
キャッシュバックとは、商品やサービスの購入後にその代金の一部を現金で払い戻す仕組みです。企業活動では、例えばクレジットカード利用時の還元や販促キャンペーンなど、キャッシュバックに関わる場面が多く見られます。自社がキャッシュバックを受け取る場合(仕入先やカード会社からの返金)もあれば、キャッシュバックを支払う場合(顧客や取引先への返金)もあります。こうした取引は一見シンプルに「お得な返金」に思えますが、消費税の課税関係や会計処理に与える影響は見逃せません。
キャッシュバックは企業会計・税務上どのように扱うべきか。適切な処理を理解し、消費税への対応を誤らないことが重要です。
キャッシュバックの会計処理を誤ると、利益計算のズレや消費税の申告誤りにつながる恐れがあります。特に消費税では「課税取引」か「非課税(不課税)取引」かの判断が求められ、処理を間違えると税務調査で指摘されるリスクもあります。そこで本記事では、企業経営者や経理担当者の方向けに、キャッシュバックの種類ごとの会計処理と消費税の取扱いをステップバイステップで解説します。
目次
1. キャッシュバックの種類と会計処理の基本
まず、キャッシュバックにはいくつか種類があり、状況によって会計処理や税務上の扱いが異なります。それぞれの基本を押さえておきましょう。
購入時のキャッシュバック
企業が物品やサービスを購入した際に受けられるキャッシュバックです。例えば法人クレジットカードの利用特典や、仕入先メーカーからの購入額に応じたリベート(仕入割戻し)などが該当します。会計処理上は、受け取った金額を収益として計上するか、支出の減額として処理するか判断が必要です 。基本的には特定の購入にひも付く返金であれば仕入値引(費用のマイナス)や雑収入として計上します。消費税法上も、仕入に対する対価の返還として課税取引(課税仕入の減額)に該当するケースが多いです。一方、購入と直接対応しない第三者からのキャッシュバック(例:カード会社のポイント還元)は課税の要件を満たさず課税対象外(不課税)になります。
売上に関連するキャッシュバック
企業が自社の製品・サービスを販売する際に、購入者(顧客)に対して行うキャッシュバックです。典型例は消費者向けのキャッシュバックキャンペーンで、「商品代金の○%を後日現金還元」といった販促活動が該当します。
会計処理では、販売時にその場で値引きする場合と、後日返金する場合で異なります。当日その場で値引きする場合は、売上値引として最初から売上額を減額計上します。後日振り込み等でキャッシュバックする場合は、販売促進費や広告宣伝費といった販促コストの勘定科目で処理するのが一般的です。
税務上は、販売額に応じて行う返金は売上代金の一部返還(売上割戻し)とみなされ、消費税法上「対価の返還等」に該当します。つまり課税売上のマイナスとして扱われるべき取引です。一方、販売額に応じない一律の景品的支出などは単なる費用(課税の対象外)となります。
インセンティブとしてのキャッシュバック
取引先や販売代理店に対する販売奨励金など、ビジネス上のインセンティブとして支払われるキャッシュバックも存在します。例えば「一定数量以上仕入れてくれたら○円キャッシュバック」といったメーカーから代理店への奨励金が典型です。この場合、受け取る側(代理店)から見れば前述の「購入時のキャッシュバック(仕入割戻し)」に当たりますし、支払う側(メーカー)から見れば「売上に関連するキャッシュバック(売上割戻し)」に当たります。
したがって基本的な扱いは前述のとおりですが、両社で認識を合わせ、適切に仕訳・消費税処理することが重要です。経済的実質として、購入とキャッシュバックに明確な対応関係がある場合は値引き・返金として処理し、対応関係がない特殊なケースでは役務提供の対価(例えば紹介料や協力費等)と判断される場合もあります。インセンティブ目的のキャッシュバックは契約内容を踏まえ、その性質に応じて正しく会計処理しましょう。
2. キャッシュバックを受け取る場合の会計処理
自社がキャッシュバックを受け取る側になった場合、どのように仕訳し消費税を処理するかを解説します。主に「仕入先などから受け取る場合」と「クレジットカード会社など第三者から受け取る場合」に分けて考えます。
仕訳の例(仕入先からのキャッシュバック)
例えば、仕入先A社から年間購入量に応じて後日5万円のキャッシュバック(リベート)を受け取ったケースを考えます。この場合、受取額は特定の仕入に対応した値引きとみなせるため、仕入値引または雑収入で計上します。
仕訳例としては、キャッシュバックの確定時に「(借方)未収入金 50,000円 / (貸方)雑収入(または仕入値引) 50,000円」と計上し、入金時に未収入金の消込仕訳を行うイメージです。元の仕入計上を修正せず雑収入とする方法は、会計上総額主義を保つため推奨される処理です。いずれにせよ最終的に5万円分、費用が減り利益が増加する効果は同じです。
消費税の取り扱い(受取側)
仕入先から受け取るキャッシュバックは、基本的に課税取引として扱います。消費税法上「仕入れに係る対価の返還等」と位置づけられ、受け取った側では仕入控除税額(仕入税額控除)を調整する必要があります。上記の例でも、本来仕入時に支払った消費税の一部が返還された形になるため、その返還分について仕入税額控除を減らす対応(または課税売上に準じた計上)を行います。
実務的には、受け取ったキャッシュバック5万円は税抜5万円(消費税額の調整は仕入側で済んでいる前提)として雑収入計上し、消費税区分を「課税仕入れの返還等(課税対応)」とするケースが多いでしょう。
なお、クレジットカード会社やポイント提供会社からのキャッシュバックの場合、自社はその第三者に対して何ら役務提供していないため消費税の課税対象外(不課税)となります。この場合の仕訳は後述のとおり雑収入計上しますが、消費税区分は不課税で処理します。
企業財務・利益への影響
キャッシュバックを受け取れば、その分コスト削減または収益増加となり利益が増えます。適切に計上しておかないと、本来得られた利益を過少計上する恐れがあります。特に少額のポイント還元などは経理上見落としがちなので注意が必要です。
また、雑収入として処理した場合は営業外収益が増える形になり、仕入値引として処理した場合は売上原価や経費が減る形になります。どちらでも最終利益は同じですが、財務分析上の表示が異なるため、自社の経費管理方針に沿って科目選択するとよいでしょう。
3. キャッシュバックを支払う場合の会計処理

次に、自社がキャッシュバックを支払う側になった場合の処理です。消費者キャンペーンでの返金や、取引先への販売奨励金支払いがこれに当たります。支払方法(その場で値引きするか後日現金を渡すか)によって会計処理が変わります。
仕訳の例(その場で値引きする場合)
販売時に即時キャッシュバック(値引き)を行うケースでは、最初から値引き後の金額で売上計上します 。例えば100,000円の商品に対しレジで10%(10,000円)値引きキャッシュバックを適用した場合、「(借方)現金預金 90,000円 / (貸方)売上 90,000円」と売上計上します (消費税も90,000円に対する課税売上として認識)。
このように当初から売上を減額計上すれば追加の仕訳は不要で、値引き分は帳簿上売上値引として処理されたことになります。
仕訳の例(後日支払う場合)
販売時は通常通り総額で売上計上し、後日キャッシュバック分を支払うケースです。例えば、100,000円の商品を一旦 全額full(10万円+消費税)の価格で売上計上し、後日顧客に10%の10,000円を銀行振込で返金したとします。
この場合の仕訳例は、販売時に「(借方)現金預金 110,000円 / (貸方)売上 100,000円、貸方:預り消費税 10,000円」と計上し、キャッシュバック支払時に「(借方)販売促進費 10,000円 / (貸方)現金預金 10,000円」とします 。
このように販売促進費(または広告宣伝費)で計上すれば、帳簿上は売上10万円、費用1万円が計上され、利益は当初から値引きした場合と同じになります。
消費税の扱い(仕入税額控除の可否)
自社が支払うキャッシュバックについて、消費税法上は「売上に係る対価の返還等」に該当すれば課税売上のマイナスとして扱えます。
前述の後日支払いの例でも、本来受け取った110,000円のうち10,000円を返還しているため、実質的な課税売上は100,000円となります。消費税申告上はこの返還額に対応する消費税(10,000円のうち税相当額909円)は、預かった消費税から減額できることになります。ただし、実務上消費者相手ではインボイス発行もないため、自社内部で返金記録を保存しておくことで対応します。
逆に、販売数量や金額に応じたものではなく、一律のプレゼント的支出など対価性がない場合は不課税取引となり、消費税の調整は行いません(支払った金額に対し仕入税額控除も発生しません)。
まとめると、キャッシュバック支払いに消費税は基本的にかかりませんが、それが売上代金の返還であるなら出荷時の消費税を減額調整でき、単なる費用とみなすなら仕入税額控除の対象にもならないということです。
費用計上科目(販促費・広告宣伝費)
後日支払うキャッシュバックは、その性質から販売促進費や広告宣伝費として処理するのが一般的です。販売促進費は特定の顧客や取引先に売上増加のため直接払う費用、広告宣伝費は不特定多数に宣伝する費用と区別されます。
今回のように個別顧客に現金を返す場合は販売促進費が適切でしょう。一方、店頭で即時値引きする形のキャンペーンの場合は、売上値引勘定で処理しても構いません。いずれにせよ勘定科目の使い分けにより、後から販促費用を集計しやすくなります。自社の経理方針に従い、科目設定と消費税区分を明確にしておきましょう。
4. キャッシュバックと税務調査の注意点
キャッシュバックの会計・税務処理を誤ると、税務調査で指摘を受けたり思わぬ追徴を招くリスクがあります。以下に注意すべきポイントをまとめます。
誤った処理が引き起こすリスク
例えば、本来課税対象外であるカード会社からのキャッシュバックを課税売上に含め消費税を多く納めてしまったり、逆に課税売上の返還である顧客へのキャッシュバックを単なる費用計上してしまい消費税の申告上過大に納付してしまうケースが考えられます。また、企業によってはキャッシュバックの受取額を売上や利益に計上せず放置してしまい、所得隠しと見なされる恐れもあります。税務調査では入出金の流れから「この返金は何か?」とチェックされるため、処理ミスはすぐ発覚します。
適切な証憑管理と記録の重要性
キャッシュバックに関する契約書・通知メール・申請書・振込記録などの証憑書類は必ず保存しましょう。受け取る側では、誰からいくらのキャッシュバックを受領したか分かる書面が必要です(例:カード会社の利用明細に記載のキャッシュバック額)。
支払う側では、キャンペーンの概要資料や顧客リスト、振込明細などを備えておきます。特に売上の一部返還として消費税を調整する場合、その根拠となる証拠が求められます。証憑が整っていれば税務調査官への説明もスムーズに行えます。
税務調査での指摘事例
実際の調査では、販売奨励金と交際費の区分ミスや収益計上漏れなどが指摘されることがあります。例えば、本来は最終消費者への返金で「対価の返還等」に該当し課税売上のマイナス処理ができるものを、誤って交際費扱い(課税対象外)として申告していたケースでは、課税売上の修正が必要と指摘されました。
また逆に、取引先に対する販売奨励金を交際費だと調査官に誤解され指摘を受けた事例もあります(販売促進目的で取引先に支払う奨励金は原則交際費ではなく販促費です)。このようにキャッシュバックの性質を巡って勘違いが生じることもあるため、自社の処理根拠を論理立てて説明できるようにしておくことが大切です。
5. 実務で押さえておくべきポイントと事例紹介

では、日々の経理実務でキャッシュバック処理を行う際の重要ポイントやケーススタディを見てみましょう。
キャッシュバック処理の基本を押さえ、規模に関わらず正確な経理を実践しましょう。大企業・中小企業それぞれの事例から学びます。
よくあるミスと修正方法
ミス例①:キャッシュバックの計上漏れ
クレジットカードのキャッシュバックが月々の引落額に充当されている場合、経理担当者が仕訳を起こさず放置してしまうことがあります。このミスにより収益計上が漏れ、利益が少なく計上されてしまいます。
修正方法:カード明細を確認し、見落としていた還元額を発見次第、該当期に遡って雑収入計上するか、判明した期にまとめて計上します。少額でも継続的に発生する場合は、毎月明細チェックをルーティン化しましょう。
ミス例②:消費税区分の誤り
仕入先からのキャッシュバックを受けたのに、不課税扱いで雑収入計上してしまったケースや、逆にカード会社からの還元を課税売上として処理したケースです。
修正方法:それぞれの取引が課税か非課税か再確認し、消費税区分を訂正します。不明な場合は税理士等に相談し、必要なら過去の消費税申告を修正(修正申告または更正請求)する対応も検討します。正しい区分で入力し直すことで、以後の申告漏れ・誤りを防げます。
ミス例③:科目の選択ミス
顧客への後日キャッシュバックを売上値引ではなく販促費で処理すべきところを誤って交際費科目で計上していた例などです。交際費は法人税上限度額があり、本来販促費で問題ない支出を交際費にしてしまうと不利になることもあります。
修正方法:仕訳の科目を正しい販促費(または売上値引)に振り替えます。同時に社内ルールで科目使用基準を明確化し、担当者への周知・チェック体制を整えましょう。
ケーススタディ:大企業 vs. 中小企業の処理の違い
キャッシュバック処理は企業規模によって運用に違いが見られることがあります。例えば、大企業のケースでは以下のようになります。
大企業の事例
全国展開する小売チェーンA社は、取引先メーカーとの契約で年間仕入高に応じたキャッシュバック(リベート)を受け取っています。A社では会計システム上で自動的に「仕入割戻益」という勘定科目に計上される仕組みを整備し、同時に消費税の仕入控除税額も自動調整されます。
また、自社が行うキャッシュバックキャンペーンについては社内で明確な経理フローを策定しています。販売部門から経理部門へキャンペーン内容と返金予定額の連絡が入り、経理部門は売上値引や販促費として正確に仕訳計上します。インボイス制度対応も踏まえ、社内伝票に顧客名や返金額を紐付けて保存するなど、税務調査に耐えうる詳細な記録管理が行われています。結果として、キャッシュバックに伴う消費税の過不足や経理ミスはほとんど発生していません。
中小企業の事例
一方、中小企業B社(地方の家電販売店)では、ポイント還元やキャッシュバックキャンペーンを不定期に実施していますが、経理担当者は専任でなく他業務と兼任のため処理が煩雑です。過去には、メーカーからの販促奨励金を受け取った際に科目を誤り、一旦売上に計上してしまったことで税務上の修正が必要になったことがありました。
また、自社がおこなったキャッシュバック支払いを全て「広告宣伝費」にまとめて計上していましたが、その中に実は販売額に応じた返金(本来は売上値引相当)が混在していたため、消費税計算で不利になっているケースも見受けられました。現在B社では、この反省から税理士の指導を受け、取引ごとに性質を判断して科目・消費税区分を使い分ける運用に改めています。小規模でも適切に処理を行うことで、結果的に税負担の適正化と経理の信頼性向上につながっています。
以上の事例から分かるように、企業規模に関係なく基本原則に沿った会計処理と消費税ルールの遵守が重要です。大企業はシステムやルールでミスを防ぎ、小規模企業は人為的チェックで対応するなど、自社の状況に合わせた管理体制を築きましょう。
まとめ
キャッシュバックに関する会計処理と消費税の取り扱いについて、以下のポイントを改めて確認しましょう。
正確な会計処理の重要性
キャッシュバックの受け取り・支払いは企業の収益や費用に影響します。正しく仕訳を行い、漏れや科目違いを防ぐことが健全な財務管理に直結します。特に少額なカード還元なども積み重なれば無視できない額になり得るため、丁寧に記録しましょう。
消費税適用ルールの理解
消費税法上、キャッシュバックが「対価の返還等」に該当するか否かで課税関係が変わります。仕入先からのリベートは課税仕入の値引き(仕入税額控除の調整対象)、顧客への返金は売上代金の返還(課税売上のマイナス)となり得ます。一方、第三者からの特典的キャッシュバックは課税対象外です 。これらの違いを把握し、消費税の申告で損をしないよう適切に処理しましょう。
実務で活かせるポイント
社内の経理体制に応じて、キャッシュバック処理のフローやマニュアルを整備することをお勧めします。例えば、カード明細のチェックリストを作成したり、キャンペーン実施時には担当部署から経理への連絡ルールを定めたりすることで、抜け漏れ防止につながります。また、迷ったときは税務の専門家に相談し、その都度正しい処理を確認する姿勢も大切です。
本記事で解説したように、キャッシュバックは会計上・税務上ともに注意点がありますが、基本を押さえれば決して難しいものではありません。経営者や経理担当者の皆様には、これらのポイントを踏まえて日々の取引に向き合っていただきたいと思います。正確な会計処理と消費税対応を実践し、自社の健全な経営管理に役立てていきましょう。
PayPay領収書とは?必要なケースから取得方法・確定申告ま…
近年、スマホ決済サービスのPayPayを始めとしたバーコード決済が広く普及しています。現金を使わずに…