領収書の基礎知識

領収書を出さないのは違法?発行義務の法的根拠と実務対応を徹底解説

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領収書 出さない 違法

領収書をもらえない場面に遭遇したことはありませんか?特に中小企業の経営者やフリーランス、個人事業主、あるいは経理担当者にとって、支払い後に領収書を受け取れないと困ってしまいます。経費精算や証拠書類として領収書は欠かせないため、「領収書を出さないのは違法なのだろうか?」と疑問に感じる方も多いでしょう。

本記事では、領収書の発行義務の有無を法律の観点から解説し、領収書を出してもらえない場合の対処法や注意点について、ビジネスシーンに即してわかりやすく説明します。

目次

領収書発行は法律上の義務か?民法の規定を理解する

ビジネスの取引において、金銭の支払いと引き換えに受け取る領収書は、経費精算や税務申告に不可欠な証憑書類です。しかし、店舗や取引先によっては領収書の発行を渋られたり、断られたりするケースも存在します。こうした対応は法的に許されるのでしょうか。

結論から述べると、支払いを行った側(買主)が領収書の発行を請求した場合、支払いを受けた側(売主)はそれに応じる法的な義務を負います。この根拠は、日本の民法に明確に規定されています。

根拠となる民法第486条「受取証書の交付請求権」

領収書の発行義務について定めているのが、民法第486条です。この条文では、「弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる」と規定されています。

ここでいう「弁済」とは代金の支払いを指し、「受取証書」が一般的にいう領収書に該当します。つまり、顧客がお金を支払う際、その対価として、代金を受け取った事業者に対して領収書の発行を求める権利があるということです。事業者は、この請求を原則として拒否することはできません。

この権利は、支払いを行った事実を客観的に証明するために買主に認められた重要な権利です。もし領収書がなければ、後日「まだ支払いを受けていない」といったトラブルが発生した場合に、支払った側が不利な立場に置かれる可能性があります。領収書は、そうした二重払いのリスクを防ぐための重要な証明書なのです。

「弁済」と「受取証書の交付」は同時履行の関係

法律上、代金の支払い(弁済)と領収書の発行(受取証書の交付)は「同時履行の関係」にあると解釈されています。これは、双方がお互いの義務を同時に履行すべきである、という関係性を意味します。

具体的には、買主は「領収書をくれるなら代金を支払う」と主張でき、逆に売主は「代金を支払ってくれるなら領収書を発行する」と主張できます。極端な例を挙げれば、もし事業者が領収書の発行をかたくなに拒否する場合、買主は領収書が発行されるまで代金の支払いを拒むことも理論上は可能です。

もちろん、実際の取引では支払いを済ませた後に領収書の発行を依頼するのが一般的ですが、法律上は両者が同時に行われるべき義務として位置づけられていることを理解しておくことが重要です。

請求されなければ発行義務はない?

民法第486条の条文をよく読むと、「請求することができる」と定められています。これは、あくまで買主側に請求権があることを示しており、買主からの請求がないにもかかわらず、売主が自発的に領収書を発行する義務までは課していません。

したがって、顧客から「領収書をください」という明確な意思表示があって初めて、事業者の発行義務が発生します。スーパーやコンビニで渡されるレシートは、商慣習として広く普及していますが、これも一種の受取証書であり、顧客の請求に応じる形でサービスとして提供されている側面があります。

なぜ領収書は発行されないのか?事業者側の事情と例外ケース

法律で発行義務が定められているにもかかわらず、現実には領収書の発行をスムーズに行わない事業者が存在します。その背景には、支払い方法による例外や、事業者側のさまざまな事情が関係しています。

支払い方法による発行義務の違い

民法が定める領収書の発行義務は、主に現金での直接的な支払いを想定しています。そのため、現金以外の決済方法では、法的な解釈が異なる点に注意が必要です。

クレジットカード決済の場合

クレジットカードでの支払いが行われた場合、事業者には法律上の領収書発行義務はないとされています。クレジットカード取引は、顧客とカード会社、カード会社と事業者の三者間で行われる「信用取引」です。顧客は事業者に直接現金を支払っているわけではなく、後日カード会社に対して支払いを行います。

そのため、支払い時点では民法上の「弁済」が完了していないと解釈され、事業者は領収書の発行義務を負いません。多くの店舗では、サービスの一環として「領収書」と題した書類や利用明細を発行しますが、これらは法的に義務付けられたものではありません。その証拠に、クレジットカード利用の領収書には「クレジットカード利用」と明記され、5万円以上であっても収入印紙は貼付されません。

銀行振込の場合

銀行振込による支払いも同様です。この場合、支払いの事実は銀行が発行する振込明細書や、通帳の記帳履歴によって客観的に証明できます。したがって、買主はすでに支払いの証拠を保有しているため、重ねて売主に領収書の発行を請求する必要性が低いと解釈されます。

もちろん、企業の経理ルールなどで別途領収書が必要な場合は、取引先に依頼すれば発行に応じてもらえることがほとんどです。しかし、これも法的な義務というよりは、商慣習上のサービスとして対応されているのが実情です。

QRコード決済などのキャッシュレス決済の場合

PayPayや楽天ペイなどのQRコード決済も、クレジットカード決済と同様に信用取引の一種と見なされることが多く、厳密な意味での領収書発行義務は発生しないと解釈されるのが一般的です。決済アプリの利用履歴や決済完了画面が、支払いの証拠として機能します。

事業者が領収書発行をためらう現実的な理由

現金払いで、顧客から明確な請求があったにもかかわらず発行をためらう事業者がいるのはなぜでしょうか。その背景には、コストや手間といった現実的な問題があります。

  • 発行手段がない、または手間がかかる
    個人商店や小規模な事業者では、そもそもレジがなかったり、あってもレシート発行機能がなかったりする場合があります。その場合、手書きで対応することになりますが、宛名、金額、日付、但し書き、発行者情報などを正確に記載する必要があり、多忙な時間帯には大きな負担となります。
  • 収入印紙のコストを避けたい
    売上代金が5万円(税抜)以上の場合、領収書には収入印紙を貼付する義務があります。印紙税は最低でも200円かかり、事業者にとっては直接的なコスト増につながります。この負担を避けるために、領収書の発行を渋るケースが見られます。
  • レシートで十分という認識
    事業者側が「レシートを渡しているのだから、それで十分だろう」と考えている場合もあります。特に小売店などでは、レシートが領収書の代わりになるという認識が一般的であり、別途手書きの領収書を求められることに慣れていない可能性があります。

これらの理由はあくまで事業者側の都合であり、顧客からの正当な請求を拒否する法的根拠にはなりません。

領収書発行を拒否された場合の法的措置は現実的か

法的には、領収書の発行を拒否する事業者に対して、訴訟などを通じて発行を強制することも可能です。

しかし、数千円から数万円程度の取引のために、時間と費用をかけて法的手続きを取ることは、ビジネス上現実的とは言えません。多くの場合、無理に発行を迫って事業者との関係が悪化するよりも、後述する代替手段を用いて経費処理を行う方が賢明な判断と言えるでしょう。

領収書がもらえない場合の経費精算

領収書がもらえない場合の経費精算

事業者とのやり取りの結果、どうしても領収書が手に入らなかったとしても、経費精算を諦める必要はありません。税務上、支払いの事実を客観的に証明できるのであれば、経費として認められます。

レシートが持つ法的な証明力

まず最も基本的な代替手段はレシートです。スーパーやコンビニ、飲食店などで受け取る感熱紙のレシートは、税法上、領収書と同等の証明力を持つ有効な証憑書類として扱われます。

税務上、レシートは領収書の代替として有効

税務調査においても、レシートがきちんと保管されていれば、領収書がないことを理由に経費が否認されることは基本的にありません。むしろ、購入した品目やサービス内容が具体的に印字されているレシートは、但し書きが「お品代として」としか書かれていない領収書よりも、取引の実態を示す証拠として信頼性が高いと評価されることさえあります。

レシートに求められる記載事項

経費の証拠としてレシートを認めてもらうためには、以下の情報が記載されていることが望ましいです。

  • 発行者(店名、住所、電話番号など)
  • 取引年月日
  • 取引内容(商品名やサービス名)
  • 金額

一般的にレジから発行されるレシートにはこれらの情報が含まれているため、そのまま証憑として利用できます。

レシートすらない場合の代替手段

問題は、レシートすら受け取れなかった場合です。そのような状況でも、他の記録を活用することで経費計上は可能です。

クレジットカードの利用明細

クレジットカードで支払った場合は、カード会社から発行される利用明細書が支払いの強力な証拠となります。利用日、利用先、金額が明確に記載されているため、税務上の証明書類として十分に通用します。

銀行振込の記録

銀行振込の場合は、ATMから発行される振込明細書や、インターネットバンキングの取引履歴画面を印刷したもの、通帳の記帳などが支払いの証拠となります。

出金伝票の作成と活用法

現金払いで領収書もレシートもなく、手元に何の証拠も残らなかった場合の最終手段が「出金伝票」です。これは、社内帳簿の記録として作成する書類で、以下の項目を自分で記載します。

  • 支払年月日
  • 支払先
  • 勘定科目(例:消耗品費、交通費など)
  • 摘要(具体的な内容)
  • 支払金額

出金伝票は自分で作成するため、客観的な証明力は領収書に劣ります。しかし、他の証拠がまったくない場合には、支払いの事実を記録し、経費の根拠とするための重要な手段となります。ただし、税務調査でその妥当性を問われる可能性もあるため、乱用は避けるべきです。

その他の証拠

上記以外にも、取引相手とのメールのやり取りや、契約書、発注書、納品書なども、支払いの事実を裏付ける補完的な証拠となり得ます。

【ケース別】こんな時どうする?具体的な対処法

実務上、領収書が発行されにくい典型的なケースと、その対処法を見ていきましょう。

交通費(電車・バスなど)

日常的な移動で利用する電車やバスでは、一回ごとに領収書を発行してもらうことは非現実的です。この場合は、出金伝票や交通費精算書を作成し、「いつ、どこからどこまで、何の目的で移動したか」を記録することで経費として認められます。

慶弔費(ご祝儀・香典など)

結婚式のご祝儀や葬儀の香典なども、領収書を受け取る慣習がありません。この場合も、招待状や会葬礼状などを保管するとともに、出金伝票に支払先、金額、目的などを記録しておくことで、交際費として経費計上が可能です。

自動販売機での購入

自動販売機で飲料などを購入した場合も領収書は出ません。金額が少額であれば経費として計上しないことも多いですが、頻繁に利用する場合は、出金伝票に日付、内容、金額を記録しておくことで対応できます。

【事業者向け】領収書を発行しないことの重大なリスク

【事業者向け】領収書を発行しないことの重大なリスク

顧客の立場からは「領収書がもらえない」という問題ですが、事業者側から見れば「領収書を発行しない」という行為には、法務・税務上の重大なリスクが伴います。

税務上のリスク:売上除外と脱税

領収書やレシートを発行せず、その売上を帳簿に計上しない行為は、意図的な「売上除外」であり、所得を隠す脱税行為に直結します。これは明確な違法行為です。

過少申告加算税と重加算税

税務調査で売上除外が発覚した場合、本来納めるべきだった税金に加え、ペナルティとして「過少申告加算税」が課されます。さらに、意図的な隠蔽行為と判断された場合には、より税率の高い「重加算税」が課されることになり、追徴税額は大幅に増加します。

税務調査で指摘されやすいポイント

特に、現金商売でレジの記録と実際の売上が合わない、あるいは領収書の発行履歴が不自然に少ないといった点は、税務調査で重点的にチェックされるポイントです。安易な気持ちで売上をごまかす行為は、結果的に大きな代償を払うことになります。

顧客からの信用失墜とビジネス機会の損失

正当な理由なく領収書の発行を拒否する行為は、顧客に不信感を与えます。特に法人顧客や個人事業主にとって、領収書は経費精算に必須の書類です。その発行を拒むような事業者とは、安心して継続的な取引をしたいとは思わないでしょう。

たった一枚の領収書を惜しんだために、優良な顧客を失い、企業の評判を落とすことは、長期的に見て大きな損失です。コンプライアンス(法令遵守)意識の欠如と見なされ、ビジネスの機会を逃すことにつながります。

契約上のトラブルに発展する可能性

代金の支払いと領収書の発行は、法的に密接な関係にあります。もし領収書の発行を拒否し続けた結果、顧客が支払いを拒否したり、後日「支払った、支払われていない」という紛争に発展したりするリスクもゼロではありません。誠実な対応が、無用なトラブルを未然に防ぎます。

インボイス制度と電子帳簿保存法が与える領収書実務への影響

近年、領収書を取り巻く環境は、インボイス制度と電子帳簿保存法という二つの大きな制度改正によって変化しています。これらの制度を理解することは、現代のビジネスにおいて必須です。

インボイス制度下における領収書の役割

2023年10月1日から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除の仕組みに関する大きな変更です。

適格請求書(インボイス)とは何か?

適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるための書類です。従来の請求書や領収書に、登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額などの情報を追加で記載する必要があります。

適格簡易請求書(レシート形式のインボイス)

不特定多数の顧客を相手にする小売業、飲食店業、タクシー業などは、詳細なインボイスに代えて「適格簡易請求書」を交付できます。私たちが普段目にするレシートの多くは、この適格簡易請求書の要件を満たす形で発行されています。

インボイスがもらえないと仕入税額控除ができない

買手側(特に課税事業者)にとって重要なのは、このインボイス(または適格簡易請求書)がなければ、支払った消費税分を自社の納税額から控除する「仕入税額控除」が受けられないという点です。

つまり、インボイスがもらえない取引は、実質的にコスト増につながります。そのため、ビジネス取引において、適格請求書発行事業者からのインボイス発行は、以前の領収書以上に重要な意味を持つようになりました。

電子帳簿保存法と領収書の保管ルール

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。特に2024年1月からは、その対応がすべての事業者にとって重要になっています。

電子取引データの電子保存義務化(2024年〜)

メールで受け取ったPDFの領収書や、ECサイトからダウンロードした領収書データなど、電子的に授受した取引情報(電子取引データ)は、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま保存することが義務化されました。

紙の領収書のスキャナ保存要件

紙で受け取った領収書やレシートも、一定の要件を満たせば、スキャナで読み取った電子データでの保存(スキャナ保存)が認められています。これにより、物理的な保管スペースの削減や、検索性の向上が期待できます。

法令に準拠したデータ管理の重要性

電子帳簿保存法に対応するためには、単にデータを保存するだけでなく、「真実性の確保」(改ざん防止)と「可視性の確保」(検索できること)の要件を満たす必要があります。ファイル名のルール化や、対応システムの導入など、法令に準拠したデータ管理体制の構築が求められます。

【FAQ】領収書に関するよくある質問

最後に、領収書に関する実務上の疑問について、Q&A形式で解説します。

領収書の再発行は義務ですか?

領収書の再発行は、発行者側の法的な義務ではありません。領収書は金銭の受領事実を証明する一度きりの書類であり、二重に発行すると経費の二重計上などに悪用されるリスクがあるためです。

紛失した場合は、まず代替手段での経費精算を検討し、どうしても必要な場合は、相手方に事情を説明して丁寧にお願いする形になります。再発行に応じてもらえる場合でも、「再発行」と明記されるのが一般的です。

但し書きは「お品代」でも問題ありませんか?

税務上、但し書きは取引の内容を具体的に示す重要な項目です。単に「お品代として」と記載されているだけでは、事業に関連する経費であることの証明が難しくなる場合があります。税務調査で使途を問われる可能性を避けるためにも、「文房具代として」「会食費として」など、できるだけ具体的な内容を記載してもらうことが望ましいです。

金額の書き方に決まりはありますか?

改ざんを防ぐため、金額の記載にはいくつかの慣習があります。金額の先頭に「¥」や「金」を付け、末尾に「ー」や「※」を記載します。また、数字は3桁ごとにカンマで区切るのが一般的です。これらは法的な必須要件ではありませんが、証憑書類としての信頼性を高めるために重要な作法です。

宛名は「上様」でも経費にできますか?

宛名が「上様」の領収書でも、他の情報(発行者、日付、金額、但し書き)から事業関連の支出であることが明らかであれば、経費として認められることがほとんどです。ただし、税務調査などで厳密な確認を求められた際に説明が難しくなる可能性があるため、可能な限り正式な会社名や屋号を記載してもらう方が安全です。

5万円以上の取引でも収入印紙が貼られていない領収書は有効ですか?

収入印紙が貼られていなくても、領収書自体の証明力(金銭の受領事実を証明する力)が無効になるわけではありません。印紙税の納付義務は発行者側にあり、貼り忘れのペナルティ(過怠税)も発行者が負います。受け取った側が、その領収書を経費精算に使う上で法的な問題はありません。

まとめ

この記事では、領収書の発行義務に関する法的な側面から、発行されない場合の具体的な対処法、そして関連する税務制度までを網羅的に解説しました。

顧客から請求された場合、現金取引における領収書の発行は民法で定められた事業者の義務です。クレジットカード払いや銀行振込など、法的な発行義務がないケースもありますが、ビジネスの信頼関係を維持するためには、顧客の要望に柔軟に応える姿勢が求められます。

買主の立場として、もし領収書が手に入らなくても、レシートや利用明細、出金伝票といった代替手段で経費を計上することは可能です。重要なのは、支払いの事実を客観的に証明できる記録を確実に残し、適切に保管することです。

中小企業経営者やフリーランスの方々にとって、領収書の扱いは日々の業務で頻繁に発生するテーマです。本記事の内容を参考に、適切に領収書を発行・受領し、トラブルなく経理や税務処理を進めてください。領収書を正しく管理することで、ビジネスの信用と安心感をしっかりと確保していきましょう。

この記事の投稿者:

hasegawa

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