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会社の食事は経費にできる?税務調査で慌てないための「福利厚生費」の賢い使い方

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福利厚生費 飲食

会社の食事代を「福利厚生費」として正しく経費計上できれば、法人税の負担を減らし、同時に従業員の手取りも減らさずに済むことをご存知ですか。これは、節税と従業員満足度向上を両立できる、経営者にとって非常に強力な一手です。

この記事を読めば、国税庁が定める複雑な「福利厚生費」のルールが明確にわかります。税理士である私が、税務調査で指摘されないための具体的な要件や金額、注意点を網羅的に解説するため、自信を持って制度を導入・運用できるようになります。

「うちの会社でもできるだろうか」「条件が複雑で難しそう」といった不安は不要です。具体的な計算例やよくある失敗例を交えながら、経理担当者でなくても理解し、明日から実践できるレベルまでわかりやすく説明します。

目次

福利厚生費の基本 なぜ「飲食」が節税と満足度向上につながるのか

そもそも福利厚生費とは?

福利厚生費とは、企業が従業員の福祉や生活の質の向上のために提供する、給与や賞与以外の報酬を指します。福利厚生費には、法律で義務付けられている「法定福利費」(社会保険料の会社負担分など)と、企業が任意で設ける「法定外福利厚生費」の2種類があります。

この記事で主に扱う食事の補助は、この「法定外福利厚生費」に分類されます。法定外福利厚生費は、従業員の働きがいを高め、定着率を向上させるための重要な施策です。正しく運用すれば、会社の経費として損金に算入できるため、経営上のメリットも大きいのです。

会社と従業員、双方にとっての大きなメリット

食事補助を福利厚生費として計上することには、会社と従業員の双方に明確なメリットがあります。

まず、会社側のメリットは法人税の節税です。福利厚生費は事業に必要な経費(損金)として扱われるため、その分だけ会社の課税対象となる所得が減り、結果として法人税の負担が軽減されます。

一方、従業員側のメリットは所得税や住民税、社会保険料の負担が増えないことです。一定の要件を満たした食事補助は、従業員の給与所得とは見なされず非課税となります。もし同じ金額を「食事手当」として現金で給与に上乗せした場合、従業員の所得が増えるため、所得税や住民税の負担が重くなります。

さらに見過ごされがちな点として、社会保険料への影響があります。給与として扱われると、その金額を基に計算される健康保険料や厚生年金保険料も、従業員・会社双方で負担が増加します。つまり、福利厚生費として正しく計上することは、目先の税金だけでなく、社会保険料という将来にわたるコストの増加も防ぐ「二重の節税効果」があるのです。

福利厚生費として認められるための4つの大原則

飲食代に限らず、法定外福利厚生費が非課税として認められるためには、国税庁が示す普遍的な4つの原則を理解しておく必要があります。これから解説する食事に関する具体的なルールも、すべてこの大原則に基づいています。

機会の平等性

全ての従業員が公平に利用できる機会を提供することが求められます。役員だけ、あるいは正社員だけといった特定の層に限定された制度は、福利厚生とは認められず、給与として課税される可能性があります。

社会通念上の妥当性

提供される福利厚生の金額が、常識的に考えて妥当な範囲内である必要があります。例えば、従業員の慰安を目的とした食事会であっても、1人あたり数十万円もするような豪華すぎるものは福利厚生の趣旨から逸脱すると判断され、否認されるリスクが高まります。

非現金・非換金性

福利厚生は、原則として「現物支給」であるべきとされています。食事代として現金を支給したり、容易に換金できる商品券などを渡したりすると、それは実質的に給与と同じと見なされ、課税対象となります。

目的の正当性

その支出が、従業員の福祉の向上や慰安といった明確な目的を持っていることが必要です。

通常の食事補助を非課税にするための2つの絶対条件

従業員の昼食代などを補助する場合、福利厚生費として非課税にするためには、国税庁が定める非常に厳格な2つの条件を両方同時に満たす必要があります。どちらか一方でも満たせなければ、福利厚生費とは認められません。

条件1 従業員が食事価額の半分(50%)以上を負担していること

第一の条件は、食事にかかった費用の半分以上を従業員自身が負担していることです。会社が全額を負担したり、従業員の負担が半分に満たなかったりした場合は、この条件をクリアできません。

例えば、1ヶ月の食事の価額が6,000円だったとします。この場合、従業員は最低でもその半額である3,000円を負担しなければなりません。もし従業員の負担額が2,999円であれば、この条件は満たされないことになります。

条件2 会社の負担額が1ヶ月あたり3,500円(税抜)以下であること

第二の条件は、会社が補助する金額が1ヶ月あたり3,500円(税抜)を超えないことです。この金額は、以下の計算式で算出します。

(食事の価額) – (従業員の負担額) ≦ 3,500円(税抜)

例えば、1ヶ月の食事の価額が8,000円で、従業員が4,500円を負担しているケースを考えます。この場合、条件1(50%以上負担)はクリアしています。会社の負担額は「8,000円 – 4,500円 = 3,500円」となり、上限額である3,500円もちょうどクリアしているため、非課税の対象となります。

失敗は許されない!条件を満たさない場合の厳しい結末

ここで最も注意すべき点は、これらの条件を満たさなかった場合のペナルティの厳しさです。多くの人が「上限を超えた分だけが課税されるのだろう」と誤解しがちですが、それは大きな間違いです。

このルールは「オール・オア・ナッシング(全か無か)」の原則で運用されています。つまり、2つの条件のうち1つでも満たさなかった場合、会社が負担した補助額の全額が給与として課税されるのです。

例えば、会社の負担額が3,600円となり、上限をわずか100円だけ超えてしまったとします。この場合、課税されるのは超過分の100円ではありません。会社が負担した3,600円の全額が、従業員の給与所得として扱われ、所得税や社会保険料の対象となってしまいます。この点を正確に理解することが、食事補助制度を運用する上で最も重要です。

消費税率で変わる非課税判定の具体例

消費税率で変わる非課税判定の具体例

会社の負担額の上限(3,500円)は税抜金額で判定されるため、消費税の扱いが非常に重要になります。特に、仕出し弁当(軽減税率8%)と社員食堂での食事(標準税率10%)では、同じ税込価格でも税抜きの会社負担額が変わり、非課税かどうかの結論に影響を与えることがあります。

ケース1 仕出し弁当(税込400円、軽減税率8%)を20日提供

このケースでは、食事価額の合計が8,000円(税込)となります。従業員が4,200円を負担する場合、負担率は52.5%となり条件1はクリアします。会社の負担額は税込で3,800円です。

会社負担額を税抜で計算すると「3,800円 ÷ 1.08 = 3,518.5…円」となり、10円未満を切り捨てると3,510円です。この金額は上限である3,500円を超えているため、会社が負担した3,800円の全額が給与として課税されます。

ケース2 社員食堂(税込400円、標準税率10%)を20日提供

食事価額の合計と従業員負担額はケース1と同じです。会社の負担額も税込では3,800円ですが、適用される消費税率が異なります。

会社負担額を税抜で計算すると「3,800円 ÷ 1.1 = 3,454.5…円」となり、10円未満を切り捨てると3,450円です。この金額は上限である3,500円以下に収まるため、福利厚生費として認められ、非課税となります。このように、食事の提供形態によって結論が変わるため、精密な計算が求められます。

表1 食事補助の非課税条件チェックリスト

シナリオ食事価額 (月額)従業員負担額会社負担額条件1 (50%以上負担)条件2 (会社負担3,500円以下)結論課税される金額
両方クリア6,000円3,000円3,000円非課税(福利厚生費)0円
条件1未達5,000円2,000円3,000円× (50%は2,500円)給与課税3,000円
条件2超過8,000円4,000円4,000円×給与課税4,000円
現金支給3,500円給与課税3,500円

ケース別解説 残業・深夜勤務・社内イベントの飲食代

通常の食事補助とは別に、特定の状況下では異なるルールが適用されます。残業、深夜勤務、そして忘年会などの社内イベントという3つの主要なケースを理解することで、より柔軟な福利厚生の提供が可能になります。

残業・宿日直時の食事

通常の勤務時間外である残業や宿日直の際に従業員へ提供する食事は、会社が費用を全額負担(無料で支給)しても、給与として課税されないという特例があります。これは、業務上やむを得ない支出と見なされるためです。ただし、この特例を適用するには以下の条件を満たす必要があります。

現物支給であること

食事そのものを提供することが原則です。食事代として現金を渡すと、給与とみなされてしまいます。ただし、会社が食事を準備できない場合に、従業員が自分で購入して立て替え、後日その領収書に基づいて実費を精算する方法は、実質的な現物支給と見なされ、一般的に認められています。

社会通念上妥当な金額であること

金額に明確な上限規定はありませんが、常識の範囲内であることが求められます。例えば、高級料亭の会席料理のような、残業中の食事として過度に高価なものは福利厚生費として認められない可能性があります。実務上の安全な目安として、1食あたり1,500円程度に留めておくことが推奨されます。

アルコール類は含まないこと

残業中の食事はあくまで業務遂行上必要なものです。アルコール飲料は勤務中の食事として不適切と判断されるため、その費用を福利厚生費に含めることはできません。

深夜勤務者の夜食

食事の現物支給が著しく困難な深夜勤務者に対しては、もう一つの特別な例外が認められています。それは、1食あたり300円(税抜)以下の金額であれば、現金で支給しても非課税として扱われるというものです。

これは、現金支給が原則として給与課税される中での、非常に限定的な特例です。注意すべきは、このルールが適用されるのは、勤務時間帯そのものが深夜に設定されている「深夜勤務者」であるという点です。日勤の従業員がたまたま残業で深夜の時間帯まで働いた、というケースには適用されませんので、誤解しないよう注意が必要です。

忘年会・新年会などの社内イベント

従業員の慰安を目的として開催される忘年会や新年会、創立記念パーティーなどの社内イベントで提供される飲食代も、一定の条件を満たせば福利厚生費として計上できます。

全従業員に参加の機会が与えられていること

最も重要なのは「機会の平等性」です。「全員参加」とは、文字通り全員が出席することを強制するものではなく、希望すれば誰でも参加できる機会が公平に与えられていることを意味します。

従業員数が多い大企業などで、全社一斉の開催が物理的に難しい場合、支店や部署単位での開催も認められています。ただし、その開催単位に所属する全員が参加対象であることが前提です。

特定の部署や役員だけで行う飲み会は、福利厚生費とは認められません。税務調査で指摘された際に備え、対象者全員にメールで案内を送るなど、周知した事実を証明できる証拠を残しておくことが賢明です。

社会通念上妥当な金額であること

こちらも金額に明確な上限はありませんが、あまりに豪華で高額な場合は福利厚生の範囲を逸脱していると見なされる可能性があります。実務上の一般的な目安としては、1人あたり5,000円程度が妥当な金額とされています。

福利厚生費・会議費・交際費の正しい使い分け

福利厚生費・会議費・交際費の正しい使い分け

飲食を伴う費用は、その目的や参加者によって「福利厚生費」「会議費」「交際費」という異なる勘定科目に分類されます。この区別を誤ることは、税務調査で指摘を受ける最大の要因の一つです。それぞれの判断基準を明確に理解し、正しく経費処理を行いましょう。

福利厚生費 vs. 交際費

この2つを区別する最も明確な基準は、参加者に社外の人間(取引先、仕入先など)が含まれているかどうかです。参加者が自社の役員・従業員のみの場合は福利厚生費となります。

一方、社外の人間が1人でも参加していれば、その支出全体が原則として交際費となります。たとえ支出の主目的が「従業員の慰安」であっても、そこに取引先を招待した時点で、その費用は福利厚生費ではなく交際費として処理する必要があるため注意が必要です。

福利厚生費 vs. 会議費

この2つの違いは、支出の目的が業務遂行(会議・打ち合わせ)か、従業員の慰安かという点にあります。業務上の会議中に提供されるお弁当や飲み物、あるいは社外のカフェやレストランで行う打ち合わせの飲食代などが会議費に該当します。

会議費は、参加者に社外の人間が含まれていても問題なく計上できます。一方で、福利厚生費は業務とは直接関係のない、従業員の慰安や親睦を深めるための飲食代です。なお、令和6年4月1日から飲食に関する交際費の損金算入の基準が1人あたり10,000円以下に引き上げられており、これは会議費の金額を判断する上でも一つの目安となります。

部署の飲み会は福利厚生費?それとも交際費?

実務で最も判断に迷うのが、部署単位で行われる飲み会の扱いです。これは状況によって結論が変わります。

福利厚生費になる場合

その部署に所属する全員に参加の機会が与えられており、会社が部署単位での慰安行事として公式に認めている場合、部署全体の福利厚生と見なされます。

交際費(社内飲食費)になる場合

部署内の一部の人だけで行われる歓送迎会や、特定のメンバーだけの打ち上げなど、参加者が限定されている場合は福利厚生費には該当しません。この費用は「社内飲食費」として、交際費の一部として扱われます。

ただし、資本金1億円以下の中小企業の場合、交際費は年間800万円まで損金に算入できる特例があるため、部署の飲み会が福利厚生費として認められなくても、結果的に交際費として全額経費計上できるケースがほとんどです。一方で、大企業はこの特例の適用範囲が異なるため、福利厚生費と交際費の区分はより重要になります。

表2 飲食関連費用の勘定科目クイックリファレンス

勘定科目主な目的主な参加者判断のポイント・金額基準
福利厚生費従業員の慰安・福祉自社の従業員のみ全員が対象であること(機会の平等性)
会議費業務上の会議・打ち合わせ社内・社外の業務関係者業務目的であること。1人10,000円以下が目安
交際費接待・供応・慰安・贈答社外の事業関係者(社内のみの場合も含む)事業関係者との親睦を深める目的

まとめ

最後に、本記事の重要なポイントを再確認します。

通常の食事補助を非課税にするには「従業員負担50%以上」かつ「会社負担月3,500円(税抜)以下」の2条件を必ず満たす必要があります。

条件を1つでも満たさない場合、会社負担額の全額が給与課税される「オール・オア・ナッシング」のルールが適用されます。

残業や宿日直の食事は、会社が全額を負担して現物支給すれば、金額の定めなく非課税となります。

忘年会などの社内イベントは、全従業員に参加機会を与え、社会通念上妥当な金額であれば福利厚生費として認められます。

飲食費用の勘定科目を正しく分類する鍵は、「参加者(社外の人間がいるか)」と「目的(業務か慰安か)」を見極めることです。

食事に関する福利厚生は、単なる経費処理の問題ではありません。ルールを正しく理解し、戦略的に活用することで、会社の税負担を最適化し、従業員のエンゲージメントと満足度を高める強力な経営ツールとなります。この記事が、貴社のさらなる成長の一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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