
毎年の自動車税について、正しく経費計上して節税したいものの、勘定科目を「租税公課」と「車両費」のどちらにすべきか迷う事業主や経理担当者の方は少なくありません。
この記事を読めば、その悩みは解消されます。自社に最適な勘定科目が明確になり、自信を持って経理処理を進められるようになるでしょう。
正確な帳簿は税務調査への備えとなり、適切な節税は手元に残る資金を最大化します。本記事を通じて、自動車税はもちろん、車に関するあらゆる税金や経費の処理を、税理士に質問するまでもなく、自ら判断し正確に仕訳できるレベルを目指します。
「会計は苦手」「専門用語はわからない」という方でも理解できるよう、具体的な仕訳例を多数用い、一つひとつの手順を丁寧に解説します。この記事で示すステップ通りに進めるだけで、誰でもプロレベルの会計処理が実現できます。
目次
自動車税の勘定科目「租税公課」と「車両費」の選択
事業で自動車を使用する場合、その自動車税は経費として計上できます。その際に使用する勘定科目には、主に「租税公課(そぜいこうか)」と「車両費(しゃりょうひ)」の2つの選択肢があります。どちらを選んでも会計上、税務上の問題はありませんが、それぞれの特徴を理解し、自社の管理方針に合った科目を選ぶことが重要です。
原則は「租税公課」
自動車税の仕訳で最も一般的に使用される勘定科目は「租税公課」です。「租税公課」とは、国や地方公共団体に納める税金である「租税」と、公共団体などへ支払う会費や手数料などの「公課」を合わせた会計科目を指します。自動車税は都道府県に納める地方税(租税)であるため、この勘定科目で処理するのが最も自然で分かりやすい方法と言えます。
この方法のメリットは、固定資産税や印紙税など、会社が支払う様々な税金を「租税公課」という一つの科目で一元管理できる点にあります。これにより、損益計算書を見れば、年間にどれくらいの税金を費用として支払ったのかが一目で把握でき、税務署や金融機関に対しても説明がしやすくなります。
会計処理の分かりやすさや、経理の原則に忠実な処理を優先したい場合には、「租税公課」を選択するのが良いでしょう。
もう一つの選択肢「車両費」
自動車税は「車両費」という勘定科目で処理することも認められています。「車両費」は、ガソリン代、車検代、修理代、自動車保険料など、自動車の維持・管理にかかる費用をまとめるための勘定科目です。
自動車税を「車両費」で処理する最大のメリットは、自動車に関連するコストを一つの科目でまとめて把握できる点です。特に複数の営業車を所有している法人や、運送業のように車両コストが事業の根幹をなす事業主にとっては、車両1台あたりの総コストを分析しやすくなるため、非常に有効な管理方法と言えます。
税金の管理よりも、車両ごとの採算性分析といった経営管理を重視する場合には、この「車両費」が便利な選択肢となります。
最も重要なルール「継続性の原則」
「租税公課」と「車両費」、どちらの勘定科目を選ぶかは会社の任意ですが、一度決めた処理方法は、正当な理由なく毎期継続して使用しなければならないという「継続性の原則」が存在します。このルールは、会計における重要な原則の一つです。
この原則は、期間ごとの財務諸表を比較可能にし、利害関係者に誤解を与えないようにするために設けられています。例えば、ある年は「租税公課」、次の年は「車両費」というように、その時の都合で勘定科目を変更することは認められません。
経営者自身が自社の業績推移を正しく把握するためにも、金融機関が融資判断を適切に行うためにも、そして税務署が適正な申告を確認するためにも、この継続性は不可欠です。したがって、最初の年にどちらの勘定科目で処理するかを慎重に決定し、その方針を貫くことが何よりも大切になります。
自社に合った勘定科目の選び方
「租税公課」での処理が適しているケース
「租税公課」で処理する主なメリットは、税金関連の費用を一元管理できること、そして税務署や金融機関に対して会計内容を説明しやすいことです。
一方で、車両関連の総コストを把握するには、ガソリン代や修繕費など複数の科目を集計する手間がかかるという側面もあります。会計処理の分かりやすさを最優先したい方や、経理の原則に忠実に処理したい方におすすめです。
「車両費」での処理が適しているケース
「車両費」を選ぶ最大のメリットは、車両関連のコストを一つの科目で把握でき、車両ごとの採算性分析が容易になる点です。しかし、税金全体の費用が分かりにくくなる可能性や、課税取引(ガソリン代など)と不課税取引(自動車税)が混在し、消費税の入力ミスに注意が必要になるというデメリットもあります。
複数の営業車を所有し、コスト管理を重視する法人や、車両の維持費を詳細に分析したい事業主に適した方法です。
自動車税の仕訳をマスターする
自動車税の支払い方法や状況によって、仕訳の方法は少しずつ異なります。ここでは、代表的なケース別に具体的な仕訳例を解説します。
なお、自動車税の支払いは消費税の対象外(不課税)取引となります。会計処理の際には、この点を正しく理解し、仕訳の際に「対象外」や「不課税」といった税区分を正しく設定することが重要です。
基本の仕訳:現金・預金で支払った場合
最も基本的なケースとして、納税通知書を使って金融機関の窓口で現金で支払ったり、事業用の銀行口座から振り込んだりした場合の仕訳を説明します。この取引では、費用である「租税公課」が発生し、資産である「現金」や「普通預金」が減少したことを記録します。
自動車税39,500円を現金で支払った場合の仕訳は以下の通りです。口座から支払った場合は、貸方の勘定科目が「普通預金」となります。
借方(左側) | 貸方(右側) |
租税公課 39,500円 | 現金 39,500円 |
クレジットカードで支払った場合(未払金処理)
クレジットカードで支払った場合、実際に銀行口座からお金が引き落とされるまでにタイムラグが生じます。そのため、会計処理は2段階で行うのが原則です。これは、費用が発生したタイミング(納付日)と、現金が動いたタイミング(引落日)を正確に記録する「発生主義」という会計の考え方に基づいています。
自動車税39,500円をクレジットカードで支払い、後日、事業用口座から引き落とされたケースで見ていきましょう。
納付時(クレジットカード決済日)
この時点ではまだ預金は減っていないため、後で支払う義務として「未払金」という負債の勘定科目を使います。
借方(左側) | 貸方(右側) |
租税公課 39,500円 | 未払金 39,500円 |
引落時(口座から利用代金が引き落とされた日)
後日、口座から利用代金が引き落とされた日に、「未払金」という支払義務が消滅し、実際に「普通預金」が減少した仕訳を行います。
借方(左側) | 貸方(右側) |
未払金 39,500円 | 普通預金 39,500円 |
自動車税の還付を受けた場合
年度の途中で自動車を廃車(抹消登録)にした場合、支払済みの自動車税の一部が月割りで還付されることがあります。この還付金を受け取った際は、支払った時とは逆の仕訳を行います。
例えば、20,000円の還付金が普通預金に振り込まれた場合の仕訳は以下のようになります。この処理により、その年度に計上した「租税公課」の費用が実質的に減少します。
借方(左側) | 貸方(右側) |
普通預金 20,000円 | 租税公課 20,000円 |
還付に関する注意点
還付金の処理には注意すべき点があります。まず、還付金が前年度に支払った税金に対するもので、当期の「租税公課」勘定から差し引くと勘定残高がマイナスになってしまうような場合は、貸方を「雑収入」として処理します。これは、損益計算書にマイナスの費用が表示される不自然な状態を避けるための会計上のルールです。
また、軽自動車税には月割りの還付制度はありません。年度の途中で廃車にしても、税金は戻ってこないため注意が必要です。これは、普通自動車が月単位で課税されるのに対し、軽自動車は4月1日時点の所有者に年単位で課税されるという仕組みの違いによるものです。
決算時に未払いの場合
例えば3月決算の法人が、4月以降に納期限が到来する自動車税を支払う場合など、決算日時点で納付義務は発生しているものの、まだ支払っていない税金がある場合は、決算整理仕訳として費用を計上する必要があります。
3月31日の決算日において、当期に属する自動車税39,500円が未払いである場合の仕訳は以下の通りです。これにより、その事業年度に発生した費用を正しく期間計上することができます。
借方(左側) | 貸方(右側) |
租税公課 39,500円 | 未払金 39,500円 |
そして翌期、実際に税金を納付した際には、「未払金」を借方に計上して消し込む仕訳を行います。
個人事業主は必須!「家事按分」の考え方と計算・仕訳方法
個人事業主の場合、1台の自動車を仕事とプライベートの両方で使うことは珍しくありません。このような場合、自動車税の全額を経費にすることはできず、「家事按分(かじあんぶん)」という手続きが必要になります。
なぜ家事按分が必要なのか
税法では、事業の遂行上、直接必要であったことが明らかに区分できる金額のみを経費として認めています。つまり、生活費と事業経費は厳密に分けなければなりません。
したがって、仕事とプライベートで兼用している自動車にかかる費用は、その使用実態に応じて事業用と家事用とに按分(割り振る)し、事業で使用した割合分だけを経費として計上する必要があります。
合理的な基準で按分率を計算する方法
家事按分の割合は、税務署に対して客観的に説明できる「合理的な基準」に基づいて設定する必要があります。自動車の場合、一般的に以下のような基準が用いられます。
走行距離に基づく按分
最も客観的で説得力の高い基準は、走行距離を用いる方法です。日々の運転日報やスケジュール帳に、仕事で走行した距離とプライベートでの走行距離を記録し、年間の総走行距離に対する事業での走行距離の割合を算出します。
例えば、年間の総走行距離が10,000kmで、うち事業での走行が7,000kmの場合、事業使用割合は70%(7,000km ÷ 10,000km)となります。
使用日数に基づく按分
より簡易的な方法として、使用日数で按分することも可能です。例えば、1週間のうち月曜日から金曜日の5日間を事業で使用し、土日の2日間はプライベートのみで使用する場合、事業使用割合は約71%(5日 ÷ 7日)と計算できます。
どちらの基準を選ぶにせよ、その根拠となる記録(運転日報、業務カレンダーなど)をきちんと保管しておくことが、税務調査の際に重要となります。
家事按分を含んだ仕訳例
家事按分を行った場合の仕訳では、プライベートで使用した分を「事業主貸(じぎょうぬしかし)」という勘定科目で処理します。「事業主貸」は、事業用のお金を事業主個人のために使ったことを示す、個人事業主特有の科目です。
自動車税50,000円を事業用口座から支払い、事業使用割合が70%である場合の仕訳例は以下の通りです。この場合、経費になるのは事業用の35,000円のみで、プライベート分の15,000円は「事業主貸」として経費から除外されます。
借方(左側) | 貸方(右側) |
租税公課 35,000円 | 普通預金 50,000円 |
事業主貸 15,000円 |
もし、この自動車税を事業主個人のプライベートな口座から支払った場合は、経費計上する事業用部分(35,000円)について、貸方の勘定科目を「事業主借(じぎょうぬしかり)」として処理します。
自動車関連の税金と費用の会計処理
事業で車を所有していると、自動車税以外にも様々な税金や費用が発生します。これらの会計処理を正しく行うために、関連費用と一般的な勘定科目を整理しておきましょう。
車に関する主な税金とその会計処理
自動車税(種別割)や軽自動車税(種別割)は、本記事で解説した通り「租税公課」または「車両費」で処理し、消費税は対象外(不課税)です。同様に、車検時に支払う自動車重量税や、車両購入時に課される環境性能割も、「租税公課」または「車両費」として処理し、消費税はかかりません。
車の維持にかかる主な費用とその会計処理
車の維持には様々な費用がかかります。自賠責保険料や任意保険料は「保険料」または「車両費」で処理し、消費税は非課税です。ガソリン代や高速道路(ETC)料金は「旅費交通費」または「車両費」で処理し、消費税の課税仕入となります。
車検の基本料や整備費用は「修繕費」または「車両費」(課税仕入)、月極駐車場代などは「地代家賃」や「旅費交通費」(課税仕入)として処理するのが一般的です。
車両購入時の会計処理
車両本体の購入費用は、経費ではなく「車両運搬具」という固定資産として計上します。これは消費税の課税仕入の対象となり、購入後、減価償却を通じて数年間にわたって費用化されます。
中古車購入時の自動車税相当額に関する注意点
中古車を購入した際に、販売店に支払う月割りの自動車税相当額は、「租税公課」として費用処理することはできません。この支払いは、税金を直接自治体に納める行為ではなく、前の所有者が立て替えていた分を精算する、車両本体価格の一部とみなされます。
そのため、この自動車税相当額は、車両本体の購入代金と合わせて「車両運搬具」という固定資産の取得価額に含めて計上します。結果として、この金額は一括で経費になるのではなく、減価償却を通じて費用化されることになります。
さらに、この支払いは資産の譲渡対価の一部と見なされるため、消費税の課税対象(課税仕入)となる点も大きな違いです。このルールを理解していないと、経費処理と消費税計算の両方で誤りを犯す可能性があるため、中古車購入時は特に注意が必要です。
帳簿から確定申告への流れ
日々の仕訳を正しく行ったら、年に一度の確定申告でその成果を申告書に反映させる必要があります。
青色申告決算書への記載場所
青色申告を行う個人事業主や法人は、1年間の「租税公課」の合計額を、青色申告決算書(損益計算書)の経費の欄にある「⑧ 租税公課」に転記します。もし「車両費」として処理している場合は、経費の欄の空いている箇所に「車両費」と科目を追記し、その合計額を記入します。
白色申告の収支内訳書への記載場所
白色申告の場合も同様です。収支内訳書の経費の欄にある「㋑ 租税公課」に、年間の合計額を記入します。「車両費」で処理した場合も、青色申告と同様に科目を追記して金額を記載します。
知っておきたい重要ポイントと注意点
最後に、自動車税の経理処理に関して、見落としがちな重要ポイントをまとめます。
自動車税の納付時期
自動車税は、毎年4月1日時点の所有者に対して課税されます。納税通知書は5月上旬に届き、納期限は原則として5月31日です。ただし、青森県や秋田県など一部の地域では納期限が6月末日となっている場合があるため、届いた納税通知書の日付を必ず確認しましょう。
延滞金は経費にならない
万が一、納期限までに自動車税を納付できず、延滞金が発生した場合、その延滞金は経費として計上することはできません。これは、法律違反に対するペナルティ的な性質を持つ支出であり、事業の利益を生み出すための費用とは認められないためです。
延滞金の負担は、全額が税引き後の利益から支払われることになり、資金繰りを圧迫する要因となりますので、必ず期限内に納付しましょう。
自動車税に消費税はかからない
繰り返しになりますが、自動車税の支払いは、商品やサービスの対価ではないため、消費税の課税対象外(不課税)です。会計ソフトで仕訳を入力する際は、消費税区分を誤って「課税」に設定しないよう、十分に注意してください。特に「車両費」で管理している場合、課税取引である修理代などと混同しやすいため注意が必要です。
まとめ
自動車税の会計処理は、いくつかのポイントを押さえれば決して難しいものではありません。自社の管理方針に合わせて、勘定科目を「租税公課」または「車両費」から選択し、一度決めた科目を継続して使用する「継続性の原則」を守ることが重要です。
個人事業主の方は、事業とプライベートで車を兼用する場合、走行距離など合理的な基準に基づいた「家事按分」を必ず行いましょう。また、支払い方法に応じた適切な仕訳を行い、延滞金は経費にならないこと、自動車税は消費税の対象外であることを理解しておく必要があります。
これらの正しい知識を武器に、自信を持って日々の経理と確定申告に臨み、適正な会計処理と節税を実現してください。
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