会計の基礎知識

内部統制とは?企業の成長と信頼を築く仕組みを方法を解説

公開日:

内部統制とは

この記事を読めば、「内部統制」という言葉に臆することなく、それを自社の成長エンジンに変えるための具体的な知識と自信を手に入れることができます。

内部統制は単なる管理業務ではなく、キャリアアップと企業価値向上に直結する戦略的な武器です。この記事を通じて、その活用方法を習得しましょう。

実際に多くの企業が、内部統制の強化を通じて業務の無駄を削減し、社会的信用を獲得しています。本記事では、金融庁の定義から、現場で使える実践的な構築プロセス、さらには成功事例まで、明日からあなたの会社で活用できる実用的な情報だけを凝縮しました。

「専門的で難しそう」「どこから手をつければいいかわからない」といった不安は一切不要です。専門家でなくても理解できるよう、図解や具体例を交えながら一歩ずつ解説します。

この記事を読み終える頃には、自社の課題を発見し、改善策を提案できる応用可能な知識が身についているはずです。

目次

内部統制の定義と関連用語

企業の成長を支える守りの仕組み

内部統制とは、単に社内のルールを守らせることだけを指すのではありません。企業が事業活動を健全かつ効率的に運営するための「仕組み(プロセス)」そのものを意味します。企業の目的を達成するために、業務の中にルールや手順を組み込み、それを組織内の経営者から従業員まで、すべての人々が遂行していく一連の流れが内部統見です。

この仕組みの主な目的は、粉飾決算や情報漏洩といった企業の不祥事を未然に防ぎ、経営の安定を守ることにあります。つまり、内部統制は企業の持続的な成長を支えるための、攻めの経営に不可欠な「守りの仕組み」といえるでしょう。

関連用語との関係性

内部統制を理解する上で、しばしば混同されがちな「コーポレートガバナンス」「コンプライアンス」「内部監査」といった用語との違いを明確にすることが重要です。これらの概念は独立しているのではなく、企業の健全性を保つために相互に連携し、階層的な関係を築いています。

コーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスは、企業の所有者である株主などが、経営者を監視・規律する仕組みを指します。内部統制が主に経営者から従業員へと向かう社内向けの仕組みであるのに対し、コーポレートガバナンスは株主から経営者へと向かう、より大きな枠組みといえるでしょう。

健全なコーポレートガバナンスは、有効な内部統制の整備を経営者に要求します。つまり、内部統制はコーポレートガバナンスを構成する重要な要素の一つなのです。

コンプライアンス

コンプライアンスは、法令や社会規範、倫理などを遵守することそのものを指します。内部統制は、このコンプライアンスを達成するための具体的な手段です。

例えば、「法令遵守を徹底する」という目的(コンプライアンス)のために、「承認プロセスを設ける」「研修を実施する」といった仕組み(内部統制)を構築します。つまり、内部統制が正しく機能した結果として、コンプライアンスが遵守されるのです。

内部監査

内部監査は、構築された内部統制が、意図した通りに有効に機能しているかを評価・検証する活動です。内部統制が「仕組み」であるのに対し、内部監査はその仕組みを客観的な視点からチェックし、改善を促す「活動」を指します。これにより、内部統制の形骸化を防ぎ、実効性を担保します。

これらの関係性を整理すると、強固なコーポレートガバナンスが経営者に有効な内部統制の構築を求め、その有効性を内部監査が検証し、その結果としてコンプライアンスが達成される、という一連の流れが見えてきます。この全体像を把握することが、内部統制の本質を理解する第一歩です。

内部統制の必要性 4つの目的と法的背景

内部統制の必要性 4つの目的と法的背景

内部統制は、単なる努力目標ではありません。金融庁の定義によれば、企業が達成すべき明確な4つの目的が存在します。これらは、企業が社会の中で存続し、成長していくための根幹となるものです。

内部統制が達成すべき4つの目的

業務の有効性及び効率性

事業活動の目的を達成するために、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を無駄なく合理的に活用することです。業務プロセスを見える化し、非効率な部分を改善することで、生産性を高め、企業の競争力を強化します。

報告の信頼性

株主や投資家、金融機関などに提出する財務報告の信頼性を確保することが、従来からの目的でした。しかし、近年の基準改訂により、この目的は大きく進化しています。

現在では、財務情報だけでなく、サステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)といった非財務情報を含む、企業が行うすべての「報告」の信頼性が求められています。これは、企業価値の評価軸が財務的な健全性だけでなく、社会的な責任や持続可能性へと広がっている現代社会の要請を反映したものです。

事業活動に関わる法令等の遵守

事業活動に関連する法律や規則、社会規範などを遵守することです。法令違反は、罰則だけでなく、企業の社会的信用を大きく損ない、事業継続を困難にする重大なリスクとなります。内部統制は、コンプライアンス体制を組織全体に浸透させることで、このリスクを低減します。

資産の保全

企業の資産を適切に管理し、不正な取得、使用、処分から守ることです。これには、現金や商品といった有形資産だけでなく、知的財産や顧客情報などの無形資産も含まれます。資産の横領や流出は、企業に直接的な損害を与えるだけでなく、信頼の失墜にも繋がります。

求められるようになった法的・社会的背景

内部統制がこれほどまでに重視されるようになった背景には、過去の苦い経験があります。国内外で発生した大規模な粉飾決算やリコール隠しといった企業不祥事は、多くの投資家や社会全体に甚大な被害をもたらしました。これらの事件をきっかけに、企業の透明性確保と投資家保護を求める声が世界的に高まったのです。

この流れを受け、日本では2008年から金融商品取引法の一部として「内部統制報告制度(通称:J-SOX)」が導入されました。これは、米国のSOX法(サーベンス・オクスリー法)を参考にした制度です。

J-SOXは、すべての上場企業に対し、事業年度ごとに自社の内部統制が有効であるかを評価した「内部統制報告書」を作成し、公認会計士または監査法人の監査を受けた上で提出することを義務付けています。これにより、内部統制は経営者の任意な取り組みではなく、上場企業にとっては法的義務となり、その重要性が社会的に確立されました。

内部統制の構造を支える6つの基本的要素

内部統制は、前述の4つの目的を達成するために、相互に関連し合う6つの「基本的要素」から構成されています。これらは、家を建てるプロセスに例えると理解しやすくなります。どれか一つでも欠ければ、頑丈で安心な家が建たないように、内部統制も6つの要素が一体となって初めて有効に機能します。

統制環境

統制環境は、他のすべての要素の土台となる最も重要な要素であり、家の「基礎」に例えられます。経営者の誠実性や倫理観、取締役会の監督機能、組織構造、そして組織全体の気風や文化などが含まれます。

もし経営陣のコンプライアンス意識が低ければ、基礎が脆い家のように、どれだけ立派なルール(柱や壁)を作っても、いずれ形骸化し、組織は崩壊してしまいます。経営者の姿勢、いわゆる「トップの姿勢(Tone at the Top)」が、組織全体の統制に対する意識を決定づけます。

リスクの評価と対応

リスクの評価と対応は、家の「設計図」に相当します。企業の目標達成を阻害する可能性のある様々なリスク(事業リスク、財務リスク、コンプライアンスリスクなど)を組織全体で識別・分析します。

そして、その重要性に応じてどのように対応するか(回避、低減、移転、受容)を決定するプロセスです。リスクを正しく認識できていなければ、適切な対策、つまり家の柱や壁を講じることはできません。

統制活動

統制活動は、リスクへの対応策を具体的に実行するための方策であり、家の「柱や壁」の役割を果たします。リスクへの対応として決定された経営者の方針や指示が、業務の現場で確実に実行されるための仕組みです。

具体的には、権限と職責の明確な分離(職務分掌)、相互牽制、業務プロセスの承認・検証、物理的な資産管理などが挙げられます。例えば、発注担当者と支払承認者を分けることは、不正な支出を防ぐための典型的な統制活動です。

情報と伝達

情報と伝達は、組織の神経網や血管に相当し、家の「配線や配管」に例えられます。組織が活動するために必要な情報が識別・把握され、組織内外の関係者に正しく、タイムリーに伝達される仕組みです。

正確な情報がなければ適切な意思決定はできず、経営者の指示が現場に伝わらなければ統制は機能しません。透明性の高い情報共有と円滑なコミュニケーションが不可欠です。

モニタリング

モニタリングは、内部統制が有効に機能しているかを継続的に監視・評価する活動で、家の「定期点検」といえるでしょう。モニタリングには、上司による日常的な業務チェックなどの「日常的モニタリング」と、内部監査部門や監査役など、業務から独立した立場で行う「独立的評価」の2種類があります。

モニタリングによって発見された不備は、速やかに是正され、内部統制システム全体の改善に繋げられます。

ITへの対応

現代の企業活動はITシステムなしには成り立ちません。業務プロセスに組み込まれたITシステムを適切に利用し、統制することも内部統制の重要な要素です。これは、家を「スマートホーム化」することに似ています。

具体的な取り組みには、システムのアクセス管理や開発・保守ルールの整備、サイバーセキュリティ対策などが含まれます。ITへの適切な対応は、他の5つの要素を効率的かつ効果的に機能させるための強力なツールとなります。

実践的な内部統制の構築プロセスと3点セット

理論を理解した上で、次に重要になるのが「どのように内部統制を構築していくか」という実践的なプロセスです。ここでは、一般的な構築ステップと、J-SOX対応の実務で中心的な役割を果たす「3点セット」について解説します。

内部統制を構築する基本的な6ステップ

内部統制の構築は、一度行えば終わりというものではなく、継続的な改善サイクル(PDCA)を回していくことが重要です。

ステップ1 方針と全社目標の設定

まず、経営理念やビジョンに基づき、内部統制に関する会社としての基本方針と目標を明確に設定します。これがすべての活動の出発点となります。

ステップ2 業務プロセスと潜在リスクの可視化

各部門の業務フローを詳細に洗い出し、文書化します。その上で、内部統制の4つの目的を阻害する可能性のある潜在的なリスクを網羅的に識別します。

ステップ3 リスクへの対応策(統制活動)の設計

洗い出したリスクに対し、それを低減するための具体的な対応策(統制活動)を設計し、どの部門が、いつ、どのように実施するのかを決定します。

ステップ4 ルールの明文化と周知徹底

設計した統制活動を、社内規程や業務マニュアルといった形で具体的に明文化します。そして、研修や説明会などを通じて、全従業員にその内容を周知し、理解を徹底させます。

ステップ5 運用状況のモニタリングと記録

定められたルールが、実際に現場で正しく運用されているかを継続的に監視します。統制活動が実施された証拠(承認記録やチェックリストなど)を適切に記録・保管することも重要です。

ステップ6 評価・分析に基づく改善

モニタリングの結果を評価・分析し、発見された不備や課題を改善します。このサイクルを継続的に回すことで、内部統制は常に変化する事業環境に対応し、実効性を保つことができます。

業務を可視化する「3点セット」

特にJ-SOX対応の実務においては、業務プロセスにおけるリスクと統制を可視化・文書化するために「3点セット」と呼ばれる3種類の文書が作成されます。

業務記述書

各業務プロセスの内容を、「誰が(Who)」「何をするか(What)」といった観点から文章で具体的に記述したものです。

フローチャート

業務記述書の内容を補完し、業務の流れ、書類の動き、承認プロセスなどを記号や図を用いて視覚的に表現したものです。

リスクコントロールマトリックス(RCM)

業務プロセスに潜む財務報告上の虚偽記載リスクと、そのリスクを低減するために設けられた統制活動(コントロール)を一覧表形式で対応付けた文書です。

これらの文書を作成する過程そのものに、実は大きな価値があります。文書化するためには、担当者にヒアリングし、実際の業務を深く理解する必要があります。

このプロセスを通じて、これまで暗黙知であった業務手順が形式知化されるだけでなく、「公式ルールと実態の乖離」「非効率な作業」「リスクが放置されている箇所」などが初めて明らかになることも少なくありません。

したがって、「3点セット」は単に監査人に提出するための書類ではなく、自社の業務を客観的に見つめ直し、改善の機会を発見するための強力な診断ツールなのです。作成にあたっては、以下の点に注意が必要です。

5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を明確に記述する

3つの文書間で内容の整合性を保つ

業務マニュアルのように細かくなりすぎず、財務報告リスクに関連する内容に絞り込む

内部統制がもたらす企業価値向上のメリット

内部統制の整備は、義務だから仕方なく行うコストのかかる活動、と捉えられがちです。しかし、実際には企業の競争力を高め、持続的な成長を支える多くのメリットをもたらす戦略的な投資といえます。

不正防止とリスク低減による信用の獲得

内部統制の最も直接的なメリットは、従業員による不正や業務上のミスを未然に防ぎ、企業の資産を保全することです。これにより、財務報告の透明性と信頼性が向上し、株主、投資家、金融機関、取引先といったステークホルダーからの社会的信用を獲得できます。

高い信用は、円滑な資金調達や有利な取引条件に繋がり、事業拡大の大きな後押しとなります。逆に、内部統制の不備が発覚すれば、企業の信用は失墜し、株価に直接的な悪影響を及ぼす可能性があります。

業務の効率化と生産性の向上

内部統制を構築する過程では、既存の業務プロセスを一つひとつ見直すことになります。この「業務の可視化」を通じて、これまで見過ごされてきた非効率な手順や業務の重複、ボトルネックとなっている工程が明らかになり、改善のきっかけが生まれます。

ルールや手順が標準化・明確化されることで、従業員は迷いなく業務を遂行できるようになり、組織全体の生産性向上に繋がります。

従業員のモチベーション向上と組織の活性化

明確なルールと公正な業務プロセスは、従業員にとって働きやすい環境を生み出します。業務の権限と責任が明確になり、適正な評価基準が構築されることで、従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上が期待できます。

不正が起きにくいクリーンな職場環境は、従業員の会社に対する信頼感を高め、健全な組織風土を醸成し、優秀な人材の定着にも貢献します。

中小企業にとっても重要な経営基盤

内部統制は、J-SOXの対象となる上場企業だけのものではありません。企業の規模に関わらず、持続的に成長していくためには不可欠な経営基盤です。特に中小企業においては、経営者の目が届きやすい一方で、一人の従業員が複数の業務を兼任することも多く、不正やミスが起きやすい環境ともいえます。

内部統制を整備することで、経営者は日々の細かいチェック業務から解放され、事業戦略の策定といった本来の業務に集中できるようになります。また、しっかりとした管理体制は、大手企業との取引開始や金融機関からの融資を受ける際の強力なアピールポイントにもなります。

内部統制の課題と未来

内部統制の課題と未来

内部統制は一度構築すれば安泰というわけではありません。常に変化する事業環境に対応し、その実効性を維持し続けるためには、いくつかの課題を乗り越える必要があります。

形骸化と現場の抵抗という課題

内部統制の運用において、最も警戒すべき課題が「形骸化」です。これは、本来の目的を見失い、ルールを守ること自体が目的化してしまう状態を指します。監査のためにチェックリストを埋めるだけの作業になったり、実態と乖離したルールが放置されたりすることで、内部統制は魂を失い、単なる形式的な手続きと化してしまいます。

また、新たなルールや承認プロセスが、単なる業務負荷の増加と捉えられ、現場の従業員から強い抵抗にあうことも少なくありません。トップダウンで一方的にルールを押し付けるだけでは、従業員の協力は得られず、統制はうまく機能しません。

これらの課題を防ぐためには、経営層が内部統制の重要性を繰り返し発信し、強いコミットメントを示すことが不可欠です。また、ルール作りの段階から現場の意見を取り入れ、なぜその統制が必要なのかという目的を全社で共有し、定期的な見直しを通じて実態に合った運用を続けることが、形骸化を防ぐ鍵となります。

DX時代におけるIT統制の重要性

デジタルトランスフォーメーション(DX)の急速な進展は、内部統制のあり方に大きな影響を与えています。これは、大きな機会であると同時に、新たなリスクも生み出しています。

ワークフローシステムや経費精算システムといったITツールを導入することで、これまで手作業で行っていた承認プロセスやチェック業務を自動化でき、大きな機会となります。これにより、ヒューマンエラーを削減し、業務効率を飛躍的に向上させることが可能です。申請や承認の履歴はシステムに自動で記録されるため、証跡管理が容易になり、監査対応の負担も大幅に軽減されます。

一方で、企業活動がITシステムに依存すればするほど、サイバー攻撃による情報漏洩やシステム障害、データの改ざんといった新たなITリスクへの対応が不可欠となります。手作業のプロセスで一つの不正な請求書が紛れ込むリスクと、システムの脆弱性を突かれて大量のデータが改ざんされるリスクとでは、その影響の大きさが全く異なります。

DX時代の内部統制では、ITを単なる効率化のツールとして捉えるだけでなく、その利用に伴うリスクを正しく評価し、セキュリティ対策やアクセス管理といった「IT全般統制」を、企業全体の統制環境の根幹として整備していくことが求められます。

まとめ

本記事では、内部統制の基本的な定義から、その目的、構造、実践的な構築プロセス、そして未来の課題までを網羅的に解説しました。

内部統制は、企業の健全な成長に不可欠な経営の根幹をなす仕組みです。それは、一部の管理部門だけが関わる特殊な業務ではありません。経営者から現場の従業員一人ひとりに至るまで、全員が当事者意識を持って取り組むことで初めて、その真価を発揮します。

法令遵守やJ-SOX対応という側面から、時に「コスト」や「規制」として捉えられがちですが、その本質は異なります。適切に整備・運用された内部統制は、業務の無駄をなくし、不正やミスから会社を守り、社会的な信用を高め、そして最終的には企業価値の向上に直結する「未来への投資」なのです。

変化の激しい時代において、企業が持続的に成長し、社会からの信頼を勝ち得ていくために、内部統制という強固な経営基盤を築き上げることの重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

会計の基礎知識の関連記事

会計の基礎知識の一覧を見る

\1分でかんたんに請求書を作成する/
いますぐ無料登録