会計の基礎知識

会計とは?目的で使い分ける3つの会計についても解説

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会計

もし、会社の健康状態や収益力を数字で正確に把握し、自信を持って未来の経営判断を下せるようになったら、あなたのビジネスやキャリアはどう変わるでしょうか。

この記事を読んでいるあなたは、「会計」という言葉に、少し難しそう、専門的で自分には関係ない、といったイメージを持っているかもしれません。

しかし、会計は単なる数字の記録作業ではなく、ビジネスの成功に不可欠な『言語』なのです。この記事では、会計の基本から、その目的、種類、そしてキャリアへの活かし方までを、専門用語をかみ砕きながら体系的に解説します。

会計とは単なる「記録」ではない – ビジネスの言語を理解する

多くの人が会計を「お金の出入りを記録すること」だと考えがちですが、それは会計の本質の一部にすぎません。会計の真髄は、その記録された情報を整理・分析し、企業の経済活動の結果を利害関係者に報告することにあります。

会計の本当の目的:意思決定のための情報伝達

会計の最も重要な目的は、企業の経営者、投資家、銀行、取引先といった「利害関係者(ステークホルダー)」が、適切な意思決定を行えるように、信頼性の高い情報を提供することです。例えば、投資家は会計情報を見て「この会社に投資すべきか」を判断し、銀行は「融資を実行しても問題ないか」を評価します。経営者は自社の成績を客観的に把握し、「どの事業に力を入れるべきか」といった戦略を立てます。

このように、会計は単なる内部向けの業務ではなく、社会的な信頼を支える基盤としての役割を担っています。企業は株主や銀行から資金を調達して成長しますが、資金提供者はそのお金がどのように使われ、どれだけの成果を上げているかを知る必要があります。

会計は、その説明責任(アカウンタビリティ)を果たすための共通言語として機能します。標準化されたルールに従って作成された会計報告があるからこそ、資本市場は健全に機能し、経済活動が円滑に進むのです。つまり、会計は企業の経済活動における信頼のインフラといえます。

似ているようで全く違う?会計・簿記・経理・財務の明確な違い

会計を学ぶ上で、初心者が最も混乱しやすいのが、簿記、経理、財務といった関連用語との違いです。これらの言葉は密接に関連していますが、役割と範囲が明確に異なります。

簿記

簿記は「帳簿記入」の略で、日々の取引(お金やモノの動き)を、定められたルールに従って帳簿に記録するための技術そのものを指します。簿記は、会計という大きなプロセスの一部であり、いわばデータを収集・整理する工程です。

会計

会計は、簿記によって記録された情報を基に、決算書(財務諸表)などの報告書を作成し、それを分析・解釈して利害関係者に報告するまでの一連のプロセス全体を指します。記録技術である簿記を使い、企業の財政状態や経営成績を伝えるという、より広い概念です。

経理

経理は、企業における日々の実践的なお金の管理業務を指します。請求書の発行や支払い、従業員の給与計算、経費精算など、会計のルールに則って実際にお金を動かし、記録する部門や職務のことです。

財務

財務は、会計が作成した過去のデータを基に、未来の資金計画を立てる仕事です。事業計画を達成するために、銀行からの借入や投資家からの出資といった資金調達の方法を考えたり、余剰資金をどう運用するかを計画したりします。

これらの関係性を明確にするために、以下の表にまとめました。

用語主な目的・役割範囲例えるなら
簿記日々の取引をルールに従い記録する技術会計の一部 (記録プロセス)料理のレシピと調理工程のメモ
会計記録をまとめ、分析し、利害関係者に報告する全プロセス簿記を含み、報告・分析まで行うレシピを基にコース料理を作り、栄養分析レポートまで作成すること
経理会社の日々のお金の流れを管理する実務会計実務の実行部隊厨房での日々の調理作業
財務会計情報を基に未来の資金計画を立て、調達・運用する会計の先を見据えた戦略立案来週のメニューを企画し、食材の仕入れ資金を調達すること

目的で使い分ける3つの会計

目的で使い分ける3つの会計

企業会計は、その報告目的と対象者によって、大きく3つの種類に分類されます。これらを理解することで、会計情報がどのように多角的に利用されているかが見えてきます。

外部への成績表「財務会計」

財務会計は、株主、投資家、金融機関、取引先といった社外の利害関係者に向けて、企業の財政状態や経営成績を報告することを目的とする会計です。すべての企業が従うべき法律や「企業会計原則」といった統一されたルールに基づいて決算書を作成することで、異なる会社同士の比較が可能になります。これは、企業の「公式な成績表」と言えるでしょう。

内部の作戦会議「管理会計」

管理会計は、経営者や各部門の管理者など、社内の人間が経営上の意思決定を行うために活用する会計です。財務会計と異なり、法律によるルールや形式の定めはなく、各企業が自社の目的に合わせて自由に設計できます。

例えば、事業部ごとの採算性を分析したり、新製品の価格設定を検討したり、来期の予算を策定したりするために使われます。これは、経営陣のための「内部の作戦会議資料」です。

国への納税報告「税務会計」

税務会計は、法人税や消費税など、国や地方自治体に納める税金の額を正しく計算し、申告・納税することを目的とする会計です。税務会計は、財務会計のデータを基礎としますが、税法という独自のルールに基づいて計算されます。

これら3つの会計は独立しているわけではありません。日々の取引記録から作成される財務会計のデータが全ての土台となります。そして、そのデータを税法のルールに合わせて調整したものが税務会計の計算基礎となり、経営判断に役立つように独自の視点で組み替えたものが管理会計の情報となります。

例えば、財務会計上の利益と、税務会計上の課税所得(税金の計算対象となる利益)は、費用の捉え方(例えば減価償却の計算方法など)が異なるため、必ずしも一致しません。このように、同じ会社の活動であっても、「誰に」「何のために」報告するかによって、数字の見せ方や意味合いが変わってくるのです。

種類主な目的報告対象準拠するルール時間軸
財務会計外部への財政状態・経営成績の報告株主、投資家、債権者など企業会計原則、法律 (会社法など)過去
管理会計内部の経営管理・意思決定への貢献経営者、管理者などなし (企業が任意で設定)過去・現在・未来
税務会計適正な納税額の計算と申告税務署など税法過去

会社の健康診断書を読む:財務三表の徹底解説

財務会計の最終的な成果物が「財務諸表」、一般的に「決算書」と呼ばれる書類です。その中でも特に重要なのが「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「キャッシュフロー計算書(C/F)」の3つで、これらは財務三表と呼ばれます。これら3つの書類を読み解くことで、会社の全体像を立体的に把握できます。

書類名何がわかるか答える問い
貸借対照表 (B/S)特定時点での会社の財産と借金の状況 (財政状態)「会社はどれだけ財産を持っていて、それは誰のお金で賄われているのか?」
損益計算書 (P/L)一定期間の会社の儲け (経営成績)「会社はこの期間で、どうやって、いくら儲けた(損した)のか?」
キャッシュフロー計算書 (C/F)一定期間の現金の出入りの流れ (資金繰り)「会社の現金は、何によって増え、何によって減ったのか?」

財政状態のスナップショット「貸借対照表(B/S)」

貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)は、決算日という特定の時点における会社の財産(資産)と、その財産をどのように調達したか(負債・純資産)を示す一覧表です。英語では「Balance Sheet(バランスシート)」と呼ばれ、B/Sと略されます。

その名の通り、表の左側(借方)に記載される「資産の合計」と、右側(貸方)に記載される「負債と純資産の合計」が必ず一致(バランス)するように作られています。これは、「会社が持っている財産(資産)は、すべて他人から借りたお金(負債)か、自分たちで出したり稼いだりしたお金(純資産)で賄われている」という会計の基本原則を示しています。

資産の部(左側)

会社が保有する財産です。現金や預金、商品在庫、土地、建物などが含まれます。1年以内に現金化できる「流動資産」と、長期にわたって保有・使用する「固定資産」に分けられます。

負債の部(右側上部)

会社が将来支払わなければならない義務、つまり借金です。銀行からの借入金や、仕入代金の未払い(買掛金)などが含まれます。これは「他人資本」とも呼ばれます。1年以内に返済期限が来る「流動負債」と、返済期限が1年を超える「固定負債」に分けられます。

純資産の部(右側下部)

資産総額から負債総額を差し引いた、株主が所有する正味の財産です。株主からの出資金(資本金)や、これまでの利益の蓄積(利益剰余金)で構成されます。返済義務がないため「自己資本」とも呼ばれ、この部分が大きいほど会社の経営は安定的だと評価されます。

貸借対照表からは、会社の安全性を分析できます。例えば、総資産に占める純資産の割合である「自己資本比率」が高いほど、借金に頼らない健全な経営であると判断できます。また、短期的な支払い能力を見る「流動比率」(流動資産 ÷ 流動負債)は、100%を大きく上回っていることが望ましいとされます。

期間内の儲けを示す「損益計算書(P/L)」

損益計算書(そんえきけいさんしょ)は、会計期間(通常は1年間)に、会社がどれだけ収益を上げ、そのためにどれだけの費用を使い、結果としてどれだけ儲かったか(または損したか)を示す成績表です。英語では「Profit and Loss Statement」と呼ばれ、P/Lと略されます。

損益計算書は、売上高から始まり、様々な費用を段階的に差し引いていく構造になっており、その過程で5つの重要な利益が計算されます。

売上総利益(粗利)

売上高から売上原価を差し引いて計算され、商品やサービスそのものの儲けを示します。ここがマイナスだと、事業として成り立っていないことを意味します。

営業利益

売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて計算します。これは会社が本業で稼いだ利益を示します。広告費や人件費など、営業活動や会社全体の管理にかかる費用を差し引いた後の利益であり、企業の収益力を測る上で最も重要な指標の一つです。

経常利益

営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いて計算します。本業の利益に、預金の利息や借入金の支払利息など、財務活動から生じる損益を加味した利益であり、会社の平常時における総合的な収益力を示します。

税引前当期純利益

経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いて計算されます。経常的な活動による利益に、固定資産の売却益や災害による損失など、その期にだけ発生した臨時的な損益を加減した利益です。

当期純利益

税引前当期純利益から法人税等を差し引くことで算出されます。すべての収益からすべての費用と税金を差し引いた、最終的に会社に残る利益です。この利益が、貸借対照表の純資産(利益剰余金)に蓄積されていきます。

お金の流れを追跡する「キャッシュフロー計算書(C/F)」

キャッシュフロー計算書(C/F)は、会計期間中に、会社の現金(キャッシュ)がどのように増減したかを具体的に示す書類です。損益計算書上の利益と、実際の現金の動きは必ずしも一致しません。

例えば、商品を掛けで販売した場合、売上は計上されて利益は出ますが、代金が回収されるまで現金は入ってきません。このような「利益は出ているのに現金がない」状態(黒字倒産)のリスクを把握するために、キャッシュフロー計算書は不可欠です。

キャッシュフローは、以下の3つの活動に区分して表示されます。

営業活動によるキャッシュフロー

本業の活動(商品の販売、仕入、経費の支払いなど)によって生み出された現金の増減を示します。健全な企業であれば、この項目は安定してプラスであるべきです。

投資活動によるキャッシュフロー

設備投資(工場の建設や機械の購入)や有価証券の売買など、将来の成長のための投資活動に伴う現金の増減を示します。成長を目指す企業では、積極的に投資を行うためマイナスになることが一般的です。

財務活動によるキャッシュフロー

資金調達(銀行からの借入や増資)やその返済、株主への配当金の支払いなど、財務活動に関する現金の増減を示します。

これら3つの財務諸表を総合的に見ることで、企業の真の姿が浮かび上がります。損益計算書で高い利益を上げていても、営業キャッシュフローがマイナスであれば、売掛金の回収に問題がある可能性が示唆されます。利益の「質」を見極めるには、損益計算書とキャッシュフロー計算書をセットで見ることが極めて重要なのです。

会計知識をキャリアに活かす

会計知識をキャリアに活かす

会計は、経理部門だけの専門知識ではありません。その知識は、あらゆるビジネスパーソンのキャリアを豊かにし、新たな可能性を切り拓く力となります。

経理のプロフェッショナルへの道:スペシャリストとゼネラリスト

経理・財務分野でのキャリアパスは、大きく2つの方向に分かれます。

スペシャリスト

特定の分野を深く掘り下げ、高度な専門性を追求するキャリアです。例えば、国際会計基準(IFRS)やM&Aの会計処理、税務戦略など、特定の領域で誰にも負けない知識と経験を武器にします。専門性が高いため、市場価値の高い人材として活躍できます。

ゼネラリスト

会計・財務だけでなく、経営企画や人事、事業部門など幅広い知識と経験を身につけ、組織全体を俯瞰できる能力を養うキャリアです。多様な視点から経営課題を捉えることができ、管理職や経営幹部への道が開かれます。

どちらの道を選ぶかは個人の適性や目標によりますが、キャリアの方向性は働く企業の規模にも影響されます。一般的に、大手企業では業務が細分化されているためスペシャリストが育ちやすく、一方で中小企業やベンチャー企業では一人で幅広い業務を担うためゼネラリストとしての経験を積みやすい傾向があります。

スキルを証明する資格と目指せるキャリアゴール

会計知識を客観的に証明し、キャリアアップを加速させるためには、資格の取得が有効です。

資格名特徴主な対象者難易度(合格率目安)
日商簿記3級経理・会計の入門資格。全てのビジネスパーソンの基礎知識。初学者、学生、非経理職比較的易しい (約30-40%)
日商簿記2級実務で高く評価される中級資格。商業・工業簿記を網羅。経理への転職希望者、スキルアップを目指す人中程度 (約20%)
ビジネス会計検定財務諸表の「分析・活用」に特化した資格。営業職、企画職、管理職など3級は易しい、2級は中程度
税理士税務の最高峰国家資格。独立開業も可能。税務のプロを目指す人非常に難しい (科目合格制)
公認会計士会計・監査の最高峰国家資格。監査業務は独占業務。監査法人、大手企業のCFO候補最難関 (約7-10%)

これらの知識と経験を積み重ねた先にあるキャリアゴールの一つが、CFO(最高財務責任者)です。CFOは、単なる経理・財務のトップではなく、CEOの右腕として企業の財務戦略全体に責任を持ち、経営の意思決定に深く関与する重要なポジションです。CFOになるには、会計の深い専門知識(スペシャリスト)と、事業全体を理解する幅広いビジネス感覚(ゼネラリスト)の両方が求められます。

近年、AIや会計ソフトの進化により、単純なデータ入力や記帳といった定型業務は自動化されつつあります。これからの会計専門家に求められるのは、テクノロジーが生み出したデータを解釈し、ビジネス上の意味を読み取り、非専門家にも分かりやすく伝達し、経営陣の戦略的パートナーとして未来の意思決定に貢献することです。

会計知識は、単なる技術から、ビジネスを動かすための戦略的思考力へとその価値を変化させているのです。

まとめ

本記事では、会計の基本的な概念から、その目的、具体的な手法、そしてキャリアへの応用までを網羅的に解説しました。会計は単なる記録ではなく、利害関係者とのコミュニケーションであり、意思決定を支えるビジネスの言語です。

会計には「財務会計」「管理会計」「税務会計」の3種類があり、それぞれ目的と対象者が異なります。また、財務三表(B/S, P/L, C/F)を読み解くことで、企業の財政状態、収益性、資金繰りを立体的に把握できます。

これらの会計知識は、専門家としてのキャリアを築くだけでなく、あらゆるビジネスパーソンが戦略的価値を高めるための強力な武器となります。

会計を学ぶことは、数字に強くなることだけを意味しません。それは、ビジネスの世界で何が起きているのかを深く理解し、未来を予測し、そして自らの手でより良い未来を創造するための「羅針盤」を手に入れることに他なりません。このガイドが、あなたのビジネスとキャリアの航海の一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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