
交通事故や離婚に関連する示談(金銭による和解)の場面では、示談金の支払いと受け取りを証明する領収書(受領書)が重要な役割を果たします。
領収書はビジネスの場面だけでなく、個人間の示談においても後日のトラブル防止や法的リスク管理に欠かせない書面です。
本記事では、示談金領収書の基本的な書式や文例、作成上の注意点、法的観点からのリスク管理、証拠能力の確保について、交通事故と離婚のケースを踏まえて網羅的に解説します。
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目次
示談金領収書の役割と重要性
示談金とは、当事者同士の話し合いによって紛争を解決する際に支払われるお金のことです。裁判ではなく示談で解決する場合、加害者側から被害者側へ慰謝料や解決金として支払われます。
示談金の支払いが行われたら、その事実を証明し、後になって「払っていない」とか「受け取っていない」「約束の金額と違う」といった蒸し返しを防ぐために、領収書を発行・受領する必要があります。
領収書は「確かに受け取った」という証拠を残す書面です。これを残しておけば、示談金の授受について当事者双方が確認した内容が明確に記録されます。
特に現金手渡しの場合、領収書がなければ支払いの事実を客観的に証明することが困難になるため、必ず発行してもらうべきです。銀行振込で支払う場合は振込記録が残りますが、それでも示談金領収書を作成しておくことが望ましいと言えます。
記録の残る振込であっても、後日の争いを避けるため、受領側に領収書(受領証)を発行してもらえば万全でしょう。
法律上も、金銭の支払いに対して領収書を請求する権利が認められています(※日本の民法第486条により、支払う側(債務者)は受領者に対し弁済の受取証書の交付を請求できます)。
したがって、示談金を受け取った人は、相手から「領収書をください」と求められた場合、領収書を発行しなければならないことになります。
実務的にも、示談交渉に関わる法律専門家は支払いの証拠を確実に残すよう指導します。領収書は単なる形式ではなく、示談成立を後押ししトラブルを予防する重要な書面なのです。
交通事故の示談金領収書
交通事故の示談では、加害者から被害者に対して治療費や慰謝料、修理代などの示談金が支払われます。この際の領収書について、交通事故ならではのポイントや文例を確認しましょう。
まず、交通事故示談では通常、示談内容をまとめた示談書(和解契約書)を作成し、双方が署名押印します。示談書には事故の日時や内容、支払う示談金額、支払い方法・期日、今後お互いに請求しない旨などが記載されます。
そして示談金の支払い方法によって、領収書の扱いが変わります。
その場で現金支払いする場合
示談書を取り交わすのと同時に現金を手渡しするケースでは、示談書の中に「本日、甲(被害者)は乙(加害者)から示談金〇円を受領した」旨の一文を盛り込むことが一般的です。
例えば示談書に「甲は乙に対し、本日、本件事故の示談金として金○○円を受領した。」と明記します。示談書に双方が署名することで、その示談書自体が領収書の代わりとなり、別途領収書を作成しなくても支払い・受取の事実を証明できます。
後日支払う場合(振込など)
示談書に基づき後日指定口座に振込で支払う場合や、一定の期日に現金支払いする場合は、示談書と領収書は別々に作成することになります。まず示談書で「〇年〇月〇日までに金○○円を支払う」等と合意し、実際に支払いが行われたら受領者が領収書を発行します。
銀行振込の場合は振込明細や通帳記帳が残るため、当事者間で合意があればそれを領収書の代わりとすることもあります(示談書に「振込明細をもって領収書に代える」と書いて合意しておく方法もあります)。
しかし、支払者から求められれば正式な領収書を交付すべきです。
保険会社が介入する場合
加害者が任意保険に加入していれば、保険会社が被害者との示談交渉を代行し、示談金の支払いも保険会社から行われます。この場合、被害者は保険会社所定の示談同意書や免責証書に署名し、保険会社が示談金を振り込む流れです。
保険対応では、示談書兼領収証のような書類を用いるため、個別の領収書を発行しないケースも多いでしょう。ただし、保険を使わず個人間で示談金を支払う場合は必ず領収書をもらうことをおすすめします。
保険会社を介さない示談(加害者が無保険、物損事故のみ、示談金が保険範囲外など)の場合、支払記録が残りにくいため一層注意が必要です。
交通事故の領収書には、事故に関する情報を明確に盛り込むことがポイントです。どの事故についての支払いか分かるよう、事故発生日時や場所、当事者氏名などを示談書と結びつけて記載すると良いでしょう。
また、物損事故で修理代等を示談金として支払う場合には、「修理代(被害弁償)として」など目的を記載します。軽微な物損事故では、示談書を省略して口頭合意だけで済ませてしまうこともありますが、その場合こそ領収書と併せて念書を用意することが望まれます。
例えば被害者に「今回受領した〇〇円以外に本件で一切の請求をしません」という念書を書いてもらえれば、示談書がなくとも追加請求を防ぐ抑止力になります(※念書とは、特定の約束事を記した一方的な宣誓書のような文書です)。
ただし、領収書+念書だけで済ませる方法は詳細な合意内容が残らない分リスクもあります。可能であれば正式な示談書を作成するのが理想です。
収入印紙の取り扱いも交通事故の示談金領収書で注意すべき点です。通常、個人間の示談金受領書は印紙税法上「営業に関しない金銭の受取書」に該当し、非課税文書となるため収入印紙は不要です。
被害者が個人であり、事故の賠償として受け取る慰謝料・賠償金であれば印紙は貼らなくて構いません。ただし例外として、被害者が法人や事業者である場合には注意が必要です。
たとえば会社の車や商品に損害を与え、その賠償金を支払う場合の領収書は「売上代金の受取書」とみなされ印紙税の課税対象になります。また、領収金額が5万円以上の場合は課税文書となる点も考慮しましょう(5万円未満の領収書は非課税)。
事業上の損害賠償で実質的に「商品代金の弁償」と評価されるケースでは、金額に応じた収入印紙が必要になります。一方、純粋な慰謝料や治療費補填など売上代金性質のない示談金であれば、一律で200円の印紙(5万円以上の場合)が必要です。
もっとも、個人の交通事故示談で被害者が法人というのは稀でしょうから、通常は印紙不要である場合が多いでしょう。迷った場合は税理士など専門家に確認すると安心です。
離婚・慰謝料の示談金領収書
離婚に関する示談では、夫婦間あるいは不倫の当事者間で金銭の支払いが発生することがあります。
典型例として、離婚慰謝料(配偶者の不貞行為等による精神的苦痛への賠償)や、離婚に伴う財産分与の一部としての解決金、婚姻中の生活費未払いの精算などが挙げられます。こうした離婚・男女問題における示談金の支払い時にも領収書が重要になります。
離婚問題では多くの場合、示談金の支払いについて離婚協議書や示談書を作成して明文化します。
夫婦が合意離婚する際に作る離婚協議書(公正証書にすることもあります)には、「夫が妻に対し慰謝料○○万円を〇年〇月〇日限りで支払う」「支払いが完了したものと同時に、当事者は本件に関し互いにこれ以上の請求をしない」などの条項が盛り込まれます。
実際の支払いが行われたら、その証明として領収書を発行する流れです。特に不倫慰謝料のように配偶者以外の第三者に請求するケースでは、示談書(誓約書)を取り交わした上で金銭を受領し、領収書を渡すことがあります。
離婚慰謝料の領収書については、支払方法によって若干取り扱いが異なります。現金手渡しで慰謝料を受け取る場合は、その場で領収書を作成するか、前述のように示談書の中に「本日、慰謝料○○円を受領した」旨を盛り込んで済ませる方法が一般的です。
一方、銀行振込で後日支払われる場合には、振込記録(振込控え)を領収書代わりにするケースもよくあります。実際、夫婦間の金銭支払いでは「振込控えがあるから領収書は省略」ということも多く、振込明細をもって受領証に代える取り決めがされることもあります。
ただし、これも当事者間の信頼関係や合意が前提であり、支払者から正式な領収書の提出を求められれば応じる必要があります。「銀行に振り込んだから十分だろう」と受領側が独断で領収書発行を拒むことはできません。
実は、離婚慰謝料などの支払いに領収書が必要かどうか悩む方は多いようです。
慰謝料を受け取った側としては、「自分から領収書を出すべきか?」と迷うケースがありますが、原則は相手から請求されたら発行する、請求されなければ必ずしも自発的に出す必要はない、というスタンスです。
とはいえ、法的に請求権が認められている以上、支払者が希望する場合はすみやかに領収書を交付したほうが円満です。特に不倫の示談では感情的な対立もありますが、金銭のやりとりはビジネスライクに証拠を残すことが肝要です。
離婚・慰謝料の領収書で重要なのは、支払いの名目を明記することです。同じ金銭のやり取りでも、何のために支払われたのかで法的性質が変わります。
たとえば「不貞行為の慰謝料として」「離婚の解決金として」「婚姻費用の清算として」など、該当する理由を但し書きに記載しましょう。こうすることで、後から「これは慰謝料ではなく贈与だ」などと主張されるリスクを下げられます。
また、当事者名(宛名)も正式名称で記載します。夫婦間だからといってニックネームや下の名前だけを書くのは避け、協議書と同じ氏名を使います。
特に支払者が法人(例えば不倫相手が会社経営者で会社から支払う場合等)なら、法人名を正式名称で記載し、「(株)」など省略はしないようにします。
次に領収書の発行者ですが、基本的にはお金を受け取った側が作成するものです(債権者が債務者に発行するという形)。
とはいえ、領収書の文面に不備があるといけませんから、支払者側でひな形を用意して受領者に署名捺印してもらう方法もよく取られます。弁護士や行政書士が代理で書類を作成し、相手方に署名押印してもらうこともあります。
どちらが作成する場合でも、記載内容が適切で当事者の署名(できれば実印や認印の押印付き)があれば有効な領収書となります。
最後に、離婚や不貞の慰謝料でも収入印紙の問題があります。
もっとも、こちらも基本的には個人間の損害賠償的な支払いであり印紙税非課税ですので、領収書に印紙は不要です(不動産の財産分与など特殊なケースで領収書を発行する場合は別途検討が必要ですが、通常の慰謝料や解決金では心配いりません)。
支払い金額が高額であっても、それ自体で印紙が必要になることは原則ありません。ただし万一、領収書に「但し慰謝料○○円」と書かずに金額だけ記載した場合、税務署から営業取引の収入と誤解されるリスクがゼロではありません。
念のため但し書きで慰謝料等である旨を明示することで、印紙税の観点からも適切な書面になります。
示談金領収書の基本書式と文例
示談金領収書は、一般的な領収書と項目は似ていますが、示談特有の情報を盛り込む必要があります。最低限、以下の事項を記載しましょう(手書きでもパソコン作成でも構いませんが、後述の注意を守って作成します)。
日付(実際に示談金を受け取った日付。発行日と同じ場合は「本日」と書いても可)
宛名(支払者の氏名。
個人名なら「〇〇〇〇 様」、法人なら正式名称+「御中」か「〇〇〇〇株式会社 御中」など)
金額(受け取った示談金の額。
後から改ざんされないよう「¥○○○,○○○-」や「金○○○円也」のように表記し、始まりと末尾に記号を付けます)
但し書き(支払い目的)
(例:「但し、令和〇年〇月〇日付示談書に基づく示談金として」や「但し、不貞慰謝料として」など支払理由を明記)
受領した旨の文言(例:「…を受領しました」「受け取りました」といった表現)
受領者の氏名
(領収書発行者=お金を受け取った人の署名。通常は自署し、併せて認印や実印を押印します)
上記を盛り込めば、形式としては領収書が成立します。それでは実際の文例を交通事故の場合と離婚慰謝料の場合で示してみます。
文例①:交通事故示談金の領収書(例)
令和○○年○月○日
○○ ○○ 様 (※加害者側の氏名)
領収書
私は、令和○○年○月○日付の○○ ○○ 様との示談書で合意した示談金として、本日、金1,200,000円也を確かに受領いたしました。
山田 花子 印 (※被害者側〈受領者〉の氏名・押印)
解説:交通事故の示談で加害者から被害者に120万円を支払ったケースの領収書例です。示談書を別途作成しているため、「〇年〇月〇日付の示談書で合意した示談金として」と示談書と関連付ける文言を入れています。
この一文により、どの合意に基づく支払いかが明確になります。また、「確かに受領いたしました」という表現で受領事実をはっきり示しています。
文例②:離婚慰謝料の領収書(例)
令和○○年○月○日
佐藤 太郎 様 (※慰謝料支払者〈夫など〉の氏名)
領収書
私は、本日、離婚に伴う慰謝料として金2,000,000円を受領しました。
鈴木 花子 ㊞ (※慰謝料受領者〈妻など〉の氏名・押印)
解説:離婚の際に支払われた慰謝料200万円を受け取ったケースの領収書例です。支払目的を「離婚に伴う慰謝料として」と明記し、支払額(2,000,000円)を受領したことを簡潔に記載しています。
離婚協議書など別の書面がある場合でも、このように慰謝料であることを明示した領収書を作成すれば、税務上も法的にも支払いの趣旨が明らかになります。
これらの文例はあくまで基本形です。実際には事案に応じて文章を追加・修正することもあります。例えば、示談書が存在しない場合には文例②のように示談金の趣旨(慰謝料や解決金の理由)を詳しく書くとよいでしょう。
逆に示談書がある場合は文例①のように示談書の日付やタイトルを引用することで、詳細な支払い理由の説明を簡略化できます。
また、受領日と領収書発行日が異なる場合には、「私は、令和○年○月○日に○○として金○円を受領しました。」と実際の受取日を本文中に記載することも大切です。後日になって領収書を作成するケースでは、必ず受領日を明示するようにしましょう。
文章の敬体・常体(ですます調かである調か)はどちらでも構いませんが、統一して読みやすい文面に仕上げます。
領収書作成時の注意点と法的リスク管理
示談金の領収書を作成する際には、形式的な記載事項だけでなくいくつかの実務上・法的な注意点があります。適切に対処することで、後日のリスクを大幅に軽減できます。
①原本は一通のみ発行する
領収書は基本的に一度きりの発行です。同じ支払いについて複数の原本(署名押印されたオリジナル)を作成しないようにしましょう。
万一相手から「紛失したので再発行してほしい」と言われても、再発行には応じないのが原則です。領収書が二通存在すると、あたかも二重に支払いを受けたような誤解を生み、思わぬトラブルにつながる恐れがあります。
受領者自身の控えが必要な場合は、複写(カーボンコピー)やコピー機で複製を取り、自分用に保管してください。複写式の領収書用紙を使ったり、署名後に写真やスキャンでデータ保存するのも有効です。いずれにせよ、支払者に渡す原本は一通だけに留めます。
②金額の記載方法に注意
金額は改ざん防止のため、書き方に工夫します。具体的には、金額の前に「¥」や「金」を付し、末尾に「-」や「也」などを付けます。例えば「¥100000-」や「金壱拾万円也」のように表現し、数字の前後を符号でガードします。
また、桁を揃えて書き、余白ができたら線を引くか「※」で埋めると良いでしょう。手書きの場合は筆ペンやボールペンなど消せない筆記具で記載し、消えやすい鉛筆やフリクションペンは使いません。
万が一金額を誤記した場合、二重線で訂正して訂正印を押すよりは書き直したほうが確実です(お互いのためにも、金額は最初に正確に確認しましょう)。
③氏名・日付・案件を正確に
当事者の氏名は正式名称をフルネームで書き、印鑑もできれば統一したものを使用します。日付も和暦・西暦の別を示談書に合わせるなど統一すると親切です(示談書が令和表記なら領収書も令和○年と書くなど)。
示談に複数の案件が絡む場合(例:不倫の慰謝料と婚姻費用清算金を一括で支払うなど)は、その内訳や名目を但し書きに記載しておくと誤解がありません。「慰謝料および清算金として合計○円」などまとめて書くか、それぞれの金額を列挙する方法もあります。
どちらにせよ、この領収書が何の支払いに対するものかを明確に特定できるようにしておくことが重要です。
④収入印紙の貼付漏れ防止
前述したように、多くの場合は印紙不要ですが、万一課税対象となるケースでは所定額の収入印紙を貼ります。印紙を貼った際は、その印紙にかかるように受領者の印鑑で消印(割印)してください。
貼り忘れや消印漏れは違反となり、後日ペナルティが科される可能性があります。逆に本来非課税なのに心配で印紙を貼ってしまう人もいますが、不要な印紙を貼る必要はありません(貼った場合、税務署への申告は不要ですが費用の無駄になります)。
不明な場合は専門家に相談しましょう。
⑤「今後一切請求しない」旨は慎重に
示談金を支払う側としては、「お金を払ったらもう終わり」という確約が欲しいため、領収書に「本件に関し一切の請求権を放棄する」等と書いてほしいと求めることがあります。
これは領収書というより示談書に盛り込むべき内容ですが、示談書がなく口頭合意だけの場合には領収書にその文言を入れるケースもあります。ただ、受け取る側からすれば重い意味を持つ条項ですので、本当に問題ないかよく検討すべきです。
領収書は本来「受け取りました」という事実証明に徹する書面であり、法的義務の免除や権利放棄といった条項は契約書(示談書)で取り決めるのが原則です。
領収書に付記する場合でも、示談の趣旨に反しないか注意し、必要に応じて法律専門家の助言を受けることが望ましいでしょう。
⑥専門家によるチェック
示談金領収書自体はそれほど長文にはなりませんが、示談全体の文脈で見れば重要な位置を占めます。文言の些細な違いが後々の解釈に影響することもありえます。
不安がある場合は、弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に文案を確認してもらうのも一つの方法です。特に契約書(示談書)と領収書を併用する場合、それぞれの記載に矛盾や漏れがないかチェックが必要です。
例えば示談書では○月○日支払いと合意したのに領収書の日付がズレている、金額を税込みかどうか示談書に書いていないが領収書では消費税が云々と書いてしまった、等の不整合が生じないようにします。
プロの目を入れることで、法的に有効な証拠書類としての完成度が高まります。
領収書の証拠能力と保全のポイント
きちんと作成された示談金領収書は、将来的な紛争時に強力な証拠となります。裁判など法的手続において、当事者の署名・押印がある領収書は「書証」(書面による証拠)として提出できます。
支払者にとっては、相手が示談金を受領した証拠となり、追加の請求を拒む根拠となります。受領者にとっても、支払いが済んだ事実を示すことで「約束の金額を受け取っていない」という誤解を防ぐ盾になります。
以下、証拠能力を確保・向上させるためのポイントを押さえておきましょう。
署名(押印)のある原本を保管する
領収書は受領者が作成し支払者に渡すものですが、紛争時に本当に役立つのは署名押印が直になされた原本です。支払者側は受け取った領収書原本を大切に保管してください。受領者側も、先述のとおり写しを手元に残しておけば、いざというとき証拠提出できます。
電子メールやLINEのメッセージで「受け取りました」と送る方法もありますが、紙の領収書に比べると真正性(本人が作成したものかどうか)の立証でハードルが上がる場合があります。
紙の領収書原本は、筆跡鑑定や印影の照合などにより作成者の認否を明らかにしやすいため、より確実な証拠と言えます。
記載漏れや曖昧さをなくす
証拠書類として有効に機能させるには、「誰が」「いつ」「誰に」「何のために」「いくら支払った(受け取った)」が一読して判別できることが重要です。この情報が欠けていたり不明確だと、後で争いになった際に争点となり得ます。
例えば領収書に金額は書いてあるが示談の目的が書かれていない場合、「これは別件の貸金の返済だ」と相手が主張する余地が残ります。同様に宛名が空欄だと、第三者が見て誰がお金を出したのか不明になります。
証拠能力を万全にするため、空欄や不明瞭な点を作らないことが大切です。
改ざん防止策
証拠は改ざんされていないことも重要です。金額の前後に¥や也を付けるのは改ざん防止策でもありますが、他にも、訂正があれば訂正印を入れる、複数ページにまたがる場合は契印を押す、といった一般的な措置も有効です。
もっとも領収書は基本1枚で済むでしょうから、大幅な改ざんリスクは多くありません。しかしコピーを提出する場合、「原本と相違ない」と証明できる形でコピーを取っておく(カラーコピーや写真で印影の色まで分かるようにする等)と安心です。
原本提出がベストですが、昨今は電子データでの提出も増えているため、スキャンデータでも鮮明に残すよう心がけます。
他の証拠との整合性
領収書は単体でも証拠になりますが、示談書や銀行振込明細、メールのやり取りなど他の証拠と矛盾なくセットで用意しておくとより盤石です。
示談書に書かれた金額・日付と領収書の内容が一致していれば信用性が高まりますし、銀行の振込日時と領収書の受領日が食い違っていなければ支払いの裏付けが取れます。
逆に言えば、領収書を作ったのに銀行記録が見当たらない、示談書と金額が違う、というような食い違いがあると不審を招きかねません。証拠として提出する際は、関連する一連の資料を整理し、突っ込みどころがないか専門家に見てもらうとよいでしょう。
以上のように、示談金領収書は適切に作成・保管すれば強力な証拠となり、法的トラブルのリスク管理に寄与します。
領収書自体はシンプルな文書ですが、その効力は侮れません。当事者双方が公平な立場で示談を成立させるためにも、領収書という基本を疎かにしないことが肝要です。
まとめ
交通事故や離婚・不倫といった法的トラブルの示談において、示談金の領収書は紛争解決の最終局面をしっかりと締めくくる重要な書面です。
領収書の書式自体はシンプルですが、記載すべき事項を漏れなく盛り込み、目的に即した文言を入れることで、後日の紛争蒸し返しを防ぎ、当事者双方の安心を確保できます。
テンプレートを活用しつつも各事案に応じたカスタマイズを行い、法律専門家の視点から適切に作成することが大切です。
交通事故の示談金領収書であれ離婚慰謝料の領収書であれ、基本となる考え方は共通しています。
「誰が」「何のために」「いくら支払った(受け取った)」を明確にし、証拠能力の高い書面を作ること、そして当事者間でその内容に合意が取れていること——これに尽きます。
ビジネスライクで簡潔な領収書を交わすことは、感情的なしこりを残さず円満に示談を成立させる一助にもなります。
示談交渉に携わる法律家の方は、本記事で紹介した示談金領収書の書式と文例、注意点を踏まえて、依頼者に適切なアドバイスを提供してください。
確実な証拠を残すという基本を徹底することで、示談後のリスク管理を万全にし、依頼者の利益を守ることができるでしょう。
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