会計の基礎知識

子会社の子会社(孫会社)とは?定義から設立、M&A活用まで解説

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子会社の子会社

「子会社の子会社」、いわゆる「孫会社」という存在を、自社の成長戦略やリスク管理に活かしたいと考えたことはありませんか。グループ経営の最適化を目指す中で、この複雑に見える組織構造を正しく理解し、使いこなすことは、競合他社に差をつけるための強力な武器となり得ます。

しかし、その法的な位置づけや会計処理、ガバナンスの難しさから、多くのビジネスパーソンが断片的な知識しか持てていないのが実情です。この記事を最後まで読めば、「子会社の子会社」に関するあらゆる疑問を解消できます。

会社法上の定義といった基礎知識から、連結会計の具体的な計算方法、海外孫会社のガバナンス体制構築、さらにはM&Aにおける戦略的活用法まで、実務に必要な情報を網羅的に得ることが可能です。

この記事は、明日からでも自社の経営戦略に活かせる、実践的な知見を提供します。複雑な企業構造を「知っている」だけでなく、「使いこなせる」レベルへと引き上げるための、信頼できる羅針盤となるでしょう。

目次

「子会社の子会社」とは?意外と知らない「孫会社」の法的な立ち位置

グループ経営を考える上で、「子会社の子会社」、通称「孫会社(まごがいしゃ)」の正確な理解は不可欠です。多くの人が単なる組織図上の一階層と捉えがちですが、その法的な位置づけは企業の会計やガバナンスに直接的な影響を及ぼします。ここでは、その基本となる会社法上の定義から、関連する用語との違いまでを明確に解説します。

会社法における「子会社」の定義 50%ルールだけではない実質支配とは

まず基本として、子会社とは一般的に「他の会社(親会社)によって株式の50%超を保有されている会社」と認識されています。議決権の過半数を所有されることで、株主総会を通じて経営権が親会社に支配されるためです。

しかし、会社法が定める「子会社」の定義は、この形式的な株式保有比率、いわゆる「50%ルール」だけに留まりません。より重要なのは、「実質的支配」という考え方です。これは、形式上の数字だけでなく、実態として経営を支配しているかどうかで親子関係を判断する基準です。

たとえ株式保有比率が50%以下であっても、以下の要件を満たす場合には子会社と見なされます。

議決権の40%以上を保有し、かつ以下のいずれかの要件を満たす場合

  • 自社と意思を同じくして議決権を行使する者(緊密な関係がある者)と
    合わせて議決権の過半数を有する
  • 対象会社の取締役会の構成員の過半数を、自社の役員や従業員などで占めている
  • 対象会社の重要な財務や事業の方針決定を支配する契約が存在する
  • 対象会社の資金調達総額の過半について融資を行っている
  • 議決権の40%未満でも、緊密な関係がある者と合わせて議決権の過半数を有し、かつ上記の一定の要件を満たす場合

法律がこのような実質的な基準を設けている背景には、企業が意図的に株式保有率を50%未満に抑えることで、子会社としての規制を免れようとする行為を防ぐ狙いがあります。

したがって、ある会社が子会社に該当するかどうかを判断する際は、単なる出資比率だけでなく、役員派遣の状況や取引関係、契約内容といった経営への関与の実態を総合的に評価する必要があるのです。

孫会社は親会社から見ても「子会社」であるという事実

特に重要な点は、子会社が支配する会社、つまり「孫会社」は、その親会社(祖父会社)から見ても法的に「子会社」として扱われるという事実です。この論理は支配関係の連鎖に基づいています。

親会社P社が子会社S社を支配し、その子会社S社が孫会社G社を支配している場合、親会社P社は子会社S社を通じて孫会社G社に対しても最終的な支配力を有していると見なされるのです。

この事実は、極めて大きな実務上の意味を持ちます。孫会社が親会社の「子会社」であるということは、原則として、親会社の連結財務諸表の作成範囲に含まれることを意味します。また、グループ全体のガバナンスや内部統制の対象にもなるため、管理責任は孫会社にまで及ぶことになります。

「孫会社」という言葉はあくまで一般的な呼称であり、法務や会計の世界では、親会社から見て直接支配しているか間接的に支配しているかの違いはあれど、どちらも等しく「子会社」であるという認識がすべての議論の出発点となります。

この点を誤解すると、連結範囲の脱漏やガバナンス不全といった重大なコンプライアンス違反につながる可能性があります。

関連会社・グループ会社との違いを整理

企業グループを語る際には、子会社以外にも様々な用語が登場し、混同されがちです。ここで一度、それぞれの定義を明確に整理しておきましょう。

関連会社は、親会社が議決権の20%以上50%未満を保有し、経営方針の決定に対して「重要な影響を与えることができる」会社を指します。子会社のような「支配」関係にはありませんが、人事、資金、技術、取引などを通じて強い影響力を持つ関係です。

関係会社は、法律や会計制度で用いられる用語で、親会社、子会社、関連会社をすべて含んだ総称です。グループ会社は、法律上の明確な定義はなく、一般的に「関係会社」とほぼ同じ意味で使われるビジネス用語です。特定の親会社を中心とした資本関係のある企業群全体を指します。

これらの違いをまとめたのが以下の表です。特に、支配の度合いと会計処理の方法が大きく異なる点を理解することが重要です。

用語定義議決権比率の目安支配関係会計処理
子会社親会社に経営を支配されている会社50%超(または実質支配)支配関係あり連結法(財務諸表を合算)
関連会社親会社から重要な影響を受ける会社20%以上50%未満支配関係なし持分法(損益等を持分に応じて反映)
関係会社親会社、子会社、関連会社の総称
グループ会社関係会社とほぼ同義のビジネス用語

なぜ孫会社を設立・活用するのか?戦略的なメリットとデメリット

企業はなぜ、あえて管理が複雑になる「孫会社」という形態をとるのでしょうか。その背景には、事業の成長を加速させ、リスクを巧みにコントロールするための戦略的な狙いが存在します。ここでは、孫会社を活用するメリットと、それに伴うデメリットを多角的に分析します。

事業戦略上のメリット リスク分散と新規事業の加速

孫会社構造がもたらすメリットの一つは、リスクの分散と封じ込めです。新規事業や海外進出など、先行投資が大きく不確実性の高いビジネスに挑戦する際、その事業を孫会社として切り出すことで、万が一失敗した場合の損失や法的責任をその法人内に限定できます。

これにより、親会社やグループ内の他の優良事業への悪影響を最小限に抑え、より大胆な挑戦を可能にします。

また、戦略的な柔軟性も大きな利点です。子会社レベルで他社との合弁事業(JV)を設立する場合、そのJVは親会社から見れば孫会社となります。これにより、親会社が直接JVの運営に関与することなく、特定の事業領域でパートナーシップを組むことができ、機動的なアライアンス戦略を展開できます。

さらに、M&Aや事業売却の容易化も挙げられます。ある事業部門が孫会社として独立法人化されていれば、その事業だけを売却(カーブアウト)したり、スピンオフしたりする際の手続きが簡素化されます。親会社や子会社の本体にメスを入れることなく、事業ポートフォリオの再編を迅速に行えるのです。

組織運営上のメリット 迅速な意思決定と責任範囲の明確化

組織運営の観点からも、孫会社は多くの利点をもたらします。巨大な組織の一部門として事業を行う場合、稟議や承認プロセスに時間がかかり、市場の変化に対応しきれないことがあります。

一方、孫会社として組織をコンパクトにすることで、意思決定の階層が減り、スピーディーな経営判断が可能になります。この機敏性は、変化の激しい業界において大きな競争優位性となります。

また、責任と権限が明確になる点もメリットです。特定の事業を一つの会社として独立させることで、その事業の損益(P&L)責任が明確になります。これにより、業績評価が容易になるだけでなく、経営を任された人材の当事者意識を高め、将来のグループ経営を担うリーダーを育成する場としても機能します。

無視できないデメリット 管理コストの増大とガバナンスの複雑化

多くのメリットがある一方で、孫会社の活用には看過できないデメリットも存在します。これらは主に、管理面での負担増に集約されます。法人が一つ増えるごとに、経理、総務、法務といった管理部門の業務が重複して発生します。

会計監査や税務申告も個別に行う必要があり、事務所の家賃や光熱費などのランニングコストもかさみます。これらのコストは、グループ全体の効率性を損なう要因となり得ます。

最大の課題は、ガバナンスの複雑化です。親会社から見て階層が一つ増えることで、経営の状況が把握しにくくなる「ガバナンス・ギャップ」が生じやすくなります。親会社の経営方針が末端まで浸透しにくくなったり、子会社を介することで情報共有が非効率になったりするリスクがあります。

さらに、レピュテーションリスクも無視できません。法的にはリスクを分離できても、評判へのダメージはグループ全体に波及します。万が一、孫会社で不祥事が発生した場合、そのニュースは「〇〇グループの孫会社が…」と報じられ、親会社やグループ全体のブランドイメージを毀損する可能性があります。

孫会社を設立・活用するかどうかの判断は、「機動性やリスク分離といった戦略的メリット」と「コスト増大や管理の複雑化という管理上のデメリット」を天秤にかけることに他なりません。画一的な正解はなく、事業の特性、リスク許容度、そして親会社の管理能力を総合的に勘案した上で、最適なグループ構造を設計することが求められます。

孫会社を持つ企業の必須知識 連結会計と税務の基本

孫会社を持つ企業の必須知識 連結会計と税務の基本

孫会社をグループに持つ場合、その存在を財務諸表にどう反映させるかという会計上のルールを正しく理解することが不可欠です。特に連結決算における孫会社の取り扱いは複雑であり、専門的な知識が求められます。ここでは、経営者が押さえておくべき連結会計の基本を解説します。

連結決算の対象となる孫会社 連結子会社と非連結子会社

前述の通り、孫会社は親会社から見ても法的に「子会社」です。したがって、会計上も原則として「連結子会社」として扱われ、その資産、負債、収益、費用はすべて親会社の連結財務諸表に合算されます。

ただし、例外的に連結の範囲から除外される子会社も存在し、これを「非連結子会社」と呼びます。非連結子会社とすることが認められるのは、主に以下のケースです。

重要性の原則に基づく場合
その子会社の資産、売上高、利益などがグループ全体に与える影響が極めて小さく、連結から除外しても利害関係者の合理的な判断を妨げないと認められる場合。

支配が一時的である場合
一時的な所有を目的としており、近い将来に売却することが見込まれる場合。

しかし、多くの事業会社にとって、運営している孫会社がこの「重要性が乏しい」という基準に該当することは稀です。したがって、「孫会社は原則として連結対象である」と認識しておくことが実務上は重要です。

孫会社の連結方法 「サブ連結」と「フラット連結」の違い

孫会社を含む企業グループ全体の連結財務諸表を作成する際には、主に2つの方法が存在します。

一つは「サブ連結(段階連結)」です。これは二段階のプロセスで、まず子会社が自身の支配下にある孫会社を連結し、「子会社グループの連結財務諸表」を作成します。

次に、親会社がその「子会社グループの連結財務諸表」を自社と連結して、グループ全体の連結財務諸表を完成させます。この方法は、子会社自体が地域統括会社や事業持株会社として、一つの独立したグループを形成している場合に有効です。

もう一つは「フラット連結」です。これは一段階のプロセスで、親会社が、直接の子会社と孫会社を並列の存在として、一度にまとめて連結処理を行います。管理がシンプルになるという利点があります。

どちらの方法を採用しても、最終的に作成されるグループ全体の連結財務諸表の数値は理論上同じになります。選択は、グループの管理体制やレポーティングラインの実態に合わせて行われます。

間接所有における親会社持分額の計算方法

連結決算において最も複雑なのが、間接的に所有している孫会社の資本のうち、どこまでが親会社の取り分(親会社持分)で、どこからが外部株主の取り分(非支配株主持分)なのかを計算するプロセスです。この計算方法は、会計基準の実務指針で詳細に定められており、特に「資本金等」と「利益剰余金」で計算ロジックが異なる点が重要です。

具体的な設例を見ていきましょう。

  • 親会社P社が子会社S社の株式を60%保有
  • 子会社S社が孫会社G社の株式を30%保有
  • 親会社P社が孫会社G社の株式を直接30%保有

この場合、孫会社G社の資本に対する親会社P社の持分は以下のように計算します。資本金等の親会社持分額は、直接所有と間接所有の持株比率を単純に合算します。

親会社持分比率 = 直接所有比率 + 間接所有比率 = 30% + 30% = 60%

孫会社G社の資本金等に対して、60%が親会社P社の持分となります。

一方、利益剰余金の親会社持分額は、間接所有部分について、親会社の子会社に対する持分比率を乗じて計算します。これを実質所有比率と呼びます。

親会社持分比率=直接所有比率+(P社のS社への持分比率×S社のG社への持分比率)

=30%+(60%×30%)=30%+18%=48%

孫会社G社が獲得した利益剰余金に対しては、48%が親会社P社の持分となります。

計算方法が異なる背景には、資本金が当初の出資持分を直接反映するのに対し、利益は子会社を経由して親会社に還元されるという経済的実態があります。親会社P社は、孫会社G社から子会社S社に分配された利益のうち、自身のS社への出資分(60%)しか受け取る権利がありません。

この経済的実態を反映するために、利益剰余金の計算では乗算が行われるのです。この複雑なルールを理解することが、グループの財政状態を正確に把握する鍵となります。

攻めと守りのグループ経営 孫会社のガバナンス体制構築法

孫会社を活用したグループ経営における最大の難関は、間違いなく「ガバナンス」です。親会社から物理的にも組織的にも距離が離れることで、経営の監督が届きにくくなり、様々なリスクの温床となり得ます。「攻め」の事業展開を支えるためには、鉄壁の「守り」としてのガバナンス体制が不可欠です。

孫会社管理の課題 目が届きにくい「死角」をなくすには

孫会社を持つことで生じる根本的な課題は、親会社の目が届きにくくなる「ガバナンスの死角」です。親会社の経営理念やコンプライアンス方針は、子会社というフィルターを経ることで薄まり、孫会社の末端まで浸透しない恐れがあります。

その結果、情報の伝達遅延と歪曲といった問題が発生しやすくなります。孫会社で発生した問題が、子会社を経由するうちに報告が遅れたり、内容が矮小化されたりするのです。また、財務、労務、コンプライアンス上のリスクが、親会社に認識されないまま放置され、気づいた時には深刻な事態に発展しているケースも少なくありません。

経済産業省の研究会でも、多くの日本企業グループにおいて、事業ラインの「タテの指揮命令」は強いものの、グループ全体を横串で管理する本社機能、すなわち「ヨコのガバナンス」が弱いことが課題として指摘されています。この構造は、孫会社のような階層の深い組織において、より顕著に問題として現れます。

特に注意すべき海外孫会社のガバナンスと不正リスク

国内の孫会社でさえ管理が難しいのですから、その対象が海外にある場合、課題はさらに増幅されます。通常のガバナンス課題に加えて、文化・法制度・商慣習の違いや、言語の壁、時差によるコミュニケーションの障壁が複雑に絡み合います。日本の常識が通用せず、予期せぬコンプライアンス違反や労務問題につながることもあります。

また、現地で優秀な管理者を確保・維持することが難しく、業務が特定の個人に依存する「属人化」が進みやすいという人材の問題も存在します。

親会社の監視が物理的に届きにくいため、在庫の横流し、取引先からのキックバック、架空取引といった不正行為が発生しやすい環境が生まれるリスクも増大します。実際に、海外子会社や孫会社での会計不正が発覚し、親会社が多額の課徴金を科された事例も報告されています。

実効性のある管理体制の構築 規程整備と内部監査のポイント

効果的なガバナンスは、偶然生まれるものではなく、意図的に設計されるものです。孫会社を適切に管理するためには、権限委譲の明確化が第一歩です。親会社、子会社、孫会社それぞれの決裁権限を明確に定義し、どの事項が孫会社単独で決定でき、どの事項が子会社の承認を要し、どの重要事項が親会社の事前承認を必要とするのかをルール化します。

次に、「グループ会社管理規程」の整備と運用が重要です。この規程には、報告義務、重要事項の事前承認プロセス、コンプライアンス基準などを盛り込みます。特に孫会社を管理する上では、子会社に「孫会社管理に関する規程」の策定を義務付け、その監督責任を明確にすることが有効です。

そして、内部監査体制の強化も欠かせません。親会社の内部監査部門が、子会社だけでなく孫会社に対しても直接監査を実施できる体制を整えることが理想です。それが難しい場合でも、子会社が実施する孫会社への内部監査の結果を親会社がレビューし、その実効性を監督する仕組みが求められます。

条項名主な内容孫会社管理における特に考慮すべき点
目的・定義規程の目的、対象となる会社の範囲を定義する。「子会社」の定義に「子会社の子会社」も含まれることを明記する。
経営の自主性と責任子会社の自主経営を尊重しつつ、グループの一員としての責任を定める。子会社に対し、その子会社(孫会社)の経営を監督する責任を明確に課す。
報告義務月次・年次の業績報告、取締役会議事録、重要事項の発生報告などを義務付ける。孫会社から子会社への報告ルートと、子会社から親会社への報告ルートを二重に整備し、迅速性を確保する。
事前承認・協議事項一定額以上の設備投資、新規事業、M&A、重要な契約締結などを親会社の事前承認事項とする。承認の閾値を子会社と孫会社で変えるなど、階層に応じた管理を行う。
資金調達・人事資金調達の原則や役員派遣に関するルールを定める。孫会社の役員人事に親会社がどの程度関与するか(例:子会社経由での推薦)を明確にする。
内部監査親会社による内部監査の実施権限や、子会社の協力義務を定める。親会社監査部門が孫会社まで直接往査できる権限を明記する。

これらの仕組みを組み合わせ、グループの隅々までガバナンスを浸透させることが、持続的な成長を支える基盤となります。

M&A・組織再編で活用する孫会社の実務

M&A・組織再編で活用する孫会社の実務

孫会社は、単なる組織階層ではなく、M&Aやグループ内再編において戦略的に活用されるダイナミックなツールです。ここでは、孫会社の設立から、グループ構造の最適化、M&Aにおける活用事例まで、具体的な実務について解説します。

孫会社を設立する具体的な手続き

孫会社を設立する手続きは、基本的には新しい会社を一つ設立するプロセスと同じです。ただし、その際の発起人(出資者)が親会社ではなく、子会社になる点が異なります。

主な流れは、定款の作成、発起人である子会社による資本金の払込み、そして本店所在地を管轄する法務局への設立登記申請となります。このプロセスを経て、孫会社は法人格を取得します。

この際、注意すべき点は、設立する孫会社の事業目的が、親会社の定款に記載された事業目的の範囲内に含まれていることです。親会社は定款で許された範囲外の事業を子会社(孫会社を含む)を通じて行うことはできないため、グループ全体の定款との整合性を確認する必要があります。

グループ内再編 孫会社を直接の子会社にするスキーム(現物分配など)

「親会社-子会社-孫会社」という三階層の構造は、管理の複雑化や意思決定の遅延を招くことがあります。そのため、ガバナンス強化や経営効率化を目的に、孫会社を親会社の直接の子会社へと格上げするグループ内再編がしばしば行われます。

この再編を実現するための代表的な手法が「現物分配」です。これは、子会社が保有する孫会社株式を、配当(剰余金の配当)として親会社に交付する手法です。特に、完全親子会社間など一定の要件を満たす「適格現物分配」に該当する場合、子会社側にも親会社側にも課税が生じないため、税務コストをかけずにグループ構造を簡素化できます。

他にも、子会社が孫会社株式を保有する事業を切り出して親会社に承継させる「会社分割」や、親会社が子会社から孫会社の株式を買い取る「株式売買」といった手法があります。企業は、自社の資本関係や税務上の影響を考慮し、これらの手法を戦略的に選択して、グループ構造を常に最適な状態に保とうとします。

M&A事例に学ぶ孫会社化の目的と効果

M&Aの世界でも、孫会社は重要な役割を果たします。実際の事例から、その目的と効果を見ていきましょう。

「子会社を通じた買収(孫会社化)」は、親会社が直接ではなく、特定の子会社を通じてターゲット企業を買収するケースです。例えば、アステナホールディングスは、子会社であるイワキを通じて池田物産グループを買収し、孫会社化しました。

これは、化学品事業を担う子会社イワキが買収の主体となることで、事業シナジーを最大化する狙いがあったと考えられます。

「公開買付け(TOB)による孫会社化」の事例もあります。東芝は、子会社である東芝デバイス&ストレージを通じて、上場していた孫会社の西芝電機に対してTOBを実施し、完全子会社化しました。これは、グループ内に点在していた重要事業を再編し、意思決定を迅速化して経営資源を集中させる目的で行われました。

また、「孫会社の売却」も戦略的な選択肢の一つです。アドウェイズは、子会社UNICORNが保有する孫会社The Swampmanの株式の一部を他社へ譲渡しました。三菱HCキャピタルも、子会社が保有するインドネシアの孫会社を売却しています。

これらは、事業ポートフォリオを最適化し、経営資源を成長分野へ再配分するための判断です。これらの事例が示すように、孫会社はM&Aにおいて、買収の受け皿、再編の対象、そして売却の単位として、柔軟かつ戦略的に活用されているのです。

まとめ

この記事では、「子会社の子会社」、すなわち孫会社の法的な定義から、戦略的なメリット・デメリット、連結会計の実務、ガバナンス体制の構築、そしてM&Aにおける活用法までを網羅的に解説しました。最後に、経営戦略を担うビジネスパーソンが押さえておくべき要点を再確認します。

第一に、孫会社は、親会社の「子会社」です。この法務・会計上の大原則が、連結決算やガバナンスの義務を発生させます。単なる組織図上の存在ではなく、親会社が直接的な管理責任を負う対象です。

第二に、孫会社の活用は戦略的なトレードオフの関係にあります。リスク分離や迅速な意思決定といった大きなメリットをもたらす一方で、管理コストの増大やガバナンスの複雑化というデメリットを伴います。このトレードオフを理解し、自社の状況に合わせて最適な構造を選択することが求められます。

第三に、ガバナンスの設計が成否を分けます。特に海外孫会社においては、物理的・文化的な距離がガバナンスの「死角」を生み出します。明確な規程の整備、実効性のある報告・モニタリング体制、そして機能する内部監査といった仕組みを意図的に構築しなければ、その活用は失敗に終わるでしょう。

第四に、孫会社はダイナミックな経営ツールです。静的な組織の箱ではなく、グループ内再編によって子会社にしたり、M&Aによって新たに迎え入れたり、あるいは売却したりと、事業ポートフォリオを最適化するための動的なツールとして活用されます。

「子会社の子会社」という一見複雑な概念を正しく、深く理解することは、もはや一部の専門家の仕事ではありません。それは、変化の激しい時代において、企業グループ全体の競争力と持続可能性を高めるための、すべての経営層にとって不可欠な知識です。

この記事で得た知見が、あなたの会社のグループ戦略の選択肢を広げ、より強固でしなやかな経営体制を築く一助となれば幸いです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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