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下請法の支払条件について解説!60日ルールと未払いを防ぐための知識とは

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下請法支払条件

あなたの会社の支払いサイクルは、本当に法律を守れているでしょうか。下請業者への支払いが少し遅れるくらい、と軽く考えているかもしれません。しかし、その「少しの遅れ」が、実は下請法違反という重大なコンプライアンス問題に発展する可能性があります。

下請法は、単なる取引上のルールではありません。違反すれば、遅延利息という金銭的な負担はもちろん、公正取引委員会からの勧告と企業名の公表という、取り返しのつかない社会的信用の失墜につながるリスクをはらんでいます。

この記事を読めば、下請法の支払条件、特に重要な「60日ルール」のすべてを理解できます。そして、法律違反という見えない経営リスクから会社を守り、健全なキャッシュフローと強固なサプライチェーンを築くための具体的な知識が手に入ります。

下請法のルールは複雑に思えるかもしれませんが、一つひとつの要点を正しく理解すれば、決して難しいものではありません。この記事では、そのポイントをわかりやすく解説します。コンプライアンスを固め、信頼される企業として成長するための第一歩を、ここから踏み出しましょう。

自社は対象?下請法の基本と適用範囲

下請法の支払条件を理解する前に、まず自社の取引が下請法の対象になるのかを正確に把握する必要があります。この法律は、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、立場の弱い下請事業者を不当な取引から守るために制定されました。

すべての取引に適用されるわけではなく、「親事業者」と「下請事業者」の資本金区分と「取引内容」という2つの条件によって対象が決まります。

親事業者と下請事業者の定義

下請法では、発注側を「親事業者」、受注側を「下請事業者」と呼びます。どちらに該当するかは、契約書の名称ではなく、両社の資本金の額によって機械的に決まります。

対象となる4つの取引内容

下請法が対象とする取引は、大きく分けて以下の4種類です。

  • 製造委託
  • 修理委託
  • 情報成果物作成委託
  • 役務提供委託

製造委託は、親事業者が仕様を指定して、物品の製造や加工を委託する取引です。修理委託は、親事業者が物品の修理を委託する取引を指します。情報成果物作成委託は、ソフトウェア、デザイン、コンテンツなどの制作を委託する取引であり、役務提供委託は、運送、ビルメンテナンス、情報処理などのサービス提供を委託する取引を指します。

これらの取引内容と、後述する資本金区分を組み合わせることで、下請法が適用されるかが決まります。

下請法の適用対象となる資本金区分

自社と取引先の資本金を以下の表に当てはめて、下請法の対象となるかを確認してください。個人事業主は資本金1千万円以下の法人と同様に扱われます。

委託内容親事業者下請事業者
製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託資本金3億円超資本金3億円以下 (個人含む)
製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下 (個人含む)
情報成果物作成委託・役務提供委託資本金5千万円超資本金5千万円以下 (個人含む)
情報成果物作成委託・役務提供委託資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下 (個人含む)

中堅企業が陥りやすい「両方の立場」というリスク

この資本金区分を見ると、特に資本金1千万円超から3億円以下の企業は注意が必要なことがわかります。なぜなら、これらの企業は取引相手によって「親事業者」にも「下請事業者」にもなり得るからです。

例えば、資本金5千万円のIT企業を考えてみましょう。この企業が資本金10億円の大企業からシステム開発を受注した場合、この取引では「下請事業者」となります。一方で、このIT企業が開発業務の一部であるデザイン制作をフリーランス(個人事業主)に委託した場合、今度は自らが「親事業者」となり、フリーランスが「下請事業者」となります。

このように、自社が下請事業者として権利を主張することに慣れていても、発注側になった瞬間に親事業者としての義務を果たさなければならないことを忘れがちです。この「立場の転換」に気づかないまま、自社が受けた支払条件をそのまま下請事業者に適用してしまうと、意図せず下請法違反を犯すリスクが非常に高くなります。中堅企業こそ、社内の発注管理体制と法務知識の徹底が不可欠です。

最重要ポイント「60日ルール」の徹底理解

最重要ポイント「60日ルール」の徹底理解

下請法の支払条件において、最も重要で、かつ違反が起こりやすいのが「60日ルール」です。これは、親事業者が下請事業者に対して負う4つの義務のうち、「支払期日を定める義務」の中核をなす規定です。

支払期日は「受領日」から60日以内

下請法では、「下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」と定められています。

このルールで絶対に間違えてはならないのが、60日間のカウントが始まる「起算日」です。起算日の認識を誤ると、気づかないうちに法律違反を犯すことになります。

起算日は「検収日」ではなく「受領日」

多くの企業が誤解しがちな点ですが、60日ルールの起算日は、親事業者が成果物を検収した日や検収が完了した日ではありません。あくまで、下請事業者から物品やサービスを物理的に受け取った日(受領日)です。

役務提供(サービス)の場合は、その役務の提供が完了した日が起算日となります。親事業者側の社内事情、例えば「検査に時間がかかる」「社内の承認プロセスが複雑」といった理由は、支払遅延の正当な理由にはなりません。

具体的な計算方法と事例

実務上、60日以内という期間は「2ヶ月以内」として運用されることが一般的です。これにより、月の日数(28日、30日、31日)に関わらず計算が簡略化されます。

例えば、「毎月末日締め、翌月20日払い」という支払条件は問題となりません。この場合、仮に7月1日に納品(受領)があっても、支払日は8月20日となり、受領日から60日以内に収まるため、この支払条件は適法です。

一方で、「毎月末日締め、翌々月10日払い」という条件は問題となります。この条件では、7月1日に納品(受領)があった場合、支払日は9月10日となり、受領日から60日を明らかに超えてしまいます。そのため、この支払条件は下請法違反となります。

支払期日を定めなかった場合はどうなるか

もし親事業者が支払期日を明確に定めなかった場合、法律は非常に厳しい規定を設けています。支払期日を定めなかった場合、成果物を受領した日が支払期日とみなされます。つまり、受領したその日のうちに支払わなければ、即座に支払遅延となります。

また、60日を超える支払期日を定めた場合は、成果物を受領した日から60日目が支払期日とみなされます。

下請事業者の「合意」は免罪符にならない

下請法の最も特徴的な点の一つは、これが「強行法規」であるということです。これは、当事者間の合意よりも法律の規定が優先されることを意味します。

たとえ下請事業者が「支払いは90日後で構いません」と書面で合意していたとしても、その合意は法的に無効です。親事業者は、下請事業者の同意を理由に60日ルール違反の責任を免れることはできません。

この法律は、力関係の差により下請事業者が不利な条件を飲まざるを得ない状況を防ぐことを目的としています。したがって、支払条件のコンプライアンスに関する全責任は、親事業者が一方的に負うことになります。

支払遅延だけじゃない!親事業者の義務と禁止事項

下請法の順守は、60日ルールを守るだけで終わりではありません。親事業者には、支払期日に関する義務以外にも、取引全体を通じて守るべき3つの義務と、行ってはならない11の禁止行為が定められています。これらを理解しないと、思わぬところで法律違反を犯す可能性があります。

親事業者に課せられる4つの義務

下請法は、親事業者に対して以下の4つの義務を課しています。

  • 書面の交付義務(3条書面)
  • 支払期日を定める義務
  • 書類の作成・保存義務
  • 遅延利息の支払義務

発注する際には、直ちに下請代金の額、支払期日、給付内容などを記載した書面を交付しなければなりません。口頭での発注は認められず、この書面の不交付は最も多い違反行為の一つです。

また、給付の受領日から60日以内に支払期日を定める義務、取引の記録を記載した書類を作成し2年間保存する義務、そして支払期日までに代金を支払わなかった場合に後述する高い利率の遅延利息を支払う義務があります。

親事業者の11の禁止行為

以下の11項目は、親事業者が下請事業者に対して行うことが固く禁じられています。下請事業者の同意があっても違反となります。

  1. 受領拒否
  2. 支払遅延
  3. 下請代金の減額
  4. 返品
  5. 買いたたき
  6. 購入・利用強制
  7. 報復措置
  8. 有償支給原材料等の対価の早期決済
  9. 割引困難な手形の交付
  10. 不当な経済上の利益の提供要請
  11. 不当な給付内容の変更・やり直し

具体的には、下請事業者に責任がないのに納品物の受け取りを拒否したり、発注後に代金を減額したりすることは禁止されています。また、通常の対価に比べて著しく低い価格を一方的に定めることや、正当な理由なく自社製品を強制的に購入させることも違反行為です。

特に注意すべき「手形払い」の新しい潮流

かつては、支払期日からさらに120日といった長いサイト(支払猶予期間)の手形を交付することが常態化していました。これでは下請事業者の資金繰りが著しく悪化するため、政府は近年、この慣行の是正に強く乗り出しています。

2021年に中小企業庁と公正取引委員会が連名で出した通達により、支払いはできる限り現金で行うこと、手形で支払う場合はそのサイトを60日以内とすること、そして手形の割引料は親事業者が勘案することが強く要請されています。

この手形サイト60日以内という要請は、法律上の「義務」とは少し異なりますが、政府の明確な方針です。支払期日(受領後60日以内)にサイトが70日の手形を交付すれば、支払遅延という法律違反にはあたりません。しかし、これは政府が是正を目指す「望ましくない商慣行」そのものです。

規制当局はこうした動きを注視しており、法律の条文だけを守る「最低限のコンプライアンス」では、企業の社会的責任を問われる可能性があります。これからの時代、取引先から選ばれる企業であるためには、法律の精神を汲み取り、手形サイトの短縮や現金払いに積極的に移行することが、競争力の一つとなります。

違反した場合の重い代償

下請法に違反した場合、親事業者には金銭的、行政的、そして社会的なペナルティが科せられます。特に、社会的な信用の失墜は、企業の存続を揺るがしかねないほど深刻な影響を及ぼします。

金銭的ペナルティ:年率14.6%の遅延利息

支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、親事業者は年率14.6%という高い利率の遅延利息を下請事業者に支払う義務を負います。この利率は、当事者間の契約で定められた利率よりも優先される法定利率です。

計算期間は、本来の支払期日である「受領日から60日を経過した日」から、実際に支払いが行われた日までとなります。

行政処分:指導から勧告へ

下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会または中小企業庁による調査が行われます。調査の結果、違反行為が認められた場合、まずは違反を是正するよう「指導」が行われます。令和3年度には7,922件の指導が実施されており、多くの違反がこの段階で是正されています。

指導に従わない、または違反内容が悪質であると判断された場合、より重い行政処分である「勧告」が出されます。

最大のリスク:企業名の公表による信用の失墜

公正取引委員会から「勧告」を受けると、その事実は企業名や違反内容の概要とともに、ウェブサイトで公表されます。これが下請法違反の最大のリスクです。一度企業名が公表されると、そのダメージは計り知れません。

例えば、他の下請事業者が取引を敬遠し、安定した供給網が揺らぐ可能性があります。また、「下請けいじめをする会社」というレッテルが貼られ、顧客離れを引き起こすかもしれません。

近年重視されるESG投資の観点からも、下請法違反は重大な問題と見なされ、株価の下落や資金調達の困難につながる恐れがあります。さらに、コンプライアンス意識の低い企業として、採用活動にも悪影響が及ぶでしょう。

違反によって支払う遅延利息や減額分の返還といった直接的な金銭コストは、実は問題の氷山の一角に過ぎません。本当に恐ろしいのは、公表によって引き起こされる、長期的で回復困難な「信用の失墜」という無形の損害なのです。

明日からできる実践的コンプライアンス体制の構築

明日からできる実践的コンプライアンス体制の構築

下請法違反の多くは、悪意ではなく、知識不足や社内管理体制の不備から発生します。したがって、違反を未然に防ぐためには、実践的なコンプライアンス体制を構築し、継続的に運用することが不可欠です。

親事業者が取り組むべきこと

まずは、自社専用のコンプライアンスチェックリストを作成し、運用することが重要です。発注時に必ず3条書面を交付しているか、書面に下請代金の額と支払期日が明記されているか、支払サイクルは「受領日」を起点に60日以内になっているかなどを確認します。

手形サイトの短縮に向けた取り組みや、経理・購買担当者が11の禁止行為を正しく理解しているかの確認も必要です。

購買、経理、営業など、下請事業者との取引に関わるすべての部署の担当者を対象に、下請法に関する研修を定期的に実施します。また、定期的に社内の発注から支払までのプロセスを監査し、ルールが形骸化していないか、意図しない違反が発生していないかを確認することも大切です。

下請事業者が自らを守るために

下請事業者としては、自らの権利を正しく知ることが第一歩です。60日ルールや11の禁止行為について正しく理解し、不当な取引を未然に防ぎましょう。仕事を始める前には、必ず発注書面(3条書面)の交付を求め、口頭での依頼には応じない姿勢が重要です。

また、発注書面、納品書(受領日がわかるもの)、請求書、担当者とのメールなど、取引に関するすべての記録を整理して保管してください。万が一トラブルになった際、これらが自らを守る強力な証拠となります。支払いが遅れた場合は、まず支払予定日を確認する連絡を入れ、それでも支払われない場合は、公的機関への相談を検討します。

トラブル発生時の相談窓口

万が一、下請取引でトラブルが発生した場合、下請事業者は一人で悩む必要はありません。無料で、かつ秘密厳守で相談できる公的な窓口が多数用意されています。

下請かけこみ寺

「下請かけこみ寺」は、全国48ヶ所に設置されている中小企業のための無料相談窓口です。企業間取引や下請法に詳しい専門の相談員が対応してくれます。電話、オンライン、対面での無料相談が可能で、匿名での相談もできます。

専門的な法律相談が必要な場合には、無料で弁護士に相談できる制度もあります。さらに、裁判をせずに調停によって当事者間の紛争解決を目指す裁判外紛争解決手続(ADR)も利用可能です。全国共通のフリーダイヤル(0120-418-618)に電話をすると、最寄りの拠点につながります。

公正取引委員会・中小企業庁への申告

監督官庁である公正取引委員会や中小企業庁に、直接違反の事実を申告することもできます。公正取引委員会はウェブサイトの申告フォームや郵送、電話で申告を受け付けています。中小企業庁も同様にウェブサイトに申告窓口を設けており、親事業者が自らの違反を自主的に申告する制度もあります。

これらの相談窓口の存在は、単なる救済措置にとどまりません。下請事業者が低コストかつ低リスクで問題を提起できる環境は、親事業者にとって「違反は見つかりやすい」という強い抑止力として機能します。この力関係の変化こそが、すべての親事業者に積極的なコンプライアンス体制の構築を強く促しているのです。

まとめ

下請法の支払条件は、単なる事務的なルールではなく、公正な取引環境を維持し、日本経済の基盤を支える中小企業の経営を守るための重要な法律です。事業者が押さえるべき最も重要なポイントを再確認します。

第一に、自社の立場を確認することです。資本金区分と取引内容から、自社が「親事業者」に該当するかどうかを必ず確認してください。

第二に、60日ルールは絶対であると認識することです。支払期日は、検収日や請求書発行日ではなく、「受領日」から60日以内です。このルールは、下請事業者の合意があっても変更できません。

第三に、義務と禁止行為を網羅的に理解することです。支払遅延だけでなく、書面の交付義務や減額の禁止など、他の義務・禁止行為も一体で理解し、順守することが不可欠です。

第四に、時代の要請に適応することです。法律の最低限の順守にとどまらず、手形サイトの短縮や現金払いへの移行など、政府が推奨するベストプラクティスを率先して取り入れることが、企業の信頼性を高めます。

最後に、違反の代償は非常に大きいという事実です。違反した場合のリスクは、遅延利息だけでなく、企業名の公表による深刻な信用の失墜にあります。そのダメージは、短期的なコスト削減の効果をはるかに上回ります。

下請法を遵守することは、リスク回避という守りの側面だけではありません。下請事業者との間で公正で透明性の高いパートナーシップを築くことは、サプライチェーン全体の競争力を高め、ひいては自社の持続的な成長につながる攻めの経営戦略です。

この法律を正しく理解し、実践することが、これからの時代を勝ち抜く企業にとっての必須条件といえるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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