インボイス制度の基礎知識

下請けで消費税がもらえないのは違法!対処法についても解説

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発注元から当然支払われるべき消費税を満額かつ迅速に受け取り、事業のキャッシュフローを安定させたいという願いは、多くの下請事業者が抱える切実なものです。これは決して贅沢な望みではなく、法律で守られた正当な権利です。

この記事を読み終える頃には、法律という強力な盾を手にし、具体的な行動計画を立てられるようになります。発注元に対して法的根拠をもって堂々と交渉し、いざという時には無料で利用できる公的な支援制度を使いこなす知識が身につきます。

漠然とした不安を抱える立場から、自らの権利を守るために行動できる、主体的な事業者へと変わることができるでしょう。法律は難しそう、大企業相手に太刀打ちできないといった不安を感じるかもしれませんが、ご安心ください。

ここで解説する手順は、法律の専門家でなくても実践できるよう、具体的かつ分かりやすく設計されています。

あなたのような事業者を守るために作られた、強力な公的サポート体制を最大限に活用する方法は、一度きりの特別なものではありません。誰にでも再現可能な、ご自身のビジネスを守るための確かな知識です。

消費税が支払われないトラブルが起きる2つの主な原因

下請取引において消費税の支払いを巡るトラブルは、残念ながら後を絶ちません。その背景には、古くから存在する構造的な問題と、近年の制度変更によって生まれた新たな問題の2つが大きく関係しています。

優越的地位の濫用による「買いたたき」

下請取引には、発注者である親事業者と受注者である下請事業者との間に、事業規模や取引依存度からくる力関係の差が存在することが少なくありません。この力関係を背景に、親事業者が優越的な地位を濫用し、下請事業者に不当に低い価格での取引を強いる行為が昔から問題視されてきました。

消費税の支払いを拒否する行為は、この構造の中で「価格交渉」という名目で行われることがありますが、その実態は下請法で明確に禁止されている「買いたたき」に他なりません。多くの下請事業者が、継続的な取引を失うことを恐れて不当な要求を受け入れてしまうケースが見られます。

この「泣き寝入り」が、違法行為の常態化を助長してきました。問題の根深さは、多くの事業者が「仕方ないこと」として受け入れてしまい、それが違法であるという認識すら持てていない点にあります。状況を打破する第一歩は、その行為が単なる厳しい交渉ではなく、法律に違反する行為であると明確に認識することです。

インボイス制度導入の影響

2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税に関するトラブルの新たな火種となっています。この制度を正しく理解することが、発注元の不当な要求を退ける上で不可欠です。

インボイス制度の核心は「仕入税額控除」という仕組みにあります。これは、事業者が国に納める消費税額を計算する際に、仕入れや経費で支払った消費税額を差し引くことができる制度です。インボイス制度導入後、この控除を受けるためには、原則として取引相手から「適格請求書(インボイス)」を発行してもらう必要があります。

しかし、適格請求書を発行できるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」だけであり、多くの中小企業やフリーランスなどの「免税事業者」は、登録をしていないためインボイスを発行できません。

ここで問題が生じます。発注元である親事業者は、免税事業者である下請事業者との取引では仕入税額控除が受けられず、自社の納税負担が増えることになります。この自社の税負担増を、下請事業者に違法に転嫁しようとするのが、消費税不払い問題の新しいパターンです。

例えば、「インボイス事業者にならなければ、消費税分はお支払いできません」といった通告は、まさに典型例です。

発注元は、インボイス制度という複雑な制度変更を格好の口実として、自社の都合を押し付けてきます。しかし、法律はインボイス制度を理由とした一方的な代金の減額や支払拒否を明確に禁止していることを知っておく必要があります。

消費税の不払いは下請法違反に該当する

発注元からどのような理由を告げられようとも、下請事業者に対して消費税の支払いを拒否したり、一方的に減額したりする行為は、下請代金支払遅延等防止法(通称:下請法)に違反する可能性が極めて高いです。

下請法における「買いたたき」と「減額」

下請法では、親事業者が下請事業者に対して行ってはならない11の禁止事項を定めていますが、消費税の不払い問題は主に「買いたたき」と「減額」の2つに関わります。

買いたたきとは、発注する物品やサービスに対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定める行為です。消費税に関連する具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 消費税率が引き上げられたにもかかわらず、税込価格を以前のまま据え置く
  • 下請事業者が免税事業者から課税事業者(適格請求書発行事業者)になったにもかかわらず、免税事業者だった頃と同じ単価での取引を強要し、価格交渉に一切応じない

減額とは、発注時に取り決めた下請代金を、下請事業者に責任がないにもかかわらず、後から減らす行為です。具体例は以下の通りです。

  • 契約時には消費税込みの金額で合意していたのに、請求段階になって相手が免税事業者だと知り、一方的に消費税相当額を差し引いて支払う

親事業者はこれらの行為を「交渉の結果だ」と主張することがありますが、法律上の「交渉」と「不当な強制」は明確に区別されます。価格引き下げの正当な理由として認められるのは、原材料価格の下落や、大量発注によるコスト削減効果といった客観的かつ合理的な理由がある場合に限られます。

下請事業者が免税事業者であることや、インボイスを発行できないことは、代金を減額する合理的な理由には決してなりません。この法的な線引きを理解することが、交渉において非常に重要です。

免税事業者でも消費税の請求は正当な権利

「免税事業者は消費税を国に納めていないのだから、請求するのはおかしい」という誤解が、発注元にも、そして時には下請事業者自身にも存在します。しかし、これは明確に間違いです。

免税事業者は、売上にかかる消費税の納税は免除されていますが、事業を行う上で必要な物品の購入やサービスの利用(仕入れ)の際には、他の事業者と同様に消費税を支払っています。

発注元から受け取る消費税相当額は、これらの事業経費に含まれる消費税を補うためのものであり、請求することは完全に正当な権利です。公正取引委員会も、免税事業者であることを理由に対価を据え置く行為は「買いたたき」に該当するとの見解を明確に示しています。

免税事業者であることは、何ら引け目に感じることではありません。堂々と消費税相当額を請求してください。

消費税を適切に支払ってもらうための4ステップ

消費税を適切に支払ってもらうための4ステップ

不当な支払拒否に直面したとき、感情的になったり、諦めてしまったりする必要はありません。冷静に、段階を踏んで対処することで、問題を解決できる可能性は十分にあります。ここでは、そのための具体的な4つのステップを紹介します。

ステップ1:契約書やメールなどの証拠を確保する

最初に行うべきことは、客観的な証拠を集めることです。下請法では、親事業者は発注に際して、委託内容、下請代金の額、支払期日などを明記した書面(3条書面)を交付する義務があります。

以下の書類を手元に集め、取引の経緯と合意内容を時系列で整理しましょう。

  • 業務委託契約書
  • 発注書、注文書
  • 金額についてやり取りしたメールやチャットの履歴
  • 提出した請求書と、実際に入金された金額がわかる通帳の記録など

これらの書類は、当初合意した金額と、実際に支払われた(あるいは支払いを提示された)金額との間に食い違いがあることを示す強力な証拠となります。

ステップ2:法的根拠に基づき冷静に支払いを求める

証拠が揃ったら、発注元との交渉に臨みます。この際、感情的な非難は避け、あくまで事実と法的根拠に基づいて冷静に話を進めることが重要です。交渉の手段として、まずはメールや書面でこちらの主張を明確に伝えることをお勧めします。

(メール文例)

件名:【お支払いのお願い】XXに関する未払い代金について

株式会社〇〇 経理ご担当者様

いつもお世話になっております。株式会社△△です。

〇月〇日付でご請求いたしました「XX業務委託」の件につきまして、契約時の合意に基づき、報酬はXX円(税抜)と消費税YY円の合計ZZ円となっております。しかしながら、現在、消費税相当額YY円が未払いとなっております。

消費税相当額を一方的に支払わない行為は、下請法第4条第1項第5号の「買いたたき」または同第3号の「減額」に該当する可能性があると認識しております。

つきましては、大変恐縮ですが、未払いとなっておりますYY円を、〇月〇日までに下記口座へお振り込みいただけますようお願い申し上げます。

(銀行名、口座情報などを記載)

通常の連絡で相手が応じない場合は、「内容証明郵便」の利用を検討しましょう。これは、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛に差し出されたかを日本郵便が証明する制度です。

法的な強制力はありませんが、「正式に支払いを催告した」という証拠となり、相手に心理的なプレッシャーを与え、こちらの真剣な姿勢を示すことができます。裁判など次のステップに進む際にも有力な証拠となります。

ステップ3:無料の公的機関に相談する

当事者間での交渉が行き詰まった場合、一人で抱え込む必要は全くありません。国は、中小企業やフリーランスが取引上のトラブルを解決できるよう、無料で利用できる、秘密厳守の相談窓口を多数設置しています。

多くの事業者が、取引関係の悪化や報復を恐れて相談をためらいがちです。しかし、これらの公的機関は、まさにそうした事業者の立場を理解し、匿名での相談にも応じてくれるなど、利用しやすい体制を整えています。第三者である公的機関が間に入ることで、膠着した状況を動かす大きな力となります。

主要な相談窓口の特徴を以下に紹介します。まずは最もハードルの低い「下請かけこみ寺」への相談から始めることを強くお勧めします。

下請かけこみ寺

全国48ヶ所に設置されており、匿名での相談が可能です。秘密は厳守され、企業間取引の専門家が対応します。必要に応じて弁護士相談やADR(裁判外紛争解決手続)も無料で利用できます。まずは誰かに話を聞いてほしい、穏便な解決を目指したい全ての中小企業・フリーランスにとって、最初の相談先として最適です。

公正取引委員会

下請法違反を調査し、違反が認められれば親事業者に対して指導や勧告を行います。未払い分の支払いを命じるなど、強い是正措置をとることができます。申告は実名が原則ですが、悪質な違反行為であり、行政による強い介入を望む場合や、交渉が決裂し相手が全く応じない場合に有効な選択肢です。

中小企業庁

下請法に関する相談窓口を設置しており、公正取引委員会と連携して調査や指導を行います。消費税の転嫁に関する専門窓口も併設されています。取引全般の悩みと併せて相談したい場合や、公正取引委員会への直接の申告に抵抗がある場合に適しています。

ステップ4:ADRや弁護士への依頼を検討する

公的機関への相談を経てもなお解決しない場合の最終手段として、より法的な手続きを検討します。

ADR(裁判外紛争解決手続)

裁判をせずに、中立的な立場である弁護士が調停人として間に入り、話し合いによる解決を目指す手続きです。「下請かけこみ寺」を通じて無料で利用できます。裁判に比べて手続きが迅速かつ非公開で行われるため、企業の秘密や取引関係へのダメージを最小限に抑えながら解決を図れるという大きなメリットがあります。

弁護士への依頼

ADRでも合意に至らない場合は、訴訟も視野に入れて弁護士に依頼することになります。弁護士費用は事案によって異なりますが、一般的に「相談料」「着手金(依頼時に支払う費用)」「報酬金(成功時に支払う費用)」で構成されます。

費用はかかりますが、法律の専門家が代理人として交渉や訴訟を進めてくれるため、最も確実な解決が期待できます。初回の相談を無料で受け付けている法律事務所も多いため、まずは相談してみるのがよいでしょう。

将来のトラブルを防ぐための契約と交渉のポイント

将来のトラブルを防ぐための契約と交渉のポイント

一度問題を解決しても、また同じようなトラブルが再発しては意味がありません。ここでは、将来のリスクを減らすための予防策を解説します。

契約書に明記すべき消費税に関する条項

トラブルの多くは、契約内容の曖昧さに起因します。発注元が不当な解釈をする余地を与えないためにも、契約書には消費税の取り扱いを明確に記載することが極めて重要です。

以下の文例を参考に、今後の契約書に必ず盛り込むようにしてください。この一文があるだけで、消費税の不払いは単なる下請法違反だけでなく、明確な契約違反となり、あなたの立場を格段に強くします。

(契約書文例)

第X条(委託料)

  1. 本契約に定める委託料は、消費税抜きの金額とする。
  2. 甲(発注者)は乙(受注者)に対し、委託料の支払日に、当該委託料に適用される法定の消費税率に基づく消費税額を加算して支払うものとする。

この条項は、委託料が税抜価格であることと、支払い時には必ず消費税を加算することを明確に定めています。

インボイス制度の「経過措置」を交渉材料にする

発注元が「あなたが免税事業者だから仕入税額控除ができない。だから消費税は払えない」と主張してきた際に、非常に有効な反論材料となるのがインボイス制度の「経過措置」です。

これは、制度の急激な変化を緩和するために設けられた特例で、あなたが免税事業者であっても、発注元は一定期間、仕入税額控除を受けることができるというものです。

  • 2023年10月1日 から 2026年9月30日:仕入税額相当額の80%が控除可能
  • 2026年10月1日 から 2029年9月30日:仕入税額相当額の50%が控除可能

この知識があれば、相手の主張に対して具体的に反論できます。「おっしゃることは理解できますが、法律の経過措置により、貴社は現在でも消費税相当額の80%を仕入税額控除できるはずです。

したがって、貴社の実質的な負担増は消費税額の20%に過ぎません。それにもかかわらず、消費税全額の支払いを拒否されるのは、下請法に照らしても、また経過措置の趣旨からしても納得できるものではありません。」

このように、相手の言い分を逆手にとり、法的知識に基づいて交渉することで、一方的な要求を退けられる可能性が高まります。

「報復措置」の禁止について理解しておく

下請事業者が最も恐れるのが、「文句を言ったら取引を打ち切られるのではないか」という不安です。しかし、その不安につけ込む行為は法律で固く禁じられています。

下請事業者が、親事業者の下請法違反の事実を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由として、親事業者が取引数量を減らしたり、取引を停止したり、その他不利益な取扱いをすることは「報復措置」として明確に禁止されています。

このことを知っておくだけで、「公的機関に相談する」という選択肢をとる際の心理的なハードルが大きく下がります。法律は、正当な権利を主張するあなたを守るために存在しているのです。

まとめ

下請取引における消費税の不払いは、単なる不運や厳しい商習慣ではありません。それは、下請法に違反する可能性のある、許されない行為です。この記事で解説した要点を再確認しましょう。

消費税の支払拒否は違法であり、発注元が優越的な地位を利用して消費税の支払いを拒むことは「買いたたき」や「減額」にあたり、下請法違反となります。インボイス制度を理由とした一方的な減額も認められません。

問題解決のためには、証拠を固め、冷静に交渉し、それでも解決しなければ無料の公的機関に相談するという明確なステップがあります。「下請かけこみ寺」をはじめ、あなたを支援するための無料で秘密厳守の相談窓口が整備されています。

泣き寝入りは、あなた自身のビジネスを傷つけるだけでなく、不公正な取引慣行を社会に温存させることにもつながります。まずは小さな一歩で構いません。契約書やメールを見返す、あるいは匿名で「下請かけこみ寺」に電話をかけてみる。その行動が、あなたの正当な権利を取り戻し、事業を守るための大きな力になります。法律は、あなたの味方です。

この記事の投稿者:

hasegawa

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