インボイス制度の基礎知識

インボイス制度で消費税計算はどうなるか?3つのパターンについて解説

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インボイス 消費税 計算方法

インボイス制度が導入され、消費税の計算が以前より複雑になったと感じている事業者の方も多いのではないでしょうか。計算方法を誤ると、本来納めるべき額より多くの税金を支払ってしまったり、後日、税務調査で追徴課税を受けたりするリスクがあります。

しかし、ご安心ください。この記事では、インボイス制度における複雑な消費税計算の仕組みを網羅的に解説します。ご自身の事業にとって最も納税額を抑えられる方法を見つけ出し、手元に残る資金を最大化するための知識を身につけることができます。

本記事は、国税庁が公表する最新情報に基づき、具体的な数値を用いたシミュレーションを交えながら、誰にでも理解できるよう分かりやすく構成しました。多くの事業者をサポートしてきた専門家の知見を凝縮し、経理や税務の専門知識がない方でも、ご自身の状況に最適な計算方法を選べるようになります。

図や表を豊富に用いて丁寧に説明しますので、最後までお読みいただければ、消費税計算に対する不安は解消され、自信を持って確定申告に臨めるようになるでしょう。

目次

インボイス制度における消費税計算の3つの選択肢

インボイス制度における消費税の納税額を計算する方法は、大きく分けて3つ存在します。どの方法を選ぶかによって、最終的な納税額や日々の経理業務の負担が大きく変わるため、まずはご自身がどの方法を選択できるのか、全体像を把握することが重要です。

最適な計算方法がわかる診断フローチャート

ご自身の状況に合わせて、どの計算方法が選択肢となるか、簡単な診断で確認してみましょう。

質問1

基準期間(個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)の課税売上高は5,000万円以下ですか。

  • はい → 質問2へ進んでください。
  • いいえ → 選択肢は「原則課税」のみです。

質問2

インボイス制度の開始を機に、免税事業者から課税事業者(インボイス発行事業者)になりましたか。

  • はい → 「原則課税」「簡易課税」「2割特例」の3つから最も有利なものを選択できます。
  • いいえ(もとから課税事業者) → 「原則課税」または「簡易課税」のいずれかを選択できます。

上記の診断で、ご自身の選択肢が見えてきたのではないでしょうか。次に、それぞれの計算方法の概要を簡潔にご紹介します。

パターン1 原則課税(本則課税)

原則課税は、すべての事業者が選択できる最も基本的な消費税の計算方法です。課税期間中の課税売上にかかる消費税額(売上税額)から、課税仕入れにかかる消費税額(仕入税額控除)を差し引いて、納付する税額を算出します。

経費や設備投資など、仕入れにかかる費用が多い事業者ほど、支払った消費税額が大きくなるため、この原則課税が有利になる傾向があります。

計算式

納税額 = 売上税額 – 仕入税額控除

パターン2 簡易課税制度

簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者のみが選択できる、計算を簡略化した方法です。実際の仕入れにかかった消費税額を個別に計算する代わりに、売上税額に業種ごとに定められた「みなし仕入率」を掛けて仕入税額控除を算出します。

簡易課税制度を選択すると、経理の手間を大幅に削減できるメリットがあります。ただし、適用を受けるためには、原則として適用したい課税期間の初日の前日までに、税務署への事前の届出が必要です。

計算式

納税額 = 売上税額 – (売上税額 × みなし仕入率)

パターン3 2割特例

2割特例は、インボイス制度の開始を機に免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者の負担を軽減するために設けられた、期間限定の特例措置です。この特例を適用すると、納税額を売上税額の2割にまで大幅に圧縮できます。

対象となる事業者にとっては、多くの場合で最も有利な方法となります。事前の届出も不要で、確定申告の際に選択するだけで適用可能です。

対象期間

2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間

計算式

納税額 = 売上税額 × 20%

原則課税・簡易課税・2割特例の徹底比較

原則課税・簡易課税・2割特例の徹底比較

「自分には複数の選択肢があるが、結局どれが一番有利なのだろうか」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。ここでは、具体的なモデルケースを用いて、どの計算方法が最も納税額を抑えられるかシミュレーションを行います。

同じ売上でも納税額はこんなに違う 業種別シミュレーション

インボイス制度の開始を機に課税事業者になった事業者を例に、納税額がどれほど変わるかを見ていきましょう。(消費税率は10%と仮定します)

ケース1 Webデザイナーの場合

年間の税込売上高が660万円、税込経費が220万円のWebデザイナーで試算します。

まず、売上にかかる消費税額(売上税額)を計算します。

売上税額:660万円 × 10 / 110 = 600,000円

この売上税額を基に、3つのパターンで納税額を計算します。

  1. 原則課税の場合
    年間の経費220万円(税込)にかかった消費税額を仕入税額控除として計算します。
    仕入税額控除:220万円 × 10 / 110 = 200,000円
    納税額:600,000円 – 200,000円 = 400,000円
  2. 簡易課税の場合
    Webデザイナーはサービス業に分類されるため、第五種事業に該当し、みなし仕入率は50%です。
    仕入税額控除:600,000円 × 50% = 300,000円
    納税額:600,000円 – 300,000円 = 300,000円
  3. 2割特例の場合
    売上税額の2割が納税額となる、最もシンプルな計算です。
    納税額:600,000円 × 20% = 120,000円

シミュレーション結果(Webデザイナー)

計算方法納税額
原則課税400,000円
簡易課税300,000円
2割特例120,000円

このシミュレーション結果から、2割特例が他の方法と比較して圧倒的に有利であることが明確に分かります。原則課税と比較すると、納税額に28万円もの差が生まれることになり、計算方法の選択がいかに重要であるかを示しています。

メリット・デメリット早わかり比較表

原則課税簡易課税2割特例
メリット・経費や設備投資が多い場合に有利
・すべての事業者が選択可能
・計算が簡単で経理の手間が省ける
・実際の経費が少なくても一定額を控除できる
・計算が最も簡単
・多くの場合で納税額が最少になる
・事前の届出が不要
デメリット・計算が複雑
・インボイスの保存が必須
・実際の経費が多くても納税額に反映されない
・事前の届出が必要
・一度選択すると原則2年間は継続が必要
・対象者と対象期間が限定的
おすすめの事業者・売上5,000万円超の事業者
・多額の設備投資を予定している事業者
・経費率が高い事業者
・経理業務をシンプルにしたい事業者
・実際の経費が少ない事業者
・インボイス制度を機に課税事業者になった方

どの計算方法を選ぶべきか 判断のポイント

ご自身の状況に合わせて最適な計算方法を選択するための、判断のポイントを整理します。

2割特例の対象者か

まず確認すべきは、ご自身が2割特例の対象者であるかどうかです。対象者であれば、ほとんどの場合において2割特例が最も有利な選択肢となりますので、最初にこの特例を適用した場合の納税額を計算してみましょう。

原則課税と簡易課税はどちらが有利か

2割特例の対象でない場合、あるいは2割特例の期間が終了した後は、原則課税と簡易課税のどちらが有利かを比較検討します。判断の鍵となるのは、ご自身の事業の「みなし仕入率」と「実際の経費率」の比較です。

例えば、みなし仕入率が50%の業種の場合、実際の経費率が50%よりも高い(経費が多い)のであれば原則課税が、50%よりも低い(経費が少ない)のであれば簡易課税が有利になる傾向があります。

パターン別 インボイス消費税の具体的な計算方法

それでは、3つの計算方法について、それぞれの具体的な計算手順をさらに詳しく見ていきましょう。

パターン1 原則課税(本則課税)の計算ステップ

原則課税は、日々の取引を正確に集計する必要があり、手間はかかりますが、消費税計算の基本となる重要な方法です。

STEP1 売上税額を計算する

売上税額の計算方法には、「割戻し計算」と「積上げ計算」の2種類があります。

割戻し計算は、課税期間中の税込売上合計額を税率ごとに区分し、その合計額から消費税額を算出する方法です。例えば、課税期間中の税込売上合計が1,100万円(10%対象)の場合、1,100万円 × 10/110 = 100万円が売上税額となります。

一方、積上げ計算は、発行したインボイス(適格請求書)一枚一枚に記載した消費税額を、文字通り積み上げて合計する方法です。例えば、請求書Aの消費税額が1万円、請求書Bの消費税額が2万円であれば、売上税額は合計で3万円となります。原則として割戻し計算を行いますが、特例として積上げ計算も選択できます。

STEP2 仕入税額控除額を計算する

次に、仕入れや経費にかかった消費税額(仕入税額控除)を計算します。仕入税額控除を受けるためには、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要です。

計算は、受け取ったインボイスに記載された消費税額をすべて合計して算出する「積上げ計算」が原則です。日々の取引で受け取ったインボイスを確実に保管し、帳簿に正確に記録することが求められます。

STEP3 納税額を算出する

最後に、STEP1で計算した売上税額から、STEP2で計算した仕入税額控除額を差し引きます。この結果が、最終的に納付すべき消費税額となります。

パターン2 簡易課税制度の計算ステップ

簡易課税は、事務負担を大幅に軽減できる便利な制度です。適用には条件があるため、確認が必要です。

STEP1 簡易課税の対象か確認する

まず、基準期間(前々年・前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下であることが絶対条件です。この条件を満たした上で、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。

STEP2 自社の事業区分と「みなし仕入率」を確認する

簡易課税では、事業内容によって以下の6つの区分に分けられ、それぞれ「みなし仕入率」が定められています。

  • 第一種事業(卸売業) 90%
  • 第二種事業(小売業など) 80%
  • 第三種事業(製造業、建設業など) 70%
  • 第四種事業(飲食店など) 60%
  • 第五種事業(サービス業、運輸通信業など) 50%
  • 第六種事業(不動産業) 40%

STEP3 売上税額から納税額を計算する

原則課税と同様の方法で算出した売上税額に、ご自身の事業に該当するみなし仕入率を掛け合わせ、仕入税額控除額を算出します。そして、売上税額からその仕入税額控除額を差し引けば、納税額が確定します。

計算式

納税額 = 売上税額 – (売上税額 × みなし仕入率)

パターン3 2割特例の計算ステップ

対象者にとっては、手続きも計算も最もシンプルで、税負担も軽くなる有利な方法です。

STEP1 2割特例の対象か確認する

この特例の対象となるのは、インボイス制度の開始をきっかけに、免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者です。具体的には、個人事業主であれば、2023年10月1日から2026年12月31日までの期間が対象となります。

基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、インボイス制度導入前から課税事業者であった場合は対象外となるため注意が必要です。

STEP2 売上税額から納税額を計算する

計算方法は極めてシンプルです。原則課税と同様に算出した売上税額に、単純に20%(0.2)を掛けるだけです。

計算式

納税額 = 売上税額 × 0.2

この特例の適用を受けるために、事前の届出は一切必要ありません。消費税の確定申告書に、2割特例の適用を受ける旨を付記するだけで適用が可能です。

押さえておくべき消費税計算の重要ルール

押さえておくべき消費税計算の重要ルール

消費税を正しく計算し、申告するためには、いくつかの細かいルールを理解しておくことが不可欠です。特に間違いやすいポイントを解説します。

端数処理の正しい方法

消費税額を計算する過程で、1円未満の端数が発生することがあります。この端数の処理には、定められたルールがあります。

まず、インボイス1枚ごとの端数処理については、一つのインボイス(請求書)につき、税率ごとに1回の端数処理が認められています。処理方法は、切り捨て、切り上げ、四捨五入のいずれかの方法を、事業者で統一して適用します。

そして、最終的な納税額の計算においては、算出された納税額に100円未満の端数がある場合、その端数金額を切り捨てて納付します。

複数税率(10%と軽減税率8%)が混在する場合の注意点

飲食店や食料品を扱う小売店のように、標準税率10%の商品と軽減税率8%の商品を両方取り扱っている事業者は、特に注意が必要です。売上も仕入れも、それぞれの税率ごとに正確に区分して経理処理を行う必要があります。

この区分経理は手作業では煩雑になりがちですが、インボイス制度に対応した会計ソフトを利用すれば、効率的に管理することが可能です。

インボイス制度の経過措置と免税事業者からの仕入れ

取引先にインボイスを発行できない免税事業者がいる場合、その取引については原則として仕入税額控除を受けることができません。しかし、制度開始後の急激な負担増を緩和するため、期間限定で一定割合を控除できる「経過措置」が設けられています。

  • 2026年9月30日まで 仕入税額相当額の80%が控除可能
  • 2029年9月30日まで 仕入税額相当額の50%が控除可能

この経過措置の適用を受けるためには、免税事業者からの請求書等の保存に加え、帳簿に経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨(例:「80%控除対象」)を記載するなど、一定の要件を満たす必要があります。

消費税計算を効率化するツール活用術

ここまで見てきたように、インボイス制度に対応した消費税計算は複雑です。手計算はミスが発生しやすく、時間もかかるため、便利なツールの活用を強くおすすめします。

会計ソフトで計算を自動化する

最も推奨される方法は、インボイス制度に対応した会計ソフトの導入です。日々の売上や経費の取引を入力するだけで、ソフトが税率を自動で判別し、保存されたインボイス情報から仕入税額控除を計算します。

freee、マネーフォワード クラウド、弥生会計といった主要な会計ソフトは、いずれもインボイス制度に対応しています。さらに、原則課税、簡易課税、2割特例といった各計算方法に沿って納税額を自動でシミュレーションしてくれる機能もあります。最終的な確定申告書の作成までサポートしてくれるため、経理業務全体が飛躍的に効率化します。

国税庁が提供する計算シートの活用

コストをかけずに対応したい場合は、国税庁のウェブサイトで提供されている消費税の計算や申告書作成をサポートするためのExcelシートを活用するのも一つの方法です。公的なツールであるため安心して利用できますが、会計ソフトに比べると手入力の部分が多くなります。

インボイス消費税計算に関するよくある質問

最後に、多くの事業者が抱える消費税計算に関する疑問について、Q&A形式でお答えします。

Q. 計算方法の届出はいつまでに必要ですか?

A. 簡易課税制度を選択したい場合は、原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。一度提出すると、2年間は継続して適用しなければならないという制約があります。一方で、原則課税や2割特例の適用に際して、事前の届出は不要です。

Q. 計算を間違えて申告してしまったらどうなりますか?

A. 納税額を本来より少なく申告していた場合、後日、税務署からの指摘により、不足分の税金(本税)に加えて、延滞税や過少申告加算税といったペナルティが課される可能性があります。逆に多く申告してしまった場合は、「更正の請求」という手続きを行うことで、払い過ぎた税金の還付を受けられます。どちらのケースでも、誤りに気づいた時点で速やかに税務署に相談することが重要です。

Q. 2割特例が不利になるケースはありますか?

A. 非常に稀ですが、不利になるケースも存在します。例えば、開業初年度などで多額の設備投資を行い、支払った消費税額が売上に伴う消費税額を上回る場合です。この場合、原則課税では消費税の還付を受けられますが、2割特例を適用すると納税義務が発生するため、結果的に不利になる可能性があります。

Q. 納税はいつ、どのように行いますか?

A. 個人事業主の場合、消費税および地方消費税の確定申告と納税の期限は、原則として課税期間の翌年3月31日です。納税方法には、金融機関や税務署の窓口での現金納付のほか、指定した口座から自動で引き落とされる口座振替(振替納税)、クレジットカード納付、コンビニ納付、スマートフォンアプリを利用した納付など、多様な方法が用意されています。

まとめ 自分に合った消費税計算方法を選び、賢く納税しよう

今回は、インボイス制度下における消費税の3つの計算方法について、それぞれの特徴から具体的な計算手順、選択のポイントまで網羅的に解説しました。最後に、本記事の重要なポイントを再確認しましょう。

本記事の要点再確認

消費税の計算方法は「原則課税」「簡易課税」「2割特例」の3つです。

どの方法が有利かは、売上規模、経費の額、業種によって大きく異なります。

インボイス制度を機に課税事業者になった方は、期間限定の「2割特例」が最も有利になる可能性が高いです。

選択する計算方法によって納税額が数十万円単位で変わることもあるため、事前のシミュレーションが極めて重要です。

正確な申告に向けた次のステップ

この記事を通じて消費税計算の全体像を把握できたら、次にご自身の事業に置き換えて行動を起こしましょう。

まず、ご自身の事業が、3つの計算方法のうちどれを選択できるのかを、診断フローチャートなどを参考に明確にしてください。複数の選択肢がある場合は、本記事のシミュレーションを参考に、ご自身の実際の売上や経費の数字を使って納税額を試算してみましょう。

計算や判断に少しでも不安が残る場合は、会計ソフトの導入を検討したり、税理士などの専門家に相談したりして、疑問点を解消することが賢明です。正しい知識を身につけ、ご自身の事業にとって最も有利な計算方法を選択することが、賢い納税への第一歩です。この記事が、あなたの正確で損のない申告を実現するための一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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