
一般企業の経理担当者や個人事業主が、弁護士費用の請求書を受け取ったり、弁護士として請求書を発行したりする際に知っておくべきポイントを解説します。
弁護士に支払う費用には独特の報酬体系や税務上の取扱いがあります。着手金や報酬金といった弁護士報酬の種類、源泉徴収の要否と計算方法、インボイス制度への対応まで、実務で役立つ知識をまとめました。
請求書発行・処理時の注意点やトラブル防止策も紹介しますので、「弁護士 請求書」や「弁護士報酬 源泉徴収」について不安のある方はぜひ参考にしてください。
目次
弁護士が発行する請求書に必要な明細と書き方
弁護士がクライアントに発行する請求書には、法律業務の内容と料金内訳が一目でわかるよう、必要な情報を正確に記載することが重要です。特に近年はインボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始により、従来以上に明細の正確さが求められます。請求書に記載すべき主な項目と書き方のポイントは次のとおりです。
宛名・発行者情報
請求書を受け取る相手の会社名や個人名(「○○株式会社 御中」「〇〇様」など)を正確に記載します。弁護士側の発行者情報として、自身(法律事務所)の名称・住所・連絡先を明記し、インボイス発行事業者であれば後述のとおり登録番号も記載します。
発行日や請求書番号を設けて管理することも望ましいでしょう。
件名・案件名
何に関する費用か分かるように、案件の名称や委任契約の件名を記載します(例:「○○事件 弁護士費用」「△△相談業務 契約に基づく報酬」など)。こうすることで依頼者も社内経理も内容を把握しやすくなります。
報酬の明細
弁護士費用は複数の種類に分かれるため、それぞれの項目ごとに金額を明細表示します。後述する着手金・報酬金・日当・手数料・顧問料など、請求対象となる報酬項目を行ごとに列挙し、それぞれの金額(税抜または税込)を記載します。
報酬額は契約で定めたとおりの金額を記載し、特に成功報酬など成果に応じた金額の場合は契約や結果に基づいた金額であることを確認しましょう。
実費等の明細
弁護士が立て替え払いした交通費・宿泊費や印紙代、書類のコピー代などの実費がある場合、報酬とは分けて実費として内訳を記載します。
例えば「〇年〇月〇日 交通費(△△出張)○○円」「〇年〇月〇日 裁判所提出印紙代 ○○円」など日付や内容を具体的に記すと親切です。依頼者が後日精算できるよう、実費の領収証コピーを添付するケースもあります。
なお、依頼者が直接業者に支払った費用(例:依頼者自身が手配し支払った出張交通費など)がある場合は、その分は請求書に含めません。
消費税額の表示
弁護士報酬や一部の経費には消費税が課税されます。インボイス制度に対応した請求書では、適用税率(通常は10%)と税額を明確に区分して表示する必要があります。
例えば税抜金額の合計が100万円なら、「消費税(10%):10万円」のように記載します。税込金額で内訳を記載する場合でも、「(うち消費税○○円)」と明示しておけば、消費税額が区別できます。
適格請求書発行事業者でない弁護士(免税事業者)の場合は消費税を請求できませんが、その場合でも請求書には「消費税相当額を含まない」旨を注記するなど、取引先に誤解を与えない表記が望ましいでしょう。
源泉徴収税額の表示
依頼者が企業や事業者であれば、弁護士報酬から所得税の源泉徴収が行われます(詳細は後述)。そのため、請求書上で源泉徴収すべき税額を明記し、差引後の支払金額を示すことが重要です。
上記サンプルのように、請求書に「源泉徴収税額:▲▲円」「差引ご請求金額:○○円」といった欄を設け、源泉徴収後の実際の振込金額が一目で分かるようにします。源泉徴収額の記載があれば、支払側も控除計算を間違えずに済み、後日のトラブル防止につながります。
合計金額と支払期限
最後に、請求合計金額を明記します。源泉徴収が発生する場合は「差引後の支払額」を「請求金額」として記載するとよいでしょう。
支払期限(通常は請求月末や翌月◯日など)も忘れずに記載し、「◯年◯月◯日までにお支払いください」と明示します。
振込先口座情報(銀行名・支店名・口座種別・口座番号・名義)も正確に記載し、振込手数料の負担区分について「振込手数料はご依頼者様ご負担でお願いいたします」等の注意書きを添えることもあります。
備考欄
必要に応じて備考欄を設け、報酬算定の特記事項や契約書番号、関連書類へのリンク、担当弁護士名などを記載します。
例えば「※本件報酬は△△契約書第○条に基づき算定」「※○○月分顧問料として請求」などと補足することで、請求内容への理解が深まります。また、弁護士が適格請求書発行事業者である場合は登録番号の記載が必要ですが、請求書の所定欄に収まらない場合は備考欄に「適格請求書発行事業者登録番号:Txxxxxxxxxxxx」と記載しても構いません。
以上が弁護士の請求書に盛り込むべき基本項目です。請求書は委任契約で取り決めた報酬や費用に基づいて作成し、契約内容と矛盾しないようにすることが大前提です。
報酬金額や項目が契約とずれていると依頼者との信頼関係に関わるため、発行前にダブルチェックしましょう。
また、2023年10月から始まったインボイス制度により、適格請求書発行事業者(課税事業者)は前述のとおり登録番号や消費税額の明示が義務化されています。
弁護士も例外ではないため、自分がインボイス発行事業者に該当する場合は必要事項を漏れなく記載してください。
弁護士報酬の仕組みと代表的な体系(着手金、報酬金、タイムチャージなど)
弁護士に支払われる費用にはさまざまな種類があり、案件の性質や契約内容に応じて異なる報酬体系が採用されます。ここでは一般的な弁護士報酬の内訳とその意味を紹介します。
請求書にはこれらの項目がそれぞれ明示されることになりますので、依頼者・弁護士双方が内容を正しく理解しておくことが重要です。
着手金
弁護士が案件を引き受けた際に、結果にかかわらず着手時点で受け取る固定の報酬です。依頼契約の締結時に前払いするのが通常で、案件の成否によって金額が変動することはありません(敗訴や不成功の場合でも返金されないのが原則です)。
例えば「訴訟提起に伴う着手金○○万円」のように契約時に取り決めておき、弁護士は請求書発行または領収書交付によって受領します。
報酬金(成功報酬)
案件の成果に応じて支払われる成果報酬です。訴訟で勝訴した場合や示談金・和解金を獲得した場合など、結果に応じて発生する報酬であり、事前に定めた計算方法に従って金額が決まります。
全面的に勝利した場合は契約で定めた満額、部分的な勝利の場合はその成果割合に応じた金額となるのが一般的です。契約書で報酬金の率や算定基準(例:経済的利益の◯%)を取り決めておき、案件終了時に請求書を発行します。
成功しなかった場合(全面敗訴など)は支払不要となります。
手数料
弁護士が法律事務手続において行う事務的な作業に対する報酬です。裁判や交渉といった紛争案件ではなく、各種申請や書類作成などの手続代行に対して定められる料金を指します。
例えば「遺言書の作成」「遺言執行」「会社設立手続」「各種許認可申請書の作成」等の業務に対して手数料が発生します。
着手金・報酬金と異なり、成果ではなく手続そのものに対する対価です。契約前に概算額や算定方法を明示し、依頼者に了承を得てから進めることで、後のトラブル防止になります。
預り金
将来発生が見込まれる費用をまかなうため、弁護士が事前に依頼者から預かるお金です。裁判の印紙代や官公庁への手数料、鑑定費用、他の専門家への依頼費用など、案件処理中に必要となる実費を確保しておく目的で受け取ります。
あくまで「預かり」であり、実際にかかった費用は精算し、余った分は依頼者に返金します。預り金自体は報酬ではなく後述の実費に分類されますが、契約段階での受領と最終精算が発生するため、請求書や明細書で管理されることがあります。
相談料(法律相談料)
弁護士に法律相談をした際に発生する料金です。依頼前の初回相談や、案件受任後でも追加の法律相談を行った場合に時間単位で請求されることがあります。
相談料は弁護士や事務所ごとに設定が様々で、30分いくら・1時間いくらといった時間料金制が一般的です。最近では初回30分無料とする事務所もありますが、以降は所定の相談料が発生します。
請求書には「法律相談料(○月○日 ◯時間)○○円」のように日時・時間とともに記載されます。
日当
弁護士が裁判所への出廷や出張などで、事務所を離れて拘束される時間に対して支払われる報酬です。例えば「出廷日当」「出張日当」といった形で、1回の裁判出廷につき○円、遠方出張1日につき○円などと定めます。
日当は弁護士の時間と労力に対する補償であり、宿泊費や交通費といった実費とは別個に支払われます(実費は後述の通り別途精算)。契約時に日当の金額や条件を取り決め、実際の出廷や出張の都度、請求書の明細に計上します。
顧問料
法人や個人事業主が継続的に弁護士と顧問契約を結ぶ場合の定額の報酬です。顧問契約では、日常的な法律相談や契約書チェックなど一定範囲の法務サービスを随時受けられる代わりに、月額または年額の顧問料を支払います。
顧問料は期間に対する定額料金であり(例:月額◯万円)、契約範囲外の訴訟対応などには別途費用が発生することがあります。請求書は通常毎月末などに定期発行し、「◯年◯月分顧問料」として請求します。
タイムチャージ(時間制報酬)
近年増えている時間単価制による弁護士料金です。1時間あたり◯◯円という弁護士の時間単価を定め、実際に案件に費やした時間に応じて料金を請求する方式です。
複雑な企業法務や調査案件、国際仲裁、大型訴訟などで採用されることが多く、いわば弁護士版の「時給制」です。
タイムチャージの場合、請求書には「◯月◯日〜◯月◯日 法律業務 ○時間 @◯◯円=○○円」のように作業時間と単価を示して算出額を記載します。専用の時間管理ソフト等で正確に計測し、依頼者に明細を提示することが通常です。
実費
上記の弁護士報酬とは別に、案件処理に際して実際にかかった費用(経費)を依頼者が負担します。典型例として、交通費、宿泊費、通信費(郵送費や電話代)、裁判所に納める印紙代や郵券代、書類の謄写(コピー)費用などが挙げられます。
これらは弁護士が立て替えて支出し、後から依頼者に請求する場合と、預り金から精算する場合があります。請求書の実費明細欄に各項目と金額を列挙し、「交通費(◯月◯日 △△出張)◯◯円」「印紙代(訴状提出用)◯◯円」等と詳細に記載します。
なお、実費部分には消費税は原則かかりません(弁護士が単に代理で支払っているだけの場合、消費税法上「非課税扱い」や「不課税取引」となります)し、所得税の源泉徴収も対象外です。
ただし実費と報酬をまとめて請求し区別しないと課税関係が複雑になるため、請求書上は必ず報酬と実費を区分して記載するようにしましょう。
以上が弁護士費用の代表的な内訳です。従来、日本弁護士連合会が報酬基準を示していた時代もありましたが、現在では各弁護士・法律事務所が依頼者との合意で自由に報酬を定めることになっています。
そのため、契約時に報酬体系を丁寧に説明し書面で合意することが重要であり、請求書もその合意内容に沿った形で作成されます。依頼者側も、請求書の明細を見て「何に対する料金か」「どのように計算されたか」が理解できるようになっているのが理想です。
弁護士報酬における源泉徴収の要否と計算方法、請求書への記載方法
弁護士に支払う報酬は、税法上「報酬・料金」に該当し、支払う側で所得税等の源泉徴収(天引き)を行う必要がある場合があります。ここでは、源泉徴収が必要となるケースやその計算方法、そして実際の請求書での表示方法について解説します。
源泉徴収が必要となるケース
まず、誰が支払うか/誰に支払うかによって源泉徴収の要否が決まります。一般的なポイントは以下のとおりです。
支払者が法人や事業者の場合
会社などの法人、または個人事業主が事業活動として弁護士に報酬を支払う場合、原則として源泉徴収義務があります。
例えば、企業が顧問弁護士に月額顧問料を支払うケースや、事業主がトラブル対応の弁護士費用を支払うケースでは、支払時に一定額を差し引いて税務署に納付しなければなりません。
ただし例外として、支払者が個人事業主でも従業員を抱えていないような小規模事業者の場合など、一部源泉徴収義務が免除されるケースがあります(税法上「給与等の支払者でない個人」などに該当する場合)が、判断が難しいため基本的には事業所得に関連する支払いであれば源泉徴収を行う前提で考える方が安全です。
支払者が純粋な個人(非事業者)の場合
事業とは関係なく、自分個人のために弁護士に支払う場合は、源泉徴収の義務はありません。例えば、個人が遺産相続の相談料を自腹で支払うようなケースでは、通常どおり弁護士から請求された金額をそのまま支払えばよく、所得税の天引きは不要です。
これは税法で、事業者以外の個人から支払われる報酬については源泉徴収しなくてよい旨が定められているためです。
弁護士が弁護士法人の場合
支払先の弁護士が、個人事業主ではなく弁護士法人(法律事務所を法人化した組織)として業務を行っている場合、報酬の支払先は法人になります。
この場合、源泉徴収は不要です。源泉徴収は個人に対する所得税の前払い制度であるため、法人間取引では適用されないためです。
請求書の発行者名に「○○法律事務所株式会社」「弁護士法人○○」など法人格が明示されている場合は、基本的に源泉徴収しなくてよいと判断できます。
以上をまとめると、「会社や事業者が、個人の弁護士に報酬を支払う場合」に源泉徴収が発生すると覚えておくとよいでしょう。依頼者側(支払者側)は、自社が源泉徴収義務者に当たるか確認し、義務がある場合は忘れずに対応する必要があります。
また支払先が法人か個人かで扱いが変わる点にも注意しましょう。
なお、源泉徴収の対象となる「弁護士報酬」には名目上さまざまなものが含まれます。
実際に税法上は「弁護士等の業務に関する報酬・料金」はすべて源泉徴収の対象とされており、「謝金」「調査費」「日当」「旅費」などの名目であっても実質が弁護士への報酬であれば源泉徴収が必要です【国税庁の定めによる】。
逆に、弁護士が立て替えた交通費・宿泊費などで依頼者が直接支払ったもの(通常必要な範囲内)や、登録免許税・収入印紙代など官公庁に納付するために預かった金額については、報酬ではないため源泉徴収の対象に含めなくてもよいとされています。
実費は前述のとおり非課税であり、源泉徴収も不要という位置づけです。
源泉徴収税額の計算方法
源泉徴収が必要な場合、支払者は弁護士に支払うべき報酬額から一定の割合で所得税及び復興特別所得税を差し引き、その差し引いた税額を国に納付します。税額の計算方法は税法で細かく定められていますが、基本的な計算ルールは次のとおりです。
課税対象額
源泉徴収の対象となる金額は、原則として弁護士に支払う報酬の「税込金額(消費税を含む金額)」です。ただし、請求書などで消費税額が明確に区分されている場合は、報酬の税抜金額のみを対象額として計算して差し支えないとされています。
実務上は弁護士からの請求書に消費税額が明示されていることがほとんどなので、消費税抜きの報酬額に対して源泉徴収率を乗じて計算すればOKです(例えば報酬100万円・消費税10万円なら、100万円に対して源泉徴収税を計算)。
消費税額を区分しない記載の場合は総額に対して計算する決まりなので注意しましょう。
税率
弁護士報酬の源泉徴収税率は、一律ではなく支払額に応じて二段階になっています。具体的には、
支払金額が100万円以下の部分・・・その金額の10.21%
支払金額が100万円を超える部分・・・超過部分に対して20.42%(※復興特別所得税を含むため10%と20%がそれぞれ10.21%、20.42%となっています)
という計算です。
やや複雑ですが、簡単に言えば報酬額が100万円を超える高額な場合には、100万円までは10.21%、100万円を超えた部分は倍の税率で源泉徴収する決まりになっています。
例えば弁護士報酬が150万円(税抜)であれば、100万円部分で102,100円、超過の50万円部分で50万円×20.42%=102,100円、合計で204,200円を源泉徴収します。100万円以下であればシンプルに10.21%を掛けるだけです。
計算の端数処理
計算結果に1円未満の端数が出た場合は切り捨てます(小数点以下は生じない計算式ですが、税率10.21%等は実際は100分の○○として計算するため、最終的に1円未満が出たら切り捨てとなります)。
実務では上記ルールに従い、支払金額(報酬額)の大小によって源泉徴収額を算出します。多くの案件では弁護士費用が100万円以下に収まるため、その場合は10.21%を掛けるだけで求められます。
例えば税込110万円(税抜100万円・消費税10万円)の請求の場合、税抜100万円が源泉徴収対象額となり、源泉徴収税額は100万円×10.21% = 102,100円となります。
支払者は102,100円を税金として天引きし、弁護士へは残りの100万円+消費税10万円-102,100円 = 997,900円を支払う計算です。
もし報酬額が100万円を超える場合も、超える部分に20.42%を掛けるだけなので原理自体は単純です。注意したいのは、源泉徴収額がかなり大きくなる点です。
たとえば税込165万円(税抜150万円・消費税15万円)の成功報酬を支払う場合、源泉徴収額は150万円に対して計算しますが、100万円までは102,100円、残り50万円で50万円×20.42%=102,100円、合計204,200円にもなります。高額報酬ほど源泉徴収率が上がるため、受け取る弁護士側も手取り額が大きく減ることになります(ただし差し引かれた税額は弁護士の所得税の前払分となり、確定申告で清算されます)。
請求書への源泉徴収額の記載と処理
前述のとおり、弁護士が発行する請求書では源泉徴収税額を明記するのが望ましいです。具体的には、請求書の末尾近くに「源泉所得税(税額):△△円」や「源泉徴収額:△△円」といった項目を追加し、さらに差し引き後の支払金額を計算して示します。
例えば請求総額(消費税込)が1,100,000円で源泉徴収102,100円が発生する場合、請求書には
請求額(税抜):¥1,000,000
消費税(10%):¥100,000
———————————-
税込合計:¥1,100,000
源泉徴収税額:¥102,100
差引お支払額:¥997,900
というような記載をします。
こうすることで、依頼者は¥997,900を弁護士に支払い、¥102,100を税務署に納付すればよいと明確に理解できます。源泉徴収額の記載がないと、依頼者側で計算する手間がかかるうえ、見落として満額を支払われてしまう恐れもあります(後述のトラブル例参照)。
そのため、「必ず請求書に源泉徴収税について明記しておくこと」が実務上のポイントです。
また、消費税額と報酬額を請求書で区分して記載しておけば、源泉徴収計算時に消費税を除外できる(税抜額のみで計算できる)利点があります。弁護士側も請求書では税込・税抜内訳をはっきり示すことで、依頼者の源泉徴収計算ミスを防止できます。
最後に、源泉徴収した税金の取扱いについて補足します。依頼者(支払者)は源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を、支払月の翌月10日までに管轄税務署へ納付する義務があります(特例承認を受けている小規模事業者は半年分まとめて7月10日/翌年1月20日納付も可)。
弁護士側は自分が受け取った報酬から所定の税金が差し引かれたことを把握し、後日その源泉徴収税額が自分の所得税の前払いとして処理されます。
源泉徴収された分は弁護士にとって手取りが減る形になりますが、その分は確定申告時に納付税額から差し引かれる(もしくは税引き過ぎなら還付される)ため、最終的に調整されます。
一般企業・個人事業主が弁護士費用を支払う際の注意点
弁護士費用を支払う経理担当者や個人事業主は、以下の点に注意して処理を行いましょう。支払側として適切に対応することで、税務リスクを回避しスムーズな支払いが可能になります。
契約内容と請求書の照合
まず、届いた請求書の内容が弁護士との委任契約や事前見積もりと一致しているか確認します。報酬の金額や項目、成功報酬の有無、実費の精算額などに相違がないことをチェックしましょう。
万一不明点や金額の違いがあれば、支払う前に弁護士に問い合わせて明確にします。契約書や打合せメールを手元に用意し、照合する習慣を付けると安心です。
源泉徴収の実施
自社(自分)が源泉徴収義務者に該当する場合は、請求額から源泉所得税を適切に控除して支払います。請求書に源泉徴収額の記載があればその指示通り控除し、記載がない場合でも前述の計算方法で算出しましょう。
弁護士が個人である限り原則源泉徴収が必要と心得、迷ったら税理士や所轄税務署に確認すると確実です。源泉徴収した税金は所定の期限までに忘れず国へ納付します。
これを怠ると後日ペナルティ(不納付加算税や延滞税)の対象となる可能性があるため注意してください。
振込金額の確認
源泉徴収を差し引く場合、弁護士への実際の振込額(支払額)は請求書の総額より少なくなります。振込処理の前に必ず控除後の金額を再計算し、振込データに入力する金額をチェックしましょう。
差し引き忘れて満額を送金してしまうミスが起きやすいので注意が必要です(満額送金してしまった場合の対処法は後述)。
逆に弁護士が法人の場合は控除不要なので、請求書記載の金額をそのまま支払うよう気を付けます。弁護士の請求書に「振込金額:○○円(源泉税差引後)」などと書かれている場合は、その金額を送金すればOKです。
消費税の扱いとインボイス
弁護士費用には消費税が課されるため、自社が課税事業者であれば支払った消費税を仕入税額控除できます。ただしそのためには、弁護士から受け取る請求書がインボイス制度の要件を満たした「適格請求書」である必要があります。
請求書に適格請求書発行事業者の登録番号や消費税額の明示がない場合、弁護士が免税事業者(未登録)である可能性があります。その場合、支払側はその消費税相当額を仕入税額控除できない(実質的にコスト増)ため、事前に弁護士と相談しておくことが望ましいです。
必要に応じて「インボイス発行をお願いできませんか」と打診したり、消費税分を値引き交渉する例もあります。
2023年10月~2029年までの経過措置期間中は、免税事業者の請求書について一部控除が認められるものの将来的にはゼロになるため、取引先弁護士のインボイス対応状況を確認しておくと安心です。
経理処理と証憑保存
支払った弁護士費用は適切な勘定科目で経理計上します。顧問料や相談料は「支払手数料」や「顧問料」、訴訟費用なら「支払報酬」、内容に応じて「弁護士報酬」という科目を用意してもよいでしょう。
源泉徴収した税金は一時的な未払金(預り金)として処理し、税金納付時に取り崩します。請求書や領収書は税務署からの指摘に備えて7年間保管します。
紙で受領した場合はファイリング、電子メール等で受領した場合は電子帳簿保存法の要件に沿って保存しましょう。特にインボイスとして受け取った請求書は控除の根拠書類となるため、適切な保存が必要です。
弁護士費用の支払証明
振込後、弁護士から領収書が発行されることもあります。
銀行振込で支払えば振込明細で十分ではありますが、源泉徴収が絡む場合などは領収書に「源泉所得税控除後の受取金額○○円を確かに領収しました」などの記載があり、弁護士側でも受領額を確認した証拠となります。
必須ではありませんが、領収書を受け取った場合は請求書とセットで保管し、内容を突き合わせておきましょう。
また、年末調整や確定申告の際に支払調書(支払った報酬と源泉徴収額を記載した書類)を作成・交付する義務があります(主に支払者が税務署提出用に作成)。経理担当者は税務スケジュールも念頭に置きつつ処理してください。
以上の点を踏まえ、依頼者側としては「契約どおりの金額か」「源泉徴収の処理は正しいか」「税務上の書類は揃っているか」に注意しながら、弁護士費用の支払い業務を進めましょう。
疑問があれば遠慮なく弁護士や税理士に確認することも大切です。適切に処理すれば経費計上や税額控除もしっかり行え、無用な税務リスクを避けることができます。
請求書や源泉徴収に関するトラブル事例とその予防策
弁護士費用の請求・支払業務では、源泉徴収の有無や金額をめぐってトラブルが起きることがあります。また、請求書の不備による行き違いも少なくありません。ここでは、よくあるトラブル事例とその予防策を紹介します。
事例1:源泉徴収を失念して満額支払ってしまった
会社が弁護士からの請求額をそのまま振り込んでしまい、本来差し引くべき源泉所得税を控除し忘れたケースです。後日経理担当者がミスに気づきましたが、既に弁護士には満額が渡ってしまっています。
この場合、本来は弁護士側が源泉税相当額を返金し、会社がその金額を税務署に納付するのが筋ですが、弁護士によっては返金に難色を示すこともあります。
最終的には支払者である会社が源泉税分を自社負担で納付し、弁護士は満額受け取る形となると、会社側がその税額分を余計に支払ったことになってしまいます(さらに税務署から不納付加算税を課される恐れも)。
予防策:請求書に源泉徴収額と差引支払額が明記されていれば防げるミスです。弁護士側は必ず請求書に源泉徴収税額を記載し、支払側も振込前に控除計算を再確認しましょう。
また、万一引き忘れた場合は速やかに弁護士に相談し、事情を説明して源泉税分の返還に協力してもらうことが大切です。
事例2:弁護士が源泉徴収を想定せず満額受領を主張
弁護士との契約金額について認識相違が起きるケースです。例えば「報酬100万円で合意した」と弁護士は考えていたが、依頼者は「100万円から源泉徴収されるから実際の手取りは約90万円だろう」と解釈していた、などの行き違いが起こることがあります。
結果として弁護士が源泉控除前の満額100万円の振込を要求し、依頼者は源泉控除後で支払ったので不足分を請求された、というトラブルに発展することがあります。
予防策:契約段階で金額の表示方法(源泉税控除前か後か)を明確にしておくことが重要です。
通常、弁護士が提示する見積額や契約額は消費税込・源泉徴収前の総額ですが、依頼者が源泉徴収義務者である場合は「実際の振込額は契約額の約90%程度になる」ことを双方認識しておく必要があります。請求書でも源泉徴収額を記載していれば「不足分」などという誤解は生じません。
コミュニケーション不足をなくし、書面でも明示することで防げるトラブルです。
事例3:弁護士の請求書にインボイス必要事項が記載されておらず、経理処理に困った
2023年10月以降、消費税課税事業者の経理担当者は仕入税額控除のため取引先から適格請求書を受領する必要があります。
しかし弁護士から受け取った請求書に登録番号や税率区分が書かれておらず、適格請求書の要件を満たしていませんでした。
後日、その弁護士が実は免税事業者でインボイス未登録であることが判明し、支払った消費税約10万円が控除できず会社のコスト増となってしまいました。
予防策:取引開始時に弁護士がインボイス発行事業者かどうか確認することが有効です。登録済であれば請求書に登録番号等が記載されるはずなので、もし漏れがあれば記載を依頼します。
未登録の場合は先方と相談し、可能であれば登録手続きを検討してもらう、難しければ消費税相当分を値引くなどの調整を図りましょう。
2023年〜2025年は80%控除、2026年〜2028年は50%控除が認められる経過措置がありますが、いずれにせよ将来的には控除できなくなるため、早めに対応策を協議しておくことが大切です。
トラブルになってからでは遅いので、請求書の様式から気付き次第確認しましょう。
事例4:請求書の記載ミスにより過不足の支払いが発生
弁護士事務所が慣れない請求書発行でミスをし、消費税や源泉徴収額の計算誤り・記載漏れがあったケースです。その結果、依頼者側が誤った金額を振り込んでしまい、追加支払いまたは返金が発生しました。
例えば源泉徴収額の桁を間違えて多く控除してしまい弁護士への支払額が不足した、といった事態です。
予防策:弁護士側は請求書を発行する際、ダブルチェックを徹底し金額計算に誤りがないよう注意します。最近では会計ソフトや請求書作成ツールで自動計算できるため、それらを活用するのも良いでしょう。
依頼者側でも、届いた請求金額がおかしくないか目を通し、疑問があればすぐ問い合わせる姿勢が必要です。お互いに確認し合うことでミスに早期に気付き、振込前に修正できます。
事例5:委任契約にない費用項目が請求書に含まれていた
弁護士が契約時に説明していなかった費用(例えば追加の手数料や想定外の実費)が請求書に計上されており、依頼者が驚いてトラブルになるケースです。弁護士としては必要経費なので請求したつもりが、依頼者から「聞いていない」とクレームになることがあります。
予防策:弁護士は着手前や途中経過で費用発生の見込みを依頼者に逐一説明し、了承を得るようにします。依頼者も不明な点は都度確認し、「追加費用が出る場合は事前に教えてください」と伝えておくと良いでしょう。
請求書だけ突然送られてくると驚きにつながるので、事前のコミュニケーションがトラブル防止の鍵です。万一契約外の費用が請求された場合でも、冷静に契約書や経緯を確認し、双方納得の上で調整するようにしましょう。
以上のように、源泉徴収額の認識違いや請求書の不備からトラブルは起こりがちです。しかし、その多くは事前の確認と適切な書面記載で防ぐことが可能です。
弁護士・依頼者双方が請求内容と税務処理を正しく理解し、請求書に必要情報を漏れなく盛り込むことで、金銭トラブルを未然に防止できます。特に源泉徴収に関しては、請求書で明示する・支払時に再確認するという二重の対策を講じることをおすすめします。
弁護士側の会計処理とインボイス制度への対応
最後に、弁護士(受領者)側の視点から、報酬の会計処理および近年導入されたインボイス制度への対応について触れておきます。これは弁護士自身や法律事務所向けの内容ですが、依頼者にとっても弁護士の事情を理解しておくことは有益でしょう。
弁護士側の会計処理のポイント
弁護士が報酬を受領する際、源泉徴収の関係で「請求額 = 実際の入金額 + 天引き税額」という構図になります。
そのため、弁護士側の帳簿上は源泉徴収税額も含めた金額を売上として計上し、同時に差し引かれた源泉税分を「仮払金(預り金)」あるいは「前払税金」として処理する必要があります。
例えば、税抜100万円+消費税10万円の報酬を請求し、102,100円が源泉徴収されたケースでは、弁護士の手元には907,900円(消費税込110万円−源泉税102,100円)が振り込まれます。
この場合でも、弁護士の売上は消費税抜き100万円であり、請求書どおり消費税10万円も発生しています。
源泉徴収された102,100円は弁護士が納付すべき所得税の仮払分ですから、経理上は「現金907,900円の入金」と同時に「前払所得税102,100円の発生」として記録し、合わせて売上1,000,000円・預り消費税100,000円を計上します。
後日、確定申告で所得税を計算する際に、この前払税金102,100円を充当し、必要に応じて不足分を納めたり超過分の還付を受けたりします。
このように、弁護士側では源泉徴収分を差し引かれていても、あくまで報酬の総額を収入として認識することが大切です。もし源泉徴収分を売上から除いてしまうと、本来の収入を少なく計上することになり誤りです(税務上も適切ではありません)。
会計ソフト等では「源泉徴収あり」の請求として登録すると自動で仮払所得税勘定が計上される仕組みもあるので、活用すると良いでしょう。
また、実費部分の会計処理にも注意が必要です。依頼者から預り金を受け取っていた場合、それを充当して実費を支出したら精算報告し、残額は返金します。
立替経費を後から請求する場合も、厳密には弁護士の売上ではなく依頼者の負担するべき費用ですので、「収入」ではなく立替金の回収として処理します。
ただし実費に手数料を上乗せして請求する場合などはその上乗せ分は収入となります。この辺りは税理士と相談しつつ正確に処理しましょう。
いずれにせよ、報酬と実費を混同せず、源泉徴収税や消費税といった税金も適切に勘定科目を振り分けることが弁護士側経理のポイントです。
インボイス制度への対応
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、2023年10月より開始された消費税の新しい仕入税額控除制度です。弁護士業界にもこの制度は影響を及ぼしています。要点をまとめると以下のとおりです。
課税事業者の弁護士は登録が必要
年間売上高が1,000万円超などで消費税課税事業者となっている弁護士・法律事務所は、適格請求書発行事業者の登録を税務署に申請し、登録番号の交付を受けています。
登録事業者となった弁護士は、依頼者(取引先)から求められた場合にはインボイス(適格請求書)を発行する義務があります。
請求書に自分の登録番号(Tから始まる13桁の番号)を記載し、取引ごとの適用税率や税額を明示するなど、前述したインボイス要件を満たす書式で発行します。これは弁護士に限らず全業種共通の対応です。
免税事業者の弁護士は対応を検討
年間売上高が1,000万円以下で消費税免税事業者の弁護士(フリーランスや小規模事務所など)の場合、インボイス発行事業者になるかどうか選択の余地があります。
登録しなければ引き続き消費税納税は不要ですが、取引先(依頼者)は弁護士に支払う消費税相当額を控除できなくなります。
そのため、企業クライアントが多い弁護士は登録せざるを得ない状況が生まれています。登録しないままだと「消費税分を値下げしてほしい」と交渉されたり、企業からの依頼を敬遠されるリスクがあるためです。
実際、事業規模が小さい弁護士でもインボイス開始を機に課税事業者へ転換する例が見られます。
インボイス制度による収入への影響
インボイス発行事業者となった弁護士は、それまで報酬に上乗せしていた消費税を預かり、後日納税する義務が発生します。免税事業者時代は消費税分がそのまま収入になっていたため、課税事業者になると実質手取りが減ることになります。
逆に取引先に配慮して今まで税込価格だった報酬を税抜表示に変更し、消費税分を別途請求することで自身の手取りは変えずに対応するケースもあります。
いずれにせよ、インボイス制度開始後は弁護士報酬の表示方法や金額設定を見直す動きが出ています。依頼者としても、弁護士から提示される見積額が「税抜か税込か」を確認する必要があるでしょう。
インボイスへの記載事項
適格請求書を発行する場合、前述のとおり弁護士の登録番号、取引年月日、取引内容、税込金額、適用税率ごとの消費税額などを記載する必要があります。
幸い弁護士業務は適用税率が原則10%のみ(※裁判費用など非課税のものは別ですが)で簡単なことが多く、フォーマットさえ整えてしまえば対応は難しくありません。各弁護士会や会計ソフト提供会社からテンプレートも提供されています。
請求書発行時にミスなくこれらを記載することが、弁護士側の実務課題となります。
インボイスと源泉徴収の関係
インボイス制度が始まっても、源泉徴収のルール自体に変更はありません。先ほど触れたように、消費税額を区分記載していれば源泉徴収対象額から外せるという取扱いも従前どおりです。
インボイス導入によって弁護士側・依頼者側の事務負担は増えましたが、源泉徴収に関してはこれまで通り粛々と行うだけです。
強いて言えば、インボイスのおかげで請求書に消費税額が明示されるようになったため、依頼者は源泉徴収額をより計算しやすくなったとも言えます。
今後、弁護士業界でもインボイス制度への対応は必須となっていきます。特に企業法務を扱う弁護士にとって、適格請求書発行事業者であることは事実上の前提条件になるでしょう。
一方、一般民事中心で顧客が個人ばかりという弁護士であれば、無理に登録せず免税事業者のままの方が収入面で有利かもしれません。
各弁護士が自らの顧客層や収入規模を考慮して判断するところです。依頼者の立場からすると、自分が支払う弁護士がインボイス発行可能かどうかを把握し、それに応じた対応を取ることが求められます。
まとめ
弁護士への支払いにまつわる請求書の読み方・書き方から、報酬体系、源泉徴収の処理、インボイス制度まで幅広く解説しました。
ポイントを振り返ると、まず請求書には報酬と実費の内訳、消費税額、源泉徴収額など必要事項を漏れなく記載すること、依頼者側は源泉徴収を確実に実施し適正に納付することが重要です。
弁護士報酬には着手金・成功報酬・日当など独特の項目がありますが、契約時にそれらを把握していれば請求書で戸惑うこともありません。
源泉徴収については、企業が個人弁護士に支払う場合は10.21%(超過分20.42%)を天引きするルールを念頭に置き、請求書での明示と双方の確認を徹底してトラブルを防ぎましょう。
インボイス制度も始まり、経理実務が複雑化していますが、お互いに協力して情報を共有することで円滑に対応できるはずです。
経理担当者・個人事業主にとって、弁護士費用の処理は初めは難しく感じるかもしれません。しかし本記事の内容を参考に、基本原則と注意点を押さえておけば怖がる必要はありません。
適正な手順で処理を行い、安心して法律サービスを受けられるようにしましょう。弁護士側の方も、自身の請求書発行や会計処理の際にぜひ役立てていただければ幸いです。
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