消費税の課税事業者とは、消費税を計算して申告・納付する義務のある事業者を指します。本記事では、課税事業者と免税事業者の違い、納付すべき消費税の計算方法などについてわかりやすく解説します。
目次
消費税とは何か
消費税とは、商品や製品、サービスの提供などの取引に対して課税される税金です。
例えば、私たちがスーパーで食品を買った場合、食品の金額とあわせて消費税を支払います。その後、スーパーは全体の売上高や仕入高を計算したのち、必要な分の消費税を国へと納付します。消費税は消費者が負担する税金ではあるものの、納付するのは事業者であるため、間接的に納付する「間接税」に分類されます。
消費税については以下の記事でも詳しく解説しています。
関連リンク:個人事業主の消費税について徹底解説。払うタイミングや申告・納付方法をご紹介
消費税の課税事業者とは?
課税事業者とは、消費税の納付義務がある事業者を指します。以下の2点の合計額である「課税売上高」が1,000万円を超えた事業者が課税事業者となります。
・消費税が課される取引の売上額
・輸出取引等の免税売上額
なお、この判断については「特定期間」と呼ばれる期間などによって条件が細かく定められているので、詳しくは国税庁のホームページもあわせてご覧ください。
参照:特定期間の判定|国税庁
消費税の免税事業者とは?
消費税を納付する必要がない事業者のことを免税事業者と呼びます。免税事業者であっても、商品やサービスを提供した際に消費税を上乗せして請求することはできますが、納付義務がないため、売上はそのまま免税事業者の利益になります。
参考として、消費税の課税対象は消費税法によって以下のように定められています。
・国内の取引
・事業者が事業として行う取引
・対価を得て行う取引
・資産の譲渡等
また、輸入取引であり、かつ保税地域から引き取られるものに関しては、外国貨物の引き取りの際も課税対象となります。
参照:No.6105 課税の対象|国税庁
消費税の仕組みについて
課税事業者が納付すべき消費税の計算方法や、納税スケジュールなどについて解説します。
課税事業者の消費税納税の具体例
課税事業者は、消費者から受け取った消費税をそのまま納付しているわけではありません。仕入の際に支払った消費税分を、受け取った消費税から差し引いて納税するためです。
例として、以下の3者の場合で考えてみましょう。
・製造業者
・小売店
・消費者
小売店は3000円の商品を消費税10%で消費者に販売しました。その際、消費者から預かった消費税は300円です。
小売店はこの商品を1000円で製造業者から仕入れ、100円の消費税を卸売店に支払っています。期間中、小売店の取引がこの1件のみであったと仮定すると、小売店が納税すべき金額は以下のように計算できます。
300円(預かった消費税)- 100円(仕入などの際に支払った消費税)= 200円(納付するべき消費税)
消費税の種類
厳密に言うと、消費税は「消費税」と「地方消費税」に分けられ、これらをまとめて「消費税等」と呼びます。消費税と地方消費税のそれぞれの税率は以下の通りです。
標準税率 | 軽減税率 | |
消費税率 | 7.8% | 6.24% |
地方消費税率 | 2.2% | 1.76% |
合計 | 10% | 8% |
参照:消費税のしくみ|国税庁
消費税の納税回数とスケジュール
一般的に課税事業者は、事業年度が終了すると、1年間に発生した消費税の計算をして納税します。法人は事業年度の最後の日の翌日から2ヶ月以内に、個人事業主は1月1日から12月31日までの分を翌年の3月末までに、申告と納税をする必要があります。
1年間に支払う消費税額が48万円を超えた場合には、翌年に中間申告と納税を行います。なお、この48万円という基準には、地方消費税は含まれません。中間申告と納付の回数は、前年度消費税額によって以下のように定められています。
前年の消費税額 | 中間申告・納付の回数 |
48万円超 400万円以下 | 年1回 |
400万円超 4,800万円以下 | 年2回 |
4,800万円超 | 年11回 |
例えば、1月から12月が事業年度の法人で、かつ年1回の中間申告が必要な場合は、中間申告の対象となる期間は1月から6月です。納付期限は対象となる期間の最後の日から2ヶ月以内であるため、中間申告と納税は8月31日までに行うことになります。
参照:消費税及び地方消費税(個人事業者)の中間申告と納付|国税庁
消費税の計算方法の種類
①一般課税(原則課税)方式
一般課税方式とは、消費者から受け取った消費税額から、仕入などの際に支払った消費税額を差し引いて計算する方法です。
納付税額 = 課税期間中の収入に係る消費税額 / 預かった消費税額 – 課税期間中の資質に係る消費税額 / 支払った消費税額
仕入税額控除を行う際は、以下のように計算方法が異なります。
表の中に記載されている「個別対応方式」とは、仕入に係る消費税を以下の3つに区分して計算する方法です。
・課税売上にのみ要する課税仕入等に係るもの
・非課税売上にのみ要する課税仕入等に係るもの
・課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入等に係るもの
「一括比例方式」とは、課税期間中の全ての仕入に対する消費税額を、課税売上の割合の分だけ控除する方法です。
参照:No.6401 仕入控除税額の計算方法|国税庁
②簡易課税方式
一般課税方式によって消費税額を計算するには、事務的な負担が発生します。そのため、以下の条件に該当する事業者は、簡易課税方式によって負担を軽減できます。
・基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること
・事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していること
簡易課税方式を採用する場合、以下の計算式に基づいて納付する消費税額を求めます。
納付税額 = 課税売上に係る消費税額 – 課税売上に係る消費税額 × みなし仕入率
みなし仕入率とは、事業区分によって以下のように定められた割合を指します。
事業区分 | みなし仕入率 |
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 80% |
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
引用:No.6505 簡易課税制度|国税庁
課税事業者に該当する要件
本項で解説する条件のいずれかを満たす場合には、課税事業者として消費税を納税する必要があります。
参照:納税義務者は誰か?
前々事業年度の課税売上高が1,000万円超
課税事業者であるかどうか判断するために、一般的に認識されているポイントが「前々事業年度の課税売上高が1,000万円超を超えているかどうか」という点です。個人事業主の場合は1月1日から12月31日の1年間を一区切りとするため、前々年度の課税売上高で判断します。
例えば、今まで免税であった事業者の課税売上高が2021年度に初めて1,000万円を超えた場合、その事業者は2023年度に自動的に課税事業者となります。
前年上半期の課税売上高が1,000円超(個人事業主)
上半期(1月1日〜6月30日)は「特定期間」と呼ばれる期間であり、この期間の課税売上高が1,000万円超を超えると、翌年から課税事業者となります。もしくは、支払った給与などの金額が1,000万円を超えた場合にも、翌年から課税事業者となります。この場合は前々年度の課税売上高は関係ないことに注意しましょう。
また、特定期間中に課税売上高が1,000万円を超えても、給与などの合計額が1,000万円を超えていなければ、金額によっては免税事業者と判断される場合もあります。
前年度の期首から6ヶ月の課税売上高が1,000万円超(法人)
法人の場合は事業年度を自由に定めることができるため、その事業年度の期首から6ヶ月間を特定機関と考えます。個人事業主と同様に、この期間に税売上高が1,000円超を超えた場合、もしくは支払った給料などの金額が1,000万円を超えた場合には、翌年から課税事業者となります。
同様に、給与などの合計額が1,000万円を超えていなければ、その金額によって免税事業者と判断される場合もあります。
消費税の課税事業者となるための届出をしている
これまでに解説した課税事業者の条件に当てはまらない事業者も、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで課税事業者となります。
課税事業者となれば消費税を支払う義務が発生しますが、2023年10月1日から始まるインボイス制度に対応したい時や、受け取った消費税よりも支払った消費税のほうが大きい時には、あえて課税事業者になることを選択するケースもあります。
参照:[手続名]消費税課税事業者選択届出手続|国税庁
資本金1,000万円以上の新規設立法人もしくは特定新規設立法人
新しく立ち上げた法人は基本的に免税事業者ですが、資本金が1,000万円以上の場合と、特定新規設立法人である場合には、設立した時点から課税事業者となります。
「特定新規設立法人」とは、課税売上高が5億円を超える事業者が、株式を50%超保有するなど、特定の条件に該当する法人のことです。新しく法人を設立する際は、このポイントを加味して資本金などの金額を定めるといいでしょう。
課税事業者となった場合、なくなった場合に必要な届出
免税事業者から課税事業者になる場合や、課税事業者から免税事業者になる場合など、消費税に関する届出について紹介します。
消費税課税事業者届出書
ある事業年度の課税売上高が1,000万円を超えた時は、税務署に「消費税課税事業者届出書」を提出します。なお、この届出を提出しなかったとしても、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、自動的に課税事業者となります。
参照:[手続名]消費税課税事業者届出手続(基準期間用)|国税庁
消費税の新設法人に該当する旨の届出書
資本金を1,000万円以上に設定するなどの理由で、新しく設立する法人が課税事業者に該当する場合には、税務署に「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出します。
ただし、法人設立書届出書の所定の項目にすでにその旨を記載している場合には、この届出は不要です。
参照:[手続名]消費税の新設法人に該当する旨の届出手続|国税庁
消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書
課税売上高が1,000万円超から1000万円以下になった事業者は、免税事業者となるため「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出する必要があります。免税事業者となることがわかったら、速やかに提出しましょう。
参照:[手続名]消費税の納税義務者でなくなった旨の届出手続|国税庁
届出を忘れるとどうなるか
届出の提出を忘れた場合の対処は、対象となる届出の種類によって異なります。例えば、課税売上高が1,000万円を超えた際に提出するべき「消費税課税事業者届出書」に関しては、提出しなくても、自動的に課税事業者となります。
しかし、課税売上高が1,000万円を超えていない事業者があえて課税事業者となることを選択する場合には「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。課税売上高が1,000万円を超えた時に提出する消費税課税事業者届出書とは別の書類なので、注意が必要です。
なお、インボイス制度の導入にあたって課税事業者となる場合については「消費税課税事業者選択届出書」の提出が不要となる場合があります。詳しくは本記事で後述します。
参照:[手続名]消費税課税事業者選択届出手続|国税庁
インボイス制度と課税事業者の関係性は?
課税事業者のみ発行できる適格請求書とは
2023年10月1日から始まるインボイス制度とは「適格請求書(インボイス)」と呼ばれる請求書の発行に関する制度です。
今まで、多くの課税事業者は、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて納付額を計算する「仕入税額控除」という仕組みを使って節税をしてきました。しかし、インボイス制度の導入後は、適格請求書がないと仕入税額控除が認められなくなってしまいます。
この適格請求書は、事前に手続きを行った適格請求書発行事業者のみ発行できます。登録事業者の届出は課税事業者しか行えないため、適格請求書も課税事業者しか発行できません。
参照:インボイス制度の概要|国税庁
適格請求書発行事業者のメリット・デメリットとは
適格請求書発行事業者になる大きなメリットは、適格請求書を発行できることです。適格請求書を発行することで、取引先は仕入税額控除が可能となるため、これまで通りに取引先との取引を続けられる可能性があります。また、課税仕入が課税売上高よりも多い場合は、申告によって消費税の還付が受けられます。
その一方で、適格請求書発行事業者は課税事業者であるため、消費税の申告と納付が必要です。これまで免税事業者で消費税を支払う必要はなかった事業者は、適格請求書発行事業者になることで、支出が増えてしまうでしょう。また、課税事業者となると消費税の計算が必要であるため、経理業務の負担が増すことが予想されます。
適格請求書発行事業者になるには
インボイス制度は2023年10月1日から開始されますが、その時点で適格請求書発行事業者となるためには、前日の9月30日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」をインボイス登録センターに提出します。課税事業者になるための届出などとは異なり、提出先が税務署ではない点に注意しましょう。また、e-Taxによる手続きも可能です。
本来であれば、適格請求書発行事業者となるためには「適格請求書発行事業者の登録申請書」と「消費税課税事業者選択届出書」の2つの書類を提出する必要があります。ただし、2023年10月1日から2029年9月30日までの間に関しては、免税事業者が適格請求書発行事業者の申請を行うことで、自動的に課税事業者となる措置が設けられています。そのため、条件に該当する場合は「消費税課税事業者選択届出書」の提出は必要ありません。
参照:[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)|国税庁
インボイス制度導入に伴う事業者の負担軽減措置
インボイス制度を導入するにあたって発生する事業者の負担を軽減するために、さまざまな措置が設けられています。課税事業者・免税事業者の2つのケースを紹介します。
課税事業者
免税事業者と取引のある課税事業者は、仕入税額控除ができないため税負担が増します。その負担を考慮して、2029年(令和11年)9月30日までは以下の割合で仕入税額控除を受けることが可能です。
出典:5 経過措置|国税庁
なお、この措置を適用するにあたっては、帳簿に「80%控除対象」など経過措置を適用する課税仕入れである旨を明記するといった条件があります。また、適格請求書の前の様式である「区分記載請求書」を保存することも必要です。
免税事業者
免税事業者がインボイス制度に対応するために課税事業者および適格請求書発行事業者になった場合は、それまでになかった消費税の納付を行う必要が生じます。その負担を軽減するために、2026年9月30日までの課税期間については、消費税の納付税額を売上税額の2割にする「2割特例」を受けることが可能です。
例えば、年間の売上が700万円(税額70万円)だった場合には、70万円の2割である14万円を納付すればいいことになります。通常の方法で計算するよりも一般的には消費税額が抑えられますが、特例を適用しない方が得というケースもあるので、事前に計算した上で決めることをおすすめします。
参照:インボイス制度、支援措置があるって本当!? : 財務省
経理業務を楽にするならINVOY
「INVOY」は、見積書や請求書などの書類を無料で発行・管理できるサービスです。インボイス制度にも対応しており、画面の案内に従って入力することで、適格請求書を簡単に発行することもできます。
まとめ
課税事業者は消費税を申告・納付する義務が発生しますが、インボイス制度の導入により、課税売上高が1,000万円を超えなくてもあえて課税事業者を選択する事業者が増えています。課税事業者となる条件や制度の動向について理解することで、適切な判断を行いましょう。
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