お得意様から領収書の再発行を依頼され、つい引き受けてしまうことはありませんか?しかし、再発行にはリスクが伴う可能性があります。そこで、本記事では領収書の再発行義務の有無、再発行に関わるリスク、再発行を依頼された時の適切な対応方法、そしてトラブルを回避するためのポイントについて説明します。
領収書の再発行義務はある?
領収書は、支払ったことを証明するための重要な文書です。会社の経費として計上するために必要な書類であり、節税にもつながる重要な証明書になります。
お金の受け渡しを証明する領収書には、以下のルールが存在します。
発行義務:民法上、支払者から領収書発行を求められた場合、それに応じる義務があります。お金を受領した時点で、領収書を渡すのが原則です。 再発行の義務はなし:領収書の発行義務はありますが、再発行する義務はありません。再発行の可否は、発行者の判断に委ねられています。 保存義務: 税法上、受領した場合は、原則として7年間の保存義務があります。これは、領収書は支出を裏付ける重要な書類(証憑書類)であるためです。 |
領収書の再発行は危険
領収書は正式な証明書であり、金銭の受領が完了したことを示すものですので、原則1回の取引につき発行できる領収書は1枚のみです。この制度は、「二重発行」と呼ばれる行為を防ぐために存在しています。
例えば、10万円分の領収書を「紛失した」として再発行するケースを考えてみましょう。もし実際には元の領収書を保持しており、紛失していない場合、本来であれば10万円分の経費しか計上できませんが、20万円分の経費が計上されてしまいます。
再発行された領収書が不正に使用された場合、発行側も有印私文書偽造罪で起訴され、3ヶ月以上5年以下の懲役刑が科される可能性があります。そのため、領収書の発行には慎重さが求められます。
取引先には領収書の再発行はできない旨を事前に伝える
領収書の再発行を依頼されたら拒否することは可能です。しかし、一方的に拒否しているとお得意様との良い関係が維持できなくなる懸念もあります。そのため、あらかじめ取引先に再発行しない旨を伝え、了承を得ることが重要です。同時に、領収書には「再発行はできません。大切に保管してください」というメッセージを記載することで、取引先に領収書の紛失や破損を防止するための注意喚起ができます。
領収書の再発行依頼を受けた場合
お得意様からの領収書再発行の依頼を断りづらい状況でどのように対応すべきか、以下にまとめました。参考にしてください。
1. 再発行以外の方法を提案する
領収書の再発行は、悪用の可能性があるためリスクがあります。そのため、領収書再発行以外の代替手段を考慮し、提案してみましょう。
4つの要素(日付、金額、内容、支払先)が明記された書類であれば、領収書の代わりとして使用できます。支払った側が提供できる書類としては、「支払証明書」や「出金伝票」が考えられます。一方、支払いを受けた側が提供できる書類としては、「レシート」や「購入証明書」などがあります。これらの書類は領収書よりも信頼性が低いかもしれませんが、領収書の代替として使用することができます。
2. 再発行した領収書には「再発行」と明示する
領収書の再発行時には、不正利用を防ぐためにいくつかの対策を講じる必要があります。
まず、再発行の事実を明確に記載することが重要です。効果的な手段としては、「再発行」や「再」などの文字を表示することです。また、「再発行」の目立つ赤いスタンプを押すこともおすすめです。さらに、再発行した日付を但し書きに明記することで、元の領収書との区別がつけられます。
ただし、領収書を一度再発行してしまうと、同じ要求が繰り返し発生する可能性があるため、注意が必要です。不正利用を防止する対策とともに、領収書の再発行はこのケースに限られた特例であることを明確に伝えることが重要です。
3. 再発行した領収書にも収入印紙を貼る
領収書の記載金額が5万円以上の場合、決められた収入印紙を領収書に貼る必要があります。領収書が再発行される際も、同様に貼り付けし、消印を押します。印紙税は、文書に対して課せられる必要な税金のため、実際の金銭のやり取りが一度でも、領収書には印紙税が課されます。
もし収入印紙を貼り忘れた場合、知らなかった、忘れていたなど、悪気がなかったといった理由でも、法律違反となり、罰金の対象となります。未納の印紙税額の3倍の過怠税(かたいぜい)が徴収されるため、注意が必要です。
なお、国の規制では、収入印紙は作成者が貼ることになっています。そのため、再発行する側としては、取引先からの依頼にもかかわらず、改めて印紙税を負担することに納得しづらいかもしれません。金額の大きな契約書になると、印紙税の額も大きいため、当事者同士の話し合いより収入印紙代金を折半する場合もあるようです。しかし、国税庁の見解では、領収書にかかる印紙税は、金銭を受け取る発行者側が負担するとされています。
領収書の再発行における注意点
やむを得ず領収書を再発行する場合に、押さえておくべき注意点を2つご紹介します。
元の領収書がある場合は回収する
領収書が存在する場合は、必ず取り戻すようにしましょう。もし再発行が発行側のミスや取引先の損傷によるものであれば、取引先は元の領収書を持っているはずです。領収書を適切に回収しないと、後で不正利用などの問題が発生する可能性があります。回収した領収書はコピーと一緒にクリップなどで固定し、しっかり保管してください。再発行した日付と領収書番号を記録しておけば、管理が簡単になります。
紛失が理由の場合の再発行には特に注意する
再発行の依頼理由が紛失という場合、特に注意が必要です。なぜなら、先方が紛失したと主張しても、その主張が真実かどうか確かめる方法がないからです。その依頼が二重発行による不正使用を狙ったものであるリスクも否定できません。
税務署から誤解を招かないようにするためには、取引先から再発行の依頼があった理由が「紛失した」ということ、そして最初の領収書を回収できなかったという事実について、記録しておくことが重要です。これにより、万が一の場合に明確な説明ができるようになります。
なお、領収書を紙で管理する場合、紛失のリスクが高くなります。領収書の管理にはコストもかかりますし、経理担当者が領収書の突合作業に多くの時間を費やす必要があります。これらの課題を解決する効率的な方法は、領収書を電子化することです。クラウドサービスなどを利用して領収書をスキャンし、安全な場所に保存することで、紛失した場合でも再発行の必要性を減らすことができます。
領収書の管理に課題を抱えている企業の経理ご担当者には、領収書を電子化するためのシステム利用を検討してみることをおすすめします。
領収書を紛失した場合の対応は?
ここまで領収書再発行の依頼を受けた際の対応について紹介してきましたが、反対に自社が領収書を紛失してしまった場合はどうすればいいのでしょうか。対応方法を紹介します。
1.領収書の再発行を依頼してみる
取引先に領収書の再発行を依頼してみましょう。ただし、領収書や取引先のホームページなどに再発行を受け付けていない旨が記載されている場合は、控えた方が無難です。
2.購入証明書・支払証明書の発行を求める
会社によっては購入証明書・支払証明書の発行を受け付けているところもあります。商品を購入したことを証明する書類として利用できるため、一度依頼してみるといいでしょう。ただし、書類の発行にあたって費用を請求されるケースもあります。
関連リンク:支払明細書って?領収書の代わりになるのかについても解説!
3.レシートで代用する
レシートには領収書と似たような内容が記載されているため、領収書がなくてもレシートで代用できます。
関連リンク:確定申告に領収書は必要?レシートは代わりになる?適切な対応を詳しく解説
4.出金伝票に記録する
出金伝票とは、領収書やレシートが発行されない取引を行った場合に、支払った側が自ら作成・保管する書類です。日付や金額・取引内容など、領収書と同じような内容を記載することで、支払いを行った記録になります。備考欄などに領収書を紛失したために作成したことをメモしておきましょう。
5.カードの使用履歴を確認する
クレジットカードを利用して支払った場合は、カード会社の明細や使用履歴によって支払ったことを確認できます。
なお、ここまでに紹介した書類は支払いを行った記録にはなりますが、基本的に領収書やレシート以外は後述する適格請求書の要件を満たしていません。経費として精算してもらうことはできるかもしれませんが、仕入税額控除は行えない点に注意しましょう。
領収書を破損・汚損した際
領収書を破損・汚損した場合は、その旨を伝えることで新しい領収書を発行してもらえるケースがあります。元の領収書は回収されるため、汚れたものであっても念のため保管しておくことが大切です。ただし、必ずしも発行してもらえるわけではない点に注意しましょう。
領収書に関するトラブルを回避するポイント
領収書のトラブルを回避するためのポイントは、以下の通りです。
1.電子レシートの発行と受け取り
2.領収書なしで支払い証明する
3.インボイス(適格請求書)の保存
各ポイントについて詳しく説明します。
ポイント1. 電子レシートの発行と受け取り
電子レシートであれば、発行する側にとっては再発行の手間が省けますし、受け取る側にとっては紛失のリスクが減らせます。
電子レシートとは、コンビニやスーパーなどで買い物した際に受け取る電子化されたレシートのことです。電子レシートの発行方法としては、レシートの電子データを購入者のスマホにアプリを通じて送信するものがポピュラーです。紙のレシートを受け取らなくて済むため、財布などにたくさんのレシートを入れておくこともなくなります。
電子レシートは、現在経済産業省が推し進めているキャッシュレス施策の一つであり、注目を集めています。政府が目指している電子レシートの最終目標は、購買履歴を蓄積することで、消費者理解を深め、新たな商品やサービスを実現することです。もちろん、購買履歴は本人の許可のもと、提供されます。
ポイント2. 領収書なしで支払い証明する
受領した領収書は、原則7年保存する義務があることを説明しましたが、それは支払先から領収書を受け取った場合に限ります。すなわち、領収書の発行がなければ、保存義務は生じません。したがって、領収書なしでも支払ったことを証明する方法を利用すれば、紛失の心配はなくなると言えるでしょう。
例えば、外注先への支払いを銀行振込で行うケースです。銀行振り込みでは通帳に取引した履歴が記録されます。インターネットバンキングでは個人のアカウントに記録が残ります。ですから、領収書がなくても支払いの事実を証明することは可能です。
クレジットカードを利用するケースも考えてみましょう。例えば、タクシー代の支払いをする際にクレジットカードを使えば、カード会社に支払い履歴が残り、本人の銀行口座に反映されます。現代では当たり前になっていることですが、銀行口座やクレジットカードなどを最大限に活用することで、受領する領収書を減らしていく仕組み作りが領収の紛失防止につながります。
ポイント3. インボイス(適格請求書)の保存
領収書を紛失した場合でも、支払いが行われたことを証明すると、経費として認められます。ただし、消費税に関しては別の問題となります。消費税の額は、預かった消費税から支払った消費税の差額であり、この支払った消費税を仕入税額控除と呼びます。
以前は、仕入税額控除を受けるためには、以下の条件がありました。一度の税込支払金額が3万円未満であること、領収書や請求書が保存されていなくても、条件を満たした帳簿が存在すれば控除が認められました。
しかし、2023年10月1日からは、インボイス制度が導入されます。これにより、金額に関係なく、控除の条件として適格請求書(インボイス)の保存が求められます。適格請求書は、売り手が買い手に対して発行する書類で、適用税率や消費税額などを正しく伝えるため、必要事項を記載した請求書のことです。納品書、領収書、見積書などの書類も含まれます。インボイス制度が始まると、消費税を納付する際に、仕入先が発行する適格請求書(インボイス)がないと、仕入税額控除を受けることはできません。
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2023年10月から始まるインボイス制度。インボイスを交付するためには、適格請求書発行事業者への登録や請求書システムのカスタマイズなど、事前準備が必要です。買い替えするにはコストもかかってきます。
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まとめ
領収書の発行義務はありますが、再発行は義務づけられていません。なぜなら、二重発行を防ぐために、領収は原則1回の取引につき1枚と決められているからです。そのため、取引先には再発行ができないことをあらかじめ伝えておくことが望ましいでしょう。それでも領収書の再発行を依頼された際には、他の方法を提案することをおすすめします。しかしお客様の要求に応じて再発行することになった場合は、不正使用の対策を講じることが必要です。この記事の領収書の再発行時の注意点も参考にして、慎重に対応してください。
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