会計の基礎知識

預け金とは?会計・法律・契約の全知識を解説

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預け金とは

「預け金」という一つの勘定科目を正しく理解するだけで、あなたの会社の財務状況はより明確になり、契約上の思わぬリスクを未然に防ぐことができます。この記事は、そのための確かな知識を提供する羅針盤です。

本記事を読み終える頃には、あなたは「預け金」と「預り金」の違いを明確に説明できるようになり、不動産契約書に潜む金銭のリスクを見抜き、日々の経理処理に自信を持てるようになります。

会計や法律の専門家でなくても大丈夫です。複雑な概念も、具体的な仕訳例や図解を交えながら、一歩一歩、誰にでもわかるように解説していきます。

預け金とは?会計上の基本を徹底解説

「預け金」とは、企業が取引先、役員、従業員などの第三者に対して、将来返還されることを前提に一時的に預ける金銭を処理するための勘定科目です。会計上、これは会社にとって将来的に経済的利益をもたらす権利であるため、「資産」に分類されます。

その目的は多岐にわたりますが、代表的な例として営業保証金が挙げられます。これは、新規取引を開始する際に、取引の安全性を担保するために仕入先などに差し入れる保証金です。

その他にも、銀行以外の金融機関、例えば証券会社や保険会社に預ける金銭も預け金として扱われます。証券会社で信用取引を行う際に、担保として差し入れる金銭もこれに該当します。また、交通系ICカードなどにチャージした金額は、まだ商品やサービスを購入していない段階では費用ではなく、預け金として資産計上されることがあります。

貸借対照表における表示

預け金は資産であるため、貸借対照表(B/S)では借方(左側)の「資産の部」に表示されます。ただし、その表示区分は「一年基準」によって決まります。

決算日の翌日から起算して1年以内に返還される予定の預け金は、流動資産に分類されます。多くの短期的な保証金はこちらに該当します。

一方で、返還までの期間が1年を超える預け金は、固定資産の中の「投資その他の資産」に分類されます。例えば、数年単位の契約となる事務所の賃貸借契約で差し入れる高額な保証金などがこれにあたります。

この分類は単なる会計上のルールではありません。企業の財務健全性を評価する上で極めて重要な意味を持ちます。例えば、銀行や投資家は企業の短期的な支払い能力を測るために流動比率(流動資産 ÷ 流動負債)を重視します。

もし、長期契約である事務所の保証金(本来は固定資産)を誤って流動資産に計上してしまうと、流動資産が過大に表示され、流動比率が見かけ上は良く見えてしまいます。

しかし、その保証金は実際には短期的な支払いに充当できないため、この誤った分類は、企業の財務実態を歪め、金融機関からの信用を損なうリスクにつながりかねません。したがって、預け金を一年基準に従って正しく分類することは、正確な財務報告とステークホルダーとの信頼関係維持のために不可欠なのです。

「預り金」との決定的な違い

預け金と最も混同されやすい勘定科目が「預り金」です。この二つは名称が似ていますが、その性質は正反対です。

預り金とは、従業員、取引先、顧客などの第三者から一時的に金銭を預かり、会社が本人に代わって別の第三者(税務署など)へ支払うか、後日本人に返還する義務を負う金銭を指します。これは会社にとって返済・支払義務であるため、会計上は「負債」に分類されます。

預り金の具体例には、給与から天引きする源泉所得税・住民税があります。これは従業員に代わって税務署や市区町村に納付するために、給与から差し引く税金です。同様に、従業員負担分の健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料も、会社が年金事務所などに納付するために預かるため、預り金に該当します。

その他、自社が取引の安全性を担保するために取引先から預かる営業保証金や、従業員の福利厚生の一環として給与天引きで積み立てる社内預金、財形貯蓄なども預り金として処理されます。

貸借対照表における表示

預り金は負債であるため、貸借対照表では貸方(右側)の「負債の部」に表示されます。こちらも一年基準が適用されます。

1年以内に支払・返還期限が到来する預り金は、流動負債に分類されます。給与から天引きした税金や社会保険料は、原則として翌月10日に納付するため、典型的な流動負債です。

支払・返還期限が1年を超える預り金は、固定負債に分類されます。従業員の社内預金や、長期契約のテナントから預かる保証金などが該当し、「長期預り金」や「預かり保証金」といった科目で区別されることもあります。

預け金と預り金の比較

この二つの違いを明確に理解するために、以下の表で整理します。

特徴預け金預り金 
会計上の性質資産負債
貸借対照表の位置借方(左側)の資産の部貸方(右側)の負債の部
資金の方向会社から第三者へ(預ける)第三者から会社へ(預かる)
目的将来返還されることを前提に一時的に資金を預ける第三者に代わって支払うか、本人に返還するために一時的に資金を預かる
具体例営業保証金の差し入れ、信用取引の担保金給与からの源泉所得税・社会保険料天引き、取引先からの保証金受領

【実践編】預け金・預り金の仕訳方法

【実践編】預け金・預り金の仕訳方法

理論を理解したところで、次に具体的な仕訳例を見ていきましょう。

預け金の仕訳例

A社がB社に資金運用を委託し、1,000万円を当座預金から振り込んだケースを考えます。この場合、会社の資産である当座預金が1,000万円減少すると同時に、同じく資産である預け金が1,000万円増加します。

借方金額貸方金額
預け金10,000,000円当座預金10,000,000円

預り金の仕訳例

給与からの天引き

給与総額600万円から、源泉所得税・住民税・社会保険料の合計135万円を天引きし、差額の465万円を当座預金から従業員に支払った場合の仕訳です。

借方金額貸方金額
給与手当6,000,000円当座預金4,650,000円
預り金1,350,000円

天引きした税金の納付

上記で預かった税金・社会保険料のうち、住民税20万円を現金で市区町村に納付した場合、負債である預り金が減少し、資産である現金も減少します。

借方金額貸方金額
預り金200,000円現金200,000円

保証金の受領

事務所の賃借人から、保証金として10万円を現金で預かった場合、資産である現金が増加し、負債である預り金も増加します。

借方金額貸方金額
現金100,000円預り金100,000円

預り金残高がマイナスになる原因と対処法

経理処理を行う中で、預り金の残高がマイナスになることがあります。これは必ずしも間違いではなく、特定の状況下で発生する現象です。

主な原因

預り金残高がマイナスになる主な原因として、納付タイミングのずれが挙げられます。例えば、雇用保険料のように毎月の給与から天引きしていても、納付が年1回の場合、納付月に一時的に残高がマイナスになることがあります。

また、年末調整での還付も原因の一つです。年末調整の結果、従業員へ還付する金額がその月に預かった源泉所得税額を上回ると、マイナスが発生します。

対処法

短期的なマイナスであり、翌月以降の天引きで自然に解消される場合は、特別な処理をせずにそのままでも問題ありません。

しかし、決算時にマイナスが残っている場合は対処が必要です。決算書上で負債がマイナスになるのは不適切なため、「立替金」という資産科目を用いて相殺処理を行います。この処理により、会社が一時的に立て替えている状態を財務諸表に正しく反映させることができます。

預り金のマイナス残高は、単なる会計上の現象と捉えるべきではありません。特に予期せぬマイナスが発生した場合、それは内部統制の弱点を示す警告サインである可能性があります。例えば、原因が「預かり忘れ」であった場合、それは単なる計算ミスではなく、給与計算プロセスの不備を意味します。

この不備は、税法上の源泉徴収義務違反につながるだけでなく、会社が本来従業員から預かるべき税金を自己資金で立て替えて納付せざるを得なくなり、キャッシュフローを圧迫する原因にもなります。

したがって、預り金のマイナス残高は、会計処理を見直すだけでなく、給与計算やコンプライアンス体制を監査するきっかけと捉えるべき、重要な経営管理上の指標なのです。

不動産契約における「預け金」:敷金・保証金との関係性

事業を運営する上で、事務所や店舗の賃貸借契約は避けて通れません。この契約時に登場する様々な金銭の授受は、「預け金」の概念を理解する上で非常に重要です。これらの用語は、貸主(大家)が家賃滞納や物件の損傷といったリスクに備えるための担保という共通の目的を持っています。

敷金と保証金

敷金と保証金は、実質的にはどちらも返還を前提とした預け金(差入保証金)であり、会計上は資産として扱われます。しかし、商慣習や契約の種類によって使い分けられることがあります。

一般的に「敷金」は主に関東圏や住居用物件で使われることが多い用語です。一方、「保証金」は主に関西圏や事業用物件で使われる傾向があります。事業用の場合、家賃の6ヶ月分から12ヶ月分と高額になることもあり、これは単なる担保だけでなく、借主の支払い能力を証明する意味合いも持ちます。

返還されない預け金:敷引と償却

契約によっては、預けた敷金や保証金の一部が返還されない取り決めがあります。これらは「敷引」や「償却」と呼ばれ、実質的には権利金や礼金に近い性質を持つものです。

会計処理上、返還される部分は「差入保証金」などの資産として計上しますが、返還されないことが確定している部分は資産ではありません。「長期前払費用」として繰延資産計上し契約期間にわたって費用化したり、「支払手数料」などの費用として処理したりします。

敷引は主に敷金とセットで使われる、関西圏特有の商慣習です。償却は保証金とセットで使われ、事業用物件では広く一般的に見られる取り決めです。

混同しやすいその他の用語:手付金と礼金

手付金は賃貸借契約ではなく、不動産の売買契約の際に支払われる金銭です。契約が成立した証としての役割を持ち、敷金とは法的性質が全く異なります。

礼金は貸主への謝礼として支払う一時金で、返還されることはありません。会計上は純粋な費用(支払手数料など)として処理され、預け金(資産)ではありません。

不動産契約における関連用語の整理

これらの複雑な用語を理解するために、以下の表にまとめます。契約書を確認する際の参考にしてください。

用語目的返還の有無性質
敷金/保証金家賃滞納や原状回復費用の担保原則返還される預け金 (資産)
敷引/償却契約時に定められた返還されない部分返還されない権利金/費用
礼金貸主への謝礼返還されない費用
手付金不動産売買契約の成立の証条件による契約の証拠金

法的側面から見る「預け金」と「預り金」の重要性

法的側面から見る「預け金」と「預り金」の重要性

「預け金」や「預り金」は、会計上の概念であると同時に、重要な法的規制の対象でもあります。

預金契約の法的性質:消費寄託契約

私たちが銀行にお金を預ける行為(預金)は、法律上「消費寄託契約(しょうひきたくけいやく)」に該当します。これは、受託者(銀行)が預かった金銭そのものではなく、それと同種・同等・同量のものを返還すればよいとする契約です。

銀行は預かったお金を「消費」(運用や貸付)することができ、預金者は預けた紙幣そのものではなく、同額の価値の返還を請求する権利(預金債権)を持つことになります。この法的枠組みが、銀行による信用創造、ひいては経済活動の根幹を支えています。

出資法による「預り金」の厳格な規制

一方で、「預り金」については、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(通称:出資法)」によって非常に厳しい規制が設けられています。

この法律の目的は、金融の専門家ではない一般大衆を不当な金融取引から保護し、社会の信用制度と経済秩序を維持することにあります。そのため、出資法は銀行などの免許を受けた金融機関を除き、「業として預り金をしてはならない」と原則的に禁止しています。

法律で禁止される「預り金」とは、「不特定かつ多数の者から受け入れること」「金銭の受け入れであること」「元本の返還が約束されていること」「主として預け主の便宜のために金銭の価値を保管することを目的とすること」という4つの要件をすべて満たすものと定義されています。

この規制は、経営者にとって対岸の火事ではありません。例えば、新しいビジネスモデルを考える際に、意図せずこの法律に抵触してしまうリスクがあります。

ある企業がキャッシュフロー確保のために、顧客から高額な「デポジット(預り金)」を預かる代わりに将来の商品購入代金を割り引く、という会員制度を創設したとします。これは一見、賢いマーケティング戦略に見えるかもしれません。

しかし、この制度が「不特定多数」の顧客を対象とし、「金銭」を受け入れ、「元本返還」をうたい、「顧客の便宜(割引購入)」を目的とする場合、無許可で預り金業を営んでいると見なされ、出資法違反に問われる可能性があります。

過去に大きな社会問題となった「販売預託商法」なども、この法律との関連で問題視されました。新しい資金調達や販売の仕組みを構築する際には、それが実質的に「預り金」に該当しないか、必ず法的な観点から慎重に検討し、必要であれば弁護士などの専門家に相談することが不可欠です。

預け金と消費税の関連性

預け金や預り金と消費税の関係は、原則と例外を理解することが重要です。

原則は「不課税」

原則として、預け金や預り金の授受は消費税の課税対象外(不課税取引)です。消費税は、商品やサービスの提供といった「対価を得て行われる取引」に対して課税される税金です。預け金や預り金は、単なる資金の移動であり、資産の譲渡や役務の提供にはあたらないため、課税の対象とはなりません。

例外:預け金が「対価」に変わる瞬間

しかし、この預け金が何らかの対価に充当された瞬間、消費税の課税関係が発生します。

最も典型的な例が、事業用不動産の敷引・償却です。契約時に定められた返還されない保証金(償却費)は、物件を借りる権利や原状回復義務の免除といったサービスの対価と見なされるため、消費税の課税対象となります。預けた時点では不課税でも、返還されないことが確定した部分については課税取引として扱われるのです。

消費税は「預り金」ではないという法的解釈

ここで、多くの経営者が抱きがちな「消費税は顧客から預かっているお金(預り金的性格のもの)」という感覚について、法的な観点から補足します。この感覚は直感的で分かりやすいものの、税法上の解釈とは異なります。

過去の裁判例では、「消費者が事業者に支払う消費税分は、あくまで商品や役務の対価の一部としての性格しか有しない」と判断されています。つまり、事業者が顧客から受け取る消費税相当額は、法的には「預り金」ではなく、売上代金の一部なのです。

消費税の納税義務者は事業者自身であり、国は事業者を単なる徴収代理人とは見なしていません。この解釈は、なぜ事業者が顧客から消費税を回収できたか否かにかかわらず、売上に基づいて計算された消費税を納付する義務を負うのか、という問いに対する答えとなります。

給与から天引きする源泉所得税(これは真の預り金)と、事業者が納める消費税は、その法的な性質が根本的に異なることを理解しておくことは、納税義務に対する正確な認識を持つ上で重要です。

まとめ

本記事では、「預け金」という勘定科目を多角的に掘り下げてきました。最後に、経営者が押さえるべき要点を再確認します。

  • 預け金は「資産」、預り金は「負債」という根本的な違いを理解する。
  • 一年基準で正しく分類し、企業の財務健全性を正確に示す。
  • 契約書の文言が会計・税務処理を決定するため細部まで確認する。
  • 出資法違反のリスクを避けるため、新規事業の法的側面を検討する。
  • 預け金と消費税の関係について、原則(不課税)と例外(対価性)を理解する。

「預け金」は、日々の取引の中に当たり前のように存在する勘定科目です。しかし、その背後には会計、法律、税務にまたがる重要な論点が隠されています。本記事で得た知識を元に、自社の経理処理や契約内容を一度見直してみてください。

そして、少しでも疑問や不安があれば、会計士や弁護士といった専門家への相談をためらわないでください。それが、将来の経営リスクを回避するための最も確実な一歩となるはずです。

この記事の投稿者:

hasegawa

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