
決算期の利益を正確に計算し、税金の過払いや申告ミスを防ぎたいとお考えではありませんか。期末商品棚卸高の計算は、会社の利益と納税額を左右する、決算業務の心臓部と言える重要な作業です。
この計算をマスターすれば、自社の経営状態を正確に把握し、自信を持って確定申告を終えることができるでしょう。
この記事を最後まで読むことで、期末商品棚卸高の計算方法を完全に理解し、どの評価方法が自社に最適か判断できるようになります。もう決算書の数字に不安を感じることはありません。経営者として、あるいは経理担当者として、会社の財務をコントロールする確かな一歩を踏み出せます。
「会計は専門用語が多くて苦手」という方でもご安心ください。本記事では、複雑な計算や法律のルールを、具体的な計算例を交えながら、一つひとつ丁寧に解説します。この記事の通りに進めるだけで、誰でも正確な期末商品棚卸高を算出できるようサポートします。
目次
期末商品棚卸高とは?会社の利益を正確に把握するための基礎知識
期末商品棚卸高(きまつしょうひんたなおろしだか)とは、簡単に言えば「決算日時点で売れ残っている在庫商品の合計金額」のことです。この数字は、決算書の一つである損益計算書(P/L)上で、当期の利益を計算するために絶対に欠かせない要素となります。
なぜなら、会社の利益、特に事業の儲けの基本となる売上総利益(粗利)は、「売上高から売上原価を差し引く」ことで計算されるからです。そして、その売上原価を算出する計算式に、期末商品棚卸高が登場します。この関係性こそが、期末商品棚卸高の計算が非常に重要である理由です。
会計のルールでは、費用として計上できるのは「当期の売上を上げるために直接かかった費用」のみと定められています。期末に残っている在庫は、まだ売れておらず、当期の売上には貢献していません。そのため、仕入れた費用のうち、売れ残った在庫分は当期の費用から除外する必要があります。その際に用いられるのが、以下の計算式です。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高
この式が示すように、期末商品棚卸高の金額は、売上原価の金額とシーソーのような関係にあります。簡単な例で見てみましょう。期首在庫(前期からの繰越)が10万円、当期に仕入れた商品が100万円あったとします。
もし期末在庫が20万円なら、売上原価は「10万円 + 100万円 − 20万円 = 90万円」となります。
もし期末在庫が30万円なら、売上原価は「10万円 + 100万円 − 30万円 = 80万円」となります。
このように、期末商品棚卸高が10万円増えるだけで、売上原価は10万円減り、その分だけ利益が10万円増加します。利益が増えれば、納める法人税や所得税も増える可能性があります。つまり、期末商品棚卸高を正確に計算することは、適正な利益計算と納税を実現するための第一歩なのです。
また、当期の期末商品棚卸高は、そのまま翌期の期首商品棚卸高として引き継がれます。会計上、在庫は期をまたいで資産として繰り越されるため、このつながりを理解しておくことも重要です。
正確な計算の第一歩「実地棚卸」の進め方
期末商品棚卸高の計算は、机上の計算だけで完結するものではありません。まず最初に行うべきは「実地棚卸(じっちたなおろし)」、つまり倉庫や店舗にある在庫を、人の目で見て物理的に数える作業です。帳簿上の在庫データと実際の在庫数には、記録ミスや破損、紛失などによって差異が生じることが多いため、この現物確認作業は絶対に省略できません。
棚卸資産の対象となるもの
まず、「何を数えるべきか」を正確に把握することが重要です。棚卸資産には、販売目的の商品だけでなく、業種に応じて様々なものが含まれます。これらを漏れなく数えなければ、正しい計算はできません。
小売業・卸売業
- 商品
- 貯蔵品(販売に使用する包装紙や箱など)
製造業
- 製品(完成品)
- 半製品(中間工程の製品)
- 仕掛品(製造途中のもの)
- 原材料(製品を作るための主要な材料や補助的な塗料、釘など)
- 貯蔵品
その他の業種
不動産業者が販売目的で保有している土地や建物も、固定資産ではなく棚卸資産として扱われます。
未着品の計上
注意が必要なのが「未着品」です。これは、代金を支払って購入済みであるにもかかわらず、決算日時点でまだ手元に届いていない商品のことです。自社の資産であることに変わりはないため、これも棚卸資産に含めて計上する必要があります。
実地棚卸の具体的な進め方
実地棚卸をスムーズかつ正確に行うために、以下のステップで進めましょう。
- 計画を立てる
棚卸の実施日、責任者と担当者、作業範囲(どの倉庫、どの棚を誰が担当するか)を事前に明確にします。 - 準備をする
在庫品目を一覧にした棚卸表(インベントリーシート)や、数量を記入するための筆記用具、商品を数えたことを示すための付箋やタグ(タグ方式の場合)などを用意します。 - 作業を実施する
通常、2人1組で作業を行います。1人が数量を数え、もう1人が棚卸表に記録することで、数え間違いや記録ミスを防ぎます。 - 状態を確認する
数量を数えるだけでなく、商品の状態も確認します。長期間売れ残っていることによる汚れや破損、デザインの陳腐化など、価値が著しく低下している商品がないかをチェックし、備考欄などに記録しておきます。この情報は、後述する「商品評価損」を計算する際に非常に重要になります。 - 集計と検証を行う
すべての棚卸表を回収し、品目ごとに数量を集計します。集計後、帳簿上の在庫数と照合し、大きな差異がある場合は原因を調査します。
この実地棚卸によって確定した「実際の在庫数量」が、期末商品棚卸高を計算するための基礎となります。
利益が変わる!棚卸資産の評価方法【6種類を徹底比較】
実地棚卸で在庫の「数量」がわかったら、次にその在庫一つひとつの「単価」を決定し、「期末商品棚卸高 = 在庫数量 × 単価」という計算を行います。
しかし、ここで問題が生じます。同じ商品であっても、仕入れた時期によって単価が100円だったり110円だったりと、異なることがよくあります。期末に残っている在庫にどの単価を適用するかによって、期末商品棚卸高の総額、ひいては会社の利益額が大きく変わってしまいます。
そこで、恣意的な利益操作を防ぎ、公平な課税を実現するために、会計ルールと税法では在庫の単価を計算するための評価方法がいくつか定められています。企業は、どの評価方法を採用するかを事前に選択し、税務署に届け出る必要があります。そして、一度選んだ方法は、正当な理由なく変更することはできず、継続して適用することが求められます。
ここでは、代表的な6つの評価方法を比較解説します。
最終仕入原価法
最終仕入原価法とは、会計期間の末日に最も近い時点で仕入れた商品の単価(最終仕入単価)を、期末に残っているすべての在庫の単価とみなして評価する方法です。
この方法の最も重要な特徴は、「棚卸資産の評価方法の届出書」を税務署に提出しなかった場合に、自動的にこの方法が適用される「法定評価方法」であるという点です。知らず知らずのうちに、この方法で計算する義務を負っているケースが少なくありません。
計算例
- 期末在庫数: 100個
- 直近の仕入履歴: 11月15日に@110円で50個仕入、12月10日に@120円で80個仕入
最終仕入単価は、期末に最も近い12月10日の「@120円」です。
期末商品棚卸高 = 100個 × @120円 = 12,000円
この方法のメリットは、最後に仕入れた単価を調べるだけでよいため、計算が非常にシンプルで、実務的な負担が最も少ないことです。
一方でデメリットとして、期末直前の仕入価格がたまたま高騰または暴落した場合、その影響を大きく受けてしまい、在庫の評価額が実態と乖離する可能性があります。また、企業会計原則では正式な評価方法として認められていないため、主に中小企業で採用される方法です。
先入先出法(FIFO)
先入先出法(さきいれさきだしほう)は、「先に仕入れた商品から先に販売される(First-In, First-Out)」と仮定する方法です。この考え方に基づくと、期末に残っている在庫は、最も新しく仕入れたものから構成されているとみなして評価します。
計算例
- 期末在庫数: 100個
- 直近の仕入履歴: 11月15日に@110円で50個仕入、12月10日に@120円で80個仕入
期末在庫100個は、新しいものから順に構成されると考えます。
(12月10日仕入分: 80個 × @120円) + (11月15日仕入分: 20個 × @110円) = 9,600円 + 2,200円 = 11,800円
期末商品棚卸高は11,800円となります。
メリットは、実際のモノの流れと計算上の仮定が一致しやすく、論理的である点です。また、在庫の評価額が期末時点の時価に近くなるため、貸借対照表(B/S)に計上される資産価値がより実態に即します。デメリットは、仕入ごとの単価を個別に管理する必要があるため計算が煩雑になる点や、物価上昇の局面では利益が大きく計算される傾向がある点です。
総平均法
総平均法とは、期首にあった在庫と、期中に仕入れたすべての在庫の取得価額の合計額を、その総数量で割って平均単価を算出する方法です。そして、その平均単価を期末在庫の単価として評価します。
計算例
- 期首在庫: 20個 × @100円 = 2,000円
- 期中仕入: (50個 × @110円) + (80個 × @120円) = 5,500円 + 9,600円 = 15,100円
- 総仕入額: 2,000円 (期首) + 15,100円 (期中) = 17,100円
- 総数量: 20個 (期首) + 50個 (期中) + 80個 (期中) = 150個
- 平均単価 = 17,100円 ÷ 150個 = @114円
- 期末在庫数: 100個
- 期末商品棚卸高 = 100個 × @114円 = 11,400円
メリットは、期間中の仕入データをまとめて一度計算するだけで済むため比較的簡単であること、そして期間中の価格変動が平均化され、評価額が安定しやすいことです。デメリットとしては、会計期間が終了するまで平均単価を計算できず、期中での正確な原価把握が困難な点が挙げられます。
その他の評価方法(個別法・移動平均法・売価還元法)
上記3つの代表的な方法の他に、特定の業種や商品に適した評価方法もあります。
個別法は、宝石、美術品、不動産など、一つひとつが異なり高価な商品を扱う場合に適しています。個々の商品の仕入原価をそのまま評価額とするため最も正確ですが、管理に多大な手間がかかります。
移動平均法は、商品を仕入れるたびに、その時点での在庫と新しい仕入分を合わせて平均単価を計算し直す方法です。常に最新の原価を把握できますが、仕入の都度計算が必要なため、事務処理が非常に煩雑になります。
売価還元法は、スーパーマーケットや百貨店のように、多品種かつ大量の商品を扱い、個別の原価管理が難しい小売業で採用されます。期末在庫の「売価」の合計額に、その商品のグループの「原価率」を掛けることで、原価を推定する方法です。
棚卸資産の評価方法 比較一覧表
どの方法が自社に適しているか判断するために、ここまでの内容を一覧表にまとめます。
評価方法 | 計算方法 | メリット | デメリット | こんな事業者におすすめ |
最終仕入原価法 | 期末直前の仕入単価を全在庫に適用 | 計算が最も簡単 | 価格変動の影響を受けやすい。利益が実態と乖離する可能性。 | 届出を忘れた/手間をかけたくない小規模事業者 |
先入先出法 | 古いものから売れると仮定。在庫は新しい仕入単価で評価 | 物の流れと一致し、在庫の時価評価に近い | 仕入ごとの単価管理が煩雑 | 賞味期限がある商品や、実物の流れを重視する事業者 |
総平均法 | 期間全体の平均単価で評価 | 計算が一度で済む。価格変動を平準化 | 期末まで原価が確定しない | 価格が比較的安定している商品を扱う事業者 |
移動平均法 | 仕入の都度、平均単価を再計算 | 常に最新の原価を把握できる | 計算が非常に煩雑。システム導入が望ましい | 原価をリアルタイムで管理したい製造業など |
個別法 | 商品一つひとつの仕入原価で評価 | 最も正確 | 管理コストが非常に高い | 宝石、美術品、不動産など個別管理が可能な高額商品 |
売価還元法 | 売価に原価率を掛けて原価を推定 | 大量商品の原価計算を簡略化できる | 原価率が類似したグループ分けが必要 | 取扱品目数が膨大な小売店、百貨店など |
【重要】個人事業主・新設法人が必須の「評価方法の届出」とは
棚卸資産の評価方法は、事業者が自社の状況に合わせて自由に選ぶことができます。しかし、どの方法を採用するかを、「所得税の棚卸資産の評価方法の届出書」(個人事業主の場合)または「法人税の棚卸資産の評価方法の届出書」(法人の場合)という書類を通じて、所轄の税務署に届け出る必要があります。
この届出が必要な理由は、事業年度ごとに都合の良い評価方法へ恣意的に変更し、利益を不当に操作することを防ぐためです。税の公平性を保つための重要なルールとなっています。
届出をしないとどうなるか?
この届出に関して、特に新規開業・設立した事業者が知っておくべき最も重要なポイントがあります。新たに事業を開始した個人事業主や、新しく設立された法人は、最初の確定申告書の提出期限までにこの届出を行う必要があります。個人事業主であれば、事業を開始した年の翌年3月15日が期限です。
最も重要な点は、期限内にこの届出書を提出しなかった場合、自動的に「最終仕入原価法」が選定されたものとみなされることです。
これは「デフォルトの罠」とも言えるルールです。例えば、物価が上昇している状況では、先入先出法の方が税務上有利になる可能性があるにもかかわらず、届出を怠ったばかりに、自動的に最終仕入原価法が適用され、不利な状況に陥ってしまうことがあります。
自社にとって最適な評価方法を選択する権利を失わないためにも、この届出は必ず期限内に行いましょう。
届出書の様式は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。一度選択した評価方法を変更したい場合は、「変更承認申請書」を提出し、税務署長の承認を得る必要がありますが、変更には合理的な理由が求められ、安易な変更は認められません。
実務で役立つ!よくある問題と会計処理
決算の実務では、帳簿上の数字と現実がぴったり一致することは稀です。ここでは、棚卸で発覚する代表的な2つの問題、「在庫数が合わない」ケースと「在庫の価値が下がった」ケースの会計処理について解説します。これらの処理を正しく行うことで、経営の実態をより正確に財務諸表に反映させることができます。
在庫数が合わない場合の「棚卸減耗損」
棚卸減耗損(たなおろしげんもうそん)とは、実地棚卸を行った結果、帳簿上の在庫数量よりも実際の在庫数量が少なかった場合に、その差額(なくなった分)を損失として計上するものです。
この差異は、単なる記録ミスだけでなく、商品の破損、汚損、紛失、あるいは盗難といった、より深刻な原因で発生することもあります。棚卸減耗損の金額が大きい場合、それは在庫管理体制に問題があることを示す危険信号とも言えます。
計算式と会計処理
- 計算式: 棚卸減耗損 = (帳簿棚卸数量 – 実地棚卸数量) × 原価単価
- 例: 帳簿上は100個あるはずの商品(原価@100円)が、実際に数えてみると98個しかなかった場合。
棚卸減耗損 = (100個 − 98個) × @100円 = 200円
この200円は、通常発生する範囲のものであれば、原則として売上原価に含めて費用処理します。災害など特別な理由で発生した場合は、営業外費用や特別損失として計上することもあります。
在庫の価値が下がった場合の「商品評価損」(低価法)
商品評価損(しょうひんひょうかそん)とは、在庫の時価が、仕入れた時の原価(帳簿価額)よりも値下がりした場合に、その価値の下落分を損失として計上する会計処理です。これは「低価法(ていかほう)」という、より保守的で実態を重視する評価基準に基づいています。
価値の下落は、季節商品の型落ち、新製品の登場による旧式化、流行の終焉、あるいは破損や汚損による品質劣化など、市場や商品そのものの変化によって引き起こされます。商品評価損を計上することは、売れ残った不良在庫が経営を圧迫しているという事実を、決算書上で明確にすることに繋がります。
計算式と会計処理
計算式: 商品評価損 = (帳簿単価 – 期末時価) × 実地棚卸数量
※期末時価とは、その商品を今売ったらいくらになるかという見積額(正味売却価額)です。
例: 原価@500円で仕入れた商品が、流行遅れのため、期末時点では@300円の価値しかないと判断された。この商品の在庫は50個ある。
商品評価損 = (@500円 − @300円) × 50個 = 10,000円
この10,000円も、棚卸減耗損と同様に、原則として売上原価として処理します。これにより、在庫の価値が下落しているという経営の実態を財務諸表に正しく反映させ、より実態に近い利益計算が可能になります。なお、会計の保守主義の原則から、時価が原価を上回っていても「評価益」を計上することは認められていません。
まとめ:正確な期末商品棚卸高の計算が健全な経営の礎となる
本記事では、期末商品棚卸高の求め方について、その重要性から具体的な計算方法、税務上の手続きまでを網羅的に解説しました。最後に、重要なポイントを再確認しましょう。
- 利益と納税額への直接的な影響
期末商品棚卸高は売上原価を確定させるための最重要項目であり、その金額が会社の利益を決定します。 - 計算の始点は「実地棚卸」
まず物理的に在庫を正確に数え、「数量」を確定させることがすべての始まりです。 - 自社に合った「評価方法」の選択と届出
どの単価を適用するかで利益は変わります。特に、届出をしないと自動的に「最終仕入原価法」となるため、最初の確定申告期限までの届出は必須です。 - 現実とのズレの正しい処理
在庫の数量不足や価値の下落も、「棚卸減耗損」や「商品評価損」としてルールに則って費用計上することで、経営の実態を財務諸表に正確に反映させることができます。
期末商品棚卸高の計算は、一見すると複雑で手間のかかる作業です。しかし、これを正確に行うことは、自社の財産を正しく管理し、現状を客観的に把握し、そして健全な経営判断を下すための揺るぎない土台となります。この機会にぜひマスターし、貴社のさらなる発展にお役立てください。
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