領収書の基礎知識

約束手形の領収書の書き方とは?インボイス制度についても解説

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手形 領収書 インボイス

日本の商取引において、約束手形や領収書は古くから重要な役割を担ってきました。これらは取引の証拠となり、債権債務を管理し、さらには税務上のコンプライアンスを確保するための基礎となる書類です。

特に、2023年10月1日から本格的に導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、これらの書類の取り扱いに新たな注意点をもたらしました。

多くの事業者にとって、約束手形のような伝統的な決済手段と、新しいインボイス制度との関連性を正確に理解することは、喫緊の課題と言えるでしょう。

伝統的な商慣習と現代の法制度が交差する中で、どのように対応すべきか戸惑う場面も少なくありません。

例えば、長年慣れ親しんだ手形取引の領収書発行プロセスも、インボイス制度の要件を念頭に置いた見直しが求められる場合があります。

収入印紙の正しい取り扱い、インボイス制度への具体的な対応方法、そして業務効率化に役立つ無料テンプレートの活用法まで、網羅的かつ実践的に解説します。

本記事を通じて、読者の皆様がこれらの複雑な書類作成業務を正確かつスムーズに進められるようになるための一助となれば幸いです。

単に「どう書くか」だけでなく、「なぜそう書く必要があるのか」という背景にある法的・税務的理由にも触れることで、様々な状況に応用できる知識の習得を目指します。

目次

約束手形とは?取引における役割と法的知識

約束手形の領収書について理解を深める前に、まず約束手形そのものについての基本的な知識を押さえておくことが重要です。

約束手形の定義と法的根拠

約束手形とは、振出人(手形を発行する人)が受取人(手形を受け取る人)またはその指図人に対して、将来の特定の期日に一定の金額を無条件で支払うことを約束する有価証券の一種です 。

この効力は、手形法(昭和7年法律第20号)によって規定されています 。

手形法では、振出人やその他の手形当事者が他人に補充させる意思をもって未完成のまま振り出した手形、いわゆる「白地手形」も約束手形に含まれるとされていますので留意が必要です 。

約束手形は、振出人が直接的に支払いの義務を負うため、取引においては振出人の信用力が極めて重要となります 。この信用力に対する懸念が、手形取引のリスクの一つとも言えます。

約束手形の種類

手形には大きく分けて「約束手形」と「為替手形」の2種類があります。

本記事では主に約束手形を取り上げますが、為替手形は、振出人が支払人(第三者)に委託し、受取人またはその指図人に一定金額を支払わせる形式の手形である点が約束手形と異なります 。

約束手形取引のメリット・デメリット

約束手形は、商取引や資金調達の手段として広く利用されてきましたが、メリットとデメリット双方を理解しておく必要があります。

メリット

支払企業側
支払いを将来の期日まで猶予できるため、資金繰りの負担を軽減する手段として用いられてきました。特に高度成長期には、企業間信用を支える重要な役割を果たしました 。

受取企業側
手形を満期日前に銀行などの金融機関に持ち込むことで、割引料を支払う必要はありますが、現金化することが可能です 。

デメリット

  • 受取企業側
    振出人の経営状況が悪化した場合、手形が期日に決済されない「不渡り」となるリスクがあります。

    期日前に現金化する際の割引料は受取人負担となるのが一般的です 。

    紙の手形であるため、保管や管理、期日管理、取立依頼といった事務作業の
    負担が生じます。また、紛失や盗難のリスクも伴います 。
  • 支払企業側
    手形帳の購入、手形の振出作業、印紙の貼付など、発行に伴う事務負担とコスト(印紙税)が発生します 。

近年、政府は2026年度末までに紙の約束手形の利用を原則として廃止し、小切手の全面的な電子化を目指す方針を示しています 。この動きは、でんさい(電子記録債権)のような、より安全で効率的な決済手段への移行を促すものです。

約束手形は依然として一部の業界や企業間で利用されていますが 、その利用は過渡期にあると認識し、将来的な対応を見据える必要があります。

企業にとっては、現行の紙の手形に関するコンプライアンスを遵守しつつ、電子的な代替手段への移行準備を進めるという二重の対応が求められている状況です。

領収書の基本:正しい書き方と収入印紙のルール

約束手形の領収書に特有の事項に入る前に、一般的な領収書の作成ルール、特に収入印紙に関する規定を理解しておくことが不可欠です。

これらの基本ルールは、現金受領時だけでなく、有価証券である約束手形を受領した際の領収書にも適用されます。

領収書の法的意義と役割

領収書は、商品やサービスの対価として金銭または有価証券を受領した事実を証明するための重要な証拠書類です 。

取引の当事者双方にとって、後日の紛争を避けるため、また税務調査時における取引の真正性を立証するために不可欠なものとなります。

領収書の基本的な記載項目

領収書の書き方について、法律で厳密に定められた統一の様式はありません。

しかし、消費税法における仕入税額控除の適用や、法人税法・所得税法における経費計上の証拠書類としての役割を果たすためには、一般的に以下の項目を記載することが求められます 。

取引年月日
金銭または有価証券を実際に受領した年月日を記載します。領収書の発行日ではない点に注意が必要です 。例えば、代金を4月30日に受領し、領収書を5月1日に発行する場合でも、取引年月日は「4月30日」と記載します。

宛名
代金を支払った個人または法人の正式名称を記載します。「株式会社」を「(株)」と省略したり、「上様」としたりすることは、小売業など一部の業種を除き、税務上問題視される可能性があるため避けるべきです 。

金額
受領した金額を正確に記載します。算用数字で記載する場合、改ざんを防ぐために金額の先頭に「¥」や「金」を、末尾に「-」や「※」、「也」などを付記することが推奨されます。また、3桁ごとにコンマ(,)を入れると見やすくなります 。

但し書き
何の代金として受領したのかを具体的に記載します。「お品代として」のような曖昧な表現は避け、「書籍代として」「コンサルティング料として」など、取引内容が明確にわかるように記載することが重要です 。

この但し書きの具体性は、受領者側だけでなく発行者側にとっても、取引内容を後日確認する上で役立ちます。

発行者名
領収書を発行した個人事業主の氏名または屋号、法人の名称、所在地、連絡先(電話番号など)を明記します 。

収入印紙のルール

売上代金に係る金銭または有価証券の受取書、つまり領収書は、印紙税法で定められた課税文書(第17号文書)に該当する場合があります 。収入印紙は、この印紙税を納付するために用いられます。

収入印紙が必要となる金額
領収書に記載された受取金額が5万円以上の場合に収入印紙の貼付が必要です 。記載金額が5万円未満の場合は非課税となり、収入印紙は不要です。

この「5万円」という基準は、以前は「3万円」でしたが、平成26年の改正で変更されました 。この変更点を認識しておくことは、古い情報に基づいて誤った対応をしないために重要です。

消費税額の取り扱い

領収書に消費税額が明確に区分して記載されている場合は、その消費税額を含まない税抜きの金額で5万円以上かどうかを判断します 。

例えば、本体価格48,000円、消費税4,800円、合計52,800円の領収書で、消費税額が明記されていれば、本体価格が5万円未満のため収入印紙は不要です。

収入印紙の金額

収入印紙の税額は、領収書の記載金額に応じて段階的に定められています。詳細は以下の表をご参照ください。

収入印紙の購入場所

収入印紙は、郵便局、法務局、役所のほか、一部のコンビニエンスストアでも購入できます。

ただし、コンビニエンスストアでは200円の収入印紙など、取り扱っている種類が限られている場合が多いため、高額な印紙が必要な場合は郵便局や法務局を利用するのが確実です 。

収入印紙の貼り方と消印

収入印紙は領収書の所定の場所(通常は空いているスペース)に貼り付け、その印紙と文書の両方にかかるように消印(割印)を押します。消印は、発行者の印鑑または署名で行います。

この消印がない収入印紙は、印紙税を納付したことにならないため無効となります 。

収入印紙は、領収書発行における直接的なコストとなるため、その要否や金額を正確に把握することは、企業の経費管理および税務コンプライアンスの観点から非常に重要です。

誤った取り扱いは、過怠税などのペナルティにつながる可能性もあるため注意が必要です。

収入印紙税額一覧表(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書:第17号文書)

領収書に記載された受取金額(税抜金額で判断可)収入印紙の金額
5万円未満不要(非課税)
5万円以上~100万円以下200円
100万円超~200万円以下400円
200万円超~300万円以下600円
300万円超~500万円以下1,000円
500万円超~1,000万円以下2,000円
1,000万円超~2,000万円以下4,000円
2,000万円超~3,000万円以下6,000円
3,000万円超~5,000万円以下10,000円
5,000万円超~1億円以下20,000円
1億円超~2億円以下40,000円
2億円超~3億円以下60,000円
3億円超~5億円以下100,000円
5億円超~10億円以下150,000円
10億円超200,000円

この表は、領収書発行時に必要な収入印紙の金額を迅速に確認するためのものです。正確な印紙税の納付は、法律遵守の基本であり、無用な追徴課税を避けるためにも重要です。

【徹底解説】約束手形の領収書の書き方:記載例と注意点

【徹底解説】約束手形の領収書の書き方:記載例と注意点

ここからは、本記事の核心である「約束手形を受領した際の領収書の書き方」について、具体的な記載例を交えながら詳しく解説します。

基本は通常の領収書と同じ

まず押さえておくべき点は、約束手形を受領した場合に発行する領収書も、基本的な記載項目は金銭を受領した際の領収書と大きく変わらないということです 。

前章で解説した「取引年月日」「宛名」「金額」「発行者名」といった項目は同様に必要となります。

約束手形受領時の特有の記載ポイント

ただし、約束手形という有価証券を受領したことによる特有の注意点があり、特に「日付」と「但し書き」の記載方法が重要になります。

  1. 日付
    領収書に記載する日付は、約束手形を実際に受領した日を記入します 。これは非常に重要なポイントで、手形に記載されている「支払期日(満期日)」や「振出日」ではありません。
    例えば、令和6年5月10日に約束手形を受け取った場合、たとえその手形の支払期日が令和6年7月31日であっても、領収書の日付は「令和6年5月10日」となります。
    この日付の正確性は、後述する収入印紙の過誤納還付請求の時効(文書作成日から5年 )にも関わってくるため、注意が必要です。
  2. 金額
    領収書に記載する金額は、受領した約束手形の券面金額をそのまま記載します 。手形割引を行った場合の割引料などを差し引いた金額ではありません。
  3. 但し書き
    ここが約束手形の領収書を作成する上で最も重要なポイントとなります。但し書きには、以下の情報を明確に記載することが強く推奨されます。
    • 手形で受領した旨
      「〇〇代金として、約束手形にて正に受領いたしました」のように、現金ではなく約束手形で代金を受領したことを明記します 。
    • 受領した手形の特定情報
      後日の確認や管理、万が一のトラブル(手形の不渡りなど)に備えて、受領した約束手形を具体的に特定できる情報を追記することが望ましいです。具体的には、以下の情報を記載するとよいでしょう 。
      • 手形番号
      • 振出人名
      • 支払場所(銀行名・支店名)
      • 支払期日 

このように詳細な情報を記載することで、領収書と受領した手形との関連性が明確になり、内部での経理処理や、万が一手形が不渡りになった場合の証拠としての価値も高まります。

  1. 宛名
    手形の振出人、または手形を裏書譲渡した相手方の正式名称を記載します。
  2. 発行者
    通常の領収書と同様に、自社の名称、所在地、連絡先などを記載します。インボイス制度に対応する場合は、登録番号もここに記載します(詳細は次章)。

収入印紙の要否判断と貼付(約束手形の場合)

約束手形は「有価証券」に該当します。したがって、売上代金の受領証として約束手形を受け取った場合に発行する領収書は、印紙税法上の第17号文書「金銭又は有価証券の受取書」に該当し、現金を受領した場合と同様に印紙税が課税されます 。

つまり、領収書に記載した手形の券面金額が5万円以上であれば、前章で示した「収入印紙税額一覧表」に従って、適切な金額の収入印紙を領収書に貼付し、消印(割印)を押す必要があります。

記載例

以下に、売上代金110万円(内消費税10万円)を約束手形で受領した場合の領収書の記載例(インボイス制度対応)を示します。

領収書

No. 20240516-001

日付:令和6年5月16日  (←手形を受領した日)

宛名:〇〇商事株式会社 御中

金額:金 1,100,000 円也  (←手形の券面金額)

但し書き:製品Aの売上代金として、下記約束手形にて正に受領いたしました。

          手形番号:東第007788号

          振出人:〇〇商事株式会社

          支払場所:みずほ銀行 神田支店

          支払期日:令和6年8月31日

上記正に領収いたしました。

内訳(10%対象)

  税抜金額    ¥1,000,000

  消費税額等  ¥  100,000

発行者:

  〒101-0000 東京都千代田区大手町1-2-3

  △△工業株式会社

  代表取締役 印田 税子  (社印)

  電話:03-1234-5678

  登録番号:T1234567890123

(収入印紙 400円 貼付・消印)

この記載例はの例を参考に、金額を110万円(100万円超200万円以下)として調整し、対応する印紙税額を400円としています。

このように、約束手形の領収書では、特に但し書きに受領した手形の詳細を記載すること、そして日付を手形受領日とすることが重要です。これにより、取引の透明性が高まり、後の経理処理や万が一の際の証拠能力も確保されます。

インボイス制度と領収書:適格請求書としての対応方法

2023年10月1日から本格的に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、領収書のあり方にも大きな影響を与えています。約束手形を受領した際の領収書も、この制度と無関係ではありません。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の概要

インボイス制度は、複数税率(標準税率10%、軽減税率8%)に対応した消費税の仕入税額控除の方式です 。

この制度の下では、買手が仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として、売手である「適格請求書発行事業者」から交付された「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となります 。

適格請求書発行事業者となるためには、事前に税務署長に登録申請を行い、登録を受ける必要があります 。

重要な点として、この登録を受けると、それまで免税事業者であったとしても消費税の課税事業者となり、消費税の申告および納税の義務が生じます 。

領収書を「適格請求書」または「適格簡易請求書」として発行するための要件

領収書も、必要な記載事項を満たせば「適格請求書」または「適格簡易請求書」として取り扱うことが可能です 。これにより、別途請求書を発行せずとも、領収書一枚でインボイスの要件を満たすことができます。

適格請求書に必要な記載事項(主にBtoB取引向け)

  1. 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
    (「T」+13桁の数字)
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨を明記)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称(宛名)

適格簡易請求書に必要な記載事項(小売業、飲食店業など不特定多数の者へ販売等を行う事業者向け)

適格簡易請求書は、上記の適格請求書の記載事項を一部簡略化したものです。

「6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」の記載は不要です。

「5. 税率ごとに区分した消費税額等」と「4. 適用税率」のいずれか一方の記載で足ります(両方の記載も可)。

約束手形の領収書をインボイス対応にする際の重要ポイント

約束手形の領収書をインボイスとして発行する場合、特に注意すべきは、約束手形そのものの性質と、それが対価として支払われた元となる取引との関係です。

約束手形自体は非課税取引

有価証券である約束手形の譲渡や受領は、消費税法上、非課税取引とされています 。このため、約束手形を受け取ったという行為自体には消費税はかかりません。

しかし、元となる取引が課税対象の場合
ここが非常に重要なポイントです。

事業者が約束手形を「商品の販売代金」や「サービスの提供対価」として受け取った場合、その元となる取引(商品販売やサービス提供)が消費税の課税対象であれば、その取引全体に対して消費税が課されます。

支払手段が約束手形であるからといって、元々の課税取引が非課税になるわけではありません。 

この場合、買手側がその課税仕入れについて仕入税額控除を受けるためには、売手側(手形受領者)が適格請求書発行事業者であれば、インボイスの要件を満たした書類(この場合は領収書)を交付する必要があります。

インボイス記載要件の適用

したがって、自社が適格請求書発行事業者であり、かつ、約束手形が課税取引の対価として受領されたものであるならば、その約束手形の領収書には、

上記の適格請求書の記載要件(登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額等)をすべて記載する必要があります。登録番号は、発行者の名称や住所の近くなど、わかりやすい場所に記載するのが一般的です 。

この点を誤解し、「手形取引だからインボイスは不要」と判断してしまうと、取引先が仕入税額控除を受けられなくなる可能性があるため、十分な注意が必要です。

あくまで、領収書がインボイスの役割を兼ねる場合、そのインボイスは「元となった課税取引」に関する情報を記載するものと理解することが肝要です。

インボイスの保存義務

発行した適格請求書(または適格簡易請求書)の写し、および受領した適格請求書は、原則としてその課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間保存する義務があります 。

電子データで授受した場合は、電子帳簿保存法の要件に従って保存する必要があります 。

通常の領収書と適格請求書(領収書)の記載項目の比較

記載項目通常の領収書適格請求書(領収書として発行する場合)適格簡易請求書(領収書として発行する場合)
発行事業者の氏名または名称
登録番号×
取引年月日
取引内容〇(軽減税率対象品目である旨を含む)〇(軽減税率対象品目である旨を含む)
対価の額(税抜または税込)税率ごとに区分して合計した額税率ごとに区分して合計した額
適用税率× (内訳に記載する場合あり)〇(または税率ごとの消費税額等)
税率ごとに区分した消費税額等× (内訳に記載する場合あり)〇(または適用税率)
書類の交付を受ける事業者の氏名または名称(宛名)×(不要)

この比較表は、インボイス制度導入によって領収書にどのような追加情報が必要になったかを視覚的に理解するのに役立ちます。

特に、自社が適格請求書発行事業者である場合、取引先からインボイス対応の領収書を求められるケースを想定し、これらの項目を網羅できるように準備しておくことが重要です。

【無料】約束手形領収書テンプレート

実務における利便性を考慮し、約束手形領収書のテンプレートを表形式で以下に示します。表形式を採用することで、各記載項目が整理され、記入漏れや誤記を防ぐ助けとなります。

標準テンプレート

まず、インボイス制度対応以前から一般的に使用されている標準的な約束手形領収書のテンプレートです。基本的な記載事項を網羅しており、多くの商取引で利用可能です。

表1: 約束手形領収書テンプレート(標準)

項目記載内容・記載例
タイトル領収書
発行日令和〇年〇月〇日
通し番号 (任意)No. ________
宛名_____________ 御中 (または 様)
金額¥___________ ※ (または 金___________円也)
但し書き_______代として、下記約束手形にて正に領収いたしました。・手形番号:________・支払期日:令和〇年〇月〇日・振出人〠   :________・支払場所:____銀行 ___支店
発行者住所:〒___-____ ___________________会社名:____________株式会社電話番号:____-____-____(この箇所に角印または担当者印を押印)
収入印紙貼付欄(5万円以上の場合は、金額に応じた収入印紙を貼付し消印)

この標準テンプレートは、約束手形という特定の有価証券を受領した事実を明確に記録するための基本的な枠組みを提供します。

インボイス制度対応テンプレート

次に、2023年10月1日から施行されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応した約束手形領収書のテンプレートです。このテンプレートは、領収書が適格請求書または適格簡易請求書としての要件も満たす必要がある場合に用います。

表2: 約束手形領収書テンプレート(インボイス制度対応)

項目記載内容・記載例
タイトル領収書 (適格請求書)
発行日令和〇年〇月〇日
通し番号 (任意)No. ________
宛名_____________ 御中 (または 様)
金額¥___________ ※ (または 金___________円也)
但し書き_______代として、下記約束手形にて正に領収いたしました。
・手形番号:________
・支払期日:令和〇年〇月〇日
・振出人   :________
・支払場所:____銀行 ___支店
(軽減税率対象品目がある場合は、その旨を明記。例:「※軽減税率対象」)
税率ごとの合計金額(税抜又は税込)10%対象: ¥________
8%対象: ¥________
適用税率10%対象、8%対象
税率ごとの消費税額等10%対象消費税額等: ¥________
8%対象消費税額等: ¥________
発行者登録番号:T___________
住所:〒___-____ ___________________<会社名:____________株式会社
電話番号:____-____-____
(この箇所に角印または担当者印を押印)
収入印紙貼付欄(5万円以上の場合は、金額に応じた収入印紙を貼付し消印)

このインボイス制度対応テンプレートは、受領した約束手形が課税取引の対価である場合に、その領収書が仕入税額控除のための証憑として機能するために必要な追加情報を網羅しています。

特に「発行者の登録番号」や「税率ごとの消費税額等」の記載が重要となります 。

なお、小売業など特定の事業者が発行する適格簡易請求書の場合、宛名の記載が不要となるケースもありますが 、企業間取引で約束手形を受領する一般的なケースでは、宛名の記載が通常求められます。

手形・領収書・インボイスに関するQ&A

手形・領収書・インボイスに関するQ&A

ここでは、約束手形、領収書、そしてインボイス制度に関連して、実務上よく遭遇する疑問点や特殊なケースについてQ&A形式で解説します。

Q1: 電子手形(でんさい)や電子領収書の場合、収入印紙は必要ですか?インボイス対応はどうなりますか?

A1

収入印紙について
電子契約や電子領収書(例:PDFファイルで発行・送付されるもの)は、印紙税法でいう「文書の作成」には該当しないと解釈されています。

印紙税は紙の文書に対して課される税金であるため、電子データでやり取りされるこれらの書類には収入印紙は不要です 。これは、でんさい(電子記録債権)についても同様で、紙媒体を介さないため印紙税の課税対象外となります。

インボイス対応について
電子的に発行される請求書や領収書も、インボイス制度の記載要件(登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額など)を満たしていれば、適格請求書として認められます 。これを「電子インボイス」と呼びます。

電子インボイスの提供方法としては、EDI(電子データ交換)取引、電子メールへのファイル添付、ウェブサイトからのダウンロードなどが挙げられます。 

重要なのは、電子インボイスを授受した場合、そのデータの保存は電子帳簿保存法の要件に従って行う必要があるという点です 。単に印刷して紙で保存するだけでは不十分な場合があるため、注意が必要です。

Q2: 収入印紙の金額を間違えた、または貼り忘れた場合の対処法は?

A2

貼り忘れ・金額不足の場合
収入印紙を貼り忘れたり、必要な金額に満たない印紙を貼ったりした場合、税務調査などで指摘されると、本来納付すべきだった印紙税額に加えて、その2倍に相当する過怠税(合計で本来の3倍の額)が課される可能性があります。

ただし、調査を受ける前に自主的に不納付の事実を申し出た場合は、過怠税は本来の印紙税額の1.1倍に軽減されます 。誤りに気づいた場合は、速やかに所轄の税務署に相談し、適切な手続きを行うことが重要です。

過払い・誤って貼付した場合
逆に、必要以上の金額の収入印紙を貼ってしまったり、非課税文書(例:5万円未満の領収書)に誤って収入印紙を貼ってしまったりした場合は、還付請求が可能です。

「印紙税過誤納確認申請(兼充当請求)書」という書類を作成し、誤って印紙を貼った文書の原本などと共に所轄の税務署長に提出することで、過誤納分の還付を受けることができます 。

ただし、この還付請求権は、文書を作成した日から5年を経過すると時効により消滅するため、早めの手続きが必要です 。

Q3: 受け取った約束手形が不渡りになった場合、発行した領収書の扱いはどうなりますか?

A3:約束手形が不渡りになったとしても、その手形を受領した際に発行した領収書が直ちに無効になるわけではありません。領収書はあくまで「約束手形という有価証券を受領した」という事実を証明するものです。

不渡りが発生した場合、債権者(手形受領者)は、手形の振出人や裏書人に対して遡求権(支払いを求める権利)を行使して債権の回収を図ることになります。

会計処理上は、受取手形勘定から不渡手形勘定へ振り替えるなどの対応が必要となります。元の売掛金債権が実質的に未回収の状態に戻ったと考えることもできます。

領収書の再発行や回収については、取引の状況や相手方との協議によりますが、基本的には不渡りの事実と、その後の債権回収の進捗を別途正確に記録・管理することが重要です。領収書自体は、手形を受領した証拠として存在し続けます。

Q4: 約束手形の一部だけ現金で支払いがあった場合、領収書はどう書けばいいですか?

A4:このケースでは、実際に受領した現金部分に対して領収書を発行するのが原則です。但し書きには、「約束手形(手形番号XXXX)の一部入金として、現金にて正に受領いたしました」のように、どの手形の一部であるか、そして現金で受領した旨を明記します。

金額は、実際に受領した現金の額を記載します。5万円以上の現金受領であれば、収入印紙の貼付が必要です。

残りの手形金額については、引き続き手形として管理するか、相手方と協議の上で新たな手形に交換するなどの対応が考えられます。

もし、元の取引が課税取引であり、インボイス対応が必要な場合は、現金で受領した部分が課税対象であれば、その部分についてインボイスの要件を満たした領収書を発行する必要があります。

Q5: 銀行振込で代金を受領した場合、領収書は必要ですか?

A5:銀行振込によって代金を受領した場合、振込を行った側には銀行が発行する「振込金受取書」や通帳の記帳記録が支払いの証拠として残ります。そのため、税務上は、受領側が必ずしも領収書を発行しなければならないというわけではありません 。

しかし、民法上、弁済をした者は受取証書の交付を請求できるとされており(民法第486条)、支払側(振込側)から領収書の発行を求められた場合には、受領側は原則として発行する義務が生じます 。

領収書を発行する場合、受領金額が5万円以上であれば収入印紙の貼付が必要となります。ただし、これは紙の領収書を発行する場合であり、PDFなどの電子領収書として発行する場合は収入印紙は不要です 。

振込明細書と領収書の両方が存在することになるため、支払側は二重に経費計上しないよう注意が必要です 。

これらのQ&Aは、実務で起こりうる様々な状況への対応のヒントとなるでしょう。法的な義務と商慣習上の対応を区別し、個別のケースに応じて適切な判断をすることが求められます。

まとめ

本記事では、約束手形の領収書の書き方を中心に、関連する収入印紙のルール、そして2023年10月から本格始動したインボイス制度への対応方法について、無料テンプレートの活用も含めて詳細に解説してきました。

約束手形の領収書を作成する際には、以下の点が特に重要です。

日付
手形を実際に受領した日を記載する。

但し書き
「約束手形にて受領」した旨を明記し、手形番号や支払期日などの手形特定情報を加える。

収入印紙
手形金額が5万円以上の場合、適切な額の収入印紙を貼付し消印する。

インボイス対応
自社が適格請求書発行事業者であり、かつ元となる取引が課税取引である場合、登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額などを記載し、適格請求書の要件を満たす。

これらの書類を正確に作成・管理することは、単に事務作業をこなすということ以上の意味を持ちます。

法令遵守はもちろんのこと、取引先との信頼関係を構築し、社内の経理処理を円滑に進め、さらには税務調査に適切に備えるという観点からも極めて重要です。

不正確な書類作成は、追徴課税や取引上のトラブル、信用の失墜につながる可能性も否定できません。

特にインボイス制度は、多くの事業者にとって比較的新しい制度であり、対応すべき事項も多岐にわたります。正しい知識を習得し、自社の状況に合わせて適切に対応していくことが、今後の事業運営において不可欠です。

政府の方針として、紙の約束手形は将来的には利用が縮小・廃止される方向性も示されています 。

この大きな流れも念頭に置きつつ、現行の取引においては、本記事で解説したポイントを確実に実践し、日々の業務におけるリスクを低減し、スムーズでトラブルのない事業運営を目指しましょう。

継続的な情報収集と、変化への適応が、これからのビジネスシーンではますます重要になると言えるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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