
病院の窓口で発行される領収書は、患者さんに支払いを証明する重要な書類です。
病院の領収書テンプレートを探している医療事務担当者や個人事業主の方に向けて、本記事では領収書の基本から実務での活用方法までを丁寧に解説します。
医療法人が発行する領収書の意味や法的根拠、必須の記載項目、便利なテンプレート例、保険診療と自費診療のケースごとの記載例、発行時の注意点、さらに電子帳簿保存法やインボイス制度との関係、領収書の保管義務と保存期間まで、幅広くカバーします。
医療機関の領収書発行に関する知識を総ざらいし、トラブルなく正確な領収書を発行・管理するためのポイントを押さえていきましょう。
目次
医療機関が発行する領収書の意味と法的根拠
病院やクリニックが発行する領収書は、患者から医療費の支払いを受け取った証明となる公式な書類です。領収書には一般に、支払った人(患者)と受け取った人(医療機関)の名称、支払い日付、支払金額、そして支払いの目的(診療内容など)が記載されます。
この書類は患者にとっても医療機関にとっても重要で、会計上・税務上の根拠資料として扱われます。例えば領収書がなければ経費や医療費控除の証拠にならず、結果的に税金面で不利益を被る可能性があります。
そのため、法律により一定期間の保存が求められる書類でもあります。
法的な発行義務も忘れてはなりません。医療法人を含む保険医療機関(健康保険を取り扱う病院・診療所など)は、厚生労働省の定める「保険医療機関及び保険医療養担当規則」により領収証と診療明細書の交付が義務付けられています。
具体的には、第5条の2において「患者から費用の支払いを受けるときは、正当な理由がない限り診療ごとの費用を区分記載した領収証を無償で交付しなければならない」と規定されています。
これに基づき、2010年頃からすべての患者に対して無料で領収書(および診療明細書)を発行することが原則となりました。つまり現在では、社会保険診療であれ自費診療であれ、医療機関は患者に領収書を発行する法的責任があります。
領収書を発行することは単なる慣習ではなく、法令による義務であり患者の権利でもあります。また領収書は、患者が後日医療費を確認したり、民間保険の請求や医療費控除の手続きに利用したりする際の証拠資料となります。
医療機関側から見ても、領収書の控えや記録は売上の記録として不可欠です。以上のように、病院の領収書は法律に裏付けされた重要書類であり、正確に作成・交付する必要があるのです。
なお、領収書には収入印紙の貼付が必要なケースがありますが、医療法人等が発行する領収書の多くは収入印紙が不要です。印紙税法上、「営業に関しない受取書」には印紙税が課されません。
医師や歯科医師による医療行為は営利目的の営業とは見なされないため、医療法人が発行する領収書はたとえ金額が5万円以上でも印紙不要と取り扱われます。
ただし注意点として、営利企業(株式会社など)が経営する病院・クリニックの場合、その発行する領収書は営業行為に伴うものとみなされるため5万円以上では印紙が必要になります。
また美容整形など純粋な自由診療で消費税課税対象となる収入を得ている場合も、収入印紙の要否を含め税法上の取り扱いを確認しましょう。このように領収書一つとっても法律や税務上の規定が関わっているため、医療事務担当者は十分に理解しておくことが大切です。
領収書に含めるべき基本要素
病院の領収書には必ず記載すべき基本項目があります。これらは一般的な領収書と共通する点も多いですが、医療機関特有の情報も含まれます。基本要素を漏れなく記載することで、法的にも実務上も有効な領収書となります。主な項目は以下のとおりです。
まず発行日(支払日)です。患者さんが会計を済ませた日付を西暦や和暦で正確に記入します。日付は改ざん防止のためにも省略せず「2025年4月22日」のように年月日をはっきり書きましょう。次に宛名(受取人名)です。
本来、領収書の宛名には支払いをした人や組織の名称を記載します。病院のケースでは、通常は患者本人の氏名を印字または記入します。ただし会社員の健康診断などで会社名での宛名を求められる場合もあります。
その場合は会計時に申し出てもらい、領収書に会社名(「〇〇株式会社 御中」等)を記載することも可能です。宛名が空欄の場合「上様」とする慣例もありますが、公的な医療費の証明としてはできるだけ具体的な氏名を書くのが望ましいでしょう。
金額も中心的な要素です。患者が実際に支払った金額を税込み総額で記載します。日本円であることを示すため先頭に「¥」や「金」を付け、金額の末尾には「-」や「也」などを付け加えてください。
例えば「¥12,350-」のように記載すると、余分な数字を書き足されるリスクを防止できます。桁区切りのカンマも入れて見やすくし、不正な改ざんをされない配慮が必要です。
金額欄に空白が残る場合には、後から書き込まれないよう二重線や余白の斜め線で埋めるなどの工夫も行います。また医療機関の領収書では、金額の内訳を診療内容ごとに区分して示すことが一般的です。
例えば「診療費〇〇円、薬代〇〇円」といった具合に大まかな内訳が表示されることがあります。
厚生労働省の方針で領収書には検査料、投薬料など部門ごとの費用がわかるよう配慮することとなっており、患者にとってもどの項目にいくらかかったか把握しやすくなっています。
但し書き(支払い内容の説明)も重要です。領収書には通常、「何の代金として受領したか」を示す一文を記載します。医療機関の場合、但し書きには診療内容や期間を記すとよいでしょう。
例えば「令和○年○月分 診療費(自己負担分)として」や「○○科外来診療費として」などです。入院の場合は「入院料」「食事療養費」といった語を入れることもあります。自由診療であれば「美容施術費として」など具体的に記載します。
この但し書きによって、その支払いがどのような医療サービスに対するものかが明確になります。患者や経理担当者が後で見返した際に、領収書だけで大まかな内容がわかるようにしておくことが信頼性のある領収書の条件です。
発行者の情報も欠かせません。領収書を発行した医療機関側の正式名称を明記します。一般的には病院名・クリニック名を印字し、所在地や電話番号も併記することが多いです。これにより、どの医療機関が発行した領収書か第三者が見ても判別できます。
また、発行者として担当者名を入れるケースもあります。小規模クリニックなどでは「医療事務担当:〇〇」のように担当者名や院長の名前を入れたり、医院の角印やゴム印を押印することもあります。
一方、大病院では領収書自体に院長名の印刷や電子的な発行者名の記載がされており、個々の担当者名を書かない場合もあります。重要なのは発行主体が明確に記録されていることです。加えて、金額によって必要となる収入印紙についても注意しましょう。
前述の通り、多くの医療機関領収書は非課税扱いで印紙不要ですが、もし必要な場合(営利企業が発行する領収書で5万円以上のとき等)には所定額の収入印紙を貼付し、その上に発行者印を消印します。
印紙を貼った場合は領収書内に「収入印紙〇〇円貼付済」などと記録しておくと親切です。
以上が領収書に含めるべき基本項目です。まとめると、日付、宛名、金額(内訳付き)、但し書き、発行者情報、(場合により印紙)が盛り込まれていれば、領収書として必要十分と言えます。これらの項目を正確に網羅することで、法的にも実務的にも適切な領収書が完成します。
病院領収書テンプレートの例とその使い方
実際に領収書を作成する際には、上記の基本要素を盛り込んだフォーマットを用意しておくと便利です。
多くの病院ではレセプトコンピュータや会計システムから自動的に領収書が発行されますが、小規模なクリニックや個人事業主として開業したばかりの医院では領収書テンプレートを自作して運用しているケースもあります。
また、医療機関向けの公式な領収書様式も存在しますが(厚生労働省が参考様式を提示しています)、ここでは汎用的に使えるテキスト形式の領収書テンプレート例を紹介します。
以下はシンプルな領収書の一例です。このテンプレートをベースに、自院の名前やロゴを加えたり、用途に応じて項目を追加したりしてカスタマイズできます。
テキスト形式なので必要に応じてコピー&ペーストし、ご自身の医療機関名や金額などを書き換えてお使いください。
領収書
発行日:2025年4月22日
宛 名:山田 太郎 様
金 額:¥12,350-
但し書き:令和7年4月分 外来診療費自己負担分として
上記の金額を確かに受領いたしました。
医療機関名:〇〇クリニック
住 所:東京都〇〇区〇〇1-2-3
電 話:03-1234-5678
担当者:院長 〇〇〇〇 (印)
このテンプレートでは、まず「領収書」のタイトルを明記し、その下に発行日、宛名、金額、但し書きを順に配置しています。金額は¥マークとハイフン付きで改ざん防止の表記にし、但し書きでは何月分のどの診療費かを具体的に示しています。
続く文章「上記の金額を確かに受領いたしました。」は定型の文言で、受領の事実を改めて宣言するものです。発行者欄には医療機関名と所在地・電話番号を入れ、最後に担当者(発行責任者)の氏名と押印欄を設けています。
このようなテンプレートを使用する際のポイントとして、宛名や金額、但し書きの部分は都度正確に入力・記載することが挙げられます。テンプレートを用いると項目漏れの心配は減りますが、逆に以前の患者情報が残ったまま印刷してしまうミスなどに注意しましょう。
発行前に日付や名前が最新の内容になっているか必ず確認します。またテンプレート自体も、自院の実情に合わせて調整が必要です。例えば入院料や食事代など特別な費用項目が発生する病院であれば、但し書き欄や内訳欄を充実させるとよいでしょう。
領収書のレイアウトは各医療機関で多少異なって構いませんが、必要な情報が網羅されていることと見やすく改ざん防止策が講じられていることが重要です。
厚生労働省から公表されている領収書の様式例では、診療科名や保険種別、負担割合、診療点数や詳細な費目の欄なども含まれています。
これは非常に細かい明細まで一枚の用紙にまとめた形式ですが、中小のクリニックではここまで詳細なレイアウトにしなくとも、別途診療明細書を添付することで対応できます。
テンプレートを作成する際は、領収書には基本事項と主要な内訳のみ記載し、詳細は明細書で補完するという形にするとシンプルで運用しやすくなるでしょう。
いずれにしても、テンプレートはあくまで叩き台ですので、自院で試行しながら改善していくことをおすすめします。
一度適切なフォーマットが決まれば、あとはそのテンプレートに沿って入力・発行するだけなので、医療事務の現場でもスムーズに運用できるはずです。
保険診療と自費診療の領収書記載例(ケーススタディ)
医療機関の領収書と言っても、保険診療の場合と自費診療の場合とでは記載内容や扱いに違いが生じることがあります。ここでは実務上よくあるケースを取り上げ、それぞれ領収書にどのように反映されるかを説明します。
ケース1:保険診療(社保・国保適用)の場合
一般的な病院受診では健康保険が適用されます。この場合、患者さんは医療費の一部負担金(自己負担分)を窓口で支払い、残りは保険者から医療機関に支払われます。領収書には患者さんが実際に支払った自己負担額のみが金額として記載されます。
ただし但し書き等で保険診療分であることが分かるようにするのがポイントです。例えば「○月分一部負担金(医科外来)として」や「保険診療自己負担分」と明記すれば、その領収書が公的保険適用の診療に対するものであると理解できます。
保険診療の場合、診療明細書を発行しているため領収書側では細かい診療行為名までは書かないのが通常です。その代わり、領収書には「初診料○○円、検査料○○円… 計△△円」など主要な費目ごとの小計が表示されます。
例えば外来診療で検査と投薬があった場合、領収書には「検査料〇〇点:自己負担○○円」「投薬料〇〇点:自己負担○○円」のように点数と自己負担額がカテゴリ別に載ることもあります。
一方、消費税に関しては保険診療部分は非課税扱いのため、領収書に消費税額の記載は通常ありません(医薬品の容器代など一部例外を除く)。金額欄は純粋に患者負担額の合計となります。
また印紙税の点でも、前述したように医療行為は非営業性として扱われるため、金額が5万円を超えていても医療法人の領収書であれば印紙不要です。したがって保険診療の領収書は、基本項目を満たしつつ自己負担額と診療区分の情報を盛り込む形になります。
記載例: 例えば、30代男性の患者が4月に外来受診し、総医療費1万円のところ自己負担3割で3,000円支払ったケースを考えます。この場合、領収書の金額欄は「¥3,000-」とし、但し書きには「令和7年4月分外来診療 一部負担金(3割)として」と記載します。
内訳欄には「初・再診料○○点=自己負担○○円、検査料○○点=自己負担○○円…」といった形式で記載されるでしょう。発行日は会計日である4月○日、宛名は患者氏名「山田太郎様」となります。
この領収書と併せて発行される診療明細書には個々の検査名や薬剤名まで詳しく載っていますが、領収書側では「検査料」「投薬料」程度のまとめ表記に留めています。
ケース2:自費診療(自由診療)の場合
健康保険が利かない診療やサービスについては、患者が医療費全額を自己負担します。美容整形、予防接種(公的補助のない任意接種)、健康診断(人間ドック)などは典型例です。これら自費診療の領収書では、金額欄に患者が支払った全額を記載します。
保険診療と異なり負担割合の記載は不要ですが、その代わり消費税の扱いに注意が必要です。医師等による治療行為であっても美容目的の施術や明確に治療とは言えないサービス(例:美容皮膚科でのレーザー美顔)は消費税課税対象となる場合があります。
課税対象の自費診療の場合、領収書には本体価格と消費税額を分けて表示し、合計金額を記載することが望ましいです。
適格請求書(インボイス)の要件を満たすためには税率ごとの消費税額の記載が求められるため、事業者間取引でなくとも可能な範囲で記載しておくと親切です
(多くのクリニックでは患者は個人消費者なので厳密なインボイス対応は不要ですが、後述するように事業者向けには配慮が必要です)。
自費診療領収書の但し書きには、具体的な施術やサービスの内容を記載します。例えば「インプラント治療費として」「人間ドック受診料として」「美容施術(○○注射)費用」といった文言です。複数項目がある場合は内訳として列挙し、それぞれの金額を示します。
例えば、自由診療の歯科でインプラント手術を行った場合、「手術料〇〇円、インプラント体費用〇〇円、○○処置料〇〇円 合計〇〇円」のように書き出し、総額欄にその合計金額を記載します。
消費税課税の場合は「(税込)」や税額明示も忘れずに行います。なお医療法上の医療行為に該当する診療(美容でなくとも先進医療や全額自己負担の特殊治療など)は消費税が非課税のケースもあります。
その場合は領収書にも消費税の表示は不要で、単に総額〇〇円と記載します。
記載例: 例えば、ある美容クリニックで患者がレーザー治療を受け、施術料5万円+薬剤費5千円=総額55,000円(税込)を支払ったケースでは、領収書の金額欄は「¥55,000-」とします。
但し書きに「美容皮膚科施術(レーザー治療)費として」と記載し、内訳欄に「施術料50,000円、薬剤費5,000円 (税込)」などと書き添えます。発行者欄にはクリニック名と院長名、発行日と患者氏名もしっかり記載します。
この例では金額が5万円を超えており、もし発行主体が株式会社経営のクリニックであれば収入印紙(¥200)を貼付する必要があります。一方、医療法人〇〇会の〇〇クリニックのように医療法人名義で発行する場合は非課税扱いで印紙は不要です。
このように自費診療では消費税や印紙の扱いもケースによって変わるため、領収書発行時に確認する習慣をつけましょう。
ケース3:保険診療+保険外診療が混在する場合
現実の医療現場では、保険診療と保険適用外の費用が同時に発生することもあります。たとえば入院患者が差額ベッド代(個室料金)や病衣レンタル代を支払った場合、これらは保険外のサービスです。
また診断書作成料や予防接種料なども保険外負担です。そのような混在ケースでは、領収書上で保険適用分と非適用分を明確に区分することが重要です。多くの病院では領収書に「保険分」と「保険外分」を別枠で表示します。
例えば領収書の中ほどに「●●保険分:自己負担額○○円」「保険外(自費)分:○○円」といった記載欄を設け、両者の合計が最終的な支払金額になるよう構成されています。こうすることで、患者にも後日分かりやすく、経理処理上も消費税計算などが明確になります。
保険外の項目については、但し書きか備考欄で具体的に「○月○日文書料」「差額ベッド代(個室料金)○日分」等と書く配慮をすると親切です。
混在ケースの領収書では、収入印紙の判断も慎重に行いましょう。保険診療部分は非課税非課税取引ですが、保険外部分は場合によって課税取引です。
ただし領収書そのものには総額が表示されるため、例えば株式会社運営の病院で総支払額が5万円以上になると領収書全体として印紙貼付が求められる可能性があります。運用としては、保険診療と保険外診療で別々に領収書を発行する方法もあります。
保険診療分については印紙不要、自費分については必要に応じ印紙貼付とすれば明確に区分できます。患者さんの利便性や病院内の会計システムに合わせて、最適な方法を選択してください。
重要なことは、領収書を見るだけで何に対する支払いかが理解でき、保険適用の有無も判別できる状態にしておくことです。
以上のように、保険診療と自費診療では領収書の書き方や扱いが異なります。医療事務担当者は各ケースでどのような記載が適切か把握しておく必要があります。
患者からの質問にも答えられるよう、「なぜこの領収書には税額が書いてないのか」「宛名を会社名にできるか」など状況に応じた知識を備えておきましょう。ケーススタディを通じて適切な記載例を学び、実務に役立ててください。
領収書発行時の注意点とトラブル回避のポイント
領収書を発行する際には、正確に情報を記載することはもちろん、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。ここでは、医療現場で起こりがちなトラブルを避けるためのポイントを解説します。
① 記載ミスの防止と修正方法
日付や患者名、金額の入力ミスはできる限り避けなければなりません。発行前にダブルチェックを行い、特に金額の桁や姓名の漢字などに誤りがないか確認しましょう。それでも万一書き間違えてしまった場合、修正の仕方に注意します。
手書き領収書で金額を誤記した場合、修正液で消して書き直すのは不可です(改ざんを疑われる原因になります)。代わりに、二重線で誤記部分を訂正し、訂正印(発行者の印)を押す方法があります。
しかし医療費領収書は保険請求や経理処理にも使われる公的文書に準じますので、原則として誤記があれば新しく正しい領収書を再作成するほうが望ましいでしょう。その際、誤った領収書は回収して破棄し、番号管理をしている場合は無効処理を記録します。
発行システムから出力した領収書に誤りが見つかった場合も、システム上で取消処理を行い正しいものを再発行します。要は、患者さんに手渡す段階で正確な情報になっているよう細心の注意を払うことが肝心です。
② 再発行の原則と例外対応
多くの医療機関では領収書に小さく「※領収書の再発行は致しかねます。大切に保管してください。」といった注意書きが印刷されています。これは、一度発行した領収書の再発行は原則として行わないという方針を示しています。
理由は、領収書は金銭の受領証明として一回限りのものであり、二重に発行すると不正利用(重複請求や二重計上)のリスクがあるためです。
そのため患者さんが「領収書を無くしたので再発行して欲しい」と依頼してきても、原本と全く同じ領収書をもう一度発行することは通常できません。代替措置として、多くの病院では「領収証明書」という書類を発行しています。
領収証明書とは、〇年〇月〇日に〇〇円を受領しましたという事実を証明する文書で、領収書と同等の内容を示すものです。ただし体裁としては領収書とは異なり、再発行である旨を明記していたり、様式が違ったりします。
領収証明書の発行には事務手数料がかかることもあり(実費として数百円を徴収する病院もあります)、患者さんには紛失しないことが一番だと周知することが重要です。
トラブル回避策として、領収書を渡す際に「こちら、大事な書類ですので紛失なさらないようお気を付けください」と一言添えるなどの配慮も現場では行われています。
③ 宛名の変更や特記事項
領収書の宛名を巡るトラブルも時折あります。典型例は、会計後に患者さんから「宛名を会社名に変えて欲しい」と依頼されるケースです。社員の健診費用を会社が負担する場合など、会社名での領収書が必要になることがあります。
この場合、本来は支払い時に申し出て宛名を書き換えて発行するのが筋ですが、後から言われることもあります。対応としては、未使用の領収書と交換する形で新たに会社名宛の領収書を発行し、もともと患者名宛に発行した領収書は回収します。
ただしこれも原則「再発行」に当たるため、医療機関ごとのポリシーによります。あらかじめ会社名宛が必要になりそうなケースでは、受付時の案内等で「領収書の宛名指定がある場合は会計前にお申し出ください」と周知しておくと良いでしょう。
また、領収書に備考欄がある場合は、必要に応じて患者さんからの申し出事項を記載します。たとえば「〇〇保険組合提出用」や「交通事故治療(自賠責)分」など特殊な支払いである旨を付記することがあります。
備考欄は空欄のままより、何か有用な情報があれば書いておいた方が、あとで書類を見る人(患者本人や保険者等)にも親切です。
④ 改ざん防止と信頼性確保
領収書は金額の証明となる文書だけに、不正な改ざんを防ぐ工夫が不可欠です。前述したように金額の前後に記号を付けるのは基本中の基本です。
同様に、空白部分を残さないことも大切です。特に手書き領収書では、金額欄や宛名欄の後ろに余白ができたら横線を引くなどして、後から勝手に書き足せないようにします。領収書用紙自体も市販のものには通し番号が印字されているものがあります。
この通し番号で管理することで、あとから「◯番と◯番の間の領収書が欠けている」など不正発行の有無をチェックできます。病院の会計システムでも領収書番号が自動付番され、重複発行や飛び番号がないか監査できる仕組みがあります。
さらに、発行者の社判や角印の押印も有効な手段です。コンピュータ印字でも院長名が印刷されていれば通常十分ですが、紙の領収書ではスタンプなどで正式な発行印が押されていると書類としての信用度が増します。
改ざん防止には他にも、感熱紙を使うレシートタイプの場合は再印字防止(一度印刷すると再度同じ番号では印刷できない設定)や、電子的な保管による原本性の確保などの方法があります。
要は、発行後に誰かが勝手に書き換えたり複製したりできない工夫を凝らすことが、医療機関の信頼確保につながります。
⑤ その他のトラブル予防策
領収書には金額が書かれるため、患者さんによっては敏感になることもあります。特に高額な自由診療では明細へのクレームなども考えられます。そのため領収書発行時には金額・内訳に誤りがないか確認するだけでなく、患者への説明責任も果たしましょう。
「本日のお支払いは○○円で、内訳は○○となります。こちら領収書と明細書です」と一声かけて手渡すだけでも、患者さんの安心感は違います。また、領収書を封筒に入れて渡す配慮も場合によっては必要です(周囲に金額を見られたくない患者心理への配慮)。
日付の打ち間違いなども意外と指摘されやすいポイントですので、和暦・西暦の表記や元号の誤りなど細部まで気を配りましょう。細かな気遣いの積み重ねがトラブル防止と患者満足度向上に寄与することを念頭に、領収書発行業務にあたってください。
電子帳簿保存法やインボイス制度との関連
医療機関で発行する領収書も、時代の流れとともに電子化や新しい税制制度の影響を受けつつあります。ここでは電子帳簿保存法およびインボイス制度と、病院領収書との関係について簡潔に触れておきます。
電子帳簿保存法への対応
電子帳簿保存法とは、国税関係書類を電子データで保存する場合のルールを定めた法律です。従来は紙で保存すべき請求書や領収書も、一定の要件を満たせばスキャナ取り込みや電子発行データのままで保存することが認められています。
医療機関においても、領収書の電子保存を検討する場面があるでしょう。例えば、クリニック側で発行した領収書の控えを紙で保管せずPDF等で保管したい場合や、患者側がメールなどで電子領収書を受け取るケースです。
電子帳簿保存法に則って正しく保存するためには、改ざん防止措置(タイムスタンプの付与や厳格なアクセス制限など)や検索機能の確保(日付・金額・宛名などで後から検索できるようにする)が必要になります。
2022年の法改正で電子取引データの保存要件が緩和されつつありますが、根本的な信頼性確保の考え方は同じです。
医療事務担当者としては、領収書を電子交付する場合はそのデータを適切に保存する仕組みを作る、あるいは患者に電子で渡した場合には「ご自身でも保存ルールに従って管理してください」と説明することが求められます。
もっとも現在は、多くの患者さんには紙で領収書を渡すのが一般的です。しかし院内の記録としては電子的に蓄積しておくと、保管スペースの削減や検索の容易さなどメリットがあります。
電子帳簿保存法は企業向けの要素が強いですが、医療機関も事業者の一種ですから、領収書や会計記録のデジタル保存について知識を持っておくと良いでしょう。
将来的に領収書そのものが電子化(ペーパーレス)されていく可能性もありますので、その際にはこの法律に沿った運用が不可欠となります。
インボイス制度への対応
2023年10月から始まった適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度も領収書実務に影響を与えています。ただし結論から言えば、保険診療に関する領収書はインボイス制度の対象外です。
病院やクリニックで受け取る診療報酬(患者さんが支払う自己負担分も含む)は消費税法上非課税取引であるため、適格請求書(インボイス)を発行する必要がありません。
したがって、通常の医療費領収書にインボイス要件(適格請求書発行事業者の登録番号、税率ごとの税額表示など)を満たす記載を追記する必要はないのです。
多くの医療機関は非課税売上主体であるため消費税の申告義務さえないケースも多く、実際インボイス制度の影響は限定的です。
しかし、前述したような自費診療や物品販売等で課税売上を計上している医療機関は注意が必要です。
例えば美容クリニックで年間売上が一定規模以上あり課税事業者となっている場合や、病院内で健康食品・サプリメントを販売している場合などは、適格請求書発行事業者の登録を受けてインボイス対応することが考えられます。
その際、領収書が事実上請求書兼領収書の役割を果たすこともあります。適格請求書発行事業者となった場合には、領収書にも登録番号(Tから始まる13桁の番号)を記載し、消費税額を明確に分けた表記にする必要があります。
幸いフォーマット自体は一般の領収書と両立できますので、レイアウトの余白に「適格請求書発行事業者登録番号:T1234567890123」のように追記し、内訳欄で税抜金額と消費税額を記載すればOKです。
患者が個人であればインボイスを要求されることはまずありませんが、取引先が法人(例:企業がまとめて健診費用を支払う場合など)ではインボイス対応の領収書を求められることも考えられます。
そのようなケースでは、事前に要望を確認し、領収書ないし請求書でインボイス要件を満たす書式を用意しておきましょう。
まとめると、医療機関領収書とインボイス制度の関係は「保険診療分は非課税ゆえ原則影響なし、課税取引については状況に応じてインボイス形式を検討」ということになります。
制度開始後間もない現時点では試行錯誤の部分もありますが、患者や取引先に不便をかけないよう留意して運用してください。
領収書の保管義務と保存期間
最後に、発行した領収書や受け取った領収書をどのくらいの期間保存すべきかについて触れておきましょう。領収書は金銭のやりとりを証明する大切な書類ですので、法律上の保存義務があります。
医療機関側(発行者)と患者側(受取者)の両面から、適切な保存期間を確認しておきます。
医療機関(発行者側)の保存義務
病院やクリニックなど事業者として領収書を発行する側は、その控えや記録を一定期間保存する必要があります。税法上、日本の法人・個人事業主は帳簿書類を原則7年間保存する義務があります(青色申告の場合)。
領収書も会計帳簿と対応づけられる証憑書類の一つですから、少なくとも7年間は保存しておくのが安全です。例えば2025年度の領収書であれば2032年末頃まで保管するイメージです。
白色申告の場合は保存義務は5年などの違いがありますが、医療機関であれば多くは青色申告(または医療法人として法人税申告)でしょうから7年を基準にしましょう。保存方法は紙でも電子でも構いません。
紙であれば、日付順や番号順にファイリングしておくと後で探しやすくなります。電子保存の場合は先述の電子帳簿保存法の要件を踏まえてシステムで管理してください。
また、レセプト請求を行っている医療機関では診療報酬明細書等の保存も義務付けられており(5年間保管など)、領収書控えもそれに準じて保管しておくと良いでしょう。
将来、患者さんから問い合わせがあったり、税務調査で売上の証拠として提示を求められたりする可能性もあります。発行者側として、誰にいついくらの領収書を発行したか後で辿れる状態にしておくことが大切です。
患者・利用者(受取者側)の保存期間
一方、領収書を受け取った患者側にも保管の必要性があります。特に医療費の領収書は税務上の医療費控除を受ける際に関連します。
2017年分以降の確定申告では、医療費控除のために領収書を税務署へ提出する必要はなくなりましたが、代わりに自宅で5年間保存しておくことが求められています。税務署から求めがあれば提示できるようにするためです。
したがって、患者さん(特にご自身で確定申告する個人事業主など)は領収書を受け取ったら少なくとも5年間は大切に保管しましょう。
また会社員でも、後日健康保険組合に高額療養費の支給申請をする場合や、民間の医療保険で給付金請求する際に領収書のコピー提出が必要になることがあります。そのため少なくとも受け取った年度の翌年から5年程度は手元に置いておくことが安心です。
もちろん紙のままではなくスキャンしてデータ保存でも構いませんが、その際も原本は捨てずに保管するのが無難です(特に感熱紙のレシートは時間経過で文字が消えやすいので、コピーを取ったりスキャンした上で原本も光の当たらない所で保存する工夫が必要です)。
医療機関から発行される領収書には個人情報や重要な金額情報が含まれますので、取扱いにも注意が必要です。患者さんに対しては「領収書は確定申告等で必要になる場合がありますので〇年間は保管してください」とひと言案内するのも親切でしょう。
発行側としても、領収書の再発行依頼を減らすためにも患者への保管啓発は有効です。
保存期間を過ぎた領収書の扱い
法定の保存期間が経過した領収書類は、医療機関側では任意で処分可能となります。ただし医療に関するデータは長期にわたり参照価値がある場合もあるため、可能な限り電子化して長期保存しておくのも一策です。
一方患者側でも、5年を過ぎたからといってすぐ廃棄する必要はありません。特に大きな手術費用の領収書などは、将来のためにずっと保管しておく方もいます。
ただ個人情報の塊でもありますので、不要になった領収書を捨てる際は細断処理(シュレッダー)するなどして漏洩防止に努めましょう。
総じて、領収書は発行も大事ですがその後の保存・管理も同様に大事です。医療事務担当者は発行した領収書が適切に保管されているか定期的に点検し、患者さんにも保存の重要性を伝えていきましょう。
適切な期間しっかり保存することで、税務・経理上のトラブルや患者からの問い合わせにも落ち着いて対応できるのです。
まとめ
医療法人が発行する領収書の意義から始まり、記載すべき基本項目、実用的なテンプレート例、保険診療と自費診療の違い、発行時の注意事項、最近の電子化やインボイス制度への対応、そして保存義務まで網羅しました。
領収書は医療現場の事務手続きにおける基本中の基本ですが、法律や制度の変更によって求められる対応も変化します。本記事の内容を参考に、自院の領収書発行ルールを再点検し、より分かりやすく信頼性の高い書類を患者さんに提供できるよう努めてください。
正しく作成された領収書は、患者からの信頼獲得と医療機関のコンプライアンス遵守の両面で大きな力となります。今後も研鑽を重ね、安心して任せられる医療事務を目指していきましょう。
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