
「あっ、領収書がない…」その経費、まだ諦めるのは早いです。税務調査で慌てないための、法的に認められた具体的な対処法を徹底解説します。
領収書をなくしたからといって、その経費を自己負担だと諦めていませんか。実は、適切な手続きを踏めば、その支払いをきちんと経費として計上し、節税につなげることが可能です。
この記事を最後まで読めば、あなたは領収書がないというだけで貴重な経費を諦める必要がなくなり、自信を持って確定申告や経費精算に臨めるようになります。
日々の業務に追われる中で、領収書をもらい忘れたり、紛失してしまったりすることは、多くの事業主が経験する現実です。また、交通費や慶弔費のように、そもそも領収書が発行されない取引も少なくありません。
しかし、税法は支払いの「事実」を重視しており、その事実を証明する方法は一つではないのです。
本記事では、税理士である私が、領収書の代わりとして法的に認められている書類から、最終手段である「出金伝票」の正しい書き方、そして税務調査で指摘されないための注意点まで、具体的かつ体系的に解説します。
一つひとつのステップは決して難しくありません。あなたのその不安を、確かな知識と行動で解消しましょう。
目次
そもそも、領収書がなくても経費にできるのか?
結論から言うと、領収書がなくても経費として計上することは可能です。しかし、それには明確な原則と、注意すべき点が存在します。
税法上の原則:支払いの事実が証明できれば経費になる
所得税法や法人税法では、経費を計上するための絶対的な要件として「領収書の保存」を定めているわけではありません。最も重要なのは、「事業に関連する支出が、実際にあった」という支払いの事実を客観的に証明できるかどうかです。
つまり、領収書はあくまで支払いの事実を証明するための最も一般的な手段の一つに過ぎません。もし領収書がなくても、他の書類で支払いの事実を合理的に説明できれば、税務上、経費として認められるのです。
ただし、ここで一つ重要な注意点があります。これは主に所得税や法人税の話です。消費税の納税義務がある事業者が、納める消費税額を計算する際に適用する「仕入税額控除」については、原則として適格請求書(インボイス)などの保存が要件とされており、より厳格なルールが適用されます。この違いについては後ほど詳しく解説します。
なぜ領収書が重要視されるのか
では、なぜこれほどまでに領収書が重要視されるのでしょうか。それは、領収書が取引の存在を裏付ける「証憑(しょうひょう)書類」として、非常に高い証明力を持つからです。領収書には通常、取引年月日、支払先、金額、取引内容といった、税務申告に必要な情報が網羅されています。
経費精算の現場では、架空の経費計上や二重請求といった不正を防ぐためにも、領収書の提出が原則とされています。
また、税務調査の観点からも領収書の管理は極めて重要です。領収書の紛失が頻繁であったり、高額な取引の領収書がなかったりすると、調査官に「経理管理がずさんである」「意図的に経費を水増ししているのではないか」といった疑念を抱かせる原因となります。
法的に認められる代替手段はありますが、税務調査を円滑に進めるためには、まず領収書をきちんと受領し、適切に保管するという基本姿勢が大切なのです。
領収書の代わりになる!法的に認められた9つの代替証憑
領収書を紛失したり、もらい忘れたりした場合でも、諦める必要はありません。以下の書類は、支払いの事実を証明する証憑として、領収書の代わりとして認められる可能性が高いものです。信頼性の高い順に確認していきましょう。
クレジットカードや電子マネーの利用明細
第三者であるカード会社や決済事業者が発行するため、改ざんが難しく、非常に信頼性の高い証拠となります。Webサイトから利用明細を印刷して保存しましょう。
ただし、明細だけでは「何に使ったか」が不明瞭な場合があります。その場合は、「A社との打ち合わせ費用」など、事業目的を余白に補記しておくことが重要です。プライベートな支出が混在している場合は、該当部分以外を黒塗りしても問題ありません。
銀行の振込明細書や預金通帳
銀行振込で支払いを行った場合、ATMで発行される振込明細書や、預金通帳の記録も強力な証拠となります。
このとき、何に対する支払いかを明確にするため、対応する請求書と一緒に保管するのが理想的です。請求書がない場合は、振込明細書自体に支払いの目的をメモしておきましょう。
レシート
一般的に「レシート」と呼ばれる感熱紙の記録も、立派な証憑書類です。むしろ、但し書きのみが記載された手書きの領収書よりも、購入した品目が具体的に記載されているレシートの方が、事業との関連性を証明しやすい場合があります。
取引日、店名、金額、商品名が明記されていれば、領収書の代わりとして十分通用します。
請求書・納品書
注意が必要なのは、請求書だけでは「支払いを請求された」事実しか証明できず、「支払った」ことの証明にはならない点です。
しかし、請求書と、前述の銀行振込明細書など、支払いを証明する書類を組み合わせることで、非常に信頼性の高い証拠となります。
ECサイトの購入確認メールやWeb画面
Amazonなどのオンラインショッピングで購入した場合、取引先から送られてくる購入確認メールや、Webサイト上の購入履歴画面も証拠として利用できます。支払先、日付、金額、購入内容、宛名が記載されていることが条件です。
これらの書類は印刷するか、PDFとして保存しておきましょう。ただし、ここで「電子帳簿保存法」が関係してきます。データで受け取ったこれらの書類は、原則としてデータのまま、法律の要件に従って保存する義務があります。単に印刷してデータを削除すると、法律違反になる可能性があるため注意が必要です。
冠婚葬祭の招待状や案内状
取引先の結婚式で渡すご祝儀や、葬儀で渡す香典など、領収書の発行を依頼することが非礼にあたる費用もあります。
このような慶弔費については、出金伝票を作成し、その裏付けとして結婚式の招待状や葬儀の会葬礼状などを一緒に保管しておくことで、支払いの信憑性が格段に高まります。
交通系ICカードの利用履歴
SuicaやPASMOなどの交通系ICカードは、駅の券売機やWebサービス(例:モバイルSuica)で利用履歴を印字・表示できます。
この履歴は、いつ、どの区間を、いくらで利用したかを示す客観的な記録となるため、交通費精算の証憑として有効です。
ETC利用照会サービスの明細
高速道路などの有料道路料金をETCカードで支払った場合、「ETC利用照会サービス」という公式ウェブサイトから利用証明書や利用明細を発行できます。
これを印刷またはPDFで保存すれば、領収書の代わりとして経費計上できます。
契約書
事務所の家賃や月極駐車場の料金など、毎月定額で発生する費用については、その根拠となる賃貸借契約書などが重要な証憑となります。
契約書と、支払いの事実が記録された預金通帳をセットで確認できるようにしておくことが望ましいです。
代替書類もない場合の最終手段「出金伝票」の作成と活用法
上記の代替書類が何一つ手元にない場合の、最後の手段が「出金伝票」の作成です。これは自分で作成できる便利な書類ですが、その分、取り扱いには細心の注意が必要です。
出金伝票とは何か?
出金伝票とは、現金での支払いがあった際に、領収書が発行されないなどの理由で外部の証憑がない場合に、取引の事実を記録するために自社(自分)で作成する内部書類です。
会計上は正式な伝票として扱われますが、自分で作成できるため、クレジットカード明細のような第三者が発行した書類に比べて客観的な証明力は劣ると認識しておく必要があります。
出金伝票に必ず記載すべき5つの項目
出金伝票が証憑として認められるためには、以下の5つの項目を正確に記載することが不可欠です。
- 日付:実際に支払った年月日を記載します。
- 支払先:支払いをした相手の名称(会社名、店名など)を記載します。
- 金額:支払った金額を正確に記載します。
- 勘定科目:経費の種類を示す項目です
(例:旅費交通費、接待交際費、消耗品費など)。 - 摘要:これが最も重要です。「何のために、どこで、誰と」といった取引の内容を、第三者が見ても理解できるように具体的に記載します。
【ケース別】出金伝票の具体的な書き方と注意点
どのような場面で出金伝票を使い、どのように記載すればよいのか、具体的なケースで見ていきましょう。
公共交通機関を利用した場合
- 支払先: ○○旅客鉄道株式会社 など
- 勘定科目: 旅費交通費
- 摘要: 4月10日、A株式会社との打ち合わせのため、JR新宿駅~渋谷駅(往復)
取引先の慶弔費を支払った場合
- 支払先: A株式会社 B部長
- 勘定科目: 接待交際費
- 摘要: A株式会社 B部長 御尊父様 御香典
注意点: この場合、会葬礼状や案内状などを出金伝票に添付すると、信憑性が飛躍的に向上します。
取引先との飲食代を割り勘で支払った場合
- 支払先: レストラン○○
- 勘定科目: 接待交際費
- 摘要: A株式会社 B様と会食(2名分、総額10,000円のうち5,000円を現金支払い)
注意点: 参加者や目的を明確に記載し、事業関連性をアピールすることが重要です。
自動販売機で来客用の飲料を購入した場合
- 支払先: 自動販売機
- 勘定科目: 会議費
- 摘要: 来客用のお茶2本(A株式会社様との会議にて)
出金伝票の信頼性を損なわないための鉄則
出金伝票は便利な反面、安易に使うと税務調査で指摘を受けるリスクを高めます。以下の3つのルールを必ず守ってください。
乱用しないこと
出金伝票は、あくまで他の代替書類がない場合の「最終手段」です。経費の大部分が出金伝票で処理されているような状態は、経理が不適切であるとの印象を与え、厳しく調査される原因となります。
現金払いに限定すること
出金伝票は「現金の支出」を記録するためのものです。クレジットカードや銀行振込での支払いには、必ず利用明細という客観的な証拠が残るため、出金伝票を作成してはいけません。
裏付け資料を添付すること
出金伝票の証明力を高めるために、可能な限り裏付けとなる資料を添付しましょう。例えば、会議の案内メール、イベントのチラシ、ご祝儀袋のコピーなど、どんな些細なものでも、取引の事実を補強する助けとなります。
知らないと損をする「インボイス制度」と「電子帳簿保存法」
近年、経理の世界では大きな制度改正がありました。領収書がない場合の経費処理においても、この2つの法律は密接に関わってきます。
インボイス制度下での注意点:仕入税額控除の要件
消費税の課税事業者にとって、インボイス制度は非常に重要です。前述の通り、所得税や法人税の計算上は経費にできても、消費税の計算では話が別になることがあります。
消費税の納税額は、簡単に言うと「売上で預かった消費税」から「仕入や経費で支払った消費税(仕入税額控除)」を差し引いて計算します。この仕入税額控除を適用するためには、原則として「適格請求書(インボイス)」の保存が必要です。
例えば、110,000円(うち消費税10,000円)の経費について、適格請求書(またはそれに代わるレシート等)がない場合、所得税の計算上は110,000円を経費にできるかもしれませんが、消費税の計算上は10,000円の仕入税額控除が認められない可能性があります。これは、納税額が10,000円増えることを意味し、実質的な二重の損失となります。
ただし、公共交通機関の3万円未満の運賃や、自動販売機での購入など、一部の取引についてはインボイスの保存が免除され、帳簿への記載のみで仕入税額控除が認められます。また、小規模事業者向けの特例(1万円未満の取引)も存在します。
電子帳簿保存法への対応:データでもらった領収書の正しい保存法
2024年1月1日から、電子帳簿保存法のルールが本格的に適用されています。これにより、メールの添付ファイル(PDF)やWebサイトからダウンロードした領収書など、電子データで受け取った取引書類は、原則として電子データのまま保存することが義務化されました。
これを紙に印刷して保存し、元のデータを削除してしまうと、法律で定められた保存要件を満たしていないことになります。電子データを保存する際は、「改ざん防止措置」や「検索機能の確保」といった要件を満たす必要があります。ただし、要件通りの対応が難しい事業者向けに、一定の猶予措置も設けられています。
紙の領収書をスキャン保存(スキャナ保存)する場合の要件
紙で受け取った領収書を、スキャナやスマートフォンのカメラで読み取って電子データとして保存することも可能です。これを「スキャナ保存」と呼びます。スキャナ保存を行う場合も、解像度やタイムスタンプの付与など、法律で定められた要件を満たす必要があります。
要件は複雑なため、電子帳簿保存法に対応した会計ソフトや経費精算システムを利用するのが現実的です。正しくスキャナ保存の要件を満たせば、紙の原本は破棄してもよいとされています。これにより、書類の保管スペースを削減し、管理を効率化できます。
まとめ
領収書がない場合の経費計上は、正しい知識と手順を踏めば決して怖いものではありません。最後に、明日から実践できる鉄則をまとめます。
- 支払いの事実が最重要
領収書はあくまで証拠の一つです。なくても、支払いの事実を客観的に証明できれば経費計上は可能です。 - 証拠には序列がある
まずはクレジットカード明細など、第三者が発行した信頼性の高い書類を探しましょう。出金伝票は、他の手段が尽きたときの最終手段と心得るべきです。 - 出金伝票は正しく使う
乱用を避け、摘要欄に取引内容を具体的に記載し、裏付け資料を添付することで、その証明力を最大限に高めることができます。 - 2つの新制度を意識する
消費税の「仕入税額控除」にはインボイス制度のルールが、データで受け取った証憑の保存には「電子帳簿保存法」のルールが適用されます。この2つは必ず意識してください。
最も確実な対策は、日頃から領収書を適切に管理する習慣を身につけることです。スマートフォンで撮影してすぐに経費精算システムにアップロードする、月ごとにクリアファイルで整理するなど、自分に合った方法を見つけましょう。今日の知識が、あなたの未来の安心につながることを願っています。
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