会計の基礎知識

返金の勘定科目について解説!状況別の仕訳と消費税処理を網羅

公開日:

返金 勘定科目

企業の経理担当者として、日々の業務で発生する返金処理について、「この仕訳で本当に正しいのだろうか」と不安に感じることは少なくないでしょう。返品や過入金、契約のキャンセルなど、返金が発生する場面は多岐にわたり、その都度どの勘定科目を選択すべきか迷うこともあります。

特に、消費税の扱いについては、処理を誤ると税務調査で指摘を受けるリスクもあり、慎重な判断が求められます。

本記事では、公認会計士・税理士の監修のもと、返金処理に関するあらゆる疑問を解消します。返金を行う側(売主)と受ける側(買主)双方の視点から、具体的な状況に応じた仕訳例を交えて網羅的に解説します。

本記事で解説する手順に沿って処理すれば、どのような返金パターンにも迷わず、自信を持って対応できるようになります。

返金処理の基本 会計上の立場と原則

返金に関する会計処理を正確に行うための第一歩は、自社が「返金をする側(売主)」なのか、「返金を受ける側(買主)」なのか、その立場を明確にすることです。この立場の違いによって、使用する勘定科目や消費税の扱いなど、会計処理の全体像が大きく変わります。

返金する側(売主)の視点

売主が顧客に対して返金を行う場合、その取引は会計上、売上の減少または取消を意味します。したがって、会計処理の目的は、当初計上した売上取引を正確に取り消すことにあります。

この際に用いられる代表的な勘定科目が「売上戻り高」や「売上値引」です。これらの科目を使って、一度計上した売上を適切に修正する手続きが求められます。

返金を受ける側(買主)の視点

一方で、買主が仕入先から返金を受ける場合、会計上は仕入や経費の減少として扱われます。こちらの立場では、当初計上した購入取引を取り消すことが会計処理の中心となります。

そのために使用される勘定科目が「仕入戻し高」や「仕入値引」です。これらの科目を用いて、支払った代金の減少を帳簿に反映させます。

会計の原則 総額主義と純額主義

返品や値引きといった取引を帳簿に記録する方法には、会計の原則として「総額主義」と「純額主義」の二つが存在します。どちらの方法を採用するかは、経理の実務だけでなく、経営分析の観点からも重要な意味を持ちます。

総額主義

総額主義とは、「売上戻り高」や「仕入戻し高」といった独立した勘定科目を用いて、返品や値引きの発生総額を記録する方法です。この方法を採用すると、損益計算書において総売上高と、そこから控除される返品額の両方が明記されます。

総額主義のメリットは、事業活動の全体像や返品の発生状況をより明確に把握できる点にあります。例えば、「売上戻り高」の残高が大きい場合、製品の品質や顧客満足度に何らかの問題が潜んでいる可能性を示唆する危険信号となり得ます。

純額主義

純額主義は、独立した勘定科目を設けず、当初計上した「売上」や「仕入」といった勘定科目の金額を直接減額する方法です。例えば、売上返品があった場合、「売上」勘定の借方に仕訳を切ることで、売上高を直接減少させます。

この方法は処理がシンプルであるため、実務上の簡便さから広く採用されています。しかし、返品や値引きが年間でどれだけ発生したのか、その総額を追跡することが難しくなるという側面も持ち合わせています。

会計処理の方法選択は、単なる記帳作業にとどまらず、事業分析のための強力なツールとなり得ます。より深い経営分析や品質管理を重視する企業にとっては、総額主義の採用を検討する価値は大きいと言えるでしょう。

【状況別】返金の勘定科目と仕訳例

【状況別】返金の勘定科目と仕訳例

ここでは、日常の業務で頻繁に遭遇する返金シナリオについて、具体的な仕訳例を交えながら、売主側・買主側双方の視点から解説します。

ケース1 商品の返品・値引きによる返金

製品の欠陥や配送ミス、品質上の問題などを理由とした商品の返品や値引きは、最も一般的に発生する返金処理の一つです。

販売側(売上)の処理

売上返品

顧客から一度販売した商品が返送されてきた場合の処理です。会計処理には、前述の通り、総額主義(「売上戻り高」勘定を使用)と純額主義(「売上」勘定を直接減額)の2つのアプローチがあります。

売上値引

商品は顧客の手元に残るものの、軽微な不具合などを理由に、販売代金の一部を減額(返金)する場合の処理です。この場合も「売上値引」という独立した科目を使うか、「売上」を直接減額するかを選択できます。

販売側の仕訳例

(例:掛販売した商品10,000円(税抜)が品質不良で返品された)

処理方法借方貸方
総額主義売上戻り高 10,000円<br>仮受消費税等 1,000円売掛金 11,000円
純額主義売上 10,000円<br>仮受消費税等 1,000円売掛金 11,000円

購入側(仕入)の処理

仕入返品

仕入れた商品を何らかの理由で仕入先へ返品する場合の処理です。「仕入戻し高」や「仕入返品」といった勘定科目を用いる総額主義と、「仕入」勘定を直接減額する純額主義のいずれかで処理します。

仕入値引

仕入れた商品に不具合があったものの、返品はせずに値引きを受けることで合意した場合の処理です。

購入側の仕訳例

(例:掛仕入した商品50,000円(税抜)のうち、10,000円分を規格違いで返品した)

処理方法借方貸方
総額主義買掛金 11,000円仕入戻し高 10,000円<br>仮払消費税等 1,000円
純額主義買掛金 11,000円仕入 10,000円<br>仮払消費税等 1,000円

ケース2 誤入金・過払いによる返金

顧客が請求額より多く誤って振り込んだり、逆に自社が仕入先へ過払いしてしまったりするケースです。このような場合、一時的な性質を持つ勘定科目である「仮受金」や「仮払金」を用いて処理するのが一般的です。

代金を多く受け取った側の処理

仮受金

入金の事実はあるものの、その理由や内容がすぐには判明しない場合に用いる標準的な勘定科目です。「仮受金」はあくまで一時的な仮の勘定であり、内容が判明次第、速やかに適切な勘定科目に振り替える必要があります。

預り金

返金や第三者への支払いが確定している金銭を一時的に預かっている場合に用います。例えば、従業員の給与から天引きする源泉所得税や、内容が判明した過入金などがこれに該当します。

「仮受金」と「預り金」の使い分けは、その入金に対する経理担当者の確実性の度合いを示唆します。「仮受金」は「この入金の正体を調査中である」状態を、「預り金」は「この金銭を預かる理由と今後の処理が明確である」状態を意味します。

決算時に「仮受金」勘定に残高があると、未解決の取引が存在することを示し、税務調査などで指摘を受ける原因となり得ます。過入金は速やかに内容を確認し、「預り金」へ振り替えるか、返金処理を行うことが健全な経理体制の証となります。

代金を多く支払った側の処理

仮払金

仕入先などに誤って過払いをしてしまい、その返金を待っている状態のときに使用する勘定科目です。「仮受金」とは反対の立場になります。

前払金

過払い分を現金で返金してもらう代わりに、次回の仕入代金に充当することで相手方と合意した場合に用います。この処理により、資産の性質が単なる返金請求権(仮払金)から、将来の商品やサービスを受け取る権利(前払金)へと変化します。

誤入金・過払いの仕訳例

(例:A社への請求額50,000円に対し、誤って60,000円が振り込まれ、差額を現金で返金した)

取引内容借方貸方
1. 過入金受領時普通預金 60,000円売掛金 50,000円<br>仮受金 10,000円
2. 差額返金時仮受金 10,000円現金 10,000円
3. (代替案) 次回取引に充当仮受金 10,000円前受金 10,000円

ケース3 経費やその他支払いの返金

返金は商品売買の取引だけに限りません。従業員の経費精算、家賃、保険料、クレジットカード決済など、事業活動における様々な場面で発生します。

従業員の経費精算の返金

従業員に出張費などを事前に概算で渡し(仮払い)、帰社後に実費を精算して残金が返却された場合、「仮払金」勘定を精算(減少)させる処理を行います。

家賃・保険料・税金などの返金

家賃の過払い

家賃を過払いしてしまい、その返金を受けた場合は、「地代家賃」勘定の貸方に計上し、費用を減額処理します。

保険料の返金

保険契約の解約によって受け取る解約返戻金は、処理がやや複雑です。多くの場合、資産として計上していた「保険積立金」を取り崩し、支払った保険料総額との差額を「雑収入」(収益)または「雑損失」(費用)として処理します。

税金の還付

法人税の中間納付額が年間の確定税額を上回り、還付された場合は、「未収法人税等」の取り崩しとして処理します。個人事業主の所得税還付は、事業上の収益とは性質が異なるため、「事業主借」勘定で処理するのが一般的です。

クレジットカード決済のキャンセル・返金

クレジットカードで購入した商品やサービスをキャンセルした場合、会計処理のポイントは、購入時に計上した「未払金」を取り消すことです。

ここで注意が必要なのは、キャンセル時に返金手数料が差し引かれるケースです。例えば、5,000円の購入をキャンセルし、手数料250円が差し引かれて4,750円が返金されたとします。この場合、手数料の250円は「支払手数料」として別途費用計上します。

元の経費を5,000円減らすのではなく、返金額の4,750円だけを減らし、差額を支払手数料とすることで、取引の実態を正確に帳簿に反映させることができます。

経費関連の返金仕訳例

(例:クレジットカードで5,000円の備品を購入したがキャンセル。手数料250円が引かれ、4,750円が返金(カード利用額から減額)された)

取引内容借方貸方
1. 購入時消耗品費 5,000円未払金 5,000円
2. キャンセル・返金時未払金 5,000円消耗品費 4,750円<br>支払手数料 250円

返金処理における消費税の会計処理(インボイス制度対応)

消費税の処理は、返金に関する会計業務において最も重要かつ間違いが許されない領域です。処理を誤ると、追徴課税などのペナルティに繋がる可能性もあるため、国税庁の指針に基づいた正確な理解が不可欠です。

売上側の消費税調整

返品や値引きによって売上代金の返金を行った売主は、その返金額に含まれる消費税額を、国に納付すべき消費税額から差し引くことができます。この会計処理を「売上げに係る対価の返還等」と呼びます。

この処理により、当初の売上が無かった、あるいは減額されたという事実に合わせて、売主の消費税負担が適正に調整されます。この税額控除の適用を受けるためには、対価の返還等に関する事実を帳簿に記載し、関連書類とともに保存することが法律上の要件となります。

仕入側の消費税調整

逆に、返品や値引きによって仕入代金の返金を受けた買主は、その返金額に対応する消費税額を、仕入税額控除として計上した消費税額から差し引かなければなりません。この処理を「仕入れに係る対価の返還等」と呼びます。

この手続きは、買主が実際には支払っていない消費税額まで控除してしまう、といった過大な仕入税額控除を受けることを防ぐために必要となります。

適格返還請求書(返還インボイス)の要点

2023年10月から開始されたインボイス制度下では、上記の消費税調整を行うために、原則として「適格返還請求書(返還インボイス)」の交付および保存が義務付けられています。

返金を行う売主(適格請求書発行事業者)は、取引の相手方である事業者に対して、この返還インボイスを交付する義務があります。ただし、返金額が税込1万円未満である場合など、一定の条件下では交付義務が免除される特例も設けられています。

消費税の対象外となる返金

すべての返金取引が消費税に影響を及ぼすわけではありません。以下に示すような取引は、消費税法上「課税対象外(不課税)」または「非課税」取引とされ、消費税の調整は不要です。

クレジットカード会社など、取引の直接の当事者ではない第三者から受けるポイント還元やキャッシュバック

法律上の規定に基づき支払いを受ける損害賠償金

土地の売買や社会保険医療など、そもそもが非課税・不課税とされている取引に関する返金

返金タイプ別の消費税処理

複雑な消費税のルールを、返金の種類ごとに整理しました。この表を活用し、判断に迷う場面でのミスを防ぎましょう。

返金の種類返金する側(売手)の処理返金を受ける側(買手)の処理返還インボイス要否
商品の返品・値引き課税売上から控除(売上げに係る対価の返還等)課税仕入から控除(仕入れに係る対価の返還等)原則として必要
過入金消費税の調整は不要(当初の取引は完了済み)消費税の調整は不要(当初の取引は完了済み)不要
クレジットカード会社のキャッシュバック対象外対象外(雑収入として処理、消費税は不課税)不要

返金処理における実務上の3つのポイント

返金処理における実務上の3つのポイント

仕訳の方法だけでなく、日々の業務で注意すべき実務的なポイントを3つ紹介します。これらを押さえることで、よりスムーズでコンプライアンスに準拠した経理処理が実現できます。

ポイント1 摘要欄へ取引内容を具体的に記載する

仕訳を行う際に、「摘要」欄を空欄にしたり、曖昧な記述で済ませたりすることは、後々の確認作業を困難にする原因となります。摘要欄は、将来その取引を見返すための重要な情報源です。

「株式会社A商事 10月5日売上分 返品」のように、取引の相手先、日付、具体的な内容を必ず記載する習慣をつけましょう。これにより、担当者自身や顧問会計事務所、さらには税務調査官など、誰が見ても取引内容が一目で理解できる、明確な監査証跡(オーディット・トレイル)を確保できます。

ポイント2 誤入金への法的義務を理解し対応する

誤って振り込まれた金銭をどのように取り扱うかは、単なる会計上の問題にとどまらず、法律上の問題でもあります。民法上、法律上の原因なく他人の財産から利益を得ることは「不当利得」とされ、その利益を返還する義務が生じます。

誤って受け取った金銭を返還せずに保持したり、費消したりすると、法的なトラブルに発展する可能性があります。誤入金に気づいた際は、以下の手順で冷静に対応することが重要です。

  1. その金銭には絶対に手を付けず、区別して管理する。
  2. 振込元の金融機関や本人に速やかに連絡を取り、事情を説明する。
  3. 返金手続きについて協議する(通常、振込手数料は誤って振り込んだ側の負担で返金します)。
  4. 行った対応や相手方とのやり取りを記録として残しておく。

ポイント3 決算期をまたぐ返金の会計処理

前期以前の取引に関する返金が、当期中に発生した場合は特に注意が必要です。この場合、すでに確定している前期の決算を修正することはできないため、前期の費用や収益を単純に取り消す会計処理は行いません。

決算期をまたぐ返金は、その事実が発生した当期の取引として記録する必要があります。例えば、前期に支払った経費に対する返金を当期に受け取った場合は、当期の「雑収入」として処理します。逆に、前期の売上に対する返金を当期に行った場合は、「前期損益修正損」などの特別損失科目で処理することが一般的です。

この処理は、各会計期間の損益を正しく対応させるという「費用収益対応の原則」に基づいています。前期の経費を当期に単純に戻し入れてしまうと、当期の費用が不当に少なく計上され、期間業績の比較可能性を歪め、経営判断の誤りを招く原因となります。正しい処理を行うことで、各期の業績を正確に報告し、財務諸表の信頼性を保つことができるのです。

まとめ

返金処理は一見すると複雑に思えるかもしれませんが、本記事で解説した基本原則とパターンを理解すれば、どのような状況にも自信を持って対応できるようになります。

立場を明確にする

まず、自社が「返金する側」なのか「受ける側」なのかを判断することが全ての出発点です。

状況に応じた勘定科目を選択する

商品の返品であれば「売上戻り高」や「仕入戻し高」、過入金であれば「仮受金」や「仮払金」、その他の経費関連であればそれぞれの費用科目を用いて、取引の実態に合わせて処理します。

消費税の調整を忘れずに行う

課税取引に関する返金では、消費税の調整が伴います。売主は納付税額が減少し、買主は仕入税額控除が減少します。インボイス制度下では「適格返還請求書」の取り扱いが鍵となります。

丁寧な記録と迅速な対応を心掛ける

摘要欄への詳細な記録は、後のトラブルを防ぎ、経理の透明性を高めます。また、誤入金などには法的な義務を認識し、迅速かつ誠実に対応することが求められます。

これらのルールを習得し、日々の業務に活かすことで、経理担当者として正確な財務諸表を作成し、企業のコンプライアンス遵守に貢献することができます。それは結果として、事業運営における透明性と信頼性を高めることに繋がるはずです。

この記事の投稿者:

hasegawa

会計の基礎知識の関連記事

会計の基礎知識の一覧を見る

\1分でかんたんに請求書を作成する/
いますぐ無料登録