
家庭教師として活躍されている皆さん、確定申告について不安や疑問を抱えていませんか?
「自分は申告が必要なのだろうか?」「手続きが複雑そう…」「何から手をつければいいかわからない」といった声は、毎年多くの家庭教師の方から寄せられます。
特に、個人で活動する場合、働き方や契約形態によって税金の扱いが変わるため、戸惑うことも多いでしょう。
このガイドでは、税理士の視点から、家庭教師の皆さんが確定申告を正しく理解し、スムーズに進められるよう、必要な情報を網羅的に解説します。
専業の方、副業の方、学生の方など、様々なケースに対応できるよう、具体的な基準や手順、注意点をわかりやすくお伝えします。
確定申告は、納税の義務を果たすだけでなく、払いすぎた税金を取り戻すチャンスでもあります。正しい知識を身につけ、安心して教育活動に専念できるようにしましょう。
目次
あなたは確定申告が必要?ケース別判断基準
まず、ご自身が確定申告をする必要があるのかどうかを確認しましょう。重要なのは、年間の「収入」(売上)ではなく、「所得」で判断する点です。
「所得」とは、1年間の総収入金額から、その収入を得るためにかかった「必要経費」を差し引いた金額を指します。
例えば、年間の売上が200万円で、教材費や交通費などの経費が15万円かかった場合、所得は185万円(200万円 – 15万円)となります。この「所得」の金額が、確定申告が必要かどうかの基準となります。
専業(家庭教師が主な収入源)の場合
家庭教師としての活動が主な収入源である場合、原則として年間の「所得」が基礎控除額を超える場合に確定申告が必要です。現在の基礎控除額は原則48万円です。
一部の資料では古い基準である38万円と記載されている場合もありますが、現在は48万円が基準となります。
したがって、年間の所得が48万円を超えていれば、確定申告の義務が生じます。
ただし、所得が48万円以下であっても、報酬から所得税が源泉徴収されている場合は、確定申告をすることで税金が還付される可能性がありますので、申告を検討する価値があります。
副業(他に主な給与収入がある)の場合
会社員など他に主な給与所得があり、副業として家庭教師を行っている場合は、家庭教師による年間の「所得」が20万円を超える場合に確定申告が必要となります。
ここで注意すべきは、これも「収入」ではなく「所得」で判断する点です。つまり、収入が20万円を超えていても、経費を差し引いた所得が20万円以下であれば、所得税の確定申告は原則不要です。
ただし、副業の所得が20万円以下であっても、住民税の申告は別途必要になる場合がありますので、お住まいの市区町村にご確認ください。
また、副業以外にも、給与を2か所以上から受け取っていて、主たる給与以外の給与「収入」が年間20万円を超える場合や、年収が2,000万円を超える場合なども確定申告が必要です。
契約形態の影響
家庭教師の働き方には、主に「雇用契約」と「業務委託契約」があり、どちらの契約形態かによって税金の取り扱いが大きく異なります。ご自身の契約内容を正確に把握することが極めて重要です。
雇用契約の場合
家庭教師センターなどと雇用契約を結び、給与として報酬を受け取っている場合、その収入は「給与所得」となります。給与所得の場合、通常は勤務先が年末調整を行ってくれるため、ご自身で確定申告をする必要は基本的にありません。
ただし、前述の副業所得が20万円を超える場合など、他の確定申告が必要な条件に該当する場合は申告が必要です。
業務委託契約の場合
家庭教師派遣会社と業務委託契約を結んでいる場合や、生徒の家庭と直接契約(個人契約)を結んでいる場合、その収入は原則として「事業所得」または「雑所得」に分類されます。
この場合、家庭教師は個人事業主(フリーランス)として扱われ、上記の所得基準(専業なら48万円超、副業なら20万円超)に基づいて、ご自身で確定申告を行う必要があります。
このように、契約形態は税務上の手続き(年末調整か確定申告か)を左右する根本的な要素です。雇用契約なのか業務委託契約なのか、ご自身の契約書などをよく確認しましょう。
学生の場合
学生の方が家庭教師をする場合も、基本的なルールは同じです。所得が基準額を超えれば確定申告が必要です。
ただし、学生には「勤労学生控除」という制度があり、適用できれば所得金額から27万円を控除できます。
適用を受けるには、合計所得金額が75万円以下であること、勤労(アルバイトなど)に基づく所得以外の所得が10万円以下であること、特定の学校の学生であることなどの要件を満たす必要があります。
この控除により、自身の所得税がゼロになる場合もありますが、所得基準(専業48万円、副業20万円)を満たしていれば、申告義務自体はなくなりません。
また、学生の場合、収入が増えすぎると親の扶養から外れてしまう可能性がある点にも注意が必要です。
例えば、給与収入が年間130万円を超えると、給与所得控除(最低55万円)を差し引いても所得が75万円を超え、基礎控除48万円を引いても所得が残るため、税法上の扶養親族の要件(合計所得48万円以下)から外れてしまいます。
そうなると、親御さんの所得税や住民税が増額される可能性があります。勤労学生控除で自身の税金がゼロになったとしても、扶養から外れることによる影響は別途発生しうるため、収入額には注意しましょう。
所得の種類を知ろう:事業所得と雑所得の違い
業務委託契約や個人契約で家庭教師をしている場合、その所得は「事業所得」または「雑所得」のいずれかに分類されることが一般的です。この区分は、利用できる税制上の優遇措置などに影響するため、正しく理解しておくことが重要です。
所得の定義
税法上、所得は10種類に分類されます。雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも当てはまらない所得を指します。
公的年金や副業による所得(原稿料、シェアリングエコノミー、家庭教師など)がこれに該当することが多いです。
一方、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生ずる所得(ただし、不動産貸付や山林所得に該当するものを除く)と定義されています。
事業所得と雑所得の判断基準
家庭教師の所得が事業所得と雑所得のどちらに該当するかは、「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行われているかどうか」で判定されます。これは単一の基準ではなく、以下の要素を総合的に勘案して判断されます。
継続性・反復性
その活動が安定的・継続的に行われているか。単発の依頼や不定期な活動は雑所得とみなされやすい傾向があります。
営利性・有償性
利益を得ることを目的として、対価を得て行われているか。趣味の延長線上であったり、赤字が継続している状況で改善努力が見られない場合は、事業性が低いと判断される可能性があります。
自己の計算と危険において独立して行われているか
企画、収支計算、設備投資などを自己の責任で行っているか。他者の指示や用意された環境下での活動は、独立性が低いと見なされることがあります。
精神的・肉体的労力の投入度
その活動に相応の時間や労力を費やしているか。
人的・物的設備の有無
事業を行うための設備(事務所、機材など)を備えているか。
職業・社会的地位
その活動が職業として認知される程度のものか。
記帳・帳簿書類の保存状況
これは近年、特に重要な判断要素とされています。収入金額が300万円以下の場合でも、正規の簿記の原則に従った帳簿書類を作成・保存していれば、原則として事業所得と認められます。
逆に、帳簿書類の保存がない場合は、基本的には雑所得として扱われます。
収入金額
収入金額が3年間程度継続して300万円を超えている場合は、事業と認められやすくなります。
逆に、収入金額が300万円以下で、かつ主たる収入(本業の給与など)に対する割合が10%未満であるような場合は、事業とは認められず雑所得と判断される可能性があります。
なお、雑所得であっても、前々年の収入が300万円を超えると現金預金取引等関係書類(請求書や領収書など)の保存が義務付けられ、1,000万円を超えると収支内訳書の提出が必要になります。
副業の場合の区分
会社員などが副業として家庭教師を行う場合、その所得は一般的に雑所得に該当するとされることが多いです。
しかし、副業であっても、上記の判断基準、特に記帳・帳簿の保存状況や活動の継続性、規模などを満たせば、事業所得として認められる可能性は十分にあります。
過去には、大学准教授の執筆・講演収入が、継続性や記録の不備などを理由に事業所得ではなく雑所得と判断された事例もあります。
なぜ区分が重要なのか?
事業所得と雑所得の最も大きな違いは、「青色申告」の適用可否にあります。青色申告は、事業所得、不動産所得、山林所得を得ている人のみが利用できる制度であり、様々な税制上の特典があります。
雑所得は青色申告の対象外です。したがって、節税メリットを最大限に活用したい場合は、事業所得として認められるように、日頃から帳簿付けをしっかりと行い、事業としての実態を整えることが重要になります。
特に、収入が300万円以下であっても、適切な帳簿管理は事業所得と認められるための鍵となります。
青色申告 vs 白色申告:どちらを選ぶべき?
個人事業主(事業所得、不動産所得、山林所得がある方)の確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2種類の方法があります。家庭教師の所得が事業所得に該当する場合、どちらかを選択することになります。
白色申告
白色申告は、青色申告の承認申請をしていない場合に自動的に適用される、基本的な申告方法です。
メリット
事前の申請が不要
青色申告のような事前の届出は必要ありません。
記帳が比較的簡単
簡易な方法(単式簿記)での記帳が認められており、複式簿記の知識がなくても比較的容易に帳簿付けができます。提出書類も「収支内訳書」で、青色申告決算書よりシンプルです。
デメリット
税制上の特典がない
青色申告のような特別控除や損失繰越などの節税メリットがほとんどありません。
専従者給与の制限
家族への給与は全額経費にできず、控除額に上限があります(事業専従者控除)。
赤字の繰越が原則不可
事業で赤字が出ても、翌年以降の黒字と相殺することが原則できません。
家事按分の要件が厳しい場合がある
自宅兼事務所の経費按分において、事業使用割合が主(50%超)であることが求められる場合があります。
近年、白色申告でも記帳と帳簿書類の保存は義務化されており、以前ほどの簡便さのメリットは薄れています。
青色申告
青色申告は、事前に税務署に申請し承認を受けることで利用できる申告方法です。正規の簿記の原則に従った記帳が求められますが、多くの税制上の優遇措置を受けられます。
- 手続き
事前申請が必要
原則として、青色申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以降に新規開業した場合は、開業日から2か月以内)に、「所得税の青色申告承認申請書」を納税地の税務署に提出する必要があります。
多くの場合、「開業届」と同時に提出します。
記帳方法
最大限の特典(65万円または55万円控除)を受けるには、複式簿記による記帳が必要です。簡易簿記でも青色申告(10万円控除)は可能です。
提出書類
「確定申告書」に加えて「青色申告決算書」を提出します。65万円・55万円控除の場合は、損益計算書と貸借対照表が必要です。
- メリット
青色申告特別控除
所得金額から最大65万円、55万円、または10万円を控除できます。
65万円控除の要件
①事業所得または事業的規模の不動産所得であること
②複式簿記で記帳していること
③貸借対照表と損益計算書を添付すること
④申告期限内に提出すること
⑤e-Taxによる電子申告または優良な電子帳簿保存を行っていること
のすべてを満たす必要があります。
55万円控除の要件
上記①~④の要件を満たし、⑤のe-Tax申告または電子帳簿保存を行わない場合に適用されます。
10万円控除の要件
簡易簿記での記帳、または所得が山林所得や事業的規模でない不動産所得の場合に適用されます。
純損失の繰越控除
事業で生じた赤字(純損失)を、翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の黒字所得と相殺できます。開業当初や収入が不安定な時期に大きなメリットとなります。
青色事業専従者給与
生計を同一にする配偶者や親族(15歳以上)に支払った給与を、事前に届出を行い、相当と認められる範囲内で全額必要経費に算入できます。
白色申告の事業専従者控除(配偶者86万円、その他親族50万円)よりも有利になる場合があります。
少額減価償却資産の特例
取得価額が30万円未満の減価償却資産(パソコン、コピー機など)について、年間合計300万円を限度として、取得した年に一括で必要経費に計上できます。
通常10万円以上の資産は、耐用年数に応じて数年に分けて経費化(減価償却)する必要があります。
貸倒引当金の計上
売掛金などの債権に対して、将来回収不能になる可能性を見越して、一定額を貸倒引当金として必要経費に計上できます。
家事按分の柔軟性
自宅兼事務所の家賃や光熱費などを按分する際、白色申告よりも柔軟な基準(事業使用割合が50%以下でも合理的なら認められやすい)が適用されることがあります。
- デメリット
記帳の手間
特に複式簿記は、白色申告の簡易簿記に比べて複雑で、手間がかかります。
事前申請が必要
期限までに申請を忘れると、その年は青色申告できません。
どちらを選ぶべきか?
家庭教師としての活動を本格的な事業(事業所得)として行い、節税効果を最大限に得たいのであれば、青色申告を選択することを強く推奨します。特に、最大65万円の特別控除は大きな魅力です。
記帳の複雑さが懸念されるかもしれませんが、近年は使いやすい会計ソフトが多く登場しており、簿記の知識が少ない方でも複式簿記による帳簿作成やe-Tax申告を比較的簡単に行えるようになっています。
政府もe-Tax利用を推進しており、65万円控除の要件に加えることで、デジタル化を後押ししています。
青色申告と白色申告の比較表
項目 | 青色申告 | 白色申告 |
事前申請 | 必要(原則 申告年の3/15まで) | 不要 |
記帳方法 | 原則 複式簿記(55/65万円控除)<br>簡易簿記も可(10万円控除) | 簡易簿記 |
特別控除 | 最大65万円・55万円・10万円 | なし |
赤字繰越 | 3年間可能 | 原則不可 |
家族への給与 | 専従者給与として全額経費算入可(要件あり) | 事業専従者控除(金額制限あり) |
30万円未満資産の特例 | あり | なし |
家事按分 | 比較的柔軟 | 事業使用が主である必要あり |
簡便性 | やや複雑 | 比較的簡単 |
節税効果 | 高い | 低い |
この表は、両者の主な違いをまとめたものです。ご自身の事業規模や将来性、記帳にかけられる時間などを考慮して、最適な方法を選択してください。
経費をしっかり計上して節税!家庭教師の経費リスト
確定申告において所得金額を計算する際、収入から差し引くことができるのが「必要経費」です。この必要経費を漏れなく正確に計上することが、節税の基本となります。
経費の原則
経費として認められるのは、家庭教師の仕事に関連して、収入を得るために直接必要であった費用です。個人的な支出や、仕事と関係のない費用は経費になりません。
家庭教師の一般的な経費リスト
家庭教師の業務で経費として認められる可能性のある主な項目は以下の通りです。
教材費
指導に使用するテキスト、参考書、問題集などの購入費用。
消耗品費
授業で使用するノート、ペン、コピー用紙、ホワイトボードマーカーなどの文具類。指導力向上のために購入した専門書なども該当します。
旅費交通費
生徒宅への訪問にかかる電車代、バス代。自家用車を使用する場合は、業務で使用した分のガソリン代や駐車場代も経費になります(後述の家事按分が必要な場合あり)。
通信費
業務連絡に使用する電話代、インターネット接続料。オンライン授業を行う場合のZoomなどの有料プラン利用料も含まれます。プライベートと兼用している場合は家事按分が必要です。
広告宣伝費
生徒募集のためのウェブサイト作成・維持費、チラシ印刷代など。
接待交際費
生徒や保護者へのお礼の品、お中元、お歳暮、年賀状など、社会通念上相当と認められる範囲のもの。
研修費
指導スキル向上のためのセミナー参加費、関連資格の取得費用(業務に直接関連する場合)。研修会場までの交通費も含まれます。
雑費
カフェなどで指導を行う際の自身の飲食代(生徒分は通常不可)、レンタルスペース利用料など。業務上必要なユニフォームや作業着の購入費・クリーニング代も該当する場合があります。
オンライン指導用機材
パソコン、タブレット、ウェブカメラ、マイク、書画カメラなど、オンライン授業に必要な機材の購入費用。取得価額が10万円以上のものは原則として減価償却資産となり、数年に分けて経費計上しますが、青色申告者であれば30万円未満の資産は「少額減価償却資産の特例」により一括で経費計上できる場合があります。
家事按分
自宅での仕事にかかる経費
自宅で授業の準備やオンライン指導を行っている場合、家賃、水道光熱費、通信費など、プライベートと仕事で共用している費用の一部を、仕事で使った割合に応じて経費として計上できます。これを「家事按分」といいます。
按分割合の計算には、客観的で合理的な基準が必要です。主な計算方法は以下の通りです。
家賃
面積基準
自宅全体の床面積のうち、仕事で使用しているスペース(書斎など)の面積の割合で按分します。例:家賃10万円、総面積60㎡、仕事スペース15㎡ → 按分率 15÷60=25%、経費計上額 10万円×25%=2万5千円/月。
時間基準
リビングなど共用スペースで仕事をする場合、1週間の総時間のうち、仕事で使用した時間の割合で按分します。
例:家賃15万円、週5日・1日7時間業務 → 週業務時間35時間、週総時間168時間 → 按分率 35÷168≒20%、経費計上額 15万円×20%=3万円/月。
電気代
時間基準
家賃と同様に、業務時間割合で按分します。例:電気代1万円、週6日・1日7時間業務 → 週業務時間42時間 → 按分率 42÷168=25%、経費計上額 1万円×25%=2千5百円/月。
コンセント数基準
家全体のコンセント数に対する、業務で使用するコンセント数の割合で按分します。例:電気代1万円、総コンセント数20個、業務使用4個 → 按分率 4÷20=20%、経費計上額 1万円×20%=2千円/月。
ガス代・水道代
主に時間基準で按分することが考えられます。ただし、業務での使用実態が低い場合は按分が難しいこともあります。
通信費(インターネット・電話代)
時間基準
業務での使用時間割合で按分します。例:通信費1万5千円、週6日・1日8時間業務使用 → 週業務時間48時間 → 按分率 48÷168≒28%、経費計上額 1万5千円×28%=4千2百円/月。
日数基準
週のうち業務で使用した日数の割合で按分します。例:通信費1万6千円、週5日業務使用 → 按分率 5÷7≒71%、経費計上額 1万6千円×71%≒1万1千3百6十円/月。
自動車関連費(ガソリン代、駐車場代、自動車税、保険料、減価償却費など):
走行距離基準
月間(または年間)の総走行距離に対する、業務での走行距離の割合で按分します。例:ガソリン代3千円/月、総走行距離250km、業務走行100km → 按分率 100÷250=40%、経費計上額 3千円×40%=1千2百円/月。
使用日数基準
週(または月)のうち、業務で車を使用した日数の割合で按分します。例:ガソリン代5千円/月、週3日業務使用 → 按分率 3÷7≒42%、経費計上額 5千円×42%=2千1百円/月。
家事按分を行う際は、どの費用を、どのような基準(面積、時間、日数、距離など)で、何パーセント按分したのか、その根拠を明確に説明できるようにしておく必要があります。
計算の根拠となる記録(作業時間ログ、走行距離メモなど)も保管しておきましょう。
なお、青色申告の場合は、業務での使用割合が50%以下であっても合理的な按分が認められやすいのに対し、
白色申告では原則として事業での使用割合が50%超でないと按分が認められない、あるいは明確に区分できる場合に限られる、といった違いがあります。
自宅で仕事をする時間が長い家庭教師にとっては、この点でも青色申告が有利になる可能性があります。
家内労働者等の必要経費の特例
特定の条件を満たす家庭教師は、「家内労働者等の必要経費の特例」という制度を利用できる場合があります。
この特例は、家内労働法に規定される家内労働者や、外交員、集金人、検針員のほか、「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人」に適用されます。
例えば、特定の家庭教師派遣会社から継続的に仕事を受けている場合などが該当する可能性があります。一方で、不特定多数の生徒と直接契約している場合は対象外となる可能性が高いです。
この特例を適用できる場合、実際にかかった経費が55万円未満であっても、必要経費として最大55万円まで認められます(令和元年分以前は65万円)。実際にかかった経費が55万円以上であれば、その実額を経費とします。
給与収入がある場合
年間の給与収入(額面)が55万円以上ある場合は、この特例は適用できません。
給与収入が55万円未満の場合は、「55万円からその給与収入額を差し引いた金額」と「実際にかかった経費」を比較し、いずれか高い方の金額が必要経費として認められます。
事業所得と雑所得の両方がある場合
両方の所得に係る実際の経費合計額が55万円未満の場合、55万円との差額を、まず雑所得の必要経費に加算して計算します。
この特例は、青色申告特別控除と併用することも可能です。該当する可能性がある方は、確定申告書作成コーナーなどで適用要件を確認してみましょう。
領収書・レシートの保管
経費を計上するためには、その支払いを証明する領収書やレシート、請求書などの保存が必須です。
整理方法
月別や費目別にファイルにまとめたり、ノートやコピー用紙に日付順に貼り付けたりする方法があります。自分にとって管理しやすい方法を選びましょう。
保存期間
税法上、帳簿書類の保存期間が定められています。青色申告の場合、領収書などの「現金預金取引等関係書類」は原則7年間(前々年所得300万円以下なら5年)、その他の書類(請求書、見積書など)は5年間です。白色申告の場合は、領収書やその他の書類は5年間、帳簿は7年間です。
実務上は、すべての書類を7年間保存しておくと間違いがないでしょう。
感熱紙の注意
レシートなどに使われる感熱紙は、光や熱で印字が薄れたり消えたりしやすい性質があります。長期間の保存が必要なため、光を避け、空気にも触れにくい場所で保管するか、早めにスキャンしてデジタルデータで保存することが推奨されます。
電子帳簿保存法
電子メールで受け取った請求書や領収書のPDFデータなど、電子取引に関するデータは、原則として電子データのまま保存することが義務付けられています(電子帳簿保存法)。
紙の領収書をスキャンして電子保存することも一定の要件下で認められています。デジタルでの管理は、保管スペースの節約や検索性の向上にもつながります。
経費の計上漏れは、納める税金が多くなることに直結します。日頃から領収書を確実に受け取り、整理・保管する習慣をつけましょう。
家庭教師の経費チェックリスト
経費カテゴリ | 具体例 | 注意点・家事按分 |
教材費 | テキスト、問題集、参考書 | 生徒負担の場合は経費にならない |
消耗品費 | 文具、コピー用紙、ホワイトボード用品、指導用書籍 | 10万円未満のもの。10万円以上は減価償却の可能性あり |
旅費交通費 | 電車代、バス代、ガソリン代、駐車場代 | 自家用車利用の場合は家事按分が必要な場合あり |
通信費 | 電話代、インターネット代、郵送費、オンライン会議ツール利用料 | プライベート兼用なら家事按分が必要 |
広告宣伝費 | ウェブサイト関連費、チラシ印刷代 | |
研修費・図書費 | セミナー参加費、関連資格取得費、専門書購入費 | 業務との直接的な関連性が必要 |
地代家賃・水道光熱費 | 自宅兼事務所の家賃、電気代、ガス代、水道代 | 仕事で使用する割合に応じて家事按分。合理的な根拠が必要 |
減価償却費 | パソコン、車両など10万円以上の資産の費用 | 耐用年数に応じて分割計上。青色申告の30万円未満特例あり |
接待交際費 | お礼の品、お中元、お歳暮、年賀状(常識の範囲内) | |
雑費 | カフェでの指導時の飲食代(自身分)、レンタルスペース代、振込手数料 |
このリストはあくまで一例です。ご自身の指導スタイルに合わせて、該当する経費がないか確認し、不明な点は税務署や税理士に相談しましょう。
確定申告の基本ステップ:準備から提出まで
確定申告は、1年間の所得と税金を計算し、国に報告・納税する手続きです。煩雑に感じるかもしれませんが、手順を追って進めれば大丈夫です。ここでは、個人事業主である家庭教師が行う確定申告の基本的な流れを解説します。
Step 1: 書類の準備
確定申告をスムーズに進めるためには、事前の書類準備が非常に重要です。日頃から関連書類を整理・保管しておくことが大切です。
収入を証明するもの
報酬の支払記録(銀行振込明細、手渡しの場合の記録ノートなど)
支払調書(源泉徴収票ではありません。取引先から発行される場合) ※発行義務はないため、ない場合もあります。
給与所得がある場合(副業など)は、勤務先発行の「源泉徴収票」
経費を証明するもの
領収書、レシート、請求書、クレジットカード利用明細など、経費の支払いを証明するすべての書類
各種控除に必要な証明書
社会保険料(国民年金保険料、国民健康保険料など)の控除証明書または納付額がわかるもの
小規模企業共済等掛金控除の証明書(iDeCoなど)
生命保険料控除証明書
地震保険料控除証明書
医療費控除の明細書(領収書をもとに自身で作成)、または医療費通知
寄附金控除(ふるさと納税など)の受領証明書
住宅ローン控除関係書類(該当する場合)
その他、適用を受ける控除に関する証明書類
本人確認書類
マイナンバーカード(個人番号カード)
マイナンバーカードがない場合: 番号確認書類(通知カード※記載事項に変更がない場合、またはマイナンバー記載の住民票の写しなど)+身元確認書類(運転免許証、パスポート、健康保険証など)の組み合わせ ※e-Tax申告の場合は提示・提出が不要な場合があります。
銀行口座情報
還付金を受け取るための本人名義の口座情報(通帳など)
これらの書類は、確定申告期間が始まってから慌てて集めるのではなく、年間を通じて整理・保管しておくことが、正確で効率的な申告につながります。
Step 2: 帳簿・決算書作成
収集した収入と経費の記録をもとに、1年間の事業成績をまとめた書類を作成します。申告方法によって作成する書類が異なります。
白色申告の場合
「収支内訳書」を作成します。収入金額や、地代家賃、給料賃金、減価償却費などの経費の内訳を所定の様式に記入します。簡易な帳簿付けに基づいて作成します。
青色申告の場合
「青色申告決算書」を作成します。通常4ページ構成で、1ページ目が損益計算書、4ページ目が貸借対照表となっています。
10万円控除の場合
簡易簿記に基づき、損益計算書部分の作成が必要です(貸借対照表は不要な場合が多い)。
55万円・65万円控除の場合
複式簿記による記帳に基づき、損益計算書と貸借対照表の両方の作成・提出が必要です。日々の取引を仕訳帳や総勘定元帳などに記録しておく必要があります。
会計ソフトを利用すると、日々の取引入力からこれらの決算書類を自動で作成できるため、手間を大幅に削減できます。
Step 3: 確定申告書作成
決算書(または収支内訳書)で計算した所得金額や、準備した各種控除証明書の情報をもとに、メインとなる「確定申告書」を作成します。令和4年分以降、申告書様式は一本化されています。
確定申告書には、収入金額、所得金額、所得控除額(基礎控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除、配偶者控除、扶養控除など)を記入し、課税される所得金額を計算します。
そこから所得税率(累進課税:5%~45%)を掛けて所得税額を算出し、さらに税額控除(住宅ローン控除など)を差し引いて、最終的な納税額または還付額を確定します。
作成方法としては、以下の3つが主流です。
国税庁「確定申告書等作成コーナー」の利用
国税庁のウェブサイト上で、画面の案内に従って入力するだけで、申告書や決算書・収支内訳書を作成できます。
自動計算機能で計算ミスを防ぎ、入力データの途中保存や過去データの利用も可能です。作成したデータはe-Taxで送信するか、印刷して提出できます。初心者の方には特におすすめの方法です。
会計ソフトの利用
市販の会計ソフトの多くは、日々の帳簿付けから確定申告書類一式の作成まで対応しています。e-Tax連携機能を持つソフトも多く、申告までスムーズに行えます。
手書き
税務署で用紙を入手するか、国税庁サイトからダウンロードして手書きで作成することも可能です。ただし、計算ミスや記入漏れのリスクが高く、手間もかかります。
Step 4: 提出
作成した確定申告書と添付書類を、定められた期間内(通常、翌年2月16日~3月15日)に、納税地を管轄する税務署に提出します。提出方法は以下の3通りです。
e-Tax(電子申告)
インターネット経由で申告データを送信する方法です。
メリット: 税務署に行く必要がなく、24時間(メンテナンス時間を除く)提出可能。郵送代もかかりません。還付金の受け取りが早い。一部の添付書類の提出を省略できる。青色申告65万円控除の適用要件の一つ。
必要なもの: マイナンバーカードとICカードリーダライタ、またはマイナンバーカード読取対応のスマートフォン。または、事前に税務署で発行されたID・パスワード。利用者識別番号の取得も必要です。
方法: 確定申告書等作成コーナーから直接送信するか、e-Taxソフトを利用するか、e-Tax対応の会計ソフトから送信します。
郵送
確定申告書一式を封筒に入れ、管轄の税務署または指定された業務センター宛に郵送します。
注意点: 確定申告書は「信書」扱いのため、郵便または信書便で送る必要があります(宅配便は不可)。
提出日は郵便局の消印の日付となります。期限間近の場合は、郵便局窓口で当日消印を押してもらうと確実です。
封筒の宛名面には「所得税確定申告書在中」などと朱書きするとよいでしょう。提出するのは正本(提出用)のみです。
控えが必要な場合は、切手を貼った返信用封筒と控えを同封する必要がありましたが、令和7年1月以降は収受日付印が原則廃止されるため、控えの返送は行われません。自身で控えを保管し、提出日を記録しておく必要があります。
税務署窓口へ持参
管轄税務署の窓口に直接提出します。
メリット
不明な点をその場で質問できる場合があります(ただし、確定申告期間中は非常に混雑します)。
デメリット
開庁時間(通常、平日8:30~17:00)に行く必要があります。確定申告期間中は相談窓口が設けられることもありますが、待ち時間が長くなる傾向があります。
時間外収受箱
税務署の閉庁時間でも、設置されている時間外収受箱に投函して提出できます。この場合も提出は正本のみです。
Step 5: 納税・還付
確定申告の結果、納税額がある場合は、納期限(所得税は通常3月15日)までに納付します。
納付方法は、口座振替(振替納税)、e-Taxによるダイレクト納付やインターネットバンキング、クレジットカード納付、コンビニ納付、金融機関や税務署窓口での現金納付などがあります(詳細は国税庁HP等でご確認ください)。
還付金がある場合は、確定申告書に記載した本人名義の銀行口座に後日振り込まれます。e-Taxで申告すると、還付までの期間が比較的短いとされています。
納期限までに全額納付が難しい場合は、一定の要件下で納期限を延長できる「延納」の制度もあります(延納期間中は利子税がかかります)。
Step 6: 書類の保管
提出した確定申告書や決算書・収支内訳書の控え、そしてその根拠となった帳簿類(仕訳帳、総勘定元帳など)、領収書、請求書、各種証明書などは、税法で定められた期間、保管する義務があります。
青色申告の場合
帳簿類、決算関係書類、現金預金取引等関係書類(領収書など)は原則7年間。その他の書類(請求書、見積書など)は5年間。
白色申告の場合
収入や経費を記載した帳簿は7年間。その他の帳簿や書類(領収書、請求書など)は5年間。
後日、税務調査などで提示を求められる場合に備え、整理して保管しておきましょう。
所得控除の種類
所得税の計算では、様々な「所得控除」が用意されており、これらを適用することで課税対象となる所得を減らすことができます。家庭教師の方も、ご自身の状況に応じて適用できる控除がないか確認しましょう。主な所得控除には以下のようなものがあります。
主な所得控除一覧
控除名 | 概要 | 控除額(例) | 主な要件・注意点 |
基礎控除 | 全ての納税者に適用される基本的な控除 | 最大48万円 | 合計所得金額に応じて変動(2,400万円以下で48万円) |
社会保険料控除 | 自身または生計を一にする配偶者・親族の国民年金、国民健康保険料、厚生年金などを支払った場合 | 支払った全額 | 控除証明書や納付額がわかるものが必要 |
小規模企業共済等掛金控除 | iDeCo(個人型確定拠出年金)や小規模企業共済などの掛金を支払った場合 | 支払った掛金の全額 | 掛金払込証明書が必要 |
生命保険料控除 | 生命保険、介護医療保険、個人年金保険の保険料を支払った場合 | 最高12万円(新旧契約、保険種類により計算) | 保険会社発行の控除証明書が必要 |
地震保険料控除 | 地震保険や旧長期損害保険の保険料を支払った場合 | 最高5万円 | 保険会社発行の控除証明書が必要 |
医療費控除 | 自身または生計を一にする配偶者・親族のために支払った医療費が年間10万円(または総所得金額の5%)を超えた場合 | (支払医療費 – 保険金等補填額) – 10万円(上限200万円) | 医療費控除の明細書の作成・添付が必要(領収書は5年間自宅保存)。セルフメディケーション税制との選択適用。年末調整では不可、確定申告が必要。 |
寄附金控除 | 国や地方公共団体(ふるさと納税含む)、特定の法人などに寄附した場合 | (寄附金額 or 総所得金額の40%のいずれか低い額) – 2,000円 | 寄附先発行の受領証明書が必要。年末調整では不可(ワンストップ特例除く)、確定申告が必要。税額控除を選択できる場合あり。 |
配偶者控除 | 生計を一にする配偶者(合計所得48万円以下)がいる場合 | 最大38万円(納税者所得900万円以下、配偶者70歳未満) ※納税者所得、配偶者年齢により変動 | 納税者本人の合計所得が1,000万円超の場合は適用不可。 |
配偶者特別控除 | 配偶者の合計所得が48万円超133万円以下で、納税者本人の合計所得が1,000万円以下の場合 | 最大38万円(納税者・配偶者の所得に応じて段階的に減少) | 配偶者控除との併用は不可。 |
扶養控除 | 生計を一にする16歳以上の扶養親族(合計所得48万円以下)がいる場合 | 38万円~63万円(扶養親族の年齢、同居有無により変動) | 16歳未満は対象外(住民税の計算には関係あり)。 |
ひとり親控除 | 事実婚状態になく、生計を一にする子(合計所得48万円以下)がおり、本人の合計所得が500万円以下の納税者 | 35万円 | 令和2年分より創設。 |
寡婦控除 | 上記ひとり親に該当せず、夫と死別または離婚後再婚していない等で、扶養親族がいるか、本人の合計所得が500万円以下の納税者 | 27万円 | 離婚の場合は扶養親族が必須。 |
勤労学生控除 | 納税者本人が勤労学生である場合 | 27万円 | 合計所得75万円以下、勤労によらない所得10万円以下などの要件あり。 |
障害者控除 | 納税者本人、控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合 | 27万円~75万円(障害の程度、同居有無により変動) | |
雑損控除 | 災害、盗難、横領により資産に損害を受けた場合 | (損害額 – 保険金等補填額) – (総所得金額等の10%) または (災害関連支出 – 5万円)のいずれか多い額 | 年末調整では不可、確定申告が必要。 |
この他にも所得控除や、所得税額から直接差し引く「税額控除」があります。適用できる控除を漏れなく申告することが、適切な節税につながります。
確定申告の期間と遅れた場合のペナルティ
確定申告には、定められた申告・納税の期間があります。この期限を守ることが非常に重要です。
申告期間
所得税及び復興特別所得税の確定申告期間は、原則として、所得を得た年の翌年2月16日から3月15日までです。開始日や終了日が土日祝日にあたる場合は、翌営業日が期限となります。
例えば、令和6年(2024年)分の確定申告期間は、令和7年(2025年)2月17日(月)から3月17日(月)までとなります。
なお、個人事業者の消費税及び地方消費税の申告・納期限は、原則として翌年3月31日です。
払いすぎた税金の還付を受けるための「還付申告」は、申告対象年の翌年1月1日から提出可能で、申告期限もその年から5年間行うことができます。
期限に遅れた場合(期限後申告)
確定申告の期限を過ぎてしまっても、申告書を受け付けてもらえないわけではありません。期限後に申告することを「期限後申告」といいます。しかし、期限後申告には様々なペナルティが課される可能性があります。
ペナルティの種類
期限内に申告・納税を行わなかった場合、本来納めるべき税金に加えて、以下のような附帯税が課されることがあります。
無申告加算税
期限内に確定申告をしなかった場合に課されるペナルティです。税率は、納付すべき税額と申告のタイミングによって異なります。
自主的に期限後申告した場合(税務署の調査通知前)
原則として納付すべき税額の5%。ただし、一定の要件を満たせば課されない場合もあります。
税務調査の通知後に申告した場合
納付すべき税額の10%(50万円超の部分は15%)。
ただし、令和6年(2024年)1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(令和5年分以降)については、50万円以下の部分10%、50万円超300万円以下の部分15%、300万円超の部分25%となります。
税務調査を受けてから申告した場合
納付すべき税額の15%(50万円超の部分は20%)。
ただし、令和6年(2024年)1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(令和5年分以降)については、50万円以下の部分15%、50万円超300万円以下の部分20%、300万円超の部分30%となります。
- 延滞税
法定納期限(所得税は通常3月15日)までに税金を納付しなかった場合に、納期限の翌日から実際に納付する日までの日数に応じて課される利息に相当する税金です。
税率は、納期限の翌日から2か月を経過する日までと、それ以降で異なり、また、その年の特例基準割合(銀行の短期貸出金利などを基に計算)によって変動します。納付が遅れるほど延滞税は増えていきます。 - 過少申告加算税
期限内に確定申告をしたものの、申告した税額が本来納めるべき税額より少なかった場合に、修正申告や税務署からの更正によって追加で納めることになった税金に対して課されるペナルティです。
原則として、追加で納める税額の10%が課されます。ただし、追加税額が当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分については15%となります。税務調査の通知前に自主的に修正申告した場合は課されません。 - 重加算税
上記の加算税が課される状況で、
さらに事実の隠蔽や仮装(例えば、帳簿の改ざん、二重帳簿の作成、意図的な収入除外など)といった悪質な不正行為があったと認められた場合に、上記の加算税に代わって課される、最も重いペナルティです。
過少申告加算税・不納付加算税に代わる場合: 追加本税の35%。
無申告加算税に代わる場合: 納付すべき税額の40%。
さらに、過去5年以内に無申告加算税や重加算税を課されたことがある場合など、悪質性が高いと判断されると
上記の税率にさらに10%が加算され、最大で過少申告等では45%、無申告では50%もの重加算税が課される可能性があります。
これらのペナルティは、本来納めるべき税額に上乗せして支払う必要があり、経済的な負担が非常に大きくなります。
特に、近年(令和6年/2024年以降)は、高額な無申告や繰り返される無申告に対するペナルティが強化される傾向にあります。税務署からの指摘を受ける前に、自主的に申告・修正を行うことが、ペナルティを最小限に抑える上で極めて重要です。
青色申告への影響
期限後申告となった場合、青色申告の大きなメリットである最大65万円または55万円の青色申告特別控除は適用できなくなり、10万円の控除しか受けられません。
これは、特別控除の適用要件に「期限内申告」が含まれているためです。この控除額の減少による納税額の増加は、上記の加算税や延滞税とは別に発生するため、青色申告者にとって期限内申告は特に重要です。
よくある質問と間違いやすいポイント
確定申告に関して、家庭教師の方からよく寄せられる質問や、間違いやすい点について解説します。
Q&A
Q: 生徒から現金で報酬をもらっています。申告しなくてもバレませんか?
A: いいえ、申告は必要です。現金手渡しであっても、所得があれば申告義務があります。税務署は様々な情報から無申告を発見することがあります。
例えば、生徒側の支出記録や、関連する銀行口座の動きなど、発覚の経路は様々です。教育者として、また納税者として、ルールに従って正しく申告しましょう。脱税は絶対に避けるべきです。
Q: 報酬から所得税が源泉徴収されています。この場合、確定申告は不要ですか?
A: 源泉徴収されていても、確定申告が必要な場合があります。まず、ご自身の所得が申告基準(専業なら48万円超、副業なら20万円超)を満たしていれば、源泉徴収の有無にかかわらず確定申告は必要です。
源泉徴収は、あくまで概算で税金が天引きされている状態です。年間の所得全体で計算した結果、源泉徴収された税額が本来納めるべき税額より多い場合は、確定申告をすることで還付を受けられます。
特に、年間の所得が低い場合や、医療費控除などの各種控除を適用できる場合は、還付の可能性が高まります。
なお、家庭教師センターなどから「給与」として支払いを受け、年末調整を受けている場合は、原則として確定申告は不要です。ただし、副業の所得が20万円を超えるなどの場合は申告が必要です。
源泉徴収されている事実は、支払者から税務署へ情報が伝わっている可能性が高いことを意味します。そのため、申告が必要な状況であるにも関わらず申告しない場合、無申告が発覚しやすくなる点にも留意が必要です。
Q: 副業で家庭教師をしていることを、本業の会社に知られたくありません。何か方法はありますか?
A: 確定申告自体が直接会社に通知されることはありません。ただし、副業所得によって住民税の額が増えると、会社が給与から住民税を天引き(特別徴収)する際に、税額の増加から副業が推測される可能性があります。
これを避けるためには、確定申告書の第二表「住民税・事業税に関する事項」欄にある「給与・公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」で、「自分で納付」(普通徴収)を選択します。
これにより、副業分の住民税の納付書が自宅に送られ、自分で納付することになるため、会社に住民税額の変動を知られにくくなります。ただし、自治体によっては対応が異なる場合もあるため、完全な保証はありません。
よくある間違い
確定申告では、以下のような間違いが起こりがちです。注意しましょう。
収入の申告漏れ
家庭教師の収入だけでなく、他にアルバイト収入や一時的な収入(保険の満期金など)がある場合に、それらを申告し忘れるケース。海外での収入も申告対象です。
経費の計算間違い
プライベートな支出を経費に入れてしまう。
家事按分の計算根拠が曖昧、または按分割合が不適切。医療費控除の対象とならないもの(美容目的の費用、健康維持のためのサプリメントなど)を含めてしまう。
所得控除の適用漏れ・誤り
基礎控除(誰でも受けられる)や寡婦(夫)控除・ひとり親控除など、適用できる控除を申告し忘れる。扶養控除の対象とならない親族(年収103万円超など)を扶養に入れてしまう。
配偶者控除・配偶者特別控除の適用条件(納税者本人や配偶者の所得制限など)を誤って適用する。
添付書類の不備: 源泉徴収票や各種控除証明書などを添付し忘れる。
提出先の誤り: 納税地を管轄しない税務署に提出してしまう。
間違いに気づいた場合の訂正方法
確定申告書を提出した後に間違いに気づいた場合でも、修正することが可能です。修正の時期と内容によって手続きが異なります。
申告期限内に修正する場合(訂正申告)
正しい内容で確定申告書一式を作成し直し、再度提出します。最後に提出されたものが有効な申告として扱われます。
提出する申告書の余白に「訂正申告」と赤字で記入し、最初に提出した日付も併記すると、税務署での処理がスムーズです。
最初に提出した際に添付した書類(控除証明書など)は、内容に変更がなければ再提出不要ですが、訂正によって新たに追加が必要になった書類は添付します。本人確認書類は、書面提出の場合は再度提示・提出が必要です。
申告期限後に修正する場合(税額を多く申告していた場合):更正の請求
納めすぎた税金を還付してもらうための手続きです。
「更正の請求書」を作成し、納税地の税務署長に提出します。
請求できる期間は、原則として法定申告期限から5年以内です。
税務署で内容が審査され、認められれば税金が還付されます。
申告期限後に修正する場合(税額を少なく申告していた場合):修正申告
本来納めるべき税額より少なく申告していた場合に、正しい税額に修正するための手続きです。「修正申告書」(令和4年分以降は通常の確定申告書様式を使用)を作成し、納税地の税務署長に提出します。
税務署から指摘を受ける前であれば、いつでも修正申告できますが、気づいたらできるだけ早く申告することが推奨されます。
修正申告によって新たに追加で納付する税額は、修正申告書を提出する日までに納付します。この追加税額には、法定納期限の翌日から納付日までの期間に応じた延滞税もかかります。
自主的な修正申告であれば過少申告加算税はかかりませんが、税務調査の通知後や調査後の修正申告では課される場合があります。
間違いに気づいた場合は、放置せずに速やかに正しい手続きを行うことが、余計なペナルティを避ける上で重要です。
まとめ
家庭教師の確定申告は、働き方や収入、契約形態によって要否や方法が異なります。まずはご自身の状況を確認し、申告が必要かどうかを正しく判断することが第一歩です。
申告が必要な場合は、日頃から収入や経費の記録をつけ、領収書などの証拠書類を確実に保管する習慣が不可欠です。
特に事業所得として申告する場合は、青色申告を選択することで、最大65万円の特別控除をはじめとする多くの節税メリットを享受できます。記帳の手間は増えますが、会計ソフトを活用すれば効率化も可能です。
確定申告の手続き自体も、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」やe-Taxを利用すれば、自宅から比較的スムーズに行えます。
期限内に正しい内容で申告・納税を行うことが原則ですが、万が一遅れてしまったり、間違いに気づいたりした場合でも、ペナルティを最小限に抑えるためには、速やかに自主的な対応をとることが重要です。
無申告や意図的な所得隠しは、重い加算税や延滞税、場合によっては刑事罰につながる可能性もあります。
確定申告は決して難しい手続きではありませんが、個別の状況によっては判断に迷うこともあるでしょう。そのような場合は、税務署の相談窓口や、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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