会計の基礎知識

オペレーティングリースとは?利益繰り延べから事業承継まで、経営者が知るべき全知識

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オペレーティングリース

今期、予想以上の利益が出て、大きな納税額に頭を悩ませていませんか。その悩みは、見方を変えれば、会社の未来のために資本を戦略的に再配置する絶好の機会かもしれません。

多くの経営者がまだ知らない、その税負担を未来への投資へと転換させる洗練された金融手法、それがオペレーティングリースです。

この記事を読み終える頃には、あなたは「日本型オペレーティングリース」という、利益を計画的に繰り延べるための強力なツールの全貌を理解しているでしょう。

その仕組みから戦略的な活用法、そして避けては通れないリスクまで、一つひとつ丁寧に解き明かし、あなたの会社にとって最適な選択ができるよう解説します。

これは魔法の杖ではありません。しかし、この記事で得られる知識は、複雑な金融商品を理解し、自社の未来のために情報に基づいた的確な意思決定を下すための羅針盤となります。さあ、一過性の納税対策ではない、長期的な企業価値向上につながる一歩を踏み出しましょう。

オペレーティングリースの基本とファイナンスリースとの違い

オペレーティングリースという言葉を聞くと、多くの経営者は節税商品を思い浮かべるかもしれません。しかし、その本質を理解するためには、まず基本的なリース取引の種類とその違いを知ることが不可欠です。リース取引は大きく分けて「オペレーティングリース」と「ファイナンスリース」の2種類に分類されます。

この二つの違いを理解することが、より高度な金融商品を検討する上での第一歩となります。オペレーティングリースの最もシンプルな定義は、資産の「賃貸借取引」です。つまり、利用者は一定期間、資産を借りて使用するだけであり、その資産の所有権はリース会社にあり続けます。

コピー機や自動車を短期間借りることをイメージすると分かりやすいでしょう。

一方、ファイナンスリースは経済的な実態が「売買取引」に近いものです。利用者は、リース会社に資産を代理で購入してもらい、その代金を分割で支払っているような状態です。法的な所有権はリース会社にありますが、経済的には利用者が資産を所有しているのとほぼ同じ効果を持ちます。

この二つを明確に区別する基準は主に二つあります。一つは中途解約の可否です。ファイナンスリースは、契約期間中の解約が原則として認められません。対して、オペレーティングリースは違約金が発生する場合がありますが、中途解約が可能な契約が多くなっています。

もう一つの基準はフルペイアウトの有無です。ファイナンスリースでは、リース料の総額が、リース物件の購入代金とそれに付随する金利や保険料などの諸費用をほぼ全額回収できるように設定されています。

一方、オペレーティングリースは、リース期間終了後の中古市場での売却価値(残存価額)をあらかじめ物件価格から差し引いてリース料を算出するため、支払総額は物件価格の一部にとどまります。

この違いの根底にあるのは、「どちらが資産価値下落のリスクを負うか」という点です。ファイナンスリースでは、利用者が資産の陳腐化や価値下落のリスクをすべて負います。一方でオペレーティングリースでは、リース会社が期間満了後の残存価額を保証する形で、そのリスクを負担します。

したがって、技術革新が速いIT機器など、陳腐化のリスクを避けたい企業にとっては、オペレーティングリースが戦略的な選択肢となり得るのです。

オペレーティングリースとファイナンスリースの比較

二つのリースの違いをより明確にするために、以下の表に要点をまとめました。この基本的な違いを把握することが、次のステップである投資型のオペレーティングリースを理解する鍵となります。

特徴オペレーティングリースファイナンスリース
取引の性質賃貸借売買・金融
会計処理賃貸借処理(オフバランス)売買処理(オンバランス)
中途解約可能(違約金が発生する場合あり)原則不可
コスト総額物件価格の一部物件価格+諸経費
所有権リース会社実質的に借手
対象物件中古市場価値が高いもの汎用的な設備全般

日本型オペレーティングリースの仕組み

経営者が「オペレーティングリース」と検索するとき、その多くは単なる資産のレンタルではなく、「日本型オペレーティングリース(JOL/JOLCO)」と呼ばれる特定の金融商品を指しています。これは、オペレーティングリースの基本原則を投資スキームに応用したものであり、その仕組みの中心にあるのが「匿名組合」という特殊な事業形態です。

投資スキームを構成する匿名組合

このスキームには、主に4者のプレーヤーが登場します。

  • 出資者(投資家):利益の繰り延べを目的とする法人
  • 営業者:匿名組合を運営し、リース事業を行う会社
  • 金融機関:リース物件の購入資金の一部を融資する銀行など
  • 賃借人(レッシー):航空機や船舶を実際に利用する航空会社や海運会社

具体的な資金の流れは以下のようになります。まず、複数の投資家が匿名組合に出資して資金を集めます。営業者はその出資金を元手に、金融機関からさらに多額の融資を受け、航空機や船舶といった非常に高額な資産を購入します。

そして、その資産を航空会社などに長期間リースし、リース料を受け取ります。受け取ったリース料から経費や借入金の返済を差し引いた損益が、出資持分に応じて投資家に分配されるのです。

主な対象資産が航空機や船舶である理由

このスキームで航空機、船舶、コンテナなどが主な対象となるのには明確な理由があります。これらの資産は、非常に高額であることに加え、経済的耐用年数が長く、かつ世界中に中古市場が存在するため、リース期間終了後の売却価値(残存価額)が比較的安定していて予測しやすいという特徴を持っています。

この特徴は、前述のオペレーティングリースの本質である「リース会社が残価リスクを負う」という点を、投資スキームとして成立させるための重要な要素です。

利益繰り延べ効果を生み出す会計上の仕組み

この商品が節税効果を持つとされる最大の理由は、会計上の「損失」を意図的に作り出し、それを本業の利益と相殺できる点にあります。その仕組みの核心は「減価償却」です。匿名組合が購入した航空機などの資産は、会計上、その価値を耐用年数にわたって費用として計上していきます。

この際、多くの案件で「定率法」という計算方法が用いられます。定率法は、資産の購入初期に減価償却費が大きく計上され、年々その額が減少していく特徴があります。その結果、リース期間の初年度から数年間は、受け取るリース料収入よりも、計上される減価償却費の方がはるかに大きくなります。これにより、匿名組合の決算は会計上「赤字(損失)」となります。

この会計上の損失は、匿名組合の法的特性により、出資者にその持ち分に応じて分配されます。投資家である法人は、この分配された損失を自社の決算で「損金」として計上し、本業で得た利益と相殺することができます。

これにより課税対象となる所得が圧縮され、結果として法人税の納税額が減少するのです。案件によっては、出資額の70%から80%に相当する金額を初年度に損金算入できるケースもあります。

この仕組みを可能にしているのが、匿名組合という法形式そのものです。もし資産を保有するのが通常の株式会社であれば、その会社の損失を株主である別の会社が自由に使うことはできません。

匿名組合は、組合の損益を直接出資者に帰属させる(パススルー)ことを目的とした仕組みであり、二重課税を回避しつつ、減価償却という会計上の費用を投資家の節税メリットに直結させるための、不可欠な「エンジン」の役割を果たしているのです。

オペレーティングリースのメリットと戦略的活用法

オペレーティングリースのメリットと戦略的活用法

オペレーティングリースがもたらす最大のメリットは、単なる税金の削減ではなく、「課税の繰り延べ」という時間的なコントロールを可能にする点にあります。ここで絶対に誤解してはならないのは、この仕組みは税金を消滅させるものではないということです。

繰り延べた利益は、リース期間が終了し、資産が売却された時点で、売却益(キャピタルゲイン)として投資家に分配され、その時点での課税対象となります。

つまり、この商品の真価は、利益を計上するタイミングを、自社の経営計画に合わせて意図的に未来へずらすことにあるのです。この「課税のタイムシフト」機能を活用することで、企業は以下のような戦略的な財務計画を実行できます。

将来の大型支出への備え

最も代表的な活用法は、利益が大きく出た年度の税負担を軽減し、その繰り延べた利益を、将来計画している大規模な支出が発生する年度にぶつける方法です。

例えば、役員退職金の支払い原資として活用するケースが挙げられます。創業者や代表取締役の退任時期に合わせてリース期間が満了するように案件を組んでおきます。

リース資産の売却によって大きな利益が計上される年度に、同額規模の役員退職金を支払うことで、利益と損金(退職金)が相殺され、税負担を大幅に、あるいはほぼゼロに抑えることが可能になります。

また、工場の建て替えや生産ラインの刷新など、将来に多額の設備投資を計画している場合にも有効です。リース満了による利益計上のタイミングを設備投資の実行年度に合わせることで、新たな資産の減価償却費と利益を相殺し、キャッシュフローへの影響を平準化できます。

事業承継の円滑化

オペレーティングリースは、事業承継における税務上の課題を解決する手段としても非常に有効です。非上場企業の株価は、会社の純資産や利益水準に大きく影響されます。

このスキームを活用し、出資初年度に会計上の大きな損失を計上すると、会社の利益が圧縮され、一時的に貸借対照表上の純資産も減少します。これにより、自社株の評価額を意図的に引き下げることが可能になります。

この株価が下がったタイミングで、現経営者から後継者へ株式の贈与や譲渡を行えば、それに伴う贈与税や相続税、譲渡所得税の負担を大幅に軽減できるのです。

業績の平準化

不動産開発業や大型の受注生産を行う製造業など、年度によって利益が大きく変動する業種にとっても、この仕組みは有効です。利益が突出した年度にオペレーティングリースに出資することで、その利益の一部を将来に繰り延べ、複数年度にわたって利益水準を平準化することができます。これにより、安定した納税計画や経営計画を立てやすくなります。

このように、オペレーティングリースは、企業の財務における「タイムマシン」のような役割を果たします。ある年度に得た利益を、税務上、数年後の未来に移動させ、計画的な支出と正確にタイミングを合わせることで、税負担を最適化する。これは単なる節税を超えた、高度な財務戦略といえるでしょう。

意思決定の前に知るべき6つの重要リスクと注意点

意思決定の前に知るべき6つの重要リスクと注意点

オペレーティングリースが持つ戦略的なメリットは非常に魅力的ですが、これはあくまでも「投資」であり、相応のリスクが伴います。意思決定を行う前に、以下の重要なリスクと注意点を必ず理解し、自社の状況と照らし合わせて慎重に検討する必要があります。

元本割れのリスク

最も基本的なリスクとして、この投資には元本保証が一切ないという点を認識しなければなりません。元本割れを引き起こす主な要因は二つです。一つ目は、リース先である航空会社や海運会社が経営破綻し、リース料の支払いが滞ったり、契約が打ち切られたりする信用リスクです。

二つ目は、リース期間満了時に、対象資産(航空機や船舶)が想定していた価格で売却できない資産価値変動リスクです。世界的な不況、パンデミックによる需要の急減、あるいは技術革新による旧型機の価値下落など、市場環境の悪化によって売却価格が想定を大きく下回り、損失が生じる可能性があります。

為替変動リスク

多くのオペレーティングリース案件は、米ドル建てで組成されています。これは、航空機や船舶が国際的に米ドルで取引されるためです。出資は日本円で行いますが、リース期間中の分配金や最終的な売却代金は米ドルで受け取り、それを円に換金します。

このため、リース期間中に円高・ドル安が進行した場合、想定通りのドル建てリターンが得られても、円換算後の手取り額が減少し、元本割れを起こす可能性があります。

中途解約の困難性と資金の固定化

一度出資すると、その資金は7年から12年といった長期間にわたり完全に固定化されます。原則として中途解約は認められません。これは、もし会社が予期せぬ経営不振に陥り、急な資金需要が発生したとしても、この投資資金を引き出すことはできないことを意味します。あくまでも、長期間使途のない余裕資金で臨む必要があります。

「出口戦略」の必要性

繰り返しになりますが、このスキームは課税の繰り延べです。リース期間満了時には、繰り延べていた利益が一度に実現します。その利益を相殺するための明確な出口戦略(役員退職金の支払いなど)がなければ、結局その時点で多額の納税が発生することになります。「とりあえず節税」で始めてしまうと、将来の税負担に苦しむことになりかねません。

法人での活用が前提である点

この節税スキームは、法人だからこそ効果があるものです。個人が出資した場合、匿名組合から分配される損失は税法上「雑所得」に分類されます。雑所得の損失は、給与所得や事業所得など他の所得と損益通算することができないため、課税所得を圧縮する効果は得られません。

税制および会計基準の変更リスク

10年という長い期間の間には、税制が改正される可能性があります。将来、匿名組合の損失の損金算入が制限されるような改正が行われた場合、期待していた節税効果が得られなくなるリスクがあります。

また、国際財務報告基準(IFRS)を適用している企業の場合、IFRS16号によりオペレーティングリースも資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)することが義務付けられています。

日本の税法上は引き続き損金算入が認められていますが、これにより財務諸表上の自己資本比率などの経営指標が悪化する可能性があり、税務会計と財務会計の間に差異が生じ、経理処理が複雑化します。

これらのリスクは独立しているわけではなく、相互に関連し合って影響を増幅させることがあります。

例えば、世界的なパンデミックが発生した場合、航空会社の経営が悪化し(信用リスク)、中古航空機の市場価値が暴落し(資産価値リスク)、同時に世界経済の混乱から為替が大きく変動する(為替変動リスク)というように、複数のリスクが連鎖的に発生する可能性も十分に考慮する必要があります。

結論

ここまで、オペレーティングリースの基本から、日本型オペレーティングリースという投資商品の仕組み、その戦略的な活用法、そして重大なリスクまでを詳しく解説してきました。

要点を再確認すると、日本型オペレーティングリースは、減価償却の仕組みを利用して会計上の損失を作り出し、それを本業の利益と相殺することで税金の支払いを将来に繰り延べるための、極めて専門的で強力な金融商品です。それは、将来の計画的な支出への備えや、円滑な事業承継の実現といった、長期的な経営戦略において大きな効果を発揮する可能性を秘めています。

しかし、その一方で、元本割れ、為替変動、資金の長期固定化といった無視できないリスクも内包しています。この商品を検討するにあたり、自社が以下の条件を満たしているか、冷静に評価することが重要です。

オペレーティングリース活用が適している企業像

一過性または周期的に大きな利益が計上され、高い法人税負担に直面している。

事業運営に影響を与えることなく、7年から12年という長期間にわたって固定化されても問題ない、潤沢な余裕資金がある。

役員退職金の支払いや大規模な設備投資など、リース期間の満了時期に合わせられる明確な「出口戦略」となる将来計画がある。

経営陣が、市場リスク、信用リスク、為替リスクといった投資の本質を十分に理解し、そのリスクを許容できる。

もし、あなたの会社がこれらの条件に当てはまるのであれば、オペレーティングリースは検討に値する選択肢となるでしょう。しかし、決して安易な、あるいは短期的な節税対策として飛びつくべきではありません。

最終的な判断を下す前には、必ずオペレーティングリースを専門に扱う金融機関や、経験豊富な税理士といった専門家に相談し、自社の財務状況や将来計画を詳細に分析した上で、この長期的なコミットメントが本当に最適な一手であるかを見極めることを強く推奨します。

この記事の投稿者:

hasegawa

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