証憑とは、企業が行った商取引の事実を証明する必要不可欠な書類のことです。適切に管理しないと、法的なペナルティを受けるリスクがあるため、正確な取り扱いが求められます。
この記事では、証憑の重要性を解説するとともに、証憑に該当する代表的な文書を一覧でご紹介します。また、法人と個人事業主で異なる証憑の保存期間や、証憑を適切に保存するための3つの方法についても詳しく解説します。
証憑(しょうひょう)とは取引における証明書類
「証憑(しょうひょう)」とは、企業の商取引が、正式に行われたことを証明する書類の総称で、正式には「証憑書類」といいます。
会計上では、取引に係る会計処理の正確性や真実性を担保する上で欠かせない書類とされ、契約書や請求書、納品書など、一般的な商取引で使用される書類のことです。
証憑には、労働契約や賃金支払いなど会社内の会計取引に関する書類も含まれます。そのため、履歴書や雇用契約書、給与明細なども証憑の一部として位置付けられています。
証憑は、会計監査や税務調査において取引内容や正当性を証明するだけでなく、トラブルの防止や税務処理の際の証拠としても重要な役割を果たします。
証憑を紛失すると罰金が
企業が行った商取引の欠かせない証拠となる証憑書類は、法人税法をはじめとする各税法、会社法における「帳簿書類」に該当し、企業に一定期間の保存が義務付けられています。
そのため、保存期間中に証憑を失くしたり、処分したりすると、会社法976条に則り100万円以下の罰金が科せられる可能性があるため注意してください。さらに、こうした行為に悪質な意図が認められた場合には、青色申告の承認取り消しなどの厳しいペナルティ対象になる可能性もあります。
関連リンク:法人の青色申告の承認の取り消しについて(事務運営指針)
関連リンク:会社法(平成十七年法律第八十六号)
帳簿や証票、伝票との違いは?
証憑と似た言葉に、「証票」や「伝票」、「帳簿」などがありますが、それぞれ意味や使い方が違っています。どのように違うのか説明します。
証憑と同じ読み方を持つ「証票(しょうひょう)」は、看板や身分証明書のように、ある事実を証明する「書き付け」や「札」を指します。
一方、「帳票(ちょうひょう)」は、「帳簿」と「伝票」を組み合わせた会計用語であり、仕訳帳や売掛金台帳など、経営に関する広範な書類を指します。なお、「帳票」の中には、受領書や領収書といった「証憑」も含まれます。
証憑書類の一覧
取引や契約に関わる書類は世の中に数多く存在していますが、証憑に該当する書類はどのようなものなのでしょうか。以下では、証憑書類に該当する代表的な文書を一覧でご紹介します。
1. 契約書や覚書などの合意文書
合意文書とは、当事者間の取り決めや合意事項を記録するための書類です。合意内容が明確になることで、トラブルの防止や法的証拠として役立ちます。
これらの合意文書は名称こそ異なっていますが、取引や契約、その他の取り決めに関する証憑としての役割は同じです。ビジネスの場面では、「売買契約書」や「賃貸借契約書」などが代表例として挙げられます。
- 契約書
- 覚書
- 合意書
2. 誓約書などの約束文書
証憑としての約束文書は、当事者間の約束を明文化し、記録として残すための文書です。「誓約書」や「念書」などの約束文書は、口頭での約束や曖昧な取り決めを明確にする役割を果たします。
例えば、事業資金の借入に関する場合など、約束文書の提出者が相手方に対して何らかの義務を負うとき、重要な証憑として機能します。
3. 請求書や領収書などの金銭の支払いに関する文書
金銭の支払いが発生する取引においては、特に信頼性の高い証憑が求められます。取引の当事者間で発行される「請求書」や「領収書」は、経理業務や会計業務において金銭の流れを記録・証明する証憑になります。
特に請求書には、販売者・購入者の情報、請求内容や支払い条件、合計金額などが記載されており、取引の妥当性や経費としての正確性を判断するために必要な根拠となります。
4. 見積書や納品書などの発受注に関する文書
受発注に関する証憑文書は、取引先との商品の注文・納品・支払いなどのプロセスを記録しており、証拠としてきちんと管理されなければなりません。これらの文書は、発注者と受注者間の取引条件や義務を明確にし、金銭的な取引や契約履行を証明する大切な役割を果たします。
- 見積書
- 発注書
- 納品書
- 検収書
5. 仕訳帳などの会計帳簿
仕訳帳をはじめとする会計帳簿は、企業の日々の取引を記録し、財務状況や経営状態を把握するために必要不可欠な証憑書類です。これらの帳簿は、税務申告や財務諸表の作成、内部統制の確保、監査対応などにおいて、重視されています。
- 現金出納帳
- 仕入先元帳
- 固定資産台帳
- 売上帳
- 仕入帳
6. 損益計算書や貸借対照表などの決算関係書類
決算関係書類は、企業の財務状況や経営成績を示すために重要な役割を果たす文書です。以下に挙げる文書は、企業の経営成績や財務状況を外部の利害関係者(株主、投資家、金融機関など)に報告するために必要不可欠なものであり、税務申告や監査にも使用されます。
- 損益計算書
- 貸借対照表
- キャッシュフロー計算書
- 株主資本等変動計算書
7. 労働条件通知書などの人事労務に関する文書
人事労務に関する証憑書類を適切に作成、保存することは、労働基準法に基づき義務化されており、企業の労働関係や従業員の雇用条件、給与支払、労働時間などに関する記録を証明するものです。
これらの文書は、労働法規の遵守や労務管理の透明性を確保するとともに、税務申告においても大切な役割を果たします。
- 労働条件通知書
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
8. 内容証明郵便
「内容証明郵便」も、高い証拠力を持つ証憑書類のひとつです。内容証明郵便は、送付した文書の内容と送付日時を郵便局が証明するサービスであり、法的な通知や契約解除、請求通知などに広く利用されています。
内容証明郵便は、相手方に正式に通知したことを証拠として残せるため、トラブルの回避や後の法的手続きにも有効です。
9. 当事者間のやりとり、メール
当事者間でやり取りされた電子メールやチャットアプリなどのメッセージも、契約や取引に関連する証憑として使用されることがあります。
特に、契約や合意内容、支払い、納期、仕様変更などが書いてあるメッセージは、証憑として法的効力を持つ場合があります。ただし、タイムスタンプの存在やスクリーンショットなど、正確に保存されていることが前提です。
10. 株式総会や取締役会などの議事録
会社法で作成が義務付けられている「議事録」も、企業の経営活動における証憑のひとつになります。特に、株主総会や取締役会での議論や決議内容を正式に記録した議事録は、企業の経営において、大きな影響を与える意思決定が適正に行われたことを証明するために役立ちます。
ただし、議事録の作成には、会社法などの法的要件を遵守することが求められています。
証憑の保存期間
証憑は、税法や会社法に基づき一定期間の保存が義務付けられています。ここからは、証憑の保存期間について詳しく解説します。
請求書についての詳細な保存期間はこちらで解説しています
関連リンク:請求書の保管期間は何年?保存方法や注意点も紹介
法人の場合の保存期間
保存期間は原則7年
法人税法における証憑の保存期間は、以下の通り7年間と義務付けられています。
普通法人等は、前条第一項に規定する帳簿及び前項各号に掲げる書類を整理し、第五十九条第二項(帳簿書類の整理保存)に規定する起算日から七年間、これを納税地(前項第一号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。 |
法人税における証憑の保存期間の起点は、証憑の発行日ではなく、事業年度の確定申告提出期限の翌日とされています。例えば、3月決算の会社が2023年度に受領した請求書を保管する場合、申告期限は決算日から2か月後のため、保存期間は2024年6月1日から2031年5月31日までとなります。
10年間の保存義務がある場合
ただし、次のケースでは、証憑の保存期間が10年間と義務付けられています。
- 「欠損金額(青色繰越欠損金)」が生じた事業年度
- 青色申告書を提出せず「災害損失金額」が生じた事業年度
税務上の赤字である「欠損金」分の利益を減らして節税できる繰越制度や、災害による損失金の繰越控除制度を利用する場合、それぞれの繰越期限が現在10年であるため、書類の保存期間も10年に延長されます。
また、会社法では、会計帳簿や事業に関する重要な資料である証憑の保存期間を10年間と定めています。これらを考慮すると、法人の場合の証憑保存期間は一括して「10年間」と捉えておくのが良いでしょう。
個人事業主の場合の保存期間
個人事業主は、申告方式によって証憑の保存期間が異なります。ここでは、各申告方式ごとの保存期間について解説します。
青色申告する場合の保存期間
青色申告を行う場合、証憑書類の保存期間は原則として5年間または7年間と定められています。
所得税法において、5年間の保存が義務付けられている証憑には、取引の際に作成または受領した以下のような書類が対象となります。
- 請求書
- 見積書
- 契約書
- 納品書
- 送り状 など
一方、決算関係書類や現金・預金取引に関連する書類については、7年間の保存期間が定められています。
- 決算関係書類(損益計算書、貸借対照表、棚卸表など)
- 現金預金取引等関係書類(領収証、小切手控、預金通帳、借用証など)※前々年分の事業所得及び不動産所得が300万円以下の場合は5年
ただし、前々年分の業務に関連する雑所得の収入金額が300万円を超えた場合、証憑書類は5年間保管する必要があります。「業務に関連する雑所得」とは、雑所得の総収入金額から必要経費を差し引いた金額を指します。
白色申告する場合の保存期間
白色申告を行う場合、以下の証憑書類の保存期間は原則として5年間と定められています。
- 業務に関して作成した現金出納帳や売掛帳などの任意帳簿
- 決算に向けて作成した棚卸表やその他の書類
- 業務に関して作成または受領した請求書や納品書、領収書などの書類
ただし、青色申告と同様に、前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超えた場合、証憑書類の保存期間は5年間となります。
また、収入金額や必要経費を記載した「法定帳簿」の保存期間は7年間と定められているため、個人事業主の場合、証憑書類も合わせて7年間保存することをおすすめします。
証憑を保存する3つの方法
前述の通り、保存期間中に証憑を紛失・処分すると罰金が課せられる可能性があります。ここでは、証憑を適切に保存するための3つの方法を解説します。
詳細な保存方法はこちらで解説しています
関連リンク:電子帳簿保存法とは?改正後の対象書類や適用要件を解説
1. 紙媒体で保存する
税務調査や会計監査では、仕訳伝票と証憑書類を同時に提出するよう求められるケースがよくあるようです。証憑を紙媒体で保存する場合、証憑の原本と仕訳伝票を一緒にファイリングし、すぐに見つけられるように整理しておくことが大切です。
また、紙媒体の証憑原本は時間が経つにつれて劣化する恐れがあるため、保存環境に十分な注意が必要です。紙媒体での保管を行う場合は、書庫などの専用の保管スペースを確保するか、保存環境が整った外部の保存業者に依頼することを検討しましょう。
2. 電子取引データとして保存する
電子帳簿保存法に基づき、メールの添付ファイルやインターネット上からダウンロードした注文書、領収書、請求書などの証憑は、電子取引データとして保存することが義務付けられています。
証憑を電子取引データとして保存する際、PDFやスクリーンショットなどのファイル形式を使用することは問題ありませんが、改ざん防止の措置を講じることが必要です。
また、税務調査などの時にチェックしやすいように、保存したデータは「日付」「金額」「取引先」などで検索可能にすることも求められます。
3. スキャナ保存する
紙媒体で受け渡しを行った証憑をスキャナで読み取り、電子データとして保存する方法もあります。ただし、紙媒体の証憑をスキャナで読み取る前に、入力期間に関する規定を守り、一定水準以上の解像度で読み取る必要があります。
証憑発行・受領からスキャナで読み取るまでの入力期間は、通常、7営業日以内に保存する「早期入力方式」と、最長2か月以内の業務処理サイクル後に速やかにスキャナ保存する「業務処理サイクル方式」のどちらかを選択することが求められます。
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まとめ
「証憑」とは、企業が行った商取引が正式に行われたことを証明する重要な書類の総称です。証憑は法律により一定期間の保存が義務付けられており、この期間内に紛失や処分すると罰金やペナルティが課せられる可能性があります。
電子帳簿保存法の施行により、証憑を電子取引データとして保存・管理する企業が増加しています。証憑の発行、データ化、保管などの経理業務を効率化するために、請求書管理システムの導入を検討することも有効です。
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