インボイス制度の基礎知識

インボイス制度は廃止される?動向と事業者が今すべき対策を解説

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インボイス 廃止

インボイス制度の複雑な手続きや新たな税負担から解放され、事業に集中できる未来を望んでいませんか。多くの中小事業者やフリーランスの方が、制度の廃止を心から願っていることでしょう。

この記事を読めば、インボイス制度廃止を巡る最新の情報が明確にわかります。2024年現在、政府は廃止を表明していませんが、制度の見直しを求める声はかつてないほど高まっています。この記事では、その背景を深く掘り下げます。

「自分だけが苦しんでいるのではないか」「この先どうすればいいのか」といった不安を抱える事業者の方も少なくないはずです。ご安心ください。

この記事では、同じ悩みを抱える多くの事業者の声を紹介し、今すぐ利用できる具体的な負担軽減策や補助金制度を網羅的に解説します。専門家でなくても理解し、実践できる内容です。

インボイス制度廃止の可能性は?

結論から言えば、現時点でインボイス制度が即時に、かつ完全に廃止される可能性は低いと考えられます。与党である自民党・公明党は制度の維持・推進を基本方針としており、政府からの廃止に関する正式な発表はありません。

しかし、制度の見直しや将来的な廃止を求める圧力は、国政、地方、そして民間の各レベルで急速に強まっています。これは、制度がもたらす経済的な影響が、もはや無視できない政治的課題となりつつあることを示唆しています。

国政レベルでは、立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党などの野党が明確に制度廃止を掲げています。これらの政党は、インボイス制度廃止法案を国会に提出したり、「インボイス問題検討・超党派議員連盟」を設立したりするなど、組織的な反対運動を展開しています。政権交代が起きた場合、制度の方向性が大きく変わる可能性は否定できません。

民間レベルでも、反対運動は広範にわたります。「STOP!インボイス」のような市民団体がオンライン署名活動などを通じて世論を喚起しているほか、全国青年税理士連盟や弁護士、司法書士の団体も制度の問題点を指摘し、廃止を求めています。

特に注目すべき最新の動向は、地方議会からの突き上げです。2023年12月、埼玉県議会は全国の都道府県議会として初めて「インボイス制度の廃止を求める意見書」を可決しました。この意見書が画期的だったのは、与党である自民党の県議団が提出を主導し、可決に至った点です。

この動きは、国政と地方の間に存在する認識のズレを浮き彫りにしています。国政レベルでは、消費税の「益税」解消といった税理論上の公平性が重視されがちです。一方で、地域の中小事業者や住民と直接向き合う地方議員は、制度が引き起こす現場の経済的な痛みや事務負担の増大を肌で感じています。

そのため、党の方針とは別に、地域経済を守る観点から制度の見直しを求める声が自民党内からも上がっているのです。埼玉県の動きは他の自治体にも波及しており、同様の意見書を可決する地方議会も出てきています。この地方からの圧力が、今後の国政の議論に影響を与える可能性があります。

なぜ「インボイス廃止」の声がやまないのか?制度が抱える根深い問題点

なぜ「インボイス廃止」の声がやまないのか?制度が抱える根深い問題点

インボイス制度に対する反対の声がこれほどまでに広がる背景には、事業者、特にこれまで消費税の納税が免除されてきた免税事業者が直面する深刻な問題があります。

免税事業者を直撃する「実質的な増税」と取引排除のリスク

インボイス制度は、課税売上高1,000万円以下の免税事業者に対し、極めて厳しい選択を迫ります。

一つ目の選択肢は、免税事業者のままでいることです。この場合、事業者はインボイス(適格請求書)を発行できません。取引相手である課税事業者は、その事業者からの仕入れについて消費税の仕入税額控除を受けられなくなります。

結果として、取引相手の納税負担が増えるため、消費税額分の値引きを要求されたり、最悪の場合、インボイスを発行できる他の事業者との取引に切り替えられ、契約を打ち切られたりするリスクに直面します。

二つ目の選択肢は、インボイス発行事業者として登録することです。インボイスを発行するためには、課税事業者になる必要があります。これにより、これまで免除されていた消費税の納税義務が発生します。

売上が変わらない中で新たな税負担が生じるため、利益が圧迫され、資金繰りが悪化する可能性があります。特に、利益率の低い小規模事業者やフリーランスにとっては、事業の継続そのものを脅かす「実質的な増税」となります。

この制度は、税の公平性を追求する名目で導入されましたが、その実態は、経済的に最も基盤の弱い小規模事業者に負担を集中させる構造を持っています。大企業はシステム改修や事務コストの増加を吸収する体力がありますが、個人事業主や家族経営の店舗にとって、新たな納税負担と事務作業の増加は、廃業の引き金になりかねません。

結果として、一部の専門家からは、この制度が経済全体の多様性を損ない、市場の寡占化を進める可能性も指摘されています。

すべての事業者にのしかかる煩雑な事務負担

インボイス制度は、免税事業者だけでなく、すべての事業者に新たな事務負担を強いています。日本商工会議所の調査では、回答企業の82.2%が「事務負担が増えた」と回答しており、その影響の大きさがうかがえます。具体的には、売り手側と買い手側の双方に新たな作業が発生しました。

売り手側の事務負担

請求書の様式変更が求められます。登録番号や適用税率、税率ごとの消費税額などを記載したフォーマットへの変更が必要です。また、返品や値引きがあった場合には、原則として返還インボイスを交付する義務が生じます。さらに、交付したすべてのインボイスの写しを保存しなければならないという、新たな保存義務も加わりました。

買い手側の事務負担

受け取った請求書が適格請求書か、記載された登録番号が有効かを確認する作業が発生します。インボイス発行事業者からの請求書と、そうでない事業者からの請求書を区別し、それぞれ適切に経理処理を行う必要もあります。会計ソフトのアップデートや、新たなシステムの導入、従業員への研修など、追加のコストと時間がかかる点も大きな負担です。

これらの煩雑な作業は、事業者の生産性を低下させ、本来注力すべき本業の時間を奪う要因となっています。

日本経済全体への影響と懸念

インボイス制度の問題は、個々の事業者の負担にとどまりません。日本経済全体に与える影響も懸念されています。

課税事業者になった事業者が、新たな税負担分を商品やサービスの価格に転嫁すれば、物価上昇の一因となる可能性があります。また、アニメーターや声優、デザイナー、一人親方など、フリーランスが多く活躍する業界では、制度対応の負担から廃業を選ぶ人が増えることも考えられます。そうなれば、産業の空洞化や文化の衰退につながるという危機感も表明されています。

政府が制度を推進する理由:「益税」問題の真相とは

一方で、政府はなぜこれほどの反対がありながらもインボイス制度を推進するのでしょうか。その最大の理由として挙げられているのが「益税」の解消です。

益税とは、消費者が支払った消費税の一部が国に納付されず、事業者の利益として手元に残る状態を指します。これは主に二つの制度によって発生すると指摘されてきました。

事業者免税点制度

これまで、課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税が免除されていました。しかし、これらの事業者が顧客から消費税込みの価格で代金を受け取った場合、その消費税分は納税されずに事業者の利益となっていました。これが益税の代表的な例です。

簡易課税制度

簡易課税制度は、中小事業者の事務負担を軽減するための仕組みです。実際の仕入れにかかった消費税額を計算せず、売上にかかる消費税額に業種ごとに定められた「みなし仕入率」を掛けて納税額を計算します。

この「みなし仕入率」が、実際の仕入率よりも高く設定されている場合、本来納めるべき税額より納税額が少なくなり、その差額が事実上の益税となると考えられています。

政府は、2019年に導入された消費税の複数税率(8%と10%)の下で、どの取引にどの税率が適用されたかを正確に把握する必要があると主張しています。そして、益税を解消して税の公平性を確保するためには、インボイス制度が必要不可欠であるとの立場です。

廃止は困難か?今すぐ使える負担軽減措置と補助金活用術

廃止は困難か?今すぐ使える負担軽減措置と補助金活用術

制度廃止を巡る政治的な議論の決着を待つ間にも、事業者は日々の経営を続けなければなりません。幸い、政府は制度導入に伴う急激な変化を緩和するため、期間限定の負担軽減措置や返済不要の補助金を複数用意しています。これらを最大限に活用することが、事業を守るための現実的な戦略となります。

期間限定の激変緩和措置を最大限に活用する

特に重要なのが、期間限定で設けられている特例措置です。これらは期限があるため、早期に理解し、計画的に利用することが求められます。

2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)

インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者にとって、最も重要な軽減措置です。通常、消費税は「売上で預かった消費税」から「仕入れで支払った消費税」を差し引いて計算しますが、この特例を使えば、納税額を売上税額の2割に大幅に圧縮できます。

対象となるのは、インボイス制度への登録をきっかけに、初めて課税事業者となった事業者です(基準期間の課税売上高1,000万円以下など、一定の要件あり)。適用期間は、2023年10月1日から2026年9月30日までの日を含む各課税期間と定められています。

この特例は事前の届出が不要で、確定申告書に適用する旨を記載するだけで利用できます。ただし、注意すべきは、これが恒久的な措置ではないという点です。2026年10月以降、この特例は終了し、納税負担が急増する「2026年の崖」が訪れます。

したがって、特例が適用される期間を、価格設定の見直しや業務効率化、資金繰りの準備など、本格的な納税に備えるための「助走期間」と捉え、戦略的に活用することが極めて重要です。

免税事業者からの仕入れに関する経過措置

取引先に免税事業者がいる場合、その取引では仕入税額控除が受けられませんが、急激な影響を緩和するための経過措置が設けられています。具体的には、免税事業者からの課税仕入れであっても、一定割合を控除できます。

2023年10月1日から2026年9月30日までは、仕入税額相当額の80%が控除可能です。その後、2026年10月1日から2029年9月30日までは、仕入税額相当額の50%が控除可能となります。

この段階的な控除率の低下は、免税事業者との価格交渉において重要な判断材料となります。例えば、現在は80%控除できるため負担は限定的ですが、2026年以降は負担が増すことを取引先に説明し、段階的な取引条件の見直しを協議する根拠として活用できます。

少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)

事務負担を軽減するための特例も存在します。基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者などは、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても帳簿への記載のみで仕入税額控除が認められます。これにより、少額の経費精算などにおける事務作業が大幅に簡素化されます。

返済不要の補助金を徹底活用する

インボイス制度への対応には、会計ソフトの導入やシステムの改修など、新たな投資が必要になる場合があります。こうした資金的な負担を軽減するため、返済不要の補助金制度が用意されています。

IT導入補助金

インボイス対応の会計ソフトや受発注システム、PC、タブレット、POSレジなどの導入費用の一部を補助する制度です。特に「デジタル化基盤導入類型」は、インボイス対応を目的としたITツール導入を強力に支援する枠組みとなっています。補助率や上限額も手厚く設定されており、デジタル化による業務効率化と制度対応を同時に進める上で非常に有効です。

小規模事業者持続化補助金

販路開拓や生産性向上に取り組む小規模事業者を支援する補助金です。この補助金の大きな特徴は「インボイス特例」にあります。免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者がこの補助金を申請する場合、通常の補助上限額に一律50万円が上乗せされます。

これは、制度対応のために課税事業者となった事業者への直接的な資金支援であり、ぜひ活用を検討すべき制度です。

これらの補助金は申請期間が定められているため、公募要領を確認し、早めに準備を進めることが重要です。

措置の名称対象者内容適用期間
2割特例インボイス制度を機に課税事業者になった免税事業者納付する消費税額を売上税額の2割に軽減2023年10月1日~2026年9月30日を含む課税期間
少額特例基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者など税込1万円未満の仕入れはインボイス保存不要で控除可能2023年10月1日~2029年9月30日
免税事業者からの仕入れの経過措置全ての課税事業者免税事業者からの仕入れでも一定割合の控除が可能(80%→50%)2023年10月1日~2029年9月30日
IT導入補助金(インボイス枠)中小企業・小規模事業者など会計ソフトやPC、レジ等の導入費用の一部を補助公募期間による
小規模事業者持続化補助金(インボイス特例)インボイス発行事業者になった小規模事業者補助上限額に一律50万円を上乗せ公募期間による

まとめ

インボイス制度を巡る状況をまとめると、以下のようになります。まず政治の動向として、即時廃止の可能性は低いものの、地方議会からの突き上げや野党の強い反対により、将来的な見直しの議論は活発化しています。今後の政治動向を注視する必要があります。

次に事業者の課題です。新たな税負担、煩雑な事務作業、取引上のリスクは、多くの事業者が直面している現実的な問題です。これらの負担感は決して個人的なものではなく、社会的な課題として広く認識されています。

最後に、今すぐ取るべき行動です。最も重要なのは、制度の動向をただ待つだけでなく、現在利用可能な制度を能動的に活用して事業を守ることです。特に、2026年9月で終了する「2割特例」は、対象となる事業者にとって極めて強力な負担軽減策です。

この助走期間を最大限に活用し、IT導入補助金や持続化補助金で体制を整え、将来の本格的な税負担に備えることが、賢明な経営判断と言えるでしょう。

インボイス制度は多くの事業者にとって厳しい試練ですが、利用可能な支援策を正しく理解し、戦略的に活用することで、この難局を乗り越えることは可能です。この記事で得た知識を元に、自社の状況に合わせた次の一手を考え、事業の持続と成長に向けた具体的な行動を始めてください。

この記事の投稿者:

hasegawa

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