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個人事業主の帳簿の付け方を徹底解説!単式・複式の違いや青色・白色申告の違い、帳簿の具体例もご紹介

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個人事業主は帳簿を付け、確定申告で事業の状況を報告することが求められます。しかし「単式簿記・複式簿記」「青色申告・白色申告」などの専門用語があり、帳簿の付け方がよく分からないという方もいるでしょう。そこで本記事では、個人事業主の帳簿の付け方や専門用語、具体例などをわかりやすく解説します。

帳簿とは?

帳簿とは、事業に関連する取引・お金の流れを記録するための書類です。個人事業主が事業を行う上では、日々の売上や備品類にかかった経費などを帳簿に記録して、正しく確定申告しなければいけません。青色申告・白色申告といった申告方法にかかわらず、帳簿の作成・保管が法的に義務付けられています。

帳簿で主に使われるのは「主要簿」と呼ばれる2つの書類です。

・総勘定元帳:取引を勘定科目別にまとめた帳簿
・仕訳帳:取引を日付順にまとめた帳簿

その他にも、帳簿には「補助簿」と呼ばれる書類があります。補助簿の代表的な例としては、以下が挙げられます。

・現金出納帳:現金の取引をまとめた帳簿
・預金出納帳:銀行口座の取引をまとめた帳簿
・固定資産台帳:減価償却を行う固定資産を管理するための帳簿
・売上台帳:売上をまとめて管理するための帳簿

これらの各帳簿については、本記事の後半でも詳しく解説します。

個人事業主が帳簿付けする理由

個人事業主が事業を行う場合、事業で得た収入を計算して確定申告する必要があります。確定申告では所得税などの税金を自ら計算しなくてはいけないため、日頃からお金の流れを正しく把握しておく必要があります。

また、適切に帳簿をつければ、売上や経費・現在の資産残高などを分かりやすく把握することが可能です。個人事業主として今後どのように事業を運営していけばいいのか、方向性について考えるためのヒントにできます。

帳簿を付けないとペナルティも

帳簿は税金に関わる大事な書類であり、適切に扱わなければ税務上のペナルティを受ける可能性があります。

個人事業主が確定申告の際に必要なのは「確定申告書」などの書類であり、作成した帳簿を提出することはありません。しかし、税務調査が入ったり、申告した金額に誤りがあったりした場合などは、税務署から帳簿を見せるように指示されます。

その際、帳簿が適切に作成されていないと「重加算税」と呼ばれるペナルティが与えられることがあります。重加算税の対象となった場合は、本来払うべき納付税額の35~40%の金額を追加で支払うことが必要です。

また、青色申告事業者である場合には、帳簿を適切に付けていなかったことを理由に、青色申告事業者の承認を取り消されるケースもあります。承認を取り消されてしまえば、青色申告特別控除が受けられず、金銭面で損をすることとなるでしょう。

このように、個人事業主の帳簿は税制上で作成が定められているものであり、適切に作成・保管しておかなければ、ペナルティを受けることとなります。

参照:個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)|国税庁

帳簿に関する基本用語

帳簿について知る上で押さえておきたい用語について解説します。

用語  意味
帳簿  事業に関するお金の流れ・取引を記録するための書類
仕訳  複式簿記で、借方と貸方に分けて取引の内容を記載すること
記帳  帳簿に記載すること
簿記  取引を帳簿に記入し、計算書を作ること

2種類の帳簿の付け方

個人事業主の帳簿を付ける場合には「複式簿記」と「単式簿記」の2種類の方法があります。

複式簿記とは、1つの取引に関しての記録を行う際、2つの勘定科目を使って記帳を行う方法です。 左側の「借方」、右側の「貸方」の2つに分けて記載します。

左右は必ず同じ額になることが原則で、現金が増えた際は左側の「借方」に科目と金額を、減った際は右側の「貸方」に科目と金額を記入します。

例えば、現金5万円でオフィス用のデスクを購入した場合、複式簿記の記帳方法は以下のようになります。

借方貸方
消耗品費 50,000円 現金 50,000円    

借方と貸方に分けて記載することにより「現金を消耗品費として50,000円使用した」ということを把握することが可能です。

それに対して、取引を1つの勘定科目で表す方法が単式簿記です。使えるお金の残高が10万円であった個人事業主が、50,000円のデスクを購入した場合は、下記のように記録します。

入金出金残高摘要
50,00095,000デスク代

単式簿記は、ただ単に使った金額や内容・残高を記入していく簡易的な方法であり「お小遣い帳」のようなイメージで捉えることが一般的です。

発生主義と現金主義

個人事業主が帳簿を作成するために押さえておきたいのが「発生主義」と「現金主義」です。

発生主義とは、債権(支払いを受ける権利)や債務(支払いを行う義務)が確定した時点で、取引が発生したと考える方法です。

例えば、顧客に対して商品を売った際、1月15日に商品を提供し、翌月末である2月28日に代金が振り込まれたとしましょう。発生主義では、債権が発生した時点で取引を計上するため、この取引では1月15日に売上として帳簿に記録することが必要です。

それに対して現金主義とは、現金や銀行口座における入出金に基づいて、取引が発生したと考える方法です。先ほどの例だと、2月28日に経理上の処理を行う形になります。

正式な会計上のルールに基づけば、現金主義ではなく発生主義を採用することが必要です。しかし小売業などに関しては、商品の提供と顧客からの支払いが同時に発生することもあるでしょう。そのため、ビジネスの形態に合わせていつ売上を計上すべきか検討し、ルールを統一して運用していくことが大切です。

帳簿の種類

主要簿

主要簿は「仕訳帳」と「総勘定元帳」の2種類があり、この2つの種類を元に決算書を作成することになります。

仕訳帳

仕訳帳とは、発生した取引を日付順に記載した帳簿であり、資産が増える場合などに使う「借方」、資産が減る場合などに使う「貸方」に分類して記載します。仕訳帳の例を、実際に見てみましょう。

・1月4日に貯金から100万円を出資し、事業所を開業
・1月6日に銀行から50万円を現金で借入
・1月19日に6万円の設備を購入し、現金で支払う
・1月20日に20万円の商品を仕入れ、現金で支払う
・1月30日に先に仕入れた商品を100万で販売、代金は掛とした
・2月10日に売掛金100万円を回収
・2月20日に銀行から借入れていた50万円を現金で返済

日付借方勘定科目借方金額貸方勘定科目借方金額摘要
1/4現金100万円資本金100万円
1/6現金50万円借入金50万円事業用資金の借り入れ
1/19消耗品6万円現金6万円設備購入
1/20仕入れ20万円現金20万円商品A仕入れ
1/30売掛金100万円売上100万円○○商店へ商品A売上
2/10現金100万円売掛金100万円○○商店へ商品A売上
2/20借入金50万円現金50万円借入金返済

仕訳帳は複式簿記で記入するため、左右の金額は一致します。日付と勘定科目・金額を正しく記入した上で、取引先の名前や品名などは「摘要」として記録を残しておきます。

総勘定元帳

それに対して総勘定元帳とは、仕訳帳に記載した内容を勘定科目ごとに転記してまとめた帳簿です。総勘定元帳は仕訳で使用している勘定科目ごとに存在します。勘定科目でよく使われる一例として、以下が挙げられます。

・現金:現金での購入や支払い
・普通預金:銀行口座の入出金
・売上高:商品やサービスを顧客に提供することで発生した売上
・旅費交通費:業務で必要な交通費
・水道光熱費:水道・電気・ガス
・給与:従業員に支払った給与

勘定科目は、一般的に使われるものの他に、事業独自の勘定科目を設定することも可能です。

ここでは例として、勘定科目が「現金」の総勘定元帳を見てみましょう。

総勘定元帳(現金)

日付相手勘定科目摘要借方貸方残高
1/4現金100万円100万円
1/6現金事業用資金の借り入れ50万円150万円
1/19現金設備購入6万円144万円
1/20現金商品A仕入れ20万円124万円
2/10現金○○商店へ商品A売上100万円224万円
2/20現金借入金返済50万円174万円

ここでも簿記のルールに則り、資産が増えたときは左の借方に、資産が減った時は右の貸方に記載します。

なお、このような帳簿は会計ソフトで作成することが一般的ですが、必要な事項が記入されているのであれば、エクセルや手書きで作成しても構いません。

補助簿

補助簿とは、補助的な役割のある帳簿であり、主要簿に載せきれない詳しい情報を記載する際に使います。よく使われる補助簿の例としては、以下が挙げられます。

・現金出納帳:現金での取引を記載する
・預金出納帳:銀行口座の取引を記載する
・売掛帳:売掛金(後払いとなる売上)を管理する
・固定資産台帳:減価償却(固定資産を分割して費用にする計上方法)を管理する

前項で解説した主要簿は、ビジネスの業態を問わず作成することが求められます。しかし補助簿は、企業で発生する取引の内容などに応じて、作成するかどうかを決定することが可能です。

例として、減価償却をするような固定資産を所有していない場合には、青色申告であっても固定資産台帳を作成する必要はありません。また、飲食店や小売業など、商品を提供してすぐに現金で対価を受け取る場合は売掛金が発生しないため、売掛帳を作らない店舗もあります。

現金出納帳

現金出納帳は、手元にある現金の入出金を時系列で記載する帳簿です。

日付勘定科目入金出金摘要残高
2/1前月繰越400,000
2/4仕入50,000○○株式会社350,000
2/5売上150,000○○様500,000
2/8普通預金300,000800,000

「入金」「出金」の項目を作成し、取引が生じた理由や企業名・個人名・内容などの詳細をあわせて記載します。「残高」の項目は、手元にある金額と帳簿上の金額が一致しているかどうかの確認に使用できます。

3つの申告方法

白色申告

白色申告は、確定申告の中でも比較的容易に行える申告方法です。白色申告では単式簿記での帳簿付けが認められているため「簿記のルールについて詳しくない」という方でも、帳簿を作成することができるでしょう。白色申告のルールは下記の通りです。

・作成する帳簿:収支内訳書
・帳簿の付け方:単式簿記
・保存期間:法定帳簿(収入や経費についての帳簿)は7年、 その他は5年
・税制上の優遇:なし

白色申告に必要な帳簿は「収支内訳書」と呼ばれ、記入事項が比較的少ないことが特徴です。簡単に申告できる反面、白色申告専用の控除はなく、青色申告と比較すると金銭的に損をしてしまうケースもあります。

参照:記帳や帳簿等保存・青色申告|国税庁

10万円控除の青色申告

青色申告は税制上の優遇を受けられる代わりに、白色申告に比べると多くの処理が必要です。青色申告には「10万円控除」「55万円控除」の2種類がありますが、10万円控除では以下のルールに基づいて確定申告を行います。

・作成する帳簿:現金出納帳、経費帳、売掛帳、買掛帳、固定資産台帳
・帳簿の付け方:簡易簿記
・保存期間:7年
・税制上の優遇:青色申告特別控除(10万円)

なお、青色申告を行う場合には、税務署にあらかじめ「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。

55万円控除の青色申告

55万円控除の青色申告は、処理上の負担が大きい反面、55万円の控除という大きな優遇を受けることができます。

・作成する帳簿:主要簿(仕分帳・総勘定元帳)、補助簿(現金出納帳・売上帳など)
・帳簿の付け方:複式簿記
・保存期間:7年
・税制上の優遇:青色申告特別控除(55万円)

なお、仕訳帳や総勘定元帳の電子帳簿保存、もしくは国税電子申告・納税システム「e-Tax」の利用といった条件に該当していれば、65万円の控除を受けることが可能です。詳しい条件については国税庁のホームページを参考にして、適切に準備を行いましょう。

参照:No.2072 青色申告特別控除|国税庁
参照:[手続名]所得税の青色申告承認申請手続|国税庁
参照:はじめてみませんか?-青色申告|国税庁

帳簿作成における流れ

日々の取引から確定申告に必要な書類を作成するまでには、大まかに以下の作業が必要です。

1.通帳や領収書・請求書などを見て、取引内容を確認する
2.取引内容を帳簿に記載する
3.利益や損失についてまとめて、税金などを計算する

備品類を購入したり、商品が売れたりした際など、お金に何らかの動きがあった場合は毎回帳簿に反映することが求められます。複式簿記を行う場合は、そのような取引が発生した際、仕訳帳へ時系列で記入後、総勘定元帳に転記しましょう。なお、会計ソフトによる帳簿づけを行う場合は自動で転記してくれるため、初心者の方でも安心です。

1年間の取引が出揃った後には、年間の利益や損失などを計算し、確定申告書を作成して提出しましょう。選択した申告方法によっては「青色申告決算書」「収支内訳書」の作成も必要です。

帳簿と領収書の保管年数

青色申告

個人事業主が作成する帳簿は税金などに関わる重要な書類であるため、その保管方法についても明確に定められています。

青色申告の場合は、 以下のような帳簿を7年間保存することが求められます。

・仕訳帳
・総勘定元帳
・現金出納帳
・売掛帳
・買掛帳
・経費帳
・固定資産台帳

なお、損益計算書や貸借対照表などの書類は7年、取引で発生した請求書・契約書などの書類は5年と定められています。種類によって保存期間が違うことに注意しましょう。

白色申告

白色申告における帳簿の保管期間は、下記のように定められています。

・法定帳簿(収入や経費を記載した情報):7年
・任意帳簿(それ以外の情報):5年

法定帳簿がどのようなものか、国税庁も明確には定義していません。「事業を行う上で発生した売上や仕入・経費などをまとめた帳簿」と捉えればいいでしょう。それに対して任意帳簿とは、固定資産台帳や売掛帳など、必ずしも作成が必要ではない帳簿を指します。

参照:記帳や帳簿等保存・青色申告|国税庁

帳簿のつけ方が不明な時はどうする?

個人事業主は帳簿をつけたり確定申告をしたりといった作業が必要ですが、そのような作業がどうしても苦手という方もいるでしょう。そのような場合は、税務署や青色申告会、商工会議所といった機関で帳簿についての相談をすることが可能です。

例えば、税務署では白色申告を行う事業者を対象に、帳簿の書き方や保存の方法についての説明会を無料で開催しています。また、各地にある青色申告会・商工会議所でも、同様の指導を受けることが可能です。ホームページなどを参考にして、最寄りの機関について調べてみましょう。

参照:記帳説明会のご案内|国税庁
参照:青色申告会のポータルサイト 一般社団法人 全国青色申告会総連合

まとめ

個人事業主は決められた方法に従って帳簿を作成し、確定申告を行います。作成する書類や保存期間などは選択した申告方法などによって異なるため、自分の事業で必要な作業についてよく確認しておきましょう。

個人事業主が帳簿をつける際のポイントは、日頃からこまめに作業を行うことです。年明けになって慌てなくてすむように、日々発生する請求書や領収書などを、少しずつ処理していきましょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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