
法人税の負担を軽減しながら、社員の士気を劇的に高め、会社全体の生産性を向上させる方法があるとしたら、知りたくはありませんか。多くの経営者が頭を悩ませる「税金」と「人件費」のバランスを最適化する鍵が「決算賞与」にあります。
この記事を最後まで読めば、「決算賞与」という強力な経営ツールを、税務リスクをコントロールしながら戦略的に活用する方法を具体的に理解できます。
決算賞与の基本から、節税効果を最大化するための厳格なルール、さらには従業員の手取り額計算や退職時の注意点まで、網羅的に解説します。
「資金繰りが悪化しないか」「税務調査で否認されたらどうしよう」といった不安も、本記事で示す具体的な手順と注意点を守れば、確実に解消できます。企業の利益を成長の原動力に変えるための、確かな知識を身につけていきましょう。
目次
決算賞与の基礎知識
決算賞与を効果的に活用するためには、まずその性質を正確に理解することが不可欠です。通常のボーナスとは何が違うのか、いつ支給されるものなのか、基本的なポイントを押さえましょう。
決算賞与とは会社の利益を社員に還元する仕組み
決算賞与とは、企業がその事業年度の業績、特に利益が好調だった場合に、従業員に対して臨時的に支給する賞与のことです。企業によっては「臨時賞与」「特別賞与」「年度末賞与」といった名称で呼ばれることもあります。
その主な目的は、事業年度の終わりに確定した利益の一部を、企業の成長に貢献した従業員へ還元することにあります。従業員の頑張りに報いることで、会社への貢献意欲を高める重要な役割を担っています。
決算賞与と夏・冬のボーナスの比較
決算賞与と、一般的に夏と冬に支給される通常の賞与(ボーナス)は、似ているようで性質が大きく異なります。主な違いは「支給時期」と「支給額の決定根拠」の2点です。
通常の賞与は、多くの企業で慣例として年に1回や2回、定例的に支給されます。一方で決算賞与は、あくまでその年度の業績に応じて支給の有無が決まる臨時的なものであり、業績が悪ければ支給されないことも珍しくありません。法的な支給義務はどちらにもありませんが、この「定例的か、臨時的か」という点が大きな違いです。
決算賞与
- 支給義務: なし(業績が良ければ支給)
- 支給時期: 決算後(事業年度終了の翌日から1ヶ月以内が一般的)
- 支給額の根拠: 会社全体の業績・利益に基づいて決定
- 支給対象: 全従業員が対象となるのが一般的
通常の賞与(ボーナス)
- 支給義務: なし(ただし就業規則等で慣例化)
- 支給時期: 夏・冬など定例の時期(年1〜2回)
- 支給額の根拠: 個人の人事評価や基本給に基づいて決定
- 支給対象: 全従業員が対象となるのが一般的
決算賞与はいつまでもらえるか
決算賞与が支給される時期は、税務上のルールと密接に関係しています。原則として、事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に支給されます。このタイミングで支給する最大の理由は、支給額をその事業年度の経費(損金)として計上し、法人税の節税効果を得るためです。
例えば、3月末が決算日の企業であれば4月30日まで、9月末決算の企業であれば10月31日までに支給するのが一般的です。この支給時期は、従業員の希望ではなく、企業の税務戦略によって決定されるという点を理解しておくことが重要です。
決算賞与を支給するメリットとデメリット
決算賞与の導入は、企業経営に多大な影響を与えます。節税という直接的な財務メリットだけでなく、組織全体に及ぼす効果と、それに伴うリスクを天秤にかけ、慎重に判断する必要があります。
メリット1:最大の目的「節税効果」の仕組み
決算賞与を支給する最大のメリットは、法人税等の節税効果です。決算賞与として従業員に支払った金額は、一定の要件を満たすことで会社の経費、すなわち「損金」として会計処理できます。
法人税は、会社の利益(所得)に対して課税されます。所得は「益金(収益)- 損金(費用)」で計算されるため、損金が増えれば課税対象となる所得が減少し、結果として法人税、法人住民税、法人事業税の納税額を抑えることができるのです。
具体的にシミュレーションしてみましょう。
- 前提条件
- 課税所得(利益):1,000万円
- 法人税率(実効税率):35%と仮定
- 決算賞与を支給しない場合
- 納税額:1,000万円×35%=350万円
- 300万円の決算賞与を支給した場合
- 課税所得:1,000万円−300万円=700万円
- 納税額:700万円×35%=245万円
このケースでは、300万円を決算賞与として支給することで、105万円もの節税が実現します。予想以上に利益が出た年度において、納税額を圧縮するための有効な手段となります。
メリット2:社員のモチベーション向上と組織の活性化
決算賞与は、会社の利益を従業員に直接還元する分かりやすい仕組みです。これにより、従業員は自らの頑張りが会社の利益に繋がり、正当に評価されたと実感できます。この満足感が、仕事に対するモチベーションを大幅に向上させるのです。
従業員のモチベーション向上は、単に個人のやる気を引き出すだけでなく、組織全体の生産性向上や、会社への帰属意識(エンゲージメント)の強化にも繋がります。結果として、優秀な人材の離職率低下も期待でき、企業の持続的な成長に貢献します。
メリット3:採用力強化と企業のイメージアップ
決算賞与を支給しているという事実は、社外に対してもポジティブなメッセージを発信します。「利益をきちんと従業員に還元する優良企業」というイメージは、企業のブランド価値を高めます。
特に採用活動においては、この点は大きなアピールポイントとなります。給与や通常の賞与に加えて、業績に応じた還元があることは、求職者にとって非常に魅力的です。優秀な人材を惹きつけ、採用競争において優位に立つための一助となるでしょう。
デメリットと対策:キャッシュフローの悪化と「黒字倒産」のリスク
決算賞与の支給は、メリットばかりではありません。最も注意すべきデメリットは、手元の現金(キャッシュ)が減少することによるキャッシュフローの悪化です。節税効果があるとはいえ、賞与を支払うためには当然ながら原資となる現金が必要です。
特に警戒すべきは、決算賞与の支給時期(決算後1ヶ月以内)と、法人税等の納税時期(決算後2ヶ月以内)が非常に近いことです。例えば3月決算の会社が4月末に決算賞与を支給した場合、その約1ヶ月後の5月末には法人税等の納付期限が到来します。
無計画に多額の賞与を支給した結果、納税資金が不足し、資金繰りが一気に悪化する可能性があります。利益が出ているにもかかわらず資金がショートする「黒字倒産」のリスクもゼロではありません。
対策としては、必ずキャッシュフロー計算書や資金計画表を作成し、賞与支給後も納税や運転資金に支障が出ないか、事前にシミュレーションすることが不可欠です。
デメリットと対策:従業員の過度な期待とその管理方法
もう一つのデメリットは、従業員の期待値をコントロールする難しさです。一度決算賞与を支給すると、従業員は「来年ももらえるもの」と無意識に期待してしまう傾向があります。しかし、決算賞与は業績連動が基本です。
翌年度の業績が悪化し、やむを得ず不支給となった場合、従業員の期待を裏切る形となり、かえってモチベーションを著しく低下させるリスクを孕んでいます。
対策として、決算賞与を導入する際には、その性質を従業員に明確に周知することが極めて重要です。就業規則や賞与規程に「決算賞与は、会社の業績に応じて支給の有無および金額を決定するものであり、毎年の支給を約束するものではない」といった趣旨を明記しましょう。また、支給時には会社の業績状況を説明し、あくまで業績に連動した臨時的なものであることを繰り返し伝える努力が求められます。
決算賞与を損金算入するための3つの条件
決算賞与の最大のメリットである節税効果を享受するためには、国税庁が定める厳格な要件をすべて満たす必要があります。この要件は、決算賞与が利益操作による租税回避に利用されることを防ぐためのものであり、一つでも満たせない場合は損金算入が否認され、追徴課税のリスクが生じます。ここでは、その3つの条件を詳しく解説します。
条件1:決算日までの「個別・全対象者」への書面通知
第一の条件は、事業年度の終了日(決算日)までに、支給対象となるすべての従業員に対し、個別に支給額を通知することです。「全対象者」とは、同時期に決算賞与の支給を受ける従業員全員を指します。「個別に」とは、全社一律の金額を通達するのではなく、従業員一人ひとりの支給額を明確に伝える必要があるということです。
通知方法に法的な定めはありませんが、税務調査で通知の事実を客観的に証明するために、「決算賞与通知書」などの書面で通知することが極めて重要です。口頭やメールでの通知は、証拠能力の観点から推奨されません。
最も安全な方法は、日付を明記した通知書を従業員に交付し、受領した旨のサインや捺印をもらった上で、その控えを会社で保管しておくことです。これにより、「いつ、誰に、いくら通知したか」を明確に証明できます。
条件2:決算日翌日から「1ヶ月以内」の支払い
第二の条件は、通知したすべての従業員に対し、事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に、通知した金額を支払うことです。この期限は絶対であり、1日でも遅れると、その決算賞与は当期の損金として認められず、翌期の損金として扱われてしまいます。
例えば、3月31日決算の会社であれば、4月30日までに支払いを完了させなければなりません。支払方法についても、銀行振込が強く推奨されます。振込記録は、支給日と支給額の客観的な証拠として、税務調査の際に極めて有効です。やむを得ず現金で手渡しする場合は、必ず全従業員から日付と金額が明記された領収書を徴収し、保管しておく必要があります。
条件3:通知額と一致する金額の支給と損金経理
第三の条件は、通知した金額と実際に支払った金額が完全に一致していること、そしてその金額を通知日の属する事業年度において損金として経理処理していることです。このルールは非常に厳格です。
もし、通知した対象者のうち一人でも支払わなかったり、通知した金額と1円でも異なる金額を支払ったりした場合、原則として対象者全員分の決算賞与が当期の損金として認められなくなります。
特に、通知後に支給日までに退職者が出た場合の取り扱いには細心の注意が必要です。就業規則に「支給日に在籍しない者には支払わない」という規定があっても、税務上の要件を満たすためには、一度通知した以上はその退職者にも支払う必要があります。この矛盾点は、税務上のリスクとなり得るため、専門家との相談が不可欠です。
経理処理については、決算日時点で未払いの決算賞与を「未払費用」や「未払金」といった勘定科目を用いて、当期の費用(損金)として計上しておく必要があります。
損金算入のためのチェックリスト
- 通知要件
アクション:決算日までに、対象者全員に個別の支給額を記載した「決算賞与通知書」を交付し、受領サイン付きの控えを保管する。
NG例:口頭での通知のみ。全社一律の総額だけを掲示する。決算日を過ぎてから通知する。 - 支払要件
アクション:決算日の翌日から1ヶ月以内に、銀行振込で全員に支払いを完了させる。
NG例:資金繰りの都合で支払いが1ヶ月を超えてしまう。一部の従業員にだけ先に支払う。 - 一致・経理要件
アクション:通知書に記載した金額と寸分違わぬ金額を支払う。通知後、退職した従業員にも支払う。決算整理仕訳で「未払費用」として当期に計上する。
NG例:業績見込み違いを理由に通知額から減額して支払う。退職した従業員を除外して支払う。経理処理を翌期に行う。
決算賞与の具体的な計算方法
決算賞与の支給を決定したら、次に具体的な金額の計算が必要になります。支給総額をどう決めるか、そして従業員一人ひとりの手取り額はいくらになるのか、そのプロセスを見ていきましょう。
支給額の決定方法
決算賞与の支給総額に法的なルールはなく、企業の経営判断に委ねられています。相場は数万円から数十万円と企業規模や業績によって大きく異なります。一般的には、以下のような方法で原資となる総額を決定します。
- 利益分配方式
会社の利益を「従業員への賞与」「税金」「会社の将来のための内部留保」の3つにどう分配するか、という考え方で決定する方法です。 - 目標超過利益連動方式
事前に設定した営業利益などの目標値を上回った場合に、その超過額の一定割合(例:超過額の3分の1など)を賞与の原資とする方法です。この方法は公平性が高く、従業員の目標達成意欲を高める効果が期待できます。
個人の配分方法としては、以下のようなものがあります。
- 均等配分: 全従業員に同額を支給する。
- 給与連動: 基本給や役職等級に応じて傾斜配分する。
- 業績評価連動: 個人の業績評価の結果を反映させ貢献度に応じて支給額を決定する。
どの方法を選択するにせよ、従業員が納得できる公平性と透明性のある基準を設けることが重要です。
決算賞与から天引きされる社会保険料と税金の計算
決算賞与は税法上「給与所得」に分類されるため、通常の給与やボーナスと同様に、社会保険料と所得税が天引き(控除)されます。
社会保険料の計算
賞与から控除される社会保険料は、健康保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満)、厚生年金保険料、雇用保険料の4つです。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は、賞与の額面金額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」を基に計算され、会社と従業員で半分ずつ負担します。雇用保険料は、賞与の額面総額に保険料率を乗じて計算します。
所得税の計算
所得税は、賞与여の額面から社会保険料の合計額を差し引いた金額(課税対象額)に、所定の所得税率を乗じて計算します。この所得税率は、賞与支給月の前月の給与額(社会保険料控除後)と扶養親族の人数によって決まり、国税庁が公表する「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で確認します。
モデルケース:額面50万円の決算賞与、実際の手取りはいくらか
では、具体的なモデルケースで手取り額を計算してみましょう。手取り額の概算は「額面の約8割」と言われることもありますが、正確な計算は以下のようになります。
モデルケース
- 従業員:45歳(介護保険料対象)、東京都在住(協会けんぽ)
- 決算賞与(額面):50万円
- 扶養親族:1名
- 前月の給与(社会保険料控除後):30万円
- 保険料率・税率は令和5年度のものを参考にしています。
計算プロセス
- 標準賞与額の決定: 500,000円
- 健康保険料・介護保険料(従業員負担分):
標準賞与額 500,000円×11.45%÷2=28,625円 - 厚生年金保険料(従業員負担分):
標準賞与額 500,000円×18.3%÷2=45,750円 - 雇用保険料(従業員負担分):
賞与額面 500,000円×0.6%=3,000円 - 社会保険料合計:
28,625円+45,750円+3,000円=77,375円 - 所得税の計算:
- 課税対象額:500,000円−77,375円=422,625円
- 前月給与30万円、扶養1名の場合の所得税率は4.084%
- 所得税額:422,625円×4.084%≈17,259円
- 最終的な手取り額:
額面 500,000円−(社会保険料合計77,375円+所得税17,259円)=405,366円
このモデルケースでは、額面50万円の決算賞与の手取り額は約40.5万円となり、概算通り額面の約81%となりました。
注意点:社会保険料の損金算入は翌期になるケース
ここで、経営者が注意すべき専門的な論点があります。決算賞与本体を決算日後に支払い、当期の損金として未払計上した場合、その賞与にかかる社会保険料の会社負担分は、原則として翌期の損金として扱われます。
これは、社会保険料の納付義務が法的に確定するのが「賞与を支払った月の末日」であるためです。例えば、3月決算の会社が4月に賞与を支払った場合、社会保険料の義務確定日は4月末日となり、これは翌事業年度にあたります。
この会計処理と税務処理のタイミングのズレは、経営者が想定していた節税額と実際の節税額に差異を生む可能性があります。もし、社会保険料の会社負担分も当期の損金としたい場合は、決算賞与を決算日までに支払い終える必要があります。この「タイミングの罠」は、資金計画において非常に重要なポイントです。
経理・人事担当者のための実務マニュアル
決算賞与の支給は、経理・人事部門にとって正確な実務処理が求められる業務です。ここでは、会計処理、役員への支給、税務申告に関する実務上のポイントを解説します。
決算賞与の会計処理:仕訳と勘定科目
決算賞与を決算日までに支払わず、当期の損金として未払計上する場合の仕訳は以下のようになります。日付は決算日です。
- 決算時の仕訳例(賞与総額1,000万円、社会保険料・所得税の預り金合計200万円の場合)
- 借方: 賞与 10,000,000円
- 貸方: 未払費用 8,000,000円
- 貸方: 預り金 2,000,000円
勘定科目は「賞与」の代わりに「決算賞与」を、「未払費用」の代わりに「未払金」を使用することも可能ですが、社内で一貫した処理が必要です。翌期、実際に賞与を支払った際には、この未払費用を取り崩す仕訳を行います。
なお、会計原則には、将来支給する賞与を見積もって費用計上する「賞与引当金」という勘定科目がありますが、これは税務上の損金算入が認められていません。決算賞与を当期の損金とするための上記「未払費用」計上とは、目的も税務上の扱いも異なるため、混同しないよう注意が必要です。
役員への決算賞与は原則損金不算入
従業員への決算賞与とは異なり、役員に対して支給する臨時的な賞与は、原則として損金に算入できません。これは、役員が自身の報酬を期末の利益状況に応じて自由に設定し、法人税を不当に操作することを防ぐための措置です。
ただし、例外的に役員賞与を損金算入できる方法として「事前確定届出給与」という制度があります。
これは、株主総会の決議等に基づき、「いつ、どの役員に、いくら支払うか」を所定の期限までに税務署へ届け出て、その届出通りに1円のズレもなく支給した場合に限り、損金算入が認められるという非常に厳格な制度です。業績に応じて変動する決算賞与の性質とは馴染みにくく、適用には高度な計画性が求められます。
決算賞与と年末調整・確定申告の関係
決算賞与も給与所得の一部であるため、年末調整の対象となります。しかし、多くの企業の決算賞与は、一般的な年末調整の時期(11月~12月)とは異なるタイミングで支給されます。
例えば、3月決算の会社が4月に決算賞与を支給した場合、その賞与は前年分の年末調整には含まれず、支給された年の給与所得として、その年の年末調整の対象となります。もし12月決算の会社が12月中に決算賞与を支給する場合は、その年の給与と合算して年末調整を行うことになります。
なお、従業員個人が確定申告をしなければならないのは、給与収入が2,000万円を超える場合や、副業での所得が20万円を超える場合など、特定のケースに限られます。
決算賞与にまつわるQ&A
決算賞与の運用では、退職や非正規雇用の従業員の処遇など、判断に迷うケースが発生します。ここでは、よくある質問にQ&A形式で答えます。
従業員向け:退職・転職を予定している場合、決算賞与はもらえるか
決算賞与をもらえるかどうかは、会社の就業規則に定められている「支給日在籍条項」の有無に大きく左右されます。この条項は、「賞与は、その支給日に会社に在籍している従業員にのみ支給する」という内容の規定です。
この条項がある場合、たとえ賞与の算定期間中に勤務していたとしても、支給日に在籍していなければ賞与は支給されないのが一般的です。この考え方は、過去の多くの裁判例でも支持されています。特に三光純薬事件の判例では、この支給日在籍要件は合理的なものであり、定年退職者に対しても適用されると判断されています。
一方で、会社が退職予定者に対して不当に大幅な減額を行うことは、争いになる可能性があります。ベネッセコーポレーション事件の判例では、賞与には将来への期待も含まれるとしつつ、その割合は2割程度が相当とされ、それを超える減額は認められませんでした。
従業員としては、まず自社の就業規則を確認することが第一です。そして、最も安全に賞与を受け取るためには、可能であれば賞与が支給された後に退職の意思を伝えるのが賢明と言えるでしょう。
経営者向け:支給日に退職した社員がいた場合の損金算入の可否
この点は非常にデリケートで、税務上のリスクが高い論点です。国税庁の法令解釈では、「支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、損金算入の要件である『通知』には該当しない」とされています。
これは、決算日時点では「支給日に在籍するかどうか」が不確定であるため、会社が支払うべき債務が法的に確定しているとはいえない、という考え方に基づいています。
この解釈を厳密に適用すると、支給日在籍条項を設けている会社が未払計上した決算賞与は、損金算入が否認されるリスクを常に抱えていることになります。実務上は、顧問税理士などの専門家と十分に協議し、リスクを理解した上で慎重に判断する必要があります。
パート・アルバイトにも決算賞与は支給すべきか
パートタイマーやアルバイト従業員に決算賞与を支給するかどうかは、企業の任意です。ただし、損金算入の要件を満たす上では、支給対象者の範囲を明確にしておくことが重要です。
税法上、正社員とパートタイマーなどを明確に区分して賞与制度を運用している場合は、その区分ごとに「全対象者への通知・支給」の要件を判定することができます。近年は、多様な働き方を支援する観点から、パート・アルバイトの貢献にも報いる企業が増えています。
支給対象に含めることは、彼らのモチベーション向上や定着率改善に繋がり、組織全体の活性化に貢献する可能性があります。
まとめ
本記事では、決算賞与の基本から税務、実務に至るまでを網羅的に解説しました。最後に、決算賞与を成功させるための要点を再確認します。
決算賞与は、適切に活用すれば「節税」と「従業員のモチベーション向上」を両立できる、非常に強力な経営ツールです。
成功の最大の鍵は、損金算入のための「決算日までの個別通知」「1ヶ月以内の支払い」「通知通りの金額支給と損金経理」という3つの条件を遵守することです。
安易な支給は「キャッシュフローの悪化」を招きます。納税資金も考慮した、緻密な資金計画が不可欠です。
従業員の「過度な期待」を生まないよう、あくまで業績に連動した臨時的な賞与であるという制度の趣旨を、日頃から明確に周知することが長期的な成功に繋がります。
決算賞与は、単なる節税対策やコストではありません。それは、従業員の努力に報い、会社の利益を未来の成長へと再投資する、戦略的な経営判断そのものです。
本記事で得た知識を基に、自社の状況に合わせた最適な戦略を立て、企業の持続的な成長を実現してください。判断に迷う点があれば、必ず顧問税理士などの専門家に相談し、万全の体制で臨むことをお勧めします。
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