
図書カードは、入学祝いや記念品、あるいはちょっとしたプレゼントとして、私たちの生活の様々な場面で活用される身近な金券です。
しかし、この図書カードの購入や使用、他人への贈答といった行為に関して、
「消費税はかかるのだろうか?」「会社の経費として計上できるのか?」など、税務上の取り扱いに疑問を持つ方は少なくありません。
特に、経理担当者や個人事業主の方にとっては、日々の業務に関わる切実な問題と言えるでしょう。
図書カードにまつわる消費税の基本的な考え方から、法人が図書カードを扱う際の経理処理、個人事業主の方が知っておくべき家事按分の方法、さらには2023年10月からスタートしたインボイス制度(適格請求書等保存方式)が図書カードの取り扱いにどのような影響を与えるのかに至るまで、税務と会計の専門家が、できる限りわかりやすく、かつ具体的に徹底解説していきます。
この記事を読めば、図書カードに関する税務上の疑問が解消され、適切な処理ができるようになるでしょう。
目次
図書カード購入時の消費税は「非課税」
まず結論から申し上げますと、書店や金券ショップなどで図書カードや一般的な商品券を購入する際、消費税はかかりません。
これは、消費税法において、図書カードや商品券などが「物品切手等」に該当し、この物品切手等の譲渡は「非課税取引」と定められているためです。
図書カード自体は、本や雑誌といった最終的な商品やサービスそのものではなく、それらと交換できる権利を表す証票と位置づけられています。
図書カードの購入が非課税とされる最大の理由は、「二重課税の防止」という考え方に基づいています。
もし、図書カードを購入する時点で消費税が課され、さらにその図書カードを使って書店で本を購入する際にも消費税が課されると、同じ価値の書籍に対して二度消費税を支払うことになってしまいます。
このような事態を避けるため、図書カードのような物品切手の「譲渡」の段階、つまり私たちがお店で購入する時点では消費税を課さないという仕組みが採用されているのです。
消費税法では、商品券、プリペイドカード、図書カード、旅行券、ビール券などが「物品切手等」として具体的に定義されており、これらの譲渡は非課税取引と明確にされています。
図書カードもこの物品切手等の一つであるため、全国の加盟書店はもちろん、金券ショップなどで購入する場合でも、消費税はかかりません。
この取り扱いは、平成元年(1989年)4月に消費税制度が導入された当初から、図書券(現在の図書カードの前身)の販売において適用されてきました。
この長年の実績は、この税務処理が安定した法的根拠に基づいていることを示しています。
ここで、「非課税」とよく似た言葉に「不課税(課税対象外)」というものがあります。どちらも結果として消費税がかからない点は共通していますが、その意味合いには違いがあります。
「非課税」とは、本来であれば消費税の課税対象となる取引であるものの、社会政策的な配慮やその他の理由から、特別に消費税を課さないこととされている取引を指します。
例えば、土地の譲渡や貸付、有価証券の譲渡、そしてここで説明している物品切手等の譲渡などがこれに該当します。
一方、「不課税」とは、そもそも消費税の課税の対象となる4つの要件(国内において、事業者が事業として、対価を得て行う、資産の譲渡等・役務の提供)のいずれかを満たさない取引、つまり消費税法の枠外の取引を指します。
例としては、国外で行われる取引、対価性のない寄附や贈与、給与や賃金の支払いなどが挙げられます。
図書カードの「購入(消費者への販売)」は非課税取引ですが、例えば図書カードの発行会社が最初に卸売業者へ図書カードを「発行」する行為は、資産の譲渡等には該当しないとして「不課税」として扱われることがあります。
また、後述しますが、個人間で図書カードを贈与する場合なども、基本的には対価を得て行う取引ではないため不課税となります。
この「非課税」と「不課税」の区別は、特に事業者の会計処理や消費税申告において重要となるため、正しく理解しておく必要があります。
図書カードで本を買うときはどうなる?消費税の取り扱い
図書カードを購入する際には消費税がかからない「非課税」であることはご理解いただけたかと思います。
では、その購入した図書カードを使って、実際に書店で本や雑誌を購入する場合には、消費税の取り扱いはどうなるのでしょうか。
この場合、購入する書籍そのものには、通常の物品と同様に消費税が課税されます。
例えば、1,000円の図書カードで税抜909円(税込1,000円)の書籍を購入する場合、書籍の価格909円に対して消費税91円(10%の場合)がかかり、合計1,000円を図書カードで支払うことになります。
つまり、図書カードはあくまで支払い手段の一つであり、書籍という「商品」の購入行為に対して消費税が発生するのです。図書カードの額面金額は、この消費税額も含めて支払うことができるように設定されています。
現金で購入する場合と何ら変わりはありません。この点は、特に事業者(法人や個人事業主)が経費として書籍を購入する場合に重要となります。
事業者が仕入税額控除(支払った消費税額を、預かった消費税額から差し引くこと)の適用を受けるためには、どの時点で「課税仕入れ」があったかを正確に把握する必要があります。
図書カードのケースでは、実際に書籍を購入した時点、つまり図書カードを使用した時点が「課税仕入れ」のタイミングとなります。
図書カードを購入した時点では、前述の通り非課税取引であるため、この段階では仕入税額控除の対象とはなりません。
実際に商品やサービスの提供を受けた時に、その対価に含まれる消費税額について控除を行うことになるのです。会計処理上、このタイミングの違いを誤ると、消費税の計算に誤りが生じる可能性があるため注意が必要です。
【ケース別】図書カードの会計処理と勘定科目

法人や個人事業主が事業活動に関連して図書カードを購入したり使用したりする場合、その目的や状況に応じて会計処理や使用する勘定科目が異なります。適切な会計処理は、正確な財務状況の把握と税務申告のために不可欠です。
1. 事業用の書籍購入目的(自己使用)
業務上必要な情報収集、調査研究、あるいは従業員の知識習得のために書籍を購入する目的で図書カードを使用した場合、その書籍代は「新聞図書費」という勘定科目で経費処理するのが一般的です。
原則的な処理としては、図書カードを購入した時点では、将来使用する権利として「貯蔵品」などの資産勘定で計上し、実際に図書カードを使って書籍を購入した際に、その金額を「貯蔵品」から「新聞図書費」へ振り替えます。
借方)貯蔵品 XXX円 / 貸方)現金預金 XXX円 (図書カード購入時)
借方)新聞図書費 YYY円 / 貸方)貯蔵品 YYY円 (書籍購入時・図書カード使用時)
ただし、実務上、購入した図書カードをすぐに全額業務用の書籍に使用することが明らかである場合などには、購入時に直接「新聞図書費」として費用処理することも行われています。
この場合でも、期末に未使用の図書カードが残っていれば、その分は「貯蔵品」に振り替える必要がある点に留意が必要です。
2. 得意先への贈答目的
取引先への感謝の印として、あるいはお中元やお歳暮などの贈答品として図書カードを贈る場合は、「接待交際費」として処理します。この場合、図書カードの購入自体は非課税取引(非課税仕入れ)となります。
借方)接待交際費 XXX円 / 貸方)現金預金 XXX円 (図書カード購入・贈答時)
消費税の仕訳では、この接待交際費は非課税仕入れとして扱います。
3. 従業員への支給目的
従業員に対して図書カードを支給する場合、その目的や性質によって会計処理が異なります。
従業員の福利厚生の一環として、例えば永年勤続表彰の記念品や社内レクリエーションの景品として図書カードを支給する場合は、「福利厚生費」として処理できることがあります。
ただし、この場合、支給される金額が社会通念上相当な範囲内であることが求められます。
借方)福利厚生費 XXX円 / 貸方)現金預金 XXX円 (図書カード購入・支給時)
一方、上記のような福利厚生目的とは認められず、実質的に給与の一部とみなされるような形で図書カードを支給する場合、
例えば通常の給与に上乗せする形で定期的・継続的に支給する場合や、特定の従業員に対して高額な図書カードを支給する場合などは、「給与手当」として扱われ、源泉所得税の課税対象となります。
借方)給与手当 XXX円 / 貸方)現金預金 XXX円 (図書カード購入・支給時)
この場合、従業員の所得として課税されるため、源泉徴収などの手続きが必要になります。
4. 期末に未使用の図書カードがある場合
図書カードを購入時に「新聞図書費」や「接待交際費」などの費用勘定で処理した場合でも、会計年度の期末(決算時)に未使用の図書カードが残っていれば、原則としてその未使用分を「貯蔵品」などの資産勘定に振り替える必要があります。
これは、費用収益対応の原則に基づき、当期の費用として計上するのは当期に使用した分のみとするためです。
借方)貯蔵品 ZZZ円 / 貸方)新聞図書費 ZZZ円 (期末振替時)
翌期首には、この「貯蔵品」を再度対応する費用勘定に振り戻す処理(再振替仕訳)を行うか、使用時に都度費用化します。
5. 【特例】図書カード購入時に課税仕入れとする処理(消費税基本通達11-3-7)
消費税の取り扱いにおいて、原則として図書カードのような物品切手は、それを使用して実際に商品やサービスの提供を受けた時点(つまり書籍を購入した時点)で「課税仕入れ」を認識します。
しかし、これには例外的な取り扱いが認められています。
消費税法基本通達11-3-7では、事業者が自ら使用する物品切手等について、継続してその物品切手等を購入した日の属する課税期間の課税仕入れとして処理している場合には、その処理が認められるとされています。
この特例を適用するための主な要件は、「自ら使用する目的で購入した物品切手等であること」と、「継続して購入時に課税仕入れとして会計処理を行っていること」です。
例えば、企業が毎期一定量の図書カードを継続的に購入し、それらを全て業務用の書籍や資料の購入に充てているようなケースが該当し得ます。
重要なのは、この特例はあくまで「自社使用分」に限られるため、得意先への贈答用として購入した図書カードには適用できません。
この処理を採用する場合、会計帳簿上は図書カードの購入時に課税仕入れとして計上することになりますが、図書カードの購入自体が非課税取引であるという事実に変わりはありません。
この特例は、あくまで課税仕入れの認識タイミングに関する実務上の便宜を図るものであり、税務署への消費税申告においては、非課税取引である物品切手の購入と、実際に図書カードを使用して行われる課税取引である書籍の購入を正確に区分し、
適切に処理する必要があります。
この特例の適用を検討する際は、その適用可否や具体的な処理方法について、事前に税理士などの専門家に相談し、指導を受けることが強く推奨されます。
以下に、図書カードの会計処理のポイントをまとめた表を示します。
図書カードの会計処理まとめ(法人・個人事業主向け)
目的 | 購入時の消費税区分 | 主な勘定科目(購入時/原則) | 主な勘定科目(使用時/贈答時) | 使用時の消費税区分(書籍等購入) | 備考 |
自社の業務資料として書籍購入 | 非課税 | 貯蔵品 | 新聞図書費 | 課税仕入れ | 購入時に新聞図書費処理も可(期末未使用分は貯蔵品へ)。通達11-3-7の特例適用の可能性あり。 |
得意先への贈答 | 非課税 | 接待交際費 | (購入時に処理済) | ― | 贈答は原則不課税。対価性があれば課税。 |
従業員への福利厚生としての支給 | 非課税 | 福利厚生費 | (購入時に処理済) | ― | 社会通念上相当な範囲。 |
従業員への給与としての支給(実質) | 非課税 | 給与手当 | (購入時に処理済) | ― | 源泉所得税の対象。 |
この表は、様々なケースにおける基本的な考え方をまとめたものです。実際の経理処理にあたっては、企業の経理方針や具体的な取引内容に応じて、適切な判断が求められます。
図書カードの贈与と税金:消費税・所得税・贈与税のポイント
図書カードを贈答品として扱う場合、贈る側と受け取る側、そしてその関係性(法人か個人か、雇用関係の有無など)によって、関わってくる税金の種類や取り扱いが異なります。
消費税、所得税、贈与税のそれぞれの観点から見ていきましょう。
1. 消費税の観点から(贈る側)
事業者が取引先などに図書カードを無償で贈答する場合、これは事業として対価を得て行う資産の譲渡等には該当しないため、原則として「不課税(課税対象外)」取引として扱われます。
図書カードの購入時は非課税で仕入れていますので、これを無償で贈答する際に改めて消費税が課されることはありません。
しかし、注意が必要なのは、図書カードが実質的に何らかのサービスや役務提供の対価として支払われるケースです。
例えば、商品購入の謝礼、アンケート協力の報酬、紹介手数料などとして図書カードを渡す場合、これは単なる贈答ではなく、提供されたサービスに対する支払いとみなされる可能性があります。
この場合、提供されたサービスが消費税の課税対象であれば、その対価として支払う図書カードの額面相当額も、支払い側にとっては課税仕入れ(相手方が役務提供を行う事業者であれば、その事業者にとっては課税売上)として認識する必要が生じます。
名目上は「贈答」や「謝礼」であっても、実態として対価性があるかどうかで消費税の取り扱いが変わる点に留意が必要です。
2. 所得税・贈与税の観点から(受け取る側)
図書カードを受け取った個人には、誰から、どのような状況で受け取ったかによって、所得税または贈与税が課される可能性があります。
法人から個人へ贈与された場合
従業員が勤務先の法人から図書カードを受け取った場合、その性質によって「給与所得」または「一時所得」として所得税の課税対象となることがあります。
例えば、創立記念や永年勤続表彰などで支給される記念品が社会通念上相当と認められる金額の範囲内であれば非課税となることもありますが、それを超える場合や、賞与(ボーナス)的な性格で支給される場合は「給与所得」として扱われます。
また、法人が主催する懸賞やキャンペーンなどで当選して図書カードを受け取った場合は、「一時所得」に該当することが一般的です。
一時所得には、年間の合計額に対して最高50万円の特別控除額が設けられています。したがって、他の一時所得と合算して年間50万円以下であれば、実質的に所得税はかかりません。
個人から個人へ贈与された場合
親から子へ、あるいは友人同士など、個人間で図書カードが贈与された場合、受け取った側には「贈与税」が課される可能性があります。
贈与税には、1年間(1月1日から12月31日まで)に受けた贈与の合計額に対して110万円の基礎控除があります。そのため、その年に受け取った財産の価額の合計(図書カードの額面も含む)が110万円以下であれば、贈与税の申告も納税も必要ありません。
ただし、扶養義務者からの生活費や教育費として通常必要と認められる範囲の金品の贈与は、贈与税の対象外となる場合がありますが、図書カードがこれに該当するかどうかは、その金額や使途、贈与の状況などを総合的に勘案して判断されます。
例えば、入学祝いとして社会通念上相当な金額の図書カードを贈る程度であれば問題ないことが多いでしょう。
懸賞やキャンペーンで個人が受け取った場合
個人が企業(法人)の行う懸賞や福引き、アンケート謝礼などで図書カードを受け取った場合は、上記「法人から個人へ贈与された場合」と同様に、原則として「一時所得」として所得税の対象になります。
これも年間50万円の特別控除が適用されます。
3. 受け取った図書カードの会計処理(法人が受け取った場合)
法人が取引先などから図書カードを無償で受け取った場合、これは収益として認識する必要があります。
一般的には「雑収入」などの勘定科目で処理します。この場合の消費税区分は、原則として対価性のない贈与であれば「不課税」となります。
もし相手方が何らかの対価として図書カードを支払った(そしてその取引が非課税取引に該当するなど特殊なケース)場合は、状況に応じて非課税売上などとして処理することもあり得ますが、無償の贈答であれば不課税が基本です。
このように、図書カードの贈答は、贈る側と受け取る側、それぞれの立場や状況によって税務上の取り扱いが多岐にわたるため、注意深い判断が求められます。
インボイス制度と図書カード:知っておくべき注意点
2023年10月1日から本格的に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、事業者の消費税の仕入税額控除のあり方に大きな変更をもたらしました。
この新しい制度は、図書カードの取り扱いにもいくつかの影響を与えますので、事業者は注意点を理解しておく必要があります。
1. 図書カード購入時はインボイス不要
まず基本的な点として、図書カードの購入は消費税法上の「非課税取引」に該当します。
インボイス制度は課税取引に関するものであるため、非課税取引である図書カードの購入時には、インボイス(適格請求書)の交付を受ける必要はありませんし、書店側も発行する義務はありません。
これは、図書カードの購入が仕入税額控除の対象外の取引であるためです。
2. 図書カード使用時はインボイスが必要(原則)
事業者が図書カードを使用して書籍や雑誌などの課税仕入れ(事業に必要な物品の購入)を行い、その際に支払った消費税額について仕入税額控除を受けようとする場合には、
原則として、その書籍等を販売した書店(その書店が適格請求書発行事業者である場合に限ります)からインボイスの交付を受け、それを保存する必要があります。
図書カード自体は非課税でも、それを使って購入する書籍は課税対象であるため、この書籍の購入が課税仕入れに該当し、インボイスが必要となるわけです。
3. 物品切手等の「回収特例」について
インボイス制度には、物品切手等に関する特例措置が存在します。
これは、物品切手等が役務の提供または商品の引換えの際に、その物品切手の発行者または発行者以外の第三者(例えば、商品を販売する小売店)によって回収される場合に、
一定の要件を満たせば、購入者がその物品切手等を購入した際に発行事業者等から受け取ったインボイス(または簡易インボイス)の保存をもって、物品切手等を使用した際の仕入税額控除が認められるというものです。
これは「回収特例」などと呼ばれることがあります。
具体的には、事業者が図書カードをその発行者や特定の販売チャネルから直接購入し(この購入時にインボイスが発行されることが前提)、その図書カードが書籍との引換時に書店(適格請求書発行事業者である必要があります)によって回収される場合、図書カードの「購入時」に受け取ったインボイス(購入金額が記載されたもの)と、帳簿への一定事項の記載により、仕入税額控除が認められることがあります。
この特例が適用される場合、課税仕入れに係る支払対価の額は、実際に引換えた書籍の店頭価格ではなく、その図書カードの「購入に要した金額」となります。
ただし、この回収特例の適用要件は複雑であり、図書カードがどのように流通し、誰から購入し、どのように回収されるかといった具体的な取引フローによって条件が異なります。
全ての図書カード取引に適用できるわけではないため、この特例の利用を検討する場合は、事前に税務署や税理士に詳細を確認することが不可欠です。
4. 従業員が会社の図書カードで購入した場合のインボイス処理
会社が従業員に業務用の書籍購入のために図書カードを支給し、従業員がそれを使用して書籍を購入した場合、インボイスの宛名は原則として会社名(購入者である事業者名)である必要があります。
しかし、実務上、レジで従業員個人の名前でレシート(簡易インボイスを含む)が発行されることもあります。
このような場合、従業員が経費を立替払いした際の処理に準じて対応することが考えられます。
つまり、従業員宛のインボイス(またはレシート形式の簡易インボイス)と、会社が作成または従業員に作成させる立替金精算書等を組み合わせて保存することにより、
会社の仕入税額控除が認められる場合があります。この立替金精算書には、従業員が会社の業務のために購入したものであること、購入した品目、金額、日付などを明記し、インボイス(レシート)を添付する形になります。
会社は、従業員からこれらの書類の提出を受け、適切に保存・処理する体制を整える必要があります。
5. 3万円未満の取引とインボイス
インボイス制度では、一部の取引について、請求書等の交付を受けることが困難なため、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例があります。
例えば、3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(電車代など)や、自動販売機からの購入などがこれに該当します。しかし、通常の書店での書籍購入は、
これらの特例には該当しないため、購入金額が3万円未満であっても、原則としてインボイスの保存が必要となります。
インボイス制度はまだ始まったばかりであり、実務上の判断に迷うケースも出てくるでしょう。図書カードに関連する処理についても、不明な点は税務署や税理士に確認することが賢明です。
個人事業主必見!図書カードと経費の家事按分

個人事業主の方が事業運営のために書籍や資料を購入する際、図書カードを利用することもあるでしょう。その購入した書籍が、事業目的のみに使用される場合は問題なく全額を経費(通常は「新聞図書費」)として計上できます。
しかし、その書籍が事業用と私的な目的の両方を兼ねる場合には、「家事按分(かじあんぶん)」という考え方が必要になります。
家事按分とは、一つの支出の中に事業遂行上必要な部分と家事上の部分(私的な部分)が混在している場合に、その支出のうち事業に必要な部分を合理的な基準で区分し、その部分のみを経費として計上する手続きのことです。
例えば、自宅兼事務所の家賃や水道光熱費、通信費などが代表的な家事按分の対象ですが、書籍代についても同様の考え方が適用されることがあります。
具体例としては、フリーランスのデザイナーがデザイン技術の専門書を図書カードで購入し、その知識を仕事のスキルアップに役立てると同時に、個人の趣味としての創作活動にも活かすようなケースが考えられます。
この場合、書籍代の全額を事業経費とすることはできず、事業に使用する割合に応じて按分計算し、事業相当分のみを新聞図書費として計上します。
家事按分の具体的な方法
1. 使用割合や目的で按分
最も一般的なのは、購入した書籍の内容や実際の使用実態に応じて、事業用と私用の割合を合理的に設定する方法です。
例えば、「この専門書の内容のうち、約70%は現在の請負業務に直接関連する知識であり、残りの30%は将来的な趣味の活動や一般的な知識習得のため」といった具体的な根拠に基づいて按分割合を決定します。
2. 冊数や金額で按分
複数の書籍をまとめて図書カードで購入した場合で、それぞれの書籍が明確に事業用か私用かを区分できるのであれば、事業用と判断できる書籍の購入金額(または冊数)の合計と、私用と判断できるものの購入金額(または冊数)の合計を分け、事業用部分の金額のみを経費として計上します。
按分割合の算定基準のポイント
客観性と合理性
按分割合の算定基準は、税務調査などで質問された際に、なぜその割合にしたのかを客観的かつ合理的に説明できるものである必要があります。単に「なんとなく半分」といった曖昧な基準ではなく、具体的な根拠を持つことが重要です。
記録の保存
按分の根拠とした資料(例えば、業務日誌に使用した書籍名と業務内容を記録したもの、書籍の目次や内容から事業関連部分を特定したメモなど)を保管しておくことが望ましいです。
継続性
一度採用した按分基準は、事業の実態に大きな変化がない限り、継続して適用することが原則です。
帳簿への記載例
例えば、図書カード1,000円分で書籍を購入し、事業用として60%、私用として40%と家事按分する場合の仕訳例です(図書カード購入時に現金支払い、書籍はすぐに使用開始したと仮定)。
(図書カードで書籍購入時)
借方)新聞図書費 600円 / 貸方)現金 1,000円
借方)事業主貸 400円 /
「事業主貸」は、個人事業主が事業用の資金を私的に使用した際に用いる勘定科目です。この仕訳は、支払った1,000円のうち、事業経費となるのは600円であり、残りの400円は私的な支出であることを示しています。
もし図書カードを購入した時点で一旦「貯蔵品」として資産計上している場合は、使用時に貯蔵品を取り崩し、上記と同様に新聞図書費と事業主貸に按分します。
重要なのは、どのような仕訳方法を採用するにしても、事業経費と家事費(私的費用)を明確に区分し、その根拠を説明できるようにしておくことです。
注意点
事業に直接関連しない、純粋な趣味や娯楽のための書籍購入費用は、全額経費にできません。
医師、弁護士、税理士といった、いわゆる業務独占資格の取得に関連する書籍代については、たとえその資格が事業運営に役立つものであっても、個人的な能力の向上や資格取得そのものにかかる費用とみなされ、事業の経費として認められない場合があります。
この点は、一般的なスキルアップのための書籍代とは取り扱いが異なる可能性があるため、注意が必要です。判例などでも、司法修習生の書籍代が一部必要経費と認められたケースはありますが、個別の状況によります。
個人事業主にとって家事按分は手間がかかる作業かもしれませんが、適正な経費計上と税務申告のためには避けて通れない重要なプロセスです。不明な点は税理士に相談することをお勧めします。
図書カードの種類と使い方:図書カードNEXTを中心に
長年にわたり多くの人に利用されてきた図書カードですが、実はいくつかの種類が存在し、時代とともにその形態や機能も進化してきました。
ここでは、主な図書カードの種類とその特徴、特に現在主流となっている「図書カードNEXT」の使い方について詳しく見ていきましょう。
1. 図書券(紙製)
かつて最も一般的だったのが、紙製のギフト券タイプの「図書券」です。ミシン目で切り離して使用する綴り式のものや、一枚ものの券もありました。
図書券は一度使用すると書店で回収される形式で、お釣りは出ないか、あるいは少額の場合は現金で返されることもありました。
驚くことに、過去に発行されたこれらの図書券には有効期限が設定されておらず、現在でも使用可能なものが存在します。ただし、利用できるのは全国の加盟書店の実店舗のみで、オンライン書店での利用はできません。
2. 磁気図書カード
図書券に代わって登場したのが、テレホンカードのような磁気ストライプ式の「図書カード」です。書店に設置された専用のカード読み取り機(リーダーライター)に通すことで、利用金額分がカード残高から減額される仕組みでした。
カードにパンチ穴が開くことで使用済みであることを示すタイプもありました。
この磁気図書カードも、図書券と同様に有効期限はなく、現在でも加盟書店の店頭で利用可能です。しかし、オンライン書店での利用はできません。残高を確認するには、基本的には店頭の読み取り機で確認してもらう必要がありました。
3. 図書カードNEXT(QRコード式)
そして、現在発行されている主流の図書カードが「図書カードNEXT」です。これは2016年6月から発行が開始された、新しいタイプの図書カードです。
- 特徴
カード裏面に印刷されたQRコードを書店のレジで読み取ってもらうことで支払いを行います。従来の磁気カードのようにカードリーダーに通したり、パンチ穴が開いたりすることはありません。 - 有効期限
図書カードNEXTには有効期限が設定されており、カード裏面またはネットギフトの場合は画面上に明記されています。
この有効期限は発行日から約10年間です。古い図書券や磁気カードが無期限だったのに対し、これは大きな変更点です。 - 残高・利用履歴確認
図書カードNEXTの大きなメリットの一つが、残高や利用履歴をオンラインで簡単に確認できる点です。
カード裏面に記載されている「ID番号」と「PIN番号」(スクラッチで隠されています)を使用して、
スマートフォンやパソコンから専用サイトにアクセスすることで、いつでも残高、利用日時、利用金額、そしてカードタイプの場合は利用した書店名まで確認できます。 - オンライン書店での利用
図書カードNEXTのもう一つの大きな特徴は、多くのオンライン書店での支払いに利用できるようになったことです。
オンライン書店で利用する際は、支払い方法選択画面で図書カードNEXTを選び、カードに記載のID番号とPIN番号を入力して決済します。一部のオンライン書店では、紙の書籍だけでなく電子書籍の購入にも利用可能です。
利用可能な主なオンライン書店としては、紀伊國屋書店ウェブストア(および電子書籍アプリKinoppyのAndroid版)、honto、楽天ブックス、BOOK☆WALKER などが挙げられます。
ただし、Amazonの公式サイトでは、現在のところ図書カードNEXTを直接利用することはできないようです。Amazonには独自の「Amazon図書商品券」というサービスがありますが、これは図書カードNEXTとは異なるものです。- 楽天ブックスでの使い方: 楽天ブックスで図書カードNEXTを利用する場合、購入手続きの支払い方法選択画面で「図書カードNEXT利用」を選び、ID番号とPIN番号を入力します。
紙の書籍の購入に利用でき、楽天ポイントの併用や獲得も可能です。ただし、楽天Koboの電子書籍については利用できないという情報もありますので、購入前に確認が必要です。 - hontoでの使い方: hontoでは、支払い方法で図書カードNEXTを選択し、ID番号とPIN番号を入力すると、
図書カードNEXTの残高がhontoポイントに1円=1ポイントのレートで交換され、そのポイントを使って支払いを行う形式となります。 - 紀伊國屋書店ウェブストア/Kinoppyでの使い方: 紀伊國屋書店のウェブストアおよび電子書籍アプリKinoppy(Android版のみ対応、iOS版はウェブストア経由)で、
ID番号とPIN番号を入力することで利用できます。
- 楽天ブックスでの使い方: 楽天ブックスで図書カードNEXTを利用する場合、購入手続きの支払い方法選択画面で「図書カードNEXT利用」を選び、ID番号とPIN番号を入力します。
- 図書カードネットギフト
図書カードNEXTには、物理的なカード形態のものの他に、「図書カードネットギフト」というデジタル版も存在します。
これは、メールやSNSなどを通じてURLの形で贈ることができるため、遠隔地の相手にも手軽にプレゼントできます。受け取った側は、送られてきたURLからQRコードを書店のレジで提示して利用するか、
記載されたID番号とPIN番号をオンライン書店の決済画面で入力して利用します。
以下に、図書カードの種類と主な特徴を比較した表を掲載します。
図書カードの種類と特徴比較
種類 | 形態 | 主な発行時期 | 有効期限 | オンライン利用 | 残高確認方法 | 備考 |
図書券 | 紙製 | ~2005年頃 | なし | 不可 | 券面に記載(使用後は回収) | 現在も使用可(店頭のみ) |
磁気図書カード | 磁気カード | 1990年~2016年頃 | なし | 不可 | 店頭の専用読取り機 | 現在も使用可(店頭のみ) |
図書カードNEXT | QRコード | 2016年~現在 | 約10年 | 可 | オンライン(ID・PIN入力)、店頭読取り機 | スマホで残高・履歴確認可 |
図書カードネットギフト | デジタル | 2018年~現在 | 約10年 | 可 | オンライン(ID・PIN入力、QRコード表示画面) | メールやSNSで贈れる。 QRコードを店頭提示、またはID・PINをオンライン入力 |
このように、図書カードはその利便性を高めながら進化を続けています。特に図書カードNEXTはオンラインでの利用範囲が広がり、残高管理もしやすくなったため、利用者にとってはより使いやすいものとなっています。
ただし、有効期限が設定された点は、従来のカードに慣れている方にとっては注意が必要です。
まとめ
この記事では、「図書カード 非課税」というキーワードを軸に、図書カードにまつわる消費税の基本的な取り扱いから、法人の経理処理、個人事業主の家事按分、贈与の際の税務、そしてインボイス制度との関連性まで、幅広く解説してきました。
重要なポイントを改めて整理すると、以下のようになります。
まず、図書カードの「購入」は消費税の「非課税」取引です。これは、図書カードが最終的な商品ではなく、商品と交換できる権利(物品切手等)であるため、二重課税を避けるための措置です。
しかし、その図書カードを使って実際に書籍などを「購入」する際には、その書籍に対して通常通り消費税が「課税」されます。この「購入時非課税、使用時課税」という原則を理解することが基本となります。
次に、法人や個人事業主が図書カードを事業で扱う場合、
その購入目的(自己の業務資料用、得意先への贈答用、従業員への福利厚生や給与としての支給など)によって、会計処理で使用する勘定科目(新聞図書費、接待交際費、福利厚生費、給与手当など)や税務上の取り扱いが大きく異なります。
特に、消費税基本通達11-3-7に基づく購入時の課税仕入れ計上の特例や、期末に未使用の図書カードがある場合の貯蔵品への振り替え処理など、専門的な知識が求められる場面も存在します。
図書カードを贈与する場合も複雑です。贈る側(特に事業者)にとっては、それが純粋な贈答なのか、何らかの対価性を持つものなのかによって消費税の扱いが変わります。
受け取る側にとっては、誰から(法人か個人か)、どのような名目で受け取ったかによって、所得税(給与所得や一時所得)や贈与税の対象となる可能性があります。
2023年10月から始まったインボイス制度は、事業者が仕入税額控除を受けるためのルールを大きく変えました。図書カードの購入自体は非課税なのでインボイスは不要ですが、
図書カードを使用して事業用の書籍などを購入し、仕入税額控除を受けたい場合には、原則としてその書籍販売店からインボイスを入手・保存する必要があります。
物品切手の回収特例といった例外的な規定もありますが、
まずは原則をしっかりと理解しておくことが肝要です。
個人事業主の方にとっては、事業と私用の両方に使う可能性のある書籍を図書カードで購入した場合の家事按分が重要なテーマとなります。
事業経費として認められるのは事業遂行に直接必要な部分のみであり、その按分割合には客観的で合理的な基準設定が求められます。
最後に、図書カードの種類も、従来の図書券や磁気カードから、QRコード式の「図書カードNEXT」へと進化し、オンライン書店での利用や残高確認の利便性が大幅に向上しました。
一方で、図書カードNEXTには約10年間の有効期限が設定されているなど、種類ごとの特徴を正しく把握しておくことも大切です。
図書カードは身近な存在ですが、その税務・会計処理は意外と奥が深いものです。この記事が皆様の疑問解消の一助となれば幸いですが、
個別の具体的な取引に関する税務上または会計上の判断に迷う場合には、自己判断せずに税理士などの専門家に相談することを強くお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、より安全かつ適切な処理を行うことができるでしょう。
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