インボイス制度の基礎知識

クリエイターのためのインボイス制度について!インボイス発行事業者になるための手続きも解説

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インボイス クリエイター

2023年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まり、クリエイターの皆さまの間でも多くの関心が寄せられています。

フリーランスとして活動するデザイナー、イラストレーター、ライター、YouTuberなど、さまざまなクリエイターにとって、この新しい制度は決して他人事ではありません。

働き方や収入に直接的な影響を与える可能性があるため、正確な理解と適切な対応が求められます。

「インボイス制度って結局何なの?」「自分には関係あるの?」「何をどうすればいいの?」といった不安や疑問を抱えている方も少なくないでしょう。

この記事では、そんなクリエイターの皆さまに向けて、インボイス制度の基本から具体的な対策、さらには知っておくべき有利な情報まで、「超入門」として分かりやすく解説していきます。

この情報が、皆さまが安心して創作活動を続け、新しい制度に賢く対応するための一助となれば幸いです。

目次

1.インボイス制度とは何か?

インボイス制度を理解する上で、まずはいくつかの基本的なキーワードと、制度が導入された目的を知っておくことが大切です。

インボイス制度の目的

インボイス制度は、複数税率(標準税率10%と軽減税率8%)に対応し、事業者が消費税の仕入れや販売に関する税額を正確に計算し、適切に納税することを主な目的としています。

消費税は、最終的に商品やサービスを消費する人が負担し、事業者はその預かった消費税を国に納める仕組みです。

この制度により、消費税の計算や申告の透明性が高まり、いわゆる「益税」(事業者が消費者から預かった消費税の一部が、納税されずに事業者の利益となること)の問題を解消したり、税務処理の誤りや不正を防いだりすることも目指されています。

また、取引における消費税の転嫁をしやすくする側面も考えられています。

適格請求書(インボイス)とは

適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額などを伝えるために発行する請求書や領収書のことです。

単に「請求書」という名称の書類に限らず、必要な事項が記載されていれば、納品書やレシートなどもインボイスとして扱われます。このインボイスには、発行する事業者の登録番号や、税率ごとの消費税額などが明記されることになります。

仕入税額控除とは

インボイス制度を理解する上で最も重要なのが「仕入税額控除」という仕組みです。

事業者が納める消費税額は、原則として「売上げの際に顧客から預かった消費税額」から「仕入れや経費の支払いの際に自身が支払った消費税額」を差し引いて計算されます。

この差し引く行為、つまり支払った消費税額を控除することを「仕入税額控除」と呼びます。

インボイス制度導入後は、原則として、買手側がこの仕入税額控除の適用を受けるためには、売手側から交付された適格請求書(インボイス)の保存が必要となります。

もし適格請求書がなければ、買手はその取引にかかる消費税額を仕入税額控除できず、結果として納税額が増えてしまう可能性があるのです。

この点が、クリエイターの皆さまの取引に大きな影響を与えるポイントとなります。この制度は、事業者間での消費税の二重課税を防ぐ目的も持っています。

2.あなたはどっち?課税事業者と免税事業者の違い

インボイス制度を理解するためには、まずご自身が「課税事業者」なのか「免税事業者」なのかを知る必要があります。この区分によって、インボイス制度への対応が大きく変わってきます。

課税事業者

課税事業者とは、消費税を納める義務がある法人または個人事業主のことです。原則として、基準期間(個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超える事業者は、課税事業者となります。

また、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間(個人事業主の場合は前年の1月1日から6月30日までの期間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合(かつ、同期間の給与等支払額も1,000万円を超える場合。

ただし、給与支払額での判定に代えて売上高のみで判定することも可能)、その課税期間から課税事業者となる場合があります。

免税事業者

免税事業者とは、上記の課税事業者に該当しない、つまり消費税の納税義務が免除されている事業者のことです。具体的には、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者がこれに該当します。

多くのフリーランスクリエイターは、この免税事業者に該当するケースが多いかもしれません。

免税事業者は、顧客から消費税を預かったとしても、それを納税する義務がありません。

その代わり、仕入れや経費で支払った消費税について仕入税額控除を受けることもできません。そして、ここが重要なのですが、免税事業者は適格請求書(インボイス)を発行することができません

インボイス制度と事業者の関係

適格請求書(インボイス)を発行できるのは、「適格請求書発行事業者」として税務署に登録した事業者のみです。そして、この適格請求書発行事業者として登録できるのは、原則として課税事業者だけです。

つまり、現在免税事業者であるクリエイターがインボイスを発行したいと考える場合、まず「課税事業者」になることを選択し、その上で適格請求書発行事業者の登録申請を行う必要があるのです。

この「免税事業者のままでいるか、課税事業者になってインボイス発行事業者になるか」という選択が、クリエイターの皆さまにとって大きな判断ポイントとなります。

3.クリエイターへの影響は?ケース別シミュレーション

クリエイターへの影響は?ケース別シミュレーション

インボイス制度は、クリエイターの皆さまの事業形態や取引先の状況によって、その影響の度合いが異なります。

ここでは、免税事業者のクリエイターと課税事業者のクリエイター(または課税事業者になったクリエイター)のそれぞれに分けて、具体的な影響を見ていきましょう。

免税事業者のクリエイターへの影響

現在、多くのフリーランスクリエイターが該当する可能性のある免税事業者の場合、インボイス制度導入による影響は特に大きいと考えられます。

取引先との関係

最も懸念されるのが、取引先との関係の変化です。買手側である取引先が課税事業者である場合、その取引先は仕入税額控除を受けるために、売手であるクリエイターからの適格請求書(インボイス)を必要とします。

しかし、免税事業者のクリエイターはインボイスを発行できません。これにより、取引先はクリエイターに支払った報酬にかかる消費税額を仕入税額控除できなくなり、実質的なコスト増につながる可能性があります。

その結果、取引先から以下のような影響を受けることが考えられます。

  • インボイスを発行できる他のクリエイターへの乗り換えを検討される
    (取引の減少・失注リスク)。
  • 消費税額相当分の値下げを要求される。

ただし、すべての取引先がインボイスを必要とするわけではありません。例えば、取引先が以下のような場合は、影響が比較的小さいと考えられます。

  • 一般消費者(BtoC取引がメインの場合)。
  • 同じく免税事業者である場合。
  • 簡易課税制度や2割特例を利用して消費税を申告している課税事業者。

これらの事業者は、仕入税額控除の計算に必ずしもインボイスを必要としないためです。

収入への影響

取引先との関係の変化は、収入にも直結します。インボイスを発行できないことを理由に取引が減少したり、値下げ交渉に応じざるを得なくなったりした場合、収入が減少する可能性があります。

一方で、独自の高いスキルや専門性を持っているクリエイターの場合、取引先がインボイスを発行できないデメリットを許容してでも取引を継続したいと考えるケースもあり得ます。

また、前述のように取引先がインボイスを必要としない場合は、収入に大きな変動はないかもしれません。

課税事業者のクリエイター(または課税事業者になったクリエイター)への影響

既に課税事業者であるクリエイターや、インボイス制度への対応のために新たに課税事業者を選択したクリエイターにも、いくつかの影響があります。

納税義務

最大の変更点は、消費税の納税義務が生じることです(免税事業者から課税事業者になった場合)。

クライアントから預かった消費税を計算し、国に納める必要が出てきます。これは、これまで納税が免除されていたクリエイターにとっては、実質的な税負担の増加を意味します。

事務負担の増加

インボイス制度に対応するためには、経理や事務作業の負担が増加します。具体的には、以下のような作業が必要になります。

  • 適格請求書の要件を満たした請求書の発行と、その写しの保存
  • 自身が仕入れや経費の支払い時に受け取ったインボイスの管理
  • 消費税額の計算と、確定申告の手続き。

職種別ケーススタディ

クリエイターの職種によっても、影響の出方は異なります。例えば、

デザイナーやイラストレーター、ライターなどで、主な取引先が企業(BtoB)である場合は、インボイスの発行を求められる可能性が高くなります。

YouTuberで、広告収入がメインの場合、広告プラットフォーム(例:Google)がどのような対応をするか(多くの場合、プラットフォームがインボイスを発行する媒介者交付特例を利用)によります。

ファンからの直接的な支援(スーパーチャットなど)はBtoC取引に近い形となります。

ハンドメイド作家などで、主に一般消費者に直接販売(BtoC)している場合は、インボイス発行の必要性は低いでしょう。

ご自身の主な取引先がどのような事業者なのか、インボイスを必要としているのかを把握することが、最初のステップとなります。

4.インボイス発行事業者になる?ならない?判断のポイント

免税事業者のクリエイターにとって、インボイス発行事業者になるかどうかは非常に悩ましい問題です。ここでは、登録する場合のメリット・デメリット、そして判断するための具体的な基準について整理します。

登録のメリット

インボイス発行事業者として登録することには、主に以下のようなメリットが考えられます。

継続的な取引の確保
買手である課税事業者のクライアントが仕入税額控除を受けられるようになるため、既存の取引を継続しやすくなります。特に企業との取引が多いクリエイターにとっては大きな利点です。

新規顧客獲得のチャンス
インボイスを発行できることが、新たな取引先、特に企業からの信頼を得て、新規の案件獲得につながる可能性があります。

取引の中断リスクの回避
「インボイスを発行できないから」という理由で取引を打ち切られたり、敬遠されたりするリスクを避けることができます。

登録のデメリット

一方で、登録には以下のようなデメリットも伴います。

消費税の納税義務発生
これまで免税事業者だった場合、基準期間の売上が1,000万円以下であっても、消費税を計算し納税する義務が生じます。これは実質的な手取り収入の減少につながる可能性があります。

経理・事務作業の増加
適格請求書の発行、受け取った請求書の管理、消費税の計算と申告など、経理や事務にかかる手間と時間が増えます。

システム導入コストの可能性
インボイス制度に対応した会計ソフトの導入や、既存システムのアップデートが必要になる場合があり、コストが発生することがあります。

判断基準

では、具体的にどのような点を考慮して判断すればよいのでしょうか。以下のポイントを参考に、ご自身の状況と照らし合わせてみましょう。

  1. 取引先の状況を把握する

    あなたの主な取引先は誰ですか? 課税事業者である企業が多いのか、それとも一般消費者や免税事業者が多いのか。

課税事業者の取引先から、実際にインボイスの発行を求められていますか? または、求められる可能性が高いですか?

取引先が免税事業者や消費者、あるいは簡易課税制度を利用している事業者であれば、あなたがインボイスを発行できなくても大きな影響はないかもしれません。

取引先が適格請求書発行事業者であるかどうかは、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できます。

  1. 自身の売上規模と事業戦略を考える

年間の課税売上高が1,000万円を超える見込みはありますか? もし超えるようであれば、いずれにしても課税事業者となり、インボイス発行事業者登録を検討する方が合理的かもしれません。

今後、企業との取引を積極的に拡大していきたいと考えていますか? その場合、インボイス発行事業者である方が有利に働く可能性があります。

  1. 提供するサービスの性質と価格交渉力を評価する

    あなたの提供するスキルやサービスは、他に代えがたい独自の強みを持っていますか? もしそうであれば、インボイスを発行できなくても、取引先が価格交渉に応じずに取引を継続してくれるかもしれません。

    逆に、代替が効きやすい業務内容の場合、インボイスを発行できないことが価格競争で不利に働く可能性があります。
  2. 負担軽減措置の活用可能性を検討する

    もし課税事業者になる場合、後述する「2割特例」や「簡易課税制度」といった負担軽減措置を利用できるかどうかも重要な判断材料です。これらの制度を利用できれば、納税額や事務負担を軽減できる可能性があります。

この判断は、一度行ったら終わりではありません。事業の状況や取引先の変化に応じて、適宜見直すことも大切です。

インボイス発行事業者登録のメリット・デメリット(クリエイター向け)

観点登録する場合のメリット登録する場合のデメリット / 登録しない場合の影響
取引先との関係(課税事業者クライアント)取引を継続・拡大しやすい。新規獲得のチャンスも。【デメリット】なし

【登録しない場合の影響】取引縮小・停止、値下げ要求のリスク。
取引先との関係(消費者・免税事業者クライアント)特になし(相手がインボイスを必要としないため)【デメリット】なし
【登録しない場合の影響】特になし。
消費税の納税負担なし(納税は義務)【デメリット】新たに消費税の納税義務が発生(元免税事業者の場合)。
【登録しない場合の影響】納税義務はなし(免税事業者のままの場合)。
経理・事務作業なし(作業は増加)【デメリット】適格請求書の発行・保存、消費税申告など事務負担が増加。
【登録しない場合の影響】従来通りの事務作業(免税事業者のままの場合)。
新規取引の可能性(主に企業相手)インボイス発行が信頼につながり、新規取引の可能性が高まる。【デメリット】なし
【登録しない場合の影響】インボイス未発行が新規取引の障壁になる可能性。
収入の安定性既存取引の維持や新規獲得により、収入の安定化が期待できる。【デメリット】納税による手取り減の可能性。
【登録しない場合の影響】取引減や値下げによる収入減のリスクがある一方、影響がない場合もある。

この表はあくまで一般的な傾向です。ご自身の具体的な状況を最優先に考えてください。

5.インボイス発行事業者になるための手続き

インボイス発行事業者になることを決めた場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。ここでは、登録申請の方法から、適格請求書(インボイス)の具体的な書き方、そして登録後の義務について解説します。

登録申請の対象者

適格請求書発行事業者の登録ができるのは、消費税の課税事業者です。現在免税事業者であるクリエイターが登録申請をする場合は、まず課税事業者になる必要があります。

通常、免税事業者が課税事業者になるためには「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出する必要がありますが、インボイス制度の開始に伴う経過措置として、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、登録希望日から課税事業者となることを選択すれば、この届出書の提出は不要とされています。

登録申請手続き

登録申請は、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を、納税地を所轄する税務署長に提出することで行います。申請方法は、主に以下の2つです。

  1. e-Tax(電子申請)

    マイナンバーカードや利用者識別番号などが必要です。国税庁のe-Taxソフト(WEB版など)から、画面の指示に従って申請データを作成し、電子署名を付与して送信します。

    郵送に比べて審査期間が比較的短く、約2週間程度で登録通知を受け取れる場合があります。登録通知は電子データで受け取ります。
  2. 郵送(書面申請)

    国税庁のホームページから「適格請求書発行事業者の登録申請書」をダウンロードして印刷し、必要事項を記入します。

記入した申請書を、管轄のインボイス登録センターへ郵送します。
e-Taxに比べて処理に時間がかかる場合があります。

申請が受理され、登録が完了すると、事業者には「T」から始まる13桁の登録番号が付与されます。登録された事業者の氏名または名称、登録番号、登録年月日などは、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で公表されます。

適格請求書(インボイス)の書き方・記載事項

適格請求書として認められるためには、以下の項目を記載する必要があります。請求書だけでなく、領収書や納品書なども、これらの要件を満たせばインボイスとなります。

適格請求書(インボイス)の記載必須項目

No.記載事項具体例・補足
1適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号クリエイターの氏名、屋号(事前に税務署に届出ている場合など)、または法人名と、T+13桁の登録番号(例:T1234567890123)。屋号での記載も一定の条件下で可能です。
2取引年月日役務提供や商品販売を行った日付(例:2024年12月1日)。
3取引内容(軽減税率の対象品目である場合は、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)具体的なサービス内容や商品名(例:デザイン制作料、イラスト作成費)。軽減税率(8%)の対象品目(例:飲食料品の販売など)があれば、その旨を明記します。
4税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率税率(10%対象、8%対象)ごとに、合計した金額(税抜または税込のいずれかで統一)と、適用税率を記載します(例:10%対象 100,000円(税抜)、適用税率10%)。
5税率ごとに区分した消費税額等 税率ごとに計算した消費税額または地方消費税額を記載します(例:消費税額等(10%) 10,000円)。
6書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称取引先の正式な会社名や屋号、氏名を正確に記載します(例:株式会社〇〇 御中)。

これらの項目を網羅した請求書フォーマットを準備しましょう。会計ソフトによっては、インボイス対応のテンプレートが用意されている場合もあります。

登録後の義務

適格請求書発行事業者として登録されると、いくつかの義務が生じます。

インボイスの交付義務
取引相手(課税事業者に限る)から求められたときは、適格請求書を交付しなければなりません。

インボイスの写しの保存義務
交付した適格請求書の写しを、交付した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存する必要があります。

返還インボイスの交付義務
売上げに係る対価の返還等(返品、値引き、割戻しなど)を行った場合には、原則として返還インボイスを交付する必要があります。ただし、税込1万円未満の値引きや返品等については、交付義務が免除される場合があります。

消費税の申告・納税義務
課税事業者として、消費税の確定申告を行い、計算された税額を納付する義務が生じます。

これらの手続きや義務を理解し、適切に対応していくことが重要です。

6.免税事業者のままでいる場合の対応策

免税事業者のままでいる場合の対応策

インボイス発行事業者への登録は任意であり、免税事業者のままで活動を続けるという選択も可能です。その場合に考えられる対応策や注意点をまとめました。

取引先とのコミュニケーションと交渉

免税事業者のままでいることを選択した場合、最も重要なのは取引先との丁寧なコミュニケーションです。

状況の率直な伝達
まず、ご自身が免税事業者であり、適格請求書(インボイス)を発行できないことを取引先に正直に伝え、理解を求めましょう。

価格交渉への備えと対応
取引先が課税事業者で、仕入税額控除のためにインボイスを必要としている場合、消費税相当額の値引きなど、価格に関する交渉を持ちかけられる可能性があります。

ただし、買手側がその優越的な地位を利用して一方的に著しく低い対価を設定したり、取引を停止したりすることは、独占禁止法や下請法に違反する恐れがある点も指摘されています。

交渉は、双方が納得できる条件を見つけるための話し合いの場と捉えましょう。

経過措置の理解と説明

インボイス制度には、免税事業者からの仕入れについても、買手側が一定期間、仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置が設けられています。この点を取引先に説明することで、理解を得やすくなるかもしれません。

令和5年10月1日から令和8年9月30日まで
免税事業者からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の80%を控除可能。

令和8年10月1日から令和11年9月30日まで
免税事業者からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の50%を控除可能。

この経過措置の適用を受けるためには、買手側は、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存と、この経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存が必要です。

この情報を伝えることで、取引先が感じる負担感を和らげることができるかもしれません。

インボイス発行以外の付加価値提供戦略

インボイスを発行できないという点をカバーするために、それ以外の部分で付加価値を高める戦略も有効です。

専門性や独自性の強化
他のクリエイターにはない高い技術力、深い専門知識、独自の作風やアイデアなどを磨き、価格やインボイスの有無だけでは測れない価値を提供しましょう。

品質・納期・コミュニケーションの向上
成果物のクオリティを高める、納期を厳守する、クライアントとのコミュニケーションを円滑に行うなど、基本的な業務遂行能力で優位性を示すことも重要です。

インボイス不要な取引先の開拓

インボイスを必要としない取引先との関係を強化したり、新規に開拓したりすることも一つの道です。

一般消費者(BtoC)向けビジネスの強化
個人を対象としたサービスや商品販売であれば、買手は仕入税額控除を行わないため、インボイスは不要です。

免税事業者や簡易課税制度を利用している事業者との取引
これらの事業者も、仕入税額控除の仕組みが異なるため、インボイスを必須としない場合があります。

免税事業者が発行する請求書

免税事業者は適格請求書(インボイス)を発行できませんが、これまで通り請求書や領収書を発行することは可能です。ただし、その請求書には登録番号を記載することはできませんし、適格請求書としての効力はありません。

免税事業者のままでいることを選択する場合でも、これらの対応策を組み合わせることで、事業への影響を最小限に抑える努力が求められます。

7.クリエイター必見!負担軽減措置と支援策

インボイス制度の導入に伴い、特に免税事業者から課税事業者になったクリエイターの負担を軽減するための様々な措置が設けられています。これらを活用することで、税負担や事務負担を抑えることが可能です。

2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)

インボイス制度を機に免税事業者から適格請求書発行事業者(課税事業者)になった方を対象とした、期間限定の特例措置です。

対象者
インボイス発行事業者として登録したことで、新たに消費税の納税義務が生じた個人事業主や法人が主な対象です。具体的には、基準期間(前々年など)の課税売上高が1,000万円以下の事業者などが該当します。

内容
納付する消費税額を、売上に対して預かった消費税額の2割に軽減できるというものです。つまり、売上税額からその8割を控除した額が納税額となります。

適用期間
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。個人事業主の場合、2023年10月~12月分の申告から、2026年分の申告までが対象となります。

手続き
この特例を受けるための事前の届出は不要です。消費税の確定申告書に、2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けられます。

メリット
税負担が大幅に軽減されるだけでなく、仕入れや経費にかかった消費税額を個別に集計する必要がないため、事務負担も大きく軽減されます。

注意点
経費が非常に多く、本則課税(原則的な計算方法)で計算すると消費税が還付になるようなケースでは、2割特例を使うと還付が受けられないため不利になることがあります。

また、適用対象外となるケースもあるため、申告の都度、適用要件を確認する必要があります。

簡易課税制度

簡易課税制度は、中小事業者の事務負担を軽減するために設けられている、消費税の計算方法の一つです。

対象者
基準期間(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が5,000万円以下で、かつ、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出した事業者が対象です。

内容
売上にかかる消費税額に、事業の種類に応じて定められた「みなし仕入率」を乗じて仕入控除税額を計算します。クリエイターの多くが該当する可能性のあるサービス業等は第五種事業とされ、みなし仕入率は50%です。

手続き
適用を受けたい課税期間の開始の日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。一度選択すると、原則として2年間は継続適用しなければなりません(いわゆる「2年縛り」)。

メリット
実際の仕入れや経費の消費税額を積み上げて計算する必要がなく、受け取った請求書がインボイスであるかどうかにかかわらず税額計算ができるため、事務負担が軽減されます。

注意点
実際にかかった経費に係る消費税額が、みなし仕入率で計算される控除額よりも多い場合(つまり、経費が多い業態の場合)は、本則課税よりも納税額が多くなることがあります。

また、複数の事業を行っている場合は、事業ごとの売上を区分し、それぞれのみなし仕入率を適用する必要があるなど、注意が必要です。

本則課税・簡易課税・2割特例の比較

クリエイターが課税事業者として消費税を申告する際には、主に「本則課税(一般課税)」、「簡易課税制度」、「2割特例」の3つの選択肢が考えられます(2割特例は期間限定)。

それぞれの特徴を理解し、ご自身の事業規模や経費の状況、事務処理能力などを総合的に勘案して、最も有利な方法を選択することが重要です。

クリエイター向け消費税計算方法の比較(本則課税・簡易課税・2割特例)

項目本則課税(一般課税)簡易課税制度2割特例
対象者すべての課税事業者基準期間の課税売上高5,000万円以下で、事前に届出をした事業者インボイス発行事業者の登録を受け、新たに課税事業者となった者で、基準期間の課税売上高1,000万円以下の事業者など
計算方法の概要(売上税額)-(仕入税額)(売上税額)-(売上税額 × みなし仕入率)(売上税額)× 20% (つまり、売上税額から売上税額の80%を控除)
主なメリット経費が多い場合、納税額が少なくなる可能性。設備投資などで還付の可能性も。事務負担が軽い。インボイスの保存は税額計算上は不要。税負担が大幅に軽減。事務負担も非常に軽い。
主なデメリット/注意点事務負担が大きい。インボイスの保存・管理が必須。経費が多くても控除額は一定。2年間の継続適用が原則。経費が多くても還付はなし。期間限定の措置。適用対象外のケースあり。
事前の届出不要(原則的な方法)必要(適用を受けたい課税期間の開始前日まで)不要(申告時に選択)
インボイス保存(仕入)税額計算に必須税額計算上は不要(ただし、所得税等の計算のため帳簿や請求書自体の保存は必要)税額計算上は不要(同上)

その他の支援策

上記以外にも、クリエイターが活用できる可能性のある支援策があります。

持続化補助金等の補助金
小規模事業者持続化補助金などにおいて、インボイス発行事業者になる事業者に対して補助上限額が上乗せされる「インボイス特例」が設けられることがあります。

IT導入補助金
インボイス制度に対応した会計ソフトや受発注システムの導入費用の一部が補助される場合があります。

少額特例
基準期間における課税売上高が1億円以下の事業者などは、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能です(令和5年10月1日から令和11年9月30日まで)。

これらの負担軽減措置や支援策を賢く活用し、インボイス制度への対応を進めていきましょう。

8.プラットフォームを利用するクリエイターの注意点

note、Fantia、pixivFANBOXなど、様々なプラットフォームを利用して作品を発表したり、収益を得たりしているクリエイターの方も多いでしょう。

これらのプラットフォームを利用している場合、インボイス制度に関して特有の注意点があります。

媒介者交付特例とは

一部のプラットフォーム運営会社は、「媒介者交付特例」という仕組みを利用してインボイス制度に対応しています。

これは、プラットフォームがクリエイター(売手)と購入者(買手)の取引を媒介する場合に、プラットフォーム運営会社がクリエイターに代わって、購入者に対して適格請求書(または適格簡易請求書)を発行するというものです。

この特例を利用する場合、発行されるインボイスには、個々のクリエイターの登録番号や氏名・名称ではなく、プラットフォーム運営会社の登録番号や名称が記載されます。

クリエイターへの影響

この媒介者交付特例は、クリエイターにとっていくつかのメリットと注意点があります。

メリット

プライバシーの保護
クリエイター自身の登録番号や個人名(または屋号)が不特定多数の購入者に開示されるのを防ぐことができます。特に個人で活動しているクリエイターにとっては安心材料となるでしょう。

事務負担の軽減
クリエイターが個々の取引ごとにインボイスを発行する手間が省けます。

注意点

プラットフォームへの情報登録
クリエイター自身が適格請求書発行事業者として登録している場合、その登録番号などの情報をプラットフォームに登録するよう求められることがあります。

これは、プラットフォームが媒介者交付特例を適切に運用するために必要な手続きです。

プラットフォームごとの対応差異
媒介者交付特例の採用状況や、クリエイターに求める対応は、プラットフォームによって異なります。例えば、noteではインボイス発行事業者であるか否かにかかわらず、クリエイターへの振込額に変更はないとしています。

一方、Fantiaでは、免税事業者のクリエイターは従来通りの条件で利用可能とし、適格請求書発行事業者として登録しているクリエイターには情報登録を依頼しています。

免税事業者のクリエイターへの影響
免税事業者のクリエイターの場合、プラットフォームが媒介者交付特例を利用していても、それが自身の収益にどう影響するか(例えば、消費税相当分が調整されるのか、されないのか)は、各プラットフォームの規定によります。

したがって、ご自身が利用しているプラットフォームのインボイス制度に関する規約やヘルプページを必ず確認し、不明な点があればプラットフォーム運営会社に問い合わせることが重要です。

9.クリエイターのためのインボイス制度Q&A

ここでは、クリエイターの皆さまからよく寄せられるインボイス制度に関する質問とその回答をまとめました。

Q1: 売上が1,000万円以下の免税事業者ですが、必ずインボイス発行事業者になる必要がありますか?

A1: いいえ、適格請求書発行事業者への登録は任意です。ご自身の主な取引先がインボイスを必要としているか、今後の事業戦略などを総合的に考慮して判断してください。免税事業者のままでいるという選択も可能です。

Q2: インボイス発行事業者になると、登録番号から個人情報が公表されるのが心配です。

A2: 適格請求書発行事業者として登録すると、国税庁の公表サイトで氏名または名称、登録番号、登録年月日などが公表されます。ただし、屋号で活動している個人事業主の場合、一定の条件を満たせば屋号での公表も可能です。

また、第8章で触れたように、プラットフォームを介した取引では、媒介者交付特例によりクリエイター個人の情報ではなくプラットフォーム運営会社の情報がインボイスに記載される場合があります。

Q3: インボイス発行事業者になった場合、確定申告はどう変わりますか?

A3: これまで免税事業者だった方がインボイス発行事業者(課税事業者)になると、所得税の確定申告に加えて、消費税の確定申告と納税が必要になります。ただし、第7章で解説した「2割特例」や「簡易課税制度」といった負担軽減措置を利用できる場合があります。

Q4: 免税事業者のままですが、取引先から消費税相当額の値下げを要求されました。応じなければいけませんか?

A4: 価格交渉に応じるかどうかは、最終的には当事者間の合意によります。ただし、取引先が優越的な地位を利用して一方的に著しく低い価格を設定するような場合は、独占禁止法や下請法に抵触する可能性も指摘されています。

まずは、第6章で触れた経過措置について取引先に説明し、双方にとって納得のいく着地点を探るための話し合いをすることが大切です。

Q5: インボイス制度の開始日(2023年10月1日)より後にインボイス発行事業者の登録をした場合、いつから消費税の申告が必要ですか?

A5: 個人事業主の場合、適格請求書発行事業者の登録を受けた日から、その年の12月31日までの期間について消費税の申告が必要になります。例えば、2023年11月1日に登録を受けた場合は、2023年11月1日から12月31日までの取引が消費税申告の対象です。

Q6: クライアントへの請求時、振込手数料をこちら(売手側)が負担する約束になっています。この場合のインボイス処理はどうなりますか?

A6: 売手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理する場合、原則として返還インボイスの交付が必要となります。ただし、その値引き額が税込1万円未満である場合には、返還インボイスの交付義務が免除される特例があります。

上記以外にも疑問点があれば、税務署の相談窓口や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

インボイス制度は、フリーランスとして活動するクリエイターの皆さまにとって、確かに大きな変化をもたらすものです。

しかし、制度の内容を正しく理解し、ご自身の事業状況に合わせて適切な対応策を検討することで、決して乗り越えられない壁ではありません。

重要なのは、まずご自身の取引先の状況(課税事業者か、インボイスを必要としているかなど)を把握すること。

その上で、インボイス発行事業者になるメリット・デメリットを比較検討し、もし登録する場合は利用できる負担軽減措置(2割特例や簡易課税制度など)を最大限に活用することです。

免税事業者のままでいることを選択する場合も、取引先との丁寧なコミュニケーションや、経過措置の説明、付加価値の提供といった戦略が考えられます。

クリエイターとしての活動は多岐にわたり、一人ひとり状況は異なります。この記事で提供した情報が一つの指針となり、皆さまがご自身のビジネスにとって最善の選択をするための一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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