仕訳帳や総勘定元帳といった会計帳簿には、摘要と呼ばれる欄が設けられています。この欄にはどのような内容を記載すればいいのでしょうか。摘要の書き方や注意点などについてわかりやすく解説します。
目次
摘要の読み方、意味、使われ方
摘要の読み方や意味などについて紹介します。
読み方と意味
摘要(てきよう)とは、辞書では「重要な箇所を抜き書きすること」などと紹介されています。会計においての摘要とは、ビジネスで発生したお金の流れをわかりやすく記録するために記入する欄のことです。取引先や店舗の名前、売り上げた商品名など、金額や勘定科目では読み取れない情報について記載します。
摘要欄は、経理業務で用いる仕訳帳や総勘定元帳といった帳簿のほか、売上伝票・出金伝票といった伝票などに設けられています。
主な使われ方
- 会計ソフトを入力する際は、摘要も忘れずに入力してください
- 仕入の詳細については摘要欄をご覧ください
- 仕訳についての補足事項を、摘要に入力しておきました
「概要」や「備考」との違い
ビジネスシーンでは「概要」や「備考」といった言葉を書類の項目名に用いることもあります。それぞれの言葉の意味を整理すると、以下のようになります。
- 概要:文書の大まかな主旨
- 備考:参考のために補足的に記載する情報
概要・備考と摘要は一見どれも同じような意味に思えますが、上記のような違いがあるため、使い分けに注意しましょう。
帳簿に摘要を記述する目的
摘要を記述する目的を3つのポイントから解説します。
取引内容をわかりやすく記載するため
経理業務を行う上では、ビジネスにおける取引をわかりやすく記録する必要があります。帳簿に記載する情報には日付・勘定科目・金額がありますが、それだけでは帳簿を見返した時に、どのような取引だったか認識することは難しいでしょう。
例えば、7月1日に○○株式会社から商品Aを10万円分、現金で仕入れたとします。摘要欄がないと、以下のような仕訳になります。
7月1日 | 借方 | 貸方 |
仕入 100,000 | 現金 100,000 |
これだけでも間違いではありませんが、具体的にどのような仕入を行ったのか伝わってきません。誰が見てもわかりやすいよう、摘要に「○○株式会社 商品A」などと記載するのが望ましいでしょう。
特定の控除を受ける税法のルールに従うため
仕入税額控除(売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を差し引くことで、消費税の納付額を抑えられる制度)を利用するためには、消費税法で定める要件を満たす必要があります。
例えば、課税事業者が仕入税額控除の適用を受けるためには、取引相手の氏名または名称・取引年月日・取引内容・金額などを帳簿に記載します(課税仕入れの場合)。これらの要件を満たすためには、摘要に情報を記載することになります。
参照:No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項|国税庁
税務調査など、第三者のチェックに対応するため
税務調査が入った際は、提出した決算書が正しく作成されているかどうか、帳簿や書類(請求書や領収書など)を元に調査されることになります。
その際に、帳簿に日付・勘定科目・金額といった情報しか記入されていないと、調査官が取引内容を把握しにくくなってしまうでしょう。調査を行うために、取引内容の説明や、別の追加資料の提出を求められることもあります。
それらにうまく対応できなければ、調査が長引いたり、調査官によくない印象を与えたりして、自身に不利に働く可能性もあります。
帳簿の摘要欄に記入する内容
摘要の書き方を具体例とともに紹介します。
売上に関して
帳簿に売上を記載する際は、摘要に取引先や顧客の名称、商品名・数量・単価などを記載するといいでしょう。
<例>○○株式会社へ商品A(単価1,000円)を10個、計1万円分を後払いで販売した場合
借方 | 貸方 | 摘要 |
売掛金 10,000 | 売上 10,000 | ○○株式会社に商品A(1,000円)を10個売上 |
飲食店や小売店、美容室のようにさまざまな方が訪れる業種では、顧客の取引を1件ずつ反映することはむずかしいでしょう。その場合は、1日の業務が終わった後でレジを締めて、その日の売上の合計額を以下のようにまとめて記載します。
<例>7月1日の現金売上が10万円だった場合
借方 | 貸方 | 摘要 |
現金 100,000 | 売上 100,000 | 7/1売上分 |
経費に関して
経費を支払った際は、支払い先や購入品などを摘要に記入します。
<例>○○文具店にて、コピー用紙を1万円分現金で購入した場合
借方 | 貸方 | 摘要 |
消耗品費 10,000 | 現金 10,000 | ○○文具店、コピー用紙 |
また、打ち合わせなどのために電車やタクシーなどを使った場合、乗り降りした駅名や、タクシー会社の名前などを記載しましょう。
<例>取引先への訪問のため、電車代500円を現金で支払った場合
借方 | 貸方 | 摘要 |
旅費交通費 500 | 現金 500 | ○○駅〜○○駅 ○○株式会社に訪問 |
消費税に関して
前述した通り、消費税の仕入税額控除を受けるためには帳簿に以下の情報を記載する必要があります。
- 取引相手の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 金額
このうち、取引年月日と金額に関しては、帳簿の所定の欄に情報を入力すれば構わないでしょう。しかし、取引相手の氏名または名称・取引内容については基本的に専用の欄がないため、摘要欄に情報を記入することになります。
また、軽減税率の対象の商品が含まれる場合、その旨も記載するよう定められています。現在の法制度に対応した会計ソフトでは10%・8%といった税率を選択できるようになっています。画面に従って設定することで仕入税額控除の要件に対応できることがほとんどです。
参照:No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項
帳簿の摘要欄を記載する際の注意
摘要欄に記入する際に押さえておきたいポイントを紹介します。
情報が多すぎないようにする
摘要は取引の内容を具体的に記載することが重要ですが、長々と記載する必要はありません。また、入力できる文字数に制限が設けられていることもあります。そのため、摘要欄には必要な情報を簡潔に記載することが望ましいでしょう。
例えば、コンビニで文房具を購入した際に「○○ストア ○○駅北口店 打ち合わせのため文房具を購入」などとまで記載する必要はありません。「○○ストア 文房具」と簡潔に記載すれば構わないでしょう。
空欄を残さない
摘要にはできるだけ何かしらの情報を記載することが一般的です。何も書かれていないと、あとで振り返った時にどのような取引であったのかわかりにくくなってしまいます。また、税務調査の際に調査官がレシートや請求書と付け合わせようとしても、なかなか仕訳を特定できず、時間がかかってしまうかもしれません。
したがって、摘要欄には相手の名前や取引内容などを忘れずに記載するようにしましょう。
第三者が見てもわかるように正確に書く
帳簿は自分だけではなく、他の人が見ても意味が伝わるように記載することが大切です。上司や後任の経理担当者・税務調査の調査官などが見ても、取引の内容が把握しやすいことを意識しながら記載するといいでしょう。
軽減税率に注意する
現在は標準税率10%と軽減税率8%が混在していますが、これらの税率も把握した上で帳簿に記録していく必要があります。具体的には、仕入税額控除の適用を受けるためには、軽減税率の対象の取引はその旨を明記するものと定められています。
毎回「軽減税率対象商品」などと記載するのが大変という場合は、帳簿の摘要欄に「※」を記入したものは軽減税率の対象であるといったルールを定めて、運用することも可能です。
なお、会計ソフトでは税率の項目がすでに用意されているため「10%」や「8%(軽)」といった選択肢を選ぶことで対応することとなります。
参照:No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項
インボイス制度の導入に注意する
インボイス制度とは、仕入税額控除を受けるために、規定の事項が記載された「適格請求書」を求める制度です。しかし、不特定多数の人が利用する公共交通機関などについては、3万円未満の取引において、適格請求書の交付義務が免除されるなどの規定も設けられています。
これまでも解説してきた通り、仕入税額控除を受けるためには以下の事項を帳簿に記入する必要があります。
- 取引相手の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 金額
しかし、適格請求書の交付義務が免除されるものに関しては、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる代わりに、その旨を記載することになります。例えば、公共交通機関の利用のために3万円未満の運賃を支払い、かつ適格請求書がない場合、摘要欄に「3万円未満の鉄道料金」と記載するなどです。
インボイス制度で求められる規定を満たさなければ、仕入税額控除ができず、課税事業者の税負担が増すリスクも考えられます。公的機関のホームページや資料などをよく確認し、適切に対応を行いましょう。
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領収書や請求書などの摘要欄の役割
本項では、領収書や請求書といった書類における摘要欄の役割、書き方などについて紹介します。
領収証の場合
領収書では、どのような取引のために金銭を支払ったのかを伝えるため、摘要(但し書き)の欄に取引内容を記載することが一般的です。
例えば、花を購入した場合は「お花代として」、本を購入する場合は「書籍代として」などの記載方法があります。これらの情報は経理業務で摘要欄を記入する際にも役立ちます。
請求書の場合
請求書は、対象となる商品の商品名や単価・個数などを記入する欄や、請求金額などを記載する欄などで成り立ちます。摘要欄はありませんが、何か記載したい情報があれば、備考欄を使うことができます。
請求書の備考欄に書く内容として、振込に関する補足事項などがあります。以下は備考欄に書くことの多い内容の例です。
- お支払いは以下の口座へお願いいたします
- お支払い期限は20○○年○月○日までとさせていただきます
- 振込手数料は御社ご負担でお願いいたします
見積書の場合
見積書は、対象となる商品の内訳や見積金額などを記載して相手に商品の注文を促すものですが、大まかな内容は請求書とほとんど同じです。したがって、見積書にも摘要欄はありませんが、見積もりにあたって何か伝えたい事項があれば備考欄に記載します。
- 見積書の有効期限は20○○年○月○日までとさせていただきます
- 納期はご注文から○○日を予定しております
- 振込手数料は御社ご負担でお願いいたします
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まとめ
各帳簿の摘要欄は、取引内容をわかりやすく記録するのはもちろん、課税事業者が仕入税額控除を受けるための要件を満たすためにも用いられます。単なるメモ欄のように使うのではなく、第三者が見てもわかりやすい帳簿を作成することを意識しながら記載することが大切です。
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