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源泉所得税の勘定科目とは?法人・個人事業主別の仕訳例を解説

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源泉所得税 勘定科目

「源泉所得税の勘定科目は、結局どれが正解なのか」という長年の疑問に、この記事で明確な答えを示します。法人と個人事業主、それぞれの立場で使用すべき勘定科目を具体的に解説し、経理業務から迷いをなくすことを目指します。

この記事を読み終える頃には、給与支払いや報酬の受け取り、年末調整といったあらゆる場面で、自信を持って源泉所得税の仕訳ができるようになります。具体的な仕訳例から会計ソフトの操作手順まで網羅しているため、今日からすぐに実践可能です。

経理の初心者からベテランまで、この記事の手順に沿って進めるだけで、正確な会計処理が実現できます。なぜその勘定科目を使うのか、理由から丁寧に解説するため、応用力も身につきます。複雑なルールを、誰にでもわかるシンプルなステップに分解しました。

源泉所得税の勘定科目は立場によって変わる

源泉所得税の会計処理で用いる勘定科目は、自分が「支払う側」か「受け取る側」かによって明確に異なります。この根本的な違いを理解することが、混乱を解消する第一歩です。

支払う側(源泉徴収義務者)は「預り金」

従業員に給与を支払う法人や、個人事業主に報酬を支払う事業主は、源泉徴収義務者に該当します。このとき天引きした源泉所得税は、会社が従業員や取引先に代わって一時的に預かっているお金です。

これは会社の売上や資産ではなく、国に納付すべき「負債」にあたります。そのため、会計上は負債勘定である「預り金」を用いて処理します。

受け取る側(個人事業主)は「事業主貸」または「仮払金」

デザイナーやライターなどの個人事業主(フリーランス)が報酬を受け取る際は、あらかじめ源泉所得税が差し引かれています。この差し引かれた税金は、事業の経費ではなく、個人として納めるべき所得税の前払いです。

したがって、事業用の資金から個人の税金を支払ったとみなし、「事業主貸」または「仮払金」という勘定科目で処理します。

「租税公課」が不適切な理由

源泉所得税は税金の一種ですが、勘定科目として「租税公課」を使用するのは誤りです。支払う側にとって、預かった税金は自社の経費ではありません。

受け取る側にとって、所得税は個人の税金であり、事業上の必要経費には算入できないためです。この点を明確に区別し、正しい勘定科目を選びましょう。

支払う側の源泉所得税仕訳

支払う側の源泉所得税仕訳

法人や個人事業主が従業員や外部の専門家に報酬を支払う際には、源泉徴収義務者として正確な会計処理が求められます。ここでは、支払う側の立場に立った具体的な仕訳方法を、場面ごとに詳しく解説します。

給与・賞与支払時の基本的な仕訳

従業員への給与支払いは、源泉徴収が最も頻繁に発生する場面です。会社は、従業員の給与総額から所得税や社会保険料を天引きし、その差額を従業員に支払います。

天引きした源泉所得税や社会保険料は、国や関係機関に納付するまで会社が一時的に預かるお金です。そのため、負債勘定である「預り金」として処理します。後々の管理を容易にするため、「預り金」勘定に「源泉所得税」「社会保険料」といった補助科目を設定すると、内訳が明確になり便利です。

給与総額25万円、源泉所得税5,000円、社会保険料4万円を差し引き、差額の20万5,000円を普通預金から振り込んだ場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額摘要
給与手当250,000円普通預金205,000円従業員への給与振込
預り金5,000円源泉所得税
預り金40,000円社会保険料

この仕訳により、費用として「給与手当」が計上され、同時に国へ納付すべき「預り金」という負債が正しく記録されます。

外部への報酬支払時の仕訳

源泉徴収の対象は、従業員への給与に限りません。弁護士、税理士、デザイナーといった個人の専門家へ報酬を支払う場合も、源泉徴収が必要です。

ここで重要な注意点は、報酬の支払先が「税理士法人」のような法人格を持つ団体である場合、源泉徴収は不要であることです。源泉徴収の対象は、あくまで個人に対して支払われる報酬です。

支払う側が使用する勘定科目は、給与の時と同じく「預り金」です。ただし、費用の勘定科目は「給与手当」ではなく、「支払手数料」や「支払報酬料」など、報酬の内容に応じた科目を使用します。

個人のデザイナーへ報酬10万円を支払い、源泉所得税10,210円 (100,000円 × 10.21%) を差し引いた89,790円を普通預金から振り込んだ場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額摘要
支払報酬料100,000円普通預金89,790円デザイナー報酬
預り金10,210円源泉所得税

請求書に消費税が含まれる場合の注意点

外部への報酬支払いでは、請求書に消費税が含まれている場合の扱いに注意が必要です。この処理方法を誤ると、源泉徴収税額が変わってしまいます。

原則として、源泉徴収の対象となる金額には消費税を含めた総額が用いられます。例えば、請求書に「報酬 110,000円(税込)」とだけ記載されている場合、源泉徴収税額は110,000円を基に計算します。

しかし、請求書に報酬本体の金額と消費税額が明確に区分して記載されている場合は、例外が認められています。このケースでは、消費税額を除いた報酬本体の金額を基に源泉徴収税額を計算できます。

消費税が区分されていない請求書

請求書の記載が「デザイン料 110,000円」の場合、源泉徴収税額の計算は「110,000円 × 10.21% = 11,231円」となります。

消費税が明確に区分されている請求書

請求書の記載が「デザイン料 100,000円、消費税 10,000円」の場合、源泉徴収税額の計算は「100,000円 × 10.21% = 10,210円」となります。

このように、請求書の書き方一つで実際に預かる税額が変わるため、支払う側も受け取る側も、このルールを理解しておくことが重要です。

預かった税金を国に納付するときの仕訳

給与や報酬から預かった源泉所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに税務署へ納付します。納付時には、計上していた「預り金」という負債を取り崩す仕訳を行います。

例えば、前述の給与とデザイナー報酬から預かった源泉所得税の合計額(5,000円 + 10,210円 = 15,210円)を納付した場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額摘要
預り金15,210円普通預金15,210円X月分源泉所得税納付

この仕訳によって、「預り金」勘定の残高がゼロになり、納税義務が完了したことが会計帳簿上で明確になります。

年末調整の仕訳

年末調整は、1年間の給与から源泉徴収した所得税の合計額と、年間の正しい所得税額との差額を精算する手続きです。結果として税金を多く預かっていた場合は「還付」、不足していた場合は「追徴」となり、それぞれ特有の仕訳が必要になります。

税金の還付が発生した場合

年間の源泉徴収税額が本来納めるべき税額より多かった場合、その差額を従業員に返金(還付)します。通常、この還付は12月分の給与と合わせて支払われます。仕訳上では、負債である「預り金」を借方に計上して減らし、その分だけ従業員への支払額を増やします。

12月分の給与総額が30万円、社会保険料4万円、12月分の源泉所得税が7,000円の従業員について、年末調整の結果8,000円の還付が発生した場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額摘要
給与手当300,000円普通預金261,000円12月分給与
預り金8,000円預り金40,000円社会保険料
預り金7,000円12月源泉所得税

この仕訳では、還付金8,000円を「預り金」の借方に、12月分の源泉所得税7,000円を「預り金」の貸方に計上します。結果として、この従業員に関する源泉所得税の預り金は、差し引き1,000円減少することになります。

税金の追徴が発生した場合

逆に、年間の源泉徴収税額が本来納めるべき税額より少なかった場合、その不足額を従業員から徴収(追徴)します。通常、12月分の給与から天引きする形で徴収します。仕訳上では、不足額を「預り金」の貸方に追加で計上し、その分だけ従業員への支払額を減らします。

上記と同じ従業員で、年末調整の結果5,000円の不足が判明し追徴する場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額摘要
給与手当300,000円普通預金248,000円12月分給与
預り金40,000円社会保険料
預り金7,000円12月源泉所得税
預り金5,000円年末調整不足額

この仕訳では、不足額5,000円を「預り金」の貸方に追加計上します。これにより、会社が国に納付すべき税額が正しく反映されます。

還付額が納付額を上回る特例ケース

年末調整の結果、全従業員への還付金の合計額が、その月に徴収すべき源泉所得税の合計額を上回ることがあります。この場合、納付すべき税額は0円となり、納付書(所得税徴収高計算書)には「0円」と記載して税務署に提出します。

会計帳簿上では「預り金」勘定がマイナス(借方残高)になりますが、このマイナス分は翌月以降に預かる源泉所得税と相殺していきます。

ただし、負債勘定がマイナスになることに違和感がある場合や、管理をより明確にしたい場合は、「立替金」勘定を使う方法もあります。これは、会社が税務署に代わって一時的に従業員へ還付金を立て替えて支払ったと解釈するためです。この処理を行うことで、「預り金」勘定のマイナスを防ぎ、会計帳簿をより分かりやすく保つことができます。

受け取る側の源泉所得税仕訳

受け取る側の源泉所得税仕訳

ここからは視点を変え、報酬から源泉所得税を天引きされる個人事業主(フリーランス)の立場での会計処理を解説します。支払う側とは使う勘定科目が全く異なるため、注意が必要です。

「事業主貸」と「仮払金」の使い分け

報酬から天引きされた源泉所得税を処理する際、主に「事業主貸」と「仮払金」の2つの勘定科目が使われます。どちらも正しい処理方法ですが、特徴が異なります。

「事業主貸」を使う方法

所得税は事業の経費ではなく、事業主個人の税金です。そのため、天引きされた源泉所得税は「事業用の資金から、事業主個人の税金を支払った」ものと見なします。この考え方に基づき、個人事業主のプライベートな支出を記録する「事業主貸」勘定で処理します。この方法は仕訳がシンプルで分かりやすいのが特徴です。

「仮払金」を使う方法

天引きされた源泉所得税を、国に対する「所得税の前払い」と捉え、一時的な資産として「仮払金」または「仮払税金」勘定で処理する方法もあります。この方法は、源泉徴収された税額を明確に分けて管理したい場合に便利です。ただし、期末(12月31日)には、この「仮払金」を「事業主貸」に振り替える決算整理仕訳が必要になります。

どちらを選ぶべきか

仕訳の手間を省きたい場合は「事業主貸」がおすすめです。一方で、複数の取引先から源泉徴収されており、その合計額を正確に把握したい場合は、「仮払金」で管理し、期末に振り替える方が管理しやすいでしょう。

報酬を受け取ったときの仕訳

個人事業主が報酬を受け取った際の仕訳で最も重要なポイントは、売上高として源泉徴収される前の総額を計上することです。入金された手取り額を売上にしてはいけません。

デザイン料10万円の請求に対し、源泉所得税10,210円が差し引かれ、89,790円が普通預金に入金された場合の仕訳は以下の通りです(「事業主貸」を使用)。

借方金額貸方金額摘要
普通預金89,790円売上高100,000円デザイン料
事業主貸10,210円源泉所得税

この仕訳により、売上は正しく10万円で計上され、天引きされた10,210円は事業主の個人的な税金の支払い(事業主貸)として記録されます。

確定申告での手続きと還付金の仕訳

年間を通じて「事業主貸」または「仮払金」として処理した源泉徴収税額の合計は、確定申告の際に非常に重要になります。

確定申告での手続き

確定申告書を作成する際、1年間に源泉徴収された税金の総額を所定の欄に記入します。この金額が、計算された年間の所得税額から差し引かれます(税額控除)。この手続きを忘れると、すでに支払った税金を再度納めることになり、二重払いになってしまうため、必ず記載しましょう。

還付金の受け取りと仕訳

年間の所得税額よりも、源泉徴収された税金の合計額の方が多い場合、差額が還付金として戻ってきます。この還付金は、事業の売上や収入(雑収入など)ではありません。あくまで、払い過ぎた個人の税金が返ってきただけです。

そのため、還付金が事業用の口座に入金された場合は、事業主個人の資金が事業用口座に入ったものとして、「事業主借」という勘定科目で処理します。

確定申告の結果、所得税の還付金3万円が事業用口座に振り込まれた場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額摘要
普通預金30,000円事業主借30,000円所得税還付金

この処理により、還付金が事業の利益として誤って計上されるのを防ぎます。

まとめ

源泉所得税の会計処理は複雑に見えますが、基本原則を掴めば決して難しくありません。最後に、最も重要なポイントを再確認しましょう。

支払う側(法人など)は、負債である「預り金」を使います。これは、従業員や取引先に代わって一時的に税金を預かっている状態を示すためです。

受け取る側(個人事業主)は、個人所得税の前払いとして「事業主貸」または「仮払金」を使います。これは、事業の経費ではなく、事業主個人の税金を支払っていることを示すためです。

また、「租税公課」は使用しません。源泉所得税は、支払う側にとっても受け取る側にとっても、事業上の経費にはならないからです。年末調整や消費税の扱いは、特有のルールがあるため注意が必要です。特に、還付・追徴の仕訳や、消費税が区分記載された請求書の扱いは、正確な処理が求められます。

これらのルールを正しく理解し、日々の仕訳に適用することで、会計帳簿の正確性が保たれ、決算や確定申告もスムーズに進みます。この記事で得た知識が、あなたの経理業務における不安を解消し、確かな自信につながることを願っています。

この記事の投稿者:

hasegawa

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