
紹介料は、新規顧客の獲得や優秀な人材の確保など、ビジネスを加速させる強力な手段です。しかし、その経理処理を一歩間違えると、予期せぬ税金の負担増や税務調査での指摘といったリスクに直結します。
紹介料の支払いは、その実態によって会計処理が大きく異なり、「どの勘定科目を使うべきか」という問いは、多くの経営者や経理担当者を悩ませる問題です。
この記事を最後まで読めば、あなたは単に正しい勘定科目がわかるだけでなく、税務上のリスクを回避し、会社の利益を最大化するための戦略的な判断ができるようになります。
人材紹介会社への支払い、取引先への謝礼、従業員へのリファラル報酬など、あらゆる場面を想定した具体的な仕訳例と、複雑な税法のルールをわかりやすく解説します。
「接待交 なさい費」と「支払手数料」の境界線や、2023年10月から始まったインボイス制度への対応、従業員への支払いで注意すべき法規制など、経理担当者がつまずきやすいポイントも網羅しています。
この記事を手に、紹介料に関する会計処理の不安を自信に変え、攻めの経営に活かしていきましょう。
目次
紹介料の勘定科目を決める大原則:支払う「相手」がすべて
紹介料の会計処理で最も重要な原則は、「誰に支払うか」です。支払う相手の立場によって、使うべき勘定科目が決まります。この大原則さえ押さえれば、複雑に見える仕訳も迷うことはありません。
紹介料の支払先は、大きく分けて次の3つのパターンに分類されます。
- 紹介を事業として行う法人・個人(人材紹介会社、不動産仲介業者など)
- 上記以外の法人・個人(顧客を紹介してくれた取引先など)
- 自社の従業員(リファラル採用など)
これに対応する主な勘定科目は、「支払手数料」「接待交際費」「給与手当」の3つです。どの勘定科目を選ぶかによって、法人税の計算における損金算入(経費として認められるか)の扱いが大きく変わるため、慎重な判断が求められます。
まずは、以下の早見表で全体像を把握してください。
表1:紹介料の勘定科目 早見表
支払先 | 主な勘定科目 | 税務上のポイント |
紹介を事業とする法人・個人 | 支払手数料 | 原則、全額損金算入できる |
上記以外の法人・個人 | 接待交際費 | 損金算入に上限がある |
自社の従業員 | 給与手当 | 源泉徴収・社会保険の対象となる |
この表が示すように、支払先によって税務上の取り扱いが全く異なります。次のセクションでは、それぞれのケースについて、具体的な仕訳例を交えながら詳しく解説していきます。
【ケース別】紹介料の仕訳と会計処理を徹底解説

ここからは、3つのケース別に紹介料の具体的な会計処理と税務上の注意点を深掘りします。自社の状況と照らし合わせながら、適切な処理方法を確認してください。
ケース1:人材紹介会社や不動産業者など「紹介を事業とする相手」への支払い
支払う相手が、人材紹介や不動産仲介のように「情報提供や紹介そのものを事業としている」場合、その対価として支払う紹介料は「支払手数料」として処理するのが最も適切です。これは事業活動に必要な役務提供への対価であり、会社の経費として明確に位置づけられます。
この場合の最大のメリットは、支払った金額の全額を損金(税法上の費用)として算入できることです。これにより、課税対象となる所得を圧縮し、法人税の負担を軽減できます。
場合によっては、売上と直接的に結びつく紹介料を「販売手数料」や「広告宣伝費」として処理することもありますが、一般的には「支払手数料」が最も汎用性が高く、税務上も受け入れられやすい勘定科目です。
仕訳例:人材紹介会社に成功報酬として110,000円(税抜100,000円、消費税10,000円)を当座預金から支払った
税抜経理の場合
借方 | 貸方 |
支払手数料 100,000円 | 当座預金 110,000円 |
仮払消費税 10,000円 |
税込経理の場合
借方 | 貸方 |
支払手数料 110,000円 | 当座預金 110,000円 |
支払手数料と広告宣伝費の境界線
「支払手数料」と似た勘定科目に「広告宣伝費」があります。両者の違いは、アプローチする対象にあります。「広告宣伝費」は、テレビCMやWeb広告のように、不特定多数の潜在顧客に対して広く情報を発信するための費用です。
一方、「支払手数料」として処理する紹介料は、特定の顧客や人材の紹介という個別の成果に対して支払われる成功報酬型の費用です。そのため、広告宣伝費とは明確に区別されます。
ケース2:取引先など「紹介を事業としない相手」への支払い
このケースが、経理処理において最も判断が難しく、税務上のリスクが高い場面です。紹介を事業としていない取引先や個人に謝礼として紹介料を支払う場合、原則として「接待交際費」として処理されます。
デフォルトは「接待交際費」
税法上、事業に関係のある者に対する接待、供応、贈答などの支出は「接待交際費」に該当します。紹介を事業としない相手への支払いは、事業を円滑に進めるための「良好な関係を維持するための支出」とみなされるため、原則としてこの区分になります。
しかし、「接待交際費」には大きなデメリットがあります。それは、損金算入に限度額が設けられている点です。資本金1億円以下の中小企業の場合、原則として年間800万円までしか損金に算入できません。この上限を超えた金額は経費として認められず、その分、法人税の負担が増加してしまいます。
戦略的例外:全額損金算入が可能な「支払手数料」とする方法
税務調査で最も厳しくチェックされるのが、この「接待交際費」に該当すべき支出を、他の費用科目に振り替えていないかという点です。しかし、国税庁は一定の要件を満たす場合に限り、紹介を事業としない相手への支払いであっても、全額損金算入が可能な「支払手数料」として処理することを認めています。
そのための要件として、第一に、あらかじめ締結された契約に基づいて金品が交付されることが挙げられます。第二に、提供を受ける役務(サービス)の内容が契約において具体的に明らかにされており、かつ、実際にその役務の提供を受けていることが必要です。
そして第三に、交付した金品の価額が、提供を受けた役務の内容に照らして相当であると認められることが求められます。
口頭での約束やメールでのやり取りだけでは、これらの要件を満たす証明は困難です。税務調査で指摘を受ければ、交際費として認定される可能性が非常に高くなります。
実践編:交際費と指摘されないための「契約書」の重要性
上記の3つの要件を満たし、支払いを正当な「支払手数料」として税務署に認めてもらうための最強の武器が「紹介手数料契約書」です。契約書は、その支払いが場当たり的な謝礼ではなく、事前に取り決められた正当なビジネス取引の対価であることを証明する客観的な証拠となります。
契約書には、少なくとも契約当事者、紹介の定義と成立条件、手数料の算定方法、支払条件といった項目を盛り込むことが重要です。契約当事者として紹介者と被紹介者の情報を明記し、どの時点をもって「紹介成功」とするか(例:紹介先との契約締結時、初回入金時など)を具体的に定めます。
また、手数料の算定方法が固定額か、売上の料率(例:契約金額の10%)かなどを明確にし、支払時期や支払方法も具体的に記載する必要があります。法律上、紹介料の支払いに契約書は必須ではありませんが、作成しておくことでトラブル防止と税務上のリスク回避という大きなメリットが得られます。
専門家のヒント:契約書に収入印紙は必要か?
紹介手数料契約書を作成する際、「収入印紙を貼るべきか」という疑問が生じます。結論から言うと、一般的な紹介契約(委任契約)の場合、印紙は不要とされるケースが多いです。
印紙税法では「請負に関する契約書」が課税対象とされています。しかし、人材紹介のように「仕事の完成」を約束するものではなく、紹介という「行為」を委託する契約は「委任契約」と解釈され、課税文書に該当しないためです。
ただし、契約内容によっては「請負契約」とみなされたり、「継続的取引の基本となる契約書」に該当したりする可能性もゼロではありません。その場合、200円や4,000円の収入印紙が必要になることがあります。判断に迷う場合は、税務署や専門家に確認することをお勧めします。
ケース3:自社の従業員への支払い
自社の従業員が友人や知人を紹介し、採用や契約に至った場合に支払う報酬は、会計処理上「給与手当」として扱うのが唯一の正しい方法です。従業員が行う紹介活動は、社内規定に基づく業務の一環とみなされるため、その対価は給与所得となります。
したがって、この支払いには所得税の源泉徴収が必要です。また、社会保険料(健康保険、厚生年金保険など)の算定基礎となる報酬にも含まれます。
特別解説:リファラル採用の報酬と法規制
近年、採用手法として注目される「リファラル採用」ですが、その報酬制度には法的な注意が必要です。給与・賞与以外の「報奨金」として支払うと、法律違反とみなされるリスクがあります。
重要なのは「職業安定法」の存在です。この法律では、厚生労働大臣の許可なく職業紹介を行い、報酬を得ることを禁止しています。従業員への支払いが「賃金・給料」以外のご褒美とみなされると、会社が無許可で職業紹介事業を行ったと判断されかねません。
このリスクを回避するためには、まず就業規則への明記が不可欠です。リファラル採用制度を正式な社内制度として位置づけ、その支給条件、金額、支払時期などを「就業規則」や「賃金規程」に明確に規定する必要があります。これにより、報酬が「業務に対する正当な対価(給与)」であることを法的に証明できます。
次に、社会通念上妥当な金額設定が求められます。報酬額が人材紹介会社に支払う手数料のように高額になると、事業とみなされるリスクが高まります。従業員の月給と比較して著しく高額にならないよう、社会通念上妥当な範囲で設定することが重要です。
また、社会保険の観点では、報酬の支払い方にも注意が必要です。年4回以上支払われると、それは月々の給与と同じ「固定的賃金」とみなされ、社会保険料の等級(標準報酬月額)に影響を与える可能性があります。
一方、賞与として年3回以下の支給であれば、賞与支払届の対象となります。この違いは、会社と従業員双方の社会保険料負担に影響するため、経理・人事部門は正確に理解しておく必要があります。
紹介料にまつわる税金

紹介料の会計処理では、法人税だけでなく「消費税」と「源泉所得税」の正しい理解も欠かせません。この2つの税金の取り扱いをマスターすることで、無用なトラブルやコスト増を避けられます。
消費税の取り扱いとインボイス制度への対応
紹介料は、原則として「役務提供の対価」であるため、消費税の課税対象となります。そして、インボイス制度の導入により、支払先が「適格請求書発行事業者」であるかどうかが、自社の消費税納税額に直接影響するようになりました。
支払先が適格請求書発行事業者(課税事業者)の場合
相手から適格請求書(インボイス)を受け取ることで、支払った紹介料に含まれる消費税額を、自社が納める消費税額から控除(仕入税額控除)できます。これにより、消費税の負担が軽減されます。
支払先が免税事業者や、登録していない個人の場合
この場合、相手は適格請求書を発行できません。そのため、原則として仕入税額控除が適用できず、支払った消費税相当額がそのまま自社のコスト増につながります。
ただし、急激な負担増を緩和するための経過措置が設けられており、2026年9月30日までは支払った消費税相当額の80%、2029年9月30日までは50%を控除できます。しかし、将来的には全額控除不可となるため、長期的なコストインパクトは無視できません。
したがって、戦略的なアクションとして、紹介を依頼する際は契約前に必ず相手のインボイス登録状況を確認しましょう。同じサービスであれば、免税事業者に支払うよりも、登録事業者に消費税分を上乗せして支払う方が、最終的なコストは安くなる可能性があります。
個人への支払いで迷わない!源泉徴収の要否
個人に紹介料を支払う際、「源泉徴収は必要なのか」という疑問は非常によく聞かれます。多くの人が「個人への支払いはすべて源泉徴収が必要」と誤解していますが、実はそうではありません。
原則として源泉徴収は「不要」
所得税法では、源泉徴収が必要な報酬・料金を限定的に定めています。個人の情報提供に対する対価である「紹介料」は、このリストに含まれていません。したがって、不特定・不定期に行われる一般的な紹介に対する謝礼であれば、源泉徴収は不要です。これにより、支払う側の事務負担は大幅に軽減されます。
源泉徴収が「必要」となる例外ケース
ただし、特定のケースでは源泉徴収が必要となるため注意が必要です。まず、前述の通り、従業員への支払いは「給与手当」として源泉徴収の対象です。
また、支払いの名目が「紹介料」であっても、その実態が原稿料、講演料、デザイン料、弁護士や税理士などの専門家報酬に該当する場合は、源泉徴収が必要です。
さらに、保険外交員のように、特定の会社に専属的に従事し、継続的に紹介を行う個人への支払いも、源泉徴収の対象となる場合があります。実態として何に対する支払いなのかを明確にし、適切に判断することが重要です。
反対側から見る:紹介料を受け取った側の勘定科目
最後に、紹介料を受け取った側の会計処理についても触れておきましょう。支払う側と受け取る側、双方の処理を理解することで、取引全体への理解が深まります。受け取った側の勘定科目は、その紹介行為が本業かどうかで決まります。
本業の場合
人材紹介会社やコンサルタントなど、紹介や仲介を事業の柱としている法人が紹介料を受け取った場合、それは本業の収益そのものです。したがって、「売上高」として計上します。
本業でない場合
製造業の会社が取引先を紹介するなど、本業とは異なる付随的な活動で紹介料を受け取った場合は、営業外の収益として「雑収入」で処理するのが一般的です。
個人が受け取った場合
個人事業主でない個人が紹介料を受け取った場合、その所得は個人の確定申告において「雑所得」として申告するのが通常です。「一時所得」と間違えやすいですが、役務提供の対価としての性質を持つため雑所得となります。
以下の比較表は、これまで解説した内容をシナリオ別にまとめたものです。自社の経理処理を見直す際の参考にしてください。
表2:シナリオ別・紹介料の税務インパクト比較表
支払いシナリオ | 適切な勘定科目 | 法人税への影響 | 消費税の仕入税額控除 | 源泉徴収・社会保険 | 必須のアクション |
人材紹介会社への支払い | 支払手数料 | 全額損金算入 | 可(要インボイス) | 不要 | 領収書・請求書の保管 |
取引先への謝礼(契約書なし) | 接待交際費 | 損金算入に制限あり | 可(要インボイス) | 不要 | 領収書の保管 |
取引先への手数料(契約書あり) | 支払手数料 | 全額損金算入 | 可(要インボイス) | 不要 | 契約書の作成・保管 |
従業員へのリファラル報酬 | 給与手当 | 全額損金算入 | 対象外(不課税) | 必要 | 就業規則への規定 |
まとめ
紹介料の勘定科目は、一見すると複雑ですが、その本質は「誰に、何のために支払うのか」という点に集約されます。正しい会計処理は、単にルールを守るだけでなく、会社の税負担を最適化し、税務調査のリスクを未然に防ぐための重要な経営戦略です。
最後に、本記事の重要なポイントを再確認しましょう。
- 支払先がすべてを決める
支払先が「紹介を事業とする相手」「それ以外の相手」「自社の従業員」のどれに該当するかで、「支払手数料」「接待交際費」「給与手当」を使い分けることが基本です。 - 交際費課税を避けるには契約書が最強の武器
紹介を事業としない相手への支払いでも、事前に契約書を交わすことで、全額損金算入が可能な「支払手数料」として処理できる道が開かれます。 - インボイス制度で相手の事業者登録の確認は必須に
支払先のインボイス登録状況によって、自社の消費税負担が変動します。契約前の確認が、新たなコスト管理の常識となりました。 - 従業員への支払いは「給与」。社内規程の整備を忘れずに
リファラル採用の報酬は「給与手当」として扱い、源泉徴収と社会保険の対象となります。法規制を遵守するため、就業規則への明記が不可欠です。
これらのルールをマスターし、日々の経理業務に活かすことで、紹介料という強力なビジネスツールを最大限に活用しながら、会社の財務基盤と社会的信頼を守り、さらなる成長へとつなげることができるでしょう。
会計処理とは?初心者のための基本から実践までを解説
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