インボイス制度の基礎知識

返還インボイスとは?誤入金時の対応や少額免除制度、実務ポイントを徹底解説

公開日:

返還インボイス

中小企業の経理担当者やフリーランスにとって、返還インボイス(適格返還請求書)はインボイス制度下で知っておくべき重要な書類です。

商品の返品や値引き、あるいは振込ミスなどで返金が発生した場合、「返還インボイスを発行すべきか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。本記事では、返還インボイスの基礎から実務対応まで徹底解説します。

誤入金時に返還インボイスが必要かどうかの判断基準、インボイス制度内での位置づけ、免税事業者との取引の注意点、少額返還インボイスの交付義務免除制度、そして具体的な帳簿処理の手順やケーススタディについて詳しく説明します。

インボイス制度への対応を万全にし、税務上のトラブルを防ぐために、ぜひ最後までお読みください。

目次

返還インボイスとは何か(インボイス制度における位置づけ)

返還インボイスとは、正式名称を「適格返還請求書」といい、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の下で導入された新しい帳票の一つです。

日本では2023年10月1日からインボイス制度が開始され、事業者間取引における消費税の適正な計算と仕入税額控除のために適格請求書(インボイス)の発行・保存が義務化されました。

その一環として、取引後の対価の返還が発生した場合に発行するのが返還インボイスです。

返還インボイスの役割は、取引の「修正」や「変更」を正確に記録し、消費税額を適切に調整することにあります。

たとえば商品の返品や値引き、売上代金の一部返還などが起こったとき、通常の請求書とは別に所定の項目を記載した返還インボイスを発行します。

これにより、当初の取引金額や消費税額に生じた変化を明確に示し、売り手・買い手双方が正しい税務処理を行えるようになります。

インボイス制度は消費税の適正な課税と公平性を図るための仕組みです。返還インボイスはその中で、消費税の二重計上や過大・過少申告を防ぎ、取引の透明性を高める役割を果たします。

具体的には、返金や値引きによって売上金額が減った場合、返還インボイスを発行・保存することでその分の消費税を差し引いて計算できます。

これによって売り手側は納付すべき消費税額を正しく減額でき、買い手側も仕入税額控除を適切に調整できます。

インボイス制度開始以前は、返品や値引き時の消費税調整が事業者の任意の書類や処理に委ねられていましたが、制度導入後は返還インボイスという統一フォーマットで管理することが求められるようになりました。

返還インボイスが必要になるケース

まず、どのような場合に返還インボイスの発行が必要となるのか把握しておきましょう。返還インボイスは売上代金の一部を後から返すようなケースで交付が義務付けられます。典型的なケースとして、次のような状況が挙げられます。

商品の返品

取引先(買い手)から商品を返品された場合です。いったん受け取った売上代金を返金する際に、売り手側はその返金額に対して返還インボイスを発行します。

例えば、10万円の商品を販売後に返品されたら、返金する10万円分について返還インボイスを交付します。

後日判明した値引き

販売後に商品の欠陥や取引条件の変更などで販売額を減額(値引き)する場合です。当初の請求額から値引きを行い差額を返金する際、その返金額について返還インボイスを発行します。

例えば、「当初10万円で請求したが、商品不良により2万円値引きして実質8万円にした」というような場合、2万円の返金時に返還インボイスが必要です。

ただし、最初から値引き価格で販売していた場合(取引時点で値引きが確定している場合)には、通常の適格請求書に最初から値引き後の金額を記載すれば足り、別途返還インボイスを発行する必要はありません。

売上割戻し(リベート)

一定量の購入や一定期間の取引高に応じて、後日売上代金の一部を返金する契約(リベート)がある場合です。

例えば「1万円の商品を10個まとめ買いしたら、後で2万円キャッシュバックする」といったケースでは、2万円の返金時に返還インボイスを交付します。

売上割戻しは実質的に取引価格の調整に当たるため、インボイス制度上は返還インボイスで処理することになります。

販売奨励金の支払い

メーカーなどが販売店に対し、販売数量や業績に応じてインセンティブ(金銭)を後から支払う場合です。

これは帳簿上、仕入側から見ると仕入値引き(仕入れ価格の調整)と同じ性質を持つため、販売奨励金を支払う際にも返還インボイスの発行が必要となります。

例えば「卸業者A社が小売店B社に商品を卸し、B社の販売実績に応じて1個当たり100円の奨励金を後日支払う」という場合、A社からB社へ奨励金支払い時にその金額分の返還インボイスを交付します。

事業分量配当(金)

協同組合などで見られるケースですが、組合員の利用分量に応じて後から払戻しを行う(利用分量配当)場合も、取引価格の修正とみなされ返還インボイスが必要です。

一般の企業間取引ではあまり登場しない特殊なケースですが、協同組合に所属する事業者は留意しましょう。

以上のように、「取引後に売上代金の一部を返還する状況」では返還インボイスが求められます。言い換えれば、当初発行した適格請求書に記載した対価の額を後から減額するような場面です。

こうしたケースが発生し得る事業者は、いつでも返還インボイスを発行できるよう準備をしておくことが望ましいでしょう。

返還インボイスを発行するための条件(誰が対象か?)

返還インボイスはすべての事業者が発行できるわけではない点に注意が必要です。発行・交付の義務や権利があるのは、以下の条件を満たす事業者のみとなります。

課税事業者であること

まず、発行する側(通常は売り手)が消費税の課税事業者である必要があります。前々事業年度の課税売上高が1,000万円超の事業者(または新設法人等一定の場合)で消費税の納税義務がある者を指します。

反対に、課税売上高が基準以下で消費税納税義務のない免税事業者は、返還インボイス制度の対象外です。

免税事業者には消費税の計算・申告義務自体がないため、返還インボイスを発行することは求められず(そもそも発行資格がなく)、返金処理も通常の書類(領収書や返金伝票など)で行います。

適格請求書発行事業者として登録済みであること

インボイス制度では、課税事業者が税務署に登録申請して「適格請求書発行事業者」となり、固有の登録番号(Tから始まる13桁の番号)を取得する必要があります。

返還インボイスも「適格請求書」の一種ですから、発行側はこの登録番号を持っていなければなりません。したがって、未登録の課税事業者(まだインボイス発行事業者になっていない場合)は返還インボイスを正式には発行できません。

適格請求書発行事業者の登録番号は、返還インボイスの様式上必ず記載しなければならない重要項目です。

取引の返品・値引き・割戻し等で対価の返還が発生していること

当然ですが、返還インボイスは実際に返金を伴う場合にのみ発行します。通常の取引では必要ありません。

返品や値引きなどで当初の売買契約内容に変更が生じ、金銭の返還が発生した場合に初めてその返金分について発行が求められます。

何も取引修正がないのに返還インボイスを発行することはありません。

以上をまとめると、「課税事業者としてインボイス発行事業者に登録済みの売り手」が、「取引後に金額変更が生じて返金を行う」場合に、返還インボイスの発行義務が生じる、ということになります。

中小企業やフリーランスでも、消費税の課税事業者としてインボイス登録している方はこの条件に該当します。

自社が適格請求書発行事業者であり、なおかつ上記のような返金シチュエーションが起これば、速やかに返還インボイスを発行・交付する必要があります。

返還インボイスを発行しなくてよい場合(免除・不要となるケース)

返還インボイスを発行しなくてよい場合(免除・不要となるケース

一方で、状況によっては返還インボイスの発行義務が免除される、あるいは必要ないケースも存在します。インボイス制度の原則を踏まえつつ、以下のケースでは返還インボイスを交付しなくてもよいとされています。

取引相手が免税事業者の場合

買い手側(返金を受ける側)が免税事業者である場合には、返還インボイスは基本的に不要です。免税事業者(前々年の課税売上高が1,000万円以下などで消費税の納税義務が免除されている事業者)は、仕入税額控除を行いません。

そのため、売り手がわざわざ返還インボイスを交付しなくても税務上の不都合は生じません。

例えば、自社がお客様(買い手)に対して返品の返金を行うとして、お客様が免税事業者(または個人事業主で消費税申告不要)であれば、返還インボイスは法律上交付義務がありません。

ただし、取引の証拠として通常の領収書や返金控えなどは発行・保存しておくのが望ましいでしょう(消費税額に関する問題はありませんが、会計上のエビデンスとして必要です)。

返還金額が少額(税込1万円未満)の場合

返金や値引きの金額が1万円未満(税込)であるケースでは、2023年度の税制改正により返還インボイスの交付義務が免除されました。少額の返金について事務負担を軽減する目的の緩和措置です。

具体的には、返還する金額が税込で1万円に満たない場合には返還インボイスを発行しなくてもよいことになっています。

例えば、振込手数料相当額の500円を値引きして返金するような場合や、ごく小さい金額の過誤入金を返す場合など、返金額が1万円未満であれば返還インボイス不要です(この少額免除制度の詳細は後述します)。

※「税込1万円未満」ですので、消費税10%の場合は税抜9,091円までが該当します。

取引相手が一般消費者(事業者でない個人)の場合

エンドユーザーである個人消費者との取引では、もともとインボイス発行義務自体がありません。

したがって、消費者から返品があったり値引きを行ったりして代金を返す場合でも、返還インボイスを交付する必要はありません(交付先がインボイスを必要としないため)。

この場合、通常のレシートや領収書で返金処理を証明すれば足ります。例えば店舗での返品対応では、返金時にレシートや返品伝票を渡す程度で問題ありません。

ただし売り手側は、返品によって売上が取り消された事実を社内で記録(レジのジャーナルや返品処理票の保存など)しておき、後日の税務調査に備えることが重要です。

適格請求書の交付義務自体が免除されている取引の場合

インボイス制度には、特定の取引について適格請求書の交付義務を免除する規定があります。

例えば「3万円未満の公共交通機関の旅客運送代」「農協や漁協等が委託販売する農林水産物」「3万円未満の自動販売機での商品の販売」「郵便切手類の販売」など、性質上インボイス発行を省略できるケースです。

これら元々インボイスを発行しなくてよい取引において、後日返金が発生した場合も返還インボイスの交付義務はありません。業種・取引の特殊要件に該当する場合は、返還インボイスも免除される点を覚えておきましょう。

その場で即時に返金処理が完了する場合

特に店頭対応などで、商品返品と同時に現金で返金し、領収書やレシートで返金の事実を示せる場合も、個別に返還インボイスを作成しないことがあります。

この場合、返金を証明する書類(レシートや返金伝票)が実質的に返還インボイスの役割を果たすと考えられます。

ただし、これが正式に認められるのはB2C取引や少額取引の場合が多く、相手が事業者で金額が大きい返品なら正式に返還インボイスを発行したほうが安全です。

以上のケースでは、法律上返還インボイスを交付しなくても罰則はなく、税務上も問題ありません。しかし、返還インボイスを省略できる場合でも社内の帳簿や証憑は適切に整備しておくことが大切です。

特に免税事業者相手や消費者相手の返品・返金では、やり取りの記録(メールや受領書など)を残しておき、後から見て明確に返金事実が分かるようにしましょう。

誤入金への返金に返還インボイスは必要?【判断基準を解説】

日々の経理業務では、請求金額とは無関係に誤って入金を受けてしまうケースも発生します。例えば、取引先が誤って二重に振り込んでしまった、金額を一桁間違えて多く振り込まれた、といった「誤入金」です。

こうした誤入金を返金するとき、「これは返品でも値引きでもないけれど、返還インボイスを発行すべきなのか?」と迷うかもしれません。結論から言えば、誤入金の返金には通常、返還インボイスは不要です。

ただし、その判断には「そのお金が売上の対価に当たるかどうか」という基準があります。

ポイント:誤って受け取ったお金が、本来の売上代金(対価)ではない場合、その返金は「売上対価の返還」には該当しないということです。

返還インボイスは、あくまで「取引の対価を返す」場合の書類なので、対価でない金銭のやり取りには適用されません。

具体例を考えてみましょう。例えば、A社がB社に10万円の請求をしたところ、B社から誤って同じ10万円が2回振り込まれ、合計20万円が入金されたとします(本来は10万円で良かったのに、二重入金されたケース)。

この場合、余分な10万円はA社にとって「不当利得」(本来受け取る根拠のないお金)に当たります。法律上、B社(誤って払い過ぎた側)はその過払い金の返還を請求できますし、A社もすみやかに返金する義務があります。

しかし、この返金は取引上の値引きや返品とは異なり、売上代金そのものを減額する行為ではありません。したがって、A社がB社に返す誤入金分10万円については返還インボイスを発行しなくて構いません。

経理処理としては、A社は受け取った20万円のうち本来の売上である10万円を売上高に計上し、残りの10万円は一旦「預り金」や「仮受金」として負債勘定に計上します。

返金時にはその預り金を減少させる仕訳を切り(預り金10万円を借方、現預金10万円を貸方など)、結果的に余計なお金はプラスマイナスゼロで処理されます。

この返金には消費税も絡みませんので、返還インボイスを介さずとも消費税の計算上問題は生じません。

もう一つ、誤入金時によくあるのが振込手数料の負担です。上記のケースで、A社がB社に10万円返金する際に「振込手数料はB社負担」と取り決め、実際には9万9,500円を返し残りの500円は手数料に充当したとします。

B社は自社で振込手数料を差し引いて送金したか、A社が手数料分を控除して返金した形です。この500円はA社から見ると自社の収入(雑収入)になります。

B社が本来負担すべき費用をA社が受け取った形なので、500円は課税売上として計上され、A社が消費税を預かったのと同じ扱いになります。

このように、誤入金に付随する振込手数料相当額などは対価ではなく手数料収入として整理し、返還インボイスの対象にはしません。

以上をまとめると、誤入金の返金=対価に該当しない金銭の返還であれば返還インボイスは不要です。

ただし注意点として、もし当初の請求金額自体が誤って多すぎた場合(たとえば請求書の金額ミスで本来より多く請求・入金してしまったケース)は、単なる「お金の送り間違い」とは異なります。

この場合、請求金額の修正(値引き)に該当しますから、返金分は売上代金の返還=返還インボイスの対象となります。

したがって、「誤入金」の判断は、あくまで元の請求・契約内容が正しく、入金だけがミスだった場合に限ると覚えてください。

元の取引金額自体を訂正する必要がある場合には、それは正式な値引き処理として返還インボイスの発行を検討しましょう。

返還インボイスの発行タイミングと交付の流れ

返還インボイスを発行することになった場合、「いつ」「誰に」交付するかも正しく理解しておきましょう。

基本的に、返還インボイスの交付タイミングは実際に返金を行うときです。売上代金の返還が決まった段階ではなく、返金処理を実施するタイミングで発行する点に注意してください。

例えば、「商品の返品を受けることにした」という決定だけではまだ発行しません。

返品された商品を確認し、返金額が確定して実際に振込や現金払いで返金する際に、その金額について返還インボイスを交付する流れです。

値引きの場合も同様で、「値引きする合意をした時点」ではなく「値引き額の返金(あるいは売掛金相殺)を行う時点」で発行します。

売上割戻しの場合も、取引先が一定の購入条件を満たしたタイミングではなく、実際に割戻金を支払うときに返還インボイスを交付します。

返還インボイスの交付先は、返金を受け取る取引相手(買い手側)です。通常の適格請求書と同様、売り手から買い手に対して発行・交付します。

インボイス制度では売り手側に請求書交付義務がありますが、返還インボイスも同じく売り手側の義務となります。

買い手側から請求されなくても、要件に当てはまる返金であれば売り手が主体的に発行しなければなりません。

交付の方法は、紙でも電子データでも構いません。元のインボイスを郵送しているようであれば返還インボイスも郵送するのが確実ですし、メール送付やシステム上での電子交付でも相手が承諾すれば可能です。

元の請求書と異なる手段で交付しても問題ありませんが、確実に相手に届く形で交付しましょう。また、返還インボイスには後述する記載事項の中に「返還の基となった取引年月日」や「返還内容」を記載する欄があります。

可能であれば元の請求書番号や注文番号なども書類内で言及し、どの取引に対応する返金なのか相手に分かりやすく示すと親切です。

実務上は、返金にあたって振込伝票や送金メールに返還インボイスを添付したり、事前に「◯◯の件の返金を行います。

追って返還インボイスをお送りします。」と一言連絡したりすると良いでしょう。特に取引先が返還インボイスの扱いに不慣れな場合、事前に伝えておくことでスムーズに受領・処理してもらえます。

返還インボイスの記載項目とフォーマット(書き方)

返還インボイスの記載項目とフォーマット(書き方)

返還インボイスは正式な帳票ですので、適格請求書と同様に法律で定められた必要記載事項があります。記載漏れがあると、買い手が仕入税額控除を受けられなかったり、税務上無効と判断されたりする恐れがあるため注意しましょう。

返還インボイスに記載すべき基本項目は次のとおりです(通常の適格請求書に追加情報を加えた形となります)。

適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号

発行者であるあなた(事業者)の正式名称(法人名や屋号・氏名)と、税務署から交付された登録番号を記載します。通常の請求書と同じく一番基本情報となる部分です。

登録番号は「T+13桁」の番号で、法人の場合は法人番号が組み込まれています。

漏れなく正確に記載しましょう。

返還インボイスの発行日(返還を行う年月日)

返還インボイスを発行した日付です。これは返金を行った日(返金処理日)と同じ日付になるのが一般的です。この日付によって、その返金が属する課税期間が決まり税務処理上重要です。

なお、元の取引日とは別に、この返還実施日を明記する必要があります。

返還の基となる取引を行った年月日

どの取引について返還が発生したのか、その元の取引の日付を記載します。例えば「◯年◯月◯日に行った売買契約」といった形です。具体的な取引日を特定することで、返還がどの請求書に紐づくものか明確になります。

月単位の継続取引であれば「◯月分」など期間での記載も認められています。

返還の基となる取引内容

元の取引で何を取り引きしたか、その内容を記します。商品名やサービス名、当初の数量や金額などを簡潔に書き、そのうち何を返還するのかが分かるようにしましょう。

例えば「商品Aの返品」「サービスBの利用料値引き」等具体的に記載します。

軽減税率対象品目である場合はその旨(※軽減税率対象)なども付記する必要があります。

税率ごとに区分した返還金額(税抜きまたは税込)

返還する金額を、その対象となる消費税率ごとに合計して記載します。日本の消費税は標準税率10%と軽減税率8%がありますので、それぞれ該当するものに分けて金額を書く必要があります。

例えば標準税率部分で返金1万円、軽減税率部分で返金5,000円という場合は区分して表示します。金額の表示は税抜でも税込でも構いませんが、後述の消費税額との整合性が取れるよう注意します。

返還する金額にかかわる消費税額または適用税率

上記の返還金額に対応する消費税額を明記します。または適用税率を書いても良いとされています(もちろん両方書いても差し支えありません)。例えば「消費税額800円」や「適用税率10%」といった具合です。

税率ごとに返還額を記載した場合、それぞれに対応する消費税額を計算し記載すると親切です。

以上が返還インボイスの主な記載事項です。基本的には通常の適格請求書の必須項目(発行者名・登録番号、取引日、品目/内容、金額、税額、相手先名)に返還取引特有の情報(返還日、元取引日・内容)を追加するイメージになります。

様式について特別な決まりはありませんが、上記項目が漏れなく盛り込まれていれば自社独自の書式でも問題ありません。

記載のコツとして、まず返金の理由や背景を明確にすることが挙げられます。返還インボイスの備考欄などに「〇〇商品の返品による返金」などと一言添えておくと、後から見て分かりやすいでしょう。

また金額計算は丁寧に行い、元の請求書の金額と返還額をきちんと対応付けます。特に消費税額は、返還額に応じて端数処理などが発生し得ますので、円未満の処理を規定どおりに行い正確な額を記載します。

近年はクラウド会計ソフトや請求書発行システムで返還インボイスのテンプレートを提供している場合もあります。

ひな形を利用したり、国税庁が公開している適格請求書の記載例を参考にしたりして、抜け漏れない書類作成を心がけてください。

少額な返還インボイス交付義務免除の制度概要と実務対応

上でも触れたとおり、返還インボイスの少額特例として「税込1万円未満の返還であればインボイス交付義務が免除される」制度が設けられています。これは2023年度の税制改正によって盛り込まれた新たなルールです。

中小の事業者にとって、細かい値引きや手数料レベルの返金のたびにインボイスを発行するのは大きな負担となります。

そこで、1万円未満のごく少額の返金については、返還インボイスを省略可能とすることで事務の簡素化を図っています。

制度の概要

返還インボイスの交付免除が適用されるのは、「対価の返還額が税込みで1万円未満」の場合です。

例えば、取引先からの支払いの際に銀行の振込手数料500円が差し引かれて入金されたケースでは、本来受け取るべき金額との差額500円が売上値引きに該当します。

この500円は1万円未満ですから、売り手側は500円分の返還インボイスを発行しなくても法律上問題ありません。

具体的な適用例

販売代金の入金時に振込手数料を差し引かれた場合

買い手が請求額から手数料を差し引いて振り込んだ際、売り手としてはその差額を売上値引き(売掛金の減額)として処理します。差額が例えば数百円~数千円程度なら返還インボイス不要です。

ただし、その差額分について買い手側は後述のように自社で仕入控除額を調整する必要があります。

商品返品等で極めて少額の返金となる場合

例えば500円の商品を返品した、といったケースです。この場合も500円は税込額で1万円未満なので返還インボイス省略が可能です。レシートレベルの小口の返品が想定されます。

値引き額が少額な場合

取引先に対しお詫びとして1,000円だけ値引き返金する、といったケースでも返還インボイス省略が認められます。

適用上の注意

1万円未満であれば自動的に免除されますが、1万円ちょうどや1万円を超える場合は通常どおり返還インボイスが必要です。たとえば税込1万500円の返金なら、これは免除の対象外(1万円以上)なので発行義務があります。

「税込1万円未満」という線引きを超えないよう、返金額の設定に工夫できる場合は調整する手もあります。

とはいえ、返金額をわざと1万円未満に抑えるのは現実的でないケースも多いでしょう。基本的には発生した返金額ベースで判断します。

買い手側の実務

少額返還インボイスの免除は売り手側の発行義務についての話ですが、では売り手からインボイスが来なかった場合、買い手(仕入側)は自動的に仕入税額控除額が調整されるのでしょうか。

実務的には、買い手側は自社でその差額を「仕入値引き」等として処理し、仕入税額控除額を減額する対応が必要です。

例えば、請求書には10,000円(税抜価格9,091円+消費税909円)と記載されていたが、実際の支払いでは振込手数料500円が引かれて9,500円しか支払っていない場合、買い手側は差額500円分を仕入値引き(仕入返還)として会計処理しなければなりません。

インボイス制度では交付を受けた適格請求書に記載された金額に基づいて仕入税額控除を行うのが原則です。

今回の例では、請求書上は満額の税額が記載されていますが、実際には500円分を支払っていないので、その分控除しないよう調整が必要ということです。

買い手側の仕訳としては、支払時に「(支払手数料)500円/(現預金)500円」と計上し、請求額との差額500円は「(買掛金)500円/(仕入値引き)500円」で相殺処理するようなイメージになります。

結果、買掛金10,000円に対して現預金9,500円支払い、差額500円は仕入値引きとなり、帳簿上請求額通り処理したのと同等になります。

このように、少額免除により返還インボイスが発行されない場合でも、買い手側は適正に税額控除額を調整する義務がある点は押さえておきましょう。

なお、売り手側が少額だからといって返還インボイスを発行しない場合でも、任意で発行すること自体は問題ありません。

取引先との取り決めで「形式上インボイスを発行して欲しい」と言われれば、たとえ1万円未満でも返還インボイスを交付することは可能です(免除は「義務が免除」であって、出してはいけないという意味ではないため)。

ただし、多くの場合は双方で話し合って簡便な処理にする方が事務コスト削減になるでしょう。社内ルールとして、◯◯円以下の値引き・誤差については返還インボイス省略、と決めて運用する企業もあるようです。

返還処理の具体的な手順と帳簿対応(仕訳・保存)

最後に、返還インボイスを伴う返金処理について具体的な実務手順を確認します。発生から帳簿反映、書類保存まで一連の流れを把握しておきましょう。

返金事由の確認と取引先との合意

まず、返品や値引き、過入金など返金が必要となった理由を確認します。自社起因なのか相手先都合なのか、金額はいくらか等を社内で整理し、取引先と返金方法・金額について合意します。

例えば「商品不良につき○円を翌月◯日に返金します」といった合意形成を行います。

この段階で、インボイス発行事業者同士の取引であれば「返還インボイスを発行する」旨も伝えておくと親切です(相手の経理担当がスムーズに処理できるようになります)。

返金の実行

合意した内容に従い、指定の方法で返金を行います。多くは銀行振込による返金でしょうが、場合によっては現金、カード払いの取消(返金)、次回相殺など方法は様々です。

重要なのは返金処理日を特定し、その日に合わせて返還インボイスを用意することです。

振込の場合は実際に送金した日付、現金なら手渡した日付を基準に書類を作成します。

返還インボイスの作成・交付

返金に合わせて返還インボイスを発行します。上記の記載項目を漏れなく盛り込み、相手先(買い手)の宛名も忘れずに記載します。

元の取引金額との差額や消費税額に誤りがないか再確認しましょう。完成した返還インボイスは速やかに取引先へ交付します。

メール送付の場合はPDF添付などで送信し、届いたか確認を取ると安心です。紙で郵送する場合は、返金後できるだけ早く郵送手配します。この際、自社控え(写し)も必ず作成しておきます。

帳簿への仕訳記帳

返金に伴う会計処理を行います。これは売り手・買い手で異なりますが、以下に概要を示します。

売り手側(返金を行った側)の仕訳

元の売上を減額する仕訳を切ります。例えば、売掛金と売上高で計上していたものを取り消す場合、「売上返品」や「値引き」勘定を使って売上高をマイナス調整し、同時に現預金または売掛金を減額します。

具体例として、税込11万円の売上のうち1万円を返金した場合、売り手側では返金時に「売上返品(または値引き)10,000円/現預金10,000円」「仮受消費税 1,000円/売上返品消費税 1,000円(※)」というように、消費税相当額も含めて売上を取り消す処理を行います(※消費税の仕訳方法は会社の会計処理方式によりますが、要は預かり消費税を減らす処理が必要です)。

もし過入金の返金で、売上に計上していなかったお金を返すだけなら「預り金○○円/現預金○○円」といった仕訳になります。

買い手側(返金を受けた側)の仕訳

元の仕入や経費を減額します。返品・値引きで返金を受けた場合、「未払金(または買掛金)○○円/仕入返品○○円」として支出額を減らし、控除した消費税も調整します。

既に支払済みだった金額が戻ってきたなら「現預金○○円/仕入返品○○円」等の仕訳になるでしょう。

過払い金の返金を受けた場合は「現預金○○円/仮払金○○円」といった整理になります。要は支払額ベースで帳簿を修正し、返還インボイスの金額に合わせて仕入税額控除額も減らすことになります。

仕訳処理にあたっては、返還インボイスに記載された金額・税額を基準に計上するようにします。税務署から仕入税額控除の確認を受ける際には、買い手側は返還インボイスの保存と帳簿上の仕入返品額が一致している必要があります。

同様に売り手側も、売上返品額と返還インボイスの額が一致していなければなりません。

書類の保存・管理

発行した返還インボイスは、売り手・買い手双方で保存義務があります。保存期間は、交付した日の属する課税期間(事業年度等)の末日の翌日から起算して7年間と定められています。

例えば2024年7月1日に交付した返還インボイスなら、2031年9月30日まで保存が必要です(課税期間末日が2024年12月31日、そこから翌2ヶ月後の2025年3月1日を起点に7年)。この保存期間は通常の適格請求書と同じです。

保存方法は紙でも電子データでも構いませんが、電子保存の場合は電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。具体的には、タイムスタンプの付与や検索機能の確保などが求められます。

売り手側は返還インボイスの控え(写し)を保存します。写しとは、交付したものと同一内容が確認できる書類です。必ずしも紙でコピーを取る必要はなく、PDFデータなどでも構いません。

レジシステムのジャーナルや取引明細一覧表など、返還インボイスの必要項目が全てわかるものであれば写しの代用として認められる場合もあります。買い手側は受け取った返還インボイスそのものを保存します。

万一保存を怠ると、税務調査で仕入税額控除の適用を否認される可能性がありますので注意しましょう。

消費税申告への反映

返金による売上・仕入の調整は、最終的に各事業者の消費税申告にも影響します。売り手側は返還インボイス発行により課税売上額と納付税額が減少しますし、買い手側は課税仕入額と控除税額が減少します。

これらは日々の記帳から集計され、所定の課税期間の確定申告書に反映されることになります。申告書の作成時には、売上明細・仕入明細の中で返品や値引きのマイナス項目をきちんと控除して計算するようにしましょう。

特に注意すべきは、返金と元の取引が別の課税期間にまたがる場合です。例えば3月に売上計上し4月に返品があった場合、3月期の申告では一旦全額売上計上・納税し、4月~9月の次期申告で返品分をマイナスして調整することになります。

このような時期のズレも、返還インボイスと帳簿の保存がきちんとなされていれば証明できますので、焦らず適切に処理してください。

以上が大まかな実務の流れです。返還インボイスの発行・管理は手間がかかるように思えますが、適切に行えば消費税の計算誤りを防ぎ、公平な税負担に寄与する重要なプロセスです。

最初は戸惑うかもしれませんが、社内でルール化しておけば対応もスムーズになるでしょう。

よくある質問とケーススタディ

Q1: 誤って二重に請求書を発行し、取引先が二重に支払ってしまいました。返金する際に返還インボイスは必要ですか?

A1: この場合、二重発行された請求の片方は本来無効な取引ですから、誤入金への対応と同様に考えられます。誤って受け取った分は売上の対価ではないため、その返金に返還インボイスは不要です。

ただし、取引先には誤請求であった旨を正式に伝え、請求書の取消や社内伝票の訂正を行っておきましょう。また返金の事実が分かるよう、領収書や返金通知書を発行して先方と自社の両方で保存しておくことをお勧めします。

Q2: 自分はフリーランス(免税事業者)なのですが、取引先に料金を返金することになりました。返還インボイスを発行できない場合、どう対応すればいいですか?

A2: 免税事業者の方はインボイス発行事業者ではないため、「適格返還請求書」を発行することはできません。この場合、通常の返金プロセスを取ればOKです。

具体的には、返金額を銀行振込や現金で支払い、その際に返金に関する簡易的な書面(返金伝票や覚書など)を作成しておきます。

先方が課税事業者であっても、あなたから適格返還請求書が出せない以上、相手はその返金分の仕入税額控除は元々できない(最初からインボイスが交付されていないため)ことになります。

相手先には「当方は免税事業者のため返還インボイスは発行できない」旨を伝え、必要であれば領収書(日付・金額・理由を明記したもの)を渡しましょう。

あなた自身は帳簿上で売上の取消や返金処理を行い、消費税の申告義務がない範囲で整理すれば足ります。

Q3: 返還インボイスと通常の適格請求書を一つの書類にまとめることはできますか?

A3: 場合によっては可能です。例えば、ある取引先に対し同じタイミングで新たな請求(売上)と過去の返品による返金があるとします。

このとき、別々に請求書と返還インボイスを発行せず、一つの書類で相殺的に記載する方法も考えられます。

具体的には、通常の請求書の記載事項をまず書いた上で、備考や別欄に返還インボイスの必要項目(元取引日、返還内容、返還額、税額等)を併記する方法です。

これによって「◯◯の売上 – △△の返品」などと合算した金額を一枚で示すことができます。

ただし、このやり方は書き漏れのリスクがあり、形式も複雑になりがちです。インボイス制度上は要件を満たせば問題ありませんが、実務では原則どおり別々の書類にする方が確実でしょう。

同時に複数のやり取りがある場合でも、相手の管理を考えると請求書と返還インボイスを分けて発行することをおすすめします。

Q4: 返還インボイスを誤って発行し忘れた場合、後日発行しても認められますか?

A4: 原則として、返金時に交付すべき返還インボイスを出し忘れた場合でも、気づいた段階で速やかに発行・交付すれば問題ありません。

インボイス制度上、「返還インボイスは返金を行う際に交付」とされていますが、多少遅れてもその後の仕入税額控除などに影響がなければ実害はありません。

ただし、あまり時間が経つと相手側で処理が完了してしまいトラブルになる可能性があります。

発行漏れに気づいたらすぐ取引先に連絡し、事情を説明のうえ発行しましょう。特に同じ課税期間内であれば後からでも保存要件を満たせます。

一方、買い手側は返還インボイスを受け取れないと仕入税額控除を適用できないため、返金を受けたのにインボイスが来ない場合は遠慮せず売り手に問い合わせましょう。

Q5: クラウドシステムで返品処理をしたら自動で返還インボイスが発行されました。このようにシステム対応していれば個別に意識する必要はないですか?

A5: 最近の会計ソフトや販売管理システムでは、返品処理や値引き処理と連動して返還インボイス(または相当するクレジットノート)を発行する機能が備わっているものがあります。

そうしたシステムを利用している場合、手動でフォーマットを作る手間は省けますが、最終的な内容確認や保存は人の責任となります。

システム任せにせず、発行された返還インボイスに記載漏れがないかチェックし、相手に確実に届くようにしましょう。

また電子発行した場合でも、保存期間7年にわたりデータを適切に保管・検索できるよう設定しておくことが重要です。システム対応は非常に便利ですが、「自動だから大丈夫」と油断せず、制度の知識を持った上で活用してください。

まとめ

返還インボイス(適格返還請求書)は、インボイス制度のもとで返品・値引き等の返金取引を適切に処理するための重要な書類です。

中小企業の経理担当者やフリーランスにとって馴染みが薄いかもしれませんが、本記事で解説したように基本的なルールを押さえておけば恐れることはありません。

インボイス制度開始から日が浅く、特に返還インボイスの運用には戸惑う方もいるでしょう。しかし、適切に対応すれば消費税の申告・納税がより正確になり、ビジネスの透明性も向上します。

経理担当者としては、返還インボイスを含めたインボイス制度全般の知識をアップデートし、社内の取引実態に応じて運用ルールを整備しておきましょう。

そうすることで、いざ返品や誤入金が発生しても慌てずに処理でき、取引先からの信頼も得ることができます。適切な実務対応でスムーズな事業運営を目指しましょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

インボイス制度の基礎知識の関連記事

インボイス制度の基礎知識の一覧を見る

\1分でかんたんに請求書を作成する/
いますぐ無料登録