
「電子帳簿保存法に対応するには、高価なタイムスタンプのシステムが必要だ」と思っていませんか。実は、コストや手間をかけずに法律の要件を満たす方法が明確に存在します。
この変更は、複雑な法対応に悩む多くの経理担当者や中小企業の経営者にとって、大きな負担軽減につながる未来を示しています。
この記事を最後まで読めば、あなたは電子帳簿保存法のタイムスタンプに関する正しい知識を身につけ、自社に最適な、最もコスト効率の良い対応策を自信を持って選択できるようになります。
法改正のたびに感じる不安から解放され、確実なコンプライアンス体制を築くことができるでしょう。
「法律は難しそう」「何から手をつければいいかわからない」と感じるかもしれません。しかし、ご安心ください。この記事では、専門的な内容を一つひとつ丁寧に、具体的な手順に沿って解説します。あなたにもできる、再現性の高い方法だけを厳選してご紹介します。
目次
なぜタイムスタンプが不要になったのか?電子帳簿保存法の基本を解説
多くの人が「電子帳簿保存法はタイムスタンプが必須」というイメージを持っていますが、これは過去の話です。なぜタイムスタンプが不要なケースが認められるようになったのか、その背景にある法律の基本を理解することが、最適な対応策を選ぶための第一歩となります。
タイムスタンプの役割と法改正の背景
タイムスタンプの本来の役割は、電子データに対して「ある時刻にその文書が存在していたこと(存在証明)」と「その時刻以降、改ざんされていないこと(非改ざん証明)」を証明することです。これは、電子帳簿保存法が定める重要な要件の一つである「真実性の確保」を実現するための有力な手段でした。
しかし、タイムスタンプの発行にはコストがかかり、運用にも手間が必要です。この点が、特に中小企業にとって電子化を進める上での大きな障壁となっていました。
そこで、2022年1月の法改正をはじめとする見直しにより、タイムスタンプ以外にもデータの真実性を担保できる方法が正式に認められました。これは、より多くの事業者が円滑にデジタル化へ移行できるよう、対応のハードルを下げるという政策的な意図の表れです。
特に、すべての事業者に義務化された「電子取引」のデータ保存を社会全体で推進するためには、コストをかけずに始められる選択肢が不可欠でした。その結果、タイムスタンプはあくまで選択肢の一つとなり、必須要件ではなくなったのです。
押さえておくべき法律の3つの区分
電子帳簿保存法は、保存するデータの種類によって、大きく3つの区分に分けられています。どの区分にどの書類が該当するのかを把握することが、混乱を避ける鍵となります。
電子帳簿等保存
会計ソフトなどで最初から一貫して電子的に作成した帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)や書類(決算関係書類など)を、データのまま保存する方法です。この区分では、もともとタイムスタンプの付与は要件とされていません。
スキャナ保存
紙で受け取った請求書や領収書、または自社で作成した書類の控えなどをスキャナやスマートフォンで読み取り、画像データとして保存する方法です。この対応は任意であり、紙のまま保存し続けることも可能です。
電子取引のデータ保存
電子メールで受け取った請求書PDFや、ウェブサイトからダウンロードした領収書など、電子的に授受した取引情報をデータのまま保存する方法です。2024年1月1日から、この区分はすべての事業者に対して義務化されています。
この記事で主に焦点を当てるのは、タイムスタンプの要件が関係する「スキャナ保存」と、対応が必須である「電子取引のデータ保存」の2つです。
【4つの選択肢】タイムスタンプなしで「真実性の確保」を実現する具体的手段
具体的にタイムスタンプを使わずに「真実性の確保」という要件を満たすには、どうすればよいのでしょうか。法律では、以下の4つのいずれかの措置を講じることが認められています。自社の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。
選択肢1:訂正・削除履歴が残るシステムを利用する
最も一般的で推奨される方法です。電子データの訂正や削除を行った場合に、「いつ」「誰が」「どの部分を」変更したかの履歴(ログ)が自動で記録・確認できるクラウドサービスやソフトウェアを利用します。この履歴が残ることにより、不正な改ざんが抑制され、タイムスタンプと同様にデータの信頼性が担保されるという考え方です。
多くの会計ソフトや経費精算システム(例:マネーフォワード クラウド、freee会計など)は、この機能に対応しています。システムを選ぶ際には、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)認証を取得している製品かどうかが一つの目安になります。
この認証は、そのソフトウェアが電子帳簿保存法の要件を満たしていることを客観的に証明するものであり、安心して導入できます。
選択肢2:訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用する
システム導入コストをかけずに対応できる方法です。社内で「事務処理規程」というルールブックを作成し、その規程に沿って運用することで真実性を確保します。
この規程には、電子データの訂正や削除を原則として禁止すること、そして、やむを得ず訂正・削除を行う場合の具体的な手続き、申請者、承認者、処理内容の記録方法などを詳細に定めます。
一から作成するのは大変に思えるかもしれませんが、国税庁が法人向けと個人事業主向けのひな形(サンプル)を公開しているため、これを自社の実態に合わせて修正することで、比較的容易に作成することが可能です。
選択肢3:タイムスタンプが付されたデータを受領する
自社で何かをするのではなく、取引先のアクションによって要件を満たす方法です。取引相手が請求書などの電子データを送付する前に、有効なタイムスタンプを付与してくれていれば、受け取った側はそれをそのまま保存するだけで真実性の確保の要件を満たしたことになります。
ただし、すべての取引先がタイムスタンプを付与してくれるとは限りません。そのため、この方法だけで全ての取引をカバーすることは現実的ではなく、あくまで他の方法と組み合わせて利用する補助的な手段と考えるべきです。
選択肢4:訂正・削除ができないシステムを利用する
選択肢1と似ていますが、こちらは履歴が残るだけでなく、そもそも一度保存したデータの訂正や削除が技術的にできない仕組みのシステムを利用する方法です。
代表的な例としては、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)取引システムが挙げられます。特定の業界や企業間で標準化されたフォーマットで取引情報が送受信され、一度確定したデータは変更できないように設計されています。
自社に最適なのはどの方法か?メリット・デメリットを比較
結局、どの方法を選べば良いのでしょうか。特に実質的な選択肢となる「システムの利用」と「事務処理規程の運用」について、それぞれのメリット・デメリットを比較してみましょう。
システムを利用する場合
業務の自動化により人的ミスが少なく、検索機能も標準装備されているため業務効率が格段に向上します。将来的な事業拡大を見据え、業務効率化を重視するすべての事業者におすすめです。
一方で、システムの利用料が継続的に発生する点や、システム移行時にデータ引継ぎのリスクがある点は考慮が必要です。
事務処理規程を運用する場合
最大のメリットは、ソフトウェアの導入コストがかからない点です。電子取引の件数が極めて少なく、厳格なルール運用を徹底できる小規模事業者にとっては選択肢となり得ます。
しかし、手作業が多くなるため人的ミスが発生しやすく、規程の周知徹底と厳格な運用管理が常に求められます。
この比較からわかるように、事務処理規程は初期コストがかからない魅力的な選択肢に見えます。しかし、日々の運用における手作業の負荷や、人的ミスによるコンプライアンス違反のリスクを考慮すると、多くの事業者にとっては、JIIMA認証を受けた信頼できるシステムを導入する方が、長期的にはコストパフォーマンスが高く、安全な選択と言えるでしょう。
【保存区分別】スキャナ保存と電子取引の要件を徹底解説

タイムスタンプ不要の条件は、「スキャナ保存」と「電子取引」で少し異なります。ここでは、それぞれの区分における具体的な要件を詳しく見ていきましょう。
ケース1:「スキャナ保存」でタイムスタンプが不要になる条件
紙の領収書などをスキャンして保存する場合、タイムスタンプが不要になるための主な条件は、訂正・削除の履歴が残る、またはそれができないクラウドシステムなどを利用し、定められた入力期間内にデータを保存したことが客観的に確認できることです。
ここで重要なのが「入力期間」です。法律では、書類を受領してからスキャンデータとして保存するまでの期間に制限を設けています。多くの企業で採用可能な「業務処理サイクル方式」では、書類を受領してから最長2か月とおおむね7営業日以内に入力すればよいとされており、以前のルールに比べて大幅に緩和されています。
例えば、月末締めで経費精算を行っている会社であれば、その業務サイクル(最長2か月)が経過した後、速やか(おおむね7営業日以内)にシステムに保存すれば要件を満たします。この緩和により、現場の業務負担は大きく軽減されました。
ケース2:「電子取引」でタイムスタンプが不要になる条件
繰り返しになりますが、電子取引データの保存はすべての事業者にとって義務です。タイムスタンプを使わない場合は、前述した4つの選択肢のいずれかを必ず選択しなければなりません。実務上は、「訂正・削除履歴が残るシステムの利用」か「事務処理規程の策定・運用」の二者択一となります。
ここで、もう一つの重要な要件である「可視性の確保」が関係してきます。可視性の確保とは、保存したデータを税務調査などの際に、すぐに探し出して明瞭な形で表示・印刷できる状態にしておくことです。
その中核となるのが「検索機能の確保」です。原則として、保存したデータは以下の3つの項目で検索できるようにしなければなりません。
- 取引年月日
- 取引金額
- 取引先名
事務処理規程を策定して手動でファイルを管理する場合、この検索要件を満たすためには、ファイル名を「20240401_株式会社〇〇_110000.pdf」のように規則的に変更したり、別途Excelなどで索引簿を作成したりする必要があります。
取引件数が増えるほど、この手作業での管理は非常に煩雑になり、ミスも起こりやすくなります。一方で、電子帳簿保存法に対応したシステムを導入すれば、データの保存と同時にこれらの検索情報が自動で付与され、真実性の確保と可視性の確保の両方を効率的に満たすことができます。
このように、法律は表向き「システム」と「規程」を同等の選択肢として提示していますが、検索要件まで含めて考えると、一定以上の取引件数がある事業者にとっては、システム導入が現実的かつ合理的な選択となるよう、間接的に誘導する構造になっています。これは、国全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するという、より大きな目的を達成するための巧妙な制度設計と言えるでしょう。
警告:その対応は間違い?よくある勘違いと導入失敗例

電子帳簿保存法への対応を進める中で、多くの事業者が陥りがちな勘違いや失敗があります。ここでは、代表的な例をいくつか紹介します。これらを事前に知っておくことで、無用なリスクを避けられます。
よくある勘違い
「タイムスタンプは法律で必須だ」というのは、最も多い勘違いです。この記事で解説してきた通り、タイムスタンプはあくまで選択肢の一つであり、必須ではありません。
「PDFで受け取った請求書をフォルダに保存しておけばOK」というのも典型的な誤りです。単にファイルを保存するだけでは、「真実性の確保(改ざん防止措置)」と「可視性の確保(検索機能)」の両方の要件を満たしていないため、法律上の保存義務を果たしたことにはなりません。
「電子取引のデータも、2か月と7営業日以内に保存すれば良い」というのも間違いです。この入力期間はスキャナ保存(紙の書類を電子化する場合)に適用されるルールです。
電子メールで受け取るなど、最初からデータである「電子取引」については、「速やかに」または「遅滞なく」保存することが求められます。この期限の違いを混同しないよう注意が必要です。
導入失敗のシナリオ
シナリオ1:「無料」の裏にある高コスト
A社はコスト削減を最優先し、「事務処理規程」の運用を選択しました。しかし、日々の業務に追われ、取引データのファイル名変更や索引簿への記録が次第に疎かになりました。結果、税務調査で検索要件を満たしていないことを指摘され、青色申告の承認が取り消されるリスクに直面しました。
シナリオ2:安易なシステム選定による将来のリスク
B社はJIIMA認証のない安価な文書管理システムを導入しました。数年後、より高機能な会計システムに乗り換えようとした際、古いシステムには訂正・削除の全履歴を外部に出力する機能がないことが判明しました。過去のデータの真実性を証明できず、システム移行が困難になる「ベンダーロックイン」状態に陥ってしまいました。
シナリオ3:社内周知不足による業務の混乱
C社は高機能な経費精算システムを導入しましたが、従業員への十分な説明やトレーニングを怠りました。その結果、領収書のスキャン品質が低かったり、入力される情報が不正確だったりと、かえって経理部門の確認・修正作業が増加しました。業務効率化のはずが、現場の負担を増やす結果となってしまいました。
これらの失敗を避けるためには、自社の業務フローを正しく理解し、将来を見据えた上で、信頼できるシステムを選び、社内全体で適切な運用体制を構築することが不可欠です。
義務をメリットに変える!電子化がもたらすコスト削減と業務効率化
電子帳簿保存法への対応は、単なる法律上の義務ではありません。これをきっかけに社内のペーパーレス化と業務フローの見直しを進めることで、企業経営に多くのメリットをもたらす絶好の機会と捉えることができます。
電子化による具体的なメリット
圧倒的なコスト削減
紙の書類を保管する必要がなくなることで、紙代、印刷代、郵送費、そしてキャビネットや倉庫などの保管スペースにかかるコストを大幅に削減できます。
劇的な業務効率の向上
書類を探すために倉庫を行き来したり、ファイリングしたりといった手作業がなくなります。必要な書類は、パソコン上でキーワードを入力すれば数秒で見つかります。
これにより、経理担当者は単純作業から解放され、より付加価値の高い分析業務などに時間を使えるようになります。また、場所を選ばずに書類を確認できるため、テレワークの推進にも直結します。
セキュリティと内部統制の強化
誰がいつデータにアクセスし、何をしたかの記録が残る電子システムは、鍵付きのキャビネットよりもはるかに高いセキュリティレベルを誇ります。これにより、情報の紛失や盗難、不正アクセスのリスクを低減し、内部統制を強化することができます。
次のステップへ:「優良な電子帳簿」で税制優遇を目指す
基本的な電子帳簿保存法の要件を満たした上で、さらに上のレベルを目指す事業者向けに「優良な電子帳簿」という制度が設けられています。
これは、より厳格な要件(高度な検索機能や帳簿間の相互関連性の確保など)を満たす電子帳簿を作成・保存することで、税制上の優遇措置を受けられる制度です。
最大のメリットは、税務調査で申告漏れが指摘された場合に課される過少申告加算税が5%軽減されるという点です。これは、日頃からデータの信頼性を高く保っている事業者に対するインセンティブと言えます。
多くのJIIMA認証を受けた会計システムは、この優良な電子帳簿の要件にも対応しています。法対応を機に業務の質を一段階引き上げ、リスク管理を徹底したいと考える企業にとって、目指すべき一つのゴールとなるでしょう。
まとめ
電子帳簿保存法において、タイムスタンプは必須ではありません。法律は、事業者の負担を軽減し、デジタル化を促進するために、複数の選択肢を用意しています。自社にとって最適な対応方法を選択するための最終的な判断基準は、何を重視するかによって決まります。
業務効率化と将来性、安全性を重視する場合
JIIMA認証を取得した、訂正・削除履歴が残る会計システムやクラウドサービスを導入するのが最善の選択です。初期コストや月額費用はかかりますが、人的ミスの削減、検索性の確保、法改正への自動対応など、それを上回るメリットがあります。
初期コストを徹底的に抑えたい場合
電子取引の件数が非常に少なく、社内ルールを厳格に運用できる体制があるならば、国税庁のひな形を参考に「事務処理規程」を策定・運用する方法も選択肢に入ります。ただし、運用負荷の高さと人的ミスのリスクを十分に理解した上で慎重に判断する必要があります。
電子帳簿保存法への対応は、もはや避けては通れない経営課題です。この記事を参考に、ぜひ自社にとって最も合理的で持続可能な一歩を踏み出してください。
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