会計の基礎知識

税務調査はいつ来る?時期・確率から対象者の特徴、準備まで解説

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税務調査 いつ

税務調査の連絡が来たらどうしよう、と漠然とした不安を抱えていませんか。その不安は、調査が「いつ」「なぜ」来るのか、そして「どう対応すればよいか」がわからないことから生まれます。

もし、税務署からの通知に慌てることなく、自信を持って対応できる未来を想像してみてください。この記事は、その未来を実現するための具体的な知識と準備方法を解説します。

ここでは、税務調査の実態を深く理解し、漠然とした不安を「準備万端」という自信に変えるための具体的な知識と実践的な準備手順を解説します。これは希望的観測ではなく、税務の現場が実際にどのように動いているかに基づく体系的な対策です。

元調査官として、多くの経営者がこの問題でどれほどのストレスを感じるか、痛感しております。これからお伝えするのは、私が自身のクライアントに提供しているのと同じ手順とチェックリストです。

事業の規模や業種にかかわらず、あなたのビジネスを守るための体系的な準備を、一緒に進めていきましょう。

目次

税務調査が実施されやすい時期と頻度

税務調査がいつ行われるかは、多くの経営者にとって最大の関心事です。実は、調査のタイミングは無作為ではなく、納税者の種類や税務署の内部事情によって、ある程度予測可能なパターンが存在します。

個人事業主・法人・相続で異なる調査のタイミング

税務調査の時期は、対象となる納税者の区分によって大きく異なります。これは、それぞれの申告期限と、その後の税務署内での分析や処理に必要な時間が関係しているためです。

個人事業主

個人事業主の税務調査は、4月から5月、そして7月から8月に集中する傾向があります。3月15日の確定申告期限を終えた直後の4月から5月は、提出されたばかりの申告書を税務署が早速レビューする時期にあたります。また、後述する税務署の人事異動が落ち着く7月以降も、調査が活発になる時期です。

法人

法人の場合、調査の時期は事業年度の決算月に左右されます。日本の大多数を占める3月決算の法人(決算月が2月から5月)の場合、税務調査は7月から12月に行われることが多くなります。決算申告から数ヶ月の間、税務署が申告内容を分析する時間を経て、調査が開始されるという流れです。

一方で、決算月が6月から翌年1月の法人の場合は、1月から6月が調査の主なシーズンとなります。

相続

相続税に関する税務調査は、相続税の申告書を提出してから1年から2年後に行われるのが一般的です。特に、8月から11月の時期に調査の連絡が来ることが多いとされています。申告内容が複雑で、財産の評価などに時間がかかるため、申告から調査まである程度の期間が空きます。

これらのタイミングと頻度の目安は以下の通りです。

対象者調査が行われやすい時期頻度の目安
個人事業主4月~5月、7月~8月頃5~10年に1回程度
法人 (決算月:2月~5月)7月~12月頃3~10年に1回程度
法人 (決算月:6月~1月)1月~6月頃3~10年に1回程度
相続申告書提出の1~2年後の8月~11月頃5年以内に1回あるかないか

このように、調査のタイミングは税務署の事務的な都合と密接に連携しています。これは決して恣意的なものではなく、申告書の提出という起点があって初めて調査が可能になるという、合理的なプロセスに基づいているのです。

税務署の1年の動きから読み解く調査時期の裏側

税務調査の時期をさらに深く理解するためには、税務署の内部的な年間スケジュール、いわゆる事務年度を知ることが不可欠です。税務署の事務年度は、毎年7月に始まり翌年6月に終わります。このサイクルが、調査活動のリズムを大きく左右します。

7月から8月 新体制の始動と準備期間

7月は税務署の人事異動の時期です。新しい調査チームが編成され、その事務年度で調査すべき対象先の選定作業が始まります。この時期は、大規模な法人調査の計画を立てつつも、比較的短期間で終わる個人事業主の調査が行われることも多いです。

9月から11月 税務調査のピークシーズン

この時期は、税務調査が最も活発になるピークシーズンです。新しい体制が本格的に稼働し、調査官は年間の目標達成に向けて精力的に実地調査を行います。特に秋は、調査官の士気が最も高まる時期とも言われています。

12月 小休止の時期

年末は、企業側も税務署側も多忙を極めるため、調査活動は一旦落ち着く傾向にあります。

1月から3月 最も静かな時期

この3ヶ月間は、税務署にとって最も調査が少なくなる時期です。なぜなら、全国の税務署員が個人の確定申告業務と法人の年末調整関連業務に忙殺され、新たな調査に着手する余裕がほとんどなくなるからです。

このように、税務調査のタイミングは単なる事務手続きだけでなく、税務署という組織内の人的リソースの配分や、調査官の年間目標といった内部の力学に大きく影響されています。税務署を顔のない巨大な官僚機構としてではなく、予測可能なサイクルを持つ組織として捉えることで、その動きはより理解しやすくなり、脅威も薄れるはずです。

税務調査が入る確率はどのくらい?

税務調査が入る確率はどのくらい?

「自分の会社に税務調査が入る確率は、一体どのくらいなのだろうか」と考える方は多いでしょう。国税庁が公表する統計によれば、実地調査の対象となる確率は、一見すると非常に低いように見えます。

法人の場合、年間の申告件数に対して実地調査が行われる割合は、およそ1.5%から2.5%程度です。個人事業主の場合も同様に、1.5%から2.5%程度の範囲で推移しています。これを単純化すると、個人の場合はおよそ100人に1人が調査を受けている計算になります。

しかし、この「平均確率」は、時に危険な誤解を生む可能性があります。なぜなら、税務調査の対象は無作為(ランダム)に選ばれているわけではないからです。

税務署は、後述するKSKシステムを用いて、膨大な申告データの中から、申告漏れなどのリスクが低いと判断される大多数の納税者をあらかじめ除外しています。つまり、調査対象の母集団は、全納税者ではなく、リスクが高いと判定された、より小さなグループなのです。

したがって、もしあなたの事業が次に解説する「狙われやすい特徴」を複数持っている場合、そのターゲットグループに含まれる可能性は格段に高まります。平均確率が2%程度だからと安心してしまうのは早計であり、自社のリスクを正しく評価することが極めて重要です。

なぜあなたの会社が?税務調査の対象に選ばれる理由

税務調査の対象に選ばれるのは、単に「運が悪かった」からではありません。現代の税務調査は、高度なデータ分析に基づいた、きわめて合理的なプロセスによって対象者が選定されています。その中心にあるのが、国税総合管理(KSK)システムです。

KSKシステムとAIが導き出す「狙われやすい事業者」の共通点

税務調査の対象者選定は、もはや調査官の勘や経験だけに頼る時代ではありません。そのプロセスは、国税総合管理(KSK)システムという、全国の納税者情報を一元管理する強力なデータベースによって大きく左右されています。

KSKシステムは、全国の国税局と税務署をネットワークで結び、申告書の内容、納税実績、さらには第三者から提出される支払調書といったあらゆる情報を集約しています。このシステムは、蓄積された膨大なデータを分析し、近年ではAI(人工知能)も活用して、申告内容の異常値を検出します。そして、各納税者をリスクレベルに応じてスコアリング(点数化)しているのです。

KSKシステムが警告を発する主な異常値には、以下のようなものがあります。

  • 過去の業績からの著しい逸脱(例:売上は減少しているのに経費は増加)
  • 同業他社の平均的な数値(利益率など)との大きな乖離
  • 役員退職金や貸倒損失など、多額で非定型的な経費の計上

さらに、2026年に導入が予定されている次世代システム「KSK2」は、外部の統計データを取り込んだり、調査官が調査先からでもデータにアクセスできるようになるなど、さらに強力な分析能力を持つことになります。

このことからわかるのは、税務調査の対象に選ばれることは、データプロファイルがシステムの自動警告を発した結果であるという事実です。これは、裏を返せば、どのようなデータパターンが警告につながるかを理解することで、事業主は自社のリスクを能動的に管理できるということを意味します。恐怖に怯えるのではなく、KSKシステムに警戒されない「クリーンなデータプロファイル」を維持することが、最良の防御策となるのです。

税務調査を呼び込みやすい個人事業主・法人の特徴

KSKシステムがどのような事業者を「リスクが高い」と判断するのか。その具体的な特徴を理解し、自社の状況と照らし合わせることで、税務調査のリスクを自己診断できます。以下の項目に当てはまるものが多いほど、調査対象として選定される可能性が高まります。

財務プロファイルに関する特徴

売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者となるため、毎年売上が1,000万円をわずかに下回る水準で推移していると、消費税逃れのための売上除外を疑われる可能性があります。また、業績の急激な向上は喜ばしいことですが、税務署から見れば「申告漏れが発生しやすい状況」と映ります。

売上に対して利益が極端に少ない、あるいは突然赤字に転落するなど、不自然な利益の動きは所得隠しや経費の水増しを疑われる原因となります。同業他社や過去の自社の数値と比較して、経費の割合が突出して高い場合も、その内容を精査するために調査対象となることがあります。

輸出業や大規模な設備投資を行った場合などを除き、消費税の還付申告は珍しいため、その正当性を確認するために調査が行われやすい傾向にあります。

事業運営・業種に関する特徴

国税庁は毎年、申告漏れが多い業種を公表しており、これらの業種は重点的な調査対象となります。近年では、経営コンサルタント、建設業、IT関連、現金商売の飲食店などが上位に挙がっています。

令和4事務年度 申告漏れ所得金額が高額な業種(上位5位)

順位業種目1件当たりの申告漏れ所得金額
1位経営コンサルタント3,367万円
2位くず金卸売業2,483万円
3位ブリーダー2,075万円
4位焼肉1,611万円
5位タイル工事1,598万円
(出典: 国税庁 令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況)

飲食店、小売店、美容室など、現金でのやり取りが多いビジネスは、売上の記録が追跡しにくいため、売上除外が行われやすいと見なされます。また、インターネット広告やシェアリングエコノミーなど、新しいビジネスモデルについては、国税庁が実態把握と情報収集を目的として調査を行うことがあります。

コンプライアンス履歴・体制に関する特徴

開業後すぐは事業が安定していないため調査対象になりにくいですが、事業が軌道に乗る3年目以降は、調査の対象として有力な候補となります。これは、税務調査が通常過去3年分を対象とすることとも関係しています。

税理士が関与していない申告書は、専門家によるチェックが入っていないため、単純なミスや意図的な不正のリスクが高いと判断されがちです。一度申告漏れなどを指摘されると、税務署のリストに載り、その後の申告内容が適正かどうかを継続的に監視されることになります。

申告義務を果たしていない無申告や期限後申告は、最も重大なリスク要因の一つです。これらの特徴は、それぞれが税務署にとっての特定の懸念材料に対応しています。自社の状況を客観的に評価し、リスク要因を一つでも減らしていくことが、効果的な税務調査対策の第一歩です。

税務調査の全貌:事前通知から結果報告までの流れ

税務調査は、ある日突然始まるわけではありません。ほとんどの場合、決められた手順に沿って進められます。そのプロセスを事前に理解しておくことで、冷静かつ的確に対応することが可能になります。

ステップ1 税務署からの事前通知

税務調査の大部分は、事前通知と呼ばれる一本の電話から始まります。これは、調査官が納税者本人、または顧問税理士に連絡を入れることで行われます。

通常、実地調査を希望する日の1週間から2週間ほど前に連絡があります。通知の際、調査官は調査の目的、対象となる税目(法人税、消費税など)、そして調査対象期間(通常は過去3年分)を伝えます。

税務署から提示された日程は、交渉可能です。業務の都合や、税理士との打ち合わせ、立ち会いのための準備期間を確保するために、日程の変更を申し出ることは正当な権利であり、何ら不利になることはありません。

ただし、飲食店などの現金商売で、事前に通知すると証拠隠滅の恐れがあると判断された場合には、例外的に事前通知なしの無予告調査が行われることもあります。この事前通知は、単なる通告ではなく、準備のための貴重な時間を与えてくれる機会です。この期間を有効に使い、税理士への相談や書類の準備を万全に行うことが、調査を有利に進める鍵となります。

ステップ2 調査当日の流れと対応の心構え

中小企業や個人事業主の場合、調査官が事業所を訪れて行う実地調査は、通常1日から2日間で終了します。

調査は通常、午前10時頃に始まります。まず、代表者(社長)への概況聴取というヒアリングが行われます。ここでは、会社の設立経緯、事業内容、主な取引先、経理の処理体制など、事業の全体像に関する質問がなされます。

ヒアリングが終わると、調査の主眼は帳簿調査に移ります。調査官は、総勘定元帳や請求書、領収書、預金通帳といった書類を黙々と確認し、その整合性をチェックします。この間、社長がずっと付き添う必要はありませんが、経理担当者や顧問税理士はいつでも質問に答えられるよう、席を外さない方が賢明です。

対応の心構えとして、調査官は納税者の協力的な姿勢を評価します。質問されたことに対しては、誠実に、そして簡潔に答えることが重要です。余計な情報を自ら話したり、言い訳をしたり、過剰に親しげな態度(昼食の提供など)をとったりすることは避けましょう。冷静かつプロフェッショナルな態度が、調査をスムーズに進めます。

初日のヒアリングは、単なる情報収集の場ではありません。調査官は、経営者の人柄や受け答えの様子から、その信頼性や会社の管理体制のレベルを測っています。整理された書類を迅速に提示できれば、調査官の心証は良くなり、調査が早く終わる可能性もあります。逆に、書類が乱雑で探し出すのに時間がかかるようでは、経理全体がずさんであるとの印象を与え、調査が長引く原因にもなりかねません。

ステップ3 調査後の結果通知と3つの結末

実地調査の最終日に、その場で調査結果が言い渡されることはありません。調査官は、収集した資料や情報を税務署に持ち帰り、上司も交えて内容を検討します。最終的な結果の連絡までには、数週間から数ヶ月かかるのが一般的です。その結果、訪れる結末は主に3つです。

申告是認(しんこくぜにん)

調査の結果、申告内容に何ら問題がなかった場合に通知されます。「あなたの申告は正しかった」というお墨付きであり、納税者にとっては最も望ましい結果です。後日、その旨を記載した是認通知書が送付されます。

修正申告(しゅうせいしんこく)

調査官から申告内容の誤りを指摘され、納税者がその内容に納得し、自ら申告をやり直す手続きです。誤りが見つかった場合、最も一般的な結末です。修正申告書を提出し、追加の税金を納付することで調査は完了します。

更正(こうせい)

納税者が調査官の指摘に納得せず、修正申告に応じない場合に、税務署長の権限で強制的に税額を訂正する処分です。この更正処分に不服がある場合は、国税不服審判所への審査請求など、正式な不服申立手続きに進むことになります。

重要なのは、調査後のプロセスが一方的な「判決」ではなく、ある種の「交渉」であるという点です。調査官からの指摘事項に対しては、税理士を通じてその根拠を問い、見解の相違があれば議論を交わす余地があります。多くのケースで、更正という対立的な手続きを避け、修正申告で決着させることが、時間的・精神的な負担を軽減する現実的な選択肢となります。

「来ても大丈夫」という自信を持つための事前準備

「来ても大丈夫」という自信を持つための事前準備

税務調査に対する不安を解消する唯一の方法は、万全の準備を整えることです。「いつ来ても大丈夫」という自信は、日々の正確な経理処理と、調査で何が問われるかを理解した上での事前準備から生まれます。

税務調査で必ず確認される必須書類チェックリスト

税務調査では、通常過去3年分の帳簿書類の提示を求められます。ただし、申告漏れの疑いが強い場合などには、最大で過去7年分まで遡って調査される可能性があるため、法律で定められた保存期間の書類はすべて保管しておく必要があります。

調査に備え、以下の書類がすぐに取り出せるよう、整理・ファイリングしておくことが重要です。

書類分類主な書類確認ポイント保存期間(原則)
帳簿類総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛帳・買掛帳残高が一致しているか、日々の取引が正確に記録されているか7年
売上・仕入関連請求書、領収書、契約書、納品書、見積書日付順、取引先別に整理されているか、連番の抜け漏れがないか7年
経費関連経費に関する領収書、レシート、クレジットカード明細事業関連性が明確か、勘定科目ごとに整理されているか7年
資産関連固定資産台帳、棚卸表(期末在庫の明細)帳簿残高と現物が一致しているか、棚卸の計算が正確か7年
人件費関連給与台帳、源泉徴収簿、扶養控除等申告書、タイムカード従業員の実在性、給与計算が正しいか7年
その他預金通帳(個人・法人すべて)、株主総会議事録、定款事業と関連のない不自然な入出金がないか、重要な意思決定が記録されているか永久・10年

単に書類を保管しているだけでは不十分です。調査官が要求した際に、該当の書類を迅速に提示できるかどうかが、会社の管理体制の評価に直結します。よく整理された書類はプロフェッショナルな印象を与え、調査を円滑に進める助けとなるのです。

指摘されやすいポイントと見直しの勘所

調査官は、経験上、誤りや不正が起こりやすい特定の項目を重点的にチェックします。事前にこれらのポイントを自己点検しておくことで、指摘を受けるリスクを大幅に減らすことができます。

売上計上漏れ

特に現金商売の場合、全ての売上が漏れなく計上されているかを確認します。レジの記録や日報と、帳簿・預金通帳の入金額が一致しているかをチェックすることが重要です。

架空経費・公私の混同

社長や役員のプライベートな支出が、会社の経費として処理されていないかを確認します。特に、交際費や旅費交通費、福利厚生費などは、その目的や参加者、内容が事業に必要であったことを客観的に説明できる証拠(議事録、報告書など)を残しておくことが重要です。

架空人件費

勤務実態のない親族への給与支払いや、実態のない外注費の計上がないかを確認します。給与台帳とタイムカード、業務委託契約書と成果物など、支払いの根拠となる記録を整合させます。

棚卸資産の評価

期末の在庫を意図的に少なく計上し、利益を圧縮していないかを確認します。棚卸の実地棚卸記録と帳簿上の在庫数が一致しているか、評価方法が妥当であるかをチェックします。

消費税の課税区分

特にインボイス制度導入後は、取引ごとの消費税率(標準税率、軽減税率、非課税、不課税)が正しく適用されているかが厳しくチェックされます。仕入税額控除の要件を満たしているかも再確認が必要です。

これらの指摘ポイントに共通するのは、取引の正当性と一貫性です。調査官は、申告書という「結果」に至るまでの「プロセス」の正しさを検証します。総勘定元帳と預金通帳、請求書と納品書、給与台帳とタイムカードなど、書類が相互に矛盾なく連携しているか。このつながりが弱い部分が、調査官の質問の的になります。調査が入る前にこれらのつながりを自己監査し、すべての取引に明確なビジネス上の目的と証拠がある状態にしておくことが、最良の準備と言えるでしょう。

もし申告漏れを指摘されたら?追徴課税の種類と税率

税務調査の結果、残念ながら申告漏れや計算の誤りが指摘された場合、本来納めるべきだった税金に加えて、ペナルティとしての税金を支払う必要があります。これを総称して追徴課税と呼びます。

ペナルティの全体像 加算税と延滞税

追徴課税は、大きく分けて2つの要素で構成されています。一つは、本来納めるべきだった税金の不足分である「本税」。もう一つは、申告漏れなどに対するペナルティである「附帯税」です。附帯税はさらに「加算税」と「延滞税」に分かれます。

最終的に支払う金額は「本税の不足額 + 加算税 + 延滞税」となり、ペナルティ部分が大きな負担になることも少なくありません。

悪質度で変わる4つの加算税

ペナルティの中心となる加算税は、ミスの内容や意図の悪質性によって4種類に分類されます。

過少申告加算税

申告はしたものの、計上漏れなどで納税額が少なかった場合に課されます。意図的ではない単純ミスなどが対象で、税率は追加で納める本税の10%(一定額を超えると15%)です。

無申告加算税

期限内に申告をしなかった場合に課されます。税率は、納付すべき本税の15%(一定額を超えると20%~30%)です。

不納付加算税

給与などから源泉徴収した所得税を、納付期限までに納めなかった場合に課されます。税率は10%です。

重加算税

これが最も重いペナルティです。帳簿の改ざん、二重帳簿の作成、証拠書類の隠蔽など、意図的に税金を免れようとした仮装・隠ぺい行為があったと判断された場合に適用されます。上記の3つの加算税に代わって課され、税率は過少申告の場合で35%、無申告の場合では40%にもなります。

これらに加え、納付が遅れたことに対する利息として延滞税が日割りで加算されます。税率は変動しますが、決して低くはありません。

種類概要主な税率
過少申告加算税申告額が本来より少なかった(単純ミスなど)10%
無申告加算税期限内に申告しなかった15%
不納付加算税源泉所得税を納付しなかった10%
重加算税意図的な不正(仮装・隠ぺい)があった35% or 40%
延滞税納税が遅れたことに対する利息変動(年率)

このペナルティ体系からわかるのは、税務署が自主的な是正を強く促しているという事実です。税務調査の通知が来る前に自ら誤りを修正すれば、加算税の税率は大幅に軽減されます。一方で、意図的な不正には厳しい罰則が科されます。10%のペナルティで済むか、40%もの重加算税を課されるかは、この「意図性」の判断にかかっているのです。

追徴課税の時効と納付方法

追徴課税に関して、知っておくべき重要なルールが2つあります。

時効について

税務調査の対象期間は通常3年から5年ですが、重加算税が適用されるような悪質な不正の場合、調査は7年前まで遡ることが可能です。そして、税金の徴収権の時効は5年とされていますが、この時効が成立することは、現実にはほぼありません。なぜなら、税務署が督促状を送付するなどの徴収アクションを起こすと、時効の進行がリセットされる「時効の更新」という制度があるからです。「5年待てば時効になる」という考えは通用しない、ということを肝に銘じておく必要があります。

納付方法

追徴課税は、通知を受けてから1ヶ月以内に、現金で一括納付するのが原則です。分割払いは基本的に認められません。

まとめ

本記事では、税務調査が「いつ」「なぜ」来るのか、そして調査のプロセスからペナルティに至るまで、その全体像を解説しました。

調査の時期は、確定申告や決算、税務署の年間スケジュールによって決まる予測可能なものです。また、調査対象の選定は、KSKシステムによるデータ分析が中心であり、無作為ではありません。自社の財務やコンプライアンス状況をクリーンに保つことが最大の防御策となります。

調査のプロセスは、事前通知から始まる正式な手続きであり、適切な準備をすれば冷静に対応できます。日々の正確な記帳と、証拠書類の整理・保管こそが、「いつ来ても大丈夫」という自信の源泉です。これらの知識を身につけ、実践することで、税務調査に対する漠然とした不安は大きく軽減されるはずです。

しかし、それでもなお残る不安を解消し、リスクを最小限に抑えるための最善の一手は、税務の専門家である税理士に相談することです。税理士は、日々の記帳や申告が適正に行われるようサポートし、調査対象に選ばれるリスクそのものを低減してくれます。

そして万が一調査の対象となった際には、納税者の代理人として専門的な知識をもって調査官と対等に交渉し、不当に重い追徴課税を課される事態を防いでくれます。一人で抱え込むことが難しい安心感を、専門家との連携によって手に入れること。それが、経営者が事業に集中するための最も賢明な選択と言えるでしょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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