会計の基礎知識

借入金の仕訳はこれで完璧!元帳入力から決算整理まで網羅解説

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借入金 仕訳

資金調達は、事業を成長させるための重要なエンジンです。しかし、その裏側にある「借入金の仕訳」という経理処理に、苦手意識や不安を感じていませんか。

「この処理で本当に合っているだろうか」「間違えて税務調査で指摘されたらどうしよう」といった悩みが、経営のアクセルを踏み込むのをためらわせることもあるでしょう。

この記事を最後まで読めば、借入金に関する会計処理の全体像を体系的に理解し、自信を持って日々の記帳から決算整理までをこなせるようになります。

基本的な仕訳はもちろん、利息や手数料の扱い、決算時に必要な調整、さらには役員借入金といった特殊なケースまで、具体的な仕訳例を交えて網羅的に解説します。

もう、借入金の仕訳で迷うことはありません。経理処理の不安を解消し、正確な財務状況を把握することは、的確な経営判断の第一歩です。このガイドを手に、会計をあなたの強力な武器へと変え、事業成長を加速させていきましょう。

目次

借入金の仕訳の基本

借入金の仕訳を理解する最初のステップは、その本質を掴むことです。難しく考える必要はありません。基本は「お金の動き」と「その理由」を帳簿に記録することにあります。このセクションでは、全ての借入金処理の土台となる基本的な考え方と仕訳の方法を解説します。

借入金は「負債」- 貸借対照表上の位置づけ

まず、会社が銀行などの金融機関から資金を借り入れた際、そのお金は「借入金」という勘定科目で処理されます。この借入金は、将来返済する義務があるため、会計上「負債」に分類されます。

会社の財産状況を示す財務諸表である貸借対照表(BS)では、資産、負債、純資産の3つの要素で構成されています。借入金は、その右側に位置する「負債の部」に記載される項目です。負債は、将来的に会社から出ていくお金、つまり返済義務を表しています。

複式簿記の基本 – 資産と負債の増減を記録する

会計処理の基本である複式簿記では、一つの取引を必ず二つの側面から捉えて記録します。借入金の取引で言えば、お金を借りると手元の現金や預金という「資産」が増加します。それと同時に、返済義務である「負債」も同額増加します。

この「資産の増加」と「負債の増加」という二つの側面を同時に記録するのが、複式簿記の基本ルールです。仕訳帳の左側を「借方(かりかた)」、右側を「貸方(かしかた)」と呼び、借方には資金の使途(どう使われたか)、貸方には資金の源泉(どこから来たか)を記録すると考えると理解しやすいでしょう。

具体例で見る借入と返済の仕訳

実際の取引を例に、具体的な仕訳を見ていきましょう。

ケース1:銀行から100万円を借り入れ、普通預金口座に入金された場合

この取引では、会社の「普通預金」という資産が100万円増加しました。資産が増加した場合は、仕訳の左側である「借方」に記録します。一方で、「借入金」という負債も100万円増加しました。負債が増加した場合は、仕訳の右側である「貸方」に記録します。

したがって、仕訳は以下のようになります。

借方貸方
普通預金 1,000,000円借入金 1,000,000円

この仕訳は、「借入金という理由で、普通預金が100万円増えた」という経済的な事実を明確に示しています。摘要欄には「〇〇銀行より運転資金借入」など、取引内容を具体的に記載しておくと、後から見返した際に分かりやすくなります。

ケース2:借入金のうち、元本10万円を普通預金から返済した場合

次に、借入金を返済した際の仕訳です。返済を行うと、返済義務である「借入金」という負債が10万円減少します。負債が減少した場合は、「借方」に記録します。

同時に、返済資金を支払った「普通預金」という資産も10万円減少します。資産が減少した場合は、「貸方」に記録します。

借方貸方
借入金 100,000円普通預金 100,000円

この仕訳は、「普通預金10万円を使って、借入金を返済した」という事実を表しています。利息の支払いがある場合は、ここからさらに複雑になりますが、その点は後ほど詳しく解説します。

このように、借入金の仕訳は「資産」と「負債」の増減を正しく記録する作業です。借りたときは「資産の増加(借方)」と「負債の増加(貸方)」、返したときは「負債の減少(借方)」と「資産の減少(貸方)」という基本ルールさえ押さえれば、決して難しいものではありません。この基本を土台として、次のステップに進みましょう。

短期か長期か「1年基準」を制覇して正しい勘定科目を選ぶ

借入金の仕訳で次に出てくる重要なポイントが、その借入金を「短期」と「長期」のどちらに分類するかという問題です。この分類を間違えると、会社の財務状況を正しく示すことができず、銀行などの金融機関からの評価にも影響を与えかねません。

この分類の基準となるのが、「ワン・イヤー・ルール(1年基準)」です。これは、決算日の翌日から起算して1年以内に返済期限が到来するかどうかで判断する、会計上の重要なルールです。

短期借入金とは

短期借入金は、決算日の翌日から1年以内に返済期限が到来する借入金を指します。貸借対照表では「流動負債」の部に分類されます。流動負債は、短期間で支払わなければならない義務を示すため、会社の短期的な支払い能力、つまり資金繰りの健全性を判断する上で非常に重要な項目となります。

短期借入金の主な目的は、仕入れ代金の支払いや従業員への給与支払いなど、日々の事業活動を円滑に進めるために必要な「運転資金」を賄うことです。売掛金の回収といった短期的な収入で返済されることが想定されるため、金融機関の審査も長期借入金に比べて比較的緩やかである傾向があります。例えば、返済期間6ヶ月の契約で資金を借り入れた場合、それは当初から短期借入金として処理されます。

長期借入金とは

一方、長期借入金は、返済期限が決算日の翌日から1年を超えて到来する借入金です。貸借対照表では「固定負債」の部に分類されます。

長期借入金は、工場や機械の購入、新規事業への投資といった「設備投資」など、長期的・戦略的な視点での資金需要に応えるために利用されるのが一般的です。返済期間が長くなる分、金融機関にとっては貸し倒れのリスクが高まるため、審査は短期借入金よりも厳格になり、担保の提供や詳細な事業計画の提出を求められることが通常です。

なぜ分類が重要なのか

この「短期」と「長期」の分類は、単なる事務的な作業ではありません。金融機関や投資家は、貸借対照表の「流動資産」と「流動負債」のバランスを見て、その会社の短期的な支払能力、すなわち財務の安全性を評価します。

代表的な指標として「流動比率(流動資産 ÷ 流動負債 × 100%)」があります。この比率が高いほど、短期的な支払い能力が高いと判断されます。もし、返済まで5年ある長期借入金を誤って短期借入金として計上してしまうと、流動負債が過大に計上され、流動比率が実態よりも悪く見えてしまいます。

これにより、実際には資金繰りに何の問題がなくても、財務的に不安定な会社であると誤解され、新たな融資が受けにくくなったり、取引先からの信用を失ったりするリスクが生じるのです。したがって、ワン・イヤー・ルールに従って借入金を正しく分類することは、自社の財務状況を正確に外部へ伝え、健全な経営を維持するために不可欠な作業と言えます。

利息と手数料の仕訳

利息と手数料の仕訳

借入金の返済において、経理担当者が最も注意すべき点の一つが、「元本」と「利息」の扱いの違いです。この区別を正しく理解し、適切に会計処理を行うことが、正確な利益計算と適切な納税に直結します。

元本は経費にならない、利息は経費になる

ここで最も重要な原則は、借入金の元本返済は経費(損金)にはならないという点です。元本の返済は、単に借りたお金を返しているだけであり、会社の利益を生み出すための費用ではありません。会計上は、単に負債が減少する取引として処理されます。

一方で、借入金に対して支払う利息は「支払利息」という勘定科目を用いて処理され、経費(費用)として計上できます。利息は、資金を借りるという金融サービスに対する対価であり、事業を運営する上で発生したコストと見なされるためです。「支払利息」は、損益計算書(P/L)において、本業の儲けである営業利益とは区別された「営業外費用」の区分に計上されます。

ケース:短期借入金の元本10万円と、利息5,000円を普通預金から返済した場合

この取引を仕訳で見ていきましょう。返済額の合計は10万5,000円ですが、その内訳を明確に区別して記帳する必要があります。

  • 負債の減少:元本10万円を返済したことで、「短期借入金」という負債が減少します(借方に記入)。
  • 費用の発生:利息5,000円を支払ったことで、「支払利息」という費用が発生します(借方に記入)。
  • 資産の減少:合計10万5,000円が「普通預金」から引き落とされたため、資産が減少します(貸方に記入)。
借方貸方
短期借入金 100,000円普通預金 105,000円
支払利息 5,000円

このように、返済時には金融機関から送付される返済予定表などを確認し、元本充当額と利息支払額を明確に分けて仕訳を切ることが極めて重要です。

手数料や保証料の会計処理

融資を受ける際には、利息以外にも様々な付随費用が発生することがあります。これらの会計処理も正しく理解しておきましょう。

  • 融資手数料:融資実行時に、手数料が借入額から天引きされる場合があります。この手数料は「支払手数料」や「雑費」などの勘定科目で、発生時に一括で費用として処理します。
  • 信用保証料:保証協会などに支払う信用保証料も費用ですが、会計処理には注意が必要です。保証期間が1年を超える場合、支払った全額をその期の費用として一度に計上することはできません。支払時には「長期前払費用」などの資産勘定で計上し、決算ごとに保証期間の経過に応じて按分し、費用に振り替えていく処理(償却)を行います。これは、費用の効果が将来にわたって及ぶため、費用収益対応の原則に基づいた処理です。

消費税の取り扱い – 非課税取引のポイント

実務上の重要な点として、借入金の元本、支払利息、保証料などは、すべて消費税の課税対象外(非課税または不課税取引)です。これは、お金の貸し借りが、商品やサービスの提供といった消費活動とは見なされないためです。会計ソフトでこれらの取引を入力する際は、税区分を「対象外」や「非課税」に設定することを忘れないようにしましょう。誤って課税仕入れとして処理すると、消費税の計算に誤りが生じます。

項目勘定科目経費になるか消費税
元本返済短期借入金 / 長期借入金ならない(負債の減少)対象外
支払利息支払利息なる(営業外費用)対象外
融資手数料支払手数料なる(営業外費用)対象外
信用保証料支払手数料 / 長期前払費用なる(期間に応じて按分償却)対象外

応用編:ケース別で見る借入金の特殊な仕訳

応用編:ケース別で見る借入金の特殊な仕訳

基本を押さえたところで、次は実務で遭遇する可能性が高い、少し複雑なケースの仕訳を見ていきましょう。これらの応用的な処理をマスターすることで、より正確で信頼性の高い決算書を作成できるようになります。

決算整理仕訳:長期借入金の返済予定分の振替

長期借入金がある場合、決算時に必ず行わなければならない重要な処理があります。それは、決算日の翌日から1年以内に返済予定の元本金額を、固定負債である「長期借入金」から流動負債へ振り替える作業です。

これは前述の「ワン・イヤー・ルール」に基づくもので、会社の短期的な支払い義務を貸借対照表に正確に反映させるために不可欠です。この処理を怠ると、流動比率が過大に計算され、財務の安全性が実態よりも高く見えてしまうため注意が必要です。

ケース:決算日を迎え、長期借入金のうち来期1年間で返済する予定の120万円を振り替える

この場合、流動負債に振り替えるための勘定科目として「短期借入金」を用いるか、より分かりやすく管理するために「一年以内返済長期借入金」という専用の勘定科目を用いることが一般的です。

「一年以内返済長期借入金」勘定を使用する場合
借方貸方
長期借入金 1,200,000円一年以内返済長期借入金 1,200,000円

この仕訳により、固定負債の長期借入金が120万円減少し、その分だけ流動負債の一年以内返済長期借入金が増加します。これにより、貸借対照表の流動負債が正しく表示され、財務の安全性をより正確に評価できるようになります。

役員借入金:中小企業に多い特有の処理と注意点

中小企業では、会社の資金繰りが厳しいときに、社長やその親族などの役員が個人資産を会社に貸し付けるケースが頻繁に見られます。これは会社から見れば借金であり、「役員借入金」や「短期借入金」といった負債勘定で処理します。

ケース:会社の経費(消耗品費)5万円を、役員が個人の現金で立て替えて支払った場合

この取引は、会社が役員から5万円を借り入れて経費を支払った、と解釈することができます。

借方貸方
消耗品費 50,000円役員借入金 50,000円

役員借入金は、金融機関からの融資と異なり、利息や返済期限を柔軟に設定できるため便利な資金調達手段です。しかし、会計・税務上は大きな注意点があります。それは相続税のリスクです。

役員借入金は、会社にとっては負債ですが、役員個人にとっては会社に対する「貸付金」という債権(財産)にあたります。万が一、その役員が亡くなった場合、この貸付金は相続財産に含まれ、相続税の課税対象となってしまいます。たとえ会社の業績が悪く、事実上回収不能な状態であっても、税法上は原則として額面通りの財産として評価されてしまうのです。

この予期せぬ相続税負担を回避するためには、生前に会社の資金繰りが好転したタイミングで役員へ返済を進める、あるいは「債務の株式化(DES:Debt Equity Swap)」によって借入金を資本金に振り替えるといった対策を計画的に講じる必要があります。

手形借入金:支払手形との違いを理解する

約束手形を振り出して金融機関から資金を借り入れる方法もあります。この場合、使用する勘定科目は「手形借入金」です。ここで注意すべきは、商品の仕入れ代金の支払いなどで用いる「支払手形」とは、勘定科目を明確に区別する点です。

なぜなら、企業会計では、商品の売買といった本来の営業活動である「商取引」と、資金の貸し借りのような「金融取引」を区別して記録することが求められるからです。「支払手形」は商取引で発生した営業上の負債であり、「手形借入金」は財務活動で発生した金融上の負債です。この二つを混同すると、会社の財務活動の実態が正しく分析できなくなってしまいます。

利息の見越・繰延:発生主義に基づいた正確な期間損益計算

会計の基本原則である「発生主義」に基づき、決算時には利息の期間帰属を正しく調整する「見越・繰延」の処理が必要になる場合があります。

費用の見越し(未払利息)

借入金の利息が後払いになっており、決算日時点では支払日が到来していないものの、当期の期間に対応する部分の利息が計算上発生している場合があります。この当期に帰属すべき費用を計上するために、「支払利息」を計上するとともに、相手勘定として「未払費用」または「未払利息」という負債勘定を使います。

費用の繰延(前払利息)

逆に、翌期以降の期間に対応する利息を当期中に前払いした場合、その前払い分は当期の費用として計上することはできません。支払った利息のうち、翌期以降に対応する部分を「前払費用」または「前払利息」という資産勘定に振り替え、当期の費用から控除する処理を行います。

ケース概要主な仕訳(借方 / 貸方)
決算時の振替長期借入金 / 一年以内返済長期借入金
役員からの借入経費科目 / 役員借入金
手形での借入普通預金など / 手形借入金
利息の見越計上支払利息 / 未払費用(未払利息)
利息の繰延処理前払費用 / 支払利息

まとめ

ここまで、借入金の仕訳に関する基本的なルールから、実務で直面しがちな応用的な処理まで、網羅的に解説してきました。最後に、正確な会計処理を通じて健全な経営を実現するための重要なポイントを再確認しましょう。

基本ルールを徹底する

借り入れは「資産と負債の増加」、返済は「負債の減少と資産の減少」です。この複式簿記の大原則を常に意識することが、すべての仕訳の土台となります。

「1年基準」は絶対

決算日から見て1年以内に返済期限が到来するか否かで「短期」と「長期」を正しく分類しましょう。これは、会社の財務の安全性を外部の利害関係者に正確に示すための重要なルールです。

元本と利息を区別する

経費として計上できるのは「支払利息」と関連する手数料のみです。元本の返済は経費にはなりません。この区別が、正確な利益計算と適正な納税の基本です。

決算整理を忘れない

長期借入金がある場合、決算時には必ず翌期返済分を流動負債へ振り替える仕訳を行いましょう。これにより、財務実態をより正確に報告できます。

取引の実態を理解する

役員借入金や手形借入金など、特殊な取引はその背景にある法務・税務上の意味(相続税リスクや商取引との区別など)を理解し、適切な勘定科目で処理することが極めて重要です。

借入金の仕訳は、単なるルーティンワークではありません。それは、会社の財務状況を映し出す鏡であり、未来の経営戦略を立てるための羅針盤です。正確な会計処理は、金融機関からの信頼を獲得し、適切なタイミングで必要な資金を調達する力を企業にもたらします。

この記事で得た知識を武器に、日々の経理業務に自信を持って取り組んでください。会計を味方につけることで、あなたの会社はより強固な財務基盤を築き、持続的な成長を遂げることができるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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