会計の基礎知識

利益準備金とは?計算方法から仕訳、取り崩しまでを解説

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利益準備金

会社の利益を株主に還元する「配当」は、経営における大きな成果の一つです。しかし、その配当を将来の成長や安定につなげるためには、会社の財産を適切に守る仕組みが不可欠です。

この記事では、配当時に求められる「利益準備金」のルールを解説し、法律を遵守しながら会社の財務基盤を盤石にする方法を紹介します。

本記事を読むことで、剰余金の配当計算と会計処理を自信を持って実行できるようになります。

なぜ利益準備金を積み立てる必要があるのか、その法的根拠から具体的な計算方法、さらには積み立てた準備金の活用法まで、実務で直面するあらゆる疑問が解消されるでしょう。これにより、会社の財務責任者として、経営者や株主から一層の信頼を得ることができます。

「会社法」や「法定準備金」といった言葉に難しさを感じるかもしれませんが、ご安心ください。

この記事では、専門用語を一つひとつ丁寧に解説し、具体的な計算例や仕訳例を豊富に用いて、誰にでも理解できるようステップ・バイ・ステップで説明します。この通りに進めれば、あなたの会社でも今日から正確な会計処理が可能です。

利益準備金とは?会社の守りを固める重要な仕組み

利益準備金は、会社の財務的な安定性を確保するために法律で定められた、非常に重要な制度です。その本質と目的を理解することが、適切な会計処理への第一歩となります。

利益準備金の定義:会社法が定める「法定準備金」

利益準備金とは、会社法第445条第4項によって積み立てが義務付けられている「法定準備金」の一つです。企業が事業活動を通じて得た利益剰余金を原資として株主に配当を行う際、その配当額の一部を会社内に留保(確保)しておくためのお金です。

会計上、利益準備金は貸借対照表の「純資産の部」に分類され、さらにその中の「株主資本」を構成する「利益剰余金」の内訳項目として表示されます。法律で定められているため、会社が任意で積立をやめたり、自由に使うことはできません。

なぜ利益準備金は必要なのか?:債権者保護と財務基盤の強化

利益準備金の制度が法律で定められている最大の理由は、会社の債権者を保護することにあります。会社の債権者とは、金融機関や仕入先といった、会社に対して金銭的な権利を持つ利害関係者のことです。もし会社が得た利益のすべてを株主への配当として社外に流出させてしまうと、会社の財産が過度に減少し、債権者への支払いが滞るリスクが高まります。

この仕組みは、株主と債権者という二つの異なる利害関係者のバランスを取るための、法律による調整メカニズムと考えることができます。株主は出資者として利益の還元(配当)を求める権利がある一方で、会社は債権者に対して契約通りの支払いを行う義務を負っています。

利益準備金は、配当のたびに利益の一部を強制的に会社内部に留保させることで、株主への利益還元を認めつつも、債権者が最低限頼りにできる会社財産を確保する役割を果たしているのです。

また、利益準備金は会社の財務基盤を強化し、万が一の赤字(欠損)が生じた際の緩衝材(クッション)としての機能も持ちます。積み立てられた準備金があることで、一時的な業績悪化が直接資本の毀損につながることを防ぎ、経営の安定性を高める効果があります。

似ている勘定科目との違いを徹底解説

会計には似たような名前の勘定科目が数多く存在し、特に純資産の部は混同されがちです。利益準備金を正確に理解するために、関連する科目との違いを明確にしておきましょう。

利益準備金 vs. 資本準備金:原資と発生源の違い

利益準備金と非常によく似た勘定科目に「資本準備金」があります。この二つは、どちらも会社法で定められた「法定準備金」であり、計算上は合算して扱われることも多いですが、その発生源(原資)が根本的に異なります。

利益準備金の原資は、会社の事業活動によって生じた「利益」です。株主への配当という「損益取引」に関連して発生します。

一方、資本準備金の原資は、株主からの「出資金(払込資本)」です。具体的には、増資の際に株主から払い込まれたお金のうち、資本金として計上しなかった部分が資本準備金となります。

株式発行などの「資本取引」に関連して発生します。つまり、「利益」を源泉とするのが利益準備金、「資本(出資)」を源泉とするのが資本準備金と覚えると分かりやすいでしょう。

利益準備金 vs. 利益剰余金:全体と部分の関係

利益準備金と「利益剰余金」の関係は、全体と部分の関係にあります。利益剰余金とは、会社が創業してから現在までに稼いできた利益の累積額全体を示す、大きな括りの勘定科目です。一般的に「内部留保」と呼ばれるものがこれにあたります。

利益準備金は、その利益剰余金の中に含まれる、内訳項目の一つです。利益剰余金は、法律で使い道が厳しく制限されている「利益準備金」と、比較的自由に使える「その他利益剰余金」に分けられます。そして、株主への配当の原資となるのは、主に「その他利益剰余金」に含まれる「繰越利益剰余金」です。

純資産の部における主要な勘定科目の比較

これらの関係性を整理するために、以下の表で純資産の部に出てくる主要な勘定科目を比較します。この表を見れば、それぞれの科目がどのような性質を持ち、どのような役割を担っているかが一目でわかります。

勘定科目 大分類 原資 法的拘束 主な役割 
資本金 払込資本 株主からの出資強 (登記・法的要件)会社の基礎財産、信用の指標
資本準備金 払込資本 株主からの出資(資本金組入超過分)強 (法定準備金)資本の欠損填補
利益準備金 留保利益 事業活動で得た利益強 (法定準備金)債権者保護、利益の社内留保
その他利益剰余金 留保利益 事業活動で得た利益弱 (一部は任意)配当原資、任意積立

利益準備金の計算方法

利益準備金の計算方法

利益準備金の積立額の計算は、一見複雑に見えますが、2つのシンプルなルールを理解すれば誰でも正確に算出できます。ここでは、具体的な計算例を交えながら、その手順を詳しく解説します。

利益準備金の積立ルール:2つの上限規定

剰余金の配当を行う際に積み立てなければならない利益準備金の額は、以下の2つの基準で計算した金額を比べ、いずれか小さい方の金額を採用します。

  • 剰余金の配当額に10分の1を乗じた金額
  • 資本金の額に4分の1を乗じた金額から、現在の資本準備金と利益準備金の合計額を差し引いた金額

この計算ロジックは、2つの目的のバランスを取るために設計されています。まず「配当額の10分の1」というルールは、配当によって会社の財産が流出するたびに、その一部を必ず内部に留保させることで債権者を保護するという最低限の義務を定めています。

しかし、このルールだけだと、利益を出し続ける会社では準備金が際限なく積み上がってしまい、株主への還元や事業投資に使える資金が過度に固定化されてしまいます。

そこで「資本金の4分の1」という上限キャップが設けられています。これは、法定準備金の合計額が資本金の4分の1という一定の水準に達すれば、債権者保護の目的は十分に果たされているとみなし、それ以上の強制的な積立を免除するものです。

したがって、配当の都度、まず「10分の1ルール」で計算し、その金額を積み立てても準備金合計が上限キャップを超えないかを確認します。もし超えてしまう場合は、上限キャップに達するまでの金額だけを積み立てればよいということになります。これが「いずれか小さい方」を選択する理由です。

なお、すでに法定準備金の合計額が資本金の4分の1以上に達している場合は、新たに利益準備金を積み立てる必要はなく、積立額は0円となります。

計算例1:準備金が資本金の4分の1に達していない場合

まずは、基本的なパターンを見てみましょう。

前提条件

  • 資本金:2,000万円
  • 資本準備金:100万円
  • 利益準備金:300万円
  • 今回の配当額:1,000万円

ステップ1:上限キャップの計算

資本金の4分の1は「2,000万円 × 1/4 = 500万円」です。現在の準備金合計額は「100万円(資本準備金)+ 300万円(利益準備金)= 400万円」となります。したがって、積立上限までの余裕額(上限キャップ)は「500万円 − 400万円 = 100万円」です。

ステップ2:10分の1ルールの計算

配当額の10分の1は「1,000万円 × 1/10 = 100万円」です。

ステップ3:積立額の決定

ステップ1の金額(100万円)とステップ2の金額(100万円)を比較します。このケースでは同額のため、積立額は100万円となります。

計算例2:積立額が上限キャップに制限される場合

次に、上限キャップが機能するケースを見てみましょう。

前提条件

  • 資本金:4,000万円
  • 資本準備金:500万円
  • 利益準備金:400万円
  • 今回の配当額:3,000万円

ステップ1:上限キャップの計算

資本金の4分の1は「4,000万円 × 1/4 = 1,000万円」です。現在の準備金合計額は「500万円(資本準備金)+ 400万円(利益準備金)= 900万円」となります。よって、積立上限までの余裕額(上限キャップ)は「1,000万円 − 900万円 = 100万円」です。

ステップ2:10分の1ルールの計算

配当額の10分の1は「3,000万円 × 1/10 = 300万円」です。

ステップ3:積立額の決定

ステップ1の金額(100万円)とステップ2の金額(300万円)を比較し、小さい方の金額を積立額とします。したがって、今回の利益準備金の積立額は100万円となります。

剰余金の配当と利益準備金の仕訳

剰余金の配当と利益準備金の仕訳

計算方法を理解したら、次はそれを会計帳簿に記録する「仕訳」の方法を学びます。配当に関する仕訳は、「決議時」と「支払時」の2段階に分かれます。

株主総会での配当決議時の仕訳

剰余金の配当と利益準備金の積立は、株主総会での決議によって正式に決定されます。この決議が行われた時点で、会社は株主に対して配当を支払う義務を負います。

この段階ではまだ現金は支払われていませんが、会計上は取引が発生したと認識します。配当金は「未払配当金」という負債の勘定科目で計上し、配当の原資となる「繰越利益剰余金」(純資産)を、配当額と利益準備金積立額の合計分だけ減少させます。

仕訳例:配当金100万円、利益準備金積立額10万円の場合

借方 (Debit)金額貸方 (Credit)金額
繰越利益剰余金1,100,000円未払配当金1,000,000円
利益準備金100,000円

配当金を実際に支払った時の仕訳

後日、株主総会の決議に基づいて、実際に株主へ配当金を支払った際の仕訳です。配当金の支払い時には、所得税および復興特別所得税を源泉徴収する必要があります。この源泉徴収した税額は、会社が一時的に預かっているお金として「預り金」(負債)で処理します。

決議時に計上した「未払配当金」(負債)を全額取り消し(借方に計上)、実際に支払った現金と預かった税金を貸方に計上します。

仕訳例:上記の未払配当金100万円から、源泉所得税等20万円を差し引いて支払った場合

借方 (Debit)金額貸方 (Credit)金額
未払配当金1,000,000円現金預金800,000円
預り金200,000円

利益準備金の活用法:取り崩しの手続きと要件

積み立てられた利益準備金は、ただ会社に眠らせておくだけではありません。特定の条件下では、これを取り崩して活用することが認められています。ただし、法定準備金であるため、その手続きは厳格に定められています。

利益準備金を取り崩せるケース

利益準備金は、会社の都合で自由に取り崩すことはできません。取り崩しには、原則として株主総会の普通決議が必要となります。その主な目的は、以下の2つです。

  • 欠損填補(けっそんてんぽ)
    会社の累積赤字(繰越利益剰余金がマイナスの状態)を、準備金で補填することです。
  • 資本組入れ
    利益準備金を資本金に振り替えることで、会社の資本金の額を増やすことです。

これらの手続きが厳格である理由は、利益準備金の根幹にある「債権者保護」の趣旨を守るためです。準備金を取り崩すことは、債権者にとって担保となる財産が減少することを意味する可能性があります。

そのため、会社の最高意思決定機関である株主総会の承認を必須とし、安易な取り崩しに歯止めをかけているのです。場合によっては、債権者が異議を申し立てる機会を設ける「債権者保護手続き」が必要になることもあります。

ケース1:欠損填補に充てる場合

過去の事業年度で生じた赤字を解消し、貸借対照表上の純資産の部を整理して、財務状況を健全化させることが目的です。手続きとしては、株主総会の普通決議を経て、利益準備金を減らし、その分だけマイナスになっている「繰越利益剰余金」を補填します。

仕訳例:利益準備金500万円を取り崩し、繰越利益剰余金の欠損500万円を填補する場合

借方 (Debit)金額貸方 (Credit)金額
利益準備金5,000,000円繰越利益剰余金5,000,000円

ケース2:資本金に組み入れる場合

会社の信用力の指標となる資本金の額を増やすことで、対外的な信用度を高め、財務基盤をさらに強固にすることが目的です。この場合も、株主総会の普通決議が必要です。

仕訳例:利益準備金1,000万円を取り崩し、資本金に組み入れる場合

借方 (Debit)金額貸方 (Credit)金額
利益準備金10,000,000円資本金10,000,000円

利益準備金が関わる重要テーマ

利益準備金の知識は、配当計算だけでなく、より高度な財務戦略や資本政策にも関わってきます。ここでは、応用的なテーマを2つ紹介します。

配当可能額の計算と利益準備金

会社が株主に配当できる金額には、会社法で上限が定められています。これを「分配可能額」(または配当可能額)といいます。この規制も、過度な配当によって会社の財産が失われ、債権者が害されるのを防ぐためのものです。

分配可能額は、大まかに言うと、会社の純資産額から「資本金」「資本準備金」「利益準備金」などを差し引いて計算されます。これは、利益準備金が「配当することができないように法律でロックされた利益」であることを意味します。したがって、利益準備金の残高が大きいほど、株主に配当できる金額(分配可能額)は小さくなるという関係にあります。

自己株式の取得と利益準備金

会社が自社の株式を市場や特定の株主から買い戻すことを「自己株式の取得」といいます。これも、株主に対して会社の財産を払い戻す行為であるため、無制限に行うことはできず、上記の「分配可能額」の範囲内でのみ認められています。

自己株式を取得する際の対価が、その株式に対応する元々の出資額(資本金等の額)を超える場合、その超過部分は実質的に利益の分配とみなされます。これは「みなし配当」と呼ばれ、税務上も配当所得として扱われます。

この一連の取引は会社の純資産を変動させるため、利益準備金を含む分配可能額の計算に直接的な影響を与えます。会計処理は専門的なルールに従う必要があり、複雑な判断が求められます。

もし積み立てを怠ったら?会社法上の罰則

利益準備金の積立は、単なる会計上の推奨事項ではありません。会社法で定められた明確な法的義務です。もしこの義務を怠った場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

会社法違反と過料のリスク

利益準備金の積立義務は、会社法第445条に規定されています。この規定に違反して、本来積み立てるべき準備金を確保せずに行われた配当は「違法配当」とみなされます。

会社法上の義務に違反した場合、その会社の取締役などの役員に対して、会社法第976条の規定に基づき、100万円以下の過料が科される可能性があります。

過料は、罰金のような刑事罰ではありませんが、裁判所の決定によって科される金銭的な制裁であり、会社のコンプライアンス(法令順守)体制における重大な問題となります。この罰則の存在は、利益準備金制度が会社の健全な運営と債権者保護にとって極めて重要であり、必ず守らなければならない法的規範であることを示しています。

まとめ

この記事では、利益準備金の基本から応用までを網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認しましょう。

利益準備金は、会社の財産を守り、債権者を保護するための重要な「法定準備金」です。

剰余金を配当する際は、原則として「配当額の10分の1」を積み立てる必要があります。

積立額には「資本金の4分の1」という上限キャップがあり、2つのルールを比較して小さい方の額を積み立てます。

積み立てた利益準備金は、赤字を補填する「欠損填補」や「資本組入れ」に活用できますが、厳格な手続きが必要です。

このルールを正しく理解し、遵守することは、法令順守はもちろんのこと、会社の持続的な成長と社会的信用を維持するために不可欠です。利益準備金の適切な管理は、安定した会社経営の土台となります。本記事が、皆様の実務の一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

nakashima

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