会計の基礎知識

書類の保管義務とは?法律別の期間・対象書類・罰則を解説

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保管義務

「書類の保管義務」と聞いて、あなたはどのような未来を想像しますか。もし、法律で定められたルールを正しく理解し、自社の書類管理体制を完璧に整えることができたら、それは税務調査や法的なトラブルへの不安から解放され、経営に集中できる未来です。

煩雑な書類の山から解放され、管理コストが削減され、企業の信頼性が向上する、そんな未来を手に入れるための第一歩が、この義務を正しく知ることにあります。

この記事を読み終える頃には、あなたは書類保管に関する法的な要求を明確に理解し、自社に最適な管理体制を構築できる専門的な知識を身につけているでしょう。曖昧だった法律の知識が、具体的な行動計画へと変わります。

「法律は難しくて、どこから手をつければいいかわからない」という不安に寄り添い、本記事では専門家でなくても理解できるよう、図表を交えながら丁寧に解説します。

ここに書かれている内容は、明日からあなたの会社で実践できる、再現性の高いものばかりです。さあ、安心と効率を手に入れるための知識を学びましょう。

書類の保管義務とは? なぜ法律で定められているのか

書類の保管義務とは、企業が事業活動で作成または受領した特定の文書を、法律で定められた期間、適切に保存しなければならないという法的な責任のことです。これは単なる努力目標ではなく、規模の大小を問わず、すべての事業者に課せられた義務です。

では、なぜ法律はこれほど厳格に書類の保管を求めるのでしょうか。その理由は、大きく分けて3つの重要な役割があるからです。

第一に、法令遵守のためです。会社法や法人税法などの法律は、企業の公正な運営と適正な納税を担保するために、取引の記録となる書類の作成と保存を義務付けています。このルールに従わない場合、過料や罰金といった直接的な罰則が科される可能性があります。

第二に、証拠としての力を持つためです。書類は、企業の経済活動を客観的に証明する最も強力な証拠となります。例えば、税務調査においては、経費の正当性を証明し、適切な税額控除を受けるための根拠となります。

また、取引先や従業員との間で万が一トラブルが発生した際には、契約内容や労働時間の実態を示すことで、自社を守るための重要な防御手段となります。書類がなければ、事実と異なる主張に対しても反論できず、不利な判断を受け入れざるを得なくなるリスクがあります。

第三に、企業統治と透明性の確保のためです。適切な記録管理は、健全な経営の根幹をなします。株主や債権者といった利害関係者に対して経営の透明性を示すとともに、内部監査や外部監査を円滑に進めることを可能にします。これにより、企業の社会的信頼性を高め、持続的な成長の基盤を築くことにつながるのです。

このように、書類の保管義務は、単なる事務作業ではありません。企業の法的リスクを管理し、経営の健全性を示し、社会的な信頼を維持するための、戦略的かつ重要な業務なのです。

保管義務を定める4つの主要法律と基本原則

企業の書類保管義務は、主に4つの法律によって定められています。それぞれ目的や対象が異なるため、自社の業務にどの法律がどのように関わるのかを理解することが不可欠です。主要な法律は、会社法、法人税法、労働基準法、そして近年重要性が増している電子帳簿保存法です。これらの法律が定める基本的なルールを、まずは理解しましょう。

会社法は、会社の組織や運営、会計に関する書類について定めており、主に株主や債権者の保護を目的としています。違反した場合には、100万円以下の過料が科される可能性があります。

法人税法は、税金の計算根拠となる帳簿や取引書類の保存を義務付けており、公平で適正な課税の実現を目的とします。違反すると、青色申告の承認が取り消されたり、追徴課税が課されたりする可能性があります。

労働基準法は、労働者の雇用や労働条件に関する書類の保存を求め、労働者の権利保護を目的としています。違反した場合の罰則は、30万円以下の罰金です。

電子帳簿保存法は、紙の書類に適用される法律の原則を踏襲しつつ、電子データで授受・作成した国税関係書類の保存方法を定めています。これに違反すると、税法上の不利益や会社法上の過料など、関連する法律に基づいた罰則が適用されます。

ここで最も重要な原則が、「複数の法律が関わる書類は、最も長い保管期間を適用する」というルールです。

例えば、「会計帳簿」は会社法で10年、法人税法で7年の保管が義務付けられています。この場合、両方の法律を遵守するためには、より長い期間である10年間保管しなければなりません。もし7年で廃棄してしまうと、法人税法上は問題なくても、会社法違反となってしまいます。

この原則を理解することは、コンプライアンス違反のリスクを回避する上で極めて重要です。実務上、書類ごとに異なる期間を管理するのは複雑で、ミスの原因にもなります。

そのため、多くの企業では、会計や契約に関する重要書類は一律で10年間保管するという社内ルールを設けることで、管理を簡素化し、安全性を高めています。これは、法律の知識を実用的な業務プロセスに落とし込むための、賢明な判断と言えるでしょう。

【保存期間別】保管すべき書類一覧と起算日の完全ガイド

法律で定められた保管期間を守るためには、「どの書類を」「いつから数えて」「何年間」保管すればよいのかを正確に把握する必要があります。特に注意が必要なのが、期間の数え始めとなる「起算日」です。これは書類の作成日とは異なる場合が多く、誤解しやすいポイントです。

ここでは、保管期間ごとに具体的な書類の種類と正しい起算日を解説します。

永久保存が推奨される書類

法律で「永久に保存せよ」と明記されているわけではありませんが、会社の根幹に関わる非常に重要な書類は、事実上、永久に保管することが強く推奨されます。これらは会社の歴史そのものであり、将来の訴訟やM&A、事業承継など、予期せぬ場面で必要になる可能性があるためです。

  • 定款
  • 登記・訴訟関連書類
  • 知的所有権に関する書類
  • 官公署への許認可書類

定款は会社の基本規則を定めた最も重要な書類です。登記・訴訟関連書類には、会社の設立や役員変更に関する登記書類や、過去の訴訟に関する記録などが含まれます。特許証や商標登録証といった知的所有権に関する書類は、会社の無形資産を証明するものです。

また、事業を行う上で必要な許認可や届出に関する重要な書類も、会社の存続に関わるため永久保存が望ましいでしょう。

10年間保管が必要な書類

主に会社法によって10年間の保管が義務付けられている書類です。これらは会社の財産状態や経営成績を正確に記録し、株主などの利害関係者を保護するために不可欠です。

対象となるのは、総勘定元帳や仕訳帳といった会計帳簿と、事業に関する重要な資料です。事業に関する重要な資料には、会計帳簿の作成根拠となる契約書や、その他経営上重要な書類が含まれます。

また、貸借対照表や損益計算書などの計算書類およびその附属明細書も10年間の保管が必要です。さらに、株主総会議事録や取締役会議事録といった、会社の重要な意思決定の過程と結果を記録した書類も同様に10年間保管しなければなりません。

起算日は書類の種類によって異なります。会計帳簿および事業に関する重要な資料は、会計帳簿の閉鎖の時から10年間です。一方で、計算書類および附属明細書は、作成した時から10年間と定められています。

7年間保管が必要な書類

主に法人税法に基づき、税務申告の適正性を証明するために7年間の保管が求められる書類です。税務調査で最も重視される書類群と言えます。

請求書、領収書、契約書、見積書、納品書など、取引に関して作成または受領したすべての書類が対象となります。これらの書類は、売上や経費の根拠を示すものであり、正確な所得計算と納税に不可欠です。

起算日は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間です。例えば、3月31日決算の法人の場合、申告期限は通常5月31日なので、起算日は翌日の6月1日となります。

欠損金が生じた場合の10年延長ルール

ここで非常に重要な例外があります。青色申告法人が赤字決算となり、その欠損金(税務上の赤字)を翌事業年度以降に繰り越す場合、その欠損金が生じた事業年度の帳簿書類の保管期間は10年間に延長されます(2018年4月1日以降に開始する事業年度の場合)。

これは、将来の黒字と相殺して税負担を軽減できる「繰越欠損金控除」という制度の適用を受けるための要件です。このルールを知らずに7年で書類を廃棄してしまうと、数年後に得られるはずだった大きな節税メリットを失うことになりかねません。

したがって、経理部門と経営層は、自社の欠損金の状況を毎年確認し、書類の保管期間を判断するという、税務戦略と連携した文書管理が求められます。

5年間保管が必要な書類

主に労働基準法に基づき、労働者の権利を保護するために保管が義務付けられている書類です。労務トラブルが発生した際の重要な証拠となります。

対象書類には、まず従業員の氏名や生年月日などを記録した労働者名簿が挙げられます。次に、労働日数や労働時間数、賃金の計算基礎などを記録した賃金台帳も含まれます。

さらに、雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類も5年間保管しなければなりません。具体的には、雇用契約書、労働条件通知書、解雇予告通知書、タイムカード、出勤簿、残業命令書などがこれに該当します。

起算日は書類の種類によって異なります。労働者名簿は、労働者の退職、解雇または死亡の日から5年間です。賃金台帳は、最後の記入をした日から5年間と定められています。雇入れに関する書類も、労働者の退職または死亡の日から5年間となります。

2020年4月の法改正により、これらの書類の保管期間は原則として従来の3年から5年に延長されました。現在、経過措置として「当分の間は3年」とされていますが、いつこの措置が終了するかは明示されていません。将来の混乱を避け、確実に法令を遵守するためにも、今から5年保管を標準ルールとして運用することを強く推奨します。

3年以下の保管期間が定められている書類

上記のほか、特定の法律に基づき、より短い期間の保管が定められている書類もあります。

3年間保管が必要な書類としては、労働者災害補償保険(労災保険)に関する書類、労働保険の徴収・納付に関する書類、派遣元・派遣先管理台帳などが挙げられます。

2年間保管が必要な書類には、健康保険、厚生年金保険、雇用保険(被保険者関係以外)に関する書類などがあります。これらの書類も、それぞれの法律に基づき適切に管理する必要があります。

法人と個人事業主で異なる保管義務のポイント

書類の保管義務は、事業の形態によって適用される法律やルールが異なります。特に、法人と個人事業主では大きな違いがあるため、自社の形態に合わせた正しい知識が必要です。

法人の場合

法人は、会社法と法人税法の両方の規制を受けます。そのため、前述の通り、会計帳簿や計算書類などについては、法人税法が定める7年ではなく、会社法が定める10年間の保管義務が適用される点が最大のポイントです。

また、赤字(欠損金)が生じた事業年度の書類は、繰越控除の適用を受けるために10年間保管する必要があることも法人特有の重要なルールです。この点を失念すると、将来的な節税の機会を逃すことにつながりかねません。

個人事業主の場合

個人事業主には会社法が適用されず、主に所得税法に基づいて保管義務が定められます。その内容は、確定申告の方法(青色申告か白色申告か)によって大きく異なります。

青色申告の場合、複式簿記での記帳が求められるなど、厳しい要件が課される代わりに、最大65万円の特別控除などの税制上の優遇措置が受けられます。書類保管に関しても、白色申告より厳格なルールが適用されます。

白色申告の場合、簡易な記帳が認められていますが、青色申告のような税制上の特典はありません。書類保管の要件も比較的緩やかです。

具体的には、帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)の保管期間は、青色申告では7年間です。白色申告の場合、収入や経費を記録する主要な帳簿は7年、それ以外の任意で作成した帳簿は5年となります。

損益計算書や貸借対照表といった決算関係書類は、青色申告では7年間、白色申告では5年間の保管が必要です。請求書や領収書などの現金預金取引等関係書類は、原則として5年間ですが、青色申告者で前々年分の事業所得が300万円を超える場合は7年間保管する必要があります。

さらに、個人事業主であっても、消費税の課税事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者)や、インボイス制度の適格請求書発行事業者である場合は、請求書や領収書などを7年間保管する義務があります。

個人事業主の方は、まずご自身の申告方法と消費税の課税状況を確認し、どの期間を適用すべきかを判断することが重要です。もし判断に迷った場合は、より長い期間に合わせて保管しておけば、コンプライアンス上のリスクを回避でき安心です。

電子帳簿保存法への完全対応ガイド

電子帳簿保存法への完全対応ガイド

2024年1月1日から、書類管理のルールは大きな転換点を迎えました。改正された電子帳簿保存法の完全施行により、電子メールで受け取ったPDFの請求書や、Webサイトからダウンロードした領収書など、電子的に授受した取引情報(電子取引データ)を、電子データのまま保存することがすべての事業者に対して義務化されたのです。

もはや「印刷して紙で保管する」という方法は認められません。これは、業務効率化のための選択肢ではなく、遵守すべき法的な要請です。この変更は、企業のペーパーレス化とデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる重要な契機となります。

3つの保存区分を理解する

電子帳簿保存法には、大きく分けて3つの保存区分があります。自社の取引がどれに該当するのかを正しく理解することが、適切な対応の第一歩です。

  • 電子帳簿等保存
  • スキャナ保存
  • 電子取引データ保存

「電子帳簿等保存」は、会計ソフトなどで最初から一貫して電子的に作成した帳簿や書類を、データのまま保存する方法です。次に「スキャナ保存」は、紙で受け取った契約書や領収書などをスキャンし、画像データとして保存する方法です。このスキャナ保存の導入は任意であり、義務ではありません。

最後に「電子取引データ保存」は、電子メールやクラウドサービスなどを通じてデータで受け取った取引情報を、データのまま保存する方法です。この区分が、2024年1月から完全に義務化された対象となります。

「真実性の確保」と「可視性の確保」とは

電子データを法的に有効な形で保存するためには、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。これらは、電子データが紙の書類と同等に信頼できるものであることを保証するためのルールです。

真実性の確保とは、保存されたデータが改ざんされていないことを証明するための要件です。これには、タイムスタンプが付与されたデータを受領する、データ受領後速やかにタイムスタンプを付与する、データの訂正・削除の履歴が残るシステムを利用する、あるいは訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用するという、いずれかの措置を講じる必要があります。

特に4番目の「事務処理規程」を設ける方法は、追加のシステム投資なしで対応できるため、多くの中小企業にとって最も現実的な選択肢です。

可視性の確保とは、保存されたデータを、税務調査などの際に、いつでも明瞭な状態で確認・検索できるようにしておくための要件です。パソコンやディスプレイ、プリンターなどを備え付け、データを速やかに出力できる状態にしておく必要があります。

検索要件とタイムスタンプ要件のポイント

可視性の確保の中でも特に重要なのが検索要件です。原則として、保存する電子データは「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つの項目で検索できるようにしなければなりません。

これに対応するためには、例えばファイル名を「20241031_株式会社〇〇_110000.pdf」のように規則的に設定したり、Excelなどで索引簿を作成したりする方法があります。

ただし、中小企業にとって非常に重要な緩和措置があります。基準期間(2事業年度前)の売上高が5,000万円以下の事業者は、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じることができれば、この検索要件のすべてが不要になります。

この条件に該当する事業者は、複雑なファイル名ルールや索引簿の作成から解放されるため、必ず自社の売上高を確認してください。

また、タイムスタンプは真実性を確保するための一つの手段ですが、必須ではありません。前述の通り、事務処理規程の策定・運用など、他の方法でも要件を満たすことが可能です。高価なシステムを導入する前に、自社に合った最も効率的な方法を検討することが賢明です。

保管義務に違反した場合の罰則と経営リスク

書類の保管義務を遵守しない場合、その影響は単なる罰金にとどまらず、企業の経営基盤を揺るがしかねない深刻なリスクに発展する可能性があります。一つの不備が、連鎖的に複数の不利益を引き起こすことを理解しておく必要があります。

直接的な罰金・過料

まず、法律違反に対する直接的な金銭罰があります。会社法に違反し、会計帳簿や事業に関する重要資料を適切に作成・保存しなかった場合、100万円以下の過料が科される可能性があります。また、労働基準法に違反し、労働者名簿や賃金台帳などの法定書類を保管しなかった場合には、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

重大な税務上の不利益

金銭罰以上に経営へのインパクトが大きいのが、税務上のペナルティです。

最も厳しい処分の一つが、青色申告の承認取消です。税務調査の際に帳簿書類の提示を拒否したり、悪質な所得隠しや記録の改ざんが発覚した場合などに、承認が取り消されることがあります。

承認が取り消されると、最大65万円の青色申告特別控除や、赤字の繰越し(繰越欠損金控除)、30万円未満の資産の一括経費算入(少額減価償却資産の特例)といった税制上の優遇措置がすべて受けられなくなり、納税額が大幅に増加する可能性があります。

また、仕入れや経費の支払いを証明する請求書や領収書が保管されていない場合、消費税の仕入税額控除が認められません。これにより、納付すべき消費税額が増加してしまいます。

さらに、帳簿書類の不備があまりにひどく、正確な所得計算が不可能だと税務署が判断した場合、同業他社の状況などから所得金額を「推計」して課税されることがあります。

この推計課税では、事業者にとって不利な金額で見積もられることが多く、本来よりも高い税金を課されるリスクがあります。これらのリスクは、日々の適切な書類管理を怠ることが、いかに大きな経営問題に直結するかを示しています。

煩雑な書類管理を効率化する実践テクニック

煩雑な書類管理を効率化する実践テクニック

法律上の義務を理解した上で、次に考えるべきは「どうすれば効率的に、かつ確実に管理できるか」という実践的な方法です。ここでは、物理的な書類とデジタルデータの両方について、すぐに取り組める効率化のテクニックを紹介します。

物理的な書類保管を最適化する方法

紙の書類をゼロにすることは難しくても、管理方法を見直すだけで業務効率は大きく改善します。

まず、書類には「発生、活用、保管、廃棄」というライフサイクルがあることを意識しましょう。重要なのは、すべての書類を永久に保管するのではなく、不要になった書類を適切なタイミングで廃棄する仕組みを作ることです。

書類を受け取ったり作成したりした時点で、「10年保管」「7年保管」「5年保管」といったように、保管期間ごとにファイリングすることが有効です。ファイルの背表紙に廃棄予定年月を記載しておけば、廃棄作業が格段にスムーズになります。

また、「経理関連は緑」「人事関連は青」のように、部署や書類の種類ごとにファイルの色を統一すると、目的の書類を瞬時に見つけ出せます。ラベルの貼る位置を統一することも、整理整頓された見た目と探しやすさにつながります。

書類を平積みすると、下の書類が取り出しにくく、傷みやすくもなります。ファイルボックスなどを活用し、縦置き(バーティカルファイリング)を徹底することで、アクセスしやすく、きれいな状態を保てます。

最後に、シンプルな社内ルールを作ることが重要です。「どの書類を、どこに、どのように保管し、いつ廃棄するか」を定めた簡単な書類保管マニュアルを作成し、全社で共有しましょう。これにより、担当者が変わっても管理品質が維持されるようになります。

デジタル化による抜本的な効率改善

書類管理の根本的な課題を解決するには、デジタル化が最も有効な手段です。コンプライアンス対応はもちろんのこと、コスト削減、検索性の向上、リモートワークへの対応、災害対策(BCP)など、多くの経営メリットをもたらします。

個人事業主や小規模事業者におすすめのツール

個人事業主や小規模事業者には、クラウド会計ソフト(マネーフォワード クラウド、freee会計、やよいの青色申告 オンラインなど)の導入が最適です。これらのソフトには、スマートフォンアプリでレシートや領収書を撮影するだけで、日付や金額を自動で読み取り、仕訳まで行ってくれる機能が搭載されています。

撮影した画像データはそのまま電子帳簿保存法の要件に準拠した形で保存されるため、記帳の手間と書類保管の負担を同時に劇的に削減できます。

中小企業におすすめのツール

従業員数が増え、承認フローなどが複雑になる中小企業の場合は、クラウド型文書管理システム(楽々Document Plusなど)や経費精算システム(INVOY、TOKIUMなど)の導入を検討しましょう。これらのシステムは、電子帳簿保存法の要件を満たしつつ、チームでの書類共有、バージョン管理、承認ワークフローの自動化など、より高度な管理機能を提供します。これにより、バックオフィス業務全体の生産性を大きく向上させることができます。

自社の規模や業務内容に合わせて適切なツールを選ぶことが、効率的で確実な書類管理体制を構築するための鍵となります。

まとめ:保管義務の重要ポイント再確認

最後に、複雑な書類の保管義務について、経営者や実務担当者が押さえておくべき最も重要なポイントを再確認します。

まず、どの期間保管すればよいか迷った場合は「10年」を基準に考えるのが安全策です。会計帳簿、決算書類、契約書といった会社の根幹に関わる書類は、会社法と法人税法の両方が関わります。管理を簡素化し、リスクをなくすためには、これらの重要書類を一律で10年間保管するというルールが最もシンプルで安全な選択です。

次に、「起算日」を正しく理解することが重要です。保管期間のカウントは、書類の作成日や受領日から始まるわけではありません。税務関連書類は「確定申告の提出期限の翌日」から、会計帳簿は「帳簿の閉鎖の時」からと、法律によって厳密に定められています。この起算日の誤解は、意図しない法令違反につながるため、正確に理解しましょう。

また、事業形態によってルールは変わるという点も忘れてはなりません。法人には会社法と法人税法が、個人事業主には所得税法が適用されます。さらに個人事業主は青色申告か白色申告かによっても義務が異なります。自社の事業形態に合ったルールを確認することが不可欠です。

そして、2024年1月以降、電子取引のデータ保存は「義務」となっています。電子メールで受け取った請求書などを印刷して保管することは認められません。電子データで受け取ったものは、電子データのまま、法律の要件を満たして保存することがすべての事業者の義務です。

書類の保管は、単なる事務作業ではありません。税務調査や法的な紛争から会社を守り、経営の透明性を示し、社会的な信頼を維持するための重要なリスク管理活動です。適切な文書管理体制を構築することは、安定した企業経営の土台そのものと言えるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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