかった費用を後日精算する「実費精算」が原則です。一方で日当は、こうした実費とは別に、あらかじめ会社が定めた一定の金額が1日単位で支給されます。

日当の目的は、出張という通常とは異なる環境で業務に従事する従業員の、細かな金銭的負担を軽減することにあります。例えば、普段より割高になりがちな出張先での食事代、資料のコピー代、急な連絡で必要になる通信費、あるいは慣れない土地での移動に伴う精神的・肉体的な疲労に対する慰労といった意味合いも含まれます。

重要な点として、日当の支給は法律で義務付けられているものではありません。あくまでも各企業が任意で導入を判断し、そのルールを独自に定めることができる制度です。

なぜ日当は「実費精算」ではなく「定額支給」が基本なのか

日当が実費精算ではなく、定額支給を基本とするのには実務上の明確な理由があります。

日当が補填する費用は、昼食代や喫茶代、近距離のタクシー代など、一つひとつが少額で、領収書をもらい忘れたり、そもそも領収書が出なかったりするケースが少なくありません。これら全てを実費精算しようとすると、出張者にとっては領収書の管理が大きな手間となり、経理担当者にとっては膨大な量の精算処理業務が発生します。

そこで、これらの諸雑費をまとめて「1日あたり〇〇円」という形で定額支給することで、従業員の立替負担や申請の手間、そして経理部門の精算業務を大幅に簡素化できます。この業務効率化は、出張が多い企業ほど大きなメリットとなります。

この「定額支給」という性質は、日当が非課税として認められるための根拠や、後述するインボイス制度における「出張旅費特例」とも密接に関わってきます。

多くの経営者や担当者は、日当を交通費などと同じ単なる「経費の一種」として捉えがちです。しかし、その本質はもっと深く、戦略的な意味合いを持っています。日当を支給するためには「出張旅費規程」という社内ルールの整備が法的に不可欠であり、その金額は役職や国内外といった複数の要素を考慮してバランスを取る必要があります。

さらに、この制度は法人税、消費税、社会保険料、そして個人の所得税という4つの異なる領域に同時に影響を及ぼす、非常に複合的な性質を持っています。したがって、日当の導入は単純な経費処理の問題ではなく、税務・労務・経理の3つの側面を統合した高度な「制度設計」と捉えるべきです。

この視点を持つことで、企業は日当を単なるコストとしてではなく、経営戦略の一環として能動的に活用する道が開かれます。この認識の転換こそが、日当制度を成功させるための第一歩なのです。

なぜ日当が最強の節税・コスト削減策なのか?会社と社員双方のメリット

なぜ日当が最強の節税・コスト削減策なのか?会社と社員双方のメリット

日当制度を適切に導入・運用することは、会社と社員の双方に大きな経済的メリットをもたらします。特に税金や社会保険料に関する効果は絶大であり、「最強の節税策」と称される理由がここにあります。

会社側のメリット:法人税・消費税・社会保険料のトリプル削減効果

会社側にとって、日当制度は主に3つの側面でコスト削減に貢献します。

第一に、法人税の節税です。支給した日当は、会計上「旅費交通費」という経費(損金)として計上できます。経費が増えることで会社の課税対象となる所得が圧縮され、結果として法人税の負担が軽減されます。

第二に、消費税の節税です。国内出張に対して支給される日当は、消費税法上「課税仕入れ」として扱われます。これにより、会社が納めるべき消費税額から日当にかかる消費税相当額を控除(仕入税額控除)できるため、消費税の節税につながります。

このメリットは、2023年10月に開始されたインボイス制度下においても、「出張旅費特例」という形で維持されており、非常に重要です。

第三に、社会保険料の削減です。これは日当制度の持つ、見過ごされがちながら極めて強力なメリットです。日当は、労働の対価である給与(報酬)ではなく、業務に必要な経費の実費弁償的な性質を持つものと解釈されます。

そのため、健康保険料や厚生年金保険料の算定基礎となる標準報酬月額に含まれません。社会保険料は会社と従業員で折半して負担するため、日当を支給しても会社の負担額は増えません。同額を給与として上乗せする場合と比較して、会社と従業員双方の社会保険料負担を大きく軽減する効果があります。

社員側のメリット:手取りが直接増える「非課税所得」

社員にとっての最大のメリットは、受け取った日当が所得税・住民税の課税対象にならない「非課税所得」である点です。

例えば、会社が社員に月5万円の追加支給を検討しているとします。これを給与や賞与として支給した場合、そこから所得税や住民税、社会保険料が天引きされるため、手取り額は5万円よりも少なくなります。

しかし、出張が多い社員に対して月5万円分の日当を支給した場合、この5万円は非課税であるため、源泉徴収されることなく全額が社員の手元に残ります。

この非課税での支給は、実質的な手取り額の増加に直結し、出張という負担の大きい業務に対する従業員のモチベーションを大きく向上させる効果が期待できます。さらに、日当は定額支給であり、もし出張先でうまく経費を節約できれば、残った分は返却する必要がありません。このため、従業員にとって直接的なインセンティブとしても機能します。

デメリット:コスト増と管理の手間

もちろん、日当制度にはデメリットも存在します。最も直接的なものは、純粋なコストの増加です。日当は交通費や宿泊費とは別に追加で発生する支出であり、特に出張の頻度が高い企業や従業員数が多い企業にとっては、その総額は経営上の負担となり得ます。

また、非課税メリットを享受するためには、後述する「出張旅費規程」を法的な要件を満たす形で整備し、出張の事実を記録・管理するなど、適切な運用体制を構築・維持するための手間がかかる点も考慮する必要があります。

日当 vs 給与 支給額5万円のインパクト比較

日当のメリットを具体的に理解するために、月額5万円を「給与として上乗せ」した場合と「日当として支給」した場合のシミュレーションを見てみましょう。

項目給与として支給した場合日当として支給した場合差額
役員報酬(月額)550,000円500,000円-50,000円
日当(非課税)0円50,000円+50,000円
社会保険料(本人負担)約81,000円約74,000円-7,000円
所得税・住民税(本人負担)約54,000円約45,000円-9,000円
本人手取り額約415,000円約431,000円+16,000円
社会保険料(会社負担)約81,000円約74,000円-7,000円
会社の実質負担総額631,000円624,000円-7,000円

注:役員報酬50万円の人物をモデルとし、社会保険料率を約14.5%(本人負担)、所得税・住民税率を合計約20%と仮定した概算値です。実際の金額は個人の状況や保険料率により変動します。

この表が示すように、会社は支給総額を変えずに(この例ではむしろ削減しつつ)、社員の手取りを増やすことが可能です。これが日当制度の持つ強力な効果です。

多くの解説では法人税や所得税の節税効果が強調されますが、実は社会保険料の削減効果こそが、日当制度が持つ最大のインパクトかもしれません。法人税の節税効果は、企業が黒字で利益が出ている場合にのみ意味を持ちますが、赤字企業では効果がありません。

一方で、社会保険料は給与(報酬)の額面に対して直接的に、かつ会社と従業員の双方に課される「固定費」です。日当を活用して報酬額を調整することで、企業の利益状況に関わらず、この固定費を確実に圧縮できます。

特に、役員報酬や給与が社会保険料の等級が変わる境界線近くにある場合、日当制度の導入は保険料の大幅な削減につながる可能性を秘めています。この安定したコスト削減効果こそが、日当制度の隠れた、しかし真の価値と言えるでしょう。

日当を非課税にするための絶対条件:「出張旅費規程」の作成

日当がもたらす数々のメリットを享受するためには、避けて通れない、そして最も重要なステップがあります。それが「出張旅費規程」の作成です。この規程なくして、日当の非課税扱いはあり得ません。

なぜ「出張旅費規程」がなければ始まらないのか?

税務署が、会社が支給した日当を「給与(課税対象)」ではなく「業務に必要な経費(非課税)」として認めるためには、その支給が客観的で公平なルールに基づいて行われていることを証明する必要があります。その証明となる唯一の法的根拠が「出張旅費規程」です。

もし出張旅費規程が存在しないまま日当を支給した場合、それは単に社長や経理担当者の裁量で支払われたものと見なされ、実質的な給与であると認定されるリスクが極めて高くなります。給与と認定されれば、源泉所得税の徴収漏れや、過去に遡っての社会保険料の追徴など、深刻なペナルティにつながりかねません。

また、出張旅費規程は特定の役員や社員だけを対象とするものではなく、原則として出張の可能性がある全ての役員・従業員に公平に適用される必要があります。そのため、法的には就業規則の一部として扱われ、社内の正式なルールとして制定・周知することが求められます。

出張旅費規程に盛り込むべき必須項目リスト

税務調査にも耐えうる有効な出張旅費規程には、どのような項目を盛り込むべきでしょうか。以下に必須項目をリストアップしました。

目的(第1条)

この規程が何のために存在するのかを明記します。「この規程は、就業規則第〇条に基づき、役員または従業員が社命により出張する場合の旅費について定めたものである」のように、会社の基本ルールである就業規則と関連付けるのが一般的です。

適用範囲(第2条)

規程が誰に適用されるのかを定めます。「この規程は、役員及び全ての従業員について適用する」と明記し、全従業員が対象であることを明確にします。パートタイマーやアルバイトが出張する可能性がある場合は、その扱いについても触れておくと万全です。

出張の定義(第5条)

何をもって「出張」とするのか、客観的な基準を設けます。これにより、近隣への「外出」と、旅費支給の対象となる「出張」を明確に区別します。一般的には「通常の勤務地を起点として、片道〇〇km以上の目的地に移動するもの」といった距離基準が多く用いられます。

旅費の種類(第4条)

この規程で支給対象となる旅費の内訳を定義します。通常は「交通費」「宿泊費」「日当」の3つが基本となります。

旅費の金額(別表)

規程の心臓部です。役職別(社長、役員、部長、一般社員など)、国内外別、日帰りか宿泊かによって、日当や宿泊費の上限額を具体的に定めた一覧表(別表)を作成します。この金額の妥当性が、税務調査での重要なポイントとなります。

手続き(申請・精算)

出張の実行から精算までの一連の社内手続きを定めます。出張前の申請書の提出方法や期限、帰着後の出張報告書や経費精算書の提出義務、精算方法などを具体的に記載します。

その他

より実用的な規程にするために、「出張中の労働時間は所定労働時間とみなす」といった勤務時間の扱いや、私有車を利用した場合のルール、緊急時の対応などについても定めておくと、後のトラブルを防ぐ上で有効です。

出張旅費規程の作成は、単なる税務対策として捉えられがちです。しかし、そのプロセスと完成した規程そのものが、企業経営により広範なプラスの効果をもたらします。規程を作る過程では、「出張とは何か」「どの交通手段を認めるか」「緊急時の対応はどうするか」といった点を全社的に議論し、ルールとして明文化する必要があります。

この作業は、従業員一人ひとりの裁量に委ねられていた経費利用の基準を統一し、公平性を担保する「コーポレート・ガバナンス」の強化に他なりません。従業員間の不公平感をなくし、組織の一体感を醸成する効果も期待できます。

さらに、「出張中の労働時間は所定労働時間とみなす」といった条項は、勤怠管理が難しい出張時の労働条件を明確にし、サービス残業などの問題を未然に防ぐ「労務管理」の重要な基盤となります。

このように、出張旅費規程の作成は、節税という直接的なメリットだけでなく、企業の内部統制を強化し、潜在的な労務リスクをヘッジするという、より戦略的な経営活動であると位置づけることができるのです。

「不相当に高額」と否認されないための日当相場と設定のポイント

出張旅費規程を作成し、日当の金額を定める際に最も注意すべき点が、税務署から「不相当に高額」と判断されないことです。この一言で、せっかくの非課税メリットがすべて覆されてしまう可能性があります。

税務署がチェックする「不相当に高額」の2つの基準

国税庁は、非課税となる旅費の範囲を「その旅行について通常必要と認められるもの」と定めています。しかし、具体的に「いくらまでならOK」という明確な上限額を法律で定めているわけではありません。この曖昧さが、経営者を悩ませる原因となっています。

税務調査において、調査官が日当の金額の妥当性を判断する際には、主に2つの基準が用いられます。一つ目は「社内の均衡」です。支給額が、役員から一般社員まで、全ての対象者を通じて適正なバランスが保たれた基準で計算されているかが問われます。

例えば、社長の日当だけが突出して高く、一般社員との間に合理的な説明ができないほどの格差がある場合、社長への過大な利益供与(役員賞与)と見なされるリスクがあります。

二つ目は「社外との比較」です。支給額が、自社と同業種・同規模の他の会社が一般的に支給している金額と比較して、著しく高額になっていないかが問われます。税務署は業種ごとの相場観を把握しているため、社会通念からかけ離れた金額は否認の対象となりやすいです。

なお、社長一人の会社や同族経営の会社であっても、これらの要件を満たした出張旅費規程があり、出張の事実が客観的に証明できれば、日当制度の活用は可能です。ただし、利益操作の手段として濫用されやすいと見なされる傾向があるため、より慎重な運用が求められます。

役職別・国内外別の日当・宿泊費の相場

自社で日当の金額を設定する際、上記の基準を満たしていることを客観的に示すためには、世間一般の相場を参考にすることが極めて重要です。以下に、複数の調査データを基にした役職別・出張形態別の相場をまとめました。

出張手当(日当)の役職別・出張形態別 相場一覧

役職国内(日帰り)国内(宿泊)海外(宿泊)
社長・役員2,500円 – 5,000円3,000円 – 5,500円6,500円 – 7,000円
部長クラス2,500円 – 3,500円2,900円 – 3,500円5,500円 – 6,000円
課長クラス2,200円 – 3,200円2,700円 – 3,300円5,200円 – 5,600円
一般社員2,000円 – 2,800円2,300円 – 3,000円4,700円 – 5,200円

出典:複数の調査データより作成。海外出張の日当は地域によって変動します。宿泊費は別途、実費または定額で支給されるのが一般的です。

多くの経営者は、この相場の範囲内に金額を設定すれば安全だと考えがちです。しかし、それは必ずしも正しくありません。税務調査で本当に問われるのは、金額そのものよりも「なぜ、あなたの会社ではその金額に設定したのですか?」という合理的な根拠です。

例えば、最新技術の動向を調査するために物価の高いシリコンバレーへ出張するIT企業の社長と、近隣県へ日帰り営業に行く地方メーカーの社長とでは、「通常必要とされる費用」が全く異なるのは自明です。

したがって、上記の相場データはあくまで自社の基準を構築するための「出発点」と捉えるべきです。最終的には、自社の事業内容、出張の主な目的、出張先の物価水準、そして可能であれば同業他社の事例などを総合的に勘案し、税務調査官に対して論理的に説明できるストーリーを構築することが最も重要になります。

そのために、出張旅費規程を制定する際の取締役会議事録などに、金額設定の根拠を記録として残しておくことは、将来のリスクに備える有効な防御策となります。単に相場を守るという受動的な姿勢から、自社の正当性を合理的に主張するという能動的な姿勢への転換が、現代の税務コンプライアンスでは求められているのです。

インボイス制度と「出張旅費特例」

インボイス制度と「出張旅費特例」

2023年10月1日に開始されたインボイス制度は、企業の経費精算、特に旅費精算の実務に大きな影響を与えました。この新しい制度下で、日当や出張経費の消費税メリットを維持するために不可欠なのが「出張旅費特例」の正しい理解です。

インボイス制度の基本と旅費精算への影響

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、消費税の仕入税額控除を受けるために、原則として税率や事業者登録番号などが記載された「適格請求書(インボイス)」の保存を義務付ける制度です。

これにより、従業員が交通費や宿泊費を立て替えた場合、その都度、会社宛のインボイスを入手してもらう必要が生じました。しかし、公共交通機関のようにインボイスの発行が難しいケースや、従業員が個人の名前で領収書を受け取ってしまうケースも多く、旅費精算の実務が非常に煩雑になるという課題が浮上したのです。

救済措置「出張旅費特例」とは?

この実務上の混乱を避けるための救済措置として設けられたのが「出張旅費特例」です。

この特例は、従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などのうち、「その旅行に通常必要と認められる部分」については、インボイスの保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿のみを保存することで仕入税額控除を認めるというものです。

これにより、企業はインボイスの回収という煩雑な作業から解放され、従来通り消費税の節税メリットを享受できます。

出張旅費特例を適用するための3つの条件

この便利な特例を適用するためには、3つの条件をすべて満たす必要があります。第一に、特例の対象となる費用であることです。対象は、あくまで従業員等に支給する出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当に限られます。例えば、従業員が立て替えた取引先との接待交際費などは、この特例の対象外となるため注意が必要です。

第二に、金額が「通常必要と認められる範囲」であることです。特例が適用されるのは、社会通念上、妥当な金額に限られます。この「通常必要と認められる範囲」の判断は、前章で解説した所得税が非課税となる旅費の範囲に準じて行われます。出張旅費規程で定められた妥当な金額であれば、この要件を満たすと考えられます。

第三に、求められる帳簿記載要件を満たしていることです。インボイスの保存が不要になる代わりに、帳簿に仕入れの相手方の氏名または名称、取引年月日、取引内容、支払対価の額、そして特例の対象であることがわかる記載(例:「出張旅費特例」)を正確に行う必要があります。

実務で間違いやすい「公共交通機関特例」との違い

出張旅費特例とともに出張関連でよく使われるのが「公共交通機関特例」です。この2つは名称が似ているため混同されやすいですが、適用条件が全く異なるため、正確に使い分ける必要があります。

「出張旅費特例」 vs 「公共交通機関特例」比較表

特徴出張旅費特例公共交通機関特例
対象費目出張旅費、宿泊費、日当など費目の限定なし。タクシーや航空機も対象。3万円未満の公共交通機関(船舶、バス、鉄道)による旅客運送に限定。タクシー、航空機は対象外。
金額上限上限なし。通常必要と認められる範囲であれば3万円以上でも適用可。3万円未満の取引に限られる。
支払者従業員が立て替え、会社がその従業員に支給する場合に適用。会社のコーポレートカードでの直接決済は対象外。支払者が会社か従業員かを問わない。

出典:国税庁資料等を基に作成。

インボイス制度の導入は、一見すると経理業務を複雑化させただけのように思えます。しかし、その影響を深く読み解くと、逆説的に「出張旅費規程」の戦略的価値を飛躍的に高めたことがわかります。

制度導入前、出張旅費規程の主な価値は「所得税の非課税」や「社会保険料の対象外」といった、税務・労務上のメリットを確保することにありました。しかし、インボイス制度の開始により、原則としてすべての経費精算でインボイスの回収と確認という膨大な事務負担が発生するはずでした。

この課題を解決したのが「出張旅費特例」です。そして、この特例を適用する鍵となるのが「通常必要と認められる範囲」という基準です。この基準を満たしていることを示す最も強力な客観的証拠こそが、まさしく企業が整備した「出張旅費規程」なのです。規程に基づいて支給された日当や旅費は、「通常必要」であるという企業の主張を裏付けます。

したがって、インボイス制度は、出張旅費規程の重要性を、従来の「税務・労務」という領域から、「経理実務の効率化と生産性向上」という第3の次元にまで引き上げました。規程の有無が、企業のバックオフィス部門の生産性を直接左右する時代になったと言えるのです。

ケース別・日当に関するQ&A

日当制度の運用にあたっては、個別の状況に応じた疑問が生じることがあります。ここでは、よくある質問とその回答をまとめました。

個人事業主と日当の支払い

個人事業主本人が自分自身に日当を支払っても、それは経費として認められません。個人事業主の出張経費として認められるのは、交通費や宿泊費など、事業のために実際に支出した実費のみです。日当という概念は、給与所得者に対して適用されるものであるため、事業主本人には適用されないのです。

ただし、個人事業主が従業員を雇用している場合は話が別です。その従業員に対しては、法人と同様に出張旅費規程を定め、日当を支払うことが可能であり、その日当は事業の必要経費として計上できます。

海外出張における日当の消費税処理

海外出張の日当は、原則として「不課税」または「対象外」となり、課税仕入れにはなりません。日本の消費税は、国内における商品の販売やサービスの提供を課税対象としています。海外での滞在中に発生する費用を補填する海外出張の日当は、国外での消費を前提としているため、日本の消費税の課税対象外(不課税取引)となります。

そのため、経理処理上は、国内出張の日当(課税仕入れ)と海外出張の日当(不課税仕入れ)を明確に区別して計上する必要があります。国際航空券の代金や海外の空港利用料なども、課税・免税・不課税が複雑に混在しているため、精算時には注意が必要です。

派遣社員への日当の支払い義務

派遣先企業に派遣社員への日当を支払う直接的な法的義務はありません。支払い義務の所在は、派遣先企業と派遣元企業(派遣会社)との間の契約によります。給与や手当に関する事項は、雇用主である派遣元企業が責任を負うのが基本です。

しかし、実務上の配慮も必要です。派遣先の正社員と派遣社員が一緒に同じ業務で出張する場合、正社員には日当が支給されるのに派遣社員には支給されないとなると、不公平感が生じ、チームワークやモチベーションに悪影響を及ぼす可能性があります。

そのため、派遣契約を結ぶ際に、出張時の費用負担について事前に派遣元企業と協議し、派遣先の基準を考慮した待遇を取り決めておくことが望ましいでしょう。

税務調査で日当が否認されるケース

主に以下のような客観性や妥当性を欠くケースで、日当が否認されるリスクが高まります。

  • 出張旅費規程が存在しない、または内容が不十分である
  • 金額が社会通念上、不相当に高額である
  • 出張の事実を証明できない(出張報告書や交通機関の利用履歴などがない)
  • 制度の濫用が疑われる(特に一人社長や同族経営の会社)
  • 「出張」の定義に当てはまらない活動への支給(例:定例の役員会への出席)

まとめ

本記事を通じて、日当が単なる経費精算の一項目ではなく、企業の財務と労務に大きな影響を与える戦略的な制度であることを解説してきました。日当は、正しく設計・運用すれば、法人税・消費税・社会保険料を削減し、従業員の手取りを非課税で増やすことができる、極めて強力な経営ツールです。

その多大なメリットを確実に享受し、税務上のリスクを回避するための成功の鍵は、以下の3つの柱を盤石に打ち立てることに集約されます。

  • 盤石な法的根拠としての「出張旅費規程」
    全ての役員・従業員に公平に適用される、客観的で詳細な規程を作成し、社内の正式なルールとして整備することが、全ての出発点です。これがなければ、日当の非課税メリットは成り立ちません。
  • 否認リスクを回避する「合理的な金額設定」
    社内外のバランスを考慮した相場を参考にしつつ、自社の事業実態に合った、税務調査で説明可能な金額を設定することが不可欠です。「なぜこの金額なのか」という論理的な根拠を持つことが、最大の防御策となります。
  • コンプライアンスを遵守した「正確な経理処理」
    インボイス制度下における「出張旅費特例」の要件を正しく理解し、求められる帳簿記載を徹底することが、消費税の節税効果を確実なものにします。特に、国内出張と海外出張の消費税区分の違いには注意が必要です。

本記事で得た知識を基に、ぜひ一度、自社の日当制度のあり方を見直してみてください。まだ導入していない企業は、この機会に戦略的な制度設計に着手することを強くお勧めします。適切に運用された日当制度は、企業のコスト競争力を高め、従業員満足度を向上させる、確かな未来への投資となるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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